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温泉旅行(前編)
※シリーズ越え注意
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【出発前】

ここは神々住まう天の国。
茶屋『山の隠れ家』では、狐耳3兄弟+遊磨が温泉旅行について話していた。
皆に茶や茶菓子を振る舞う桃里は困った顔で言う。
「全然関係ない私まで本当に付いて行っていいのかなぁ……
何だか申し訳ないわ……」
そんな遠慮気味の桃里に、残りのメンバーが明るく言う。
「気にする事ないですよぉ桃里さん!
あたし達だって、言ってみれば家族旅行には無関係でも付いて行くんですから!」
「我々もお前も、家族同然だからと一緒に連れて行ってくださる
主上様のご厚意だ。ありがたく受け取っておきなさい」
「和様もぜひって。お、俺も……姉さんが一緒で嬉しいよ」
皆の言葉に桃里も明るい笑顔になる。
「……そっか!じゃあ、ありがたく参加させてもらうね!」
「それで……さすがに部屋までご一緒するのは畏れ多いから、
私と雪里、桃里と遊磨で部屋割りをしようと思うんだがそれでいいか?」
球里がそう話題を振ると、遊磨が大慌てで球里の着物を引っ張った。
「えっ!?ちょっとアンタ空気読みなよ……!
ここは桃里さんと雪里さんが一緒でしょ!?あたしとアンタが一緒でいいじゃん!!」
「はっ!!?いや、それは色々マズいだろう!?」
「もう!いつまで保護者気取りなの!?
年頃の男女なんだから何があってもそっとしておかなきゃ!ここは若い二人に任せて……!」
「いやそうじゃなくて!私とお前が同じ部屋なのが色々と……!!
お前も、もっと年頃の娘としての自覚を……!!」
赤い顔をした球里と、困り顔の遊磨が言い争っているところに……
いきなり雪里が球里に縋り付いて、真っ赤な顔+涙目で必死で言う。
「お願い球里兄さん!!俺と一緒の部屋で寝て!!
桃里姉さんと同じ部屋で二人きりで寝るとか俺まだ心の準備が!!心臓が破裂する……!!」
ガタガタ震える雪里を撫でながら、球里は遊磨に顔を向ける。
「ほ、ほら……雪里もこう言っている事だし……」
「……まぁ、雪里さんがそう言うなら……」
「もう、雪里ったら仕方ないわねぇ……
(良かったぁぁぁ!!私もまだ全然心の準備ができてなかったしぃぃぃぃっ!!)」
結局は球里・雪里、桃里・遊磨の部屋割りで落ち着いたのだった。


一方和の城では……
「家族で温泉旅行なぁ……」
和の話を気怠そうに聞いていた誉がそっぽを向いて続ける。
「余がいたら邪魔であろうが……」
「またそんな事を言って……更も尊もお前と行けるのを楽しみにしてるんだぞ?もちろん私も」
和がそう言うと、誉は少し赤くなった顔を袖で隠して、言葉を続ける。
「ふん……とにかくお断りだ。あいにくその日は余も“家族旅行”の予定が入っていてな。
姫と……あと、桜太郎が意外とソワソワ楽しみにしてる。あんな桜太郎を見たら……中止にできんだろう?」
「なんだ……それは残念だな。しかし、お前達も楽しんでくるといい。どこへ行く予定だ?」
「我らも“温泉旅行”だが……お前らと場所が被らない事を祈るぞ“和王”??」
ニヤリと笑う誉に、和がため息をつく。
「そう、可愛げのない事を言うな……後でお前が一緒に行けるような、
別の家族旅行の予定を立てよう。な?」
「好きにせい。余を連れて行くんだから、相応のいい所にしろよ?」
「分かった分かった……」
和に頭を撫でられながら、ひたすら視線を外す誉だった。


【当日】

神王たちは3家族(4・2・3)+従者組(4)の大勢で高級旅館にやってきた。
それぞれ、大きくて美しい旅館に感心したり、はしゃいだり……楽しそうにしている。
「ここの旅館ってエステもあるんですって!夜にご一緒しませんか更様?」
「まぁ素敵ですね……!ぜひ、行ってみたいです!」
「閻濡お姉様と一日一緒にいられるなんて嬉しいです!大きなお風呂もお食事も楽しみですね!」
「うん楽しみだね!ぼくも琳姫とずっと一緒にいられるなんて嬉しいよ!」
「わ、私……普通ならこんな高そうな旅館絶対来られなかった……!!
球里兄さんと雪里に感謝だわ……!!」
「あたしもですよ!従者やってて良かった〜〜!料理楽しみだなぁ♪」
思い思いに談笑する女神陣を後ろに見やりつつ、立佳は球里に言う。
「見てよ球里……あの壮観の光景……メガ盛り女神!!きっと女湯は桃源郷!!」
「……言っておきますが、貴方がその桃源郷を目にする事は無いですからね?」
「あ!いいんだよ球里〜〜!こんな時までオレを見張って無くても!
せっかくの温泉旅行なんだから雪里君と兄弟水入らずでゆっくり温泉に入っててね♪?」
「いえいえ、せっかく雪里もいる事ですし……
我々で立佳様の健全な温泉旅行をサポートさせていただきますよ?なぁ雪里?」
「え――っ!!雪里君って球里の味方なの〜〜!?違うよね雪里君!?」
急に球里と立佳に板挟みにされて、雪里は気弱くオロオロする。
「えっ!!?あの、そのぉ……!!」
この雪里のピンチは、勢いよく立佳の腕を取る様に密着した尊に助けられた。
「もう!雪里をいじめちゃイヤですわ立佳様っ
「わっ!!?み、尊姫……!!(さっそく距離が近い……!!)」
「あぁっ 愛しの立佳様と温泉旅行だなんて尊は幸せです!!
私は立佳様と温泉をご一緒できないのは残念ですが〜〜、うふふそれはまだ早いですものね
「あぁ……君は女湯行くんだ……。……カメラ持ち込めない!!?」
「いくら立佳様のお願いでも、乙女として仲間を売る様な真似はできませんので勘弁してくださいまし??」
「ちぇ〜〜……大人しく男湯から覗けるスポット探すか〜〜……」
不満げにそう言いながら歩いていた立佳と尊姫、球里達は入口にたどり着いたようで、
先に入口にいた三神王と自然と合流する。
すると……
「立佳!」
「ひっ!!?」
パンッ!
急に境佳に抱き上げられて、そのままお尻を叩かれた立佳は顔を真っ赤にして叫んだ。
「なっななっ、何すんのさ父上!!いきなりにもほどがあるよ!!」
「聞こえてたぞ!お前はまた、女湯を覗くだとかロクでもない事を……
先にお仕置きしておいた方がいいかと思ってな!」
「そんな無茶苦茶な!せ、せめて覗いてからじゃないと納得できない〜〜っ!!」
「お前は……この期に及んでまだ覗く気でいるのか!?」
パンッ!パンッ!パンッ!!
「やぁぁっ!痛い痛い!しないって!今はやめてよ〜〜っ!」
立佳が足をバタつかせながら参っていると、
閻廷が嬉しそうにぴょこいぴょこと手を上げる。
「あ!じゃあ私もお仕置きする!閻濡の裸を勝手に覗かれたら嫌だしな!」
「なら私も。更もいる事だし」
和も笑顔でそう言って、立佳は嘆く様に叫んだ。
「うわぁあああん!皆で入って来ないでよ!男に群がられても嬉しくない――っ!!」
「それなら、今日はバカなことはしないで大人しくしていると約束するか!?」
パンッ!パンッ!パンッ!!
「あぁ約束します!覗きません!覗きませんから――っ!!
こんな所でお仕置きなんてヤダ――っ!!」
来て早々お仕置きされる立佳を、
「……主上様がいらっしゃれば、我々の出る幕は無さそうだ」
と、球里は困ったように笑いながら、尊と雪里が呆然と見つめ……
女神達は、琳姫が呆れ顔で「アレは無視です無視!」と声をかけ、状況に慣れている苦笑いの遊磨と
心配そうな他を引き連れて旅館に入っていく。
ほぼ同じような感じで玲姫が更を旅館の中へ押し込んで、騒がしい温泉旅行は幕を開けた。


【入浴前】

帝の思惑は外れ、奇しくも神様チームと同じ旅館に旅行に来ていて
大部屋を取った“妖怪御殿”チームが温泉浴衣姿で一悶着していた。
原因は部屋割りならぬお風呂割で……
「じゃあ、お風呂は私と恋心姫とぬぬ、煤鬼と麿さんと帝さんに別れて入りますからね?」
桜太郎のこの決定に対する煤鬼のブーイングから始まる。
「おい待て!恋心姫と俺を引き離す気か!?
い、いくら俺でも他の目がある風呂では大人しく……!」
「前のお祭り……あれほど言ったのに外で破廉恥ハッスルして、麿さんにお仕置きされたのはどなたでしたっけ?」
「うぅ……」
「いい子いい子。煤鬼は我慢の子ですよ?お風呂以外は一緒にいましょう
桜太郎に言い負かされ、恋心姫に宥められて煤鬼は割とあっさり諦める。が。
今度は帝が驚愕に叫ぶ。
「待て!桜太郎をそっちへやったら誰が余の体を洗うんだ!?」
「いやいやいや洗いませんよ!?桜太郎君、洗いませんよ!?
何桜太郎君に体洗わせようとしてるんですか!?
はぁぁぁ帝さんと桜太郎君が別のチームで良かったぁ!もう!僕が洗いますから!」
「……やっぱり、俺が誉の側に……」
「来るな変態!!もういい!このチーム割りでいい!!」
麿とぬぬの言葉で帝が顔を覆って叫んで、妖怪達のお風呂割は決定した。


【入浴:女湯】

一方、神様チームは、皆で浴衣に着替えて、さっそくメインの“温泉に入ろう”と言う事で
それぞれ女湯と男湯へ別れて行った。
女湯へ行くとゴネていた閻廷(と立佳)はどうにか境佳や玲姫に宥められ、
尊は皆のフォローで女湯に行くことになって。
女湯では女神達がワイワイと着替えていた。
タオルで裸を隠して俯く尊を、素っ裸の琳姫が誘う。
「どうしたのですか尊姫!早く大きいお風呂に行きましょう!」
「わ、私……やっぱり、男湯へ……」
ぎこちなく笑う尊の手を、琳姫が笑顔で引っ張る。
タオルが舞い落ちて驚く尊に、琳姫が言った。
「早く!皆、待っています!!」
遊磨や桃里や閻濡も、琳姫に続けるように笑顔で尊を呼んだり、手招きしている。
「尊姫!風邪ひきますよ〜!早く入っちゃいましょ!」
「お風呂で雪里の話とか色々聞かせてください!」
「ぼく、尊姫とたくさんお話してみたかったの……!」
「……あ……」
呆然とする尊へ、更がそっと背中を押した。
「貴方に、素敵なお友達がたくさんで嬉しいわ。行きましょう、尊?」
更を振り返った尊は、一瞬泣きそうに瞳を潤ませて……ぐっと堪えて笑顔を作る。
「い、行きましょう琳姫様!乙女の園で盛り上がりますわよ〜〜っ
「お――――っ!!」
二人で走り出す幼い姫君達の背中に、玲姫がのんびりと声をかけた。
「走っちゃダメよ〜〜??」
そして、更の隣に並んで……震える更の肩を慰めるようにポンと叩く。
「……ご、ごめんなさい……!!」
「いいのよ。お風呂に入っちゃえば、水で分からないわ♪」

そうして、張り切ってお風呂に突撃した女神達だが、
どうやら先客がいたようで……妖艶な女鬼が、皆へ艶やかに微笑みかけた。
「おやおや、別嬪さんが大勢で……華やかさで目が眩んじまうね」
驚いて固まる皆の中、玲姫だけが前に出てにっこりと微笑みかけて挨拶する。
「騒がしくしてごめんなさい。貴女はお一人?」
「旦那と来たんだけどねェ……まぁ風呂は別さ。
あのバカは“何で混浴じゃないんだ”って散々ダダこねて騒いでたけど」
ふぅと気持ち良さげに息をついて、女鬼は固まっている女神達に優しく声をかける。
「嬢ちゃん達、鬼を見るのは初めてかい?
オイラは弱っちい鬼だし、怖くないよ。安心しな?
隅っこで小さくなってるから、アンタらは存分にくつろいでおくんなよ?」
その言葉に、琳姫が怖々ながら元気に返事を返した。
「だ、大丈夫です!!貴女が優しい方だというのは分かりました!
怖くないです!貴女も泳いでいいですよ!!」
「あっはは!泳ぐのは遠慮しようかねェ?でも、ありがとよ!」
その後、遊磨の「琳姫様も泳いじゃダメですよ!」というツッコみが入り、女神達も温泉でくつろぎだす。


尊がキラキラした顔で閻濡に話しかけ……
「あぁ閻濡様…… やっとお会いできました!噂に違わぬ美しくて優しいお姫様ですわ
その言葉に桃里が無言で全力で頷いていた。
尊が興奮に頬を赤くして言う。
「私も琳姫様みたいに“閻濡お姉様”って呼んでいいですか!?」
「もちろん。よろしくね尊姫。パパが和様と仲良しになって嬉しそうだったから、
ぼくも尊姫と仲良くできて嬉しいなぁ…… また琳姫と尊姫でうちへ遊びに来てよ。
パパも絶対喜ぶから……」
「はいぜひ!!」
「皆でお洋服を買いに行きたいですね〜〜!」
そんな閻濡と尊の顔合わせがあり……
桃里と閻濡のドキドキ顔合わせもあり……
「桃里ちゃん、だよね?初めまして。ぼく……神王閻廷の第一王女、閻濡って言います。
えっと……球里には色々お世話になってるんだ。モフモフさせてもらったり……
だから、桃里ちゃんとも仲良くできたら嬉しいな……」
「わわわっ、私も閻濡様と仲良くなれたら!空に舞い上がりそうなほど嬉しいです!!
ぜひ仲よくしてください!ハイ!お茶屋さんにも来てください!!割引します!10割引きします!!」
「桃里さ〜〜ん、それじゃ利益ゼロですよ〜〜??」
遊磨のフォローもアリ。
更と閻濡のもっとドキドキ顔合わせもあり……
「更様!!は、初めまして!!ぼく、じゃなくて、私っ、神王閻廷の第一王女、閻濡っ、と、言いますです!!
えっとあの!パパ……父から、お噂はかねがね!!若輩者ですが、どうぞ、よろしくお願いします!!
(ぴゃぁあああっ!上手にご挨拶できたかなぁっ!!?更様すっごい美人だよお胸も大きいよおぉぉっ!緊張しちゃうぅぅ!!)」
「あ、あのその!和王の妻の……更、です!!こちりゃっ……こ、こちらこそ!
閻廷様には、いつも良くしていただいて……!!写真!見てます!!よろ、よろろしくお願いしまひゅっ!!
(あぁああ何て可愛らしいお姫様っ!!さ、流石は閻廷様の寵姫……!!
うぅうう緊張で情けない挨拶しかできないよぉ和様ごめんなさぁぁい!!)」
真っ赤な顔を突き合わせてガチガチになっている更と閻濡に、玲姫がおっとりと笑って優しく言う。
「もう、お互いそんなに固くならないで。貴女達、大人しくて可愛い所が割と似てるから、
自然体ですぐ仲良くなれるわ。閻濡?何か更様に聞きたい事があったら遠慮なく聞いてごらんなさい?」
「あ、あのじゃあ……どうしたらそんなにおっぱいが大きくなりますか!!?」
「えっ……!!」
「あらあら……♪」
閻濡の質問に更が真っ赤になって……桃里がすごい勢いで乱入する。
「その話私も混ぜてくださぁぁい!!」
「桃里さん!!?」
焦る遊磨に、面白がってついていく琳姫と尊。
そんな事がありつつ……
娘姫神チームは遊んで盛り上がり……
「遊磨は水鉄砲が上手いんですよ!ね、遊磨!やってごらんなさい!」
「はーい。えいえいっ!ほら琳姫様!」
「キャ――!何でこちらにやるんですかぁっ!!」
「なんの!こちらも応戦ですわよ琳姫様!」
「わー尊姫も遊磨さんもすごーい!」
「ぼくもできるかなぁ……!」
妻神と女鬼チームはアダルトな会話で盛り上がっていた。
「えっ!?毎日!?な、なんて羨ましい……!!」
驚きつつ羨望の眼差しな玲姫を、女鬼が余裕ありげにあしらう……
「オイラ達は鬼だからってのもあるんだろうけど……。
別にいい事ばかりじゃないよ?そればっかりってのも困りもんで……」
「でもそう言いつつ、灯美鬼さんって旦那さん大好きよねぇ?すごく嬉しそうに話すもの!」
「バッ……!バカ言っちゃいけないよ!!そんなんじゃ……!あ、アンタはどうなのさ!!」
が、一気に余裕をなくしていた。
玲姫はニコニコしながら平然と言い返す。
「あら、わたくしはいつでも境佳様大好きよ?」
「……はぁ〜〜、恐れ入ったよ……あーあ。アンタみたいな方が可愛げあっていいんだろうねェ?
それか、そこの嬢ちゃんみたいなの」
「わ、私ですか!!?」
急に話を振られて驚く更。女鬼がニヤニヤと更を見やる。
「そうだよアンタさ。大人しい顔してその体……旦那は堪んないだろうねェ……
夜はさぞかし盛り上がるだろうさ?」
「い、いえあの……それ、ほどでも……!!」
真っ赤になって声も小さくなってくる更に、女鬼もひょいと片手を上げてからかうのをやめた。
「あぁもう!反応まで初々しくってこっちが照れちまうよ!
まぁ……ヤラシイ話を抜きにしても、旦那に愛されてんだろうねアンタ。見てりゃ分かる」
「……!!……」
「そうよ〜〜?更様は和様にめちゃくちゃ愛されてるんだから!ねぇ?」
「……はい……!!」
更は嬉しそうに笑って、玲姫も女鬼もニコニコ笑っていた。


【入浴:男湯@】
一方の男湯に入った男神一行(球里と雪里は遠慮して時間をずらした)
も、とある遭遇を果たす。
「あ、お父様……!!」
「桜太郎殿……!!恋心姫に、ぬぬ殿も!!
(桜太郎殿は聞いていたけれど……恋心姫も、男だったのか……!!)」
「和!こんにちは!」
「……どうも。(俺も“お父様”と呼んでしまいたい……)」
偶然にも、妖怪御殿(桜太郎・ぬぬ・恋心姫)と同じ時間に入浴になったのだ。
「驚いた……!なら、誉も来ているのか!?」
「ええ。入浴時間を別にしたんですが……我々と、逆に入ってもらえば良かったですね……」
「い、いや、そんな事は……そちらも皆元気そうで何よりだ」
「ありがとうございます」
和やかに挨拶を交わす桜太郎と和の傍で……
「この世界は何て残酷なんだ――――っ!!」
と叫んで床に崩れ落ちる立佳がいたりする。
そして、閻廷と境佳に
「ど、どうした立佳!?」
「放っておけ閻廷」
と、心配されたり放置されていたりしていた。

そして、皆で入浴中……早々に洗うところを洗って自由になった立佳。
性懲りもなく“女湯を除けるスポット”を探して壁伝いを観察していた。
そして、とある希望の光を見つける。
(おっ、ここの隙間は覗けるかな……?)
「何してるんですか!?」
「うわっ!!?」
と、いきなり声をかけられて驚くと、
恋心姫が興味津々で立佳を見ていて……立佳は苦笑いで答える。
「え、えーっと……しー、だよ?内緒にできる?」
「できます!!」
「実はね……女湯を覗ける場所が無いか探してるんだ。
今、女神の皆が入ってるから……」
「おお!!それって更もいますか!?」
「んん??“さら”って更様かな?いると思うけど……君、知り合い?
っていうか、更様の裸に興味があるの?」
何だか食いついてくる恋心姫に、立佳もだんだん乗り気になる。
「ふふっ、穂摘様より貧弱であろう更のおっぱいをこの目で見てやるのですよ!」
「君……いけるクチだね!!?」
「ええ、ご一緒しますよ!」
こうして固い握手を交わした二人は、共に女湯を覗こうと奮闘する。
まずは見つけた隙間をそれぞれ覗いてみるが……
「う〜〜……ダメです見えません……!!」
「君もダメか……やっぱりここは隙間が小さいかなぁ……」
「この穴を大きく出来ませんか?」
「いやぁ……穴を広げるの流石にいけないんじゃ……」
「……お前達、何をしてるんだ?」
突然、後ろから声をかけられて立佳と恋心姫は驚いて振り返る。
二人に合わせるようにしゃがみこんでニコニコしている閻廷を見て、
立佳は青ざめ、恋心姫は不思議そうな顔をする。
「パ……パパ様……!こ、これはその……!」
「……?貴方も内緒にできるなら教えてあげますよ?ね!」
「い、いや……」
嬉しそうな恋心姫に、閻廷は変わらない笑顔でこう言った。
「ふふ、内緒にするなんてもったいない!素敵な話なら皆に教えてあげようじゃないか♪?
どうせここから女湯が覗けるとかそういう話だろう?なぁ立佳??」
「そういう、わけでは……!」
閻廷はふわっと目を細めて、最高に愛らしい笑みを浮かべた後……声を張り上げる。
「おーい!皆!朗報だ!ここから女湯が覗けるみたいだぞ〜〜!」
「ぎゃぁあああああっ!パパ様ぁぁぁぁの鬼畜ぅぅぅううっ!!」
この声は当然、その場にいた全員に聞こえて……境佳が真っ先に飛んできて立佳を叱りつける。
「立佳!!最初に尻まで叩いたのにお前はぁぁぁ!!」
「わーっ!!ストップストップ!!父上ほら!怒鳴ると小さい子が怖がってる!!」
隣で縮こまっていた恋心姫は、同じく飛んできた桜太郎に抱き上げられて、脅されていた。
「お気遣いなく。この子は後でもっと怖い鬼に叱られますから。
……女湯を覗こうとしたなんて、煤鬼が知ったらどうなるでしょうね?
いつもの“ボッコボコ”で済めばいいですけど……」
「う……うわぁああん!!ごめんなさぁぁい!!だ、だってぇぇっ!
更のおっぱいを見てやろうと思ったんですぅぅぅっ!!穂摘様に負けてるのを確かめたくってぇぇっ!!」
「なっ!?何言ってるんですか!全く言い訳になってませんよ!!」
頬を赤らめる桜太郎に怒鳴られている恋心姫の所へ、和が寄っていって……ニッコリと告げた。
「恋心姫……更と穂摘の胸の大きさは同じくらいだ」
「!?そ、そんなはずは……!そんな、はず……!!」
「私が言うんだから間違いない」
キッパリと言いきる和のその言葉の意味に……恋心姫は不機嫌そうに泣き喚く。
「……さっ、最低ですエロ不倫男ぉぉぉおおおっ!!」
「こら恋心姫!!す、すみませんお父様……!!」
オロオロする桜太郎に、和は困った笑顔で首を振る。
「いや……彼女、じゃなく、彼に責められるのは仕方ないんだ。ただ、恋心姫?
私に意地悪をするのは構わないけれど、更に意地悪をするのはやめてやってくれ。お願いだ」
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
恋心姫は頬を膨らませて和を睨みつけ、ボロボロと涙を流す。
すると、和も困った顔ながらも少し意地悪くこう言った。
「……私も更の夫として、煤鬼殿に抗議をしようか?」
「ふぇええええっ!ごめんなさぁぁい!もう更にイジワルしません〜〜っ!!」
降参して泣き喚く恋心姫。
立佳の方も境佳に散々叱られながら風呂から連れ出されて……
着替えて部屋に帰って来たらさっそくお仕置きされることになる。
境佳に手を引かれて(と、いうより逃げないようにしっかり手を取られて)
部屋に戻ってきた立佳は悲しげに絶叫していた。
「うわぁあああ!こんな時に限って母上も琳ちゃんも戻ってないぃぃっ!!
……いや、戻ってない方が見られなくていいのかな!?」
「二人きりだから、たっぷりお前を躾けてやれるという事だな」
「ひぃぃっ!許して父上ぇぇっ!肩揉むから!!」
「……その程度で許されると本気で思っているのか?」
「ならば足をお舐めしましょうか!?」
「仮にも神の国の皇子がそんな情けない事を言うんじゃない!
そんなにお仕置きが嫌なら大人しくしていればよかったんだろう!?」
呆れながらも怒鳴る境佳が立佳をさっさと膝の上に乗せて、
浴衣の裾を捲って下着を下ろして、お尻を叩き始める。
バシッ!!バシッ!
「痛い!!い、嫌だよぉぉっせっかくの旅行なのにぃぃっ!!」
「せっかくの旅行を台無しにしたのはお前の愚かな行いだろうが!自業自得だ!」
ビシッ!バシッ!バシッ!!
「あ―――っ!!ご、ごめんなさい!!痛いよ父上反省したよ――っ!!」
裸のお尻を強く叩かれて、立佳はさっそくジタバタしながら悲痛な叫び声を上げて
一生懸命謝るけれど、境佳の方はいつものように容赦なくお尻叩きを続けている。
「簡単に謝るな!もういい!
ついさっき『覗きはしない』と言っていたのに、お前はやっただろう!
私はお前の何を信じていいか分からないんだ!
お前が反省したかどうかはこちらで判断させてもらう!
私の気が済むまでお尻を叩いてやるからな!」
「やっ、違う!!違うんです違うんです〜〜っ!!」
「何が違うんだ!下らない言い訳をするなら泣かせてしまうぞ!?」
「ごめんなさぁぁい!!うわぁああん!父上がいつもにも増して怖いよぉぉっ!!」
バシッ!ビシッ!バシィッ!!
怒鳴られている恐怖感がお尻の痛みで倍増になっている立佳が、
すでに泣き気味になっていても、境佳は続けて厳しく叱りつけた。
「当たり前だ!まさか旅行先でもいい子にしていられないなんて思わなかった!
普段の躾が全然足りていなかったみたいだな!?」
バシッ!ビシッ!バシィッ!!
「わぁああん!そんな事無い!そんな事無いぃぃっ!!
その都度反省してるんだよ本当だよぉぉッ!!で、でもぉっ……!」
叫びながらボロッと涙を零し、立佳は必死で言葉を紡ぐ。
「ダメだって分かってても、いざ女の子の裸を見るチャンスが巡って来たら
我慢できなくなっちゃうんだもん〜〜〜〜っ!!あぁああん!!」
「“我慢できない”じゃなくて、そこを我慢しなければいけないんだ!
どうしていつもいつもこんな恥ずかしいイタズラを繰り返す!?」
バシッ!バシィッ!バシッ!!
「う、うわぁああん!ごめんなさぁぁい!!
反省した!本当に!今度こそ!反省したからぁぁッ!」
一度流れ出せば涙は止まらなくて、立佳は泣きわめいて謝る。
お尻ももう真っ赤になっているけれど、
それでも、境佳は手を緩める気配も、止める気配も無かった。
立佳の真っ赤なお尻を叩き続ける。
「言っただろう!お前の言葉は信じないと!
全く、どうやったらお前は心の底から反省するんだ!?何が足りない!?
痛みか!?恐怖か!?」
「やだぁぁあっ!!もう充分痛いし怖いですぅぅっ!!わぁあああん!!ごめんなさぁぁい!!」
「なら……羞恥か!?お前も恥ずかしい目に遭わせれば、覗かれた者の苦しみが分かって、
覗きなんて愚かな事はしなくなるのか!?」
境佳は一旦手を止めると、立佳の体をひっくり返して無理やり浴衣を脱がせ始めた。
これには立佳も驚いて……そして、怖がると恥ずかしがるのが混ざったような顔で嫌がる。
「ひっ!?なっ、なっ……やだやだやだヤダヤダぁぁぁっ!!
うわぁあああん何でぇぇえっ!?やめて父上ぇぇっ!!」
「大人しくしなさい!ほら!これで自分のしてる事がどういう事か分かるだろう!?」
バシッ!バシッ!ビシッ!
素っ裸の立佳を再びうつ伏せにして膝に乗せて、お尻叩きを再開する。
立佳は今までよりも余計に嫌がって暴れて、混乱したように泣き叫んでいた。
「うっ、うわぁあああん!!痛ぁぁい!こんなのやだぁぁっ!うわぁああんごめんなさぁぁい!!」
バシッ!ビシッ!バシッ!!
「ふぁああっ!わぁあああああん!もう何これやだぁぁっ!お婿に行けなくなっちゃうぅぅぅ!!
ヤダよぉ父上ぇぇ!!反省したからもうやめてぇぇッ!やめてぇぇぇっ!ごめんなさぁぁぁい!!」
(な、何だか罪悪感が……!しかし、これで立佳が懲りるなら……!!)
立佳のものすごい恥じらいながらの嫌がりように、境佳も可哀想になってお仕置きしづらくなったものの、
心を鬼して頑張ってみた。
バシッ!バシッ!バシィッ!!
「お前がそんなに嫌だ嫌だ言うって事は、覗かれる方も嫌なんだぞ!?分かったか!?」
「わぁあああん!分かりましたぁぁっ!よく分かりましたごめんなさぁぁい!!
だ、だからもう許してぇぇっ!痛いぃ!痛いしとにかくコレやだぁぁぁっ!!わぁぁあああん!!」
「……よし、なら今日は終わりにしてやる。本当に、反省しなさい!」
「分かりましたぁっ!!もうしませんん〜〜っ!!」
大泣きの立佳は、許してもらえた瞬間に一生懸命浴衣を着こんで、グシャグシャな浴衣姿で喚いた。
「わぁあああん!こんなお仕置きトラウマになっちゃうよぉぉっ!
オレがお婿に行けなくなっちゃったらどうしてくれんのさぁぁぁっ!!?
父上責任とってオレを娶ってくれるの!?ねぇ娶ってくれるのぉぉっ!?」
「……落ち着きなさい。
お前もいい子にして、勉強も真面目にしてまともな大人になれば、絶対にいい相手が見つかる」
境佳はドッと疲れつつも、立佳の浴衣をきちんと着せてあげて、頭を撫でて落ち着かせる。
そして、優しく微笑みながら言った。
「ほら、もう泣くな。玲姫と琳姫が帰って来るまでは……遊んでやるから」
「!!?ほ、本当ぉぉぉぉぉっ!!?」
さっきまで泣いていた立佳が途端に驚きつつ瞳を輝かせる。
「えっえっ!?父上って遊べるっけ!?遊ぶという行為をする事が可能だっけ!?」
「お前は私を何だと思ってるんだ……嫌なら一緒に勉強するか?」
「わわっ!嘘うそ冗談!!わぁい!オレが父上独り占めだよね!!?
ねぇ何して遊ぶ!!?オレ、色々おもちゃ持ってきたよ!!」
嬉しそうに喜んで、荷物を引っ掻き回している立佳を、境佳が愛おしそうに見つめていた。


一方。
桜太郎に抱っこされて部屋に戻ってきた恋心姫が泣いているので、煤鬼が心配そうに寄っていく。
「何だ、どうした恋心姫?どこかで転んだのか?」
「う、あ……」
「……お風呂で暴れ回るからこれからお仕置きなんですよ。怖くて泣いてるんでしょう」
実は恋心姫が部屋に帰ってくるまでに、“たくさんお仕置きされてもいいから、煤鬼にだけは言わないでください”
と、桜太郎に必死に頼み込んで、桜太郎にお仕置きされる事になっていたのだ。
何も言えない恋心姫の代わりに桜太郎が答えたのを聞いて、煤鬼がますます困った顔をする。
「それくらい大目にみてやらんのか?家より広い風呂だからはしゃいでしまったんだろう?
なぁ恋心姫?」
煤鬼がニッコリ笑いながら恋心姫の頬をつついて撫でると、恋心姫は言い辛そうにこう返す。
「う、うぅ……でも、妾悪い子だったので……ちゃんとお仕置きされるんです……」
「!?驚いた!!今日はずいぶん素直でいい子なんだな!
よしよし、戻ったらたくさん遊んで慰めてやるからな!美味いデザートも食べに行こう!」
嬉しそうな煤鬼が恋心姫の頭を撫でて、麿や帝とお風呂へ行ってしまうと……
地面に下ろされた恋心姫は盛大な苦悩のため息をつく。
「はぁああああっ!!罪悪感がぁぁ!!ごめんなさい!ごめんなさい煤鬼ぃぃ!!」
「やっぱり煤鬼にお仕置きしてもらいますか?」
桜太郎が冷たい目で恋心姫を見下ろすと、恋心姫は目を逸らす様に俯いて、首を振る。
「い、いいえ!!煤鬼には、眠る時に全部話して土下座するとしましょう……
煤鬼なら、きっと分かってくれるはずです……ちょっとは、気分を害するでしょうけど……!!」
下向きの視線を彷徨わせ、言い訳するようにブツブツと、恋心姫の独り言は続く。
「妾、穂摘様の為に更のおっぱいを見たかっただけです……!!
更のおっぱいに興味があったわけじゃないんです!煤鬼を裏切ったわけじゃありません!
妾は煤鬼のおっぱいが一番好きなんですから!こう、フカフカで安心感があるし!
可愛いし、感度も良いし……!!」
「そんな話を私にされても困ります!さっさとお尻を出しなさい!!」
「きゃぁああっ!ごめんなさぁぁい!!」
顔を赤らめて怒り気味の桜太郎に体を抱き寄せられて、
膝の上に乗せられて、浴衣も下着も退けられて、丸出しのお尻を叩かれる。

パンッ!!
「やぁぁっ!ごめんなさい!妾別にエッチな事は考えてなかったんですぅぅ!」
「そうだとしても覗き自体がいけない行為です!男として恥ずべき行為ですよ!?」
「だ、だって更のおっぱいがぁぁぁっ!!」
ビシッ!バシィッ!ビシィッ!!
叩かれるたびにぴょこんと体を跳ねさせる恋心姫のお尻を、
桜太郎は躊躇無く叩き続ける。
「女湯には更さん以外もいるでしょうが!
反省できないなら、やっぱり煤鬼にお仕置きしてもらいましょうか!!?」
「やぁあああごめんなさぁぁい!反省します!反省しますもうしないから!
煤鬼には言わないでぇぇっ!妾、後で自分でごめんなさいしますからぁぁっ!!」
「……全く!!その代わり、私だって厳しくしますからね!!?」
パンッ!バシッ!バシッ!!
「うぁあああん!痛い!桜太郎ごめんなさぁぁい!
妾もう覗きなんてしませんからぁぁっ!
知らない女の裸なんてどうでもいいんですよぉぉっ!本当ですよぉぉッ!!」
(それはそうなんでしょうけどね……お父様のお友達の話では……
一緒にいた男の子に唆されただけっぽいし……)
泣き声のような甘え声のような、そんな声で必死に悲鳴やら謝罪やら主張を叫ぶ恋心姫。
桜太郎もどれくらいお仕置きしようかと少し思案して、こう結論付ける。
「(よし、少し道具で脅かして痛い目に遭ってもらって、短めに終わらせましょうか。
煤鬼達が戻ってくるまでに終わらせて、泣き止ませてあげないといけないし……)
なら、本当に反省したか試させてもらいますよ?逃げたりしませんね!?」
「あっ……いやぁぁあっ!!」
桜太郎がしゃもじを召喚して、何度か軽く当てるようにペチペチとお尻を叩くと、
恋心姫は怯えた悲鳴を上げる。
それから、そのしゃもじを振り下ろして何度かお尻を叩くと、すぐにお尻は赤くなって、
恋心姫も大泣きした。
バシッ!バシィッ!ビシッ!!
「うわぁあああん!やぁぁっ!それ痛いですぅ!嫌いです!」
「違うでしょう!?“ごめんなさい、もうしません”は!!?」
「あぁああんごめんなさぁぁい!!もうしません!だからもうおしゃもじ嫌ですぅぅっ!」
バシッ!ビシッ!ビシッ!!
「ごめんなさぁぁい!わぁああん!もうしませぇぇん!」
ビシッ!ビシッ!
「あぁあああん!!」
お尻を真っ赤にして泣き喚く恋心姫をまた何度か叩いて、桜太郎はため息をついて手を止めた。
「……はぁ、もうバカな事はやめてくださいね?」
「ごめんなさぁあい!わぁああん!!」
「反省したなら、いいんです」
泣きじゃくる恋心姫を抱きしめてあやす桜太郎は、ふとぬぬの方に視線を向ける。
「あ、ぬぬ、うるさくしてごめんなさい……くつろげてまし……た……?」
そうすると、ちゃっかり無音でアダルト番組を見ていたぬぬが振り返って、
桜太郎の表情がみるみる驚愕&恥じらいに染まっていき……
「こらぁああっ!!ぬぬもお尻を真っ赤にされたいんですか!!?」
桜太郎が真っ赤な顔で怒鳴ると、ぬぬは無表情で慌てつつ、顔の前で手をブンブンと振った。
「ち、違う!ごめんなさい!!怖い!!」
「そんな無表情で抜けぬけと!!今すぐチャンネルを変えなさい!!」
「はい!!」
その後は、ぬぬと恋心姫が一緒に健全なテレビを楽しんでいた。
温泉で癒されたのに、一気に疲れた桜太郎であった。



【入浴:男湯A】
立佳達の後に入浴する球里と雪里。
閻廷から風呂から上がった事&立佳が覗き未遂をやらかした事を聞いた球里はため息をつく。
「立佳様……やはり大人しくしていられなかったのか……。
あぁ、私がしっかりご教育できていないばかりに、
主上様のお手を煩わせてしまって……どうしたらいいのやら」
「き、きっと……そのうち、成長したら落ち着くよ……!兄さん、俺が背中を流すから……」
そんな会話をしつつお風呂に入ると……
「あぁ、やはり麿の洗い方では落ち着かん!麿!もっと優しく丁寧に、なおかつ力強く洗え!」
「すすすすみません!でもそれって結局どういう事ですかぁ!?」
「察しが悪いなぁ!桜太郎の代わりを務めると張り切ったくせに情けない!しっかりせい!」
「わぁあああごめんなさぁぁい!ううう〜〜!こうかなぁ!?こうですか!?」
「ダメだ!話にならん!!」
妖怪御殿(帝・麿・煤鬼)と同じ時間に入浴になったのだ。
散々ダメ出しされながら、困り切った様子で一生懸命帝の体を洗う麿。
煤鬼は一人湯船に恋心姫人形を浮かべてくつろいでいた。
その様子に驚いた球里と雪里。雪里は思わず呼びかけた。
「誉様……!!」
「?……!!?妾腹の、狐か?何故ここに……?
ハッ、お前の様な下賤の者でもこんな高級旅館に来られるのだなぁ?
なるほど、お父様も報酬の出し惜しみはしてないらしい」
意地悪く笑う帝に、球里がムッとした様子で雪里の前に出て言い返した。
「本日は我が主、境佳様を含む三神王様の家族旅行に我々もご一緒させていただいております。
もちろん和様もいらっしゃいますよ?あまり羽目をお外しになると叱られるのでは?誉皇子」
思わぬ反応に帝も露骨に苛立った表情を浮かべる。
「……誰だお前……失礼な奴め。狐などロクなのがおらん。まぁいい。
いい所に来たぞ妾腹の狐!お前が余の体を洗え!」
「「えっ!!?」」
雪里と麿が同時に驚いて声を上げる。
誉は相変わらず強気な笑みを浮かべていた。
「麿は洗うのがヘタクソでなぁ……ふふ、お前なら少しはマシだろう?
ま、下手なら下手で余がた〜〜っぷり指導してやるぞ?」
「わ、私は……」
明らかに腰引け気味に困り果てる雪里。
球里が見かねてまた帝へ言う。
「お待ちください誉皇子。お体なら私が洗いましょう」
「だ、だから誰だお前は!見知らぬ狐が気安く触れていい体じゃないぞ!?」
「あぁ、名乗りもせず失礼しました。
私、神王境佳様と、ご子息の立佳様の従者を務めさせていただいております、球里と申します。
雪里とは幼い頃から共に育って……兄代わり、といったところでしょうか。
しかし、誉皇子とは一度茶屋でお会いしたかと記憶しておりますが?」
自分に怖気づかないで堂々としている球里が帝は気に入らないらしく、
言葉を跳ね除けるようにサッと手を払う。
「う、うるさい!下賤の狐などいちいち覚えているものか!
お前などに触られとうないわ!いいから、妾腹の狐!!早う……」
「あぁあああああめんどくさいなぁぁっ!!」
「「「「!!?」」」」
突然、怒鳴る様な大声が響き渡って皆が驚く。
盛大に水音を立てて湯船から出てきたのは煤鬼で、
「麿!貸せ!」と、麿からスポンジを奪って、帝を引っ掴んで体をゴシゴシ擦りだした。
驚いた帝は豪快に洗われて揺さぶられるまま、悲鳴のように叫ぶ。
「ひっ!!?なっ、何をする!!乱暴に洗うなっ!!」
「うるさい!一人で体も洗えんとか子供かお前は!その上、ゴチャゴチャと麿や雪里を困らせて!
麿は俺の遊び仲間だから、いびられてるのを見るのは気分が悪いぞ!?
お前まさか……桜太郎やぬぬがいなければ好き勝手できると思ってないだろうなぁ!?」
「そんな事思ってなっ……うぁぁあっ!もういい!もういい!自分で洗えるぅ!!」
「喚くな!お前がまた騒ぎ出す前に全部丸洗いしてやる!!」
大方ゴシゴシ洗いまくった煤鬼の手が、またまた豪快に帝の股間を掴む。
そして平然とゴシゴシ擦って洗うものだから、帝は真っ赤になってさらに叫んだ。
「ひゃぁあああっ!触っ、触るなバカぁぁっ!!そこは洗わんでいいぃぃっ!!」
「??洗わんのか?不衛生な奴だな……」
「ちがっ、ちが……自分で!!余は姫じゃないんだぞ!?いい加減にしろ!!」
「はぁ?……安心しろ……お前相手にそういう気は一切起こらん。だから大人しく洗われておけ!」
「わぁああああん!!」
結局、隅々まで綺麗に洗われしまった帝は、皆に背を向けて別人のように大人しく、無言で湯船に浸かっていた。
煤鬼は満足げに、麿にも椅子をすすめる。
「どうだ?麿も洗ってやろうか?」
「え、遠慮しとくよ!!ありがとうね!でも、自分で洗えるから!うん!」
麿は真っ赤な顔で辞退して、この洗い劇を見ていた雪里は……
何かを悟ったようにブツブツ呟いていた。
「そっか……洗うって言ったら、やっぱりあそこまで……
球里兄さん……大丈夫、大丈夫だからね……優しくするから……俺に全部任せて……!!」
「ま、待て雪里!!早まるな!私は背中だけでいいから!な!?」
そして球里はそれを必死で宥めていた。


【入浴後】
麿や帝より先に着替えて、先に部屋に戻ろうとした煤鬼。
だが……
(……しまった、迷った……)
だだっ広い旅館の中で迷子になってしまった。
キョロキョロと辺りを見回しても、見覚えのある物も、他の誰かも見つからず、
やっと通りかかった従業員らしき者に声をかけようとしたが……
「お、おい!」
「ひゃぁああああっ!少々お待ちくださいませぇぇっ!!」
「…………」
逃げられて途方に暮れる。
とりあえず適当にうろついてみたりしたけれど、ますます分からなくなっただけだった。
そのうち、だんだん心細くなってくる。
(このまま……一生帰れなくなったり……いや、そんなはずはない!!
俺がいなくなれば誰かが気づいて……)
やたらに心臓が早く打つ。
自分でも訳が分からないくらい不安になってくる。
幼いあの日に味わった、どうしようもない絶望感が込み上げてくる。
(落ち着け……!他の奴らが薄情でも、恋心姫が、きっと恋心姫だけは、俺を探してくれる……!!
恋心姫……!!)
ぐっと手を握り合わせて目を閉じる。
暗闇の中で、膨れ上がった恐怖心に涙が出そうになっていた。
(助、けて……嫌だ……帰りたい……恋心姫……!!剛鬼、兄さん……!!)
「煤鬼?」
「!!?」
振り返った煤鬼は驚く。
「剛鬼……兄さん……?」
目の前にいたのは、紛れもなく今、名前を呼んだ……
「煤鬼ぃ!やっぱり煤鬼じゃねぇか!何だお前も来てたのかぁ!!」
「あ……ぁ……!!」
助けてほしいと願った存在。
明るく笑いかけられても、返事を返す事すらできない。
涙ばかりが溢れて零れ落ちる。
ただならぬ煤鬼の様子に、剛鬼は煤鬼の頭を撫でて柔らかく声をかける。
「……どうした?何かあったのか?」
「……た……」
「ん?」
「……迷っ、た……」
震える声がやっと告げた言葉。
剛鬼は思い切り煤鬼の体を抱き上げて明るい声を出す。
「……っしょ――がねぇな!また落ち着きなくフラフラフラフラしてたんだろ!!?
ちょっと来い!」
「わぁぁあっ!?ごっ、剛鬼兄さん!!どこへっ、俺、戻らないと……!!」
「一人じゃ戻れねぇんだろうが!?いいから!時間は取らせねぇよ!」
驚いてジタバタする煤鬼を抱きかかえて、剛鬼は歩き出す。

その後……
「あれま、煤鬼じゃないか!アンタも来てたのかい?」
部屋に戻ってきた灯美鬼が、普通に煤鬼に声をかける。
が、剛鬼の膝の上でお仕置き中で、すっかりお尻を赤くされている煤鬼はそれどころではなかった。
泣きながら必死に灯美鬼に手を伸ばす。
「助、け……たす、け……!!(こ、コイツ!!この状況で平然とぉぉおお!!)」
バシィッ!!ビシィッ!!
「うわぁああああん!!ふ、ぁああっ!ごめんなさぁぁい!!」
叩かれて泣き叫んだ煤鬼の手がぱたりと落ちても、灯美鬼は平然としたままで、
普通に夫と話をしている。
「で……何でアンタは可愛い弟分を部屋に連れ込んでお仕置きしてるんだい?
アンタも煤鬼も、お茶飲む?」
「いやぁ、煤鬼がまた迷子になってたから……方向音痴なのに一人でフラフラするな〜ってな?
何度言っても目を離すとすぐどっか行っちまうんだコイツは!
あ、お茶は飲むし煤鬼にも淹れてやってくれ。泣いて騒ぐと喉が渇くもんなぁ?」
「ち、違ッ……昔ほど、方向音痴じゃなくなって……!!今日は、たまたまぁっ……!!」
「言い訳をすんな言い訳をぉ!」
ビシッ!バシィッ!!ビシィッ!!
「わぁああああん!ごめんなさい!ごめんなさいもうフラフラしないからぁぁ!!」
必死に謝りつつも、泣きながら暴れる煤鬼だが、
剛鬼は難なく押さえつけながらお尻を叩きとお説教を続けている。
「煤鬼、お前にも新しい家族がいるんだろう?ちゃんとくっついてないと心配するぞ!?
俺もお前がいなくなった時はどれだけ心配したか……ちっとは反省しろ!!」
「うわぁあああん!!ごめんなさぁぁい!!わぁあああん!!」
ここでやっと、大泣きしている煤鬼を見かねてか、灯美鬼が剛鬼に言う。
「……そう言うなら、ほどほどにして家族の所に返してやんないと心配すんじゃないのかい?」
「あぁ、そういやそうだなぁ……反省したか?!」
バシィッ!!ビシィッ!!ビシィッ!!
「反省したぁぁっ!ごめんなさぁぁい!!」
「もう家族とはぐれんじゃねぇぞ!?」
バシンッ!!
「わぁあああん!分かったぁぁッ!!ごめんなさぁぁい!!」
大泣きして謝ると、煤鬼は膝から下ろしてもらえて、お茶だけもらって無事家族の元へ送り届けてもらえた。

もちろんいの一番に大喜びで抱き付くのは恋心姫だった。
煤鬼も屈んで固く抱き合う。
「煤鬼ぃぃぃっ!良かった見つかってぇぇっ!もう!
ちゃんと麿や帝と一緒にいなきゃだめじゃないですかぁっ!迷子になるなんて、めっ!ですよ!」
「あぁ恋心姫ぇぇっ!会いたかったぁぁッ!!すまん!すまん油断したぁぁっ!
もう知らない場所では勝手にウロウロしないからぁぁ!!」
次点で、桜太郎が心底ほっとしたように恋心姫と煤鬼に寄り添う。
「もう本当にどこ行ってたんですか!?皆心配したんですからね!!?
あぁ、そちら様も、ご迷惑をおかけしてすみません!!
うちの子を連れて来てくださってありがとうございます!!なんとお礼を申し上げて良いか……!!」
そして、剛鬼達にも深々と頭を下げていた。
帝も優雅に微笑んで言う。
「余からも礼を言うぞ、名も知らぬ鬼殿。同じ鬼に助けられ、煤鬼もさぞ心強かったことだろう。
体躯の割に怖がりで泣虫な所があるからなぁ……」
帝と桜太郎の言葉に、剛鬼は嬉しそうに笑う。
「はは!そこまで煤鬼を理解してくれてんなら、安心して任せられるってもんだ!
なぁに、可愛い弟分の事だ!礼には及ばねぇよ!これからも煤鬼をよろしく頼む!
おう煤鬼!俺と灯美鬼は戻るけど元気でな!」
「あ、剛鬼兄さん……!!」
煤鬼が飛び切りの笑顔を剛鬼に向ける。
「見つけてくれてありがとう!!剛鬼兄さんと灯美鬼……姐さんも、元気でな!」
笑顔の煤鬼に手を振って、剛鬼と灯美鬼が部屋へ帰っていく。
その帰り道。
「…………」
「どうしたんだよ……さっきから泣きそうじゃないか?」
黙って瞳を潤ませている剛鬼に、灯美鬼が切なげに笑って声をかける。
そうすると、剛鬼は涙を堪えるように鼻をすすりながら言う。
「う、うるせぇ……煤鬼が、嬉しそうに“見つけてくれてありがとう”って……
あの時、見つけてやれなかったのに……!!
昔もよぉ……今日見つけた時みたいな、あんな、あんな顔で、必死に泣いてたのかなぁって……!!」
「……見つけてやれたんだよ。今日、昔の煤鬼も一緒に……って、事でいいじゃないか。
少なくとも、煤鬼はすごく嬉しそうだったし。いつまでもメソメソしてたら煤鬼に言っちまうよ?」
「……そうだな……俺もせっかくの旅行、楽しまないとな!!よぉし!美味い夕飯たらふく食べるぞ――!!」
元気に拳を突き上げる剛鬼の、もう片方の腕を灯美鬼が取って寄り添って歩いた。


【夕食後:男衆】
閻廷が和と境佳を酒盛りに誘ったので、残りの立佳は球里と雪里の部屋で遊んでいた。
立佳が雪里とオセロをしながら、何気なく言う。
「あーあ……。女の子部屋は今頃盛り上がってんのかなぁ??
尊姫はちゃっかり入っちゃってずるいよね〜〜……こっちに来ればいいのに〜〜!
……いや、来たら来たで普通には遊んでくれなさそうだからやっぱいいかも……」
「今日は琳姫様と仲睦まじいご様子でしたからね……」
「そうなんだよ〜〜何かいつの間にか超仲良くなっちゃってさぁ、あの二人〜〜!
兄としては悔しいって言うか寂しいって言うか……分かる〜〜?雪里君?」
「は、はぁ……あ……」
はたと盤上を見て手を止める雪里に、立佳がニヤリと笑う。
「おやおや?詰みですかな雪里君?」
「ま、参りました……」
「ん〜〜ドンマイドンマイ!じゃあね〜罰ゲームとして……女の子に化けて脱いでみよっか?♪」
「えぇっ!!?」
立佳の言葉で真っ赤になる雪里を見て、
傍で二人を見ていた球里が呆れ顔で立佳に言った。
「立佳様?私の弟分をからかっていじめるのはお止め下さい。彼は純粋なんですよ?」
「分かってるよ〜〜!だって球里と違って初々しくて可愛いんだもん
「悪うございましたね、可愛げのない従者で……」
軽くあしらう球里にも、雪里は慌ててフォローする。
「そ、そんな!球里兄さんはすごいんです!誉様相手でも堂々としてて!!」
「ホマレ様?あ、尊姫の義理のお兄さんだっけ?どんな皇子様なの?イケメン??」
「え、ええ……何と言うか、オーラもあるし、とても美しい方なのですが……
いかんせん……ワガママと言うか、妙な気迫があって恐ろしいと言うか……」
雪里は、普段のワガママで威圧的な誉を思い出してげんなりと耳を垂らして、
そんな雪里を、球里が激励する。
「何を弱気になってるんだ雪里!お前がしっかりして諌めて差し上げないと!
失礼ながら、誉様は相当に立ち振る舞いが横柄で酷いぞ!?
……まぁ、バシッと言ってくれる方が近くにいるようだけれど……お前も!
尊姫にするみたいにお仕置きするくらいの気概が無ければ!」
「そ、そんな無理だよ……!!」
雪里が気弱く首を振るも、立佳ものほほんと応援してくる。
「いやー雪里君ならいけるいける!ほらほら!イメトレイメトレ!」
「面白がってるでしょう立佳様!?」
「いや、立佳様の仰る事も一理ある!イメージトレーニングすれば、
お前も強気に出られて、舐められないかもしれないぞ?」
「い、イメージトレーニング……?う〜〜ん……」
二人に力強く(?)勧められた雪里は、言われるがまま“イメージトレーニング”を始めた。

『おい妾の狐……貴様何か顔がムカつくから足を舐めろ!』
『……誉様!いくら私でもそんな下らないバカみたいな理由で、
ワケの分からないワガママには付き合えません!
今まで散々私に好き勝手言って!理不尽です!今日こそは許しませんよ!』
『お、お前今日は妙にハッキリものを言うな!?
し、しかしヘタレの貴様が余をお仕置きするなど……』
『いつまでもヘタレのままではありませんよ?
尊様の従者として……兄である貴方にもご教育差し上げなくてはね!?』
『ひっ!?何をする!!離せ!!』
(それで……誉様を膝の上に乗せて、お尻を出させたら……
きっと誉様、顔を真っ赤にして……)
『なっ、何をする無礼者!!離せ!バカ!お父様に言いつけるぞ!』
『そうですね。和様にもご自分のワガママさを暴露して、叱っていただくといいでしょう』
『なっ……なっ……!!?』
『さ、泣きわめく、お覚悟を』
バシィッ!!
『ふぁあっ!!?や、やめろ!!痛い!』
『ええ。だって痛くないと、誉様がいつまでも私を舐めて反省しないんですもの』
ビシッ!バシッ!!
『あぁああん!やめろ!やめてくれお願いだからぁぁッ!!』
『まだまだ!貴方が泣きながら“ごめんなさい”と謝るまでやめませんからね!?』
『うわぁああん!ぬぬぅ!ぬぬ助けてぇぇ!!』
『呼んでも来ませんよ!残念ですねぇ、お家と違って甘やかしてもらえなくて!
ほら!“ごめんなさい”は!?』
バシッ!バシィッ!!ビシッ!!
『ごめんなさぁぁい!!わぁあああん!!もうワガママ言わないからぁぁ!』
『よろしい!でももう一つ!私を“妾腹の狐”と呼ぶのはやめてください!
ちゃんと“雪里”という名があるんです!』
『分かったぁぁ!雪里ごめんなさぁぁい!!』
『だいぶいい子になりましたね……じゃあ、この感じを忘れないためにも、
もうしばらくお仕置きしましょうね!?』
バシッ!バシィッ!ビシッ!!
『やだぁぁっ!わぁあああん!ごめんなさい!雪里ぉぉっ!ごめんなさぁぁぁい!』
(こんな、風に……こんな風に泣きながら、謝ら、れて……??
あ、アレ、これって結構、イイ、かも……!!)
気が付けば、すっかり気持ちいい“イメージトレーニング”に耽ってしまった雪里。
「雪里君?」
「雪里……?」
不思議そうに自分を見つめる、球里や立佳に隠しきれないくらい、
真っ赤な顔を……ニヤケそうな顔を……隠す様に口元を覆って……
「あ、あの俺……!誉様……躾けるの……がっ、頑張って……みようかな……!!」
そんな事を口走ってしまって。
「おお!その意気だぞ雪里!」
「頑張れー!雪里君―!」
雪里の内心知らぬ、立佳と球里に応援されるのだった。


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【作品番号】onsen1

TOP小説妖怪御殿
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