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妖怪御殿のとある一日 引っ越し後6
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和菓子って美味しいよね!
こんな僕もすっかり和菓子派!妖怪研究家兼、妖怪の麿拙者麿だよ!
僕らが“ラブラブパフェ”を食べに行ったお茶さん、
持ち帰り可の和菓子も売ってるから、時々おやつを買いに行くようになったんだ!
恋心姫君がいつも買って来てくれる「苺大福・黒ゴマ大福・栗饅頭・桜饅頭・紫芋饅頭・クリーム饅頭」
の組み合わせって僕らをイメージした組み合わせなんだって。
それを“妖怪御殿セット”って命名してるらしくて、
あのお茶屋さんでそう言ったら普通に通じるらしいから、今度僕も注文してみようかな!
(店の正式メニューじゃないらしいけど……店員さん優しいよね!)

それはそうと、最近恋心姫君がぼんやりしてる事があるけど、どうしたんだろう?

******************

そんなある夜の妖怪御殿。
恋心姫と煤鬼の部屋では、行灯の薄明りが照らす布団の上でいつものように、
寝間着姿の恋心姫と煤鬼が寄り添って睦み合う。
ごそごそと肌の上を這い回る煤鬼の手に、恋心姫が身悶えている。
「んっ……あっ、煤鬼……」
「……どうした?この頃は感度が悪いか恋心姫?」
「そんな、事……」
「俺と愛し合ってる最中なのに、余所事を考えてるだろう?ククッ、お仕置きが必要だなぁ
「ひゅっ……
「と、遠慮なく抱きたいところだが……」
煤鬼は愛撫を止めて、そっと恋心姫を抱き寄せて頭を撫でる。
「悩みがあるなら話せ。俺では力になれない事か?」
「煤鬼……」
恋心姫は嬉しそうな、切なげな表情になって、口を開いた。
「……妾、お茶屋さんで見たんです」
「何を見た?」
「穂摘(ほづみ)様の、浮気相手の男……」
「!?確かなのか……?」
驚く煤鬼に、恋心姫は複雑な表情で頷く。
「宝(たから)様も妾も、遠くから一度しか見た事無いけれど。あの姿、確かに。
でも、ここは神の国でしょう?穂摘様の浮気相手が神だったというのは……何だか信じられないし……
ただ姿が似てるだけかもしれません」
「どうするつもりだ?」
心配そうに恋心姫の顔を覗き込む煤鬼。
恋心姫は思案するように下方をじっと見つめて、迷いながら言葉を紡いだ。
「……あの男が、穂摘様の浮気相手かどうか確かめたいです。それで、
もし、もし……あの男が今も穂摘様を愛しているのなら、妾、宝様の代わりにきちんと謝りたいです。
穂摘様は結局、宝様を拒み続けて最期まで、あの男を愛していました。
二人が本当に愛し合っていたのなら、宝様と妾の負けです。
赤ちゃん、生きているのかも、確認したいです……」
そこまで言って、恋心姫は勢いよく顔を上げた。
煤鬼の顔を見ながら泣きそうになって叫ぶ。
「で、でも!!宝様、何度も言ってました!“穂摘は騙されてる”って!
“何か弱みを握られてる”って!!宝様と穂摘様は本当に愛し合ってて……
宝様は、宝様は本当にお優しい方だったのに!!あんなじゃなかった!あんな……!!
許されない事をしました!宝様が悪いのは分かってるんです!でも、宝様可哀想なんです!!」
「恋心姫……」
「穂摘様の赤ちゃん……死んじゃってたらどうしよう……!!
妾、本気でお祈りしたけれど、きちんと助けてあげられたでしょうか!?」
涙を流す恋心姫を煤鬼は強く抱きしめた。
頭を撫でて、優しく語りかける。
「……大丈夫。きっと生きてる。……もし、死んでいても恋心姫の所為じゃない」
「でも、でもっ、妾は宝様の身代わり人形で……!!」
「恋心姫は恋心姫だ。持ち主とは関係ないだろう?お願いだから苦しまないでくれ」
煤鬼の悲しそうな声に、恋心姫は少し気を落ち着けて体をくっつける。
「煤鬼……ごめんなさい……そもそも、あの男が本物かどうかも分かりませんものね……」
「そうだな。とにかく、そこを確かめるのが先だ」
「あのお茶屋さんに通えばまた会えるでしょうか?」
「あぁ。会えるまで通ってみよう」
そう二人で結論を出して。恋心姫は遠慮がちに言った。
「……続き、します?」
「はは、気を使うな。今日はもう寝ろ」
「ありがとう煤鬼。大好き
「俺もだ
恋心姫と煤鬼は軽いキスを交わして、眠る事にした。
すんなり眠った恋心姫の寝顔を見守りながら、煤鬼は考える。
(良かった。今日はうなされてないな。
しかし、相手の男は恋心姫や宝の事は知っているんだろうか?
事情を知れば、恋心姫を恨むかもしれない……危害を加えられないようにしないと……。
恋心姫が恨まずに済むような、恨まれずに済むような、善良な男であればいいが……)
煤鬼は恋心姫を抱きしめて眠った。


それからしばらく、恋心姫と煤鬼は件の茶屋に通った。
探している男がいない時はガッカリしながらも、甘味を楽しんだり、
“妖怪御殿セット”を買って帰ったりした。
そんな日が続いて、
――そして、ついにある日。
「「!!」」
二人はついに探していた男を見つける。
一緒にお団子を食べていたらやってきたのだ。
煤鬼が恋心姫に囁く。
「恋心姫……」
「話してみます……!」
「一緒に行こう。気を付けろ……?」
恋心姫と煤鬼が男に近づく。
不思議そうな顔をする男……和に恋心姫が言った。
「あ、あの!貴方、穂摘様の浮気相手ですか!?」
「!?な、なぜ穂摘の名を……!!(この子は確か、誉と一緒にいる……)」
「穂摘様の事、知ってるんですね!?やっぱり貴方が……!」
恋心姫は一瞬、和を睨みつけたけれど、ハッとして悔しげに視線を落とす。
「……いいえ、貴方が本当に本気で穂摘様が愛していたのなら、
今も変わらず愛しているのなら、妾、謝りたいんです!だから、見せてください!!」
「えっ!?」
恋心姫に再び睨みつけられた和が驚いた、次の瞬間だった。
ショックを受けたように呆然とした恋心姫が小さく呟く。
「……このクズ……!」
そのまま和の着物に掴みかかった。
「何で!?どうして!?どうして貴方は穂摘様以外の女を愛してるんですか!?」
「なっ……!?」
「穂摘様は殺されたって貴方を愛してたんですよ!?」
「ま、待ってくれ!!」
「何のために宝様は!!何の為に穂摘様は……!!
お前が死ねばよかったのにぃぃぃっ!!」
「き、君は……!!」
混乱する和から、煤鬼が恋心姫を引き剥がして抱き上げた。
「悪いな。普段はこんなじゃないんだが」
「うわぁあああああん!!」
「世界一優しい俺の恋人に、“死ね”なんて言わせるとは罪な男よ」
哀れむように和を見ながら、煤鬼が泣きじゃくる恋心姫の背中をあやす様に叩いている。
和の方はとにかく困惑しながら会話を試みるが、
「君達は一体何者なんだ!?とにかく、もっと話を……」
「できると思うか?」
「うわぁあああん!わぁああああん!!」
泣き喚く恋心姫を見て口を噤んでしまう。
唯一まともに話ができそうな煤鬼が言った。
「俺は恋心姫と違って恋だの愛だのが読めん。
恋心姫側の話は聞いたが、お前の事情は全く知らん。
お前がクズ男かどうかは判断しかねる」
「コイツクズです!穂摘様を裏切ったクズですぅうううっ!!」
「落ち着け恋心姫」
「わぁあああん!!」
煤鬼の方は一方的に和を責める風ではなく、
どちらかと言うと、恋心姫を宥める方に徹している。
和も、どうにか対話したくてもう一度声をかけてみる。
「わ、私は、穂摘を、愛して……」
「黙れクズぅぅうううっ!!」
が、恋心姫は聞く耳持たず泣き叫ぶばかりで、また煤鬼が言った。
「この通り、今は何を言っても無駄だ。日を改めよう。
俺達は帰る。最後に一つ答えろ。穂摘の赤ん坊は生きてるか?」
「え!?」
「……呪いで死んだか?」
悲しそうな目をした煤鬼に和は慌てて首を振った。
「い、生きてる……が……」
その言葉にビクンと反応した恋心姫の頭を、煤鬼が撫でた。
「良かったな恋心姫。今日は帰ろう」
「うぇっ、ひっく、うわぁあああん!!」
「泣くな泣くな。よしよし、俺まで悲しくなる」
聞くだけ聞いた煤鬼は和に背を向けて、さっさと帰ってしまった二人。
和は呆然と取り残された。


そうして、恋心姫と煤鬼は妖怪御殿へと帰ってきた。
大泣きの恋心姫を心配して寄ってくる麿や桜太郎に煤鬼が上手く言いつつ、自室に戻る。
そして、恋心姫を抱いたまま座って、相変わらず泣いている恋心姫に声をかけた。
「恋心姫、大丈夫……じゃないな……何が見えた?
あの男はもう穂摘は愛していなかったのか?」
「うっ……うぅ!!穂摘様の、事は愛してたんです……けど、女が……!
別の女が……!!別の女がぁぁあああっ!!」
「……穂摘が死んだ後に別の女を愛したのか……」
「二股してたに決まってます!穂摘様は遊びだったに違いありません!
穂摘様可哀想です!宝様可哀想です!!」
「恋心姫は愛した時期まで分かるのか?」
「うううう〜〜〜っ!!」
泣きながら首を横に振る恋心姫。煤鬼が辛そうに言う。
「なら、決めつけるのは早計じゃないか?」
「煤鬼はあの男の味方をするんですか!?」
「恐ろしいな恋心姫。邪悪な鬼のような顔をしているぞ?美しい顔が台無しだ」
煤鬼が悲しげに微笑んで、恋心姫の顔を両手で包む。
それでも、恋心姫は顔を憎悪に歪ませてブツブツと暗い声を出した。
「……死ねばいい……あの男も、あの女も死ねばいいんです……
穂摘様と宝様が死んでしまったのに、あの男とあの女が生きてるのはおかしいですよね?
死ねばいい……死ねばいい死ねばいい死ねばいい!絶対殺してやる!!」
「おいこら、恋心姫……しっかりしろ」
煤鬼が冷静に呼びかけても、恋心姫は聞こえていないように笑い出す。
「ふふ、うふふふ……待っててくださいね宝様、穂摘様ぁ!妾が仇を打ちますよぉ!
きっとアイツら殺してみせます!」
「そうやって恋心姫も罪の無い者を殺そうとするのか?
父親を殺してしまったら、赤ん坊が一人になってしまうぞ?」
「!!」
煤鬼の説得に反応した恋心姫は、また泣きそうな顔をして必死で言う。
「でもっ、でも!!宝様と穂摘様は死んでしまったのに……!!
悪者が生き残っているなんて……!!」
「……穂摘は宝が殺した。宝は呪いを完成させるために自分で死んだ。
恋心姫には悪いが、俺には“悪者”は宝としか思えんな」
「ぅ……!!……煤鬼……さっきからうるさいですよ……?」
見た事も無いような恨みの籠った目で恋心姫に睨みつけられたが、煤鬼は怯むことなく言い返す。
「恋心姫こそさっきから口が悪いな。しかもそんな生意気な目をして。
“死ね”だの“殺す”だの物騒な事ばかり言う子は、少し頭を冷やした方がいいんじゃないか?」
「や、やめて!!」
身の危険を感じた恋心姫はとっさに逃げようとしたけれど、元々距離が近すぎた。
動く前に体を捕まえられて、煤鬼の膝にうつ伏せにされて、スカートや下着を脱がされてしまう。
そのままお尻を叩かれてしまう。
ビシッ!バシッ!ビシッ!!
「あぁああん!痛い!やですぅ!!やめてぇ!」
「恋心姫、誰も殺すな」
ビシィッ!バシィッ!バシッ!!
「ふやぁああんっ!!」
煤鬼の声は優しかったけれど、痛みは容赦なかったので、恋心姫は半泣きでもがく。
「優しい恋心姫が、仇とはいえ、他の命を奪った事に耐えられるわけがない。
死ぬまで後悔が付きまとうぞ?これ以上苦しみの種を増やしてどうする?」
「だってぇ!あの男さえいなければ!!あの男さえいなければぁぁっ!!」
「……過ぎた事を言ってもどうしようもないじゃないか。
あの男を、他の女を殺したところで、宝も穂摘も戻ってこないぞ」
「うっ……分かってます!そんな事分かってますよぉぉっ!!でも!宝様の無念をぉお!!」
バシィッ!ビシッ!ビシィッ!!
「やぁあああっ!うわぁああん!わぁああん!!」
泣き出した恋心姫を叩き続ける煤鬼は、本当に辛そうに恋心姫に言い聞かせた。
「もう一度、詳しく話を聞きに行こう。
きっと恋心姫の納得いく事実をあの男は握ってる。
俺は早く恋心姫に、楽になって欲しい」
「わぁあああん!!妾っ、妾、宝様も穂摘様も大好きだったのにぃぃっ!!」
「……そうだな。可哀想にな……」
泣いている恋心姫と赤くなってしまったお尻を見て、煤鬼も涙声になって鼻をすする。
ビシッ!バシィッ!ビシィッ!!
「やぁぁっ!痛い!煤鬼っ、泣かないで!痛いぃっ!!」
泣きながらも心配してくれる恋心姫を愛おしく思いながら、煤鬼は声を落ち着けて言う。
「頭は冷えたか?なぁ、恋心姫。恋心姫は恋心姫だ。宝とは違う。
あの男は恋心姫の仇じゃない。
宝と穂摘が死んだ事に責任を感じる必要もないし、
恋心姫には恋心姫の今があって、俺や皆が傍にいるじゃないか。
恋心姫が誰かを殺めたら俺も皆も悲しむぞ?
……正直、こんな事でもう叩きたくないんだ」
そう言ってしまうと、強く叩くことができなくなってしまって、煤鬼は少し手を緩める。
それでも赤くなったお尻の上から叩かれれば痛いのか、恋心姫は泣いていた。
「うっ、うぅっうわぁああん……!!」
パンッ!パンッ!!パシッ!
「どうしても、どうしても、我慢ならないなら俺が二人を殺してやる。
だから、恋心姫は誰も殺すな。な?」
「わぁああん!!煤鬼が殺しちゃダメですぅう!!」
「だったら二人で我慢しよう。
……あの男が、本当に恋心姫を苦しめるだけのクズなら、帝が嗅ぎ付けてサクッと殺すだろうよ」
「あぁあん!帝も、殺しちゃダメですよぉ!!」
「……恋心姫はやっぱり誰も殺せん。
俺も、家族の誰にも殺しなんてしてほしくない。
大丈夫。きっとあの男と理解し合って許しあえる。
宝も穂摘も、その方が喜ぶだろう。二人とも恋心姫みたいに優しいんだろう?」
「宝様……!!穂摘様……!!ひぅっ!!」
パンッ!パンッ!パンッ!
縋る様に名を呼んで、恋心姫が泣きながら叫ぶ。
「うっ、うわぁあああん!!妾、我慢します!もう一度、あの男と話してみますぅ!!」
「そうか。良く言った。やっぱり恋心姫は優しいな」
言いながら、煤鬼が恋心姫を抱き起す。
恋心姫はしばらく泣いたら落ち着いて、
「……煤鬼、ありがとう……」
愛おしそうに煤鬼に抱き付いて、抱きしめ返されていた。


その頃、窓の外をぼんやり眺めていた帝がふと足元を見る。
「……えっ……?」
帝のつま先には青い痣が浮かんでいた。



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【作品番号】youkaisin6

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