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妖怪御殿のとある一日 引っ越し後20
※シリーズ越え注意
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お土産って悩むよね!妖怪研究家兼妖怪の麿拙者麿だよ!
今日は帝さんが実家に帰ってるんだけど、お土産で桜太郎君がセレクトしたお酒を持って行ったんだ!
“お酒”っていうのは帝さんチョイスだったんだけど、飲めない桜太郎君がすごく悩んで選んでたし、
帝さんの……だぶん、お父さんにだよね?喜んでもらえてるといいなぁ!
それにしても帝さん、気軽に実家に帰れるようになって本当に良かったよね!

******************

ここはいつもの妖怪御殿……ではなく、神王和の城(帝の実家)。
やってきた帝は昼間から……

「全く……神の王たるものが酒も飲めぬとは情けない……」
勝ち誇った笑みを浮かべ――
「ま、桜太郎が“余の為に”選んだ酒だ!
貴さ……お父様には一滴たりとも飲ませてやるのが惜しい!好都合だな!」
ご機嫌に、見せつけるようにガンガンとグイグイと――
「こぉ〜〜んなにうまい酒が飲めないとは……下戸とは哀れなものよ、同情するぞ和王??
それとも子供舌か?んん〜〜?」
お土産の酒を超飲んでいた。
すでに顔を赤らめている帝=誉に向かって、和は呆れ顔で言う。
「誉……飲んでばかりだと回りが早いぞ?少しは食べながらゆっくり飲みなさい」
「うるさい。下戸の指図は受けぬわ」
「お前だって上戸というわけではないだろう?もう顔が真っ赤だし」
「負け惜しみは、一口でも酒を飲んでから言えばどうだ?んっ、このつまみはイマイチだな……」
「全く、ご機嫌だな……私が飲めないのがそんなに嬉しいか?」
酒を飲み進めながら、気に入ったらしいおつまみを食べまくる誉に、和が苦笑する。
息子のせっかくの手土産、和も少しだけ付き合おうかと思ったけれど、
以前の飲酒トラブルの件もあって、やはり自重した。
無いとは思うけれど、うっかり息子を口説いてしまったら親子関係にまた亀裂が入る事は確定だ。と。
そして和が「せっかくだけれど飲めない」と、やんわり断って謝った瞬間、
「何だ飲めぬのか!?全く!?全然!?」と、鬼の首を取ったように瞳を輝かせた誉が
自慢げに一人飲み始めて今に至る。
自分の持ってきた酒が空になっても、誉はこのアンバランスな飲み会を終わる気は無いらしい。
「むむ、酒が切れたぞ?和王!お父様!追加の酒を持て!」
「もうその辺にしておきなさい誉。お前酔ってるだろう?」
「何だとぉ?この城は客に酒も出さぬのか!誰でもいいから酒を持て〜〜ぃ!!」
すでに酔っぱらいモードの誉の言葉に、給仕の従者達がオロオロと和を見るので、
和も困ったように笑って“なるべく弱い酒を”と、追加を通した。
「ふふ♪余の格の違いをとくと見せてやる!」
機嫌良さそうにニコニコと笑う誉を和は可愛らしく思う。
それに酒が入ったせいか終始笑顔で饒舌で、
色々な事を、特に家族との近況を、楽しそうに話してくれた。
和にとっても楽しい飲まずの飲み会は続き、日が暮れる頃には……
「誉!こら!もうダメだ!酒は終わり!」
「うるひゃい触るなぁぁぁっ!う〜〜っ!」
「一人じゃ立てもしないだろうが!私が運んでやるから……」
「ひゃ、わ、る、なぁあああああっ!!」
すっかり真っ赤な顔で、酔ってふにゃふにゃになっていた誉。
そのくせ、和には絶対に身を委ねようとしないので……
「済まないな、雪里……こんな事を頼んで……」
「いいえ。お役にたてるなら光栄です。さ、参りましょう誉様……」
「うぅ……」
雪里がとりあえず、今日の誉の寝床である、和の寝室まで運ぶ事になった。
幸い、雪里には触られても反発しなかったので、そのまま姫抱きで運ぶことになる。

「せめて、甘え上戸なら良かったのだが……」と、少々残念そうだった和を
不憫に思いつつ、誉を抱えて廊下を歩く雪里。
小さく呻いていた誉がふと、雪里を見て呟く。
「うぅ、ぬぬ……?」
「!」
そう言われ、不安げな瞳で見つめられた雪里は一瞬驚いた。
(私をぬぬさんと間違えて……?ど、どうしよう……?
少しの間話を合わせて差し上げた方が、大人しいかも……?)
と、平和を願う選択をした雪里。
知っているぬぬの雰囲気を思い出しつつ、返事をしてみる。
「ど、どうしたの誉……?」
「……あぁ、酔ったぁ……」
「あんなに飲むから……」
「うるさい……」
誉は拗ねたように、大人しく反応している。
雪里もホッとして、“俺なかなか上手い!?”と少々自信をつけて会話を続ける。
「……お前、余をどこへ連れて行く気だ……?」
「寝室。誉はもう寝た方がいい」
「…………」
押し黙る誉。“この調子で行けば平和に終わりそうだ”とホッとする雪里。
その読み通り、雪里は無事に誉を和の寝室に送り届ける事ができる。
しかし、彼をベッドに横たえた瞬間――事件は起こった。
「……おま、え……まさかこのまま、
余に……その、いかがわしい事を……しようだ、とか、思っておらぬだろう……な?」
「――え?」
思わぬ甘い声に、その言葉に、驚いて誉を凝視する雪里。
目を逸らしてはいるものの、切なげに潤んだ瞳に真っ赤な頬、
きゅっと雪里の服を握る動作に、雪里の焦りは加速する。
しかし誉の言葉は止まらない。
「今日は、その……飲み過ぎて、満足に動けぬ……だから……
お前に、その気になられたら……お前が、余に……、て、も……悔しい、が……」
雪里に冷や汗が伝う。
誉は雪里を恥ずかしそうにチラリと見て……
「抵抗、できぬやもしれんな……」
「!!?」
その震える声の、恥ずかしそうな表情の……なんと妖艶な事か。
思わず当事者でも無いのに真っ赤になってしまった雪里は、内心で思いっきり叫んだ。

(完全に誘っていらっしゃる!!!)

そして、いきなりのピンチに大いに焦っていた。
(どどどどどうする!?こっ、こんな……!!
俺が軽く返事をしていい言葉なわけが無い!!
しかし!ここで俺だとバラしたら誉様は間違いなくパニックを起こす!!
あぁ何でこんな事に!!?)
雪里が大混乱で考えている間に、
「……っ……」
誉が泣きそうに声を詰まらせる。服を握る手が震える。
そこで雪里はハッとした。
(そ、そうだ!!今のは誉様が精一杯、勇気を出してぬぬさんに身を委ねたんだ!!
ぬぬさん、誉様との関係が上手く進展しないって悩んでた!
この言葉は、ぬぬさんにこそ正しく、届けられるべきなんだ!!
二人の幸せに比べたら、俺の保身など投げ捨てていいほどのもの!!)
雪里は意を決して、誉の顔を覗き込んで、力強く告げる。
「誉様!!私です!雪里です!!」
「……ぇ……?」
「私は!雪里です!従者の雪里!ぬぬさんではなく!雪里です!!」
「……ぁ……」
誉の弱弱しい声は、次の瞬間――
「あああああああああああああ――――ッッ!!!」
雪里も驚く大絶叫に変わる。

その後。
大パニックの誉は狂ったように叫び続けて、雪里を殴って暴れ続け、
現場に駆けつけた和にバッチリ見られてしまい、そのままお仕置き中だった。


「うわぁああああん!離せ!離せぇぇっ!!
狐を追い出さぬか!こんな辱めは初めてだぁぁあああッッ!!あぁああああん!!」
「何が“辱め”だ!雪里に暴力を振るうからお仕置きされてるんだろう!?謝りなさい!」
「うわぁああああん!!うるさい離せぇぇぇっ!!あ奴が悪い〜〜〜っ!!」
ビシッ!バシッ!バシィッ!!
ベッドに座る和の膝の上で丸出しのお尻を打たれ、機嫌悪そうに叫ぶ誉の姿を見て、
雪里がオロオロと言う。
「あぁ、和様どうかやめてあげてください!この件はすべて私が悪い事なんです!!
私がその……手がずれて、誉様のその、変な所を触ってしまって……!!
だから、あの誉様が驚いてしまって、それでお怒りに……!!」
耳をバタバタさせながら、視線を泳がせてしどろもどろの雪里。
反対に誉はパッと表情を明るくする。
「ほ……ほらみろあ奴も言っておろう!」
バシッ!!
「ひゃぁんっ!!だから叩くなぁッ!!」
勢いづく誉のお尻を思いっきり叩いてから、和が困った顔をする。
「雪里……誉を庇う事は……」
「いいえ!!本当に私のミスなんです!!誉様は何というか……
お願いです!!どうか私に免じて!!事情は深く追求しないで下さい!!
すべて私の責任なんです!!」
雪里の必死さに押され、戸惑い気味な和。
しかしふと、何かに気付いたような表情で雪里に尋ねる。
「雪里……もしかして、誉が雪里と私を間違えて、甘えてしまった……なんて事は……
そ、それから我に返って恥ずかしくなって、雪里に当たったという、事だったりは……」
「あ……」
和の期待の眼差しに、雪里が申し訳なさそうな顔をしたところで……
すべてを悟った和が悲しげに悔しげに誉のお尻を叩いた。
「分かっている!そうじゃない!そんな事があるわけがないッ!!」
バシィッ!!
「うわぁあああん!!」
(当たらずとも遠からずなのですが、和様……!!)
とは言えず、和を不憫に思う雪里。
そんな和は、気を取り直して誉のお尻を叩いて叱っていた。
バシッ!バシィッ!ビシィッ!!
「誉!雪里がああまで言うから理由は深くは聞かないけれど!
お前はああやって庇ってくれる雪里に悪かったと思わないのか!?」
「わぁあああん!早うあの狐を部屋から追い出せぇぇぇっ!!」
「まだそんな事を……分かった、お前のお尻が真っ赤になって反省するところを雪里にみてもらおうか!」
バシッ!バシィッ!!
「やぁあああああっ!!痛い!痛いぃ!!うぁあああん!!やぁめぇろぉぉぉっ!」
「やめてほしかったらきちんと謝って反省しなさい!」
「うわぁあああん!!」
和の言うように誉のお尻は真っ赤になっていて、誉自身も泣き出して身を捩っているのだけれど、
なかなかに謝る気配が無く、雪里も心配そう加減が増してくるし、
和もだんだん困った感じになり始める。
「誉……こら!いつになったら謝るんだ!?私がお仕置きして効かないなら、
お母様にお仕置きしてもらうか!?」
「あぁああああっ!ふざけっ……」
「それとも、全部話してぬぬ殿にお仕置きしてもらうか!?」
「「!!?」」
和のその一言で雪里と誉は過剰反応する。
そして……
(……そ、そうだ!そうすれば、誉様の気持ちがぬぬさんに伝わる……!
少し、変則的で荒っぽいけれど……!誉様はこうでもしないと……)
と、思った雪里が力強く言う。
「そうしましょう!!」
「狐貴様ぁあぁああああああっ!!」
「誉!!」
バシィッ!バシッ!!
「わぁああああん!分かった!分かったぁぁッ!!」
和に怒鳴られて、また強くお尻を叩かれて。
誉は観念したのか、真っ赤なお尻を捩って叫んだ。
「ごっ、ごめんなさい!ごめんなさい!反省したぁッ!いい子になったから!
もうしない!狐にも謝る!だから、ぬぬには言うなぁぁぁ〜〜〜っ!!」
泣きながら一息に言い切った誉。
和がため息をついてもう少しだけ叩く。
「雪里の事もきちんと“雪里”と呼びなさい!今度雪里に酷い事をしたら、
雪里にお仕置きしてもらう事も考えるからな!?」
バシッ!ビシィッ!!バシッ!!
「嫌だごめんなさぁぁい!!うわぁあああん!!」

こうして、誉は許してもらえたわけだけれど、雪里にはその場で謝らされる事になる。

「この……このっ……!!」
「………!!」
最初は泣きながら睨みつけられていたのでドキドキオドオドしていた雪里だけれど……
誉はふにゃりと表情を崩して、気弱な泣き顔で懇願する。
「雪、里……わ、悪かった……!!お願っ、だから……っ
ぬぬには、何も言わないでくれ……!!」
「!!」
その瞬間、雪里は驚きと申し訳なさで勢いよく跪き、真剣に言った。
「ももももちろんでございます!!
わ、私が!ぬぬさんへの大切な言葉を聞いてしまって!本当に申し訳ありませんでした!!
誉様、ぜひ、ご自身で伝えるべきです!ぬぬさんにもう一度、同じ気持ちを伝えてください!!
絶対ぬぬさんは、喜ばれます!!すごく喜ばれると思います!!」
「…………」
雪里の真剣さに一瞬、呆気にとられていた誉だが、みるみる顔を真っ赤にして叫ぶ。
「よ……余計なお世話だバカァアアアアアッ!!」
そして、その場から走り去ってしまう。

(ぬぬ殿、絡みだったのか……??)

と、和にも事情がほんの少しばれてしまった、誉と雪里だった。



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【作品番号】youkaisin20

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