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茶屋のとある一日
(姫神様フリーダム×妖怪御殿コラボ作品)

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やっほー!妖怪研究家、兼妖怪の麿拙者麿だよ!
(※ちなみに最近、恋人が出来ました!!)
そんな僕が、妖怪御殿の皆と新しいお家に来てからしばらくして。

何だか近所に美味しい甘味処っていうか、お茶屋さんがあるってチラシが入って!
そこに“カップル限定のパフェ”があるんだって!
恋心姫君がすっごく行きたがって、帝さんが近くだからいいよって事で、
煤鬼君と出かけるみたい!

2人が喜んでたら僕も桜太郎君と……なんて、デヘヘ……
と、とにかく今は桜太郎君のお手伝いを頑張ろう!!


******************

一方、件のお茶屋では、茶屋娘の桃里が、臨時お手伝いの雪里と店番をしていた。
「ごめんね雪里!今日は人手が足りなくて!!
私一人だとほら、怖いお兄さんが来た時に不安だから!」
「……裏方でいいなら、構わないよ。(桃里姉さんなら多少の怖い奴でも勝てそうだけど)」
「うんうん!接客は私がやるから!雪里は料理というか、簡単な盛り付けだから!
分からない事があったら、すぐ聞いてね!」
「うん。厨房に入ってるね」
「はいはーい!さぁて、今日はどんなお客さんが来てくれるかな〜〜!」
雪里を厨房に送り込んで、桃里は伸びをする。
すると……
「おい、ここは茶屋か?」
「あ、はい!お茶屋“山の隠れ家”で……!?」
お客さんらしき声に振り返った桃里は思わず絶句する。
色が黒くて大柄な、角の生えた青年が、小さな女の子を連れていた。
「ここの甘味が美味いと聞いて来たんだ」
「楽しみですね〜煤鬼!」
(ほ、本当に何か怖そうなお兄さん来たぁぁぁぁああ!!
ま、待って、でも子連れで兄妹っぽい!話し方は穏やかだし!見た目で判断しちゃダメ!!)
桃里はそう思い直して、二人を外の長椅子に座らせて、営業スマイルでメニューを差し出す。
「メニューですどうぞ!」
「……お耳!!」
女の子が嬉しそうに桃里の狐耳を指差したので、桃里も笑顔で耳を動かして見せた。
「そうだよ〜?可愛い?」
「可愛いです!!」
「ありがとう。お兄ちゃんと一緒でいいね〜?」
「おにい……ちゃん……?」
さっきまで嬉しそうだった女の子が呆然として、ワナワナと震えだした。
「た、確かに煤鬼は鬼ですが……いいえ、そう言う意味じゃない事ぐらい、
妾だって分かりますよ!?ちょっと!妾達のどこが兄弟に見えるんですか!?
どこからどう見ても立派なカップルじゃないですか!!」
(あ、しまった!お兄ちゃんと“カップル”のつもりなんだ。
可愛いなぁ……私にもそんな時期あったなぁ……)
桃里は“球里兄さんのお嫁さんになる〜”と豪語していた少女時代を思いだしてほっこりしつつ、
怒りだした女の子を、慌てて宥めようとして
「あ、ああ、ごめんね!うん見えるよ!
どこからどう見ても、お兄ちゃんと恋人さんだよね!?」
「妾をおちょくってるんですかこの女!!?」
余計怒らせてしまう。
「恋心姫、怒るな。仕方ない。俺がデカすぎる」
青年が笑って女の子の頭を撫でても、女の子の怒りは治まらないようだ。
「嫌です!!絶対許しませんよこの女狐!!妾達の仲をバカにして!
目にもの見せてやります――!」
女の子が長椅子の上に立ち上がって、両手を横に広げると、
その両手の先それぞれに、その辺の木の葉や落ちている木の枝が勝手に集まって、
小さな人形(のようなもの)が2つ出来上がった。
それが、いっぺんに桃里に襲い掛かってくる。
……と言っても、ぶつかって来る程度なので、軽くうっとおしいくらいの実害しかない。
「ひゃっ!?な、何!?」
「どうだ参ったか!この女狐!!謝ってください!」
女の子がまるで人形を操るように腕を動かして強気になっていると……
「こら、恋心姫!!」
「きゃぁっ!!」
横にいた青年が女の子の帯を掴んで引き寄せ、膝の上に乗せた。
その瞬間、桃里にまとわりついていた人形達は崩れ落ち、
ホッとした桃里の目の前で、女の子は青年にお尻を叩かれる。
バシッ!!
「ひゃぁんっ!?」
「外で面倒を起こすと桜太郎とか帝に怒られるぞ!?」
パンッ!パンッ!パシッ!!
青年は最初の一打よりは手加減気味に叩いているけれど、
女の子は嫌がって足をバタつかせる。
「うぁああん!だってぇ!だってぇぇっ!!」
「だってじゃない!ごめんなさいは!?尻を真っ赤にされたいか!?」
パァンッ!パンッ!
青年は何度か叩いて、女の子のスカートに手をかけると、女の子が必死で喚いた。
「やですぅ!ごめんなさぁぁい!もうしないからやめてぇ!!」
「まだ許さん!」
けれど、結局はスカートを捲られて、下着も下ろされてお尻を叩かれる。
パンッ!ピシィッ!パンッ!
「ああん!ごめんなさいしたのにぃ!やぁん!痛い!お尻嫌ですぅ!ふぇぇえっ!!」
女の子が泣きそうな悲鳴をあげ、桃里はオロオロしながら謝る……
「わ、ぁ、私……すみません……!!」
が、それは聞き取ってもらえなかったらしく、女の子はもうしばらく叩かれていて……
許してもらえると、青年に抱き付いて泣きながら癇癪を起していた。
「うわぁああん煤鬼ぃ!悔しいです!
この女に、妾達のラブラブさをみせてやりたいです〜〜!!」
「分かった分かった。仕方ないな……じっとしてろ?」
青年はそう言って、女の子を抱き寄せて……
「んっ……!!」
強く唇同士触れ合わせ、舌を差し入れて唇を動かす。
「んんっ、ふっ、ちゅっ……んむぅっ……ちゅぅぅっ……!!」
良く見れば女の子の方も応えるように唇を動かしていて……
2人の舌と舌の絡み合うような、蠢き合うような、情熱的な濡れ音と吐息を響かせ、
見ていた桃里が真っ赤になるほど、熱烈で深いキスを交わす。
そして、唇同士を透明な糸で繋いで離れると、
青年はぐったりする女の子をしっかり抱きつつ、
舌なめずりをして……挑発的な笑みを桃里に向けて言う。
「娘。これで、俺達が恋人である事、疑いようはないな?
それとも……もっと深い所まで見せねばならんか?
俺達はな、ここの“カップル限定のパフェ”を食べに来たんだ!
さっさと持って来い!」
「よっ……よよよ喜んでぇぇぇっ!!!」
桃里はキラキラした顔で厨房へ駆け込むと……
「雪里ぉおおお!“ラブラブパフェ”を作って!最高のヤツ!!」
「さ、最高って何だ桃里姉さん!?」
いきなりテンション高く駆けこんできた桃里に混乱する雪里。
桃里は勢いよく雪里の隣に並んで、パフェを作り始める。
「いいからいいから!手伝って!あんなキス、生で初めて見た〜!!」
(姉さんは何を見たんだ……?)
テキパキとパフェを作る桃里をワケの分からないまま手伝う雪里。
やがてマニュアルより大きな“ラブラブパフェ”ができあがると、
桃里は笑顔で二人へと運んでいった。


「お待たせしました!“ラブラブパフェ”です!」
「…………」
ふくれっ面で、じとっとした視線を桃里へ送る女の子。
桃里は済まなそうに笑って言った。
「さっきはごめんなさい。彼氏さんと仲よく食べてくださいね」
その言葉で、女の子の表情は一気に嬉しそうになって
「いただきます!!」
と、ご機嫌で“ラブラブパフェ”を受け取ったのを、青年も一緒に支え持っていた。


カップルを主張する二人は、そう主張するだけあって
ずっとイチャイチャしながらパフェを食べすすめる。
「は〜い、煤鬼お口開けてください!あ〜ん
「あ〜〜んっ、んん!んまいな!よ〜し、じゃあ恋心姫も口開けろ」
「あ〜〜んっ!おいひいです!」
定番の食べさせ合いを続けて、青年が女の子の口元へ、ハート型のクッキーを持っていく。
「ほら、クッキーもやろう」
「待って、それは半分こですよ」
「そうか!じゃあ……」
クッキーを半分に割ろうとする青年を、女の子が慌てて止める。
「ああ!ダメダメ割っちゃダメです!エンギが悪いですよぉ!」
「はは、この程度で俺達の愛が壊れるものか」
「で、でも……なんか嫌ですよ!」
「じゃあ恋心姫が食うか?」
「う〜ん……でも、煤鬼と半分こがいいです……!」
「う〜ん……あ!良い事を考えた!恋心姫、これ咥えろ」
青年は楽しそうに笑いながら、女の子の口へクッキーを差し入れ、
女の子は不思議そうにクッキーを咥えている。
「んむ?」
「ふふっ……動くと割れるからな、動くなよ?」
ニヤリと笑った青年は、パフェを椅子に置いて、
女の子を力強く抱き寄せると……
「っ!?」
女の子の咥えているクッキーを噛み砕いて食べた勢いのまま、唇を激しく奪う。
「ふぁっ!……ぁっ、んちゅっ、はっ、ぁ……ちゅっちゅっ……!!」
熱烈で深いキス(二回目)。
最後の方はクッキー関係なくただのディープキスになっていたが、
唇を離した青年は得意げに笑った。
「っ……ほら、どうだ!」
「はぁっ……う……!」
女の子の方は恍惚とした後、恥ずかしそうに喚く。
「わぁん!もう!これ以上気持ちよくしたら嫌ですよ!」
「クク、嘘をつけ。好きなくせに。あーあ、アイスが垂れてるぞ?」
そう言った青年は女の子の胸元を舐め、女の子は赤くなってプルプルと身を震わせる。
「ひゅっ…… わら、わ、が、我慢、できなくなっちゃいます……!!」
「……そうなれば、適当にその辺の木陰で“寄り道”すればいいだけだろう?ん?」
そう言いながら青年は女の子の首筋に軽くキスをして……
「ふぁっ……やぁぁ!早く食べないと、アイス溶けちゃいますよぉ!」
女の子は恥ずかしそうにぐずっていた。

その様子を桃里は厨房の窓から始終目を爛々と輝かせて眺め……
(桃里姉さんはさっきからじっと外を見てどうしたんだろう?)
雪里はそんな桃里を不思議そうに眺めていた。


――別の日

お茶屋では、茶屋娘の桃里が、臨時お手伝いの遊磨と店番をしていた。
「ごめんなさい遊磨さん!今日は人手が足りなくて!!
でも、遊磨さんと店番って楽しみです!茶屋娘の制服、似合ってますね♪」
「あはは、そうですか?あたしも、桃里さんの役に立てれば嬉しいです!
でも、大丈夫かなぁ?接客ってやったこと無くて……」
「遊磨さんなら大丈夫ですよ!私も時々交代しますし!
分からない事があったら、すぐ聞いてくださいね!」
「はーい、頑張ります!」
「あ、ほら、さっそく誰か来たみたいですよ!」
桃里と遊磨の元にやってきたのは、青年と女性の二人連れ。

「ススキとココノ姫が言ってたのはここでしょうか?」
「あ!きっとここだよ!すみません二人です〜!」
遊磨は二人を外の長椅子に座らせて、営業スマイルでメニューを差し出す。
「メニューですどうぞ!」
「あ、ありがとうございます……」
ここで、メニューを受け取った青年の視線が、
メニュー表ではなく別の所に注がれている事に気付いた遊磨。
(ん……?胸見られてる?参ったなぁ……慣れてるけど。
ま、イヤラシイ感じじゃないからいいか……)
と、気にしない事にしたところ、青年の方はハッとして隣を見るが、
隣の女性の視線も遊磨の胸に釘付けで……青年がますます驚いて女性の太ももを軽く叩いていた。
女性もハッとして青年を見る。
遊磨はそこで「ごゆっくりどうぞ」とその場を離れ、
青年と女性の控えめな声の会話が聞こえる。
「こら!胸をじっと見つめたら失礼だよ!」
「す、すみません!珍しくて、つい……!」
「そうだね、うち男所帯だから……ごめんね僕、胸無くて」
青年が拗ねたようにそう言うと、女性は泣きそうな声になっていた。
「あ、あの……すみません……!」
「うんそうだよね!大きい胸って素敵だよね!?つい見ちゃうよね!?
よくあるよくある!いやもう僕も思いっきり見ちゃったよ!」
「麿さん、声!!」
「あっ……!」
女性に言われて、青年は慌てて黙るけれど……
「……ご、ごめんなさい私、胸無くて……」
「うわぁあああ!!そうじゃない!そうじゃないんだ!!」
女性がしゅんとするとまた慌てて大声でフォローする。
(あの二人大変そうだなぁ……)
離れたところから見ていた遊磨は、話を変えてあげようと二人に声をかけた。
「ご注文、お決まりですか?」
すると、驚いた二人が慌ててメニュー表を覗き込む。
「え、ええと!カップル限定のパフェがあるってチラシで見て……!!」
「この、“ラブラブパフェ”、ってものでしょうか?!」
「そ、それだ!それにしよう!!」
勢いよくそう言った青年。
しかし、メニュー表を見ていて何かに気付いたらしい。
「あ……れ?……“注文時に証拠としてキスしてください”?」
「別の物にしましょう麿さん!!」
「そうだねそうなりますね!!ファーストキスがこんなんじゃあんまりだもんね!」
息の合った早口会話で注文は即キャンセルされるが、
遊磨は苦笑しながら二人に提案した。
「……別に、唇同士のキスじゃなくてもいいと思いますけど、いかがですか?」
「あ……ど、どうする?どこかにキスして頼もうか?ど、どこがいい?」
そう言って隣を確認した青年。
しかし……
「……わっ、私が……麿さんに、口付けを、ねだる……なんて……!!」
真っ赤な顔で俯いて、胸元を握って震えている女性を見た途端
庇うように肩を抱いて遊磨に叫んだ。
「すみません!ちょっと隣が大変な事になってるんで、やっぱり別の物で!!
ほんともう!次回までに練習してきます!!」
お互い真っ赤になっている青年達が微笑ましくて、遊磨は思わず笑ってしまった。
「あはは!もうどっからどう見てもカップルなんで、“ラブラブパフェ”持ってきますよ」
「そ、そうですか?ありがとうございます!良かったね!」
嬉しそうにお礼を述べた青年の横で、女性も何度も首を縦に振る。
遊磨は張り切って厨房へ注文を伝えに行った。
(何かあの女の人、桜のいい香りがしたけど香水かなぁ……?)
そんな事を考えながら。


そして厨房で。
「桃里さーん!“ラブラブパフェ”1つ注文入りました!」
「はーい!そう言えば、この前も注文あったんですよ!
すっごい積極的なカップルで、ビックリしたなぁ!」
「そうなんですか?今日の二人は、めちゃくちゃ初々しいですけどね!」
「色んなカップルがいるんですね〜!
でも、初々しいカップルならちょっとお手伝いしちゃおうかな〜♪」
「えー?どうするんです?」
「実はこの前のカップルが……」
そんな会話が終了後、桃里が“ラブラブパフェ”を二人に持って行くことになる。

笑顔で青年へ“ラブラブパフェ”を手渡した。
「お待たせしました!“ラブラブパフェ”です!」
「あ、ありがとうございます」
「お兄さん、このハートのクッキー、割らずに二人で食べればいい事ありますよ!」
「へぇ!そうなんですか……」
「はい!ぜひチャレンジしてみて下さい!ごゆっくり!」
そう言って、桃里はその場を離れ……
遊磨と一緒に二人の様子をワクワクと観察していた。

2人は桃里の言葉を一生懸命考えているようだ。
「クッキーを割らずに二人で……どうやって食べたらいいんだろうね?」
「う〜ん?……謎かけ、でしょうか?思い浮かびませんね」
「とりあえず、アイス食べながら考えようか?」
「そうですね……」
そう言いつつ二人で譲り合いつつアイスやフルーツを食べて。
結局アイデアが出ないままアイスを食べきった。
青年がふんわりと言う。
「クッキー残っちゃったぁ……恋心姫君と煤鬼君はどうやって食べたのかなぁ?
聞いてくればよかったね」
「……え、ちょっと待ってください……“注文時に証拠としてキス”……
あの子達まさかやったんでしょうか!?あのイヤラシ妖怪!!公衆の面前でも見境無しか!!」
「お、落ち着いて!!ルールだから仕方ないよ!
唇じゃなくてもいいって言ってたし!きっと恋心姫君が煤鬼君のほっぺにちゅって!」
「……本当にそう思います?」
「……いや、喜んでガッツリ唇同士でやったと思います」
「はぁぁ……もう!あの子らは!!」
(ん?キス……?)
怒り気味のため息をついた女性の隣で、青年は黙り込む。
そして徐々に顔を赤くした。
(あれ待てよ……このクッキー……どっちかが咥えてどっちかがキスする要領でいけば、
割らずに二人で、食べれちゃったり……?
うっわぁぁ!いかにも恋心姫君と煤鬼君がやってそう!
な、なんて悪魔的な……いや!鬼的な方法を思いついてしまったんだ僕は!!
ど、どうする!?この発見を桜太郎君に伝える!?)
ソワソワしながら、チラチラと女性の様子を窺う青年。
そんな時、女性の方も何か閃いた表情で顔を上げ、青年に声をかける。
「……あの、麿さん?」
「ひゃい!?」
青年の声が裏返る。
女性は何だか嬉しそうな表情で声を弾ませた。
「私、思いつきました!割らずに二人で食べる方法!!」
「何だって!?どんなの!?」
青年は食いついた。
その瞳は期待と緊張で輝いている。
(桜太郎君が提案するなら、僕は乗るよ!?乗っちゃうよ!?)
真っ赤な顔で真剣な表情の青年へ。
女性はとびきりの笑顔でこう言った。
「どちらかが半分だけ齧って食べて、残りをもう一人が食べるんです!どうですか!?」
「……あ……」
青年は一瞬、ポカンとして。
それを感じさせないほどのテンションを盛り上げて女性へ明るく返す。
「す、すごい!!天才だね!ナイスアイデア!僕、泣きそう!!」
女性は照れながら小首をかしげて笑った。
「褒め過ぎですよ……麿さんお先にどうぞ?」
「う、うん……はは、おいしそうだなぁ……」
笑顔の青年の声はどこか悲しげで。

見守っていた桃里と遊磨も……
「あっちゃぁ……抜け穴があったかぁ」
「あは、残念ですねぇ」
残念そうに笑っていた。


――別の日

お茶屋では、茶屋娘の桃里が、臨時お手伝いの球里と店番をしていた。
「ごめんなさい球里兄さん!今日は人手が足りなくて!!
私一人だとほら、怖いお兄さんが来た時に不安だから!」
「そうだな。女の子一人だと不安だ。
私は厨房担当か?何かあったらすぐ呼べよ?」
「うん、料理お願い!球里兄さんなら料理も頼もしいよ!
分からない事があったら、すぐ聞いてね!」
「分かった。お互い頑張ろう」
「はーい!ふふ、今日もカップルが来たら嬉しいなぁ!」
厨房へ入っていく球里を見送って、
ワクワクする桃里の元にやってきたのは、桔梗色の短髪をした一人の青年。
冠が似合いそうな優美な着物の割に、頭部には装飾が無い出で立ちの彼が、
ゆったりと着物の裾を翻らせ、勝手に外の長椅子に座って、笑顔で言った。
「おい娘、“ラブラブパフェ”とやらをもらえるか?
皆が美味しいと言うので余も食べたくなってな」
「えっ……?」
明らかに一人できて、カップル限定メニューを堂々と注文してくる青年。
桃里は困惑しながら言葉を返す。
「あの、申し訳ありませんが“ラブラブパフェ”は、カップル限定メニューとなりますので……」
「可愛い恋人3人は家に置いて来た」
「……一応、一緒に来ていただいたカップル様のメニューとなりまして……」
笑顔を困らせながら、懸命に説明する桃里だが、
青年はだんだん不機嫌な表情になってきた。
「はぁ?この店は条件を満たしているのに、客を差別するのか?
別にそのくらいの融通はきくだろう?何だ?余が嘘を言っていると言うのか?」
「そういうわけでは……」
オロオロする桃里の元に、異常を察した球里が助けに来た。
「どうした桃里?」
「あ……球里兄さん、このお客様が……」
「お前が責任者か?どうなってるんだこの店は。
この娘が、余に“ラブラブパフェ”を食わせないと言う。
恋人は家に置いて来たんだ」
(これが噂のクレーマーというものだろうか……!!)
球里は衝撃を受けつつも、ひとまず申し訳なさそうな表情をして、
誠心誠意説明を試みるが……
「申し訳ありません。“ラブラブパフェ”は一緒に来ていただいたカップル様の
メニューなので、本日はどうか他のご注文を……」
「それはさっき聞いた!何だ、お前もクソみたいな接客をしおって!
大体この店、“王室御用達”とかいう看板も胡散臭い!
こんな貧乏くさい店に王族が来るのか!?今すぐ連れてこい!この詐欺茶屋め!
どうせ甘味の材料も腐りかけの物とか使ってるんだろう!?」
余計難癖を付けられて、真面目心が燃え上がってしまう。
「お客様……!」
「兄さん、もういいよ。“ラブラブパフェ”お出ししよう?」
「いや、桃里!こんな悪質なクレーマーに屈するな!!」
「その通り。その子のワガママに付き合う必要は無い」
突然、第三者の声。
球里も桃里も、青年も声の主を見て驚いた顔をする。
「「和様!!」」
「!!」
「いつもありがとうございます!」
「えっ!?あ、和様……お久しぶりでございます」
笑顔で頭を下げた桃里の言葉に、驚きながら跪く球里。
神王の一人、和はそんな二人に笑顔を向けて
「球里、堅苦しくしなくていい。桃里、迷惑をかけたな」
青年に近づいて、厳しい表情を向ける。
「貴殿がワガママを言うのは私だけだと思っていたが?冠はどうなされた?」
しかし青年は不機嫌そうにそっぽを向いて相変わらずの尊大さで言う。
「ハッ……うるさいドクズ。あんなものとうの昔に捨てたわ」
「つい最近連絡を取っただろうが……!城に来る約束もすっぽかして!!」
「何故余が出向かねばならん?面倒極まりないから行かなかったまで。
お前の顔など一秒も見ていたくないし、割く時間が死ぬほど惜しい。
妖怪だって暇じゃないからな……昼間っから、こんな店に出入りするお前と違って。
余の下僕の分際でゴチャゴチャやかましいぞ和王」
自由すぎる青年の物言いに、球里は「和様に、な、何て事を……!!」と真っ青になって、
桃里も目を丸くしている。
和は明らかにイライラ気味に笑顔を引きつらせていた。
「……ははは、これはこれは……下僕とは随分だな、“妖怪御殿の主殿”?」
「余の靴先に口付けるなら“帝様”と呼ぶ事を許可してやるが?」
「こ、の……!!」
和は抑えめに怒りを爆発させて、青年の隣に座り込んで、
青年の体を膝の上に横たえてしまう。
「!?は?!何だ!?は、離せ!!」
驚いて足をバタつかせる青年に、和は涼しい顔で言った。
「私は貴殿の下僕に成り下がった覚えはさらさら無いし、
この店は私のお気に入りでな。迷惑行為はご遠慮願いたい。
まずは店の者に一言詫びて、あとは帰るなり大人しくするなりお好きになされ」
「不快な思いをしたのは余の方だ!そっちが土下座しろクズめ!!」
「謝りなさい」
「うるさい!離せと言っておろうが!!」
あくまで上から目線な青年が喚くと、
和がため息をついて、青年のお尻に平手を振り下ろした。
バシッ!!
「ひゃっ!?なっ、な、お前っ……!!」
「さすがにここまで躾がなってないと、私でも心配になるレベルですぞ主殿?」
「あいにく、親がろくでなしだからな!」
「そうでしょうな。可哀想に。なら一つ私が、ここで躾けて差し上げよう」
「要らぬわ失せろ!!」
ビシッ!バシィッ!ビシィッ!!
再度、何度もお尻を叩かれて、青年はもがいた。
「うぁあっ、な、なにっ……やめろ……!!」
「一言“ごめんなさい”と店の者に謝って、帰るか大人しくすると誓うなら、すぐにでも」
叩きながらも毅然という和。
青年は悲鳴を上げながらも首を横に振った。
「ひっ、あっ!!誰が!!お前の言う事など、きくか!!」
「ならば交渉決裂。ここでお尻を叩かれ続ける事になるが……ご多忙な主殿、お時間は大丈夫か?」
ビシッ!バシッ!!ビシィッ!!
「あ、うぅ!!くそ!!離せ!ふっ、あぁっ!!
ひゃぁん!!謝るか!お前などに!死んでも!!」
「私ではなく、店の者に」
「うるさい!離せ!離せっ!!余を晒し物にしおって変態!」
何を言われても、何度叩かれても、青年は一向に態度を崩さなかった。
それでも、叩かれ続ければさすがに辛くなってきたのか、
息を乱して、涙目になってきた。
バシッ!ビシッ!バシィッ!!
「んぁああっ!やっ、謝りたくない、んっ、
こんなクズに、辱められて、謝りたくないッ……!!う、あ!!」
独り言のように喘ぎながら悲鳴を上げて、叫んだ。
「はぁぁっ!ぬぬ!!ぬぬ!!助けて!!」

ガサガサガサガサ!ズザザザザッ!!

突然、すごい音がしたかと思うと、
近くの木の上から白髪で角の二本生えた青年が飛び降りてきた。
そして、服に付いた葉っぱを取り払いつつ、お尻を叩かれている方……
桔梗色の髪の青年に寄っていって困った顔で呼びかける。
「帝」
「ぬぬ!!?」
「!?貴方は……!?」
「ぬぬ。帝のペット。心配で付いてきてた」
驚く和には簡潔に自己紹介を済ませる白髪の青年。
桔梗色の髪の青年は必死で助けを求めた。
「ぬぬ!助けろ!助けてくれ!!」
「……でも、帝……ずっと見てたけど、謝った方がいい」
「はぁ!?ずっと見て何してたんだ!?」
「帝を止めようと思ったけれど、この方が止めたから。出るタイミングが掴めなくなった」
「役立たず!!」
バシィッ!!
「ひゃぁぁあっ!!」
「お前は本当に誰にでも口が悪いんだな!?そろそ本気で反省させるぞ!?」
和に怒鳴られてお尻を打たれて、桔梗色の髪の青年は半泣きで叫ぶ。
「わぁああん!嫌だ!こんなクズにぃぃ!ぬぬ!助けてくれ!!」
「この方の事は知らないが……見ず知らずでも、悪い事をした子を叱れる。
地域社会の大人の鏡だと思う」
「お褒めに預かり光栄だ」
ビシッ!バシッ!バシィッ!!
和が笑顔で対応しつつ、お尻を叩く手を強めると
桔梗色の髪の青年は、ますます頬を染め、瞳を潤ませて悲鳴を上げながら白髪の青年に叫ぶ。
「あぁっ!このままじゃ!泣かされる!こんなクズに泣かされて謝ってしまうぅ!!
ぬぬ!お前がいい!まだお前の方がマシだ!お前にお仕置きされたら謝るからぁっ!!」
「!?」
白髪の青年が驚いて目を見開く。
「ん、あ!!ぬぬ!お願っ……助けて!!お前にお仕置きされたい!!
お前がいい!!余をお仕置きしてぇっ!!」
桔梗色の髪の青年がそう叫んだ途端、白髪の青年は和の手を掴んで止め……
「誉を返してくれ」
無表情なのに鬼気迫る形相でそう言った。
あまり威圧感にの和が固まると、桔梗色の髪の青年がちゃっかり膝から抜け出していた。
立ち上がって、和から距離を取って涙を拭いて息を切らせる。
「はぁっ、はぁっ、ぬぬ……良くやった……!!
今日は厄日だ!こんな所にいられるか!帰るぞ!」
「こら!誉!!」
「黙れ変態!ここの詐欺甘味で腹を壊すがよいクズめ!ぬぬ早く行こう!」
和が叱るように呼びかけると、また悪態をつく桔梗色の髪の青年。
しかし、白髪の青年は動こうとしない。
「誉……まだ……」
「は?何だ!?帰るぞ!?」
「まだ、俺、誉をお仕置きしてない……」
呟くようにそう言ったかと思うと、白髪の青年は、力強く桔梗色の髪の青年を肩に担ぐ。
「ふやぁぁぁっ!?おいバカ!何をする!?」
本気で驚いて足をバタつかせる桔梗色の髪の青年を、また外の長椅子の所まで運んで、
驚いて飛び退く和に視線で会釈して、座る。
そして桔梗色の髪の青年を自分の膝の上に横たえてしまう。
プラス、着物の裾を捲って褌だけ身に付けたお尻を丸出しにして、
その赤くなっているお尻を叩き始めた。
バシィッ!!
「うぁあっ!!?」
悲鳴を上げる桔梗色の髪の青年に、白髪の青年はうっとり……
というより、ねっとりとした音色で語りかける。
「誉ぇっ…… さっき可愛かった……正直、興奮した……
「なっ、何だお前気持ち悪い!っていうか着物!着物の裾がぁぁっ!!
今すぐ離せ!後でどうなるか分かってるのか!?」
「誉の、そういうワガママな所、偉そうな所……一種の魅力だと思う……
でも、今日は俺の膝の上でいい子にならなきゃダメ…… さっきそう言った……」
白髪の青年は、言いながら桔梗色の髪の青年のお尻を指先でなぞる。
さっきまでの冷静さの全くない、恍惚とした、息遣いの生々しい、その声と、
お尻に走るくすぐったさに鳥肌を立たせ、
桔梗色の髪の青年は威勢を失って動揺していた。
「ぬ、ぬ……?お、お前、どうした……!?」
ビシッ!バシッ!ビシィッ!!
「ひゃぁああっ!!」
「泣きながら、ごめんなさいして?
バシィッ!バシッ!バシッ!!
甘い懇願の声からは考えられないくらい強くお尻を叩かれる。
「うぁ、あああっ!やめっ……あぁあああ!!」
桔梗色の髪の青年が悲鳴を上げても、手加減は無い。
「痛いの我慢できなくなって、甘えた声で俺の名前呼んで?
必死に赤くなったお尻振って“いい子になったよ”って教えて?
ビシッ!バシィッ!バシィッ!!
「やぁああああっ!!待っ、ぁ、ふあぁああぁっ!!うわぁああん!!」
桔梗色の髪の青年にしてみれば、とにかく痛いし、
色々な意味で怖くなって本当に泣きながら叫んだ。
「分かったぁぁ!分かった謝るぅぅ!!ごめんなさい!ごめんなさい!
ぬぬぅ、も、やめてぇぇっ!!いい子になったからぁぁ!!」
「誉ぇぇ…… 最高に可愛い……
「うわぁあああん!!喋るなぁぁ!!今日のお前怖い!気持ち悪いぃぃっ!!」
「……そう言われると、ちょっと落ち込む……許してほしい?」
少し冷静さを取り戻したっぽい白髪の青年は、また一つ真っ赤なお尻を打った。
バシッ!!
「う、ぁ、うわぁああん!許してほしい!許して!ごめんなさぁぁい!!ぬぬぅぅ!!」
「……ふふっ……
白髪の青年はうっとりと笑って、桔梗色の髪の青年を抱き起すと、そのまま流れるように口付けた。
ちゅっ、と軽く唇を吸うようなキスをして顔を離すと、優しい表情で言った。
「……もう、しちゃダメ
「……
……分かった……」
桔梗色の髪の青年は俯いて、聞き取れないほどの小さな声で唇を動かす。
すると、白髪の青年はスッと冷静な顔になって、球里達に言った。
「と、このように、彼も反省してる。許してやってもらえないだろうか?
謝罪が足りなければ俺が土下座する」
「……あ、いえ……もう、十分……」
「……………」
球里は顔面蒼白でそう返すしかなく、桃里も顔を赤くして硬直している。
そして――
「うっ……うわぁあああああん!!」
和はショックを受けた様子で走り去っていった。
「和様!!」
「……(これはアリなの!?無しなの!?どうする私!?)」
混乱する球里と混乱して考え込む桃里。
白髪の青年は落ち着いてメニュー表を眺めて、桔梗色の髪の青年に声をかけた。
「……帝が食べたかったのは“ラブラブパフェ”か?」
「…………」
「……条件があるみたいだけど、さっきキスしたから注文できるかもしれない。頼んでみる」
「…………」
(……誉が口を聞いてくれない……)
白髪の青年が隣に少し座る位置を近づくと、一歩離れるように距離を取られる。
(誉に避けられる……後で謝って機嫌を取らないと……)

結局、白髪の青年が“ラブラブパフェ”を頼んで、
『カップルかどうかはよく分からないが断れない』と球里・桃里が協議の結果判断し、作って。
桃里が“ラブラブパフェ”を運んでいくと、白髪の青年の方が受け取って、
桔梗色の髪の青年に渡す。
桔梗色の髪の青年は一言も喋らず、無表情で黙々と食べすすめ、
ハートのクッキーは半分に割って全部自分で食べ……つまるところ、一人で完食していた。
そして、スッと立ち上がって歩いて行った。
白髪の青年は「彼は喜んで食べていた。美味しいと思っていたと思う。迷惑をかけて済まなかった」
と、冷静に言い残し、歩いて行った青年を小走りに追いかけていた。

そして残された球里と桃里は……
「……桃里、いいか?」
「(やっぱり、アリ、いや、無しか……!)えっ!?あ、ごめんなさい!!何!?」
「今日見た事は忘れよう。な?」
「う、うん……忘れよう……!!」

そう誓い合った。




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【作品番号】tyaya

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