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「賛成!お父さんの夢が叶うなら、僕頑張る!」
僕はそう言った。
そうしたら、お父さんはにっこり笑って僕の頭を撫でてくれた。
「ありがとう。絢音」
「お父さん……」
それが気持ち良くて、僕は思わず笑顔になった。
(やっぱり、僕は間違ってなかった!お父さんの夢は応援してあげなきゃ!)
って、強く思った。
「でも、音也……」
「心配しないで絢。いつかきっと、君と絢音を迎えに来るから。
そしたら海の近くの素敵な家で、3人で暮らそう。」
「……絶対、迎えにきてね?約束よ?」
「ああ。約束だよ」
お父さんがお母さんを抱きしめると、お母さんは少し安心したみたい。
最終的にはお父さんの案に賛成してくれた。
それからしばらくして、お父さんは笑顔で出て行った。
駅までお見送りに行った時は、寂しくてお母さんと二人で泣いちゃった。

けど、お父さんの夢を叶えるためだもん。
今は寂しくても頑張ろうって、二人で笑いあった。
しばらくしたら二人でも順調に暮らせて、僕は早くお父さんが迎えに来てくれないかなぁって
楽しみに待っていた。
でも、それからしばらくして……お父さんが死んだっていう電話がかかってきた。

お母さんは呆然としていた。僕も信じられなかった。
今でも待っていればお父さんが迎えに来てくれる様な、そんな気がした。
でも、親戚の皆がお葬式の準備をして、本当にお父さんのお葬式が始まると
お父さんは、本当に死んでしまったんだって……何となく、分かった。
でもお母さんは……
「音也が死んだなんて信じない!絶対に信じないんだから!
そんなに言うなら証拠を見せなさいよ!ねぇ!?」
そんな風にずっと喚いていた。伯父さんがお母さんに色々優しく言っているけど、
お母さんには聞こえないみたい。
最後には喧嘩みたいになって、僕は怖くてどうしていいか分からなかった。
ただ、従姉の七美お姉ちゃんに抱きついて泣いていた。
お母さんはずっと「音也が死んだなんて絶対に信じない!」って繰り返していた。
それはお父さんのお葬式の最中も、お葬式が終わった後も変わらなかった。
ずっとずっと、変わらなかった。


優しかったお母さんは、それからとても変になった。
電話に向かってずっと話す様になった。まるでお父さんと会話してるかのように。
ご飯も掃除も洗濯も、何もしてくれなくなった。
だから、伯母さんとお母さんの方のおばあちゃんが交代で家事をしに来てくれていた。
僕だって少しずつ家事を教えてもらって、皆が来られない日もどうにか生活ができるようにはなった。
学校もあったし大変だったけど大丈夫。僕がお母さんを守ってあげなくっちゃいけないんだもん。
その頃から、伯父さんが僕を引き取りたいっていう話をするようになった。
でも、その話をするたびにおばあちゃんとケンカになっていた。
伯父さんが、「絢音は私達が責任を持って面倒を見ます!こんな生活は絶対に続かない!
絢音の事を考えてください!」
って言ったらおばあちゃんは、「お願いです!あの子から絢音を取り上げないでください!
あの子を一人にしないでください!」
って、いつもこんな感じ。おばあちゃんが泣きだすと伯父さんは何も言えなくなっていた。
でも、この頃は僕も伯父さんと暮らす気は無かった。
だって僕は信じてたから。いつか、僕がいい子にしてたら、きっと昔の優しいお母さんに戻ってくれるって。
僕がお母さんを守って、二人でも、幸せに暮らしていけるって。
だから僕は頑張った。毎日寝坊せずに学校に通って、テストで100点を取って、
体育はダメだったけど……誰もいない日は掃除も洗濯もして、ご飯も作った。
けれど僕がどんなに頑張っても、お母さんは部屋に閉じこもってお父さんに電話をかけ続けた。


小学校3年生の冬休みの前の日。
図工で提出したお母さんの絵返ってきて、先生にすごく褒められた。通知表も体育以外全部◎。
体育は△だったけど、頑張って跳び箱の3段が飛べた事を先生が書いてくれていた。
僕は嬉しくて嬉しくて……お母さんに褒めてもらえると思って、大急ぎで家に帰った。
電話で、伯母さんもおばあちゃんも家に来られないって言ってけど、気にならなかった。
平気だもん。だって僕にはお母さんがいるから。
ただお母さんに褒めてもらいたかっただけなんだ。
だから、お母さんの絵と通知表を持ってお母さんの部屋に飛び込んでいった。
「お母さん見て!お母さんの絵、先生にすごく褒められたよ!
それにね、通知表も◎ばっかりでね、体育はダメだったけど、
跳び箱は頑張って3段飛べたよ!!ここに書いてあるよ!ねぇ、お母さん!」
「うふふっ、音也ってばもう……」
「ねぇ!お母さんってば、ねぇ!見て!お母さんのこと大好きだから頑張って描いたんだよ!
お母さんの為に学校頑張ったんだよ!」
「音也……愛してる……早く迎えに来て……」
「お母さん……!!」
僕はだんだん悲しくなった。お母さんは僕の方を見向きもしない。
頑張ったのに……こんなに、ずっと頑張ったのに……
学校も家の事も全部……お母さんに、僕の事見て欲しかったから!!
積もり積もった物が一気に爆発して、僕はお母さんに後ろから抱きついて叫んだ。
「お母さん!!お父さんは死んじゃったんだよ!いないんだよ!電話なんてしても無駄なんだから!!
どうして僕を見てくれないの!?こんなに頑張ってるのに!!お母さん僕を見て!僕を見てよぉっ!!」
心の中を思いっきりぶつけた。半分泣きながら叫んだ。
すると、お母さんはゆっくり僕の方を見た。僕は急に怖くなって
「ご、ごめんなさい……」
って、お母さんから手を離す。お母さんは何だか不気味な視線のまま、僕に言う。
「誰よ?アンタ……」
「え……?」
僕はびっくりした。お母さんが言っている事が信じられなくて、でも一生懸命説明した。
「な、何言ってるのお母さん!僕だよ!絢音だよ!お母さんの子供の絢音だよ!?」
「子供?私の?そんなわけ無いじゃない……」
お母さんは、不気味な顔のまま口だけ笑みを浮かべる。
そして僕に向かってハッキリとこう言った。
「だって私、子供なんて要らないもの。最初から作らないわ」
「……!!」
ショックだった。ショックなんて言葉じゃ言い切れないけど、それ以外の言葉が見つからない。
言葉が出なくて、体から力が抜けて、呆然とする僕をお母さんがうっとおしそうに部屋から連れ出す。
「出て行って!音也と電話してるの!邪魔しないで!早く!」
お母さんに無理やり手を引かれて、ドアの外に突き飛ばされた。
乱暴にドアが閉まって、僕はその場に座り込んだまま動けなかった。
「要らないって言った……お母さんが、僕の事要らないって言った……」
呟いた言葉に、涙が止まらなくなって、僕はそのまま泣き叫んだ。
「何で!?どうして!!僕、いい子にしたのに!頑張ったのに!どうして!?何がいけなかったの!?
お母さん!ねぇ何で!?お母さん!お母さ―――ん!!」
ドアに向かって叫んだ。返事は無かった。聞こえたのはお母さんの本当に楽しそうな笑い声だ。
僕は泣きながらその場に倒れ込んだ。
どれだけ泣いても誰も来なかった。お母さんも出てこない。
そのうち涙も出なくなったけど、もう何もする気が起きなくてその場に寝転んでいた。
ずっとそうしていた。どれだけ時間が経っただろう?
(お腹すいた……ご飯……作らなきゃ……お母さんは、僕がご飯作らないと食べないのに……)
ぼんやりとそう考えた。でも、やっぱり体は動かない。心は重く沈んだままだ。
(このまま食べないと……死んでしまう。僕もお母さんも……そしたら、お父さんと会えるかな?
天国で昔みたいに……3人で仲良く暮らせるかな?)
お父さんが生きていた頃、よく海に行った頃を思い出した。
あの頃はお母さんも優しくて……皆幸せで……。
思い出したらじんわり涙が出た。本当にこのまま死んじゃって、それでもまた、あの頃に戻れるなら……
(だったら、それでいいや……)
僕は目を閉じた。

そして、気が付いたら僕は病院のベッドで寝ていた。
周りには伯父さんと伯母さんと、七美お姉ちゃんとがいた。
僕が目を開けると、伯母さんが大泣きしながら僕を抱きしめた。七美お姉ちゃんも泣いていた。
「ねぇお母さんは?お母さんはどこにいるの?」
その場にお母さんがいない事に気づいて、僕は辺りをキョロキョロしながら言った。
伯父さんが僕の頭を撫でて悲しそうに言う。
「お母さんはね、まだ体が元気じゃないんだ。だから今は会えないんだよ。
もう少ししたら会えるようになるから」
「もう少しってどのくらい!?僕、今すぐお母さんに会いたい!」
「分からないけど、とにかく今は会わないで。いいね?絢音、いい子だから……」
「やだ!!お母さんに会いたい!」
僕は伯父さんの手を払いのけてベッドから飛び出た。
走って病室を出たら、丁度隣に『鷹森 絢』という名前プレートが見えた。
(お母さんの名前だ!!)
僕は勢いよく病室に飛び込んだ。
「お母さん!!」
「あら……」
ベッドから上体を起こしたお母さんが、僕に笑いかけてくれた。
(お母さんが笑ってる!!お母さん、僕の事思い出したんだ!!昔のお母さんに戻ってくれたんだ!)
僕はそう思って嬉しくて、お母さんに駆け寄る。でも……
「どうしたの坊や?人のお部屋に勝手に入っちゃダメよ?ママは?
早くお部屋に戻らなきゃ、ママが心配するわよ?」
優しい笑顔のお母さんはそう言った。聞き違いだと、思いたかった。
すぐにでも“冗談よ”って言って欲しくて、僕はお母さんに抱きついた。
「お母さん!!」
僕が抱きつくと、お母さんはビックリした顔をした。
「や、やだ、何この子!?やめなさい!誰か!誰か――――!!」
「絢音!!」
その時、入ってきた伯父さんが大慌てで僕とお母さんを引き離す。お母さんは伯父さんを睨みつける。
「この子、お義兄さんの知り合い!?ちゃんと面倒見ててください!」
「ごめんね絢さん……行こう、絢音」
「お母さん……お母さん……!!」
僕はただ泣きながらお母さんを呼ぶ事しかできなかった。

僕は病室に連れ戻されて、伯父さんに縋りついて泣いた。
「お母さんが!お母さんが僕の事忘れちゃった!僕の事、要らないって……うわぁああああん!!」
「絢音……!!」
伯父さんは僕をきつく抱きしめてくれた。泣いている間ずっと。
「絢音、伯父さんと暮らそう。伯父さんと伯母さんと、七美お姉ちゃんと暮らそう。
きっと絢音を幸せにするから……」
伯父さんが僕に優しくそう言ってくれる。

僕は……
【選択肢】

伯父さんと暮らす。

伯父さんと暮らさない。