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家政ごときじゃ救えない!?
第4話
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田中温人(たなか はると)、現在執事……もとい、“家政夫”の求職中。
母校に推薦してもらった4件の就職先のうち3件、皇極園家、数住家、芽家家で
諸事情ありつつ就職に失敗してしまい、残すは“影井家”だけとなった。
影井家は自宅の向かいの古い団地の一室で、
彼の双子の弟の温真がずっとおススメしていた派遣先だった。

そして、朝10:00。
(思えば……大きな家じゃないからって敬遠してたのは失礼だったかな……?
温真の言うとおり、こういう所の方が小さくてアットホームそうで僕向きそうだし。今回は上手くいくかも)
そんな事を考えつつ“影井”の表札のドアの前に立った温人は、
隣家のドアから顔を覗かせる中年主婦に声をかけられる。
「ねぇねぇ!お兄さん!ひょっとして児童相談所のヒト!?」
「え!?い、いえ……僕は影井さんに雇われた家政夫です」
「そうなの!?でもまともそうな人が来てくれて良かったわ〜!
アタシ心配だったのよ!そこの家、父子家庭なんだけどね!
子供小さいのに父親は仕事して無いっぽいし、よくニューハーフの商売女連れ込んでて!
時々怒鳴り声とか聞こえるし!いざって時はすぐ通報してやろうって思ってたの!」
「そ、そうなんですか……!」
おしゃべりなおばさんパワーに圧倒されていると、その場に明るい声が響く。
「ど〜〜もぉ〜〜 ただ今ご紹介に預かりました、ニューハーフの商売女ですぅ〜〜
現れたのはカジュアルな格好をした若い巨乳美女……に見える、自称雄嬢。
ニッコリと微笑んだ彼女に、主婦は慌てて家の中に入っていく。
「!!ア、アタシ用事あるから!頑張ってね、お兄さん!!」
主婦が引っ込んでしまうと、雄嬢は憎々しげに扉を睨みつけた。
「……相変わらず腹立つオバハンやわ。あの人の言うた事、気にせんといてくださいね?」
「は、はい!」
が、次の瞬間には温人に向かってまた笑顔を向けて名刺を差し出す。
「ウチは家政夫さんの事雇わせていただいた、藤姫(ふじひめ)言います。
颯平さ……いや、影井さんの………義弟になるんですけど……
う〜ん、ざっくり、身内です!どうかよろしくおねがします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
温人は艶やかな和柄の名刺をもらって、驚きつつ微笑んだのだった。
そして……


改めて足を踏み入れた、荒れ果てまくっている影井家に絶句する温人。
部屋に散乱する物や服やゴミ(?)。キッチンの流し台に積み上がった食器。
かろうじて寝るスペースと物を食べるらしきスペースが空いるものの、そもそも布団も敷きっぱなしで……
洗面所やお風呂、トイレの惨状は想像もしたくない。
呆然とする温人に、藤姫は不安げに話しかける。
「……颯平さんはぐうたらで、ウチも家事は苦手やし、
あんまり様子も見に来られへんもんで……すんません。
こ、こんな酷い有り様でも面倒見てもらえるんやろか……??」
「あっ!は、はい!もちろんです!!僕は家政夫ですからそれが仕事なんで!
喜んで片付けさせて頂きます!」
温人が明るくそう返すと、藤姫もホッとしたように笑った。
「よかったぁぁ!あの、ウチも家政夫さんの事、手伝いますから!何でも言うてください!」
「え!?いいんですか!?」
「こんなゴミ屋敷、家政夫さん一人に任せたら申し訳ないんで!
その為に、仕事も休み取ったんです!遠慮せんとこきつかってくださいね!」
「あ、ありがとうございます藤姫さん……!!」
こうして、温人と藤姫は二人で一生懸命掃除を始めた。
昼食は藤姫がコンビニへ買い出しに行って、それを食べて再び掃除をして。
ガンガン捨てて・磨いて・片付けて・をしていると、家の中は再び清潔さを取り戻していく。
そうこうしていると途中で……
「ただいまー!って、藤姫と、誰!?」
カバンを背負った少年が元気に帰宅する。
藤姫がニコニコと答えた。
「あぁ颯ちゃん!!おかえり!ウチが家政夫さん呼んでん!
家政夫さん、この子は颯平さんの息子で、颯太君いいます」
「こんにちは、颯太君。家政夫の田中温人です。お邪魔してます」
温人も笑顔で挨拶すると、颯太も嬉しそうに頭を下げた。
「影井颯太です!すっげぇ!家が綺麗になってる!大掃除だ!俺もやる!!」
そして、大喜びで掃除の輪の中に入ってきた。
3人で力を合わせて引き続き掃除をしていると……夕方にはだいたい綺麗になっていた。
綺麗に生まれ変わった我が家に颯太は大はしゃぎで、藤姫も嬉しそうだった。
「すげぇ!すげぇめっちゃ綺麗!!うちじゃないみたい!!」
「ホンマ、めっちゃ綺麗にしてもらって……流石ですわぁ!おおきに先生〜〜!!」
「オオキニ先生!!」
いつの間にか『先生』にランクアップして、
二人にお礼を言われた温人は照れくさそうに笑う。
「そ、そんな……“先生”だなんて……お役に立てて嬉しいです。
あ!そうだ、よかったら夕食も何か作りますよ?」
「「やったぁ〜〜!!」」
ハイタッチで喜び合う藤姫と颯太。そんな明るい空間に……

ガチャ。
急にドアが開いて中年男性が入ってくる。
あまり身なりが整っていないその男に、颯太が嬉しそうに駆け寄る。
「父ちゃん!父ちゃん見て!すごいでしょ!?うち、すっげぇ綺麗になったよ!」
しかし、男性は颯太に返事を返さず、彼を押しのけて歩みを進めながら怒鳴る。
「おい!こんなもん誰が頼んだ!?」
颯太も温人もその剣幕に固まるが、藤姫だけは怯むことなく男性の前に立つ。
「ウチや。別にええやろ?料金はウチが……」
「テメェ余計な事しやがって!!」
バシィッ!!
「きゃっ!?」
いきなり男性が藤姫を平手打ちして、藤姫が床に崩れ落ちた。
「藤姫!!」
「藤姫さん!ちょっと、やめ……」
泣きそうな颯太や驚いた温人が止めに入る前に……
「ッ……何さらすんじゃボケェェェッ!!」
バキィッ!!
藤姫が素早く起き上がって颯平を殴り倒して馬乗りになっていた。
そして颯平を押さえ込みながら温人らに叫ぶ。
「先生!!大丈夫ですから!ウチ強いんで!どうにかしますから!
颯ちゃん連れて外出ててください!」
「わ、わかりました!!颯太君、外行こっか!」
温人は大急ぎで颯太を外に連れ出す。
「父ちゃん……!藤姫……!!」
颯太は泣そうになりながら温人に連れ出された。


温人はひとまず颯太を連れて近くの公園に避難し、ベンチに並んで座る。
「颯太君、大丈夫だからね……帰ったらきっと、お父さんも藤姫さんも仲直りしてるから……
あ、そうだ!何か美味しい物でも食べてから帰ろうか!」
「…………」
「大丈夫、大丈夫だよ……」
元気なく俯く颯太の手を握ってあげながら、温人は気づいた。
颯太の服や靴も、良く見たら少しボロくなっているのだ。
気付いてしまうと、温人は颯太が一層不憫になって、あらゆる事が心配になって……
こんな質問が飛び出してしまった。
「……颯太君、お父さん、颯太君にはあんな事しないよね……?」
「!!」
その瞬間、颯太はものすごく動揺して大声を上げた。
「しない!!父ちゃんは俺の事殴ったりしない!絶対にしてない!信じて!!」
「!!そ、そうだよね!?変な事聞いてごめんね!」
「皆、同じ事聞くんだ……!父ちゃんは優しいのに!絶対そんな事しないのに!!
父ちゃんは、父ちゃんはダメなんかじゃないのに……!!」
また泣きそうになる颯太に、温人は心底申し訳なくなって必死に謝る。
「颯太君、本当にごめんね……良く知らずに、変な事聞いたりして……」
「うっ、うぅ……!!」
「もっと、颯太君やお父さんのこと知りたいな。聞かせてくれる?」
温人が穏やかな笑顔でそう言うと、颯太もぽつぽつと色々話し始める。
父親が、母親が亡くなってからあんな感じになった事。
母親が亡くなる前の父親は今より明るくて仕事熱心で、とても家族を大切にしていた事。
裕福ではなかったけれど、とても楽しい生活だった事。
父親と母親は“かけおち”で一緒になったらしく、颯太達一家は双方の親族から孤立状態で、
同じく親族から孤立している藤姫が今は金銭援助をしてくれている事。
(昔は逆に父親と母親が藤姫の生活を援助していたらしい)
藤姫は母親の双子の弟(颯太の叔父)で、今は父親の恋人?っぽい事。
颯太は今も父親が大好きで、一緒に暮らしたい事。
それなのに父親が周りから悪く思われる一方なのが悲しい事。
父親や母親や藤姫をずっと変わらず愛し慕う気持ちも、
楽しい昔の思い出も、今の辛い状況も、表情豊かに話してくれた。
「……父ちゃん、母ちゃんがいなくなって寂しいんだよ。
辛くて寂しくて、動けなくなってるだけなんだ。俺は、父ちゃんの事助けたい。
早く元気になって、昔みたいに楽しそうに過ごしてほしい!」
「颯太君……そうだよね。お父さんきっと、颯太君のその気持ちすごく嬉しいと思う。
僕にも何か手伝えることがあったら力になるから。何でも言ってね?」
「ありがとう、先生……」
無理して笑っているような颯太の笑顔に、温人は胸が痛くなるのだった。

そうして少し色々話してから、二人は影井家に戻ってみる。
怖々戻ってみた温人だったけれど、颯平と藤姫はお互い冷静そうでホッとした。
「父ちゃん!!」
颯太がさっそく父親に駆け寄ると、父親は何も言わず颯太を傍に引き寄せて、
温人の方には一瞥して、力なくこう言った。
「……アンタ、もう来ないでくれ……」
藤姫も諦めたように首を振った後、仕切り直す様に温人に明るく言う。
「……先生、今日はありがとうございました!一緒に帰りましょか!
颯ちゃんもバイバイな!」
颯太は悲しそうな笑顔で藤姫や温人に手を振って、その後は黙って父親の傍にいた。
温人も何も言えずに、藤姫と共に影井家を後にするしかなかった。

その帰り道の別れ際、藤姫は深々と温人に頭を下げる、
「ホンマにお世話になったのに、失礼ばっかりして申し訳ありませんでした……」
「いいえ、そんな事無いですよ!また何かあったらいつでも声をかけてください!
ああ言われてしまったけど、颯太君の事もお父さんの事も、まだ心配で……」
「あぁ、先生ええ人やわ……じゃあウチとだけでも連絡先、交換してもらってもいいですか?」
との流れで連絡先だけ交換して。
これで事実上、温人の影井家家政夫生活は幕を閉じた。


家に帰って温真に話しても、「影井家ならいけると思ったのに……結構大変だったんだね」
と、一緒に残念がってくれて。
いよいよ温人も“家政夫”の夢を諦めてまた普通の再就職先を探そうかと考えていた。


――が数日後。
突然、夜に藤姫から連絡を受ける事になる。
いや、正確には藤姫からの連絡だと思っていると……
『先生……?』
「えっ!?颯太君?どうしたの!?」
電話越しの颯太の声に温人が驚いていると、切羽詰った様子の颯太の声はこう続ける。
『先生……俺、おれっ……!どうしよう……!父ちゃんが!父ちゃんが!!うっ!うぅっ!!』
「!?、お、落ち着いて!大丈夫、今すぐ行くからね!今お家にいる!?」
颯太が泣き出してしまって、温人も慌てた。
時間も時間だしこれはただ事ではないと、大急ぎで颯太がいると言った影井家へ向かう。


温人が影井家へ着くと、ものすごく疲れ切った様な藤姫が中へ招き入れてくれた。
「ホンマ、こんな時間に急に来てもらって……すんません……」
よく見ると、目が赤くなっていて涙ぐんでいる。
しかも家の中には泣きじゃくる颯太の姿もあって。
温人はいてもたってもいられずに藤姫に聞いた。
「藤姫さん……!一体何があったんですか!?」
「……実は、颯平さんが事故に遭って。
幸い、あんまり酷い怪我じゃないんです。けど……」
藤姫の言う事には、颯太が夜になっても学校から帰って来ず、
しかも学校からはとっくに下校していると言われて
慌てて探しに行った父親が運悪く事故に巻き込まれてしまったらしい。
しかも、颯太が帰って来なかったのは父親に探しに来て欲しくて
隠れていた、自作自演だったのだ。
挙句、病院に行った颯太は父親から“藤姫と暮らせ”と言われてしまったらしい。
「そんな……」
何とも言えない不運で悲しい出来事に温人は言葉を失う。
颯太がまた泣き喚いた。
「おっ、俺っ、俺がっ……!悪い子だからぁっ、ひっく、父ちゃんに、嫌われちゃったぁぁっ!!
うわぁあああああん!!」
「……颯平さんにしたら、颯ちゃんを想っての言葉なんでしょうけどね。
嫌いになったとかじゃ、絶対無くて」
独り言のように呟いた後、また目に涙を溜めた藤姫は颯太に向かって言う。
「颯ちゃん……確かにお父ちゃんが頼んなくて不安になるの、分かるけど。
でも、こんな事したあかんかった……。あかんかったよ……」
「うんっ、ごめん……なさい……!!藤姫……っ!」
颯太は泣きながら藤姫に縋る。
「俺、どうしたらいい!?どうしたら父ちゃんに許してもらえる……!?
どうしたら俺……こんな事になって……こんなつもりじゃ……!!
父ちゃんにも藤姫にも、何回謝ったって全然足りない気がするんだ!!」
「……そやなぁ。じゃあ颯ちゃん、ズボンとパンツ脱いでお尻出し?」
「「へっ!?」」
思わず同時に驚く颯太と温人。
けれども藤姫は涙を拭いて、どこか艶やかに髪を払って言う。
「体で償えっちゅーこっちゃ。ウチらに誠意見せたいんやろ?」
「??」
「“颯ちゃんが悪い子やったからお仕置する”って言えば分かる?」
「わ、……分かっ、た……」
少し怖気づきながらも、颯太は首を縦に振る。
彼が言われた通りにズボンと下着を脱いで下半身裸になると
優しく藤姫に引き寄せられて……
「ほら、こっち……」
「うぅ……!!」
顔を赤くして恥ずかしそうに膝の上に横たえられた。
藤姫の方は軽やかに手を振り上げて、颯太のお尻を打った。
バシィッ!!
「うぁっ!!」
「颯ちゃん悪い子」
ビシッ!バシィッ!バシィッ!!
軽々とした動きとは裏腹に、一発一発は重いらしく、
颯太はすぐに足をバタつかせて謝りはじめる。
「ごっ、ごめんなさい!ごめんなさい藤姫!!」
「人の心を試そうとなんてするから……神様が怒らはったんやね、きっと」
「ごめんなさぁぁい……!こんな事しなきゃよかった、本当に……!!」
バシッ!バシィッ!ビシッ!!
颯太の反省する姿を呆然と見ていた温人は、ここで気が付く。
(僕完全に観客だ!!で、でもどうしよう……!今声をかけるわけにも……!!)
動揺でそわそわしだした温人に、藤姫や颯太が気づいたようだ。
二人の方から声をかけられてしまう。
「先生……どうかウチラと一緒におってください。やっぱり今夜は心細くて……」
「おっ、俺も……!!今、藤姫と二人にされるのは怖い……!!」
「は、はい!!一緒にいます!!」
頼られて思わず背筋を伸ばす温人。
その温人の返事を聞いて、また二人の“お仕置き”の続きが始まる。
バシッ!バシィッ!バシッ!
お尻を叩かれている颯太が、痛みに耐えながらも謝っていた。
「んっ、あ!藤姫っ!!本当にごめんなさい……!!
がっ、学校の友達が!連絡したらすぐに迎えに来てもらってて!羨ましくなって……!!」
「寂しいのもワガママも、直接お父ちゃんに言ったれば良かってん。
こんなわざと心配させるようなやり方……ウチもめっちゃ心配したんよ!?」
バシィッ!!バシッ!ビシッ!!
「うぅっ!ごめんなさぁい!!ふ、藤姫にも、迷惑かけてっ……俺っ……!!」
言いながら、颯太がボロボロと涙を流す。
そして、胸の内をぶちまけるように喚き出した。
「おれっ、父ちゃんに元気になって欲しいよぉ!!前みたいにいっぱい笑って欲しいよぉ!!
いっぱい遊んで!いっぱい撫でて欲しいよぉ!!
前みたいに皆仲良しがいいっ!!父ちゃんと藤姫がケンカばっかりなのやだよぉっ!!
うわぁあああん!!」
「颯ちゃん……!!」
颯太の言葉に、藤姫の手が止まった。
彼もまた、大粒の涙を流しながら、颯太に負けない大声で言った。
「ウチやって!颯ちゃんがずっと我慢してたん知ってる!頑張ってたん知ってる!
あぁ、ごめんやで……堪忍な颯ちゃん……!!
ウチ……もうこんな事したない!!こんな事したないぃっ!!」
「うわぁあああん!!藤姫ぇぇぇっ!!」
「うわぁあああああん!!颯ちゃぁぁああああん!!」
気が付けば、藤姫も颯太も二人で号泣していた。
そして、二人のやり取りを見ていた温人も涙目になっていたが、
どうにか二人を落ち着かせようと声を絞り出す。
「あ、あの……!!」
が――
「先生ぇ!先生、全部ウチが悪いんです!!
ウチがしっかりしてへんからこんな事なったんです!
姉ちゃんに申し訳が立ちません!先生もうウチの事お仕置きして下さい!!」
「えぇっ!!?」
「だっ、だめぇっ!!藤姫だって頑張ってたじゃん!俺、藤姫にだっていっぱい感謝してるんだ!
せ、先生……!俺が悪い子なんだ!だから、俺にもっとお仕置きして!!」
泣いている藤姫と颯太の両方から縋られる。
しかも、“自分をお仕置きしてくれ”といいながら。
温人はこの緊急事態に混乱しつつ、どうにか言葉を探した。
「え、えっと……ですね、二人共……」
「「先生っ!!」」
「んんんんんん――……!!」
二人の真剣な表情。温人はもうどうしていいか分からず、
いい案も浮かばず、困った様な笑顔でこう言っていた。
「二人共、僕がお仕置きしましょうか……??」
「「!!」」

こうして、温人のとっさの言葉で、目の前に丸出しになった二つのお尻が並ぶことになる。
顔が見えないものの、颯太も藤姫も不安げに恥ずかしげにしている事だろう。
温人の方も恥ずかしいというか、妙に気まずい。
(……な、何でこんな事に……!?っていうかさっきの、
“もうお仕置きは終わりにしましょうね”で良かったんじゃ……??)
今更収束案が浮かんでももう遅かった。
この状況になってしまったので、温人は意を決して……
まずは颯太のお尻を叩く。
パァンッ!!
「あぅっ!!」
颯太のお尻はすでに赤みがかってるので叩くのは躊躇われたけど、
手加減気味に何度も叩く。
パンッ!パンッ!パンッ!!
「颯太君は!藤姫さんも言ってたけど、皆に心配かけるような事しちゃダメだよ!
お父さんも藤姫さんも、颯太君の事大好きだって、分かったでしょう?」
「ご、ごめんなさい先生!ごめんなさい……!!
もう、絶対しない……!」
「一人で無理しなくていいんだからね!?
もっと大人に甘えても、ワガママ言ってもいいから!!」
「う、うん……!あっ!分かったぁっ!」
パンッ!パンッ!パァンッ!
「ひっ!うぅっ!あぁ先生っ……!!」
叩かれるたびにお尻を揺すって小さく悲鳴を上げる颯太の姿を見て、
藤姫の方もぐっとお尻を突き出しつつ、切なげな声を出す。
「先生……!そんな、颯ちゃんばっかり……!!
颯ちゃんはウチがお仕置きしたんやし、ウチの事もお仕置きして下さい……!」
「(誘い方がさすがプロっぽい……!!)そ、それじゃあ、藤姫さんは……」
所々色っぽい藤姫に圧倒されながら、
しかも正直、藤姫に関しては何を叱ればいいのか分からないまま、
温人は遠慮がちに藤姫のお尻を叩く。颯太と同じく手加減気味で。
パンッ!!
「あんっ!!」
パンッ!パンッ!パンッ!
頭も手も必死に動かしながら、温人は藤姫に言葉をかける。
「何かその……あんまり責任感じないで下さい!!
颯太君、貴方に感謝してるって……颯平さんだってきっとそうです!
自分を追い詰めないで下さいね!」
「あぁ先生……!分かりました……!!」
パンッ!パンッ!パンッ!
「んっ!んんっ!!はぁっ、うぅっ!!」
(なんかこれ以上叩いてちゃいけない気がする……!!)
叩かれるたび、ビクビクとのたうつ藤姫のお尻と
まるで女性のような悲鳴に、温人は真っ赤になって早々に宣言した。
「じゃあ、二人共反省したみたいなので!お仕置き終わりです!!」
と、お仕置きが終わると。
颯太も藤姫も体を起こして温人を見て、どこか安心したように笑った。
「「先生、ありがとう……」」
イントネーションの違うそれぞれの“ありがとう”を言われて、
温人も何だかほっこりとするのだった。
その後は、3人で和やかに過ごして眠った。

翌日。
温人はまた一旦帰る事になるのだが、藤姫が深々と頭を下げてくれる。
「先生たびたび、どうもありがとうございました。
無茶なお願い、色々聞いてもらって……。なんや、今になって恥ずかしくなってきたわ……」
「あ、はは……お役にたてれば光栄です。
これからも、何か力になれる事があるなら遠慮せず言ってくださいね。
颯平さんのお見舞いも、良かったら行かせてください」
「おおきに先生……ホンマ、おおきに……」
藤姫が泣きそうになりながら温人の両手を握ってくれる。
颯太も元気に笑顔で手を振ってくれて。
まだ状況は好転していないものの、
温人は影井家のこれからに明るい未来が見える気がしていた。


その後、しばらく経って――

「こんにちは〜〜!!」
温人が元気に影井家を訪問すると……
「あっ!温人兄ちゃん!!」
「こ、こんにちは温人さん……」
「ダメだよ!!父ちゃんは座ってなきゃ!!」
「いや、でも……」
颯太と颯平が明るい雰囲気で出迎えてくれる。
あの後颯平は無事退院し、まだ足の怪我が治っていないものの
順調に回復しているらしい。
何度かお見舞いに行った温人とも打ち解けてくれた。
そして、颯太の願いどおり二人仲よく暮らしている。
颯平や颯太の努力の結果か、家が荒れ果てている事も無い。
さらに……
「ねぇ温人兄ちゃん!光ってさ、ドレスと着物とどっちが似合うと思う??」
「そっ、颯!!そんな話温人さんにしなくていいだろ!!?」
「えー!父ちゃんと光、ケッコンするんでしょ??」
「いや、そうだけど……!!」
顔を真っ赤にする颯平に、颯太も楽しそうだ。
“ひかり”というのは藤姫の本名で、このたび颯平や颯太と一緒に暮らすことになった……
つまり、颯平がプロポーズしたのだった。
複雑な再婚だけれど、影井家は皆幸せそうで温人も自然と笑顔になる。
颯太の問いに答えつつ、談笑しながら料理を作り始める温人。
そうしていると、颯平がおずおずと問いかけてきた。
「温人さん、その……料理ってのは、俺でもできますかね……?」
「もちろんです!足が治ったら一緒にやってみましょう!」
「すげ――!父ちゃん料理作るの!?」
颯平は照れくさそうに笑っている。
足が完治したら就職先も探し始めるとの事だ。
温人がここにいるのも、颯平の怪我が治るまでの家事手伝いの為で、
颯平の怪我が治って、光と暮らし始めれば……もう家政夫など必要ないだろう。
それほどの、幸せと安心に満ち溢れていた。
(家政夫、最後の派遣先もやっぱりダメだったけど……全然悲しくない!すっごく嬉しい!
良かった!颯太君も颯平さんもすごく幸せそう……!きっと、光さんも)

温人はそう思いながら、途中から光も帰ってきて皆揃った影井家と、
楽しく時を過ごしたのだった。



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【作品番号】kseihu4

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