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【番外編】 妖怪御殿の無いとある一日 side煤鬼・ぬぬ・麿
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著書の『まろやか妖怪大図鑑』で大ヒットした作家の麿拙者麿は、それで稼いだお金を手に、
新たなヒット作を生み出そうと取材旅行に来ていた。
作家仲間に教えられたその場所は……鬼が住むと噂される現在の秘境――『浅墓山』だった。
山中で携帯電話を確認した麿は、ふっとため息をつく。

(圏外かぁ……遭難しないようにしなきゃ……。
武者落ち武者先生にもらったこの地図、当てになるのかぁ……
貴方が裏で僕の悪口言いまくってるのは知ってますよ武者先生〜〜!!)

そんな事を考えながら一人山道を歩いていると、ピンチは案外早く訪れる。
地図には無い分かれ道が出現したのだ。
「あ、あれ……!?やっぱりこの地図偽物!?困ったな、どっちに行けばいいんだろう……」
麿がう〜んと唸りつつ、別れ道を眺めて参っていた時、どこからか声が掛かった。
「どうした?迷ったか?」
「あ、そうなんです!持ってきた地図が間違ってたみたいで……えっ!!?」
とっさに愛想よく、振り返った麿は驚いた。
そこにいたのは色黒でガッシリとした大柄な青年で、しかし頭に角の生えた――
麿の探していた、鬼その物だった。
「あ、おっ、おにっ……おに……!!」
「ククッ、鬼を見るのは初めてか?」
「はっ、はい!!ファンです!会いたかったです!!どうか少しだけでもお話を!!」
「!!?」
瞳を輝かせて興奮する麿に、鬼は驚いた顔をする。
しかし、すぐににっこりと笑って言う。
「そうかそうか。たま〜に、お前みたいな物好きの人間がいる。
俺はそういう人間が嫌いじゃない。この辺の、いい景色の所を案内してやろう」
「ほっ、本当ですか!!?やった――!!」
「騙されるな!!」
「「!!?」」
急に別の大声が聞こえて、麿と鬼は驚いて声の方を見る。
すると、白い髪に、白い服を着て、角の二本生えた青年がやや怒り気味に鬼へ叫んでいた。
「煤鬼!また人間に悪さしようとしてるだろう!?いい加減にしろ!!」
「それはこっちのセリフだ!またお前かぬぬ!!いちいち俺の邪魔ばかりして気に食わん!!」
「えっ……あっ……!?」
鬼も苛立ち気味に白い青年へ怒鳴り返して、麿は状況が呑み込めずにオロオロする。
分かったのは白い青年の方は“ぬぬ”、鬼は“煤鬼”という名前らしい事だけ。
そんな麿へぬぬが声をかける。
「旅の方!そいつは暇さえあれば、人間にイタズラをして困らせる鬼だ!
口車に乗ってはいけない!この前も男の旅人が、“いい景色の所を案内してやる”と騙されて、
噛みついてくる草の群生地に連れていかれて地味に痛かったと嘆いていた!」
「えぇえええっ!!?」
「チッ、さっそくネタばらしとはつまらん奴め!残念だったなぁ人間?
せっかくこういう草と、戯れられたのに!」
煤鬼はそう言って、どこに隠し持っていたのか、先端が丸い形の不思議な草を一掴み麿へ投げつける。
するとその草達が麿の足を地味に噛みつき始めた。
「うわぁあああっ!いたっ!痛い!何コレ地味に痛い!ぎゃっ、噛まないで!」
「っ、こら煤鬼!……言って分からないなら、お尻を100叩きしてお仕置きするしかなさそうだな!?」
麿に噛みついてる草を退けてあげたぬぬにそう言われた煤鬼は、
一瞬不機嫌そうな顔をしたもののニヤッと笑う。
そして――
「ほ――ぉ?“お尻を100叩き”とは――」
「!!?」
「つまり、こういう事か??」
「なっ……!!?」

ぬぬが、慌てて振り返った時には遅かった。
煤鬼はいつの間にかぬぬの背後に回り込んで、一瞬にして小脇に抱え上げ、“お尻を叩き”始めたのだ。

バシィッ!!
「うぅっ!!」
「俺はごめんだなぁ?こ〜〜んな、情けない目に遭うのは!」
挑発するようにそう言う煤鬼が、ぬぬのお尻を力強く何度も叩く。
ビシッ!バシッ!バシィッ!!
「ひゃぁあっ!!」
「ほらほら、俺をどうするって??何とか言ったらどうなんだ!?」
バシンッ!ビシッ!ビシィッ!!
「うううっ!!や、やめろ!!お、お前はこんなもんじゃ済まなっ……あぁっ!
下半身全部、脱がせて……お尻を、丸出しにして、真っ赤になるまでぇぇっ、あぁああっ!!」
「……威勢のいい奴は、腹が立つけど甚振りがいがあって好きだな」
ぬぬの言葉に目をギラつかせた煤鬼は、
勢いよくぬぬズボンと下着を脱がせて、平手を振り下ろした。
バシィッ!!
「うわぁあああんっ!!」
「あっははは!これでお前のお望み通りか!?
残念ながら“俺にする”んじゃなくて、“お前がされて”しまってるがなぁ!?」
バシッ!バシィッ!ビシッ!!
「ひっ、やめっ、あぁああんっ!!」
もがいても思うように抵抗できないぬぬを、煤鬼がますます叩きながら嘲笑う。
「口ほどにも無い!尻を叩かれて悲鳴を上げて、なんて滑稽な!お前も笑ってやれ人間!!」
「わ、笑えませんよ……可哀想です!もうやめてあげてください!!」
「何だ、ノリが悪いなぁ」
「すみません!でも見るに堪えません!お願いですからぁぁッ……!!」
麿もこの状況にはガタガタ震えながら煤鬼に懇願する。
けれど、煤鬼は遊び半分のお尻叩きをやめなかった。
「確かに、見るに堪えない真っ赤な尻だな!これでは猿の妖怪だ!ははははっ!
なぁ分かったかぬぬ!?山羊の妖怪ごとき三流妖怪が、鬼に逆らうとこうなるんだ!」
バシィッ!ビシッ!バシッ!!
ますます強気になりながら、煤鬼は言う。
「誓え!“もう煤鬼様の遊びの邪魔はしません”と!可哀想だからそれで許してやる!」
「誰、が……うわぁあああん!!あぁぁっ!」
「もっとお仕置きして欲しいなら話は別だぞ?」
「ふっ、あぁあああっ!うわぁあああん!!」

結局、ぬぬは煤鬼にお尻を叩かれて泣きながら“もう煤鬼様の遊びの邪魔はしません”と言わされてしまって、
機嫌よく笑う煤鬼に追い返されてしまった。
自分の家に帰ってきたぬぬは顔を真っ赤にして悔しそうに拳を床に打ち付けて呻く。
「一ッッッ生の不覚っっ……!!」
流れでぬぬに付いてきて家にあげてもらった麿は、オロオロとそれを慰めた。
「し、仕方ないですよぬぬさん……あんな、パワーありそうな鬼さんに叩かれたら、
僕なら二秒で何でも言います……ぬぬさんはよく戦いましたよ」
「……旅の方、優しい」
「僕は麿っていいます。助けて下さってありがとうございました。
あの鬼さんに遊ばれてたら、今頃どうなってたことか……」
麿が困ったように笑うと、ぬぬはため息をついて説明してくれた。
「……煤鬼は少し前にこの辺りに住み着いたらしくて、人を見つけてはイタズラをするようになった。
俺は前々から近くの集落に“山の守り神”と勘違いされていたから、助けを求められて。
それで、イタズラをやめさせようと何度も叱ってきたけれど……結果この様」
「ぬぬさん……鬼さんのイタズラ、何とかやめさせたいですよね」
「そう!今日は流石に俺も我慢ならない……!!
馬鹿にされながらお尻を叩かれた事もそうだけれど……!!」
だんだん怒りを再燃させながら、ぬぬが言う。
「俺の事はどう言われてもいい……しかし、山羊の妖怪を“三流妖怪”って!!
全国の山羊の妖怪に謝れ!!」
「そっ、そうですよね!その言い方は酷いですよね!!」
「今の今まで、鬼にしては発育が悪いから……団体で暮らすはずの鬼が一人でいるから……
何か事情がある可哀想な子なのかと思って、甘めに対応してきたけれど……
こちらをこれだけ辱めたんだから……もう容赦はしない……!!
山の守り神として崇められた俺を敵に回す恐ろしさ、思い知れ!!」
(ぬぬさん、やる気だ……!!)
ぬぬの静かなる怒りに麿が気圧されていると、急にぬぬにガッシリと手を握られた。
「つきましては、麿にも協力してほしい!!」
「えっ、は、はい!!僕は一体何をすれば……??」
「女装!」
「えっ……?」

驚き過ぎて驚けない麿に対するぬぬの説明はこうだった。
『煤鬼の悪戯のターゲットは、女性の方が食いつきがいい。
女装した麿を女だと思い込んだ煤鬼がイタズラをしかけようとして、
男だと分かって驚いた隙をついて捕まえる』
それを聞いて、麿は不安げに尋ねる。
「ぼ、僕そもそも女性だと思ってもらえるでしょうか!!?」
「着飾って顔を隠していればたぶん大丈夫!さっそく長老の家に行って変装道具を調達してもらおう!」

との事で、近くの集落の長老の家で変装道具を調達してもらった麿とぬぬ。
長老は
「おぉおお縫様……どうかあのイタズラ鬼めを懲らしめて、
孫娘達の無念を晴らしてくだされ……!!」
と、涙を流し、傍では若くて美しい姉妹が寄り添って同じように涙を流す。
長老の孫娘達は姉妹でいるところを煤鬼に狙われて、裸で踊らされたらしい。
ぬぬと麿は泣き暮れる皆に、『必ず鬼を懲らしめる』と誓って元気づけた。


そして――
「ど、どうなんですかコレ……」
美しい着物とカツラで女装を終えた麿は不安げに自分の姿を見つめるが、ぬぬの方は満足げに頷く。
「うん!なかなかの出来!」
「でも……隙を作っても、あの鬼さんを捕まえられるんでしょうか?彼、動きも早いし力も強いし……」
「大丈夫。丸腰で行けば勝てないかもしれないけれど……こっちは色々面白い物が手に入ってる♪
だから、麿……」
ぬぬは、麿に作戦を一部始終伝え……
「や、やややってみます!!頑張ります!!」
麿も頷いて覚悟を決めた。


こうして、鬼を懲らしめる作戦がいよいよ動き出す。
まずは麿(女装)が山でウロウロしていると……
「おい、お前。一人か?」
(来たぁあああああっ!!)
さっそく煤鬼が現われて、嬉しそうに背後から寄ってくる。
「近くの集落の女か?こんな所を一人でうろつくなんて……俺に遊んでほしいんだろう?
なぁ?よく顔を見せてくれ……」
(っ、南無三!!)
麿は振り返りざまに、勢いよく煤鬼へ“動きを封じるお札(鬼用)”を貼り付けようとするが……
「ッ、なっ!?お前さっきの……男か!?そういう趣味が……!!」
(外した!?しかもなんか誤解されてるし!!)
勢い良く避けられ、おまけに変装も見破られ……それでも麿は諦めなかった。
「(で、でももう一度!!ななななるようになれ―――いっ!!)
そうだよ悪いかしら!?麿子と遊んで下さいまし鬼様〜〜っ
パシッ。
「ひゃっ!?」
麿渾身の裏声ぶりっ子ボイスも虚しく、煤鬼に片手を掴まれてしまう。
そして、じーっと神妙に見つめられて一言。
「……うーん、そこそこだな」
「なぁっ!!?(分かってるけど言われると腹立つ!!)」
「だがまぁ、女扱いして欲しいなら、女との遊び方で遊んでやろうか?」
「あ、あ……」
ニヤリと笑った煤鬼に、体温が一気に下がった麿は……火事場の馬鹿力を発揮した。
「あ―――れ―――ッ!!やめてよこの痴漢―――っ!!」
今度こそ、開いている方の手で勢いよく煤鬼へ“動きを封じるお札(鬼用)”を貼り付け、
煤鬼は驚いた顔で地面に崩れ落ちる。
「!!?な、な……何をした!?」
(せ……成功した!?やったぁぁぁあっ!!)
「麿!やったな!!」
すぐに近くで待機していたぬぬも合流して煤鬼に手枷を付け、煤鬼は心底悔しそうにしていた。
「くそっ!お前の差し金かぬぬ!!さっさと自由にしろ!今土下座するなら許してやるぞ!?」
「……この状況で強く出られる鬼の度胸には素直に感心する。
けど、お前を自由にするのはちゃんと反省して、“二度とイタズラをしません”と誓ってから」
「はは、さっきの仕返しをしようっていうのか!?お前ごときの“おしおき”では反省できる気がせんなぁ!?」
「だろうな。だから、今日はスペシャルゲストをお呼びしました」
「は?」
「誰だと思う?お前が一番恐ろしいと思っている相手だ」
ぬぬがそう言った瞬間、その言葉がスイッチだったかの様に、煤鬼の顔色が一変する。
「!!えっ……!!?」
(わ、本当に鬼さんの様子が変わった……!!)
麿はそう思いながら、ぬぬの説明を思い出す。
“麿が煤鬼の動きを封じた後、俺はこの手枷を煤鬼に付けてお仕置きする。
この手枷、術が掛かってて……付けられると、あらゆる感覚を巻き込んだ強めの幻覚を見る羽目になる。
平たく言えば、煤鬼は俺を『一番恐ろしいと思っている相手』だと思い込む。
お仕置きするのにこれ以上のスパイスは無い……!!”

(鬼さん、本当にぬぬさんの事が一番怖い誰かに見えてるのかな……??)
そんな麿の疑問が肯定されていくように、煤鬼はどんどん青ざめて声を震わせた。
「な、んで……何、で……剛鬼兄さんがここに……」
煤鬼のその一言で、ぬぬはニヤリと笑う。
(なるほど。剛鬼“兄さん”か……とりあえず鬼っぽくかつ、兄っぽく振る舞っておけばよさそうだ……)
と、一瞬で把握した後、煤鬼にこう返した。
「最近、浅墓山で悪さをする鬼がいて大迷惑をしていると苦情を受けてなぁ。
まさかお前だったとは……よっぽど俺にお仕置きされたかったのか?」
「ちがっ……違っ……!!」
「違わない!嘘をつくな!!俺はお前をそんな子に育てた覚えはない!!
悪戯ばかりする悪い子はお仕置きしてやる!さぁこっちへ来い!」
「ひっ!?」
(うっひゃ!ぬぬさんものすごい演技派!!)
ぬぬの見事な“剛鬼兄さん”へのなりきりっぷりに麿は感心していた。
一方で、完全にぬぬが“剛鬼兄さん”に見えているらしい煤鬼は完全に怯えきって嫌がっていた。
「やっ、ごめんなさい!!嫌だ!ごめんなさい!もうしません!もう二度としません!
やだぁぁっ!うわぁあああん!」
けれど、もともと動きを封じられていたので、ぬぬのいいようにお仕置きの体勢に持って行かれてしまう。
膝の上に乗せられて、ズボンや下着を脱がされている間中、「待って」「やめて」「ごめんなさい」と、涙声で訴え続け、
ぬぬが(先に動きを封じておいてよかった)と安堵するほどの怖がり&嫌がりようだった。


その後、お尻を叩かれ始めても反応は相変わらずで……
バシィッ!!
「っああっ!嫌だぁぁ!ごめんなさい!剛鬼兄さんごめんなさぁぁい!!」
「今まで散々好き勝手して誰にも謝らなかったくせに、俺にだけしおらしくしったって許さんからな!!」
ビシッ!バシッ!バシィッ!!
「痛い!うぁああん!うわぁあああん!痛いごめんなさぁぁい!!」
痛覚までも巻き込んでいるらしい、幻覚の凄まじさを物語るように、ひたすら怯えて泣いている。
ぬぬは(鬼でもこんなに怯えて泣くものなのか)と感心しながらも、
頑張って熱演しつつのお仕置きを続けていた。
麿も大体同じような心境らしく、目を丸くして二人を見守る。
「今までどんな悪戯をしてきたか全部言ってみろ!その分きっちり反省させてやるから!」
「!?う、ぁっ、えっと……!!」
「言っておくけれど、隠そうとしたって無駄だぞ!全部聞いてるからな!?
一つでも隠し立てしようとしたら、お仕置きを倍に増やしてやる!」
「うっ、ぇぇっ……!!」
「ほら、早く言うんだ!!」
バシィッ!!
怒鳴りつけて強く叩く。
元々、煤鬼が気まぐれの遊び半分でやらかしたイタズラの数々、煤鬼自身が
気にも留めていないし覚えていない=答えられないのは分かりきって、この質問をしたぬぬ。
煤鬼は見事にぬぬの思惑通り、質問に答えられないようで、さらに大泣きしながら言う。
「うわぁあああん!!ごめんなさい!全部は言えないぃっ!覚えてないぃぃっ!!」
「はぁ?覚えてないだと?」
「うあぁあああん!ごめんなさぁぁい!もうしません!もうしませんんんっ!!」
「覚えていられないほど悪戯するんじゃない悪い子め!!」
バシッ!バシィッ!ビシィッ!!
「ごめんなさぁぁい!痛い!剛鬼兄さん痛いごめんなさぁぁい!わぁあああん!!」
「……適当に答えずに“覚えてない”と、正直に言えた事だけは褒めてやろう。
けど、これは“100叩き”程度じゃ済まされんよなぁ?」
「うわぁああん!やだぁぁっ!ごめんなさぁぁい!わぁあああん!!」
“剛鬼兄さん”の皮を被ったぬぬが何か言うたびに、お尻を打つたびに、
泣いて怖がって謝罪して泣いてをひたすら繰り返している煤鬼。
お尻もだんだん赤くなってきているし、懲らしめとしては十分に機能していそうだけれど、
ぬぬはまだ許さなかった。
「もっと早くから反省していたらこうはならなかったんだバカ者が!!」
バシィッ!ビシッ!バシィッ!!
「ごめんなさぁぁい!やだぁぁぁっ!反省した!反省したからぁぁっ!!
剛鬼兄さんもう許してぇぇッ!!」
「まだまだ!罪のない人間達に迷惑をかけた分、きっちり体で償ってもらうぞ!」
バシッ!ビシィッ!バシィッ!!
「わぁああああん!やだぁぁっ!もう痛い!痛いぃぃいいっ!!うわぁああああん!!」
その後も、煤鬼のお尻が真っ赤になってしまうまで叩きまくって泣かせまくって……
「剛鬼兄さっ……もう、しないっ、あぁああん!しな、いから……ぁぁっ!わぁあああん!!」
煤鬼の泣き声がだんだん弱ってきた頃に、ようやく許す気になったらしい。
慈悲の手を差し伸べた。
「で、煤鬼?本当に懲りたか?もう二度と、悪戯をしないか?」
「しない!絶対しない!許してぇぇっ!!」
「……山羊の妖怪を“三流妖怪”って言った事、謝れよ!?」
(あ!そこはやっぱり外さなかったんだ!!)
激しいお仕置きにドキドキしていた麿もツッコミ力を取り戻し、煤鬼も少し驚いた反応をしつつ、
「!?、うわぁああああん!謝るぅぅうう!わぁああん!!」
「ならまぁ、今日はこのくらいにしてやろう」
必死に謝って許してもらえた。
そして、ぬぬは煤鬼を膝から下ろすと……頬に触れて脅す様に言う。
「いいか?次また何かイタズラをしたら、俺の手で尻を叩くだけじゃ済まないと思え?
悪い子をお仕置きする道具は、案外色々あるんだぞ?」
「うっ、うぅっ……うわぁああああん!!分かったぁぁっ!ごめんなさぁぁい!!」
煤鬼はまた大泣きしながらも、ぬぬにぎゅっと抱き付く。
「うぇぇっ、剛鬼兄さん、剛鬼兄さん会いたかった!!
これからはいい子にするから、俺も一緒に連れて行って……!
ずっとずっと皆を探してた!!45団に帰りたい!!」
((あ…………))
この瞬間、ぬぬと麿は、自分達がついてはいけない類の嘘をついてしまった事を悟る。
ものすごく気まずくなりながら、ぬぬが煤鬼の手枷を外して種明かしをする。
「あ、あの……煤鬼、済まない。これはお前を懲らしめるためにやった事で……
お前の見ていた“剛鬼兄さん”は幻覚で、俺だったんだ……だから……」
その言葉を聞いた煤鬼は怒るでもなく、絶望したように目を見開いてボロボロと涙を流して……
「うっ……うぁあああっ……うわぁあああん!
やっと会えたと思ったのにぃいいいっ!!もう一人は嫌だぁあああ!!」
「……煤鬼……」
ぬぬは泣いている煤鬼を抱きしめて頭を撫でた。
「大丈夫。もうお前は一人じゃない。これからは、俺がずっと傍にいる。今まで、一人でよく頑張った」
「うわぁああああん!!」
煤鬼はその言葉を聞いていたのかいないのか……ぬぬの胸の中でいつまでも泣き続けていた。



その後、ぬぬが煤鬼を家に住まわせる事にしたらしく、煤鬼も素直にその提案を受け入れた。
家族が増えた家の中で、ぬぬは瞳をキラキラさせながら言う。
「煤鬼をお仕置きして父性が芽生えた!これからは、煤鬼は俺が育てる!!」
「……おい。張り切っているところ悪いが、俺は子供ではないからこれ以上は育たんぞ?」
嬉しそう(?)なぬぬに対して、煤鬼の方は少し呆れ気味で。
そんな温度差のある二人に、女装から元の服に着替えた麿もホッとしながら言葉をかけた。
「な、何だかんだで丸くおさまって良かったじゃないですか。煤鬼君も、これからは寂しくなくて良かったね?」
「ま、こんな奴でもいないよりはマシだな」
「も〜〜そんな事言って〜〜」
麿は困ったように笑うが、そっけなく顔を逸らした煤鬼は、やや不満そうな顔でぼやいた。
「俺は昔から、変な男にばかり好かれる性質らしい。
どうせなら、俺より小さくてふわふわで可愛くてエロイ子に好かれて恋人になりたいのに……」
「結構理想高いんだね!?」
「頑張る!!」
麿がツッコんで、ぬぬが張り切ったが、煤鬼はげんなりしながらぬぬに手を払う。
「いや、お前はどうあがいても該当しないから頑張るな」
「違う!仲人!煤鬼に可愛い恋人……ひいてはお嫁さんを見つける!」
「……まぁ……期待はあまりしないでおく……」
温度差がありつつ、けれど煤鬼もまんざらでもなさそうで。
なかなか上手くやっていけそうなぬぬと煤鬼に見送られ、麿は温かい気持ちで浅墓山を後にした。
(次回作は、山羊の妖怪と鬼が同居して交流するハートフルストーリーにしようかな!)

そして、次回作のイメージも固まった。

――後に発売された、麿拙者麿の第二作目、『まろやか妖怪同居生活!』は、
一部の女子から熱狂的な支持を得てそこそこヒットしたのだった。


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【作品番号】youkaisinbangai2

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