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妖怪御殿のとある一日 引っ越し後19 |
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※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 妖怪生活には不思議がいっぱい!妖怪研究家兼妖怪の麿拙者麿だよ! 世界には自分に似た人が3人いるって言うけど……、 今日は庭にぬぬ君のそっくりさんが倒れてて、ビックリ! ぬぬ君が最初に見つけて、僕と桜太郎君とぬぬ君で布団に寝かせてあげたんだ。 ぬぬ君、顔は冷静そうに見えるけど、ビックリしてるかな? 何にせよ、もう一人のぬぬ君、早く何事も無く目を覚ましてくれたらいいけど…… ****************** ここはある日の妖怪御殿。 突如、庭に倒れていた“ぬぬの超そっくりさん”が、布団の上でゆっくりと目を開けた。 囲んで介抱していた麿、桜太郎、ぬぬもホッとした表情だ。 ぬぬの超そっくりさんはぼんやりと周りを見回して呟く。 「……ここ、は……?」 その言葉には、桜太郎が答えた。 「ここは我々の家で、皆で“妖怪御殿”と呼んでいます。 貴方は庭で倒れていましたよ。大丈夫ですか?どこか痛みますか?」 「い、いや……大丈夫、です。どうもご迷惑を……」 そして、ふっと“ぬぬ”と目が合い…… 「「…………」」 “ぬぬ”同士が無言で見つめ合う。 先にそっくりさんの方がほんのり驚いて、首をかしげて小さく言った。 「……俺?」 「俺はぬぬ。初めまして、そっくりさん」 「は、はじめまして。俺の名前もぬぬ……ビックリ……」 「それはビックリ……!すごい偶然……!」 お互い控えめに驚くぬぬ達。傍にいた麿の方が大きく驚きの声を上げる。 「すごいね!名前まで同じだなんて!」 「あ。麿……久しぶり。新作売れた?」 「へっ!?あ、新作は結局完成しなくて……って、僕ら会った事あります!?」 そして、麿も驚きの渦に巻き込まれて。 桜太郎が考えながら言う。 「う〜ん、もしかして……、麿さんのそっくりさんもいて、その方とぬぬさんが知り合いなんでしょうか? ぬぬさんは、一体どこから来たんですか?」 「俺は、同居してる鬼を探してて……気づいたらここに……」 と、そっくりぬぬが言いかけると…… 「ただ今戻りました!桜太郎!今日のおやつは何ですか!?」 元気に部屋に駆け込んできた恋心姫と、煤鬼。 「煤鬼!!」 その姿を見るなり、そっくりぬぬは嬉しそうに跳ね起きて、ぎゅっと煤鬼の両手を握って優しい眼差しで見上げる。 心底安心しきった声で優しく言葉を紡ぐ。 「良かった!こんな所にいたのか!すごく心配した!一緒に帰ろう!!」 「……え?」 当然、言われた煤鬼はポカンとして…… 「ぬぬ……?」 恋心姫も同じくポカンとして立っている。 事情を知っている麿が慌てて声を発した。 「え、ええと!そちらはぬぬ君じゃなくて、ぬぬ君のそっくりさんの“ぬぬさん”で……!!」 「俺が妖怪御殿のぬぬ」 「というか、ぬぬさん煤鬼も知ってるんですか!?」 ぬぬ、桜太郎も続けて補足し、そっくりぬぬは不思議そうな煤鬼を不思議そうに見つめて…… ここで皆で情報を整理した。 ○妖怪御殿に突然、ぬぬと瓜二つの“ぬぬさん”がやってきた事。 ○ぬぬさんは同居中の鬼、“煤鬼”を探して、気づいたらここに来ていた事。 ○ぬぬさんが探してる“煤鬼”も煤鬼にそっくりである事。 ○ちなみに、麿にそっくりな“麿”という作家にもあった事だある事。 “ぬぬさん”は情報交換が終わると、残念そうに恥ずかしそうに、煤鬼に頭を下げた。 「……鬼違い、だったのか……失礼しました“煤鬼さん”……」 「気にするな!しかし、ぬぬと俺にそっくりな妖怪が同居してるとは、不思議な気分だな! 他に同居している妖怪はいないのか?」 「いない」 ぬぬさんが緩く頭を振った後、恋心姫がぬぬさんに詰め寄る。 「貴方は煤鬼のそっくりさんと、どういう関係なんですかっ!?」 「ど、どうって……ただの、同居仲間……」 「ふ〜〜〜ん??」 急に問い詰められて驚くぬぬさんを、ジットリ目で眺めまわす恋心姫。 そしてその後も、不機嫌そうな顔でビシッとぬぬさんを指差して言う。 「だったら!早急に妾のそっくりさんを探してそっちの煤鬼の恋人にしてあげてください!!」 「わ、分かった……」 「コラ恋心姫!はは、すまなんな。妬いてるらしい」 「言っておきますけど!妾はこの煤鬼の恋人なんですからね!!」 窘める煤鬼にぎゅっと抱き付いた恋心姫がそうアピールして。 ぬぬさんも驚いたような感心したような顔になる。 「おお!煤鬼にこんな可愛い恋人が!!なるほど、確かに煤鬼の好みにピッタリだ!」 「し、白々しい……!!おだてても騙されませんよ!!」 「こ〜ら!そんなにケンカ腰になるんじゃない!」 「だってぇぇっ!!」 軽く叱られながらも、余計に煤鬼に抱き付く恋心姫。 そんな状況をまとめるべく、桜太郎がぬぬに声をかける。 「と、とにかくそろそろお昼ですし!ぬぬさんもご一緒に食べていきませんか? 腹ごしらえをしてから、ぬぬさんの家への帰り道を探しましょう?」 「!!あ、ありがとう!何てお礼を言ったらいいのか……!」 「いえいえ、妖怪同士、困った時はお互い様ですよ。 私は昼食の準備をしてきますから、ぬぬさんはくつろいでてくださいね?」 「あ、僕も手伝ってこようかな?平気?」 「大丈夫。ぬぬさんには俺がついてるから」 「あはは、ぬぬ君が“ぬぬさん”って言うと不思議な感じだね!」 こうして桜太郎と麿は台所へと去っていく。 残ったメンバーの、煤鬼の方を見つめたぬぬさんが何か言いたげに唇を開くが…… 「あ……」 「煤鬼はダメですよ!妾と遊ぶので忙しいんです!!」 恋心姫が必死に煤鬼に抱き付いて牽制する。 対する煤鬼は、困ったように笑って恋心姫を撫でた。 「恋心姫ぇ〜〜、いじわるを言ってやるな。いつもみたいに、ぬぬさんも入れて遊べばいいじゃないか」 「いやですぅっ!!行ぃ―きぃ―まぁーすぅーよぉ―煤鬼ぃぃっ!!」 恋心姫は駄々っ子のように、“部屋から出よう”とばかりに必死に煤鬼の手を引っ張って言う。 それに合わせるように煤鬼は恋心姫を抱き上げて、部屋を出ながらぬぬさんへ、申し訳なさそうに笑った。 「やれやれ……すまんな。言い聞かせておくから」 「何ですかそれ!妾、悪い子じゃないですからね!」 「悪い子だろうが意地悪坊主め!さぁ、どんなお仕置きをしてやろうかな〜〜??」 「ヤですぅ!わあぁん!怒ったら泣きますよぉ!?」 冗談っぽく怒りながら、恋心姫の額に自分の額を擦りつける煤鬼と、ちょっぴりビビリ気味の恋心姫は そんなやりとりをしながら部屋を去って、残ったぬぬが心配そうにぬぬさんに尋ねた。 「大丈夫?気を悪くしたら済まない。恋心姫は煤鬼が大好きで、割とヤキモチ焼きだから……」 「大丈夫!むしろ感動してる!!こっちの煤鬼、ものすごくいい子で大人……!!素敵……!!」 意外と喜んでいるぬぬさんは、興奮気味に言葉を続ける。 「それに、さっきのココノヒメちゃんも、桜のお姉さんも、綺麗! こんな美形に囲まれて生活する貴方、すごい!こっちの俺、素敵!!」 「……」 ぬぬさんの褒めまくりに気を良くしたぬぬは、ほんのり頬を赤らめて、左右を確認して、こそっと言う。 「ここだけの話、ぬぬさんはまだこの御殿一番の美形に会ってない」 「!!さらなる美形が……!!」 「ちなみに俺の恋人」 「恋人までいるのか!!こっちの俺、ますます素敵!!」 「待ってて!ちょっと呼んでくる!」 「了解!」 張り切るぬぬは自身の“恋人”を呼びに行き、ぬぬさんは期待に満ちた眼差しでそれを見送る。 そうして、しばらくったった時…… 入れ違いで帝がやってきたのだ。 「ぬぬ!こんな所におったのか!全く、余に探させるとは良い身分だ……」 「!?」 「なんだぁ?そんな間抜けな顔をして……せ、せっかく余が……その、一緒に……さっ、散歩でも……と……」 恥ずかしそうに顔を逸らして、しどろもどろな帝だが、当然ぬぬさんには彼が誰だか分からない。 ただ、見知らぬ美しい妖怪(?)に圧倒されていた。 (神々しいほどの美形……!!こ、この人がまさか、こっちの俺の……!!?) 「ああもう!ボケッとするんじゃない!何とか言わんか!!」 顔を真っ赤にする帝に怒鳴られ、ぬぬさんは慌ててとっさに言う。 「あ、あの!!俺は貴方の恋人じゃない!!」 「!!?なっ……な……!!……き、貴様……!!今、更……!!」 ショックを受けたような帝の顔は、みるみるうちに怒りで涙目の形相に変わって、 ぬぬさんはますます慌てた。 「い、いや、あの……!!」 「裏切っ、うぅ……裏切りおって……!こ、殺してやる……ッ!!」 「えぇっ!!?」 その修羅場には、間一髪でぬぬが駆けこんできて…… 「誉ぇえええええっ!!ストップ!その俺は違ぁあああああう!!」 「なっ!?えぇええええっ!?!」 帝が珍しく驚きの大声を上げたのだった。 そして、帝への事情説明も済んだら昼食時となり。 皆で食卓を囲んだ。 不機嫌そうな帝の横では、ぬぬが懸命にそれを宥めていた。 「全く、紛らわしい……!!」 「ビックリさせてごめん。そう言えば誉、俺に何か用があった?」 「あるわけなかろうがマヌケ!!」 「ご、ごめん……」 と、そんな状況下でぬぬさんの方は…… 「煤鬼……さん、あのおかず好き?取ろうか?」 「え?あ、ああ……じゃあ頼む。ありがとうな」 モジモジソワソワと煤鬼の世話を焼いていた。 煤鬼も恥ずかしそうに困惑しながらそれを受け入れて、ぬぬさんの感動が止まらない。 「“ありがとう”って言われた……!!」 「んん??」 「あ、いや!何でも無い!」 ぬぬさんはアセアセと大皿から小鉢へおかずをとりわけ…… 「その、待って!熱いかもしれないし……」 ふぅふぅと愛情たっぷりに冷まして、しかも箸で大きめの一口分取って、煤鬼へと差し出した。 「はい、あーん」 「い、いやさすがに自分で食える……」 「あ!ごめんなさい!!つい癖で……!」 ますます恥ずかしそうに赤面する煤鬼に断られ、ぬぬも顔を真っ赤にする。 しかし、それでもおかずを小鉢に戻すと何かに気付いて…… 「あ、でも、ここ、こぼして……動かないで……」 「えっ!?すまっ、ん、ええっと自分で……!!」 煤鬼の服の汚れを、布巾で拭おうとしたその時―― 「「いい加減にしろ!! してください!!」」 恋心姫と帝が同時に怒鳴った。 二人はそれぞれ顔を真っ赤にして捲し立てる。 「煤鬼のお世話は妾がします!!そもそも貴方、何ちゃっかり煤鬼の横に座ってるんですかぁっ!!」 「おい山羊の妖怪!!癖って何だ癖って!!貴様日常的に煤鬼にそうやって物を食わせてるのか!?」 「なっ!!そう言えばそうです!ただの同居人だなんて言って、下心満載じゃないですか!許せません!!」 「その甘やかせようじゃ、性欲旺盛な鬼をどこまで“世話”してやってるか分からんなぁ!? さては下半身も過保護なんだろう!?えぇ!?この変態山羊!!」 「いやぁあああああっ!!考えたくないです!もう絶対許せません!貴方なんかぬぬじゃないです変態山羊ぃぃっ!!」 「静かにしなさい!!」 またしてもの大きな怒鳴り声。は、桜太郎だった。 「食事時に何て話をしてるんですか!ぬぬさんを責めたって仕方ないでしょう!? ほら、ちゃんと座って静かに食べてください!できない子はご飯を食べなくてよろしい!!」 そうやって、いつものように二人を叱る。 すると恋心姫と帝は…… 「うっ、うわぁあああん!!桜太郎が怒ったぁぁああっ!!変態山羊の味方したぁぁっ!!」 「ッ、気分が悪い!!余は部屋に戻る!!」 泣きながら走って、不機嫌そうに足音を立てて……それぞれ部屋を出て行ってしまった。 煤鬼とぬぬは当然慌てる。 「恋心姫待て!!」 「誉!待って!だ、大丈夫!二人共俺が追いかける!!」 「頼む!!」 ぬぬが代表で追いかけて、静かになった食卓ではぬぬさんが悲しげに俯いた。 「ご、ごめんなさい……!俺のせいで……!!」 「ぬぬさんのせいじゃないよ」 「そうですよ。気にしないで下さい」 麿と桜太郎が必死に慰める。 そして、しばらくぬぬさんを見つめた煤鬼も、近づいて優しく声をかける。 「……なぁ、恋心姫は俺の恋人で、帝はぬぬの恋人なんだ。 だから、ぬぬさんが俺に構うと、二人が妬いてしまう。 子供っぽい二人に合わせさせるようで済まんが、気を付けてやってくれんか?」 「……はい」 しゅんとするぬぬさんの肩を、煤鬼が励ます様に叩いて笑う。 そして、少し恥ずかしそうにこう言った。 「そんなにも大切にされてるお前の“煤鬼”は、今頃お前がいなくてさぞ心細くなっている事だろう。 ソイツが中身も俺にそっくりなら、図体の割に寂しがりの怖がりなんだ。早く帰ってやらんとな?」 「!……はい!!」 パッと表情を明るくしたぬぬさん。 そして、その後すぐ真剣な顔になった。 「お、俺も二人を探す!傷つけた事、謝りたいから……!」 こうして、帝と恋心姫を探す事にしたぬぬさんが廊下を歩いている。 「ココノヒメちゃ――ん!帝さ――ん!ごめんなさい!出てきて――!!」 と。 「みぃつけた ![]() と、甘く幼い声がして…… 「!!?」 視界を遮るほどの大量の“何か”に纏わりつかれて押し流されて、近くの部屋に雪崩れ込んだ。 その後、“何か”達は崩れ落ちて跡形もなく消える。 やっとこさで体を起こせたぬぬさんが次に見たのは、薄暗い部屋の中で妖艶に笑う二人の妖怪だった。 「おいでませ妖怪御殿の秘密のお部屋、ですよ ![]() ……よくも妾の煤鬼に、これ見よがしにベタベタしてくれましたね?」 「貴様のような変態山羊には、我らで“分からせてやろう”、という事になってな?」 恋心姫と帝のタダならぬ雰囲気に気圧されるぬぬさんだけれど、 どうにか気持ちを奮い立たせて謝った。 「ふ、二人共……!!ごめんなさい……俺、失礼な事を……謝りたくて……!!」 しかし、この誠意ある謝罪もに、恋心姫は取り合わない。 不機嫌そうにぬぬさんを睨みつけて怒鳴る。 「謝って済む問題じゃありません!妾の恋人に手を出したからには、もっと誠意を見せてもらわないと!」 「誠意……どうすれば……??」 「貴方が妾達に、お尻ぺんぺんのお仕置きをされるんですよ!」 「そ、そんな!嫌だ……!ごめんなさい!悪気はない!許して!」 「絶〜〜っ対、嫌です!許しませんから!ねっ、帝!?」 「…………」 恋心姫にそう話を振られた帝は、冷たい視線で怯え気味のぬぬさんをじっと見つめて……嘲笑う。 「お前が本当に余らに悪いと思っているなら、尻を叩かれるくらい容易い事だろう?」 「そ、それは……!!」 ぬぬさんが言葉に詰まると、帝は彼に近づいてグッと顎を持ち上げて、楽しそう言った。 「ふふっ、ぬぬの見目をしているが、 お前の反応はなかなか初々しくて、“お仕置き”し甲斐がありそうだ……」 「え〜〜っ、妾はぬぬの見た目だとお仕置きしづらいです!!……でも、貴方はぬぬじゃないですしね……」 お仕置きする気満々の帝と恋心姫に詰め寄られ、 ぬぬさん、まさに絶体絶命。 「っや、め……!!」 その時―― バキィッ!! 障子戸を貫通する力強い一撃。 その力強い腕は、次の瞬間には扉を軽々と“むしり取って”いた。 強引に開け放たれた外の世界では、ぬぬと煤鬼が立っている。 ぬぬは感心したように何度も頷いて、 「なるほどなるほど……扉ごと壊してもいける、と。誉の特技の新しい突破法発見。 俺も今度使ってみようかな?」 「桜太郎にギャーギャー言われそうな方法だけどな。 今日の所は緊急事態だし、勘弁してもらおう。さぁて……」 煤鬼は扉を無造作に後方に放り投げて、恋心姫へ威圧的な笑顔を向ける。 恋心姫がビクリと身をすくめて…… 「ひゅ……!!」 「恋心姫ぇぇええええッ!!」 「きゃぁあああああっ!!ごめんなさぁぁぁあい!!」 大きな怒鳴り声に怯えるように両手で頭を庇って縮こまる。 しかし、例のごとく一瞬で煤鬼に抱き上げられて顔を覗き込まれる。 「こんな薄暗い密室にぬぬさんを連れ込んで何をしようとしてたぁ〜〜?? 二人っきりでじっくり聞かせてもらおうか!?」 「やぁあああああん!違いますぅっ!!あの泥棒山羊を懲らしめてやろうとぉぉッ!!」 「そうかそうか!じゃあ性悪人形は俺が懲らしめてやろうな!」 「わぁああああん!!やぁあああでぇぇええすぅぅううう!!ごめんなさぁぁい!!」 恋心姫は泣きながら煤鬼に連行されていったので部屋には…… 「で、俺は誉を懲らしめる」 「懲ら、しめる……?笑わせるな!!」 帝の手をガッチリ取っているぬぬと、ぬぬを睨みつけて手を引こうとする帝が残る。 「余は、この変態山羊に身の程を分からせてやろうとしただけだ! お、お前には関係のない事だろう!?」 「誉。嫉妬に駆られたからって、暴力を振るうのは論外」 「ううううるさい!!あぁあああ触るな触るなぁぁぁッ!!」 精一杯の抵抗で叫んでジタバタしている帝を、ぬぬは慣れた風に軽々と膝の上に乗せて、 着物の裾を捲って、下着(褌)で隠れない双丘に手を振り下ろす。 バシィッ!! 「いっったい!こら!やめろ!」 「誉が反省したらやめる」 ビシッ!バシィッ!バシッ!! 「反省っ、など……!余は何も悪くない!!」 「暴力は悪い事」 「うぁああっ!離せぇッ!!暴力じゃなくて躾だバカぁッ!!」 お仕置きし始めても上からな態度を崩さない帝のお尻を、ぬぬは顔色一つ変えずに叩き続ける。 ぬぬさんの方は、真っ赤な顔で困惑しながら、ぬぬと帝を見たり目を伏せたりを繰り返していた。 バシィッ!バシッ!ビシンッ!! 「誉が躾けていいのは俺だけ。他はダメ。 ……って言っても、嫉妬して振るう暴力は躾とは言わないけど。暴力は誰に対してもダメ」 「っ、ああっ!お、お前ぇっ!さっきから“嫉妬”って何だ!!自惚れるなよ!? 余はペットが、余を差し置いて他に懐いてるのが腹立たしかっただけだぁぁッ!!」 「大丈夫。恋人としてもペットとしても、どっちにしろ俺は誉だけのモノ。 ぬぬさんは俺と見た目は似てるけど、俺じゃない。 だから、俺の事でぬぬさんをお仕置きするのは間違ってる!!」 バシィッ! 「ひぁああああっ!!」 強く叩くと帝はひときわ大きな悲鳴を上げて体を揺するが、ぬぬはそれでも手を緩めずに怒鳴る。 「とりあえずぬぬさんに謝って!それからゆっくり反省させてあげる!」 「!!あっ……」 帝の方は途端に、何かに気付いたように目を見開いたかと思うと、顔を真っ赤にして叫んだ。 「バカ見るなぁぁぁッ!!」 「誉!ダメ!!」 バシィッ!ビシッ!バシンッ!! 「うわぁあああん!痛い!離せぇぇぇっ!!」 「離せじゃない!謝って早く!今日もお尻真っ赤にして泣く可愛い誉見せてくれるの!?」 「うるさぁああい!違う違う違うぅぅ!余はそんなじゃないぃぃっ!!」 「……あぁ、今日も強情……分かった俺も気合い入れてお仕置き頑張る!」 いつもよりキツめに叱って、いつもより強めに叩いて、ぬぬは本当に 帝に早く反省して謝ってもらおうと“頑張る”のだか、 バシィッ!バシッ!! 「うわぁああああん!ぬぬの分際でぇぇっ!!ペットが偉そうにするなぁぁぁッ!!」 ビシンッ!ビシンッ!バシィッ!! 「離せっ!離せぇぇッ!痛いぃぃっ!うわぁあああん!余をいつまで辱める気だ不敬者ぉぉぉっ!!」 バシィッ!バシンッ!ビシィンッ!! 「それでも余のペットかぁぁぁっ!あぁあああん!痛い痛いやだぁぁっ!! 離せと言うとろぉがぁぁぁッ!」 バシィッ!ビシッ!バシィッ!! お尻が赤くなってしまっても、さらには泣いてしまっても、帝は全く謝る気配無く、 怒って駄々をこねる様に喚き続けるだけだった。 いつもなら、そろそろしおらしく謝ってくる頃なのに……と、ぬぬは少し困ってしまう。 「ひぅっ、あぁあああん!!もうやめてぇぇっ!うわぁああああん!!」 「……誉様?“ごめんなさい”と仰って下さい」 下手に出れば、帝も少しは折れやすくなるかと気を配って見ても、 全力で首を振っての泣き叫び方は同じ。 「黙れぇぇぇッ!!うわぁあああん! 余は謝ら……うわぁああああん痛い死ぬぅぅぅっ!!」 「誉……ちゃんと謝らないとお尻叩くのやめられないけど!?」 バシィッ!ビシィッ!!ビシッ!! 「うわぁあああん!!嫌ぁあああああっ!!」 (どうしよう……誉が予想以上に粘る……可愛い ![]() と、悩めるぬぬのこの状況に、勇気を持って助け船を出してくれたのはぬぬさんだった。 「あ、あの俺……もう、いい……!!気が済んだし、帝さんも、反省してると……!!」 「うわぁああああっ!うるさぁぁい!貴様なぞに恩情をかけられる筋合いは無いわボケェ!偉そうにィィィッ!!」 「すみ……ません……出過ぎたマネを……!!」 と、泣き叫ぶ帝のセリフで、せっかく勇気を出してくれたぬぬさんが落ち込んで俯く展開になって、 「……誉本当にダメ!悪い子!!」 バシィッ!! 「うわぁああああん!やぁああああっ!痛いぃっ!ぬぬ嫌いぃいいいい!!」 強く叩いて叱っても、帝が相変わらず反発してくるので…… (……こうなったら、最終手段……!!) 少々心を痛めつつ、少々ドキドキしつつ。今まで無視していた“それ”をチラッと見て、 帝に冷静な声をかける。 「誉、忘れてる?誉か恋心姫かどっちか知らないけど、ぬぬさんを痛めつける為に持ってきたらしき道具が、 俺の手の届く範囲に転がってる」 「!!」 「誉がいい子にならないなら、あれでお尻を叩く。 ……お尻、真っ赤だからとんでもなく痛いと思うけど」 「……!!」 「“ごめんなさい”は?」 これ以上は可哀想な事にならないようにと、祈って脅した。 しかし、 「……そ、んな……事したら、貴様……後で酷い目に遭わせてやるからな……!!」 「……誉本当にもう!全然ダメ!超悪い子!!」 願い虚しく、ぬぬは傍に転がっていた竹パドルを、誉のお尻に振り下ろすことになる。 バシィッ!! 「ぃっ……!?あぁっ……!!」 一拍、驚いたように息を吸って小さく悲鳴を上げた帝は、次の瞬間に足をバタつかせて泣き叫んだ。 「うわぁあああああん!!ごめんなさぁあああい!!」 「何で最初から素直に謝らないの!?」 ビシッ!バシッ!バシッ!! ぬぬも少し手を緩めたけれど、帝は引き続き痛々しいお尻をお仕置きされて、 「ごめんなさい!痛い痛ぁあああい!!やめてごめんなさい!いい子になったぁぁあああっ!!」 「いい子になるのが遅い!!」 バシィッ!ビシッ!バシッ!! 「あぁあああああごめんなさぁぁい!!わぁあああん!!」 あれほど粘っていたのが嘘のように“ごめんなさい”を連呼した後は膝から下ろされて、 顔を覆って悲壮に謝った。 「ご、ごめんなさい……!!」 「はい!!お、俺はもう、大丈夫……!!」 慌て気味に言葉を返すぬぬさん。 そこへ、勢いよく煤鬼も飛び込んできて、 「ほら恋心姫!何かぬぬさんに言う事は!?」 「あぁああああん!山羊ごめんなさぁあああい!もうイジワルしませんんっ!!」 片手で着物を持たれてぶら下がっている恋心姫も、泣きながら謝る。 「あ、あぁ!!大丈夫!大丈夫!すべて許します!!」 オロオロしながら、帝と恋心姫を即座に許したぬぬさんだった。 その後。 ぬぬさんは無事帰っていって、麿と桜太郎がホッとした表情で会話している。 「たまたま文献があって良かったね!まさか、違う世界との扉が繋がっちゃうなんて…… ぬぬさん、無事に帰れたかなぁ?」 「きっと大丈夫ですよ。……しかしまぁ、恋心姫と帝さんが 随分とご迷惑をおかけしてしまって、申し訳なかったですね」 困ったように息をつく桜太郎。 麿がほんわりと笑う。 「あ、はは……!ぬぬさん、ぬぬ君に似てとっても優しかったし、気にしてないんじゃないかな? それに……僕だって、桜太郎君のそっくりさんが来て、もし……例えば帝さんのそっくりさんといい関係で、 帝さんとイチャイチャし始めたら、悲しくて妬いちゃうと思うし…… あぁ、その場合、帝さんノリノリでイチャイチャしそう……!!」 「ま、麿さんそんな事……!!」 頭を抱えて落ち込む麿を見て、 桜太郎はオロオロした後、真剣な顔で言う。 「その場合!もう一人の私と帝さんには、きちんと麿さんと恋人同士である事、言い聞かせますから! 私が愛してるのは麿さんだけだって!!」 「!!……あ、ありがとう……!!」 「あ……の、もうっ!麿さんが言い出したんですからね!?」 桜太郎が顔を真っ赤にして、照れながら怒鳴って。 麿も顔を真っ赤にして嬉しそうにしていた。 一方、恋心姫と煤鬼も自室でやっと一息ついていた。 座っている煤鬼に抱きかかえられて、優しく頭を撫でられながら、恋心姫が切なげに言う。 「……煤鬼……」 「どうした?まだ機嫌が悪いのか?」 「……あのぬぬ、煤鬼の事“好き”でした……」 「……ほう?」 「分かってますよ?煤鬼のそっくりさんは煤鬼みたいにカッコよくて、優しくて…… あのぬぬが好きになっても仕方がないんです。妾は煤鬼の恋人だから、 別の煤鬼は譲ってあげなきゃって、思ったんですけど……」 恋心姫の声はだんだん涙声になっていき、やがてポロポロと涙を零す。 「でもっ、どうしても嫌だった……!!どんな煤鬼だって、妾独り占めにしたいです!! 誰にも渡したくない!!」 そんな恋心姫を、煤鬼は優しく抱きしめて、 涙を指で拭ってやりながら、愛おしげに声をかける。 「心配するな。俺は、世界中のどこにいたって恋心姫だけのもの。 可哀想に。ぬぬさんは絶対に失恋するぞ?」 「ふ、ぇぇっ……煤鬼ぃぃ……!!」 「ほら、泣くな泣くな。この俺が、世界一愛してるからな……可愛い恋心姫 ![]() 「んっ…… ![]() 煤鬼に唇を奪われてしばらく恋人のキスを楽しむと、恋心姫も表情を明るくして言う。 「わ、妾も煤鬼の事……貴方の事、世界一愛してますよ! ![]() 「俺のそっくり鬼がやってきても浮気せんだろうな?」 悪戯っぽく笑ってからかう煤鬼に、恋心姫は顔を真っ赤にする。 「だっ、大丈夫ですよぉ!!絶対浮気しません!」 「ははは!いい子だ ![]() 煤鬼はまた、恋心姫を強く抱きしめ……二人はご機嫌でくっついて遊んでいた。 そして……帝とぬぬの自室では。 「誉……」 「寄るな虐待魔……!」 「……」 ムスッとした帝にそっぽを向かれたぬぬが悲しそうにしゅんとしていた。 と、思ったら…… 「俺、嬉しかった!!」 「ひぇっ!!?」 勢いよく帝に抱きついて、帝が驚くのもお構いなしに叫ぶ。 「誉があんなに嫉妬してくれるって事は……俺が誉にそれだけ愛されてるって事! 今日の誉は恋心姫に匹敵するほどの嫉妬具合だった!って事は、恋心姫が煤鬼を好きなくらい 誉は俺の事を好きって事で……それって相当!!」 「ちちちち違う!!バカッ!調子に乗るな離せ!!」 真っ赤になる帝も必死に抵抗するけれどぬぬが離さず、ついにはぬぬが上で押し倒したような形になって、 キラキラした瞳で帝を見下ろして声を弾ませた。 「もっと恋人としての親交を深めれば!余裕が出て嫉妬心も出ないと思う! だから誉もっと俺と……」 「黙れ!喋るな!だったら姫が嫉妬してるのがおかしいだろうが!!」 「あ、そうか……!」 と、一度は納得したものの、ぬぬはそっと帝の頬に触れてほんのり笑顔で言った。 「でも、恋人として、もっと仲を深めてたいのは切実な俺の願い……。 と、いう事はぜひ心に留めておいてほしい……」 「うぅ、今だって、十分……これ以上、何が、望みだ……?」 少し声を弱くして、恥ずかしそうに顔を逸らした帝がチラリとぬぬを見る。 そこに果てしなく情意を煽られたぬぬは張り切って―― 「俺が主導で誉とまぐわ……!!」 「調子に乗ると張り倒すからな!!」 「うぶっ」 本音をぶつけて顔を正面から張り手されていた。 ぬぬが顔を押さえて痛がっている間に、帝は怒ってぬぬの下から逃れて部屋を出て行ったが…… ぬぬから見えていない帝の顔は不機嫌そうに恥ずかしそうに……何かを思案していた。 【おまけ】 IN浅墓山(ぬぬさんの世界に無事帰ってきました) 煤鬼「うわぁあああん!!ぬぬごめんなさぁぁい!!もうワガママ言わないからぁぁッ!! 出て行かないでぇぇぇっ!!」 ぬぬ「煤鬼!!ご、ごめん!出て行くつもりは……!!ちょっと意図せず遠出してしまって!!」 煤鬼「……………ななっ、何だ紛らわしい!!心配させるな!!」 ぬぬ「不思議な体験をして……違う世界の煤鬼のそっくりさんにあって! 煤鬼好みの可愛い子と恋人同士だった!」 煤鬼「はぁ??夢でも見たのか?」 ぬぬ「ええと、夢じゃなくて……あ!その子がこっち側にもいるかも!早急に探して煤鬼とくっつける様に頼まれた! 頑張って探してあげる!」 煤鬼「……あぁ、まぁ……頑張れ……」 ぬぬ「……煤鬼、嬉しくない……?」 煤鬼「……嬉しくないと言うか……」 ぬぬ「…………えと、そう言えば、別の世界の、お、俺には、恋人が、いて……」 煤鬼「はぁっ!?どんな奴だ!?お前もソレみたいなのが好みなのか!?」 ぬぬ(煤鬼……!!それじゃまるで……!!) 麿(こっそり追加取材に来たら思わぬネタが……!!いいぞ二人共、続けて……!!)ドキドキ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ↓気に入ったら押してやってください 一言でも感想いただけたらもっと励みになって更新の活力になりますヽ(*´∀`)ノ 【作品番号】youkaisin19 TOP>小説>妖怪御殿 戻る 進む |