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妖怪御殿のとある一日 引っ越し後
※半18禁?=性行為の描写はありませんが、性的な事に関する会話が多多あります。ご注意。
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おは妖怪!……この挨拶流行るかな??
妖怪研究家、兼妖怪の麿拙者麿だよ!
(※ちなみに最近、恋人が……あ、もういいですか?)
その恋人の桜太郎君と、この前、少しその辺を散歩するプチデートをしたんだけれど、
そこでなんと……なんと、僕たち……手を繋いでしまいました!やったー!
桜太郎君もすごく嬉しそうだったから、僕も嬉しかったなぁ!

そうそう、明日は恋心姫君と(たぶん煤鬼君とか入るだろうけど)
鬼ごっこする約束もしたし、これってまさしくリア充ならぬ、妖怪充ってやつだよね!
よーし!明日も張り切って妖怪ライフを満喫だぁぁぁ!!

******************

夜、妖怪御殿の食卓で。
帝・ぬぬ・煤鬼・恋心姫がテーブルを囲んで盛り上がって(?)いた。

「今日で、煤鬼のようかんは没収だな♪」
帝が楽しそうにそう言ってようかんの箱を手に取る。
ここにいる恋心姫以外のメンバーで、麿と桜太郎がどれくらいの期間で肉体的に結ばれるか、
お菓子を賭けて遊んでいたのだ。
いの一番に負けた、煤鬼(二週間賭け)は頭を抱えて天井へ叫んだ。
「あぁああああ!!くそう!意味が分からん!あいつらには性欲が無いのか!?
14日も猶予をやったのにぃぃぃっ!」
「妾達は、恋人になった日にエッチしましたものね」
煤鬼の膝に座ってのんびりとそう言う恋心姫を、煤鬼はぎゅーっと抱きしめる。
そこへぬぬ(一か月賭け)が冷静に言った。
「この前、手を繋いだと嬉しそうだったところだ。まだ時間がかかると思う」
「はぁ!?何だそれ!?体に触れておいて口付けもせんのか!?」
本気で疑問符だらけの煤鬼を、帝(半年賭け)が笑う。
「はっは、お前には一生理解不能だろうよ。姫も苦労するな?」
「??別に苦労はしてませんよ?けど、麿と桜太郎はどうしてエッチしないんですか?
したくないんでしょうか?」
恋心姫が心配そうにしているが、帝は軽く返す。
「そういうわけでもあるまい?ま……お互い勇気が出んのだろ。
余のために、麿には半年はヘタレのまま身悶えていて欲しいものだな。
さてぇ、余は部屋で美味しいようかんを食うとするか!」
「嫌味な奴め!」
「ルールだ、ルール♪ぬぬの分も一かけら取っておいてやるからな」
「ありがとう」
帝がご機嫌でようかんを持って部屋に戻っていく。
煤鬼はつまらなそうな仏頂面をしていた。
「くっそ……帝を勝たせるのは何か癪だな……!
あーあ、桜太郎に酒でも飲ませたらどうにか〜……」
「でも、けしかけたらズルじゃないか?」
「……あぁ、それもそうか」
ぬぬと煤鬼が何気なく会話しているのを聞きながら、恋心姫は思う。
(桜太郎がお酒を飲めば、麿と桜太郎はエッチできるんでしょうか……?)



その後。
台所で下の方をゴソゴソしている恋心姫を煤鬼がたまたま発見した。
「恋心姫?どうした?」
「お酒を探してます」
「桜太郎に飲ませるのか!?」
何だか嬉しそうな煤鬼に、恋心姫は探し物を続けながら返事をする。
「麿と桜太郎、エッチしたいのにできないなんてかわいそうです!
きっとエッチしたら、もっとラブラブになって二人とも幸せですよね?」
「そりゃそうに決まってる。恋心姫は優しいな」
そう言う煤鬼の笑顔には含みがあったが、言葉だけ聞いた恋心姫は嬉しそうに笑った。
「えへへ……でも、お酒らしきものが無いんですよ」
「ふふふ……恋心姫、酒は、上だ」
煤鬼はそう言って、戸棚の上の方から酒を取り出して見せる。
恋心姫は喜んで瞳を輝かせた。
「おお!煤鬼物知りですね!妾、桜太郎にあげてきます!」
「まぁまぁ、少し待て」
煤鬼はその酒をすぐに恋心姫には渡さず、ジュースも持ってきた。
「……ジュース、どうするんですか?」
「ん〜?桜太郎は酒をそのまま持って行ってもたぶん飲まんからな……」
言いながら、コップにジュースと酒を適当にブレンドして、一口味見をして満足げに笑う。
「んっ、よし!ほら、桜太郎に持って行け。ジュースだと言って。酒だと言うなよ?」
「え、嘘をついて飲ませるんですか!?」
「構わん構わん、少しくらい」
(……こんな事していいんでしょうか?)
少し不安に思った恋心姫だが、煤鬼はニコニコ笑っているし、
麿と桜太郎の為……と、思い、ジュースに偽装した酒を桜太郎の元へ持って行った。


桜太郎はちょうど部屋へ戻る途中だったらしく、恋心姫が呼び止める。
「桜太郎!……えっと、ジュース、あげます!」
「えっ?どうしたんですか急に?」
「ど、どうもしないですよ!」
少し慌てた恋心姫に、桜太郎は困ったように笑いかけた。
「……分かった。恋心姫が飲みたいんですね?もう。少しだけですよ?」
「えっ!?妾は……!!」
ますます慌てる恋心姫。
しかしそこへ。
「恋心姫〜〜!もう寝るぞ〜〜!」
遠くから、図った様な煤鬼の声。
恋心姫はどうにかコップを桜太郎に押し付けて
「煤鬼が呼んでるから!行きますね!!」
そう言って、煤鬼の方へと逃げて行った。


ギリギリで作戦を成功させた恋心姫は、煤鬼と合流して安堵した。
「た、助かりました……!」
「恋心姫もお手柄だな。見ろ、桜太郎が飲んだぞ?」
煤鬼は楽しそうに笑うけれど、恋心姫は不安げな顔をする。
「……妾達、悪い子でしょうか?」
「多少はな?大丈夫、バレやしない」
「…………」
「気にするな。寝所に行こう。
桜太郎達はこれからお楽しみだろうから、俺達も……
「……そうですね
結局、恋心姫も気にしないことにしたらしく、煤鬼と仲良く部屋に帰っていく。


一方。『麿と桜太郎の部屋』で。
すでに就寝用の着物姿な麿は、床にドーンと敷いた一組の大きな布団を目の前に、
座って腕を組んで唸っていた。
「う〜ん……帝さん……まだ新しい布団が用意できないなんて、絶対嘘だよね!?
ぼ、僕としては嬉しいけどさぁ……やっぱり、寝る部屋だけでも別にしてもらった方が……」
「おい麿」
「ハイッ!?」
急にぶっきらぼうに呼びかけられ、麿は体をビクつかせて振り返る。
そこには就寝用の着物をだらしなく着崩した桜太郎が、
首を傾けて脱力した感じで立っていて、麿は慌てて勝手に弁解を試みた
「ち、違うんだ桜太郎君!!決してやましい事を考えていたわけでは……えぇっ?!」
途中、桜太郎がいきなり脱ぎだす。
躊躇なく全裸になると、麿に迫ってきた。
「テメェも脱いでくださいよ」
「なっ……ちょっ……えぇええっ!?さ、桜太郎君どうしたの!?」
「栗の木だろうがテメェもよぉ!いつも言ってるでしょう!?
木に邪魔なんですよ服はぁぁっ!要らないんですよ!消滅しろ!
ほら脱げ!男は黙って裸の付き合いって決まってんです!!」
様子がおかしい桜太郎に飛び掛かられ、押し倒されたような体勢になって、しかもここは布団の上。
麿はますます真っ赤になって混乱した。
「だっ、ぁっ!?ひぇぇどうなってんのぉ!?僕は木なの!?
やめてよ!ダメだよ桜太郎君!!ちょっとぉぉ!!」
「へっへ、麿この野郎、大人しく自然に返れ〜!!」
ぐいぐい力任せに着物を引っ張るものの、引っ張るだけで脱がせていない桜太郎の姿に、麿は少し冷静になる。
(お、落ち着け僕!これお酒だ!桜の香りするし、桜太郎君、絶対飲んでる!!で、でも……。
この体勢は非常に目の毒と感触の毒過ぎてマズイィィ!!ご、ごめんね桜太郎君……!!)
麿は心苦しく思いながらも意を決して……
バシィッ!!
「ひゃっ!?」
桜太郎の頭を思いっきり叩いて叫んだ。
「桜太郎君!!またお酒飲んだでしょ!?どうしてこんなになるのに飲むの!?
お尻出しなさい!!」
「……あ、あ……」
桜太郎は驚いて目を見開いた後、顔を覆って泣き出した。
「うっ、飲んでません……!私飲んでません……うぇぇっ……!!」
(急に泣き出した!?で、でもまたいつ酒乱脱衣モードに入るか分からないし……!!
酔いを、さましてあげないと……!)

麿が体を起こして、桜太郎を膝の上に固定してしまうと、桜太郎は泣き喚いて暴れた。
「うわぁああん!麿怖いよぉぉぉっ!!」
「泣いてもダメだよ!大人しくして!桜太郎君はすぐこうなっちゃうから、お酒飲んだらダメなの!」
バシッ!!ビシッ!バシィッ!!
麿が叱りながらお尻を叩くと、桜太郎はますます泣き喚く。
「ふわぁあああん!!飲んでないぃっ!!痛い!痛い――――っ!!」
(ごめんごめん!頼むから大人しくなって!っていうか、酔って大げさに痛がってるだけだよね?)
心の中で謝りながらも、“酔いをさましてあげよう”と麿は強めにお尻を叩き続ける。
ビシッ!ビシッ!バシッ!
「酔ってるでしょう明らかに!!嘘付かないで!酔ったらすぐ服脱ぐのも直さなきゃダメだよ!?」
「嘘じゃないよぉ!だって服とか邪魔だからぁぁぁっ!!」
「邪魔でも着てなきゃダメだって!!着てないからこんな風に裸のお尻叩かれちゃうよ!?」
バシッ!バシィッ!!ビシィ!!
「うわぁあああん!痛い!麿テメェこのやろう、すまん〜〜〜!!」
「謝り方が雑いよ!大人しくする!?服着る?!」
必死で泣いているものの、言っている事が妙におかしい桜太郎に脱力しそうになりつつ、
麿は強めに手を振り下ろし続けた。
だんだんお尻も赤くなってきて、桜太郎の反応も本気めいてくる。
「うわぁあっ!あぁああん!着るぅ!眠い!痛い!痛い!眠いぃぃぃっ!!」
「眠いの!?じゃあ、すぐ寝なきゃダメだよ!?」
けれど、やはり主張はおかしい。麿の方も、桜太郎が泣いて苦しげなので
酔いを完全にさますのは諦めて、適当に話を合わせて調整に入っていた。
ビシッ!バシッ!ビシィ!!
「うわぁあああん!寝るぅ!麿のベッド貸してぇぇっ!!」
「ここ新しいお家だから!布団あるからね!?」
「わぁあああん!!わぁああん!!布団で寝るぅぅ!!」
「そんなに眠いんだ……!ほらじゃあ、これで最後!!」
バシィッ!!
「うわぁあああん!!」
最後にきつく一発叩いて、桜太郎を膝から下ろした。

「わぁぁぁん!……うぅう!ぐすっ、ひっく……!!」
桜太郎は泣きながらそのまま布団にもぐって、瞬時に寝息を立てて動かなくなってしまう。
麿はそんな桜太郎を恐る恐る覗き込んだ。
「……寝た……よね?そう言えば前も脱いですぐ寝ちゃったっけ?
はぁ、今回もビックリした……桜太郎君……どうしてまたお酒飲んじゃったの?」
眠っている桜太郎に思わず語りかけながら、麿はそっと指で涙の跡を拭う。
そうしていると愛おしい気持ちが込み上げてきた。
「……寝顔、可愛いな…… じゃなくて!僕も寝ようっと……
って危ない!まず桜太郎君の服を着せないと……!!」
思わず裸の桜太郎に隣に潜り込みそうになった麿は慌てて飛び出て……
桜太郎に服を着せる作業にまた、恥ずかしさに悶えて苦労する事になった。


翌朝。
「あ、麿さんお早うございます。朝ごはんもうすぐなので、待っててくださいね」
台所にやってきた麿の顔を見た桜太郎は、爽やかにそう言う。
全くもっていつも通りだった。
(昨日の夜の事は、やっぱり覚えてないのかな……?前も記憶飛んでたもんなぁ……)
麿はそう思いながらも一応……
「……桜太郎君、お酒は飲まないようにしようね?」
そう言ってみた。
しかし、桜太郎は一瞬だけきょとんとして、にっこりと笑う。
「あ、はい。麿さんの家にお泊りしてから全く飲んでませんから。ご心配頂いてすみません」
(えぇ!?でも、嘘言ってるようには見えないし……飲んだ事も忘れちゃうタイプ!?
ま、まぁいいや……!!次あったら一度、酔いが完全にさめるまでお仕置きして叱ってみよう!)
やっぱり笑顔の桜太郎相手には、突き詰める事は出来なかった麿。
心の中でそう決心するにとどめる。


そして、そんな二人をこっそり見つめる影が大小二つ。
「……麿と桜太郎、普通に話してますね?何も無かったんでしょうか?」
「何かあったなら、お互い真っ赤で会話もろくにできんだろうし……失敗か。つまらん」
「残念です……でも!今日は麿と鬼ごっこだから楽しいですよ!」
「……そうだな!」
恋心姫と煤鬼は特に気にせず、遊びの事を考えてご機嫌だった。



そんなこんなで朝食後。
嬉しそうに麿を庭に連れ出そうとする恋心姫や煤鬼、冷静に付いていくぬぬに桜太郎が言う。
「恋心姫も煤鬼も、ぬぬ……は、大丈夫だと思いますが、
麿さんは妖怪になりたてなんですから、あまり無茶をさせたり、無理を言ってはいけませんよ?」
「それは分かってますよ!」
「何回言うんだ。心配性だな」
恋心姫も煤鬼もうんざりした表情だ。
桜太郎は麿にもこう言った。
「麿さんも、彼らが何かしたら、遠慮せずに叱ってやってくださいね?」
「うん。恋心姫君も煤鬼君もぬぬ君も、優しくしてくれるし、心配しないで」
麿は笑顔でそう返して、皆で連れだって遊びに行った。
桜太郎はその様子を笑顔で見送る。



そして、庭に出た4人は輪になって、恋心姫が張り切って取り仕切っていた。
「今日は!昨日言ってたように鬼ごっこですよ!まずは煤鬼が鬼!」
「わぁ、鬼ごっこなんて久しぶりだなぁ!ようし、頑張るぞ!」
麿もワクワクしながらそう言うと……不気味に笑う煤鬼と目が合う。
「何笑ってるんだ麿?」
「へ?」
「捕まえたら罰ゲームがあるぞ?――死ぬ気で逃げろよ?」
「ひぇっ!?」
煤鬼の低い声に宿る、謎の恐怖感。
麿はビクビクしながら恋心姫に尋ねる。
「ね、ねぇ、恋心姫君……煤鬼君の罰ゲームって、どんなの?」
「妾はいっつもお口にちゅってされますよ!」
「(それはきっと恋心姫君限定だ……!いや、限定じゃなくても困るけど!!)
ぬぬ君は、煤鬼君の罰ゲーム知ってる!?何をされるの!?」
麿は必死でぬぬにも尋ねる。
ぬぬは、真剣な表情で言った。
「麿、この鬼ごっこは……命がけだ……!!」
「!!?」
(麿が全く笑ってない……やはり、俺は冗談が言えないな)
ぬぬの分かりにくい冗談で、麿が完全に青ざめたところに、鬼が鬼の鬼ごっこがスタートされた。
煤鬼が明るく声を張り上げる。
「数えるから逃げろよー!10!9!8!……」
(逆カウントの恐怖感が半端無い!!に、逃げなきゃ!)
本気の麿も、楽しそうな悲鳴を上げる恋心姫も、無言のぬぬもそれぞれ、思い思いに逃げて……
良く通る声の逆カウントが0に至ると――
「よーし!捕まえるぞ――っ!!」
ドゴォッ!!
何とも無邪気な雄叫び&地面に気合いのパンチ一発。
麿は震えあがった。
(ひぃぃっ!!捕まえると書いて『捕食』と読んだりしないよね!?煤鬼君は妖怪は食べないよね!?)
それでも、煤鬼から隠れながら距離を取って、逃げる。
様子を見ていると、ぴょこぴょこ逃げ回る恋心姫相手に、あからさまに狙いを外して捕まえようとしていたり、
ぬぬ相手に本気で狙いを定めてぬぬが華麗に避けたりしていた。
麿は煤鬼とぬぬの攻防を見て、この勢いで来られたら逃げるのは無理だと確信する。
そして、煤鬼は一通り恋心姫とぬぬの相手を堪能したらしく……麿を見つけてニヤリと笑った。

(あ、これ狙われ……)
麿がそう思った直後。煤鬼がものすごい勢いで走ってきて。
(た……)
思考さえも終わる前に腕を振りかぶられる。
「うぎゃぁああああっ!!?」
まぐれなのか、外してくれたのか。一回目は煤鬼に捕まる事を逃れた麿。
その後必死で逃げるが、煤鬼は大迫力で腕を伸ばして追ってくる。
「獲物が、ちょこまかと!そんなに!ジワジワ苦しみたいかぁぁ!?」
「いやぁあああっ!!(でも何か手を抜かれてるっぽいのが情けないよ〜〜!!)」
そう。まるで麿が怯えて逃げるのを楽しむように、煤鬼はギリギリで捕まえずに追って来て。
しかし、麿の体力が尽きて、息切れしながら倒れ込むと、さすがに捕まってしまった。

「捕まえたぞ麿……!」
しゃがんだ煤鬼に、良い笑顔で胸倉を掴まれて起き上がらされる。
大好きな家族と楽しい鬼ごっこのはずが、繁華街で怖いお兄さんに絡まれた錯覚に陥って、
麿は半泣きになりながら悲鳴を上げた。
「ひゃぁあああ!!助けてぇぇっ!!」
「あぁ、やはり、怯えられるのは気持ちがいいな……!」
「うわぁああ!鬼の本能に目覚めないでぇぇぇっ!!」
「安心しろ。命までは取らん……」
「ご慈悲をぉぉ!!他にも取って欲しくない所いっぱいありますぅぅぅ!!」
「うるさい!観念しろ!それ!!」
怖くて目を閉じた麿はまた地面に倒れる感覚がして、そしてその後は……
「ひっ、あ!?あっ、あっははははは!!やっ!煤鬼くっ……ひゃはははっ!!」
「ほらほらどうだ!参ったか!!」
煤鬼に思いっきりくすぐられて転げまわる。
「あはははは!参った!参りましたぁっ!やめて!あっはははは!!」
ジタバタしながらくすぐったさに耐えていると、寄ってきた恋心姫が煤鬼の背中に飛びついた。
「煤鬼!妾にも、こちょこちょしてください!」
「おっ、そら捕まえた!」
麿へのくすぐりが止まって、煤鬼は恋心姫を抱きしめている。
そして、笑って恋心姫の頭を撫でていた。
「自分から捕まりにきたら意味ないだろう?」
「だって、麿楽しそうです!」
「ひぃ……け、結構キツイよ……?!」
麿はそう言いながら、やっとの思いで起き上がって、笑い過ぎて出てきた涙を拭くと
「そういう事だ。泣いても知らんぞ?そーれ!」
「きゃーっ!あははは!くすぐったい!あははは!」
煤鬼が恋心姫も地面に仰向けにしてくすぐって、恋心姫は楽しそうにジタバタしている。
「きゃははっ!んんっ……!!」
そして、くすぐり終わりにちゃっかり口付けていた。
(挨拶みたいにキスするよねこの二人……)
麿はのんびりとそう思い、恋心姫と煤鬼は何事も無かったかのように起き上がる。
煤鬼は最後の獲物を探して辺りを見回した。
「さぁて、後はぬぬか?」
(!!ぬぬ君の大爆笑姿って、興味あるかも……!!)
麿はそう密かに期待する。


そして、煤鬼とほぼ互角のいい勝負で逃げていたぬぬも、一瞬の隙を突かれて捕まった。
罰ゲームの内容はどこかから見ていて知ったのか、珍しく焦り気味に首を振る。
「……ま、待ってくれ!!俺の大笑いは、まだ帝にも見せた事が無い……!!」
「知った事か!大人しく罰を受けろ!!」
問答無用の笑顔でぬぬもくすぐる煤鬼。
すると…
「あ、わっ……ひ、あははっはっ!!あははははは!!」
「「「!!!?」」」
その無邪気な満面の笑顔に全員が硬直する。
煤鬼も硬直したので、くすぐるのが止まって、ぬぬはスッと真顔になって息を切らせる。
「……はぁ、はぁ、なかなか、苦しい……」
「……いい、笑顔だったな……」
「ぬぬ!笑ったお顔可愛いですよ!」
「うん!素敵な笑顔だね!(これはすごいもの見たかも!!桜太郎君にも教えてあげよう!)」
皆がそれぞれ感想を述べると、ぬぬは少し照れくさそうに微かに笑う。
「……ありがとう」


そして煤鬼が鬼のターンは終わりとなり、今度は恋心姫が元気に手を上げる。
「次は!妾が鬼ですよ!妾も今日は罰ゲームアリにします!」
そう言った途端、煤鬼が大慌てで言う。
「!?お、おい!今日は無しでいいだろ!?」
「やです!妾、今日はそういう気分なんです!」
「うぅ……意地でも逃げ切ってやる……!!」
(煤鬼君、くすぐられるの弱いのかな?)
ただ単にそう思ってやりとりを見ていた麿。
しかし、恋心姫の無邪気なカウントが始まると……
「数えまーす!いーち!にーい!……」
煤鬼は風のように逃げていく。
「煤鬼君早っ!?あ、僕も逃げなきゃ!」
麿もオロオロしながら逃げ始め、ぬぬは歩いていた。
そうしているとカウントは終わり……
「じゅーう!わーい!皆、捕まえちゃいますよ〜〜!」
はしゃぐ恋心姫が走り始める。
けれど、見た目相応の子供らしい速度の走りだ。
どうも麿に最初に狙いを定めたらしく、きゃっきゃと追ってくるが、
本気で走ったら永遠に逃げ切れそうで、麿もペースを落としつつ恋心姫をチラチラ見ながら走っていた。
すると……
ザザッ!!
「わっ!何これ!?」
目の前に突如“人形の様な木の葉や枝や小石を巻き込んだもの”が出現して驚いて足止めを食らう。
その間に追いつかれたらしく、後ろから恋心姫が飛びついて来た。
「麿捕まえたっ!」
「わっ!?」
人形が地面に崩れ落ち、麿は恋心姫を振り返って笑う。
「あ、はは!捕まっちゃった〜!罰ゲームはくすぐられちゃうの?」
「いいえ〜、麿しゃがんで?じっとしてくださいね?」
言われた通りしゃがんでじっとしていると……
「えいっ!!」
ぱちっ!
「うぷっ!」
両側から顔を挟まれるように頬を叩かれた。
「はい!これが罰ゲームですよ!次はぬぬか煤鬼ですね〜!」
(ちょっとビックリしたけど平和だぁ……!)
少し頬が痛いけれど、脅かされまくった先ほどを考えるとほんわかする麿。
恋心姫は次、ウロウロ歩いているぬぬを発見して追いかけていく。
「あ!ぬぬ見つけました!待て待て〜〜!!」
追いかけられると小走りになるぬぬ。
(ぬぬ君……本気で逃げてないな……)
麿がそう思うのは明らかな逃げ方はすぐ捕まって、
「えいっ!!」
ぱちっ!
「っ!」
「はい!ぬぬも罰ゲーム終わり!」
麿と同じ罰ゲームを受けて、麿とその場に二人で座った。
恋心姫は捕まえた二人を見ながら、得意げに腰に手を当てていう。
「ぬぬも麿も捕まえたし……残りは煤鬼だけですね!」
気合十分の恋心姫。
スッとその手を上げると……
「煤鬼ぃ〜?どうしてそんな必死に逃げるんですかぁ〜〜?」
酷く甘ったるい話し方でそう言いながら、
ものすごい勢いで麿がさっき見た“人形のようなもの”を大量発生させる。
ザッ!ザッ、ザザッザッ!!ザッ!ザッ!!
「!?」
あまりの光景に麿は驚いて、ぬぬも無表情ながらも気圧されているようだ。
普段通りのようでいて、しかし妙な凄みを感じさせる恋心姫はなおも、
煤鬼の姿を探しながら語りかける。
「ぬぬも麿も捕まって待ってますよ?あまり長く待たせちゃ可哀想です。
煤鬼も早く捕まって、鬼を交代しましょ?」
そこまで言った後、いったん言葉を切って……
「いう事聞かない悪い子は……朝まで寝かせてあげませんよ?」
蠱惑的な音色でそう言うと、
「――見つけた!!」
急に一点に腕を振るって、人形達を飛ばし送り込む。
すると、そこにいた煤鬼が人形達を必死で蹴散らしていた。
腕にまとわりついてきた人形は腕同士を叩きつけて消滅させたり、
とにかくなりふり構わず人形たちを潰して振り切って逃げ回る。
恋心姫自身も参戦して煤鬼を追いかけはじめた。
少なくとも麿やぬぬを追いかけていた時よりは高速で。
「煤鬼ぃ!捕まりなさいって言ってるでしょ〜〜っ!朝までコースがお望みなんですか〜〜っ!?」
麿とぬぬは、二人の必死の鬼ごっこをぼーっと眺めていた。
麿が不思議そうに言う。
「煤鬼君……必死で逃げ過ぎじゃない?顔を叩かれるのそんなに嫌なのかな?」
「……煤鬼が恋心姫に捕まった場合の罰ゲームは、その日の夜伽の主導権が恋心姫に渡る事」
「へっ……」
ぬぬの言葉に麿が抜けた声を出して。
2秒後辺りにその言葉を理解して顔を真っ赤にした。
「えっえ!?そうなの!?あ、あんまり想像できないけど……でも、
恋心姫君も必死で追いかけてるって事は、主導権を握りたいって思ってるんだよね……意外かも……」
「恋心姫も、あれで男だから。自分が相手を愛してやりたい欲求もあるんだろう。
……もちろん、桜太郎も」
「桜太郎君の事は今関係ないよねッ!?」
真っ赤な麿と冷静なぬぬがそんな会話を交わす中、煤鬼と恋心姫の鬼ごっこはまだ続いていた。
なかなか捕まえられない煤鬼に、恋心姫が疲れを見せながらも怒鳴って、人形を飛ばしている。
「煤鬼ぃ!いい加減にしてください!鬼ごっこ終わらないじゃないですかぁ!」
「あんな恥ずかしい姿をさらすのは月に一度が限界だ!!恋心姫!降参しろ!!」
「嫌です!!煤鬼の気持ちいいお顔、可愛いですよ!!自信を持って!!」
「持ちたくない!!」
「ワガママ言うんじゃありません!……きゃっ!?」
ここで、必死に走っていた恋心姫が転んでしまう。
同時にすべての人形は崩れて消滅した。
すると煤鬼は
「恋心姫!大丈夫か!?痛いか!?」
恋心姫の傍へ寄って行って助け起こす。この結果、当然ながら
「うっ……捕まえた!!」
しっかりと抱きしめられて捕まってしまう。
煤鬼が慌てても、もう遅い。
「しまった!!図ったな!?」
「転んだのはワザとじゃないです。妾、男の子だから泣きませんよ?」
澄ましてそう言う恋心姫は、着物を軽く払ってから、残念そうに煤鬼に笑いかけて言う。
「でも……嬉しかったから、罰ゲームは無しにしてあげます」
けれど、煤鬼は片手で頭を抱えて唸って、恥ずかしそうにこう返した。
「……いや……別に、無しにしなくていい。……まぁ、今日は、な」
「!!煤鬼大好き!!」
恋心姫は喜んで煤鬼に抱き付いて、煤鬼も嬉しそうにしていた。


そして恋心姫が鬼のターンは終わりとなり、また皆で集まって。
恋心姫の次の鬼のご指名は麿だった。
「次は麿の鬼ですよ!罰ゲームはありですか?無しですか?」
「う〜ん……僕は無しでいいかなぁ」
「何だ、遠慮するな。無かったら盛り上がらんぞ?」
煤鬼にそう言われ、麿は手ごろな“罰ゲーム”がとっさに思い浮かばず、こう言う。
「えーっとじゃあ……罰ゲームはお尻、ぺんぺんしちゃおうかな〜〜(軽く)……」
「「!??」」
途端に、恋心姫と煤鬼の顔色が変わって、恋心姫がオドオドしながら声を震わせた。
「麿……やっぱり怒ってるんですか?桜太郎に、お酒……」
「バカ!恋心姫!!」
「むぎゅ!」
「んん?!」
煤鬼が慌てて恋心姫の口をふさぐが手遅れで。
麿は耳に届いたその言葉で、ハッとして二人に問い詰めた。
「……もしかして、恋心姫君と煤鬼君が桜太郎君にお酒飲ませたの!?」
「あ……いや…… お、怒らないでくれ!恋心姫は良かれと思ってやったんだ!
それに、ジュースと混ぜたのは俺だしっ……!!」
「ジュースと混ぜたぁ!?まさか知らずに飲ませたの!!?
あ!だから桜太郎君必死で“飲んでない”って……うわぁああ……僕、やっちゃったなぁ……!!」
「あっ、の……!!」
焦って言葉が出ないらしい煤鬼を無視して、麿は恋心姫と目線を合わせるようにしゃがむ。
「恋心姫君!めっ!」
「うっ、うわぁあああん!!」
叱られて泣き出した恋心姫を、煤鬼がオロオロと抱きしめて困っていた。
お互いで墓穴を掘っていく恋心姫と煤鬼に、麿はキッパリと言う。
「とにかく!鬼ごっこはお終い!今からお仕置きの時間!」
「……俺はどうすればいい?」
落ち着いてそう尋ねてきたぬぬに、麿は申し訳なさそうに答えた。
「あぁ、ごめんね。終わるまで自由にしてくれてていいし……
ここにいてくれるなら、恋心姫君をお仕置きしてる間に煤鬼君が逃げ出さないか見張ってて」
すると、煤鬼が不機嫌そうに叫ぶ。
「見くびるな!恋心姫を置いて逃げたりしない!!」
「そっか、そうだよね。ごめんね……
じゃあ待ってて!言っておくけど煤鬼君の方がたくさん叩くからね!?」
「うっ……」
煤鬼が困惑して押し黙ると、麿は恋心姫に手招きした。
「って事で、最初は恋心姫君だよ」
「うぅ……麿……」
(うわ、やり辛い!!)
怯えて潤んだ瞳で、小さい子に見つめられ、麿は心が痛んだけれど。
桜太郎のされた事を考えて、固まっている恋心姫の体を持ち上げる。
「ひゃっ……!」
そして片手で恋心姫の体を支え、片手でスカートを捲って下着を下ろして、
「お酒だって隠してお酒を飲ませるなんて、そんな酷いイタズラしちゃだめでしょ!」
パンッ!!
裸のお尻を叩いた。
「きゃぁっ!だって煤鬼がぁぁっ!!」
「言い出したのは煤鬼君なの?」
「あ、あ!待って、二人で考えたんです!!」
慌てて言い直す恋心姫だが、煤鬼の声が割って入った。
「麿、お前は恋心姫に騙されるほどバカじゃないだろう?
ジュースと混ぜたのは俺が思いついてやった事だ。桜太郎は酒を飲まないから」
「でも!最初に桜太郎にお酒を飲ませようって思って探してたのは妾なんですよ!?
煤鬼は後から来て手伝ってくれたんです!!」
「う〜ん、なら、二人とも悪い子だ、け、ど……。
(恋心姫君が思いついて、煤鬼君がアレンジしたって感じかな?)」
庇い合っているような二人の言葉を頭の中で整理しつつも、
麿は恋心姫の小さなお尻を何度も叩く。
パンッ!パンッ!パンッ!!
「やぁん!ごめんなさい!ごめんなさい!!」
「どうして、桜太郎君にお酒を飲ませようと思ったの?」
麿がそう尋ねると、恋心姫は叩かれるたびに短く悲鳴を上げながら、一所懸命答えた。
「ふぁ、あ!桜太郎がお酒を飲めば、麿と桜太郎がエッチできると思って!
きっとエッチしたら、もっとラブラブになって二人とも幸せになると思ったんです!」
「えぇっ!?」
割ととんでもない理由に驚いた麿は思わず手を止めて……恋心姫に優しく言った。
「そっか……恋心姫君、僕たちのためを思ってくれたんだね。ありがとう」
そして、恋心姫の言い方を拾って、なるべく分かりやすいようにと、言い聞かせる。
「でもね、僕たち、まだエッチしてないけど幸せだし、ラブラブだから。
恋心姫君と煤鬼君みたいな感じじゃないけど、二人でゆっくり愛を深めていきたいんだ。
だから、そっとしておいてくれると嬉しいな。
もちろん、協力してほしい事があったらお願いするから。ね?分かるかな?」
「わ、分かりました……ごめんなさい……!!」
「気持ちは、とっても嬉しいから!ありがとうね!でも……」
ピシャンッ!!
「ひゃぁんっ!!」
再び麿がお尻を叩き始めると恋心姫は身を縮こませる。
その上から手を止めずに叩きながら、麿は叱る。
パンッ!パンッ!パァンッ!!
「それでも、桜太郎君に嘘を言ってお酒を飲ませるの、悪い事だって思わなかった?」
「う、ぇぇっ、思いました!!妾、悪い子なんじゃないかって……
でも、煤鬼が大丈夫って言うし!麿と桜太郎の為だと思って……!!」
「これを“大丈夫”だって言う煤鬼君にだ〜いぶ、問題があるけど、今度から
恋心姫君も悪い事だと思ったら、煤鬼君に“やめようよ”って言ってあげてね?
2人で悪い子になっちゃうから」
パンッ!パンッ!パシッ!!
「わ、分かりました!ごめんなさい!!うっ、あっ!!」
「よし。じゃあもう少し反省しよう」
お尻も赤くなってきたし、恋心姫が素直にしているので
もうそろそろ終わらせてあげようと考えながら麿は何度か叩いて……
パンッ!パンッ!パンッ!!
「あぁん!痛いぃ!は、ぁ、ごめんなさぁい!」
「もうやっちゃダメだよ?」
「うわぁあん!しません!もうしませんから!ごめんなさぁぁい!」
「うん。じゃあ許してあげる」
恋心姫が半泣きになった所で地面に立たせて、服を整えてあげた。

「うわぁああん!煤鬼ぃぃ!!」
恋心姫はすぐに煤鬼に泣きついて、麿も煤鬼の方を見る。
「さて、そっちの大きいお兄ちゃんは恋心姫君よりたくさんお仕置きしなきゃね」
「麿!!煤鬼の事あんまり厳しくしないでください!!
煤鬼はとにかく我慢が苦手なんです!痛い事も!泣いちゃいま……んぐっ!!」
またしても、恋心姫の口を塞いだ煤鬼は強気に笑って言う。
「威勢がいいのは結構だが、麿が俺を“お仕置き”できるか?
俺は恋心姫の言うように、我慢弱いからな……すぐに暴れて逃げ出す。麿が俺を押さえておけるとは思えん。
それにそもそも、俺を痛めつけられるほどの腕力があるのかどうか……
まぁ俺としては、痛くなくて逃げ出しやすい方がいいからな!さっさと始めてくれ!」
「……何で急に挑発してきたの?怖い?」
麿が困った顔で尋ねると、煤鬼は不機嫌そうに眉を寄せる。
「寝言は寝て言え」
「ところで煤鬼君って桜太郎君にお仕置きされた事ある?」
「は?」
「僕もさ、植物系の妖怪だったりします!」

麿がそう言った瞬間、煤鬼が立っている地面から太めの植物の蔓が伸びて、
煤鬼の胴体に巻き付いて、ちょうど小脇に抱えるような体勢で持ち上げる。
近くにいた恋心姫はぬぬがとっさに抱き上げて引き離していた。
「なっ……!!」
煤鬼は本当に驚いた顔をして、麿も自身の驚きを必死で顔に出さないようにする。
(わぁああ!できた!一か八かでやってみたら結構できたぁ!!
で、でも、これでも煤鬼君が抵抗できたり……)
「く、そっ……何だ、これ……外せっ……くっ……!!」
(しませんよねぇぇえっ!!良かったぁぁ!!)
必死に足をバタつかせても、撒きついている蔓を外そうとしても、
逃れられないらしい煤鬼に安堵する麿。
表向きは厳しい表情だけ煤鬼に向けて、こう言った。
「さぁ、“観念して”!!たくさん反省してもらうよ?
煤鬼君はね、今回、ありとあらゆる所がダメ!!」
「お、お前がどれほど、やるものか……お手並み拝見だな、麿!」
「じゃ遠慮なくいかせてもらいます!!」
「うわっ!?」
ぐりっと煤鬼のお尻を自分の方向に向けた麿は、
別の蔓を生やして操って、器用に煤鬼のズボンや下着をずり下ろすと、その蔓で煤鬼のお尻を叩いた。
バシィッ!!
「っあ!!?っ……!!」
一発叩かれただけで、煤鬼の顔色が変わって、大声で叫ぶ。
「恋心姫!!一生のお願いだ!!今すぐ目をつぶって耳を塞げ!!」
「わ、分かりました!!」
恋心姫は必死な煤鬼の様子に驚いて、すぐに言われた通りにぎゅっと耳を塞いで目をつぶる。
煤鬼がもう一度叫んだ。
「恋心姫!!聞こえるか?!」
「…………」
そうやって、恋心姫が言うとおりにしてくれた事を確認して、煤鬼は震える声で言った。
「麿……頼む、許してくれ……これは、無理。我慢できない……!!」
「悪いけど、まだ一回しか叩いてないから……」
バシィッ!!バシィッ!バシッ!!
「うぁああああっ!!」
悲鳴を上げて本気で痛がる様子の煤鬼に、麿も胸が痛んだけれど、
そこは堪えて煤鬼を叱る。
「桜太郎君、お酒弱いんだよ?知らなかったの?」
「し、知らなっ……うっ、ごめっ……なさいっ……!!」
バシィッ!!バシッ!ビシンッ!!
「うわぁあああん!!やめてくれ!頼むからやめて!!やめてぇぇ!!」
「知らなくても、無理やりお酒を飲ませるのは悪い事だって分からなかった!?
煤鬼君が、恋心姫君と一緒になってイタズラしたらダメだよね?!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!麿と桜太郎が交わってしまえば、
桜太郎が俺達の事うるさく言わなくなると思ってぇぇ!!」
「えぇ!?何それもう!!そんな理由ダメ!!」
「ごめんなさぁぁい!嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だぁぁっ!!」
麿の言う事を素直に聞いていると言うよりは、次に来る痛みを怖がっている様子の煤鬼。
すでに大泣き状態でもがいているし、お尻も赤くなっている。
ので、麿は慎重にもう一発叩きこんでみる。
バシィッ!!
「うわぁあああん!ごめんなさぁぁい!!ごめんなさい!もうしません!!」
「本当にもうしない!?」
「わぁああん!本当です!もうしないです!!お願いですから許してください!うわぁあああん!!」
(煤鬼君て敬語使えるんだ……!!)
妙なところに感心してしまった麿。
その間も煤鬼は必死で泣き叫びながら謝り続けていた。
「ご、ごめんなさい!もうやめてください!うわぁああん!叩かないでぇっ!
桜太郎のお手伝いするからぁぁっ!!」
(あ、なんか可愛い……でも、あと一発だけ……!!)
そう思って麿が蔓を操ろうとすると……
(あ、れ……?なんか、頭が、ぼーっと……)
急に視界が霞んで、目の前が真っ暗になる。
「麿!!」
最後に自分を呼んだ声が、恋心姫のものか煤鬼のもの、ぬぬのものか、それすらも分からず、
麿は気を失った。





「んんっ……」
「あ、麿さん……気が付きました?」
次に目を開けた時、麿は、桜太郎に介抱されながら、布団に寝かされていた。
「!?あ、あれ……僕、鬼ごっこしてて……」
「麿さん、慣れてないのに能力を使い過ぎて、倒れちゃったんですよ。
ススキが運んできました。まだどこか痛かったり、気分が悪かったりしますか?」
「ううん……平気……(煤鬼君、強く叩いちゃったのに可哀想に……!)」
起き上がろうとする麿を、桜太郎が優しく止める。
「あ、寝ててください。結構、体力を消耗するんです」
麿は素直に再び横になった。
「わ、分かったよ……面倒かけてごめんね?」
「いいえ……でも、植物で叩くお仕置きは、もうやめてあげてくださいね?
麿さんがまた倒れたら困りますし、意図しなくても威力が……ススキでもキツイと思います。
体を固定するだけならいいかもしれませんけど……
ススキの動きを奪う方法なら他にもありますから」
「そ、そっか……!煤鬼君、すごく痛がってて……可哀想だったね……」
「今回は仕方ないですよ。
それに、ススキの場合は一回だけなら、ねじ伏せておくのは有効かもしれません。
“怒らせてはいけない相手だ”と、覚えてくれますよ」
桜太郎はそう言って笑う。
「正直、麿さんがあの子達をきちんと叱ってくれてホッとしました。
もし麿さんがあの子達を甘やかして味方されたら、私が叱りにくくなりますから。
それに……ススキとココノ姫が泣きながら全部白状したのですが、
私の事、だったんですよね?ありがとうございます」
「ううん、僕もまさか、無理やりお酒飲まされたなんて思わなくて……
実は昨日、桜太郎君のお尻叩いちゃって。ごめんね?」
「あはは……覚えてないので大丈夫ですよ」
「恋心姫君と煤鬼君……僕もお仕置きしちゃったけど、桜太郎君も怒ったの?」
「私は一発だけ、げんこつしておきました。
帝さんにはお説教されて二人でしゅんとしてましたが……
良くも悪くも彼ら、立ち直りは早いので。今は機嫌よく遊んでると思います」
桜太郎にそう聞いて、麿はホッとした顔をした。
「良かった……あの二人は笑顔が一番だからね。
それに、恋心姫君は僕らの事を思ってくれて、やっちゃったみたいだから」
「ススキがイヤラシイ事ばっかりするから、
ココノ姫が妙な考え方になってるんですよ……もう!」
「で、でもさ……彼らには彼らなりの愛の形があるんだよ。
ちょっと大胆過ぎて、桜太郎君は心配になっちゃうかもしれないけど、
恋心姫君からしたら、逆に僕らの方を“早くくっつけなくっちゃ”って心配したんだし。
お互いの考え方の違いという事で……もう少しだけ、許してあげて欲しいな。
そうしたら、煤鬼君も僕らを同じ側に引き入れようとしなくなるよ」
麿はそう宥めるが、桜太郎は……
「ですがあの子達……放っておいたら一日部屋から出てこないんです!!」
と、顔を覆って嘆く。流石に麿も驚いて叫んだ。
「それは止めなきゃダメだ!!っていうかそれ、恋心姫君がよく付いていけるね!?」
「お互い沼みたいな性欲と体力らしくて……!!」
桜太郎はそう嘆いた後、顔を上げてため息をついた。
「……ですが、そうですね。麿さんに免じて……これからは、私が怒鳴り込みたくなる
イヤラシシーンを目撃しても、一度だけ見ないフリする事にします……」
「あ、ありがとう。彼ら喜ぶよ!!」
「……麿さんと恋仲になって、彼らの気持ちも少しは分かる様になりましたし……」
「え?」
「い、いえ!!変な意味ではなく!!」
「だ、大丈夫!!分かってるよ!!」
結局はお互い真っ赤になった麿と桜太郎だった。


ちなみに、復活した後の麿は恋心姫と煤鬼に謝られながら泣きつかれて、
二人を撫でて宥め、兄のような気分になるのであった。



【おまけ】

ぬぬ「帝、俺をくすぐってほしい」
帝  「また変な性癖に目覚めたか?」
ぬぬ「違う。煤鬼にくすぐられた時、皆に笑顔を褒められた。
    帝にも見せたいけど、うまく笑えない」
帝 「ふむ……仕方ないな。仰向けになれ」
ぬぬ「分かった!
    ……んっ、ぁっ……!?帝、それ……ちょっと、違う……!!」
帝 「黙れ。茶屋での事、忘れてないだろうな?この変態!
    さぁ選ばせてやる!このまま恥ずかしいお仕置きと、痛いお仕置き、どっちが欲しい!?」
ぬぬ「は……ぁっ、っ、う、帝の、好きな方……!!」
帝 「あぁ、そうか!じゃあ両方だな!?浅ましいペットめ!覚悟しろ!?」
ぬぬ「ひゃぁっ……!!」


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