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妖怪御殿のとある一日5
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妖怪と住むなら、庭付き一戸建てかな!
妖怪研究家の麿拙者麿(まろせっしゃまろ)だよ!

そう言えば、恋心姫君と煤鬼君と桜太郎君と帝さんは、いくつか違う服を
着ているところを見た事があるんだけど……ぬぬ君はいつも真っ白な服!
同じ服をいくつも所持してるみたいだよ!
この件は妖怪研究ノートに克明に記録しておこう!妖怪研究家楽しイィィィィ!!

今日は僕から、皆のところへ遊びに行こうかな!

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〜IN妖怪御殿

「あぁああああ――――――っ!!!」
「どうしたんですか恋心姫!?」
恋心姫の大声で、桜太郎が慌てて彼に駆け寄ると、空っぽのお皿を持って涙目で喚いた。
「ない!妾のおやつが無い!!このお皿にあったのに!」
「ほ、本当だ……」
「恋心姫どうした!?」
煤鬼も慌てて駆けつけてきて、恋心姫はまだまだ喚いている。
「妾のおやつが無くなったんです!知りませんか!?」
「あぁ、なんだおやつか……」
「なんだとは何ですか!!とっても重要な事ですよ!!」
「はは、恋心姫の無事より重要な事なんかあるものか」
煤鬼はそう言って、いつものように恋心姫を抱き上げるが……
「妾には!重要な事なんです!!もう!もうっ!!」
「痛たたた!こらこら!やめろ!」
恋心姫は煤鬼をポカポカ殴っていた。
煤鬼は笑いながら殴られているけれど、桜太郎は困った顔をして首をかしげる。
「おかしいですね……せっかく恋心姫の物だって分かる様に旗を立てていたのに」
「そうです!桜太郎に旗を作ってもらったんですよ!」
「そう言えば……その旗も無いですね」
「うわぁあああん!旗もとっておこうと思ったのにぃぃっ!!」
泣きに近い癇癪を起こす恋心姫の頭を煤鬼が撫でるが、落ち着かないようだ。
そこへ、帝とぬぬの二人もやってくる。
帝が癇癪を起す恋心姫を見て優しく声をかけた。
「やや、姫が今日はご機嫌斜めだなぁ?どした姫?」
「妾のおやつが無くなったんです!!」
「あぁ、すまんな。お腹が空いたので、ちといただいたぞ」
「は?」
あっさりと笑顔で言う帝に、恋心姫は硬直する。
桜太郎が呆れ顔で非難した。
「帝さん!大人げないですよ!恋心姫の似顔絵を描いた、小さい旗が立ってたでしょう?
彼の物だって分かりませんでした?」
「ん〜……なんとなくそんな気はしてたが……つい、な」
「旗はどうしたんです?」
「きちんとゴミ箱に捨てておいたぞ?」
「あぁ……」
桜太郎は片手で頭を抱える。
その一方で、恋心姫がみるみるうちに涙目になって、煤鬼があやす様に揺すっていた。
「……ふっ、ぇっ………」
「大丈夫か恋心姫?帝はとんでもない奴だなぁ?」
「うわぁああああああああん!!帝が!帝が妾のおやつ食べたぁぁぁぁっ!!」
「おぉ、可哀想に!」
「旗も捨てたぁぁぁ!!妾とっておきたかったのに!わぁあああん!」
「よーしよし、恋心姫を泣かせるような悪い奴は、俺がお仕置きをしてやろう!」
「わぁあああああん!!妾のおやつ!旗ぁぁぁっ!!」
煤鬼がそう言って恋心姫を宥めても、恋心姫は泣きやまない。
思わず桜太郎も加勢した。
「こ、恋心姫?私からも帝さんをきつく叱って……ええと、お仕置きもしておきますから、ね?
おやつも旗も、また今度同じのを用意しますから泣かないで?」
「うぅうううう!あぁあああああん!!」
煤鬼と桜太郎の努力も虚しく、恋心姫は首を振って泣くばかり。
ぬぬも申し訳なさそうな顔をしていて……涼しい顔で笑っているのは帝だけだ。
「ははは……余の尻がとんでもない事になってしまうな!」
「貴方はもう少し申し訳なさそうな態度が出来ないんですか?!」
呆れ顔の桜太郎。煤鬼も同じような感じで、
「はぁ。桜太郎、恋心姫を頼む」
ため息をついて恋心姫を桜太郎に預ける。
そして帝へと向き直った。
「笑い事じゃないぞ帝。俺は本気だ。恋心姫の前でお仕置きされてもらおうか?」
「ふふっ……ぬぬ?」
「煤鬼、体罰は……」
帝と阿吽の呼吸で彼の前に出てきて庇ったぬぬに、煤鬼は呆れた視線を送った。
「お前は何か思うところが無いのか?」
「……完全に帝が悪い。本当に、恋心姫には申し訳ない。
けれど、体罰は勘弁して欲しい。きっと反省してないわけじゃないんだ……たぶん」
「ど、け。帝だけ特別扱いはできんぞ」
「俺には彼を守る義務がある。力づくでくるなら応戦する」
どんどん臨戦態勢になっている煤鬼とぬぬに、桜太郎が焦って叫ぶ。
「ちょっと!貴方達が本気でやり合ったら家に被害が出るからやめてください!!
もう帝さん!恋心姫に、もっとちゃんと謝りなさい!!」
「……」
「あっ、恋心姫……!!」
急に無言で桜太郎の腕を抜け出して、ぴょこんと地面に降り立った恋心姫。
「煤鬼、ぬぬ……いいんですよ……ケンカしないで」
大人びた、とてつもなく冷静な声でそう言って、スタスタと帝の前まで歩いてきた恋心姫。
そして、真正面の帝の着物をひっつかんで……
「妾が!!自分で帝をお仕置きしますからぁぁぁっ!!」
「お?」
「もう帝!!絶対に許しませんよ!!ゴロンしなさい!お尻出しなさいぃぃぃっ!!」
いつもの調子で元気に喚いて、帝の着物をグイグイ引っ張る恋心姫。
身長が足りなくて、帝の下半身あたりで頑張っているので、帝は余裕で宥めていた。
「いやぁ姫、それはできんよ。どうか許しておくれ」
「ダメです!!絶対に許しませんからね!!何笑ってるんですか!」
「ん〜この顔は元からでなぁ……これこれ、もうやめんか」
「むぃ―――っ!!お仕置きするって、言ってるでしょう!?」
恋心姫は帝をキッと睨みつけて叫んだ。
「言う事聞きなさいッッ!!」
「!!?」
一瞬、恋心姫と帝の目がかち合う。
帝の体がビクンと跳ねて硬直し、途端に帝は焦った顔をする。
声を震わせて言った。
「しまった、心を、捕えられたか……?
ははっ、何だ……こんな技を、隠し持っていたとは……
さすが、……鬼をも惑わす……恋心の、化身よ……」
「カッコつけておだててもダメですよ!!お尻出して!」
「あっ、ちょっ……ダメだ、逆らえん……」
帝は焦ったまま、恋心姫の言うように四つん這いになる。
とっさに周りへ助けを求めた。
「た、助けんか……そなたら、見てないで……」
煤鬼も桜太郎もぬぬも、ポカンとしていた。
皆の考えている事は同じ。
“このまま、帝が恋心姫にお仕置きされるのだろうか……”と。
その結果。
(((そんな貴重なシーンはすごく見たい!!)))
皆の内心の意見も完全に一致。
そんなところで、帝は個別に助けを求めるが……
「桜太郎、お主と余の仲だろう?」
「どんな仲ですか……元はと言えば、帝さんが悪いんでしょう?自業自得ですよ」
「煤鬼、羨ましいだろう?代わってやるぞ?」
「俺はどっちかというと恋心姫を攻めたいからな。今回はお前に譲ってやる」
「ぬぬ、お前が動かないなんて……」
「……えと、恋心姫は弱……優しいから、大丈夫……」
「くっ……」
全員から手を振り払われて、帝は悔しげに呻くしかない。
すると、恋心姫の優しい笑い声が聞こえる。
「ふふっ」
「姫……」
「帝も、お仕置きは怖いのですね!皆と同じですね!」
笑顔の恋心姫にそう言われて、帝もふんわりと笑った。
「そうとも……皆と同じだ。姫、だから許し……」
「ダメです!」
ピシッ!
「!?」
「大人しくして!」
叩かれた(そこそこの)痛みに驚いていると、着物の裾を捲られてしまう。
帝は褌派なので、それだけでお尻が丸出しだった。
この格好は恥ずかし過ぎて抵抗したいが、“大人しく”する事しかできない。
「姫っ、さすがにこれは……!!」
「おやつを横取りするような悪い子は、きびしくお仕置きしますからね!」
パシッ!ピシッ!ピシッ!
「うっ……!!」
何度かお尻を叩かれて顔をしかめるが、それよりも、傍で傍観している三人が気になる……
と、いうか気に入らない帝。やや顔を赤らめて叫ぶ。
「何だそなたら!見世物ではないぞ!助けぬなら散れ!!」
けれど、誰一人そこから動かず
「だって、元々は私もお仕置きする予定でしたし。
恋心姫にお仕置きされるのを見届けたら、可哀想だから清算という事で(訳:見たいから)」
「恋心姫を泣かせた大悪党が懲らしめられるところは見ておかないと(訳:見たいから)」
「帝……大丈夫、俺がついてる(訳:見たいから)」
などと口々に言うだけ。
帝は屈辱でたまらなかった。
(あ奴ら……ちくしょうめ……!!)
ピシッ!ピシッ!パシッ!
「うっ……くっ!」
が、この状況をなんとかしないと叩かれ続ける=見られ続けるだけなので、
どうにか恋心姫にお仕置きを終わらせてもらおうと交渉に出る。
「ひ、姫……悪かった、この通り……許してもらえぬか?」
「きびしくすると言ったでしょう?!まだ全然ダメです!」
バシッ!
「んっ……!!」
「大体、帝はあやまり方が悪いです!!あやまる時は“ごめんなさい”ですよ!
桜太郎から習いませんでした?!」
「小童が……!!」
「な〜に〜か、言いましたか?!」
パシィッ!
「わっ、何でも無い……何でも……」
ついつい零れてしまう本音を誤魔化して、帝は悩んだ。
子供にお尻を叩かれた上に、“ごめんなさい”だなんて、下手に出た、
可愛らしい謝り方はしたくないが……
パシッ!パシッ!パシッ!
「は、ぁっ……(しかし、意地を張っても、こんな姿を皆に見られるだけだからな……)」
マシな痛みだと言っても、恥ずかしいし早く終わらせたいので覚悟を決めた帝。
一呼吸おいて、口を開いた。
「美しき、恋心の姫君よ……」
「おだててもダメですからね!」
「違う、違う……反省したのだ。その……ごっ……」
言葉に詰まったが、ここは思い切って。
「ごめん……なさい……」
「も〜やっと、ちゃんと謝ったんですからぁ!!」
ピシッ!バシィッ!
「うっ!これで、許してもらえるか……?」
「ダメです!」
ピシッ!
「何故っ!?」
悲鳴と心の叫びが一緒に出てしまう帝。
恋心姫はペシペシと帝のほんのり赤いお尻を叩きながら言う。
「帝は妾のおやつを食べた上に、旗も捨てたんですよ!?
とっても、重罪なんです!この程度のお仕置きでは許せません!」
「では、どうしたら許してもらえるんだ……?」
「帝が泣いてごめんなさいするまで、お仕置きです!!」
「はは……夜が明けてしまうな……」
パチンッ!!
「いたた……」
「帝ぉぉっ!やっぱり妾をバカにしてるでしょう!?」
またしても本音が口に出てしまう帝に恋心姫が怒って、帝も宥めるように誤魔化した。
「違うと、言うに……姫の愛の鞭はしっかり感じておるよ。あぁ、痛い、早く許してほしいことだなぁ……」
「煤鬼ぃぃぃっ!!帝が妾をバカにしますぅぅぅっ!!」
「なっ!?」
「よしきた!!」
パンッ!と拳を反対の手の平に打ちつける煤鬼。
この展開には、帝は本当に慌てる。
動けない今、この中で一番腕力のある煤鬼に叩かれたら一たまりもない。
「よしじゃない!!来るな!待て!姫!それはいかんだろ!」
「……じゃあ、桜太郎がいいんですか?」
恋心姫の不満そうな声に反応して、桜太郎が手の中にしゃもじを召喚してにっこりと笑う。
「あらら〜出番でしょうか?
大切な帝さんの為なら、腕によりをかけてお仕置きさせていただきますよ?」
「桜太郎、こんな時だけ……!!姫!やめてくれ!どうにかならんのか!?」
「じゃあ、ぬぬでもいいんですよ?」
「ぬぬだけは絶対に嫌だ!!」
即拒絶な帝に、ぬぬはやや残念そうにしていた。
とにかくこのままでは、恋心姫以外のメンバーに叩かれてしまうと思った帝は、
恋心姫に甘えた声で必死に謝った。
「姫ぇっ……もう十分反省したから……ごめんなさい。
二度と、自分以外のおやつを取ったりせぬから……ううっ、許してくれ……」
「う―……ん」
「ごめんなさいっ、ひっく、うぅ、ごめんなさい……!!」
言い渋っていた“ごめんなさい”も大放出で、泣き真似もしてみる。
恋心姫以外にはバレバレの泣き落としだけれど
「仕方ありませんね!」
ぴしっ!ぺしっ!ぺちんっ!
「あっ、あっ……!!」
「今度やったら、皆にもお仕置きしてもらいますからね!」
「わ、分かった……ごめんなさい!」
「反省したなら、許してあげます!」
ピシッ!!
恋心姫には許してもらえたようだ。
体の自由もきくようになった。
「ありがたい!!」
スッと立ち上がる帝。服もそれで整う。
すると……
「そなたら……よくも余を見捨ててくれたな……!!」
いつもの帝完全復活で、笑顔で覆いきれない怒りは傍観者組に向かう。
「今度、何かお仕置きされるような悪さをした時は覚悟しておれよ?恋心姫もだぞ!?」
「わ、妾も!?」
恋心姫にもとばっちり。
さらに悲惨なのがぬぬだった。
「ぬ〜ぬ〜は、分かっておるだろうな!?今から一緒に来てもらおうか!?」
「帝!ワガママしちゃいけません!」
けれど、恋心姫に叱られると帝は慌てて目を逸らす。
「っ、分かった!目を見るな目を!今日のところは恋心姫に免じて許してやる!」
「ありがとうございます!」
「チッ、賢いペットなことだ……!!」
元気よくお礼を述べたぬぬに舌打ちして、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、不機嫌に部屋から出て行く。
「余は、部屋で休むからな!」
珍しくペースの乱れている帝を皆で見送って……
こっそり、恋心姫が“大したものだ”と称えられていた。


【おまけ】

 煤鬼「恋心姫に意外な特技があって驚いたなぁ!」
恋心姫「でも、自分でもどうしてあんな事ができたのか不思議です。
     あれから、もうできないんですよ?桜太郎にやってみたらできなくて。
     『火事場の馬鹿力』というヤツでしょうか?」
 煤鬼「俺にもやってみるか?」
恋心姫「やってみます?じゃあ、妾の目を見て」
 煤鬼「…………」
恋心姫「……もう、ちゅってしようとしてるでしょ?」
 煤鬼「ハハ!バレたか!」



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