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妖怪御殿のとある一日
〜お引越し編(前編)〜

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……工事の音、だんだん近くなってるみたいで心配だな……。
あ!妖怪研究家の麿拙者麿だよ!
時代の流れと言うか、最近、この山も開発事業をしてるみたい。
もし、この辺りも切り崩されることになって、
立ち退きを命じられたりしたら……僕はいいよ?

けど、妖怪御殿の皆はどうなるんだろう?
うぅう……!皆は僕が守る!!って、言いたいけど……
僕は自然保護団体じゃないし!あああどうしたらいいんだろう!?

と、とにかく皆が不安がってたらいけないから、様子見に遊びに行こうかな!

******************

妖怪御殿でも山地開発の事は懸念事項になっているようだ。
御殿から離れたところで遊んでいた恋心姫と煤鬼も、高みから少し見える工事の光景を眺めていた。
顔を曇らせる煤鬼とは違って、恋心姫は不思議そうにしている。
「煤鬼、人間がいっぱいいますよ!木を切って薪を集めてます!」
「いや、あれは山を壊して人間の遊び場を作ろうとしてるんだ」
「遊び場ですか!?いいなぁ楽しそうです!妾も遊びたいです!」
はしゃぐ恋心姫の頭を、煤鬼が困った顔で笑いながら撫でた。
「バカを言え。そのうち、俺達の住むところも人間が壊しに来るかもしれんぞ?
そうなったら、見つかる前に別に住むところを探さねばならんし……」
「お引越しですか?でも、妾達のお家は壊さないでって、
お願いすればいいんじゃないですか?麿も近くに住んでるのに!
麿は人間だから彼らの仲間でしょう?」
「皆が、麿のように優しい人間じゃないんだ。
ああいう山を壊す系の人間は鬼より非道だからな。
……さて、どうしたものか?皆殺すわけにもいかんしなぁ」
「あっ、当たり前です!殺しちゃダメですよ!!」
焦る恋心姫を、煤鬼は抱き上げる。
「ははっ!冗談だ。こういう難しい事は桜太郎や帝にどうにか考えてもらおう!
まだ遠いから大丈夫!あんなの気にせず遊ぶぞ!」
「は〜い!!今日は、お弁当ごっこですよ!」
「そうか。じゃあ、あっちで“おかず”を探そうか?」
煤鬼はそう言いつつ、上手く妖怪御殿に戻る様に山の奥に足を進め、
戻りながら恋心姫と遊んだのだった。


一方、妖怪御殿では……
帝が不機嫌そうに考え込んでいた。
「あー……この山は神聖視されているんじゃなかったのか?
それでも、侵略してくるなんてやっぱり人間などクソだな。
いや、人間に威厳を示せなくなった神がクソか?まぁ奴らは両方クソか」
「……帝、落ち着いて。まだ時間はある。引越し先を探そう。大丈夫。
帝の家族は、皆は俺が守る」
ぬぬがそう言って、帝を宥めようとするけれど、帝はぬぬを睨みつけるだけだった。
「ペットが自惚れるなよ?お前に何ができる?」
「ごめんなさい。どうにか他の妖怪とコンタクトを取って、
良い移住先の情報をもらえないだろうか?」
「……我らは独り者の寄せ集め。信頼できる知り合いもいまい。
だが……余には一つ宛がある」
仏頂面の帝は頬杖をついて扇を弄びつつも言う。
ぬぬは驚きつつもホッとした表情だった。
「!!あ、あったのか!良かった」
「気は進まんが、一番安全で定住できる場所だ。……交渉が上手くいけばの話だがな」
「……難しいのか?」
「いや、罵倒して押し通せば余裕だろう」
(無理やり!?)
「皆はどうしてる?」
チラと外の方を見た帝がそう言ったので、ぬぬは慌てて冷静になって答えた。
「煤鬼と恋心姫は帰ってきたみたいだ。桜太郎は、麿が来てくれたみたいで、話してる」
「ああ、そういえば……引っ越すなら、桜太郎をあの人間から切り離さんとな。
間違って恋仲にでもなって、アレと暮らすなどとトチ狂った事を言い出したら大変だ」
「み、帝……?」
「ふふ……桜太郎は賢い子だからきっと、分かってくれる。
クソに余の大事な家族を奪われてたまるか。
大体何だあの男は!害にならないと思って放置してやったら、
知らぬ間に桜太郎をたぶらかしおって!前々から気に入らなかったし、いい機会だな……」
唐突に、親しい麿に向けられた敵意にぬぬは困惑する。
寒気のするような笑みには嫌な予感しかしない。
「あの、おち、落ち着いて。麿は、ずっと仲よくしてきた。いい人間だ。
桜太郎を俺達から奪ったりしない。麿も、家族になればいいだけ」
「……人間を家族に?冗談だろう?」
帝はスッと立ち上がって
「今まで遊んでやったんだから、もう充分だ」
酷く冷めた音色でそう言って部屋を出た。


その帝が向かったのは桜太郎の所で、桜太郎は一人で机を拭いて片づけらしきことをしていた。
帝は笑顔を作って“いつもの調子で”桜太郎に話しかける。
「何だ、麿はもう帰ったのか?」
「はい。最近の工事の事で……私達を心配して顔を見に来てくれたみたいですよ?」
「ほう?優しい男よのう……」
「本当に……」
俯き加減に頬を染めて嬉しそうに笑う桜太郎は、帝の瞳が一瞬スッと冷めた事には気が付かない。
帝が桜太郎の隣に寄って、真剣な表情で話しかけた。
「……なぁ、桜太郎?そなた、あの男に気があるのか?」
「!!?急に、な、何言って……!!」
「やめておけ。アレは人間ぞ?我らとは違う」
「え……」
桜太郎の紅潮した頬が一瞬にして色を失う。
「麿は“人間”、我らは“妖怪”。種族違いの恋など、悲劇しか生まん。分かるだろう?
それに、近々我らはここを去る事になるかもしれん。麿は連れていけないし、
これ以上、情を持ったら後が辛いぞ?」
「……」
桜太郎はぐっと帝から顔を背ける。
動揺した様子で空になった湯呑をお盆に乗せていた。
「何を、言い出すかと思ったら……ご心配には及びません。彼はただの、友人ですから」
「そうか。ならいい。余も麿の友人としては、別れは辛いが、環境の変化は変えられんからな」
「仕方ないですよ。こういう事も、ありますから。
……そうだ。ココノ姫とススキに、おやつをあげないと」
逃げるように立ち上がる桜太郎の手を、帝が強く握って引き留め、
反射的に振り返った桜太郎に、怖いくらいの真剣さで告げる。
「桜太郎。絶対に、感情に流されて妙な気を起こすなよ?」
「あいにく私、恋愛感情には疎いんです」
そう返した桜太郎は懸命に澄まし顔を作っていて、帝はニッコリと湯呑の乗ったお盆を差し出した。
「忘れものだ」
「……!すみません……!」
桜太郎はお盆を受け取って、早足で去っていく。
それを無表情で見送りながら、帝は別の場所へ向かった。


別の部屋で恋心姫を見つけると、帝はニコニコしながら恋心姫に近づく。
「お!姫ぇ、ここにいたか!煤鬼はどうした?」
「薪を割ってますよ!ねぇ、帝!煤鬼とお弁当ごっこしたんです!見てお弁当!」
恋心姫は無邪気に、草花や土を詰め込んだ弁当箱を帝へ差し出す。
帝はそれを受け取って一瞬だけ視線を落とした。
「ふむ、美味しそうな弁当だな。一つ聞いていいか?」
「どうぞ!入っている物、全部名前を言えますよ!」
得意げにする恋心姫に、帝は尋ねた。
「桜太郎は麿の事が好きか?」
「え?」
「姫は分かるだろう?どうだ?桜太郎は麿の事が好きか?
逆でもいい。麿は桜太郎の事が好きか?」
質問を重ねて突きつけると、恋心姫はみるみる不安げな、訝しげな表情になってくる。
一歩、帝から離れて、怯えながらこう言った。
「……好きじゃ、ないです……」
「ほう?」
「桜太郎も麿も、お互い好きじゃないです……恋心は無いです」
「そうか。……姫は嘘が下手だな」
「えっ……あっ!!」
恋心姫が声を上げるのと、帝が“お弁当”をひっくり返すのはほぼ同時だった。
中に入っていた物が全部畳にぶちまけられて散り散りになってしまう。
呆然とする恋心姫に背を向けた帝は、
「ご馳走様」
と言って、空になったお弁当箱を恋心姫の方へ無造作に投げて返す。
カン、と、弁当箱の落ちた音が寂しく響いた次の瞬間には
「っ、うっ、うわぁあああああん!!」
火のついたように泣く恋心姫の声が響いていた。


帝は、再び別の部屋で洗濯物を畳んでいた桜太郎を見つけて呼びかける。
「桜太郎」
「え、何ですか?」
「大人しくしておれよ?」
優しく微笑んだかと思ったから、桜太郎に襲い掛かる様に体を寄せて、
勢いよく、正座した自分の膝の上に無理やり引っ張ってくる。
「ひっ!?なっ、何ですか!?やめてください!!やっ……」
畳まれた洗濯物が崩壊を起こす中、驚いて抵抗する桜太郎のズボンと下着を無理やり剥いで、
「帝さん!?やだっ、何!?何でっ……!?」
裸のお尻に、帯に差してきた竹パドルを振り下ろす。
バシッ!!
「ひああぁっ!?何でっ!?何でぇっ!?」
いきなりの痛みで、桜太郎はワケも分からず悲鳴を上げてもがくけれど、
その抵抗を押さえつけられるように、何度も叩かれた。
ビシッ!バシィッ!!バシッ!!
「うぁああっ!!や、やめて、ください!!な、なっ、んで……!?」
「何故こんな事をされるのか分からんか?」
バシンッ!ビシッ!
「ひ、ぃっ!!」
全く怒りの見えない、落ち着いた音色で問いかけられ、
なのに激しく叩かれて、桜太郎はますます混乱しながら、真っ赤な顔で声を震わせる。
「わ、分かりません!!私、あぁっ、何か、貴方の気に障る事……!!」
「それはな、“お前”の為だ」
バシィッ!!
「あぁぁあっ!?私、のっ……!?」
「そう。お前が血迷わないように」
バシィッ!!
「うっ、あっ!うあぁあっ!!い、痛い!痛い!!」
「痛いか。そうかそうか。なら、もっとくれてやる」
桜太郎が何か言うたびに強く叩いて、
喚いて“痛い”と訴えても、余計に痛めつけるように、大きくパドルを振るう帝。
桜太郎のお尻はすでに赤くなっていた。
ビシィッ!バシィッ!!バシィッ!!
「いやぁあああ!!!うぅぅっ!!」
大きくなる桜太郎の悲鳴を聞き流しているかのように、叩く勢いは強めながら、帝は桜太郎に言う。
「桜太郎……このまま放っておけば、だ。
お前がアイツに恋心を抱いてしまった以上、
それがどんなに、愚かで!罪深くて!他を不幸にしようとも!
卑しい愛の前に、そんな事が全く見えなくなる時が来る。
いつか、お前がそういうクズに成り下がってしまう。余はそれが耐えられない」
ビシッ!バシィッ!!バシッ!!
「やぁあああっ!!うぇっ、ぐすっ!あ、ぁ……麿さんの、事……!?」
「はぁ――……麿の事だなんて一言も言ってないだろうが大嘘吐きめ!!」
バシィッ!!
「うわぁああああっ!!」
怒鳴られて、思い切り叩かれたその一発で
桜太郎は耐えきれなくなって、ボロボロと涙を零す。
「やっぱり、麿に気があったのか!
桜太郎……余はなぁ、心優しくて正直で家庭的な桜太郎が好きなんだ!!
それが、アレに関わった途端、嘘ばかりつくようになって!
やっぱりアレはお前に悪影響に間違いない!!」
「ご、ごめんなさい!!ごめんなさい!!ぁぁう!!」
「違う違う桜太郎!謝ってどうこうなる問題では無い!」
ビシィッ!バシィッ!バシッ!!
「うわぁああん!!あぁっ、うぁあああああん!!」
声を荒げて感情的に叩いていた帝は、
桜太郎が本格的に泣き出すと、ハッとして声を和らげた。
「あぁ、怒鳴ってすまんな……なぁ、桜太郎……お前とて、ここの皆を裏切りたくないだろう?
麿の事は、今切り捨てなければならんのだ。分かるか?」
「は、あっ!!わ、分かってます!!うぅ、分かってるんです!!」
「桜太郎……!!」
帝の手が止まったその隙に、
息を切らせ、泣きながらも桜太郎が懸命に言葉を繋いだ。
「帝さんに、言われて……うっ、人間と、妖怪の恋愛なんてとんでもないって……!!」
あの時、わ、私が、麿さんを、お慕いしてると、言えば……!!
帝さんに、ご心配をかけると思ってぇっ!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」
「そうか……全部分かってたのか……悪い事をしたな……」
帝は、ホッとしながらも申し訳なさそうな顔をする。
「もっ、許して……ください……!!」
「……よしよし、賢いな。アレを綺麗に切り捨てられる方法を、余が教えてやるから、な」
バシィッ!!
「ひっ!!」
「言う通りにするんだぞ?」
バシィッ!ビシィッ!!
弱っている桜太郎に、脅す様にパドルを振るう。
当然、桜太郎は拒否しない。
「あぁああっ!分かりました!言うとおりにします!しますからぁぁっ!!」
その言葉を聞いて、帝はやっと満足そうに微笑んで手を止めた。
「ふふっ、かわゆい奴だ。
さて、すまなかった。必要のないお仕置きは終わりにしよう」
「はぁっ……うぇっ、うぅっ!!」
安堵した桜太郎が、ぐったりしてしゃくりあげる……が。
帝が赤くなったお尻を労わる様に撫で上げ、身じろぎした桜太郎に言う。
「それにしても桜太郎……そなた、怒っているのも可愛らしいけれど、
泣いている姿もなかなか色っぽいなぁ?」
「!?」
「もう少し、この特等席で花見をしていたい気分だ」
この帝の発言に、桜太郎は真っ青になって暴れ出す。
「やっ……ご、ごめんなさい!!ごめんなさい!!嫌だ!!嫌だぁぁっ!!」
「大丈夫大丈夫。ほれ、無粋なものは捨ておこう」
優しくそう言って、帝はパドルから手を離して落とす。
桜太郎には、それは関係ないようで怯えて必死に首を横に振っていた。
「やめてください!もう、やめて!痛いんです!
限界なんです!!うわぁあああん!!」
「ふふっ、あまり煽られると夜桜まで楽しみたくなるぞ?
お仕置きではないからあまり痛くはしないし、怖がらなくていい。さぁ楽しにしろ」
「帝さん、やだっ……、うわぁああああっ!!」
乾いた音と共に、桜太郎はもうしばらく部屋に閉じ込められる事になる。



その日の夕食時。
桜太郎不在の食卓へ、ぬぬが運んできたのは、大きな鉢にたくさん盛られた、
固そうな殻に覆われた大きめの木の実だった。
煤鬼も恋心姫も、それを覗き込んで怪訝そうな顔をする。
「何だこれ?」
「今日の夕食」
「おいしいんですか?」
「文句を言わずに食え。桜太郎の体調が悪いんだから」
帝が何食わぬ顔でそう言った。
隣ではぬぬがせっせと木の実の中身を取り出して、皿に入れて
帝にスッと差し出す。
「何だ熱か?大丈夫なのか?」
煤鬼も木の実に手を伸ばし、ガリッと、何気なく殻ごと噛み砕いて食べる。
恋心姫も木の実を取って、煤鬼の真似して噛み砕こうとして歯が立たず……
顔を真っ赤にしてる恋心姫に気づいた煤鬼が、もう一口噛み千切って、
実だけ口から出して恋心姫に渡していた。
「恋心姫、ほら」
それを煤鬼から嬉しそうに受け取って食べる恋心姫。
じっと帝を見ながら口を動かす。
「何だ姫?余の顔に何かついてるか?」
「…………」
「あぁ!あれか、『お弁当』をひっくり返した事は謝るから、機嫌を直してくれんか?」
「あ!そうだお前!!今度恋心姫を泣かせたら承知せんからな!」
煤鬼が思い出したように帝を指差して怒鳴る。
帝はいつものように笑った。
「分かった分かった!十分注意するぞ!なぁ姫〜〜?ごめんなさい。仲直りをしよう?」
「…………」
「ははは!!相当嫌われたな!んっ、ほら、恋心姫」
ケラケラ笑う煤鬼からは、ニコニコしながら噛み砕いてもらった実を受け取って食べて。
じーっと帝を見つめる恋心姫。
「いやはや……参ったな」
そうは言いつつも、余裕のある笑みを見せる帝を、ぬぬも心配そうに見つめていた。




その翌日。
帝は麿の家へ行っていた。
もちろん麿は大喜びで迎え入れて、二人は和やかに会話をしている。
「帝さんが遊びに来てくれるなんて嬉しいです!」
「余も、ここへ足しげく通う桜太郎を羨ましく思うのだが、
なにぶん、出不精でな……たまにしか来れなくてすまんな」
「とんでもない!!わぁぁ!そんな風に思ってくれてたなんて、感激です!!」
有頂天の麿に愛想笑いを返して、帝は真剣な表情で言った。
「麿、この山を切り開く工事の事は気づいてるか?」
「!!……は、はい。だんだん、近づいてますよね」
麿も少し心配そうな表情をする。
そこで、帝は俯いて悲しそうに言った。
「……我らは、近いうちに住処を移そうと思う」
「やっぱり、そうなりますか……」
「麿……我らに色々良くしてくれた、友である、そなたと別れるのを寂しく思う」
うっすらと涙を浮かべる帝。
麿もつられて泣きそうになっていた。
「帝さん……!!ぼ、僕も寂しいです!!
で、でも!!もし良かったら引越し先を教えていただいたら!
僕、きっと皆さんに会いに行きます!!
なんなら、僕もそっちに引越しちゃっていいかな〜なんて!!」
そう言った瞬間、帝と目が合う。
驚くほど冷たいその視線に、麿は思わずゾッとした。
(えっ!?)
しかし、もう一度見た帝は穏やかな笑顔を浮かべていた。
「……ありがとう。まだ確定はしていないけれど、決まったらきっと伝える」
「は、はい!ぜひ!!」
「あと、そなたに一つ頼みがあるんだ」
「何ですか!?僕にできる事なら何でも!!」
「桜太郎の事なんだが……そなたから、告白してやってくれんか?」
「……えっ……えぇっ!?」
真っ赤になる麿に、帝は呆れ顔でため息をつく。
「まさか余が、気づいていないとでも思ったか?
……と、いうかそなたらを見ていれば煤鬼でも気づくぞ?」
「あ、いや、でなくて、その……!!」
恥ずかしそうに狼狽える麿に、帝が呆れ度を増しつつ言った。
「心配せずとも、そなたらが想い合ってるのは姫のお墨付きだ」
「ほほほほほ本当ですか!?」
「嘘をついてどうする」
「ひぃゃああああああっ!!」
喜びのあまり高音の悲鳴を上げる麿。
帝が傍にあった布巾を投げかけて止めていた。
「桜太郎、ここを去ってお主と離れる事を気にしてか、最近元気が無い。
もし……そなたと恋人の絆があれば……さっきのように、再会の約束を交わせば、
大きな心の支えになると思うのだ。でも桜太郎のあの控えめな性格では……
どうか、そなたが男を見せてやってくれぬか?」
「あ……あの……」
「……その程度の根性も無いようでは、うちの桜太郎はやれぬが?」
帝がそう言って睨みつけると、麿は慌てて背筋を伸ばす。
「ががががが頑張る、頑張りるり、ます!!」
「恩に着る。きっと桜太郎も喜ぶだろう」

帝はいつものようににっこりと笑って喜んだ。



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【作品番号】youkai6-1

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