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家政ごときじゃ救えない!?
第1話その後
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田中温人(たなか はると)、現在執事……もとい、“家政夫”の求職中。
そんな彼が買い物の帰り道、目にしたのは……
「あ……雪臣君……」
公園で一人ポツンと、ブランコをこぎもせず座る、皇極園雪臣(こうぎょくえん きよおみ)の姿。
派遣先を追い出される形で会えなくなった雪臣の事が、温人はずっと気がかりだった。
彼の表情は相変わらず固く、じっと俯いているので余計に気になって……
「雪臣君!!久しぶり!」
「!!」
声をかけて近づく。
雪臣は驚いたように立ち上がって、すぐに頭を下げた。
「先生……お久しぶりです……先日は華威兄さんが、本当に申し訳ありませんでした!!」
「そ、そんな!雪臣君は何も悪くないよ!座って座って!」
温人は慌てて雪臣の頭を上げさせ、ブランコに座らせて、自分も隣のブランコに座る。
軽くゆらゆら漕ぎながら雪臣に話しかけた。
「あれから心配だったんだ……雪臣君、元気だった?お兄さん達とも仲良くやってる?」
「……この前、依月兄さんに殴られました」
「えっ!?」
悪い予感にドキッとした温人に、雪臣は「ご心配には及びません」と微かに微笑んで話してくれた。
その時の出来事を……

ある夜、雪臣は家の中で酷く泣いている依月を見付けてしまう。
驚きと心配で混乱しながら声をかけたそうだ。
「い、依月兄さん……!どうしたんですか……?!」
「うっ、ひっく、何でもっ、ありません……!!うぅっ!!」
「で、でも……!!」
「っいいから!!向こうへ行きなさいっ!!」
泣きじゃくりながらも「何でも無い」と自分を追い払う依月。
雪臣は直感的に“華威兄さんが何かしたんだ”と、
何だかとてつもなく恐ろしい事が起こったような気がして……
そして、気が付けばものすごく腹が立って叫んでいた。
「依月兄さん!!華威兄さんは本当は病気なんかじゃない!!
あの人は怠け者のクズです!!あんな人に貴方が振り回される必要も、従う必要もない!!」
「!!雪臣!!」
パァンッ!!
雪臣が頬を叩かれて驚いたと同時に、
依月は雪臣を力いっぱい抱きしめて、嗚咽混じりに言った。
「お願いだからッ!!そんな事をっ……言わないで……!言うもんじゃ、ありません!!
お前は分からないかもしれないけど、華威兄さんは本当にご立派な方なんです!!
私達がいい子にしていれば、きっと病気も良くなって、前のように……!!
前の、華威兄さんが、きっと戻ってきてくださいます……!
だから、だからっ……!!」
後は言葉にならなかったらしい。
依月は雪臣を抱きしめたまま泣き続け、雪臣も何も言えなかった。

話し終えた雪臣は、静かに言う。
「……僕は、その時の依月兄さんを見て思ったんです。
依月兄さんは僕の兄さんだけど、華威兄さんの弟なんだな、って……。
決して、強いだけの人じゃない。依月兄さんだって、精一杯だったんです……」
「……雪臣君……」
「それを……」
雪臣の表情が、ぐっと強張った。
「そんな依月兄さんの気持ちを、踏みにじって笑ってる華威兄さんが許せない……!!
僕に酷い事をするなら、まだ分かります……どうして、あんなに良くしてもらってる、
想ってもらってる、依月兄さんに、酷い事をしたんでしょうか……!!
僕は……!!」
雪臣はパッと顔を上げて、縋るように温人を見る。
そして叫んだ。
「先生!!僕は依月兄さんを助けたい!!
華威兄さんをどうにかしたい!!僕は……悪い子になっても、いいですか!!?」
「……!!」
その真剣な言葉と表情に、もちろん温人も全力で頷く。
「もちろんだよ!僕も華威さんは仮病なんじゃないかと思ってた!
力になれる事があったら何でも言って!!」

「!!はいっ!!」
雪臣は嬉しそうに笑う。
温人が始めてみる、雪臣の自信に満ちた笑顔だった。

彼の生き生きした表情を見られて嬉しくなる温人に、その後も雪臣は言葉をつづけた。
「必ずや華威兄さんが病気でない事を暴いて……僕らを騙して堕落を貪っていた事、
依月兄さんにこっぴどく叱られて、ものすごくお尻を叩かれてお仕置きされてしまえばいいです!!」
(雪臣君、相当怒ってるな……)
「……本当に重いご病気で、心が荒んであの態度でいらっしゃるのなら……
それはそれでどうにかしてあげたいですし……」
「そ、そうだよね……どっちにしても応援してるから!」
「ありがとうございます、先生。
そろそろ帰りますね。依月兄さんを心配させてはいけないので」
「うん!気を付けて。それと……雪臣君だって、依月君と同じように“酷い事をされちゃいけない”んだからね?
覚えておいて。無理はしないでね?」
温人は最後に自分の連絡先を雪臣に書いて渡す。
雪臣は深々とお辞儀をして、駆けて行った。

(神様どうか……幼い彼の大きな勇気が報われますように……!)

温人は小さくなっていく雪臣を見ながら、彼の行く先の幸せを祈るのだった。



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【作品番号】kseihu1.5

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