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妖怪御殿のとある一日 引っ越し後16
※スパ無し
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やっぱり男は塩おむすび!
おにぎりの具は塩only派!怪研究家兼、妖怪の麿拙者麿だよ!
何でこんな話をするかっていうと、さっき小さなおにぎりをたくさんお皿一杯に乗せて
嬉しそうに運んでいく恋心姫君とすれ違ったから!
煤鬼君の為に作ってあげたんだって!
ふふ、恋心姫君の手みたいな小さなおにぎりで可愛らしかったな!

そういえば……あの2人ってとっても仲がいいけれど……
いつからあんな感じなのかな?

******************

妖怪御殿の天気は晴れ。
桜太郎と麿が、居間でのんびりと話していた。

「あぁ、ススキとココノ姫は最初の最初からあんな感じですよ」
笑顔でそう言う桜太郎に、麿も笑顔を返す。
「あはは!やっぱりそうなんだ!よっぽど最初から気が合ったんだね!」
「ええ。そうみたいで……私も最初は驚いたんです。
ススキ、ココノ姫が来るまでは本当に無愛想で自分勝手で、粗暴でしたから。
性格が180°入れ替わるって、こういう事なんだなぁ実感しましたよ」
「えっ!?そうなの!?」
驚く麿に、桜太郎は頷きながら笑う。
「もう大変だったんですよ〜〜?声をかけても常に不機嫌そうに対応されるし、
御殿にも全然いなくて勝手に出て行って遅くまで帰って来ないし、ご飯を作っても全然食べてくれないし、
やっぱり心配するじゃないですか?それで、それらを指摘しても“うるさい”か“放っとけ”しか
怒鳴り返してこないし……」
「(……思春期の不良とお母さんかな?)
い、今の優しくて無邪気な感じからは想像もできないね……」
「……今にして思えば、我々を警戒していたのかもしれませんね。“鬼”というのが
理不尽に怖れられたり、迫害されたりする事のある妖怪だという事をもっと考えてあげれば良かった。
実際、帝さんとぬぬがここへ連れてきた時も、大怪我をしていましたから」
「そうなんだ……」
麿がしんみりして言うと、桜太郎も悲しそうに言う。
「ススキを別の部屋に寝かせている時……私も鬼を見るのは初めてだったもので……
ついつい帝さんに“鬼なんて拾ってきて大丈夫なんですか!!?”って、言ってしまって……
アレも良くなかったかもしれません。もし、ススキが聞いていたなら傷ついた事でしょう……」
「し、仕方ないよそれは……僕だって、そうなれば見ていない所で酷い事言っちゃうかもしれないし……」
「ありがとうございます」
桜太郎は、昔を思い出すように瞳を閉じて穏やかに話を続ける。
「そんなでしたから……ススキ、全然、皆と距離が縮まらなくて……
私とも何度も口論になるし、暴力を振るわれたこともあって……
ある日、帝さんに叱られたススキが飛び出してしまったんですよね。
“お前はもううちの子じゃない。出て行け”“言われなくてもこんな所出て行ってやる”って……」
(やっぱりホームドラマかな!!?)
「大雨の日で……私も、今まで大きな揉め事なんて無かったものですから気が動転してて、帝さんに止められて
すぐに追いかけてあげられなくて……帝さんに泣き言を言いながらメソメソしてて……。
もう、あの時の自分は思い出すだけで女々しくて嫌になってしまいます!!
帝さんにガツンと言って、さっさとススキを追いかければよかった!」
「し、仕方ないよね……!初めての事って、テンパっちゃうし!
(今の桜太郎君なら迷わずそうするだろうなぁ……で、でも……か弱い桜太郎君も見てみたいかも……!)」
「結局、帝さんも気にかかってたみたいだから、ぬぬが探しに行くことになったんですけれど……。
でも探しに行く前に、ススキの方が帰ってきたんです。ぐったりしたココノ姫を抱きかかえて。
“コイツを助けてくれ!!”って……」
「え!!?そうなの!?恋心姫君って煤鬼君が連れてきたんだ!!?」
「そうなんですよ。あの時は本当に驚きました。とにかく、ススキもココノ姫も中に入れて……
着替えさせたり洗ってあげたり……てんやわんやでしたね。
ココノ姫は怪我でも病気でも無さそうで、とにかく布団に寝かせて様子を見ていました。
3日以上は眠っていたでしょうか?私はできるだけつきっきりで診ていて……
ススキは……あれから少しだけ大人しくなって、どうにかご飯も食べてくれるようになって。
時々ココノ姫の様子を見に来ては、声をかけるでもなく何をするでもなく、じーっと見つめて……
しばらくしたら部屋を出て行ってました。“ススキでも心配してるのか”って、微笑ましく思ったものです……」
桜太郎に幸せそうな笑顔につられるように、麿も笑った。
「へぇ……やっぱり煤鬼君は煤鬼君だ」
「そのくせ、やっとココノ姫が目を覚ましそうになった時には慌てて逃げるんですよ?
“こういう、小さくてフワフワしたのは俺を怖がるだろう”って……。
私その時何だか……ススキに対する見方が少し変わりました。
ココノ姫の方は目を覚ました時、自分が動いて喋れることに酷く驚いていて、
とても嬉しそうでした。本当に、可愛らしかった。
“恋心姫”と言う名前は自分で名乗っていましたよ。
一応、ススキの事は伝えたんです。“貴方を助けてくれて、とても心配していた。
見た目は恐ろしいかもしれないけれど、怖がらないであげて欲しい”って。
ココノ姫ったら、すぐに笑顔で“分かりました!その方にお礼を言ってきます!”って……」
桜太郎はクスクス笑った。
そして、ふと切なげな表情になる。
「心配で追いかけたら、ココノ姫はススキを微塵も怖がらないで、元気にお礼を言っていました。
ススキの方は、驚いてぎこちなくしつつも、そっけなく“良かったな”って……。
それでも、ココノ姫はススキに興味ありげに寄っていって、色々声をかけていました。
懐かれて狼狽えるススキが、当時は本当に新鮮でしたよ?
私、良く覚えているんです。ココノ姫がススキに……“お友達になってください”って言って。
そうしたら、ススキがすごく驚いて、泣き崩れた。ココノ姫が心配そうにススキに寄り添って頭を撫でていました。
あぁ、私ができていなかったのは、こういう事だったんだ……って。その時分かったんです」
そうして、一度気持ちを切り替えるように桜太郎は目を閉じて、
再びいつものように笑った。
「そこからはもう、あの通りですよ。
ススキがココノ姫を本当に可愛がって、どんどん優しく素直になって、帝さんもぬぬも嬉しそうでした。
正直……ススキが変わらなかったら一緒に暮らしていくことはできなかったかもしれません。
ココノ姫には本当に、感謝しています。
……欲を言えばもう少し、ススキがココノ姫のいいお手本としてきちんとしてくれる事を期待したけれど。
一緒になって遊んで甘やかす方向にいってしまいました。
“お友達”のラインは早々に越えてしまって、こっちもいろいろ苦労したし……」
「あ、ははは……でも……」
麿は瞳を輝かせて桜太郎に言う。
「すごいね!当たり前だけど“妖怪御殿”にも歴史があるんだ!興味深いよ!」
「そうですね……今まで色々、ありました。私も感慨深いです」
「話を聞いた感じだと、煤鬼君が来る前から桜太郎君はいたんだよね?恋心姫君は煤鬼君が連れてきたから……
妖怪御殿の仲間になったのは、桜太郎君→煤鬼君→恋心姫君の順番だね!帝さんとぬぬ君は……
はは、何となく……桜太郎君より前な気がする!」
「ご明察。我々は、帝さんの元に集められた感じです。彼は“妖怪御殿”の祖であり基盤。
私が来る前の話なら、ぬぬに色々聞けると思いますよ。帝さんは話してくださるか分からないので」
「ふふ!面白そう!煤鬼君や恋心姫君に聞いても、色んな思い出を話してくれそうだなぁ!
よーし!“妖怪御殿の歴史探索ツアー(一人)”を決行しちゃおうかな!」
「麿さんなら、きっと(帝さん以外)安心して色々話してくれると思います。
面白いお話があったら、私にも聞かせてくださいね?」
「もちろん!じゃあ、ぬぬ君探してくる!」

張り切って部屋を飛び出す麿を、桜太郎が笑顔で見送った。




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【作品番号】youkaisin16

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