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【番外編】 妖怪御殿の無いとある一日 side誉・恋心姫・桜太郎
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「和、様……こんな日が来るなんて、信じられません……私、なんかが……」
「そうか?私はきっといつかこんな日が来ると思っていた。更、お前はもっと自分に自信を持たないと。
私が選んだ、たった一人の妃なのだから……」
「和様……!!」
「全く、いくつになっても泣き虫だなぁ更は……」
神の国では神王・和と、遠縁の姫、更が結婚。


一方、人間の世界では。
可愛らしい姫人形を腰にぶら下げた、一人の少年が山道を探検していた。
その後から小さな少女(?)が半泣きで少年を追いかけている。
『誉様ぁっ!ダメですよ!戻りましょうよぉ!穂摘様と宝様に叱られてしまいます!!』
「ほら、桜が綺麗だね恋心姫!」
『話を逸らさないで下さい!』
「平気だって。とと様もかか様も過保護で退屈なんだ。特にとと様、時々表情とか怖くない?
私や、かか様を異様に愛しすぎてるって言うか……」
『それだけ、家族が大好きなんですよ!いい事じゃないですか!宝様が幸せそうで妾も幸せです
「ああそうか、恋心姫はとと様贔屓だったね……」
『そうです!妾は、宝様と穂摘様の大事な誉様を危険な目に遭わせるわけには……』
「じゃあ、ここでお別れだね恋心姫」
少年が姫人形を腰から外そうとすると、“恋心姫”と呼ばれた少女(?)は大慌てで止めた。
『わぁあああん!待って待って!置いてかないで一緒に行きますぅぅ!
妾は一人じゃ帰れないんですよぉ!誉様のいじわるぅぅっ!』
必死に自分を止めようとする恋心姫に、誉少年は笑って言う。
「そんなに不安にならないで大丈夫だよ。恋心姫は興味無いの?
“神様に会える場所”!神様に会えるんだよ!?」
『そりゃあ、ロマンチックかなぁとは思いますが……そんなのただの噂話です!
それ以前に穂摘様も宝様も、危ないから行っちゃダメだって言ってました!』
「夢が無いなぁ恋心姫は……男の子ならもっと、こういうロマンに食いついてよ」
『危ない夢を追いかけるなんて、妾は嫌なんです!
妾の夢は、穂摘様みたいな、優しくて強くて逞しい人とラブラブになる事なんですからぁ
「……女性に対する褒め言葉ではないような……うん、言いたい気持ちは分かるけど」
うっとりとそう言う恋心姫に、誉は何か言いたげだが納得しつつ……
その“神様に会える場所”とやらを探して歩いていたけれどそれは見つからず。
なんやかんや自分を引き返させようと説得していた恋心姫もそのうち何も言わなくなり。
それが気になった誉は恋心姫に声をかける。
「いやに静かだね恋心姫?疲れたの?……恋心姫?」
が。
恋心姫の姿はどこにも無かった。
ハッとして自分の腰を見ると、ぶら下げていたはずの姫人形が無くなっていて、一気に青ざめる。
「えっ!?嘘っ!?何で!?落とした!?恋心姫……恋心姫!!」
誉は必死で地面を探しながら、元来た道を辿りはじめる。
「恋心姫!恋心姫ぇぇっ!どうしよう!どうしよう……!!
恋心姫は自分じゃ動けないのに……!!」
探せば探すほど、見つからなければ見つからないほど、誉は焦ってくる。
そして、懸命に探している間に空は夕暮れを越え、どんどん暗くなってくる。
誉は立ち止まって考えた。
(どうしよう……夜になったら私まで迷ってしまうかも知れない……!
早く帰らないと、とと様やかか様が心配して……
けれど、このまま恋心姫をここへ置いていくわけには……!
こんな暗い山に一人で、今頃泣いているに違いないし……!!)
誉は拳をぎゅっと握って、また声を張り上げて恋心姫を探し始めた。
「恋心姫ぇぇっ!!」

その頃。
山道の外れでぽつりと落ちていた姫人形の傍で、恋心姫は泣いていた。
『わぁあああん!誉様ぁ!誉様どこにいるんですかぁっ!
暗いの怖いです!お家に帰りたいですぅぅっ!誉様ぁぁっ!宝様ぁ!穂摘様ぁっ!』
「どうかしましたか?」
『ひゅいっ!!?』
急に声をかけられて、恋心姫は驚いて声の方を見る。
白い桜模様の着物を着た、桜の髪飾りをした長い髪の女性(?)が心配そうに声をかけてくれたのだ。
恋心姫は、泣きながらも恐々と返事をする。
『ほ、誉様と……はぐれてしまって……妾、お人形だから、一人じゃ動けなくて……!!
うぇぇっ、誉様と一緒にお家に帰りたいです……!!』
「なるほど……この人形が、本体なわけですか……」
女性(?)は、落ちていた姫人形を拾い上げて優しく砂をはたく。
そして恋心姫に笑顔で言った。
「泣かないで。一緒に“誉様”を探しましょう?私が、貴女の足になります」
『ほっ、本当ですか!?ありがとうございます!お、お姉さんは……神様ですか??』
「まさか。しがない桜の妖怪ですよ。それに、お姉さんじゃなくてお兄さん、です」
『えっ!?』
「桜衛門!桜之助!聞こえますか!?人探しです!応援を!!」
女性(?)改めお兄さんがそう叫ぶと、すぐに桜の花びらと共に桜の髪飾りをした二人の男性が現われる。
「はいはーい!見つけたら俺と付き合ってくれる!?」
「見つけるのは俺だ!よって、さくちゃんと付き合うのも俺だ!!」
明るそうな青年と真面目そうな眼鏡の青年が言う事を、お兄さんは呆れながら否定した。
「どっちとも付き合いませんよ!全く、貴方達はいつもそればっかり!
……はぁ、ごめんなさい。お嬢さん、私達にその“誉様”の特徴を教えてくださいます?」
『わ、わかりました……!!』
こうして、桜の妖怪達の加勢を得た恋心姫は……
「恋心姫ぇぇっ!!」
『誉様ぁぁっ!!』
無事、誉と再会できる。
『誉様!誉様誉様誉様ぁぁあ!!わぁぁん!怖かったですぅぅっ!
一生お家に帰れないかと思いましたぁぁッ!!』
「ごめん、ごめん恋心姫!!もう、恋心姫を落としたりしないから!!」
恋心姫は安心泣きしていて、誉も心底ほっとした声で涙ぐんでいた。
そんな二人を見て、桜の妖怪トリオもニコニコしている。
3人のうち、お兄さんがバッと誉の家の方に手をかざして言う。
「さぁ、もう暗いですし、お父様やお母様が心配していますよ?
できるだけのお手伝いはしますから、道中気を付けてお帰りなさい」
お兄さんの言葉に反応するように、帰り道の桜並木がキラキラと幻想的に光る。
誉と恋心姫は、その光景があまりに美しくて目を輝かせた。
そして今度こそ、姫人形をしっかりと手に持って、誉が言った。
「あ、ありがとう!!お姉さん達は神様なの!?」
「我々は神様ではなく、桜の妖怪です。いいから早くお帰りなさい。
もう一人でこんな所に来てはいけませんよ?」
お兄さんにそう言われて、誉は素直に帰り道を歩きはじめる。
「はぁい!ありがとう桜の妖怪さん達!!」
『皆さんありがとうございました!!』
誉と恋心姫に、桜の妖怪トリオはニコニコ手を振って……
二人が見えなくなると、お兄さん以外の二人がまた騒ぎ始める。
「ねぇさくちゃん!誉少年を見つけたのは俺なわけだけど!どう!?惚れた!?」
「感謝してるけど惚れません!いちいちそっち方向に話を持っていくのやめてください桜之助!」
「よっしゃぁぁ!しゃぁぁ!」
「桜衛門は“よっしゃ!”じゃないですよ全く!!」
お兄さんが突っ込み気味に叫んでため息をつくと、他二人はふっと笑って、真剣な声で言う。
「……でも、いつかは俺達に惚れさせてみせるぞ、さくちゃん?」
「そうそう。まだまだ一緒にいる時間は長いんだから♪」
「なっ、何なんですかそれ……」
二人の本気溢れる笑顔と告白に頬を赤らめるお兄さんなのであった。


さて、一方で美しい桜の道案内で家に帰れた誉と恋心姫は……
「誉ぇぇっ!こんな時間までどこ行ってたんだよ!心配したんだからぁぁッ!!」
「ごっ、ごめんなさいとと様……!!」
誉の父、宝から熱い抱擁を食らっていた。そして、宝は誉を真剣(ガチ)に見つめて言う。
「とと様の大事な可愛い可愛い誉にもしもの事があったら……とと様は正気ではいられないよ。な?分かるだろう?
誉の体には傷一つついちゃいけないんだ。だって誉はとと様とかか様の大事な大事な愛の結晶で、誉が」
「『(め……目が怖い!!)』」
瞬き一つしない吸い込まれそうなほど真剣な目の宝がつらつらと愛を語って、誉と恋心姫が怯えていると……
「宝……邪魔よ!!」
ベシッ!!
「ひっ!?痛!酷いよ穂摘!!」
宝の頭を軽く叩いた穂摘が、夫を押しのけて誉を叱った。
「こら誉!こんな暗くなるまで遊んで!心配するでしょう!夕方には帰って来る約束、忘れたの!?」
「ご、ごめんなさい!!つい夢中になっちゃって……!!」
「しかも貴方……今日どこで遊んでたの?家の周りは探したけれど、いなかったじゃないの!」
「え゛っ……!!?」
『ほ、ほら言ったでしょう!?バレバレですよぉ!叱られちゃいます!』
「こ、恋心姫静かに……!!」
傍でオロオロしている恋心姫に、誉が小声でそう言ったのは穂摘に聞こえたらしく。
穂摘が姫人形へと凄んでいた。
「恋心姫が何か知ってるの?恋心姫ぇぇ〜〜?
今日は誉と一緒にどこで遊んでたの〜〜?正直に言わないと貴方もお仕置きよ〜〜?」
『ひゅぁああっ!!?ち、違うんです穂摘様!!えっと、えっとぉぉっ……!!』
「は、ハッタリだ恋心姫!怯まないで!とと様やかか様には君の姿は見えないし声も聞こえない!!」
「……誉!やっぱり言えないようなところで遊んでたのね!?
どうせあの場所へ行ったんでしょう!?言いつけを守らない悪い子はお仕置きです!」
「わぁああっ!ごめんなさぁぁい!!」
誉が急いで謝った叫びも虚しく、正座した母親の膝の上のお尻を叩かれることになってしまう。
ズボンも下着も脱がされ、丸出しのお尻を平手で打たれる。


パンッ!!
「いっ、痛い!かか様ごめんなさい!もうしないよぉっ!!」
「ダメです!誉が泣いて反省するまでお仕置きしますからね!
謝ったからって許さないわよ!」
「そんなのやだぁぁっ!!」
「暴れるんじゃありません!素直に反省しない子は、もっときつくお尻を叩くわよ!?」
パンッ!パンッ!パンッ!!
痛みで体を揺すってもがいたら、それを咎められるようにきつくお尻を叩かれる。
なので誉は、許してもらうために必死で謝る事しかできなかった。
「やっ、あっ!ごめんなさい!反省してる!
もう、もう神様に会おうなんて思わないからぁ!暗くなる前に帰って来るよ!!」
「今まで何度もお尻を叩いて言ったでしょう!?
あの場所は危ないから行っちゃダメって!なのに言いつけを守れないなら、
いつもより厳しいお仕置きにするしかないわね!?」
「うわぁああん!嫌だぁぁっ!かか様ごめんなさいもうしないからぁぁっ!」
「それとも、とと様にお仕置きしてもらおうかしら!?」
「やだぁぁっ!ごめんなさい!ごめんなさいもうしません!!」
パンッ!パンッ!パンッ!!
何度謝っても、何度“反省した”と言っても、“もうしない”と誓っても、
許してもらえずお尻を厳しく叩かれ続け、誉もだんだん本当に泣きそうになってくる。
「うわぁあああん!!ごめんなさぁぁい!危ない所なんて行ってないぃい!!
山道を歩いただけだもぉおん!!そしたら恋心姫を落としちゃってぇぇっ!!
探してたら夜になっちゃって……ごめんなさぁぁい!!」
その時、傍で見ていた宝がぽつりと呟いた。
「恋心姫が……ね」
そして、穂摘に向けて言う。
「穂摘、もう遠回しな言い方じゃ誉の興味を止められないよ。
本当の事を教えてあげよう。ね?誉?後で本当の事を教えてあげる。
だから、かか様が許してくれるまでは、たっぷり反省するといいよ」
「うわぁああん!とと様許してぇぇッ!!」
穂摘に許してもらえない誉は、宝に助けを求めるけれど、
宝もニッコリ笑って首を横に振った。
「ダメダメ。僕達は誉を守るために、危ない事はダメだよって言ってるんだよ?
それなのに誉が言う事聞かないんだもの。僕は愛しい誉が危ない目に遭ったり怪我をするのは
耐えられないんだ……だから穂摘、手は、抜かないでね?」
「…………」
笑顔なのに妙な迫力のある宝にそう言われ、
穂摘は一瞬押し黙るけれど、またすぐ誉を叱りながらお尻を叩き始める。
「ほら!とと様も怒ってるわよ!反省なさい!本当にやんちゃなんだから!」
パンッ!パンッ!パンッ!
叩かれ続けたお尻が真っ赤になってしまった誉は、泣きながら謝り続ける。
「ひゃぁんっ!うわぁあああん!ごめんなさぁぁい!!」
それでも何度も何度もお尻を叩かれて、長く泣かされた後……
やっと穂摘がこう言った。
「もうダメだっていう事はしないわね!?暗くなる前にちゃんと帰って来るのよ!?」
「うわぁああん!分かったぁ!分かりました!とと様とかか様のいう事を聞いていい子になりますぅぅっ!!
もう危ない事はしませんんっ!!わぁああん!」
「今度やったら本当の本当に承知しないから!!」
バシィッ!!
「うわぁあああん!!ごめんなさぁい!」

それで穂摘に許された誉は膝から下ろされる。
すると、宝が近づいてきて言った。
「さぁ誉、本当の事を教えてあげよう。約束だからね」
「ひぅっ……!!」
何故か、笑顔の父親が一瞬恐ろしく見えて、誉は息を飲む。
宝は目が嫌に真剣な笑顔のまま言葉を続ける。
「“神様に会える場所”って言うのはね、もちろん山道だから危険だっていうのはあるよ?
人があまり入らない所だから、何か事故があっても分からないっていうのもあるし。
でも一番危ないのは……本当に神様に会ってしまう事なんだ」
「えっ……??」
「……誉は、神様ってどういうものだと思う?
きっと、とびきり美しくて、この世のものとは思えないオーラがあって、
とても素敵なんだろうって思うでしょ?そう、思わされたら……神様に心を奪われる。」
「…………」
「気に入られたら、連れ去られてしまうよ?
どこか遠い遠い所へ連れて行かれて、もう二度と帰って来られない。
誉だってそんなの嫌でしょう?とと様にもかか様にも、もちろん恋心姫にも……死ぬまで会えないんだよ?
いや、もう死ぬことすらできなくなってしまうかもしれない。だったら、永遠に……」
そこまで宝が言うと、誉が泣きながら宝に抱き付いた。
「うわぁあああん!そんなのやだぁぁぁっ!!ごめんなさい!ごめんなさい!!
怖いよぉぉっ!もう絶対あの場所には行かないぃぃっ!!」
『妾も怖いですぅぅっ!!うわぁあああん!!』
恋心姫も同じように宝や誉に抱き付く。
宝は満足げに息子を撫でながら、ニヤリと笑う。
「うんうん、分かってくれていい子だねぇ誉……
きっと恋心姫は、誉を止めるためにいなくなってくれたんだよ……ふふ……
そして、妻に視線を向けて、鼻息荒くますます歪みニヤけた笑顔を作った。
「穂摘さぁ……今思うよ……僕って、幸せだなぁぁぁって……
「宝……顔が気持ち悪い!!」
バシッ!!
「ぎゃっ!?ひっ、酷いよ穂摘!!」
「……でも、私も幸せよ……」
宝の頭を思いっきり叩いた穂摘は、切なげに笑った。



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