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妖怪御殿のとある一日 引っ越し後10
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桜太郎「つまり、帝さんは神様と人間のハーフで……和王という神王様の息子。王子様だったんですか……」
帝「そう。高貴な余の素性にピッタリであろう??」
桜太郎「(と、言いますか……何で誰に対しても態度が大きいのかと思ってた謎が解けました。)
      えっと……今まで通りに接していてもいいんですよね?」
帝「いやいや、桜太郎?余は皇子なのだから何でも言う事を聞いて、
  体を触っても大人しく寵愛されていなければならんぞ?」
桜太郎「……前言訂正いたします。今まで通りに接していきますね!?」
帝「何だワガママな奴だなぁ……姫ぇ??姫には鬼なんかより余の方が恋人として合ってるぞ?
  なんせ皇子だからな!どうだ?余に乗り換えるか?」
恋心姫「ヤですよぉ。何言ってるんですか妾に恋心も無いくせに!」
煤鬼「こんな奴、絶対に特別扱いなんかせんぞ!王子だか何だか知らんが調子に乗るなよ!」
麿「ふふっ、帝さんは、皆に今まで通り接して欲しいって言いたいんですよね?」
帝「麿以外はな。お前だけは敬えよ?」
麿「ええっ!!?仲間外れにしないで下さいよ〜〜!!」
桜太郎「も〜〜っ!麿さんをいじめないでください!
     帝さんは今まで通り我々家族の一員です!特別扱い無し!はいッ!この話はお終い!」
帝「あーあ、せっかく余が天下を取れると思ったのに失敗したな♪」
ぬぬ(……俺は、幸せそうに家族を見ている誉の笑顔が、一番好き)

******************

本日は、帝が生家に足を運んでいるため、帝不在の妖怪御殿。
帝以外のメンバーが何となく食卓に寄り集まって団欒しているが、
恋心姫だけ両手に持った湯呑を見つめて元気が無かった。
その恋心姫を膝に座らせている煤鬼が声をかける。
「黙りこんでどうした恋心姫?」
「……帝……これから先、とと様のお家で暮らすんでしょうか?」
「「「「…………」」」」
ぽつりと呟いた恋心姫の言葉に全員が黙り込んで、恋心姫の寂しそうな声が小さく続けた。
「妾、寂しいですけど……きっと、帝のためには、とと様と一緒の方がいいんですよね?
とと様と一緒に暮らした方が、帝は幸せですよね……?」
「それは帝が決める事だから、こっちがいいと思うなら戻ってくると思うぞ?」
煤鬼が恋心姫の頭を撫でてそう慰めると、桜太郎も寂しそうに目を伏せる。
「帝さんも、もう大人ですし……!
……しかし、今までお父様と確執があったとなると……
親子一緒に暮らして、幸せな時を過ごしていただきたいですね……」
「帝さんの名乗ってる“帝”ってさ……」
今度は麿が口を開いて皆が一斉に注目した。麿はしんみりした笑顔で言葉を重ねる。
「人間の、王様の呼び方だよね。帝さん、王様になりたかったのかもしれないね……。
お父さんと仲直りできたら、王様になる事も出来るのかも……そうしたら向こうで暮らすことに……」
「違う……!」
そう、麿の言葉を静かに否定したのはぬぬだった。
ぬぬは珍しく大声で言う。
「昔は!その名前を考えた時には、確かに王位に未練があったかもしれない!!
けど、今の帝は家族が大好きだ!本当に幸せそうなんだ!もう、王になる事なんか望んでない!!」
「ぬぬ……君……」
キョトンとした麿の言葉に、皆の顔に……ぬぬはハッとして俯いた。
「!!、す、済まない……大声を出して……」
「ううん。僕も、考え無しに変な事言ってごめんね。ぬぬ君の言う通りだと思う」
麿が優しく笑うと、桜太郎も表情を和らげて皆に言う。
「……とにかく、我々がアレコレ考えても仕方のない事ですよ。
帝さんの事は、帝さんの判断に委ねましょう?もし、こちらに戻ってくださるのなら嬉しいし……
あちらで暮らす事を選んだら、笑顔で送り出してあげましょう?ね?」
「あれだけ必死に俺達を“妖怪御殿”に縛り付けようとした帝が、
この妖怪御殿を出ると言ったらそれはそれで、笑えるけどな」
「もう煤鬼!」
桜太郎に軽く咎めるように呼びかけられた煤鬼は、それでも澄まし顔で。
しかし、相変わらず元気の無い恋心姫には、明るい笑顔を向けて撫でて慰めた。
「大丈夫だ恋心姫。帝は戻ってくる。
戻って来なくても、ずっと会えなくなるわけじゃない」
「妾……平気です。帝の幸せのためですもの……」
口ではそう言った恋心姫だが、瞳は不安げに揺らいでいた。


しばらくして、気分の晴れないらしい恋心姫がトボトボ家の中を歩いていると、
ぼんやりと縁側に座っているぬぬに出会う。
恋心姫は、縋る様に声をかけた。
「ぬぬ!何してるんですか?考え事ですか?」
「ん……?あぁ……」
恋心姫は元気よく隣を陣取って座って、いつも通りのぬぬの無表情から
必死に感情を読み取ろうと、じーっと覗き込みつつ話しかける。
「ぬぬも、帝が違うお家で暮らすことになったら、寂しいですか?!」
「……寂しい。でも、帝の幸せは祝福したい……」
「んん……」
大人な……皆と同じような回答に恋心姫は何も言えず顔を伏せるが、
「……と、思ってた。思ってたけど……」
「!!」
続けて何か言いたげなぬぬに、恋心姫は慌てて顔を上げてぬぬを見る。
ぬぬもまた、恋心姫の顔を見つめて言った。
「……恋心姫?俺は……帝に恋心があるんだろうか?」
「えっ……?」
「俺は……最近、帝の事を考えると、自分の気持ちが分からなくなる。
今までと同じような……違うような……」
「…………」
恋心姫はしばらくポカンと口を開けた後、ニッコリと微笑んだ。
「そっ……そういう事は、自分で気付いた方がいいですよ!!
妾、キンキュージタイ以外は、他の恋心は本人達には言わない事にしてるんです!」
「……そうだな。自分の気持ちは自分で考えた方がいい。ありがとう」
ぬぬもほんのりと笑う。
「もし、ぬぬが帝の事が好きだって……恋心、確信できたら、応援しますからね!
ぜひ言ってください!」
「ありがとう。気持ちにケリがついたら報告する」
恋心姫はぴょこんとぬぬの隣から立ち上がり、手を振って小走りにその場を離れる。
そして、誰もいない所まで来ると……
(な、んで……何で、あんな大きな恋心……今まで妾、気づかなかったんでしょう……!?
すごい……こんなの、煤鬼の恋心以来です……!!)
真っ赤な顔で胸元を握って震え、考える。
(や、やっぱり、このまま帝をぬぬと離れ離れにしちゃダメです!!
帝が王様なんかになったら、気楽に会えなくなるかも……!!
嫌です!寂しい!それに、ぬぬの恋、叶えてあげたい……!それに……)
恋心姫はきゅっと表情を歪めた。
(和の所にはあの女がいます!あの泥棒猫!帝にとっては“ママハハ”というヤツです!
優しい穂摘様から男をかすめ取る女ですもの……いじわるな女に決まってる……
きっと、帝はいじめられてしまいます!妾、そういうの絵本で読んだ事あります!
帝を……助けに、行かないと!!)
そう、心に決めた恋心姫。
さっそく妖怪御殿を抜け出そうとしたが、しかし……
「恋心姫?」
「ひゅあっ……?!煤鬼……!」
運悪く(?)煤鬼に見つかってしまった。
煤鬼は心配そうに屈んで恋心姫の顔を見る。
「どうした?顔が赤いぞ?具合が悪いのか?」
「あっ、あのっ、そういうわけじゃ……」
真っ赤な顔で狼狽する恋心姫を見て、
最初は心配そうにしていた煤鬼も、何かに気付いたように顔をニヤ付かせる。
そして恋心姫を抱き込んで体をまさぐった。
「……なら、俺を誘ってるのか?」
「ぁっ……はぁうっ そういう、わけじゃ、そ、う……!!」
「んん?よく聞こえんぞ?」
耳元で甘く囁かれ、情熱的に体を撫でまわされて、恋心姫は目をトロンとさせて
思わず――
「んぁっ そう、かもしれません……
「悪い子だな……
誘惑に負けていた。
ので結局、夜にどうにか煤鬼を先に寝かせて、こっそりと妖怪御殿を抜け出すことになる。


恋心姫は寝間着の着物に軽く上着を羽織った姿で、暗い山道を茶屋までやってくる。
ここからは得意の“人形もどき”を大量生成して飛ばして、どうにか和の城を探り当て、
人形もどきの寄せ集めに乗ってどうにか城までたどり着いた。
そして……

(うぅう!皆頑張って下さいね!妾を落とさないで下さいね〜〜!!)
人形もどきの寄せ集めに乗って、城の壁を登って。
そんなに高くない部屋で、体を預けられそうな窓のへこみを見つけたので乗り移って、中を覗く。
中で眠っている者の姿を見て、恋心姫は驚いた。
(和!?……に、してはちっちゃいです……!!ちっちゃい和?)
しばらく不思議そうにじーっと見ていると、“ちっちゃい和”の方がふわりと目を開けて、
何となく窓の方を見て……驚いた顔をした。
『きゃっ!?』
「ひゅいっ!?」
聞こえた悲鳴に恋心姫も驚いて、人形もどきが全部崩れ落ちる。
ちっちゃい和の方は窓を開けて笑顔で迎え入れてくれた。
ベッドの上に向かい合って座って、二人の“姫”が顔を合わせる。
「驚いた。まさか立佳様以外に先に夜這いされてしまうなんて……貴女はだぁれ?」
「……妾、恋心姫と言います。起こしてごめんなさい。帝はいますか?」
やや怖気づきながらそう言った恋心姫。
ちっちゃい和は驚きながらも納得した風に言う。
「みかど……?あぁ!誉お兄様の!貴女が私より“百万倍可愛い”恋心姫様ね!
お会いできて光栄だわ!ふふっ、本当に小さくてお可愛らしい♪」
「……誉……お兄様……??」
「初めまして。私は和王の第一王女、尊といいます。
誉お兄様とは、母親が違うけれど兄妹になるの。よろしくね」
「…………」
「……恋心姫様?」
ちっちゃい和……改め、尊の呼びかけも聞こえない様子の恋心姫は、
驚愕の表情で目を見開いたままプルプルと震えだす。
そして小さな声でブツブツと呟いた。
「……穂摘様というものがありながら……帝……誉も、いるのに、他の女ともえっちしたんですか……?」
「……え?」
「和は穂摘様を本気で愛してた……新しい恋人がいるのは百歩譲って許しました……
でも、でも……た、宝様は一度も穂摘様とえっちした事無かったのに……!!」
「……何か、言ってますか恋心姫様??」
「貴方なんか!!」
「きゃっ!!?」
恋心姫が飛び掛かる様に尊の胸倉を掴んだ。
そして思いっきり怒鳴る。
「帝は貴方なんかの兄じゃない!!妾達の家族です!!返して!!」
「……ふふふ♪私、とことん女の子には嫌われてしまうのね!
やっぱり立佳様のお嫁さんになるしかないわ!お父様に言っておかなくっちゃ!」
掴みかかられても余裕の尊は、恋心姫にものんびりと言う。
「恋心姫様?その手を離して……乱暴はよしてくださる?誰か呼ばなくてはいけなくなるわ」
「黙れ!!早く帝の居場所を教えてください!!」
「誉お兄様は、お父様とお休みになっているの。起こさないであげて。
また明日、会いに来てくださる?お家まで雪里に送らせるし……あ、泊まっていくなら部屋を用意するけど」
「誉お兄様だなんて呼ばないで!!馴れ馴れしいですよ貴方!!」
「あら、ごめんなさい。また可愛い方に馴れ馴れしいって叱られちゃっ……」
言いかけたその時。
扉が遠慮がちに開いて、黒い狐耳の青年がそっと覗き込んできた。
「ひ、姫様?起きていらっしゃるのですか?――!?誰だお前は!?姫様から離れろ!!」
青年は恋心姫を威嚇するように小刀を抜いて向ける。
「ひっ!?いやぁあっ!!」
「やめて雪里!!小さい子に刃物を向けるなんて酷いわ!彼女は誉お兄様の家族よ!」
丸まって異常に怯える恋心姫を庇うように尊が手を広げて、青年……雪里を怒鳴る。
「っ、誉様の……?も、申し訳ありません……」
すると、雪里も落ち着いて小刀を戻すけれど……恋心姫はまだ丸まってガタガタ震えながら泣き出した。
「帝を返してぇっ……!す、煤鬼!煤鬼ぃっ……!!」
「恋心姫様?大丈夫?もう平気よ?」
「触らないで!触らないで下さい!うわぁあああん!!」
「困ったわね……」
泣きながら尊の手を払いのける恋心姫に、尊が困り果てる。
そうしていると、開いたドアから別の誰かが入ってきて……
「み、尊……まだ起きてるの……?」
「あ、お母様……」
「!!」
恋心姫が尊の母……王妃の更を睨みつけると、
一瞬で現れた人形もどきがすごい勢いで更に向かって飛んでいく。
「更様!!」
とっさに動けなかった更の前に雪里が飛び込んで、素手で人形もどきを薙ぎ払う。
人形もどきは一瞬で霧散したけれど、雪里は恋心姫の肩を掴んで怒鳴った。
「お前!!自分が何をしたか分かってるのか!!?」
「うわぁあああん!!煤鬼ぃ!帝ぉぉっ!!」
大泣きする恋心姫を見た尊と更が慌てて庇う。
「やめて雪里!!泣いてるじゃない!」
「雪里、私は大丈夫だから……!!」
「雪里……命が惜しくばやめて」
最後の妙に冷静な、低い声に皆が一斉に声の方を見る。
白髪に二本の角を持った青年が、器用に窓から部屋の中に入ってきていた。
「その子に手を出すと、鬼に殺される」
(((誰!!?)))
尊、更、雪里の疑問がシンクロする中、恋心姫が入って来た青年に泣きながらしがみつく。
「ぬぬぅっ!!」
「恋心姫……いいか。後で言う」
白髪の青年=ぬぬは恋心姫に何か言いかけてやめ、尊達の方に真面目に言った。
「俺……私はぬぬ。誉様のペット。夜分遅く、お騒がせして申し訳なかった。
この子は私が連れて帰る。もうこんな事はしないように、皆で良く言い聞かせる。物理で。
だから、許してやってほしい。……土下座した方がいいだろうか?」
「い、いえ!大丈夫よ!ありがとう!お迎えが来て良かったわね恋心姫様!」
「こ、今度ゆっくり、皆さんで遊びに来てくださいね……?」
驚きながら快く許してくれた尊と更。
雪里だけは複雑な表情で警戒しながらぬぬに言う。
「……今度、我が姫や王妃に手を出したら、例え幼子であっても容赦はしない。
本当によく言い聞かせてやってくれ」
「!!……なるほど。承知した。本当に申し訳ない。恋心姫、“ごめんなさい”して」
「帝は絶対に渡しませんよ!ぁ、貴女なんかより!穂摘様の方が美人だし!優しいし!お、おっぱいも……むぎゅ!!」
ぬぬは恋心姫の口を塞いで抱き上げて、冷静に立ち去ろうとする。
「失礼。この子は後で締め上げて、改めてお詫びの書状でも書かせる。本当にお騒がせしました」
「待って……!!」
そんなぬぬを、恋心姫を……更が呼び止めて笑顔で言った。
「穂摘様が素敵な女性なのは間違いないと思います。和様が、選んだ方ですもの。
だから、私が、永遠に穂摘様に敵わないのは……それは、分かってますから。大丈夫ですよ」
「!!……わ、分かってれば、いい、です……」
「……失礼します」
ぬぬは今度こそ窓から飛び降りていった。
静かになった部屋で、尊が一生懸命更に話しかける。
「お母様……わ、私!大きくなったらお母様みたいに素敵な妻になりたい!!」
「更様が!前の、妃……でもなく、前の恋人に敵わないなんて、そんな事ありません!!
和様も更様をとても愛していらっしゃいます!!」
雪里も一生懸命そう言って、更はにっこりと、少し悲しそうに笑った。
「ありがとう二人とも……」


一方、ぬぬに連れられて妖怪御殿へと帰る恋心姫。
ぬぬが肩に抱えた恋心姫に話しかけながら高速で走っている。
「恋心姫、ヤバい。これはヤバい。本当にヤバい。
一晩中……いや、一日中泣き喚く事は覚悟した方がいい」
「うっ、うぅっ……」
「とりあえず、俺が三時間は泣かせる」
「やですぅぅ!!うわぁあああん!!」
「ちなみに煤鬼は、大慌てで恋心姫を探し回った挙句、
迎えに行く役を数分俺と揉めて、頭を抱えて叫んでた。襖が一枚吹き飛んだ」
「うわぁああん!妾またボッコボコにされちゃいますぅぅぅ!!」
恋心姫が泣き出しても、ぬぬは冷静に脅しまくって、叱る。
「悪い子は自業自得。暴力は絶対ダメ。それに、夜に出歩くと、皆心配する」
「ぬぬぅ!ごめんなさい!だって帝を取り返そうとして!そしたらあの女が!
うう、もうしません!煤鬼に一緒に謝って下さい!」
「嫌。それに、煤鬼にだけ謝っても無駄。桜太郎も相当怒ってる。麿も困ってた。俺もガチギレ」
「わぁああああん!ごめんなさぁぁい!!」
結局、泣きながらぬぬと会話していた恋心姫が、妖怪御殿へ到着すると……


「恋心姫ぇぇぇっ!!覚悟はできてるんだろうなぁぁぁっ!!?」
「うわぁああああん!ごめんなさぁぁぁい!!」
お怒りモードの煤鬼に勢いよく抱き上げられて、怒られて、引き続き泣くことになる。
「危ない事ばかりしおって懲りん坊主だ!今すぐ、う――んとお仕置きしてやりたいところだが、
なんせ恋心姫が悪い子過ぎて頭に血が上って……今、お仕置きしたら大怪我をさせてしまう!
だ・か・ら!先に誰かにお仕置きしてもらって、俺は後で無茶苦茶お仕置きしてやろう!
さぁ選べ!先にこの悪い尻を誰にお仕置きして欲しい!?ん!?全員か!?ほら早く言え!!」
ビシッ!バシッ!ビシィッ!!
「うわぁああん!痛ぁい!ごめんなさい!もうしません!やぁあああっ!!」
着物の上からでも、煤鬼に強めにお尻を叩かれて、恋心姫は余計に泣いていた。
それでもぬぬは冷静に片手を上げて……
「リクエストが無いなら俺が立候補する」
「私も。暗い中出歩くなんて言語道断ですよ。きっちりお仕置きさせていただきます」
桜太郎も負けじと参戦していた。そして麿は……
「ぼ、僕も……」
「うわぁあああん!ごめんなさい!ごめんなさぁぁい!!」
「あー……の、僕は今回遠慮しとこうかなぁ……」
気弱く辞退して。
煤鬼は恋心姫のお尻をベシベシ叩きながら声をかける。
「なら、俺を含め3人か……モテモテだなぁ恋心姫!?」
「やぁああああっ!妾、煤鬼だけでいいです!煤鬼以外にモテても嬉しくないですぅぅっ!!」
「……おい、じゃんけんしろ。一人減らせ」
煤鬼の小声で、ぬぬと桜太郎が顔を見合わせてじゃんけんをした。

その結果。
「勝った」
「う〜ん……残念。これ、私の代わりに使ってください」
「ありがとう」
ぬぬが桜太郎からしゃもじを譲渡されて、恋心姫が泣き叫んでいた。
「やぁああああっ!うわぁああああん!!」
「恋心姫、泣いても無駄。俺は煤鬼じゃないから……容赦しない」
「おいこら。俺だって容赦せんぞ?」
煤鬼がぬぬに恋心姫を引き渡そうとすると、恋心姫は首を振って嫌がって、
必死に煤鬼の方へ体を捻ろうとする。
「うわぁああん!痛いの嫌ぁぁっ!痛いの嫌ですぅぅ!!」
「だったら、悪い事しなければよかったのに。反省して」
ぬぬはそっけく言うと、恋心姫の体を受け取って、床に座って膝へ横たえる。
そして着物を捲って下着を取り払って恋心姫のお尻を丸出しにして、しゃもじで叩き始めた。
ビシッ!!バシッ!!ビシッ!
「ひゃぁあああんっ!!痛い!痛いぃっ!ごめんなさぁぁい!!」
「一人で夜出歩くような子はまだ許さない」
「うわぁああん!本当はお昼に行こうと思ったけど!煤鬼とえっちしてたから行けなかったんですぅ!!」
「……まぁ、昼でも……そもそも、誰にも言わずに一人で帝の所に行くのもどうかと思う。
急にいなくなったら、皆心配する」
バシッ!バシィッ!ビシッ!!
「うわぁあああん!ごめんなさい!もう勝手にお外ウロウロしないです!
暗くなってからも勝手にお外ウロウロしないです!!だから許してぇぇッ!!」
「うん……じゃあその事は、あと100回くらい叩いたら許してあげる」
「やぁあああっ!そんなにいっぱい嫌ですぅぅっ!
お尻どうにかなっちゃいますよぉぉっ!あぁあああん!!」
恋心姫は必死で手足をバタつかせて泣いているけれど、
ぬぬは平然と押さえつけて叩き続ける。
バシッ!ビシッ!ビシィッ!!
「恋心姫は、他にも今日たくさん反省する事がある。
俺のお仕置きは煤鬼のよりはマシなはず。じっとして」
「うわぁあああん!できません!痛い!痛いですごめんなさぁぁい!
妾悪い子でしたぁ!全部反省しますからぁ!!」
「何を?」
ビシッ!ビシッ!バシィッ!!
ぬぬが促す様に叩くと、恋心姫は飛び上がって答え始める。
「ひゃぁあっ!あの!勝手に、お家を夜に抜け出して、皆に心配かけた事とぉぉっ!!
あぁっ、う!あのっ……あの、女……!あの女と子供に、イジワルしてっ……」
「手を出したんだよな?」
バシィッ!!
「あぁああん!そうですぅっ!でも、叩いたりしてない!!妾、ぎゅってして!ドンってして!
お、お人形さんで!それだけっ……あぁあああん!!」
「ほぉぉ……そんな事したのか?」
「ひゅいっ!?」
急に割って入った煤鬼の声に、恋心姫はビクンと身をすくませる。
胡坐をかいて恋心姫の方を見ている煤鬼は、目が座った笑顔でこう言った。
「俺達に心配をかけただけならいざ知らず……他の……しかも、女子供に手を出したとなれば……
俺が考えてたのよりキツイお仕置きにする必要があるなぁ。
う〜ん、俺もしゃもじを使ってみるか?」
「うわぁあああん!いやぁぁっ!違います!あの女ですよぉ!和の浮気相手の女とその子供ですよぉ!!」
「関係あるか!仇討ちはしないと言っただろう!乱暴者はしゃもじで尻を打ってやるから覚悟しとけ!」
「わぁあああん!!ごめんなさぁぁい!!」
ぬぬに叩かれ続けて、お尻が真っ赤になってしまっている恋心姫。
今でさえ十分痛い上に、煤鬼に怒鳴られて、厳しいお仕置きも確定してしまい、ますます号泣する。
もがきながら、泣きながらも必死に叫んだ。
「わぁああん!あぁああん!ごめんなさい!妾、帝を助けようと思っただけなんですぅぅっ!
帝、ママハハにいじめられます!かわいそうです!帝に帰ってきてほしいです!妾寂しいです!!
ぬぬと、帝、離れ離れにしたくなかったんです!せっかくぬぬが帝の事すごく好きだからぁぁッ!!
応援してあげたかったんですぅ!あぁあああああん!!」
「!!」
恋心姫の言葉にぬぬは驚いて手を止める。
けれど、すぐにまた手を振り下ろした。
「……ありがとう。気持ちはすごく嬉しい。でも……今日の恋心姫は悪い子」
ビシッ!バシィッ!バシッ!!
「あぁああああん!わぁああああん!!」
「俺達だってずっと帝と暮らしたい。でも、“帝があっちで暮らしたいとしたら”、
無理やりここへ連れ帰ったらそれこそ可哀想。優しい恋心姫なら分かる……分かってる、はず」
バシッ!
「うわぁあああん!!」
「帝の継母、優しそうだった。あの人は絶対、帝をいじめたりしない。俺達が見た、他の家族も。
恋心姫なら、分かってるはず」
ビシィッ!!
「うっ、うわぁああん!うわぁあああん!!」
「それに……俺の、帝……誉への恋心は、離れ離れになったくらいでヘコたれたりしない!!」
バシィッ!!
「ひゅぁあああっっ!!?」
ぬぬの強い意志がこもった様な、強い一発の衝撃を受けて、
恋心姫が大きな悲鳴を上げて体を跳ね上げる。
ぬぬが微かに微笑んで言った。
「恋心姫なら……分かるはず」
「わっ、分かる……!分かります……!!うっ、うぇぇっ……!!」
泣いているのとは別に、顔を真っ赤にしてプルプル震えだす恋心姫のお尻を、ぬぬはそれ以上叩かなかった。
今までとは反対に、優しく撫でる。
「反省して、もうしない?帝の継母達にも謝る?」
「は、はい……ごめんなさい!ごめんなさぁぁい……!!」
「……俺は正直、帝はこっちへ戻ってくると思う。信じてあげよう。
あと……俺の恋心、気付かせてくれてありがとう。恋心姫に相談して良かった。」
「ぬぬ……うぅっ、ごめん、なさい……!!」
ぬぬが恋心姫をそっと膝から下ろしてあげると……
「よぉし!やぁあああっと俺の出番かぁ!!」
煤鬼が元気に叫んで、パァン!と、自分の太ももを叩いて立ち上がって、
泣き止みかけていた恋心姫は、真っ青になってまた泣き出した。
「ひゅあぁあああっ!ひゅあぁああああっ!!」
もはや言葉にならない悲鳴を上げて首を振る恋心姫に、煤鬼が威圧感たっぷりの笑顔で逆手に手招きする。
「何だ〜〜?しゃもじで尻をぶっ叩いてやると言っておいただろう?
早くこっちへ来い!来ないなら俺が行くぞ?!」
「うわぁああん!ごめんなさい!ごめんなさぁぁい!
ぬぬのお仕置き痛かったです!もう反省しましたぁぁ!」
泣き騒ぐ恋心姫を煤鬼がダイナミックに捕まえて再び胡坐をかいた膝に落として。
再度、お尻を丸出しにしてしまうと、ぬぬからしゃもじを受け取って振り下ろしていた。
「ほーら、十回数えろよ!トチったら許してやらんからな!」
バシィッ!!
「わぁあああん!!いちぃっ!!」
こうして、喚きながら煤鬼のお仕置きも受けて、
桜太郎からは3日おやつ抜きを宣告され、恋心姫はようやく許してもらえた。


こうして、一騒動あった妖怪御殿の夜も無事に明け……
帝が上機嫌で妖怪御殿へ帰って来る。
雪里が帝の荷物を家の中へ運んで、桜太郎の勧めるお茶は辞退して、笑顔でお辞儀をして去っていった。
恋心姫は煤鬼の後ろに隠れていたが、雪里が去った瞬間、帝に駆け寄って不安そうに尋ねた。
「帝!!あ、あのっ……これからも、妾達のお家で暮らしますよね!?
とと様のお家で、暮らさないですよね!?」
「ん?ハハ!無論だ!あのようなうるさい男の家など、こっちから願い下げというもの!
はぁ〜〜やっぱり我が家が一番だなぁ!!」
「良かったぁ!帝ぉぉッ!!」
恋心姫が嬉しそうに帝に抱き付くと、帝も嬉しそうに恋心姫を抱きしめる。
「どした姫?余が恋しかったか?かわゆいなぁ
そう言って、恋心姫に頬ずりした後、悪戯っぽい笑顔で恋心姫に囁く。
「聞いたぞ?あの妾と妾腹に一泡吹かせてやったそうじゃないか。さすが姫。いい仕事をしたな♪」
「!!お、怒ってないんですか……?ぬぬと煤鬼にはいっぱいお尻をぺんぺんされてしまいました……」
「ふふっ……まぁ、余も今の所、あ奴らはあまり気に入らん。さりとて……奴らも一応、余の家族だからな。
少しずつは、仲よくしてやるつもりだ。だから、姫も余と同じように少しずつ仲よくしてやってくれ」
「はっ……はい!!」
恋心姫が嬉しそうに笑うと、帝も笑顔で恋心姫の頭を撫でた。
「ん〜〜いい子だな♪お土産に菓子があるぞ?楽しみにしておれ?桜太郎!変わりなかったか!?」
そう言いながら、帝は桜太郎の方へ行ってしまう。
ぬぬが取り残された帝の荷物を運びこんで、恋心姫はニコニコと皆を眺めていた。


その後。
帝の戻ってきた妖怪御殿は皆が笑顔で。
幸せそうな帝は皆と団欒を楽しんで、(恋心姫もその時はおやつを食べる事を許して貰えて、)
夕食も楽しんで……

帝とぬぬが二人っきりになった入浴時、帝の背中を流していたぬぬが唐突に――
「……誉」
「ん?」
「俺……」

「誉の事が好き。誉と、恋人になりたい」

背中越しに聞こえた告白に、帝は目を見開いて硬直した。


【おまけ】

――数日後

和「どうした更?嬉しそうだな?」
更「誉づてに、可愛らしいお手紙をもらって……
  恋心姫さんからみたいで、『いじわるしてごめんなさい』って。
  尊も同じ物をもらったと、喜んでおりました。
  随分丁寧で綺麗な字。恋心姫さんの字でしょうか?」
和「う〜ん……代筆っぽいな。こっちの花の絵は彼女が描いたと思うけれど。はは、微笑ましい」
更「彼女に、『帝は渡さない』って言われた時……何だか穂摘様にそう言われた気がしたんです。
  私……穂摘様に認めていただけるくらい、誉の良い母になりたい、頑張ろう、って……そう思えたんです」
和「ありがとう……お前のその、優しくて真っ直ぐな所が……私は大好きだ。
  お前ならきっと、誉も穂摘も認めてくれる。絶対に」
更「和様……嬉しゅうございます……」
和「本当にお前は、私のような男にはもったいない良妻だ……色々、苦労を掛けて済まないな、更……」
更「あぁ、ありがたいお言葉……更は幸せです、和様……」

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【作品番号】youkaisin10

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