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妖怪御殿のとある一日 引っ越し後13
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ここは、ある日の妖怪御殿……ではなく、むしろ神の国でも無く。
人間の世界の、とある神域の山奥。
二人の妖怪が細い縦長封筒を上へ放り投げる。
「「さくちゃんに届け!俺達の想い!!」」
大きな掛け声とともに放り投げられた封筒は、螺旋を描く桜の花びらを纏って空高く舞い上がっていく。
それを真剣に見送る二人の妖怪のうち……いや、真剣に見送っていたのは生真面目そうな片方だけで、
快活そうなもう片方は、すぐに微妙な面持ちになって、隣にこう声をかける。
「……なぁ、この掛け声要る?」
「……桜之助……」
生真面目そうな妖怪は、落ち着いた声で眼鏡を指で押し上げると……
「お前のさくちゃんへの想いはその程度か愚か者ぉぉぉおお!!
お前がそんなだからぁぁっ!今まで一度も手紙の返事が来ないんだよぉぉおお!!
あぁあああ!さくちゃぁぁん!さくちゃん会いたいよぉぉおお!!」
「おっ、落ち着けって桜衛門!!俺だってさくちゃんに会いたい!気持ちを込めてないわけじゃないから!」
のけ反って頭を抱えて叫び出す気真面目な方→桜衛門(さくえもん)を、快活そうな方→桜之助(さくのすけ)が必死で宥める。
すると、桜衛門は再びスッと冷静になって、こう言った。
「さくちゃんは綺麗で優しくて面倒見がいい反面、騙されやすくて押しに弱い……!!
神の国にいる噂が本当なら、上手くやっていけているのかどうか……
何だか、嫌な予感がするんだ。さくちゃんの身に、危機が迫ってる……そんな予感が!」
「ま、マジかよ……だったら、俺達で会っておかなきゃ、だな。
今度の手紙は届くといいけど……っていうか、お前本当、さくちゃんの事となるとキャラがブレブレだな?」

桜之助のその言葉が聞こえていないかのように、桜衛門は真剣に空を見上げる。
そんな桜衛門につられて、桜之助も空を見上げたのだった。


******************

その頃、話題の桜太郎が過ごす妖怪御殿では。
洗濯物を干していた桜太郎の元へ、桜の花びらと一緒に手紙が降ってくる。
「これは……手紙?私……宛?」
「わぁっ!桜太郎にもお手紙が来ましたね!妾も一緒に読んでいいですか!?」
戸惑う桜太郎より、たまたま傍で遊んでいた恋心姫の方が嬉しそうで。
恋心姫に急かされて読んだ手紙の差出人は桜太郎の幼馴染の桜衛門と桜之助。
内容は――
『さくちゃん久しぶり!こちらは二人とも元気だけど、さくちゃんは今どうしてる?
風の噂で神の国にいるって聞いたけれど、さくちゃんが元気にやってるか心配だよ!
顔を見て話したい!良かったら今度、久しぶりに三人で会わない?』
と、こんな感じだった。
「桜太郎良かったですね!桜太郎もお友達に会ってきたらいいですよ!」
やっぱり喜んでいるのは恋心姫で、当の桜太郎は呆然としながらも……
とりあえず居間で皆が集まった時に、帝に手紙が来た事と内容を話してみた。
すると。

「ならん」
不機嫌そうにバッサリと一言。
「ですよねぇ」と、諦めたように笑う桜太郎に代わって、恋心姫が抗議する。
「何故ですか帝!?煤鬼の時はあっさり行かせてあげたじゃないですか!桜太郎が可哀想です!!」
「煤鬼は姫がこちらにいれば必ず帰って来る確証があったから行かせたんだ!
でも、桜太郎の場合は……麿では頼りなくてイマイチ信用できん!!」
「失礼ですよ帝さん!!」
麿が悲壮に叫んだ後、桜太郎もムッとした表情で帝に言った。
「本当に、失礼ですよ帝さん?私は麿さんを裏切ったりしません。貴方の事もね?」
「だ、だが!得体の知れない妖怪に会わせて、お主にもし何かあったら……!!」
頬を赤くしてまだ嫌がっている帝を安心させるように、桜太郎は穏やかに微笑む。
「……ええ。ですから、貴方が嫌がるなら今回は無理に会おうとは思わないんです。
正直言うと、桜衛門の事も桜之助の事も良く覚えてなくて。『会おう』と言われてもピンとこないんです。
返事を書けば私が元気にやってる事は彼らに伝わるでしょうし……返事で会う事はやんわりお断りしようかと……」
「ダメですよ!!」
急に、恋心姫が大声を出す。
そして泣きそうに真剣な顔で言った。
「桜太郎!お友達なんでしょう!?会える時に会っておいた方がいいですよ!!
ある日突然、会えなくなる事もあるんですよ!?どんなに願っても、ずっとずっと会えなくなる事もあるんですよ!?」
「……恋心姫の言うとおりだ。友達なら、一緒にいられる時間を大事にした方がいい。
良く考えもせず繋がりを切って、会えなくなってから後悔しても遅いぞ?」
煤鬼も妙に悲しそうな声でそう言って、そんな煤鬼に恋心姫がぎゅっと抱き付いて頭を撫でる。
そんな二人の姿を見た桜太郎はどうすべきか迷い出したようで、そんな彼の背中を押す様に麿が言った。
「僕も、行ってきた方がいいと思うよ桜太郎君?」
「麿さん……!許してくださるんですか……?」
「もちろん。桜太郎君だって、たまには息抜きしなきゃ……
それに恋人として、懐の広い所見せないとね!」
「……!!」
麿の言葉に、嬉しそうに微笑む桜太郎。
それを見て嬉しそうな麿は、帝に向けて笑顔で言う。
「帝さんも家長として懐の広い所、見せてくれるんでしょう?」
「ッ、勝手にせい!!ただし!遊び回ってまた朝帰りでもしたら今度こそ承知せんからな桜太郎!?」
「心の広い誉、大好き」
「ええい!触るな!!」
ぬぬが帝を宥めるように頭を撫でて、顔を真っ赤にした帝がその手を振り払って。
家族の合意を得た桜太郎は引き続き嬉しそうな笑顔で言う。
「帝さん……!皆、あ、ありがとうございます!!私、やっぱり彼らに会って来ます!!」
こうして、桜太郎は久しぶりに幼馴染達と会う事になった。
その旨返事を書いて、何度か手紙のやり取りをして、しばらく経って……


ついに当日。
自室(麿と共同)で出かける準備をしている桜太郎を、麿が落ち着きなく見守っていた。
そして何かにつけて慌てて口を出していた。

「えっ、待って!!そんな綺麗な着物着て行っちゃうの!?
あ、あんまり素敵な服は着ていかない方がいいんじゃないかな!?
相手は幼馴染でしょう!?おめかししないで、普段着くらいの方がいいよ!」

「嘘っ、髪下ろしていくの!? い、いつもみたいに束ねて行った方が……」

と、このように……桜太郎が何か準備をするたびにアワアワ止めて、
最終的には自己嫌悪に陥りながらしょんぼりしていた。
「ご、ごめんね、懐の狭い恋人で……桜太郎君が綺麗な格好で行ったら、
幼馴染さん達が一目惚れしちゃうんじゃないかって心配で……。
桜太郎君ってただでさえ美人さんなのに、おめかししたらさらにすっごく綺麗になっちゃうし……」
「ま、麿さん買いかぶり過ぎです……!!」
結局は普段通りの出で立ちの桜太郎は、真っ赤になりつつも笑って麿を宥めた。
「桜衛門も桜之助も、ただの幼馴染ですし……
会っても、私の事は懐かしんでくれるだけで、何とも思わないと思います。
麿さんの心配してるような事は絶対はありませんから。安心してください」
「う、うん。ごめん……」
「いえ……ヤキモチを焼かれるのは……嬉しいものなんですね……」
「えっ、あっ……」
そんなやり取りをしながら、お互い真っ赤になって俯く麿と桜太郎。
麿が先に少し顔を上げて言う。
「ひ、一つだけ、約束して……。お酒は、絶対飲まないでね?
桜太郎君は覚えてないかもしれないけど、君、すごい酒乱だし、酔ったら脱いじゃうんだよ……。
幼馴染さんとはいえ、桜太郎君の裸を見られるなんて、そんなの僕、耐えられないから……」
「はい。心得ました。私も、桜衛門や桜之助の前で醜態を晒すわけにはいきませんから。
それに……麿さん以外に裸を見られるのは、嫌なので……」
顔を上げずに、恥ずかしそうにそう言った桜太郎を麿が思い切って抱きしめる。
「行ってらっしゃい。楽しんできてね」
「はい、行ってきます。なるべく早く戻りますね」
(うぅ……恋心姫君と煤鬼君みたいに、キスは出来ないや……)
軽く抱擁を交わして“行ってきます”の挨拶を済ませた二人。
桜太郎は部屋を出て、他の家族にも“行ってきます”と挨拶をする。
皆気持ち良く見送ってくれて……しかし、そこに帝の姿は無かった。
それが少し気がかりながらも、皆に「気にするな」と励まされて家を出る。


そして。
待ち合わせ場所にたどり着いた桜太郎は……
「さくちゃ――ん!こっちこっち!!」
大きく手を振って、明るい声で自分を呼ぶ桜之助と、
その隣で腕を組んで穏やかな笑顔を浮かべる桜衛門に久々に再開する。
彼らの姿を見た瞬間、桜太郎の中に鮮やかに彼らとの思い出が蘇った。
(覚えてないと思ったけれど……こうして会ってみると、こんなにも懐かしいものなんですね……!!)
一瞬で感極まった桜太郎は、嬉しそうな、泣きそうな、満面の笑顔で彼らに応える。
「桜之助!桜衛門!お久しぶりです!!」
「「!!」」
思わず桜太郎の笑顔にドキッとした桜之助と桜衛門の中には、お互い違う感情が芽生える。
(……桜衛門の頭ン中、今凄い事になってるんだろうな……)
(んぁああああさくちゃんんん!!もはやただの慈母じゃねぇかぁぁぁぁっ!!!)

そんな三人は、桜衛門と桜之助が決めてくれたらしい、神域の個室居酒屋で再会の宴を楽しんでいた。
幼馴染だけあって、すぐに会話が弾みだす。特に、明るい桜之助が会話を盛り上げていた。
「いやぁ、本当に会えてよかったよ!さくちゃん、元気そうだし!」
「私も、二人の元気そうな顔が見られて良かったです!
やんちゃして、桜衛門に迷惑かけてないでしょうね桜之助?」
「あっ!ひでぇ!今はどっちかと言うと、桜衛門の面倒を見てるのは俺なんだぜ!?」
「ふふっ、そういう事にしといてやるよ」
楽しそうにオーバーリアクションな桜之助の向かい側で、桜衛門は落ち着いた笑顔でグラスを傾ける。
桜衛門の隣に座る桜太郎も、楽しそうにソフトドリンクを飲んでいた。
「桜衛門がさ!“さくちゃんに危機が迫ってる”〜なんて言うから!無駄に心配しちゃったよ!」
「危機だなんて……私の日常なんて、平和そのものですよ」
のほほんと笑う桜太郎に、桜衛門が心配そうに言う。
「でも……妖怪の身で、神の国で一人で暮らすなんて、大変じゃないのか?
良かったら今からでも俺達と一緒に……」
「?私、一人で暮らしてるわけじゃなく……
今は家族と暮らしてるって、手紙の返事に書きませんでしたっけ?」
「…………」
桜衛門、沈黙。
桜之助が“ヤバい!”と思ったけれど、それは止められなかった。
「あぁあああああああ!!思い出したぁぁぁぁっ!!
そうだったチクショォォオオオッ!!その事実を脳が拒否して
記憶から抹殺してたぁぁあああ!!」
「桜衛門!!?」
急変した桜衛門に驚く桜太郎。桜之助が慌ててフォローする。
「きっ、気にしないでさくちゃん!!桜衛門は今日ちょっと体調が悪くて!!」
「えぇっ!?大丈夫なんですか!?」
「大丈夫!全然大丈夫!そ、それよりさくちゃんの家族ってどんな妖怪達なの!?
やっぱ同じ植物系!?さくちゃんと仲良くやってんだから、大人しい感じの奴らでしょ!?
詳しく聞きたいなぁ!桜衛門を安心させてやってよ!!」
「えっ!?ええと、そうですね……恋心姫!っていう、身代わり人形の妖怪の子がいて!まだ幼いからとにかく元気で!
イタズラをして困らせられる時もあるけど、やっぱり可愛くて……!!」
「……ははっ、幼い妖怪の面倒を見て暮らしてるなんて、優しいさくちゃんらしいね」
(よ、良かった……桜衛門が正気に戻った……)
スッといつもの穏やかさを取り戻す桜衛門。桜之助もホッとするが……
「あ、あと!煤鬼っていう鬼もいて……」
「鬼なんかあいつら性欲の塊じゃねぇかぁぁぁぁぁっ!もうダメだ!
さくちゃんの桜が散らされるぅぅうううううッ!!」
「さっ、桜衛門!!?」
またもや錯乱状態に陥る桜衛門。驚く桜太郎。桜之助がまた必死でフォローする。
「さくちゃん気にしないで!桜衛門はええと、そう!あんまり寝てないんだ!!」
「だ、大丈夫ですか!?桜衛門、横になった方がいいんじゃ……」
「さくちゃん!!一番大人しいのは!?家族の中で一番紳士的なのは誰!?
鬼がいたってそいつがさくちゃんを守ってくれてるんだよね!?お願いそうだと言って!
このままじゃ桜衛門が発狂する!!」
「えぇっ!?えっ……と……!!」
桜之助の必死さと桜衛門の狂乱具合に戸惑いながらも、桜太郎は考えて……
思い当った存在を想って頬を染めながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「そっ……そうですね、麿さん……が、私を守ってくれる……んでしょうか?
栗の木の、妖怪の方なんです……」
「おお!栗の木がいるんだ!ほら、桜衛門聞いてるか!?」
「見知らぬ狡猾な鬼めが、性欲を持て余して甘えたら……優しいさくちゃんは“もう、仕方ないですね”って……
四つん這いになって着物の裾を自分で捲り上げて “少しだけ、ですよ?”って……あぁ……あぁああ……」
「お前の妄想怖ェェよ!!しっかりしろ桜衛門!さくちゃんの事は同胞が守ってくれてるんだ!栗の木の!」
遠くを見ながらブツブツ何かを呟いている桜衛門に、頑張って呼びかける桜之助に加勢するかのように、
桜太郎もこう続ける。
「そ、それにあの!鬼が、性欲逞しいのは残念ながら否定できませんが……!
その子、恋心姫と恋人同士なので!彼の性欲は全部恋心姫に向けられるというか!!
このあたり、私も少しは控えさせるようにどうにかしたいと思っているのですが、なかなか……!!」
「……ふぅ。でも、さくちゃんがそんな不健全なカップルと一緒にいるのは不安かな?
その栗の木ってのは、頼りになるの?」
(あ、復活した……)
呆然とする桜之助をよそに、冷静にため息をついて、眼鏡を押し上げる桜衛門。
桜太郎もホッとしたように話をすすめた。
「……頼りなく見えるけど、いざと言う時はとても頼りになる方なんです。
だから私の事は、心配しないで下さいね?他にも、帝さんやぬぬもいますし。
帝さんは私達のリーダーみたいな方で、ちょっとワガママな所もあるけど、彼もとても頼りになるんです。
ぬぬはいつもで冷静で、家族皆に優しくて……あ、ぬぬは山羊の妖怪で、帝さんは……ええと、神様の血が混じってるみたいで。
強力な後ろ盾がある方なんです」
「そっか……で、その帝とかいうヤツとぬぬってのが付き合ってるの?」
「!!すごい!よく分かりましたね!最近付き合い始めたらしくて……見てると、不器用だけれど微笑ましくて……。
でも、幸せになって欲しいです……」
「さくちゃんは、優しいんだね……。
(そいつらが付き合っててくれないと、さくちゃんに手を出される恐れがあるからなぁ……!)」
(桜衛門荒れてるなぁ……)
桜衛門の優しい笑顔の下の思惑に気付いているのは、呆れる桜之助だけ。
その桜之助が、空気を変えるべくまた笑顔で話題を出す。
「でもさぁ、周りカップルだらけってのも、さくちゃん気まずくない?」
「そ、そうだよさくちゃん!!今からでも俺達と……!!」
「あっ、でも……私も麿さんと恋人同士ですので……」
「「………………」」
桜太郎の一言に、桜衛門、桜之助、沈黙。
その後。
「「あぁあああああああっ!!」」
「!!?」
驚く桜太郎の前で絶叫をつづける二人。
「遅かった!遅かったぁぁッ!!俺の勘が当たってたぁぁぁぁ!!」
「ごめんごめんさくちゃんごめん!!俺がしっかりしなきゃダメなのに!
でもこれはショックさすがにショックゥ!!こんな事なら俺も告っときゃよかったぁぁぁぁッ!!」
「あ、あの……あの……??」
「さくちゃん!!」
「はいッ!?」
桜之助に大声で名前を呼ばれた桜太郎は思わず背筋を伸ばす。
目に涙を浮かべる桜之助は、それでも笑顔で言った。
「俺ら二人ともさくちゃんの事、ずっと前から好きだったよ!!
桜衛門なんかさ、さくちゃんの事になると性格変わるくらい!!
でも……おめでとう。はは、恋人が守ってくれてんなら、これ以上の安心ってないよな……」
「桜之助……」
桜之助の笑顔を見て切なくなる桜太郎に、今度は桜衛門が号泣しながら縋る。
「い゛っ、嫌だよぉさくぢゃああああん゛……嘘だど言っでぇぇぇええ゛……!!
俺、ずっとずっと好ぎだっだのに゛ぃぃいいい゛っ……!!大好ぎだよさくぢゃああああん゛……!!
愛じでるのにぃぃいい゛っ……恋人がい゛るなんで言わないでぇええええ゛っ……!!」
「桜衛門……ごめんなさい……」
桜太郎は、桜衛門の肩にそっと触れて悲しそうに言う。
「初めて好きになった方なんです……私をすごく大切にしてくれて、私も彼を愛してるんです。
桜衛門と桜之助の気持ちに気付かないで私……失礼な事を……許してください」
目を閉じて、泣きそうになりながら謝る桜太郎。
桜之助と桜衛門は、顔を見合わせてフッと悲しげに笑う。
「桜衛門、さくちゃんにこれ以上カッコ悪い所見せる気か?」
「黙ってろ。さくちゃんにこんな顔させるなんて、覚悟はできてるんだろうな桜之助?」
「そりゃ、お前だって同罪だろうが」
そんな事を言い合いながら、二人は桜太郎に笑顔を向けた。
「ってことで、俺らの失恋パーティー、付き合ってくれるよねさくちゃん?」
「お願いださくちゃん。今夜は少し、わがままになってもいいだろう?」

「はい、私で良ければ……」

桜太郎も笑顔でそう返事をして、3人の『失恋パーティー』が始まった。
が……
桜衛門も桜之助も、始まった瞬間から酒を飲みに飲んで、すっかり酔っていた。
そしてニコニコ&ベタベタと桜太郎に絡んでいた。
「ほらぁ!さくちゃんも、そろそろお酒飲みなよ!」
「もう!桜之助は飲み過ぎですよ!私は、お酒弱くて……」
「気にしない気にしないさくちゃん!俺も酔ったさくちゃん見てみたい!」
「さ、桜衛門までそんな事言って……!!私、すごい酒乱らしくて!しかも酔ったら脱いでしまうらしくて!」
酔っぱらいの幼馴染達の扱いに困りつつも、飲酒の誘いはキッパリ断る桜太郎。
しかし、(酔った)桜之助はケラケラと笑いながら言う。
「えー!今更そんな事気にするぅ??昔は裸同然で語り合ってたじゃん俺達!」
「そうそう。木に服など不要!あぁ、さくちゃんが気になるなら、俺達も脱いでしまおうか?」
「おっ!いいねー!賛成!だからさ、さくちゃんも飲もうよ一杯くらい!」
「あ、貴方達……!!酔ってるからって悪ノリが過ぎますよ……!
(麿さんと約束したんだけれど……麿さんの名前は出しづらいし……!!
でも、どうにかして回避しないと……!!)」
ますます困り顔で考え込む桜太郎。
そんな桜太郎へ、桜衛門が軽く一言。
「大丈夫だよさくちゃん!女の子じゃないんだから!」
「!!」
その一言で……桜太郎の中の正常判断が崩壊する。
「……ええ。そうですね。男なら飲まないとねッッ!!」
「ははっ!そうこなくっちゃ!皆裸で昔みたいに盛り上がろう!」
「ほら!俺のあげる!甘くて飲みやすいからさ!」
「……あ、ありがとう……(一口くらいなら……!!ごめんなさい、麿さん!!)」
罪悪感を無理やり消して、意を決して、桜太郎が酒を煽る。飲み干す。
そして――
「……桜之助、桜衛門……」
「え?なになに?」
「さくちゃん、お酒おいしい?」
楽しそうな二人の幼馴染へ――
「……テメェら……何服なんか着てるんですかダボがぁぁぁっ!!」
「「!?」」
いきなり立ち上がってブチ切れた。
その後は、いつもの調子で、流れるようにハイテンション脱衣モードへ突入していく。
「木に服なんか要らないんですよ!脱げ!今すぐ脱げほらぁぁぁああっ!
自然派バンザイ!自然派バンザイ!ほらぬーげ!ぬーげ!!」
この桜太郎の変わり様に、桜之助も桜衛門も思わず――
((こんなさくちゃんもイイッ!!))
心ときめかせる。
そして何のためらいもなく立ち上がって服を脱ぎ捨てていた。
全裸で、目を輝かせて想い人を見つめていた。
「脱いだよさくちゃん!」
「さくちゃんもほら!!」
「よくやったテメェら!それでこそ男の中の桜!おおおおっし!私も脱ぐぞ〜〜っ!!」
そう勢いよく宣言して、嬉しそうに服に手をかけた桜太郎。
しかし……
「あ……れ……?」
脱ごうとした矢先、ガタガタと手が震えだす。
「あ、れ?あれれ……?手が、震え、て……あ……あぁ……」
先に涙が流れ落ちて、その後、急に思い出したように泣き出した。
「ど、どうしよう……!!麿と約束したのに……!!お酒飲んじゃダメって、言われたのに……!
うっ、うぇええええっ!お酒飲んじゃったよぉぉおおおっ!!」
「さくちゃん!?」
「さくちゃん泣かないで!?」
座り込んで泣き喚く桜太郎を、桜之助も桜衛門も一生懸命撫でて慰める。
しかし、桜太郎は一向に泣き止まなかった。
「うわぁあああん!麿と約束したのにぃぃっ!約束、破っちゃったよぉぉおお!
うわぁぁあああん!!怒られちゃうよぉおおおっ!!」
「さ、さくちゃん……」
「…………」
桜衛門と桜之助は、全裸で残念そうに微笑んで、こう言った。
「「家に、送ってくよ」」



そして、無事送り届けてもらった妖怪御殿にて。
大泣きの桜太郎を引き取って大慌ての大困りな麿が、ペコペコと桜之助・桜衛門へお辞儀していた。
「ひゃぁぁっ!本当にありがとうございます!ご迷惑を、おかけして!!」
「うわぁあああん!麿に怒られるぅぅぅっ!!」
「あ、はは……怒らないから泣かないで桜太郎君?」
麿が笑って頭をなでると、桜太郎は少し泣き止んで怖々と麿を見つめて言う。
「うっ、うぅっ……本当……?お尻、ぶたない……?」
「しないよ。ほら、笑ってお友達にバイバイしなきゃ。心配してるよ?」
「う、うん……」
こんな麿と桜太郎のやりとりを見つめる桜之助と桜衛門の心の中には、怒りと嫉妬が渦巻いていた。
(んだこの地味野郎……!!俺はお前なんて認めてないからな!って言ってやりたい……!!)
(くそっ、地味メンじゃねぇか……言ってやりたい……!お前なんかにさくちゃんはもったいないって言ってやりたい……!!)
しかし口には出さず……
その時。
「桜衛門!桜之助!バイバイ!また遊ぼうね!」
「「!!」」
向けられた、桜太郎の幸せそうな笑顔。
桜之助と桜衛門は一気に胸が切なくなって、思わず……
「麿さん……」
「さくちゃんを……」
「「桜太郎を、宜しくお願いします!!」」
二人同時に勢いよく、深々と麿へお辞儀をしていた。
対して麿は……
「は、はい!一生大事にします!!」
顔を真っ赤にしながら、幸せそうに笑ってそう返したのだった。


妖怪御殿を後にした桜之助と桜衛門は、俯いてトボトボと歩く。
「……桜衛門……」
「……何だ桜之助……」
「戻って飲み直そうぜ」
「奇遇だな。俺もそう言おうと思ってた」
「「はぁぁぁ……さくちゃぁぁぁん………」」
こうして、二人の桜妖怪の恋は、ため息が儚く舞う闇夜に散ったのであった。



一方、麿は桜太郎を共同の自室に連れて来て、二人で座って言った。
「桜太郎君はもう眠いんでしょ?寝ようか」
「……う、うん……う〜〜ん……」
「どうかした?」
すぐにでも布団に飛び込みたがると思った桜太郎が、歯切れ悪い様子で麿は首をかしげる。
桜太郎は、俯いて少しモジモジした後、上目づかいに麿を見て言う。
「……麿……怒らないの?」
「え?」
「本当に……お尻、ぶたないの?」
「えっ……?」
桜太郎の意外な言葉に麿は呆然としてしまう。
その間に、桜太郎はみるみる涙目になりながら言葉を続けていた。
「私が、悪い事したら叱ってあげたいって……言ってたのに……
約束破ったから、私の事嫌いになって、どうでもよくなっちゃったの……??」
「ち、違っ……」
「私っ、私脱がなかった!!脱げ、なかった……!!信じて……!!」
「桜太郎君……」
ボロボロと涙を流して、必死な表情の桜太郎。
その真剣な表情から“言っている事は信じられる”と、麿はそう直感して、
困ったように笑って……
「そうだね……約束、破るのは悪い事だもんね。
僕も怒る権利はあるのかな……全くさぁ〜〜……」
少々乱暴に桜太郎の手を引いて膝へなぎ倒す。
「ひゃっ!!?」
驚いて悲鳴を上げた桜太郎へ、躊躇なくズボンを脱がせて下着を下ろして……
怒りと苦悩を吐き出す様に絶叫していた。
「何でお酒飲んじゃうかなぁぁあああっ!?“絶対飲まないで”って言ったのにぃぃぃっ!!」
ビシッ!バシッ!ビシッ!!
急に大声で怒鳴られて、しかも裸のお尻を強く叩かれ始めた桜太郎。
慌てて、反射的にもがきながら謝った。
「わぁああああっ!?麿!ごめんなさい!ごめんなさぁぁい!」
「うんうん分かってるよ〜〜ごめんなさいだね〜〜?
酔って大声出してんのは分かってんだよ!
いっつもいっつもいっつも、こうやってお仕置きしてるんだよ!?覚えてない!?
覚えてないねェ!?寝たら明日にはどうせ忘れちゃうもんね!?」
バシィッ!バシッ!バシッ!!
「ひぃぃんっ!麿怖いよぉぉおおっ!!」
「良かったぁぁッ!僕みたいなのでも本気で怒れば迫力出る!?
ねぇっ!?君が酔って帰って来た時の僕の絶望感分かる!?
あぁ、幼馴染さん達の前で脱いだんだって……
何より、僕と約束したのに“お酒を飲む”って判断をした、君に裏切られた感分かる!?ねぇ分かる!?」
バシィッ!バシッ!バシンッ!!
麿に感情的に怒鳴られれば怒鳴られるほど、彼の叩く手も強まってきて、
桜太郎は早くも泣きそうになりながら必死で謝りまくる。
「うわぁああああん!私脱いでないぃっ!ごめんなさい!ごめんなさぁぁい!」
「アハッハァッ!脱いでないのは信じてあげるぅ!
“脱いでない”って言った時の桜太郎君、必死だったから!
でもざぁぁああんね〜〜ん!君が約束を違えた事実は消えないの!
ねぇねぇ何考えて約束破ったの〜〜っ!?教えてよ!ぜひ教えて!!ほら今早くぅぅっ!!」
バシィッ!バシィッ!!
テンション高めに怒っている麿に、急かされるようにお尻を打たれて、
桜太郎も必死で涙声で叫んだ。
「うわぁああああん!さっ、桜衛門が!“女の子じゃないんだから”ってぇぇっ!
私っ、私それでっ!女の子じゃないからぁぁぁっ!!」
「…………そっか……そうだったんだ……」
急に、スッと冷静な声色になる麿。
手もパタッと止まる。
桜太郎は息を切らせながらも、“終わったのか”と安堵した。
「あっ、はぁっ、麿……許して、くれる……??」
「は?全然???」
ビシィッ!!
「やぁああああっ!!」
のは束の間で、麿はまた激しく桜太郎のお尻を叩き始める。
叩きながら怒鳴りはじめる。高テンションで。
「何そのくっっっだらない見栄の為に約束破りましたってオチ!笑えない笑えない笑えない!!
全然ダメ桜太郎君!!もしかしたら、すっごく仕方が無い理由があって、桜太郎君が悩みに悩んで、苦渋の選択で、
清水の舞台から飛び降りる覚悟で!お酒を飲んだんだったら……って淡い僕の期待返して!!」
ビシッ!バシィッ!バシッ!バシッ!
「ああぁあぁっ!返す、返すからぁっ!やだぁぁっ!!」
「そっかぁ、ありがとう!!それじゃあ、今この瞬間、体で返してね??まぁ体って言うかお尻?」
「うわぁああああん!!ごめんなさいごめんなさぁぁい!!」
「えぇ〜〜返してくれないの〜〜?じゃあいいや。僕が勝手にかつ強制的に回収するから!」
ビシッ!バシィッ!バシィッ!!
桜太郎がいくら喚いても、麿の妙にテンションが高くて辛辣な口調は変わらなかった。
そして、お尻を叩く強さも。
桜太郎のお尻はだんだん赤くなってきて、涙も我慢できずに零れてくる。
つまり本当に泣きわめき始めた。
「ふぁああああん!うわぁああああん!ごめんなさい麿痛いぃぃっ!!」
「ふふっ、そろそろ眠くなってきたんじゃなぁい??ちょっくらパワー上げちゃおっかなぁぁぁ!!」
「眠くなっ、痛い!痛いごめんなさい!わぁああん!麿ごめんなさぁぁい!!
うわぁあああん!麿がさっきから変!麿も酔ってるぅぅぅっ!!」
「酔ってないよ!ただ桜太郎君の事、柄にもなく本気で怒ってるから変なテンションになってるだけで!」
ビシッ!バシッ!ビシィッ!!
「ご、ごめんなさぁぁい!許して!もう許してぇぇッ!」
桜太郎の方は、泣きながら謝るけれど麿は気にも留めずに明るく言う。
「ねぇねぇ桜太郎君!僕ね、酔った君をお仕置きする時の事で、前から考え立てた事があるんだ!
聞きたい!?聞きたいでしょ!?聞きたいって言いなよ!」
「き、聞きたい!!聞きたぃぃっ!!わぁあああん!!」
麿にお尻を叩かれ続ける桜太郎からすれば、痛みから逃れたい一心で、
自分の意思とは関係なく麿の言いなりになるしかなかった。
それを麿は知ってか知らずか……とにかくテンションは変わらない。
「そ・れ・は、一回桜太郎君の酔いが醒めるまでお仕置きしてあげようって事!
記念すべき第一回がこの良き日になって何よりだよ!」
「やだぁあああっ!やだ!もう酔ってない!醒めたぁぁぁっ!うわぁああああん!
麿!もうやぁ!痛いのやだぁぁっ!」
「ダメだよ嘘ついても!素面なら桜太郎君は僕を“麿”だなんて呼ばないもの!
……って嘘つかれてるじゃん僕!!息をするように嘘を!桜太郎君ったらまだ反省してないの!?
あーあ、やっぱりもっとキツイお仕置きにしなきゃダメ??」
「うわぁあああん!ごめんなさい!麿サン!麿サン!!」
「そんなカタコトで誤魔化されないからね!?僕を舐めてるのかな!?」
桜太郎も痛みで上手く頭が回らない中で、必死に言い逃れようとするが、
全部裏目に出て麿を怒らせて(?)しまって、麿は輝く笑顔で言う。
「でも、チャレンジ精神あふれる桜太郎君って素敵だよ!
これつまりすなわち“道具を使ってもっと厳しくお仕置きしてOK”って事だよね!」
「うわぁあああん!やだぁぁぁああっ!嫌だぁぁッ!!」
「道具が君の専売特許だなんて思っちゃダメ!僕も素敵な道具持ってるんだから!
例えばほら!いつも煤鬼君に使うヤツ!」
「うわぁあああん!うわぁああああん!!嫌ぁぁ!やだぁぁぁっ!お願い!嫌ぁぁぁっ!」
「でもそんな事言ったって僕、他にお仕置きの道具持ってないし!」
「あぁあああん!これ!これぇぇっ!これ使っていいからぁぁッ!!」
お尻は痛いし、麿は何だか怖いしで怯えきっている桜太郎は、
泣きながら自分で召喚したしゃもじを麿に必死で差し出す。
麿の方も素直にそれを受け取って喜んだ。
「わぁ!ありがとう!それにしても、なかなか酔いが醒めてこないね桜太郎君?
もし、ずっと醒めなかった時の為に……いっぱい跡付けて翌朝残るくらい痛くしておこう!
さすがにそしたら、少しは思い出してくれるよね!?」
「うわぁあああん!やぁあああああっ!!もう痛い!絶対跡になってるぅぅっ!!」
「そう?だったら嘘ついた事も含め、十分反省してください!!」
バシィッ!ビシッ!ビシィッ!!
脅されまくって、あまつさえたっぷり痛めつけられ済みのお尻を道具で叩かれて、
ますます泣かされる桜太郎。お尻も真っ赤になっていた。
「うわぁあああん!痛い!痛いぃぃっ!ごめんなさぁぁい!!」
「反省した!?ただ反省してもダメだよ!?深く深く反省した!?」
「うぁああああん!反省したぁぁっ!ごめんなさい!ごめんなさぁぁぁい!!
もうしませんからぁぁっ!!」
「まぁ、さすがにこれだけお尻真っ赤にしちゃえば、酔った桜太郎君と言えども反省するよね〜〜??」
「うわぁああああん!うわぁあああん!!」
「でもまだダメ〜〜!ふっふふ!そうだ!どうせ忘れちゃうんだから!普段言えないような事言っちゃおう!
よぉ桜太郎君!今日の桜太郎君はとっても悪い子だったから!このお尻ぺんぺんが終わったら、
エッチなお仕置きもやっちゃおうか!僕ら恋人同士だもんね!」
ビシッ!!バシッ!バシンッ!!
「っ!?ひ、ぁっ、うわぁああああん!うわぁああん!!」
桜太郎は驚いたように目を瞬かせて、またすぐに泣き喚く。
テンションが最高潮で下ネタに走っている麿は、楽しそうに言葉を続けている。
「あれぇぇっ!?“嫌”って言わないって事は同意かな!?嬉しいなぁぁぁ!
僕前から桜太郎君にやってみたい事あったんだよね!たっ、例えばちょっとおっぱい触るとか!
いや、それを言うなら桜太郎君の桜の枝とかちょっと触ってみたいかなぁって!
きき、き、キスとか!ほら、恋人の!恋人のキスとかしながら桜太郎君のあらゆる性感帯に
ベタベタゴシゴシ触りたいかなぁって!!ふへへ!」
ビシッ!ビシィッ!!バシッ!
「あぁああああん!!うっ、ぐぅっ……ふぁぁぁっ!!」
「んん??桜太郎君、悲鳴が何だかおかしくない!?もしかしてぇ、興奮しちゃってる〜〜??いけないんだ!
どうするの〜〜?この部屋桜のいい匂いでいっぱいになっちゃうよ〜〜!!」
「んっ、ぁ、ごめんなさい麿さん……!!いきなり、そういう……激しいのは……!!」
「!!?」
「かっ……勘弁、してくださっ……ご、ごめっ……なさっ……!!」
「……………」
この瞬間、麿は膝の上の桜太郎の体をスッと下へ下ろして土下座していた。
「いえ滅相も無い!謝るのは僕の方です本っっっ当にもうしわけありません!!」
桜太郎は涙を拭いながら、ヨロヨロと起き上がって、それでもすすり泣いている。
「うっ、ぐすっ……こう、なっていると、いう事は……!!
私っ、私は……ごめんなさい!!ごめんなさい!!麿さんと、約束したのに!!
うっ、裏切って……!!恋人失格です……!!」
泣きながら悲しんでいる桜太郎を、いつもの穏やかさに戻った麿がそっと肩を抱いて慰める。
「そんな……!!もう僕が十分お仕置きしたんだから、そんなに思い詰めないで!!
それに桜太郎君、服は脱がなかったんだ!お酒は飲んだけど、僕との約束守ろうとしてくれたんだよ!」
「で、でも……!私、記憶が……!!」
「酔ってる時の桜太郎君が教えてくれたよ!僕は信じる!嘘をついてる感じじゃなかった!
……酔ってる桜太郎君の嘘は分かりやすいからね?」
「麿さん……」
桜太郎に感激したようなウルウルした瞳で、見つめられて……
麿は罪悪感に肩を落としつつ言った。
「……って、こんな風に“優しい恋人”気取っても、さっきの変態セリフで台無しなんだけど……」
「……い、いえ……貴重なご意見……あの、参考に……なりました……」
ポッと頬を赤らめつつ、桜太郎が着物の合わせ目で手をモジモジさせながら言う。
「……と、とりあえず……胸を出せばいいですか?強く触られるのは怖いのですが……」
「ううん!!寝よう!今日はとりあえず寝よう!!桜太郎君もお出かけしたし、お仕置きされたしで疲れちゃったよね!?」
「……は、はい……!!」
(あぁああああっ!忘れて欲しい!僕の恥ずかしい発言は全力で忘れて欲しい!!
そうだ!酔って寝た桜太郎は記憶が消去されるんだ!!それに望みをかけよう!!)

麿はあまりの恥ずかしさで、無理やり就寝を選んだ。
しかし……結局は眠れず、しかも
(せっかく桜太郎君がその気になってくれたのに、断ったのはもったいな……いや、失礼だったかな?
僕は据え膳を食べ損ねた恥さらし野郎なのかなぁ……)
と、眠れない間中、悶々と悩んでいたのだった。

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【おまけ】

――翌朝


桜太郎「あ!あっ、お早うございます!麿さん!!あの……朝ご飯は……もうすぐ、なので……その……」
麿  「(やっぱりダメだったぁぁぁぁッ!!)そ、っそっか!僕は……皆と待ってようかな!手伝わなくて大丈夫!?」
桜太郎「は、はい!!」

恋心姫「わ〜〜ん!麿〜〜!煤鬼がねぼすけさんでどこ叩いても起きないんですよぉ!お尻もぺんぺんしたのに!」
麿  「そ、そっか!一緒に起こしに行こう!他の皆は起きてる?」
ぬぬ 「俺は起きてる。誉は実家で泊り」

麿  「えっ!?帝さん実家に帰ってたの!?いつの間に……!」
ぬぬ 「……桜太郎が行く居酒屋を裏から特定しようとして、和王に見つかって失敗したらしい……」
麿  「帝さん、桜太郎君に対しては怖いくらい過保護だよね、っていうか過干渉……??」
桜太郎「私ちょっとゆっくり話し合ってみますね……」
ぬぬ 「……向こうである程度反省してくるだろうから、お手柔らかに」



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