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僕はやっと電話に出た。 『絢音!!』 「伯父さん、ごめんなさい……!!」 伯父さんの声が必死で、僕は怖くなって、ちゃんと伝えるはずだったのにそれしか言えなかった。 泣きながらそれを繰り返す事しかできなかった。 「ごめんなさい……!ごめんなさい伯父さん……!」 『絢音!?今、どこにいるの!?』 「ごめんなさい……ごめんなさい……!」 『今いる場所を言いなさい!絢音!』 僕は伯父さんが何だか怒ってるようなのですっかり怖くなって、動揺してしまった。 「ごめんなさい……迷惑かけないから……!すぐ、飛び降りて、お父さんの、ところに……!」 『ダメだ!動かないで!高い所にいるんだね!?どこに入ったの!?』 「わ、分かんない……古いビル……」 『絢音、絶対に動かないで!電話も切らないでね!?そこから何が見える!?』 「観覧車が、光ってる……でも、伯父さん……遠いよ……!」 『大丈夫!すぐ行ってあげるから!じっとしててね絢音!他にも何か見える!?』 僕は伯父さんに聞かれるままに答えた。 それを繰り返したら数十分後には、伯父さんと警察の人が僕の所までやってきた。 「絢音!!」 電話で聞くより迫力のある声で、僕の恐怖と動揺は最高潮で…… 「ごめんなさい、伯父さん、ごめんなさい……!!」 床に座り込んだままやっぱりそれしか言えなくて。 伯父さんはすごい勢いで駆け寄ってきて、僕を思いっきり抱きしめた。 骨が折れるんじゃないかってくらい強く。 「バカな事を、考えて!!」 そう言われながら抱きしめられて、ここで本当に“ごめんなさい”と連呼する所なんだけど…… 「うっ……うわぁあああああん!!」 大声で泣くしかできなかった。伯父さんに縋って、本当に思いっきり泣いた。 伯父さんに連れられて下に降りると、伯母さんと七美お姉ちゃんも来ていた。 伯母さんは僕の顔を見るなり地面に崩れ落ちて泣いた。 七美お姉ちゃんが必死で声をかけて寄り添っていた。 その後はパトカーで家まで送ってもらったんだけど、こんな大事になってしまって、 しかも僕は死ねなかった上にまた伯父さん達に迷惑をかけてしまったし…… とにかくこの後どうなるんだろうかと怖くて仕方なかった。 伯父さんがずっと僕の肩を抱いててくれたんだけど、僕は震えるばかりで一言も話さなかった。 そして家に着いた。 伯父さんと伯母さんは警察の人に何度もお礼を言って、それが帰ると僕はリビングで皆に囲まれた。 ソファーに座った僕の周りに皆が集まってる状態。 何を言われるのか怖くてたまらなかった。伯父さんは真正面にいるし殴られるんじゃないかとも思った。 でも伯父さんはいきなり殴ったりはしなかった。 「どうしてあんな事をしたの!?伯父さんや伯母さんに足りないところがあったんなら何でも言って!!」 そう言われた。とんでもない。 伯父さんや伯母さんや、七美お姉ちゃんだって、いつも僕に優しくしてくれたし、足りないところなんて無い。 僕があんな事をしたのは、むしろ大好きな伯父さん達に迷惑をかけたくなかったからだ。 今日先生に言われた事も話さなくちゃいけない。また涙が出てきた。 「ご、ごめんなさい……これ以上僕が生きてたら、伯父さん達に迷惑だと、思って……っ」 「伯父さん達は絢音を迷惑だと思った事なんて一度も無い!!」 「そうよ絢音!!何を言ってくるの!?」 「絢音が迷惑なわけ無いじゃない!!」 伯父さんも伯母さんも、七美お姉ちゃんも声をそろえてそう言ってくれた。 それでますます心が重くなって、ボロボロ涙が出てくる。 でも話さなきゃっ思って、叫ぶように言った。 「執事学校の、せっ、先生に……言われたんだ!!僕の成績が悪くて、働き口を紹介してやれないって!! ごめんなさい!伯父さん達がせっかく高いお金で通わせてくれたのに!! 僕は伯父さん達の好意とか、お金を一切無駄にしたんだ!!こんな迷惑ってないでしょ!?」 「そんな事で……絢音がそんな事気にしなくていいんだよ!? 学校は伯父さん達が通わせてあげたかったんだ!絢音の為のお金を無駄だなんて思わない!」 「思ってよ!!」 伯父さんが一生懸命僕を庇ってくれればくれるほど、僕はどこかに消えてしまいたくなる。 「だって……だって、僕は伯父さんの息子じゃないんだよ!?他人の子供に大金使える!? 迷惑だよ!伯父さん達の家庭に勝手に入りこんだだけでも迷惑なのに……! 僕なんていなくなってしまえばいいんだ!」 「絢音!!」 大声で怒鳴られてビクッとした。今度こそぶん殴られると思って目を閉じたけど、 伯父さんは僕の両手を潰れそうなくらい強く握っただけだった。 恐る恐る目を開けると、伯父さんの真剣な顔が目に飛び込んできた。 「伯父さんは、絢音を本当の息子だと思ってる!」 「……っ、ひっく……うぅっ……」 伯父さんの言葉に言い返せなかった。嬉しくて情けなくて、また泣く事しかできなくて。 僕が泣きじゃくっていると、伯父さんが悲しそうに言う。 「絢音……伯父さんはね、絢音の為に一つ自分で決めてた事があって…… 今までずっと守ってきたんだけど、今日、破ってみようと思うんだ。それが何だか分かる?」 僕は首を横に振った。分からない。けれど、何だか不安な気持ちはした。 伯父さんは僕の目を真っ直ぐ見て言った。 「『絢音に手を上げない事』だよ。破ってみようと思う。いいね?」 「……うん……」 僕は泣きながら頷いた。ここで『嫌だ』と言えるほど良い根性はしていない。 確か今までに伯父さんが僕に手を上げた事は無かった。ただの一度もだ。 伯父さんは真面目な人だから、本当にずっと守ってくれてたんだ。僕の為に。 だからこそ、今から伯父さんに殴られるであろうことがすごく怖くなった。 「じゃあ、七美と母さんは席を外してくれないか?」 「お父さん!!」 「七美、大丈夫よ。行きましょう」 七美お姉ちゃんが何か言いたそうだったけど、伯母さんに連れて行かれてしまった。 これで本当に伯父さんと二人きりだ。 (ビンタされちゃうのかな……それともグーで?グーでこられる?どっちにしてもすごく痛そう……) 怖くてドキドキしてたら、伯父さんが言った。 「絢音、ズボンと下着を脱いで」 「え……?」 伯父さんが何を言っているのか分からなくて、僕は思わず聞き返す。一瞬ポカンとしてしまった。 けれど伯父さんは落ち着いた声でまた同じ言葉を繰り返した。 今度は僕に意味が分かるように。 「ズボンと下着を脱いで。お尻を叩くから」 「……ちょっと待って伯父さん……」 声が上ずって顔が赤くなる。まさか、この歳になってそんな事をされるとは思わない。 びっくりしたし恥ずかしいしで動けないでいると、伯父さんに少し強く手を引かれる。 よろめいた体はそのまま立たされて、伯父さんが僕のズボンに手をかける。 「嫌だ!!」 「絢音!」 とっさに伯父さんの手を掴んだら怒鳴られて、それだけで僕は動けなくなってしまった。 そしたらすぐに伯父さんは僕のズボンと下着を脱がせてソファーに座って、僕を膝の上に引き倒す。 押さえつけられて、恐怖も恥ずかしさも頂点に達して、僕は伯父さんに呼びかけるしかできなくて…… 「おじさっ……」 バシィッ!! 「ぅあっ!?」 言い切る前にすごい力で打たれた。 感じた事のない痛みがそのまま何度も襲ってくる。 バシッ!バシッ!バシッ! (痛い!痛い痛いすごく痛い!) その激しい痛みに耐えられなくて、僕は必死で叫ぶ。 「伯父さんごめんなさい!ごめんなさい!」 「どれだけ、心配したと思ってるの!?」 心の底から吐きだすような悲しげな声。 胸が痛むような声と一緒に、激しい平手打ちが降ってくる。 バシッ!バシッ!バシッ! 「あぁっ!!やだ!ごめんなさい!」 僕はそれしか言えない。 本当は誠心誠意謝らなきゃいけない。 でも、今は痛みばっかりが頭を占めて、この痛みから逃れたい一心で叫んでいるに過ぎない。 頭が真っ白になって、同じ言葉ばかり繰り返す。 「ごめんなさい!伯父さん!やめて!痛いよ……う、ぁ!」 「謝っても許さないよ!しっかり反省しなさい!」 「嫌だ!伯父さん痛い!痛いよ!痛い!」 ……反省するのが嫌なんじゃない。こうやって叩かれているのが嫌なんだ。 それは伯父さんにも伝わってると思うんだけど…… 僕がどれだけ叫んでも伯父さんは手を止めてくれなかった。 時間が経てば経つほど痛みは増してくる。 「痛い!痛いぃ!痛いよぉ!ごめんなさい!やめてぇ!」 僕は伯父さんの膝の上でもがきながら叫ぶ。 それでも伯父さんがお尻を叩くのを止めてくれる気配は無かった。 逆に痛みが増したぐらいだ。 バシッ!バシッ!バシッ! 「やだぁぁぁっ!痛いよぉぉ!ごめんなさいぃ!」 痛みのあまり半泣きになりながら、最初に考えた事が頭をよぎる。 ビンタや、グーで殴られる方がよっぽどマシだった。 それなら、痛いだろうけど痛みは一瞬で済んだのに。 こんなに長い痛みに苦しめられる事は無かっただろう。 でも伯父さんが選んだって事だ。僕を長く苦しめるような罰を。 「ふぇぇぇっ!!伯父さんヤダぁぁぁ!!ごめんなさいぃ!」 いくら謝っても伯父さんがあまり言葉を返してくれない事が、心細くなってきた。 伯父さんが僕の為にこうやって叱ってくれてる事も、すごく怒ってる事も、 僕がこんな罰を受けるだけの事をしてしまった事も頭では分かってる。 でも、心のどこかで不安になってしまうんだ。 伯父さんは僕が憎くなってしまったんじゃないか…… せっかく良くしてくれたのに裏切るような事をしたから……いつも手間ばかりかけさせてしまうし、 いい加減イライラしてこんな、痛い事……!! 「ごめんなさい!もう伯父さんに迷惑かけたりしないからぁぁ! いい子にするから、だから、嫌いにならないでぇぇっ!!うわぁぁあああん!!」 僕は思わず叫んでいた。 急に今の不安を隠しておく事が出来なくなったから、なりふりかまわず叫んだ。 そのあとは恥ずかしいくらい大声で泣いてしまって、止まらなくなった。 「うわぁあああん!伯父さぁぁぁぁん!」 「絢音……伯父さんは絢音を迷惑だと思った事もないし、嫌いになったりしない!」 バシッ!バシッ!バシッ! 「やぁぁああっ!痛いぃ!ごめんなさぁぁぁい!」 伯父さんの力強い言葉にほっとしたけど、まだ手は止まってくれない。 「ずっと“ごめんなさい”って言ってる割に、絢音は何が悪かったか全然分かってない! ねぇ、絢音が皆にかけたのは“迷惑”じゃないよ!?“心配”だよ!?」 バシッ!バシッ!バシッ! 僕が口を挟む余裕もないほど、強くお尻を叩きながら伯父さんは言う。 「本当は、“心配した”なんて言葉じゃ足りないくらいだ!絢音が死んでしまうかと思ったら、 怖くて、悲しくて……!どうしてだか分かる!?私達皆、絢音が大好きだからだよ!? なのに、どうしてこんなバカな事を考えてしまったの!?」 「伯父さん、ごめんなさい……!!うわぁぁあああん!」 「今すぐ誓って!二度とこんな事はしないって!」 伯父さんが泣きそうな声だったから、僕も一気に悲しくなった。 悲しくて申し訳なくて心の底から言った。 「もうしません!もう二度としないから……!」 「約束だよ!?」 「うん……!」 そう言ったら、もう伯父さんは僕のお尻を打たなかった。 僕を抱き起こして抱きしめてくれた。 「ひっく、伯父さんごめんなさい!僕も、伯父さんの事大好き! もうこんな事しないし、二度と、心配かけないから……」 「絢音……」 伯父さんは僕を優しく撫でてくれた。 それはまるでお父さんみたいで、温かくて気持ち良かった。 「君を死なせてしまったら、音也に合わせる顔が無いし……何より、私はもう家族を失うのは嫌なんだ……」 「あ……!」 僕はハッとした。 お父さんが死んで悲しかったのは……ずっと辛かったのは僕だけじゃないんだって。 そう思ったら、気持ちが溢れてまた泣きたくなった。 「ごめんなさい……ごめんなさい!!うわぁああああん!!」 伯父さんは、今までずっとそうしてくれたように…… 泣いている僕をずっと抱きしめてくれていた。 その夜、伯父さんと伯母さんVS七美お姉ちゃんで、僕がどちらの部屋で寝るかの戦いになった。 ……僕には、自分の部屋があるんだけどな……。 でも結局、口の強い……なおかつ可愛い一人娘の強さ?で、七美お姉ちゃんが勝った。 僕は七美お姉ちゃんの部屋で寝る事になったんだけど…… 「な、七美お姉ちゃん……ちょっとくっつきすぎだよ……」 「な〜に言ってるのよ!私だって、今日めちゃくちゃ心配したんだからね!このくらい当然よ!」 「うっ……ごめんなさい……」 七美お姉ちゃんと僕は今、一つのベッドで一緒に寝ている。 僕が心配をかけてしまったから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。 けど、小さい頃ならともかく、今は何だか絵的に危ない気がするよ……。 そんな事を考えていたら、七美お姉ちゃんが急に真剣な声で言う。 「絢音……私、貴方がこの家に来てくれた時……弟ができたみたいで嬉しかった……。 今は、弟だと思ってる。貴方が死ぬかもって思ったら、すごく怖かった……お願い絢音…… もうこんなバカな事考えないでね……」 「七美お姉ちゃん……」 僕を抱きしめた七美お姉ちゃんは泣いていた。 本当に申し訳なくなって、僕も七美お姉ちゃんにくっついて泣いた。 「ごめんなさい……もう絶対にこんなバカな事しないから……僕、一人じゃなかったんだね……」 「そうよ!それなのに絢音のバカ!……もう一生、嫌だって言っても離さないんだから……!」 「ごめんなさい……!」 そのまま二人で抱き合って泣きながら、そのうち眠ってしまった。 それから伯父さんや伯母さんと話し合って、僕は一般の企業に就職する方向にした。 執事の才能は無いと分かったし、無理に僕の受け入れ先を探しても就職活動が長引く気がしたから。 それよりも早く自立してお金を稼いで、伯父さんや伯母さんに恩返しがしたかった。 僕に後悔は無い。憧れの執事学校に行けた事もそこで学んだ事も、僕にはとてもプラスになったと思う。 だからこの決定に、伯父さんや伯母さんや七美お姉ちゃんは素直に応援してくれた。 特に七美お姉ちゃんは、よく僕の面接の練習に付き合ってくれた。 とある玩具メーカーの面接を間近に控えたこの日もそうだった。 僕の部屋で、僕と七美お姉ちゃんは大真面目な顔で向かい合って座る。 「では志望動機は?」 「おっ、御社の……」 「カットカ――――ット!!」 七美お姉ちゃんは映画監督みたいに叫んで立ち上がる。 あんまりにも早いNGに思わずツッコんでしまう。 「僕まだ“御社の”しか言ってないよ!?」 「ダメよ!全然ダメ!何なのその緊張し過ぎの演技は!」 「え、演技……?」 「いいこと絢音!?面接は舞台なの!いかに相手の会社が求める人材を演じるかが勝負なの!! 貴方はプレッシャーなんて押しのけて、自信に満ちた“デキる新人”を演じなければならないの! いかに面接官の心に残るシーンを演じられるか……それが勝負なのよ!!」 メガホンみたいに丸めた雑誌で、僕をビシッと指さしながら七美お姉ちゃんは言う。 小学校からずっと演劇部で、高校の時は部長で、最後の文化祭では堂々と主役を演じていた 七美お姉ちゃんらしい言い分だけど…… 僕は、何かしっくりこない……。 「え?え?面接ってそんなんだっけ?ありのままの自分を受け入れてもらわないと…… 会社に入った時に相手が“何か違う……”って……」 「そんなのは雇った方が悪いの! そりゃ、自分が“何か違う”って思わないように相手の会社を知るのは大事だけど! そこを徹底して、自分の入りたい会社に入る事だけ考えればいいの! さぁ、もう一度“志望動機”のシーンからいくわよ!いい?オドオドしちゃダメ!自信を持って! 面接官は道端の大根だと思えばいいの!貴方はハリウッドスターよ!」 「な、何か大げさだよ……」 「私はハリウッド女優戦法で10社の内定を獲得したわ!」 「監督!!僕、頑張ります!!」 こんな感じでたくさん面接の練習をしてくれた。 そして面接の当日。 前の日は伯母さんがたくさん“トンカツ”を作ってくれた。 朝起きると伯父さんが一生懸命お仏壇に手を合わせていた。 七美お姉ちゃんが手作りのお守りを持たせてくれた。 玄関を出る時には3人で大げさなくらい応援しながら見送ってくれた。 僕は嬉しかった。今日の面接は負けられない。 絶対、ハリウッドスターになって、最優秀主演男優賞を……あ、あれ?? と、とにかく、内定もらえるように面接頑張るぞ!! そう意気込みつつ、バスに乗って面接先の会社に向かう。 けれどその途中、思わぬ事態が起きた。 面接先の会社に向かう途中に苦しそうにしてるおじさんがいたんだ。 人通りのまばらなところで、誰か通っても皆は遠巻きに見てるだけ。 僕も最初は遠くから見ているだけだったけど、だんだん心配になってきた。 けど、あのおじさんを助けていたら面接に間に合わなくなるかもしれない。 僕は必死に周りを見る。たまに通る人は、おじさんをチラッと見ただけで歩いて行く。 (どうしてだれも助けないの……?) 僕はやきもきする。 時計を見たら余裕はある気がするけど、万が一の事もあるし…… ああ、僕はこんな時どうしたらいいの? |
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【選択肢】
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