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妖怪御殿のとある一日2
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とある山奥の廃屋敷に5匹の妖怪達が住んでいた。
私こと、(自称)妖怪研究家の麿拙者 麿(まろせっしゃ まろ)が呼ぶ。
そうあれは――『妖怪御殿』!!
ファ――!今日も誰か遊びに来ないかなぁ!遊びに行っちゃおっかなぁ!
覗いてみようかなぁぁぁ!!研究心が溢れるぅぅぅ!!
あ!そうだ!桜太郎(さくたろう)君の薪と交換する食べ物を準備しておかなきゃ♪

********************

その妖怪達の住む家での本日の事。
皆がいつも食事をする大部屋でくつろいでいたら、桜太郎が大声で宣言した。
「今日からお風呂に入る組み合わせを限定します!!」
「は?」
「ほう」
「……」
「へ?」
桜太郎以外の全員がそれぞれの反応を示す。
特に煤鬼(すすき)は不満顔だ。
「風呂ぐらい好きに入ればよかろう?」
「えーえー貴方ならそう言うと思ってましたよ……このイヤラシ妖怪が!!
貴方がお風呂でココノ姫にしている事!!私が知らないとでも思ってるんですか!?
もう金輪際!貴方とココノ姫を同じお風呂には入らせません!
ココノ姫は今日から私がお風呂に入れます!!」
「え――!」
今度は恋心姫(ここのひめ)から不満げな声が上がる。
「イヤです!桜太郎はお風呂にドボンしたら怒るじゃないですか!」
「……そんな事してたんですか?」
「ひゃっ!やっぱり桜太郎とお風呂はイヤです!」
桜太郎に笑顔で睨まれた恋心姫は慌てて煤鬼の後ろに隠れる。
煤鬼は勝ち誇った笑みを浮かべた。
「恋心姫が嫌がるならどうしようもあるまいな?」
「ふっふ……嫌がる?ココノ姫ぇ?
私と一緒にお風呂に入るなら、麿さんにもらった玩具を一つ持っていってもいいですよ?」
「わぁい!桜太郎とお風呂に入ります!!」
「!!?」
形勢逆転。恋心姫に手の平を返された煤鬼は慌てて引き留めるが
「恋心姫!玩具なんて!またタオルでクラゲを作ってやるではないか!」
「煤鬼のクラゲは正直飽きました」
「!!」
すっかり玩具に心奪われている恋心姫。ショックを受ける煤鬼。
帝(みかど)がゆったりと口をはさむ。
「煤鬼、諦めるでない。クラゲがダメならそなたの立派なウミヘビを」
「帝さん!!」
「おお……恐ろしや恐ろしや」
怒鳴る桜太郎と楽しそうに笑う帝。ぬぬは表情を変えなかったので、桜太郎が話しを振る。
「ぬぬ、貴方はどうします?誰と入ってもいいですよ。こちらと一緒でも」
「……母娘丼」
「あ、やっぱり来ないでください」
「分かった」
ぬぬは少し残念そうだった。
桜太郎はふぅと息をついて、こう締めくくる。
「とにかく!ココノ姫と私がセットで、後は適当に入ってください」
「おい!お前が恋心姫と入りたいだけじゃないだろうな!?」
「貴方と一緒にしないでくださいます?」
納得がいかないらしい煤鬼と桜太郎は険悪ムードで、恋心姫がオロオロしていた。
「煤鬼、桜太郎、ケンカしないで」
「……恋心姫……」
煤鬼が自分にくっついてくる恋心姫の頭を悲しそうに撫でた。
「寂しいが仕方ない。風呂は我慢する。寝所へ遊びに行こう」
「言い忘れましたが、煤鬼は夕食を食べた後は恋心姫と二人きりになる事を一切禁止ですから」
「はぁっ!?ふざけるな!何様のつもりだ!!」
いきなりの禁止令に煤鬼は今度こそ怒鳴り声をあげる。
が、桜太郎の方は余裕の笑みだ。
「何をいきり立ってるんですか?別に会うな触るなと言っているわけでも無し……
“我々の見ているところで”、仲よく遊べばいいじゃないですか?ねぇ恋心姫?」
「そうですよ煤鬼!寝るまで一緒に遊びましょう!さみしくないですよ?」
「こ、恋心姫ぇ……!!」
恋心姫が納得しているようなので、煤鬼もそれ以上は言えず……桜太郎がさらに言う。
「もし、決まりを違えたらお仕置きをしますからね煤鬼?変な気を、起こさないように」
「……笑わせる。桜の木風情が」
「自然を舐めると痛い目見ますよ?文字通り」
また険悪ムードになる桜太郎と煤鬼を、帝が呆れ声で宥めた。
「これ、やめんか。姫が不安そうだぞ?」
「〜〜ッ、今は、夕食前だ!恋心姫遊ぼう!“二人っきりで”!!」
「はーい!何して遊びます!?」
「あっ、ちょっと!!」
バキッ!!
桜太郎が声をかけた途端、煤鬼が勢いよく木のテーブルを踏み抜いて一部破損させていた。
鬼の形相で桜太郎を睨みつけ、冷たい低い声で言う。
「これ以上口を挟むな。木偶め」
「……!!」
煤鬼の迫力に一瞬怯んだけれど、桜太郎も負けじと言い返す。
「今の壊した分と暴言の分は、次のお仕置きの時に“+20回”ですね」
「わぁ煤鬼!今のうちに“ごめんなさい”した方がいいですよ!」
「いーやーだっ!ゆくぞ恋心姫!!それ全速力!」
「きゃーっ!早い早―い!」
恋心姫には優しい煤鬼、彼を肩車してどこかに走って行ってしまう。
それを難しい顔をして見送った桜太郎に、帝がそっと近づいて声をかけた。
「桜太郎、何があった?少々やり過ぎだと思うが?」
「……ココノ姫が私に嬉しそうに話すんです。
お風呂でススキの……うっ、ぅぅ、ウミヘビを……触ったと……」
「ふむ……」
「他にも色々!ススキは“お腹が空いた”とねだっては、ココノ姫の服を脱がせて!は、はしたない……真似を!
恋心姫は意味が分かっていない!煤鬼はいい奴ですが、元は人間の姫を嬲って食っていた妖怪です!
本質はきっと理性もへったくれもない!今はまだいいです!いや、良くないですけど!
放っておけばすぐ、もっと良くない事が起こる!行き着くところまで行き着く!
二人して情欲に溺れさせたら危険です!恋人同士でも無いのに!ある程度の、制限は必要で……私は!!」
真っ赤な顔で、俯きがちに捲し立てた桜太郎は、その後絞り出すようにこう言った。
「あの子達を……守りたい……!!」
「……彼らは大丈夫だと思うぞ?」
「帝さんは呑気で無責任だから!!」
切羽詰った様子の桜太郎を宥めるように、帝は肩に手を置いた。
「その優しさが、追い詰めなければいいがな……煤鬼も、恋心姫も、お主自身の事も」
「……帝さんも……破廉恥な冗談を言うのは控えてください……!!」
「はっは、了解した!」
帝は優雅に笑うと、ポンポンと桜太郎の肩を叩いて去ってく。
それでも桜太郎の硬い表情も決意も、変える事は出来なかったようだ。


そして、その日のお風呂時間。
宣言通り恋心姫と桜太郎が一緒に入っている。
今は二人とも湯船に浸かって、恋心姫が玩具のあひるを湯に走らせて嬉しそうにしていた。
「おお――!黄色い鳥が勝手に、泳いで行きます!桜太郎見て見て!」
「まーすごい!良かったですねぇココノ姫!」
「後で煤鬼にも貸してあげましょう!妾がいなくても、お風呂、さみしくないように!きっと楽しくなります!」
ニコニコと煤鬼を思いやっている恋心姫を見て、桜太郎は少し笑顔を曇らせながらも言う。
「ココノ姫、ススキの事なんですが……」
「?」
「いいですか、今後はススキに“お腹が空いた”と言われても、服を脱いではいけませんよ?
ススキにこう言ってください“何か食べるものを取りに行こう”って。
それで二人で取りに来れば、おやつをあげますから」
「本当ですか!?」
「食べていい分だけね」
「むぅ。でも、そう言ってみます」
「いい子」
素直に聞いてくれてほっとしつつ、桜太郎は恋心姫の頭を撫でる。
今のうち、先手を打って教えておくべき事を、優しく言い聞かせた。
「ススキとはもう、お互いむやみに裸になっちゃいけませんよ?
あと、あまり触ったり触らせてはいけないところも、教えてあげますから」
「……たくさんだと、覚えられないかも」
「大丈夫。簡単な事ですから。ススキも、知っているはずですしね」
「……桜太郎、煤鬼にあまり厳しくしないでくださいね?
煤鬼は桜太郎みたいにきちんとするのが、得意ではないから」
「ええ。でも、ある程度はきちんとできるように、ココノ姫がお手伝いしてあげてください」
桜太郎が笑顔でそう言うと、不安げだった恋心姫の表情が明るくなる。
「!!分かりました!お手伝いしてあげます!」
「ふふっ、いい子ですねココノ姫……今日はご飯の前にジュースを飲んでもいいですよ」
「わーい!!」
無邪気に笑う恋心姫と、見守る桜太郎。
そう、この日から桜太郎の見守り生活が始まった。


“決まり”は守られ、外が暗くなる頃には恋心姫と煤鬼が皆の目の届かないところで接触する事は無くなる。
恋心姫も桜太郎に言われた事を守って、時折煤鬼とおやつを取りに来たり
煤鬼の手が触れる場所をやんわりと逸らすこともあった。
そんな日が続いたが、煤鬼の方も表立って反発はしなかった。
恋心姫と遊んでいる時はいつもの彼で、ただ、一人になるとイライラした表情を見せたり
昼間は屋敷から離れて二人きりになりたがった。
だから最近、恋心姫と煤鬼はプチピクニックに出かけることも多くなっていた。


今日も、そんなピクニック中で。
2人でぼんやりと空を眺めていたら、煤鬼が言う。
「なぁ、恋心姫……」
「何ですか煤鬼?」
「お腹が空いた」
「な、なら!桜太郎が作ってくれたおやつを食べましょう!」
いつものようにそう返したら、
「……おやつは要らない。脱いではくれないのか?」
いつもは素直におやつを食べてくれる煤鬼がそう言うので恋心姫は困ってしまう。
困りながらも“脱いではいけない”と、頑張って言葉を返す。
「妾が脱いでも、煤鬼のお腹は膨れないでしょう?」
「……何を言われた?」
聞いた事もない低い声に、恋心姫が驚く間もなく、煤鬼に勢いよく押し倒されてしまう。
「ひゃっ、煤鬼!!」
「最近いつもそれだ!!桜太郎に何を言われた!?アイツは恋心姫の事が好きなのか!?」
「ち、違う!桜太郎は妾の事好きじゃない!恋心は無い!妾は分かるんです!大丈夫!」
恋心姫は、気が高ぶっている煤鬼を落ち着かせようと必死に大声で宥めるものの、
煤鬼が喚くのは止まらなかった。
「な、なら何で!!何で……!!何で、好きなのに触れられない!?
何で!好きなのに制限されなきゃならんのだ!何も、できないのか俺は!!見てるだけしか!!」
「煤鬼?どうしたの?泣かないで、触れられますよ、ほら!」
ついにはボロボロと泣き出してしまったので、恋心姫はもっと必死になって
煤鬼の腕を握ったり、顔を触って慰めるけれど、煤鬼は勢いよく首を振る。
「そうじゃない!そうじゃなくて!!」
「煤鬼……!分かった、分かりました!!いいですよ!ほら!」
恋心姫は、自分から着物を大胆に左右に肌蹴る。
とにかく煤鬼が泣いているのをどうにかしたくて、肌をほとんど晒したままにっこりと微笑みかけた。
「悪い事、しましょう?一緒に桜太郎に怒られましょう?お願い、泣かないで。
妾も煤鬼の事好きですよ?」
「恋心姫……!!」
その姿を見た煤鬼は、ゴシゴシと涙を拭って体を起こした。
そして恋心姫も助け起こして、いつものように笑う。
「泣いたりして、悪かった。大丈夫だから」
「煤鬼、本当に?」
「ああ。大丈夫。帰ろう」
煤鬼は恋心姫の着物を、不器用に元に戻す。
そして、二人でまた楽しく屋敷に帰ってきた。


――その、夜の事。
薄明りの中、鬼が蠢いているのは恋心姫の寝所だ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
息を荒げて、鬼は眠っている小さな姫君に覆いかぶさる。
「恋心姫……」
ひそめる声にも興奮の色は隠せない。
指先が恐る恐る姫の頬を撫で、首筋から下へと滑る。
薄い着物の合わせ目に爪先をかけた、その瞬間。
「!?」
背中を何かで刺されたような痛みが走って、体が崩れ落ちる。
とっさに恋心姫を避けたのでバランスを崩して横向きに倒れこむ。
煤鬼を襲ったのはもちろん、動けなくなった彼を睨みつけて立っている桜太郎だ。
「……言ったはずですよ、“決まりを違えたらお仕置きをしますから、変な気を起こさないように”と」
「っ、毒、か?来るとは思ったが、ここまで……するとはな」
「体に優しい植物由来成分……毒というほどではありません。
動けなくさせてもらっただけですよ。覚悟はできてるんでしょうね?」
「恋心姫は、俺に体を許そうとしてくれた。“一緒に桜太郎に怒られよう”と言ってくれた。
俺にはそれで十分だ。怒られるのは俺一人でいい。だが……」
煤鬼もまた、桜太郎を睨みつけながら、今までの我慢をぶつけるように怒鳴り声をあげる。
「これ以上お前の思い通りにはならんぞ!!
恋心姫と俺が触れ合う事の、愛し合う事の何が気に食わない!?」
「……貴方は我慢が効かな過ぎるんです。その汚い性欲で、恋心姫も食い荒らすつもりですか?
恋人同士でもないくせに、許しませんよ!」
「ハッ、何だそんな事……恋人同士になれというなら明日にでもなってやる!
俺達は愛し合ってるからな!これでもう文句を言ってくれるなよ!?」
「恋人になれと言ったんじゃないんです!そりゃなるのが先ですけども!
節度を守れと言ってるんですよイヤラシ妖怪!」
しばらく怒鳴り合った後、桜太郎がため息をつく。
「はぁ、ココノ姫が言っていましたね“ススキは桜太郎みたいにきちんとするのが、得意ではないから”と。
でもまぁ、躾けをすれば、きちんとできるでしょう?」
「……お前、誰かを愛した事が無いんだろう?」
「なっ!?」
脅し言葉に返ってきたのは意外にも挑発。
煤鬼は嘲る様な笑みを浮かべてなおも煽る。
「哀れだな。言っている事に、まるで情が無い。枯れ木のようだ。あぁお前、枯れ木妖怪だったか?」
「ィ言っておきますけど、私は現役フサフサ花真っ盛りの……」
顔を真っ赤にしてブルブル震えた桜太郎の手には――
「おしゃもじ妖怪です!!」
「!?」
一瞬にして、煤鬼も目を見開くほどの、明らかにサイズの大きい“しゃもじ”が握られる。
それで煤鬼をグイグイ突きながら、声を荒げた。
「デッカイ図体がそんなところに転がって、みっともないこと極まれりって感じですね!
ほら!起きてお尻を出しなさい!これで、貴方に羞恥心でも芽生えれば、
イヤラシ行為自重への第一歩でしょうか?!」
「う、やめろ!起きろと、言われても……う、ぁ!?何だ!?」
煤鬼は動けなかったが、見えない何かが体に絡みついて
あっという間に四つん這いを崩したような、お尻だけ突き出す姿勢にされてしまった。
となれば、桜太郎が傍に来て腰を落とし、持っている大きなしゃもじは煤鬼のお尻に振り下ろされることになる。
ビシィッ!!
「ひっ!?」
予想以上の痛みだけれど、声は出たけど体は動かない。
さらに続けて振り下ろされる。
バシィッ!!
「あ!!よ、よせ……!!」
痛みで呻く煤鬼。しかし彼には痛み以上に気になる事があった。
今隣には……
「恋心姫が、起き……!!」
「だったら、これでも咥えてなさい!」
「んむっ!うぐっ!!」
急に何かを噛まされる。フワフワしている、どうやらタオルらしい。
それを猿ぐつわ状態にされて、桜太郎はなおも容赦なく
「静かにできるし、舌も噛まなくて済みますよ。さーてここからが本番……」
と、煤鬼の着物を捲って下着を下ろして、お尻を丸出しにしてしまう。
これには煤鬼も暴れたくなったが、なんせ体が動かない。
声を上げたところで言葉にならず、ただのくぐもった悲鳴になってしまう。
「んん゛!!んうんん――!!」
「騒がないで。恋心姫が起きてしまう。と、言っても……無理でしょうけど!」
バシィッ!!
「んづぅぅぅぅぅっ!!」
素肌を叩かれた事で倍増した痛みに、煤鬼は思わず叫んでしまった。
すると……
「う〜ん……」
「ぅ!!――ぅっ!!」
恋心姫が煤鬼の方向に寝返りを打って、煤鬼の心臓が跳ねる。
それを見透かしたように、桜太郎がまた煤鬼のお尻を打った。
バシンッ!!
「んぐぅぅぅっ!!んんんっ!!」
「恋心姫、良く寝てますね。普通は、この叩く音で起きそうですけど」
「むぅぅ!ぐうぅう!!」
煤鬼は必死に“やめてくれ”と頭を振る。
けれど桜太郎はまたしゃもじを振り上げ、煤鬼のお尻を打った。
ビシィッ!バシィッ!!
「そんなに頭を振っても許しませんよ。貴方この可愛い寝顔を……汚しに来たんでしょう?」
「んうぅぅぅっ!!ぅふぅぅぅっ!!」
「痛いんですか?でも、これも言いましたよね?“自然を舐めると痛い目見ますよ?”って」
バシィィッ!!
「“文字通り”」
ビシンッ!バシンッ!ビシィィッ!!
「んうぅううううっ!!んうぅううううぅぅ!!」
「う〜ん、何か言いたいのか、悲鳴を上げているだけなのか……」
桜太郎はわざとそう言うけれど、煤鬼の声は明らかに悲鳴で、むしろ泣き声で。
布に遮られているとはいえ、叩き続けていると、それはだんだん大きくなってくる。
動けないはずの体が、何秒かに一度、ビクリと震える。
それでも桜太郎は手を止めなかった。
「いずれにしろ、貴方が泣きながら反省の弁を述べるまで許しませんから」
バシィッ!ビシィッ!バシィッ!!
「うぐぅぅぅぅぅっ!!ん゛ん――!ん゛んん――――!!」
「……薄明りでも分かるものですね。お尻、真っ赤になってますよススキ」
「!?、ふ、ぅ!!」
「かつて国中を震撼させた姫喰いの鬼も、これじゃ形無しですね?少しは恥ずかしいなって思います?」
わざとそんな風に声をかけると、煤鬼は全力で、動けないなりに動こうとしてるようで。
それでも微かに体を震わせるくらいしかできないようだ。
悔しげに呻いている。
「うっ……うぐっ……!!」
「プルプルしちゃって、無駄ですよ。首から下は、動けません。
もっと痛い目に遭ってお勉強しましょう?“自制心”ってものをね」
バシンッ!ビシィッ!!
「うぅ!!むぐぅぅぅっ!んうぅううう――!!」
「イヤイヤしてもダメですってば!」
バシンッ!!
「んん゛ぅんん―――――っ!!」
頭を振って嫌がる煤鬼に悲鳴をあげさせ、桜太郎はそろそろよしと思ったのか、
煤鬼に噛ませていたタオルを解いた。
「さ〜て、そろそろ反省できましたかぁ?」
「――ぁっ!!はぁっはぁっはぁっ……!」
「あらら、涙でグショグショですね。色男が台無し……って、それはいいか。何か言う事は?」
「うっ、ぐすっ……!!ご、ごめんなさい……!!」
呼吸を荒げていた煤鬼は意外にも素直に謝る。
普段の豪快さは微塵も無い涙声で、桜太郎に懇願する。
「もう、もうやめて、くれ……!お、お願っ、だから……っ!!」
「反省しました?」
「した!!もう、色々、控える、から!」
「ならいいんです。あ、でも覚えてます?“+20回”」
「!?」
「それで終わりにしましょう。頑張ってください」
けれど、有無を言わせずのもう一押しらしい。
桜太郎が動こうとするのを煤鬼が慌てて声で止めた。
「ま、待て!!」
「何か?」
「く、口に!咥えさせてくれ!声が……恋心姫が起きてしまう!」
「確かに、今の貴方を見たら1000年の恋心も冷めてしまうかも」
「だ、だから、お願いだ……塞いでくれ……!!」
桜太郎としては煤鬼の羞恥を煽るのもお仕置きの一環のつもりで、
必死な煤鬼を無視するように腕を振り上げるフリをする……と、
「やっ!!お願い……お願っ……!!」
煤鬼は声だけで分かるほどに狼狽えて怯え、叫んだ。
「おっ、お願いですから口を塞いでください!!咥えさせてください!」
「!?貴方敬語が使えたんですか!?」
「ふっ、うっ……うぇぇぇっ……!!」
(少し、意地悪をしすぎたでしょうか……?)
弱弱しく泣き出した煤鬼を見た桜太郎は可哀想になって、
彼の願いどおり口を塞いであげることにした。
最初の時よりは丁寧に。
「分かりました。ほら、咥えて。苦しくないですか?」
煤鬼は嫌がりもぜずに、再びタオルを噛まされて頷いている。
「……反省しているようですので、10回で許してあげます」
そんな姿にすっかり情がわいてしまったので、最初の時よりは力加減も優しめに、
桜太郎は再び煤鬼のお尻を叩き始めた。
パンッ!パンッ!!パンッ!
「んんっ!ふっ!うっ!!」
パンッ!
「うぅっ!んっ!」
煤鬼が叩かれて悲鳴を上げていると……
「んっ……すす、き?」
「んぐっ!!?」
なんと恋心姫がうっすらと目を開けて、桜太郎はドキリとして手を止める。
煤鬼も軽くパニックになっているみたいで、黙っているべきところを何か言おうとしていた。
「んっ!んっ……!!」
しかし、恋心姫は驚くでもなく、ぼんやりと煤鬼を見てふわふわ微笑みながらこう言った。
「……泣か……ないで?」
「!!?」
「泣かないで……大好き、ですよ……」
「っ、う!!うぅうううっ……!!」
「…………」
泣き出した煤鬼を、桜太郎はそれ以上叩く事が出来なかった。
噛ませていたタオルを外し、
「恋心姫!!恋心姫、恋心姫ぇぇっ……!!」
何度も呼びかけながら泣いている煤鬼の体に解毒針を刺して解毒する。
煤鬼は刺された事にも気づかないようで……
「恋心姫ぇ!恋心姫ぇぇっ……!!」
体が自由になると眠っている恋心姫の体に寄り添い、うずくまる様に抱きしめて、名前を呼びながら泣き続ける。
桜太郎は何も言えずに、そっと部屋を出た。


――翌日


「わぁぁっ!今日は煤鬼君と恋心姫君が来てくれたんだねぇッ!!」
大喜びの(自称)妖怪研究家、麿拙者麿の家に来ているのは煤鬼と恋心姫だ。
煤鬼が薪の入った大カゴを降ろして不満そう言った。
「桜太郎を怒らせてしまってな。ありとあらゆる雑用を押し付けられている」
「煤鬼は、お仕置きがお尻ぺんぺんじゃなくて羨ましいです!」
「はっはっは!そうだろそうだろ!」
「ひゃぁ相変わらず仲良いなぁ〜!」
恋心姫には笑顔で頭を撫でる煤鬼を麿は興奮気味に見つめる。
けれど、ふっと優しい笑顔になって煤鬼に言った。
「でもね、煤鬼君。煤鬼君がお手伝いしくれてるそれは、“雑用”なんかじゃないよ?
桜太郎君が、いつも皆の事を想ってやってくれてる、大切なお仕事だよ!
ほらこれ、薪と交換!!これで“皆に美味しいご飯作るんです〜”って、いつも張り切ってるよ!」
「…………」
黙っている煤鬼に、麿が野菜や果物やその他食べ物の入った大カゴを渡した。
「煤鬼君にはそうでもないだろうけど、桜太郎君には少し重いんじゃないかなって、たまに心配なんだ。
これからも時々、お手伝いしてくれると、僕も……きっと桜太郎君も、嬉しいかな〜〜なんて♪
煤鬼君にも恋心姫君にも遊びに来てもらえるし!」
「妾、お手伝いします!!」
「うっひゃぁぁ!ありがとう恋心姫君!よぉし、麿、おやつサービスしちゃうぞ!」
元気に手を上げた恋心姫と、また興奮気味になる麿をよそに、
煤鬼は大カゴを黙って見つめていた。



そして、麿の家から屋敷への帰り道。
大カゴを背負った煤鬼が、恋心姫と手を繋いで歩く。
恋心姫は嬉しそうに煤鬼に声をかけた。
「麿から、たくさん食べ物をもらえましたね!お菓子も!」
「そうだな!」
「重くないですか?」
「う〜ん……恋心姫をだっこしたらちょうどくらいだな!」
「わーい!煤鬼は力持ちですね!」
煤鬼に抱き上げられた恋心姫はご機嫌に笑う。
二人でくっついて歩いて、今度は煤鬼が声をかける。
「なぁ、恋心姫……」
「何ですか?」
「俺と、恋人になってくれないか?」
「!!」
突然の告白に、恋心姫は真っ赤になった。
「あっ……あっ……!!」
口をパクパクさせながらも、はにかんで言う。
「改めて、言われると、恥ずかしいものですね……!!」
「そうだな。改めて言うと恥ずかしいものだな……けれど、返事を聞かせてくれ……」
煤鬼も顔を赤くして笑った。
すると恋心姫は、ピッタリと煤鬼に身を委ねる。
うっとりと、嬉しそうに煤鬼にこう返した。
「妾の恋心は……貴方だけのものですよ、煤鬼。
どうぞ貴方の恋人にしてください」
「恋心姫……あぁ……!!」
煤鬼は恋心姫を固く抱きしめて、恋心姫も幸せそうだった。
こうして二人はめでたく結ばれたのだ。



屋敷に戻ってから、煤鬼は一人で桜太郎のいる台所へ向かう。
お使い完了報告と、恋心姫との事も言っておきたかった。
「桜太郎。麿にもらった食べ物は置いておくぞ」
「ありがとう」
「……それと、恋心姫と正式に恋人になった」
「そうですか」
「だから……」
煤鬼の言葉の続きを、桜太郎が遮る。
「貴方が、責任を持って教えてあげてくださいね」
「え?」
「多少イヤラシくても、正しい、優しい愛情を」
「!!」
驚く煤鬼に、桜太郎は穏やかな顔で言う。
「恋人同士に、なったのならあまり口は出せませんから。ただし、イヤラシイ事ばっかりしないように!」
「……分かった。……色々、嫌な事を言って、済まなかった」
「……私の方こそ、貴方には失礼な事を言いました」
仲直りはしたものの、やりにくい空気になってしまい、
それを振り払うように煤鬼が明るく言う。
「薪と、食べ物を交換する仕事は俺の担当にして構わないぞ!」
「ありがとう。貴方もとってもいい子なんですね煤鬼。何だか誤解してました。
かがんでくれれば頭を撫でてあげますよ?」
「なっ!?いらん!こ、恋心姫と遊んでくる!」
「ふふ、照れなくてもいいのに」
煤鬼は逃げるように行ってしまう。

『お前、誰かを愛した事が無いんだろう?』

一人になった桜太郎はその言葉を思い出して、少しさびしそうな顔をした。



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