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妖怪御殿のとある一日
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皆さんこんにちは!
僕は妖怪研究家の「麿拙者 麿(まろせっしゃ まろ)」だよ!
……本当は、ただの妖怪好きのしがないオッサンだよごめんね!
大好きな妖怪を思う存分堪能するために妖怪がいそうな山に最近引っ越してきたら、
本当に、山奥の廃屋敷に5匹のイケメン妖怪ちゃん達が住んでいたから、もっぱら彼らと交流したり観察してるよ!
(観察の方は、ただの覗きだから大っぴらにはできないけどね!)
軽く、彼らを紹介しておくと……

イ・『恋心姫(ここのひめ)』
身代わり人形が妖怪化した子だよ。
彼の持ち主の貧しい男の子が、男の子人形に憧れのお姫様の恰好を、
着飾らせてたから、お姫様みたいに可愛い男の子だよ。
見た目は姫だけど元気いっぱいで悪戯好きだよ。

ロ・『煤鬼(すすき)』
元は国一つを支配して、貴族の姫君を生贄に捧げさせて食らっていたおぞましい妖怪……
って自分では言ってるけど……ありゃ嘘だわ。
確かに、大柄で堂々とした立ち振る舞いがワイルドな彼だけれど、とっても優しい。
でも自称・姫を食らってたというだけあって姫好きなのか、恋心姫とは一番仲良しみたい。

ハ・『桜太郎(さくたろう)』
おしゃもじの妖怪だって。
元は真面目に生きていた桜の木で、故郷から学校の近くに植え替えられてからは、学校の桜の木だったんだって。
学校の移転と一緒に連れてってもらう予定だったけど、切られてしゃもじにされちゃったらしい。
お料理上手で控えめな“近所の奥さん”って感じだよ!男性だけど!

ニ・『ぬぬ』
修行僧に憧れた山羊が一生懸命修行してたんだけど、崖から落ちて死んじゃったんだって。
それで妖怪化。帝さんに拾われてからは彼のペットらしい。
皆の中では一番大人しくて常識人っぽいけど、
山に捨てられたエロ本ばっかり食べてたらしいからけっこうムッツリスケベだよ。


ホ・『帝(みかど)』
“帝”を名乗るだけあって、男性ながらに美しく高貴な雰囲気をまとってるよ!
けど……自分の事は何一つ話してくれないから何の妖怪か謎だよ!
そもそも“帝”ってのも本当の名前か分からないよ!うぅ気になる……。
ここに暮らす皆のリーダー的存在だよ!

ふぅ。こんな所かな……。
あぁ〜みんなの事を思うと今日も研究心が止まらないよ!
あとで、買って来た野菜やお菓子をおすそ分けにいこう。
桜太郎君が「いつもすみませぇ〜〜ん」って、奥様ボイスで出迎えてくれて
「ついでにお夕飯、食べてってくださぁい」の流れだ!完璧!
いっそ一緒に暮らしたいなぁ……今日はみんな何してるのかなぁ??


********************

一方、妖怪たちの家では――

「ココノ姫!待ちなさい!今日という今日は許しませんよ!!」
「わーい!桜太郎おそいおそーい!!」
怒っている桜太郎から恋心姫が楽しそうに逃げ回っていた。
その騒がしい様子が気になってか、部屋から帝がまったりと声をかける。
「騒がしいな桜太郎……どしたどした?」
「どうもこうもありませんよ!ココノ姫ときたら今日も悪戯ばかり!」
「よいではないか、男の子は少しぐらい元気があった方が」
「でも、帝さんのお気に入り褌が泥まみれに……」
「よかろう。死罪だ」
にっこりと手のひらを返した帝に桜太郎がギョッとしている時、
少し離れた場所で後ろを振り返った恋心姫は、追手が来なくてソワソワしていた。
(桜太郎が、追いかけてきませんね……)
遠くに見える桜太郎はなにやら帝と話し込んでいる様子。
恋心姫は気になってフラフラと引き返してしまう。
桜太郎と帝の声がハッキリと聞こえてきた。
「し、死罪だなんて物騒な……」
「……と、いうのは冗談としても、そろそろ本気で叱ってやってもいいかもしれんな」
「帝さんが叱ってくださると?」
「いやぁ、余が言っても聞かぬよ。それに大声を出すのは得意じゃない」
「……分かってると思いますが、私が言っても聞きませんよ?
ススキはココノ姫には甘いし、ぬぬは完全に舐められてるし……」
「うむ。誰が叱っても聞かぬのだ」
のんびりと頷く帝に、桜太郎は呆れつつ怒っている。
「ちょっと!まとめないでくださいよ!結局何の解決にも――」
「口で叱る程度では、もう効果は無いという事だ」
「えっ……」
「口で言って分からぬなら、尻でも叩けばよかろうよ」
「えっ!?」
「ほらちょうど、後ろに姫がおいでだ」
帝の言葉に驚いて振り返った桜太郎と、桜太郎と目があって驚く恋心姫。
桜太郎は「あ……」と呟いた後、ポカン顔を慌てて引き締め、ニヤリと笑った。
「いっ、いいですね……私、打撃系は得意ですよ」
「さ、桜太郎……!!」
何やら恐ろしい桜太郎の笑顔を見た恋心姫は、助けを求めて周りを見回すが……
「どしたどした姫?桜太郎では不服なら余がお尻を叩いてやろうぞ?それとも……ぬぬをご指名か?」
そう言う帝が視線を向ける先には……白髪をまだらに黒染めされたぬぬが無表情で立っていた。
そして低音で言う。
「ココノ姫……俺は、キレていいよな?」
「ひっ……!」
まさに敵だらけの中、恋心姫は一生懸命、仲良しの煤鬼を探す。
彼ならきっと自分の味方になってくれるはず……!!
その時、恋心姫の体がふわりと持ち上がる。
「よう、恋心姫。皆で揃って会議か何かか?」
「煤鬼!!」
探し求めた味方に抱き上げられ、恋心姫は嬉しそうに煤鬼の名を呼んで、体を捻って抱き付こうとする。
「たすけて!皆が妾をいじめようとします!」
「ほほう?恋心姫のピンチとあっちゃ、黙ってはおられんな」
恋心姫のご要望に応え、彼をしっかりと抱きしめながら煤鬼は笑う。
ここで真っ先に抗議するのは桜太郎だ。
「ススキ、貴方も分かっているでしょう?ココノ姫のいたずらが酷いから
皆で相談して“お仕置き”しましょうって、事になったんです。庇ったら許しませんよ!」
「その通り。姫を渡せよ煤鬼」
「……キレたい」
帝は楽しそうで、ぬぬは相変わらず無表情。
恋心姫は皆の言葉を聞いてますます煤鬼に抱き付く。
「煤鬼ぃ〜〜!皆が怖いです!やっつけて!」
「よしよし、任せろ」
煤鬼の言葉を聞いて、恋心姫は煤鬼の胸の中でにんまりと笑う。が。
「そういう事なら、俺が恋心姫を“お仕置き”しよう。どうやって“お仕置き”するつもりだ?」
「はっ!!?」
驚いて顔を上げた恋心姫。煤鬼が悪戯っぽく笑う。
そこで、ピンときた。
(煤鬼ったら、上手く皆に話を合わせて妾を助けてくれるつもりですね!頭いい!)
やっぱり皆には見えないように、にんまりと笑う恋心姫。
桜太郎が困惑した声を出す。
「一応……“お尻を叩く”って事でしたけど……貴方、ココノ姫にそんな事ができるんですか?」
「非力なお前よりは適役だと思うが?」
「悪かったですね怪力野郎!!そこまで言うなら、ココノ姫は預けますけど!」
「それでいい」
煤鬼と桜太郎の話がまとまった所で、恋心姫はここぞとばかりに迫真の悲鳴を上げる。
「やだやだぁ〜〜っ!こわぁ〜〜い!離して煤鬼〜〜!」
「はっはっは!暴れるなよ恋心姫、大人くせぬと取って食ってしまうぞ?」
「うわぁ〜〜ああああん」
キャッキャと会話しながら二人は消えていく。
桜太郎の顔は訝しげだ。
「あんなにススキの胸に顔をこすりつけて、何が“やだやだこわぁ〜〜い”ですかねっ、あの子はッ!!
ススキは本当にお仕置きする気があって…………ハッ!!
まさかススキのヤツ、上手い事言ってココノ姫を庇った!?私達騙された!?」
一人でギリギリオロオロしている桜太郎を見て、帝は艶やかに笑う。
「はてさて、どうかな……?」
「……」
「ぬぬ、そなたは風呂に行った方がいいな。洗ってやろうか?」
「いや、いい。自分で洗ってくる」
こうして、桜太郎や帝、ぬぬは散り散りになる。


そして、一方の恋心姫と煤鬼は……
「ふふふっ♪上手く逃げおおせましたね煤鬼!助かりました!」
「何の事だ?恋心姫、元気なのはいいが、これからはあまりイタズラをするなよ?」
「?、煤鬼までつまんない事言わないでください。ねぇ、どこへ行くんですか?何して遊ぶんですか?」
「……」
「ねぇってばねぇ!煤鬼ぃ!」
煤鬼はそれ以上は無言のまま、とある部屋に入り込んでそして――
恋心姫を思いっきり床に放り投げる。
「ひぎゃっ!?い、痛い!何するんですか煤鬼!!」
「恋心姫」
ダンッ!!
煤鬼は恋心姫の前にしゃがみこんで、勢いよく手を付く。
無表情で黙り込んでいる煤鬼が急に恐ろしくなって、恋心姫は震える声で言う。
「お、お部屋が暗いです……明かりをつけましょう……」
「そりゃいい。恋心姫の泣き叫ぶ顔が良く見えるな」
「!!」
笑顔もまさに鬼のそれ。恋心姫は慌てて逃げようとするが、
動こうとした途端に押し倒されてしまう。
「言ったよなぁ?」
「きゃっ!!?」
「暴れたら取って食ってしまうと……」
「や、やめて煤鬼!!いやぁあああっ!!」
強引に着物を破り開かれて、恋心姫は悲鳴を上げる。
煤鬼は露わになった恋心姫の肌を……お腹の辺りをふにふにと手で押して感触を確かめている。
わざとらしく唾液を啜って、掠れた低い声で言う。
「あぁ……柔らかくて噛み千切りやすそうな肉だ……」
「うっ……ふぇっ……!!」
「どれ、味見をしてやろう」
そう言って今度は恋心姫の肌に舌を這わせたものだから、恋心姫の方は怖くなって泣き出してしまった。
「うわぁああん!ごめんなさい!食べないで!
妾は布と綿でできてます!もさもさして美味しくないですぅぅっ!!」
「っ……それは、昔の、話だろう?」
ちゅぅぅぅっと、思いきり唇で肌に吸い付く。
恋心姫は体をのけ反らせた。
「ひゅいいいいっ!!」
「ククッ、面白い悲鳴だ恋心姫。悪戯を控えていい子になるか?」
「なります!なりますから!!食べないで!!お願い!うぇぇっ!!」
「はっは!桜太郎が言ったのと違う“お仕置き”になってしまったぞ!そうだそうだ、尻を叩かないとな!」
すっかり泣き出してしまった恋心姫を持ち上げて、座り直した煤鬼はポンと膝の上に恋心姫を落とす。
あわれ恋心姫、着物は地面に置いてけぼりで、素っ裸でまた泣き出してしまった。
「うわぁああん!いや!お尻を叩くのは嫌ですぅぅぅっ!!」
「……腹が減ったなぁ……」
「きゃぁあああ!我慢しますぅぅぅ!!」
膝の上でジタバタしている恋心姫は息継ぎをするように煤鬼に懇願した。
「お、お願い!煤鬼、痛くしないで!!」
「それは無理だ恋心姫。加減が分からん」
バシィッ!!
「わぁああああん!!」
一発目から怪力の煤鬼に手加減なしで叩かれて、派手に泣き叫んでしまう恋心姫。
痛みで怯えて謝りまくる。
「ご、ごめんなさぁい!ごめんなさい!もうイタズラしませんからぁっ!ふぇぇんごめんなさぁぁい!」
「それは良かった!」
ビシィッ!バシィッ!
「うわぁああああん!!痛い!痛いぃぃぃっ!」
「悪く思うなよ恋心姫。すぐやめたら、桜太郎がうるさいからなぁ」
「や、やだぁぁぁ!やめてぇぇぇっ!!」
「尻が真っ赤になるまでの辛抱だ!」
「わぁああああん!!もうなってますぅぅぅっ!!」
「いやいや、まだまだ」
バシィッ!ビシィッ!バシィッ!!
泣いても喚いても、暴れても、許してもらえる気配の無い恋心姫はやっぱり泣くしかない。
「うわぁああああん!やめて煤鬼ぃぃぃっ!!」
「悪戯ばかりするからこうなる」
「ごめんなさぁぁぁい!!うわぁあああん!!」
「良い泣きっぷりだな恋心姫。胸の奥がざわざわするぞ」
「うわぁあああん!イジワルぅぅ!!わぁあああん!」
バシバシと強い力で、大きな手で叩かれ続けた恋心姫のお尻は真っ赤に染まっていた。
ずっと泣きっぱなしだし、哀れに思った煤鬼は一度手を止めた。
「うわぁあああん!!」
手を止めても恋心姫はしばらく泣いていたけれど……
「ひぅぅっ、ひっく、あっ、あぁっ……!!」
しばらく、そっとしておくと徐々に泣き声も治まってきた。
そうすると恋心姫が遠慮がちに聞いてくる。
「“お仕置き”は、お終い……?」
「いや、恋心姫があまりに泣くから休ませただけだ。もう続けて大丈夫そうか?」
「!!」
煤鬼がそう答えると、恋心姫は叩いてもいないのに盛大に泣き出してしまった。
「いやぁああああっ!お尻、叩くのは、もういやです!ごめんなさい!
皆にも、ごめんなさいしますからぁぁっ!うわぁあああん!!」
(どうしたものか……)
煤鬼は考える。
恋心姫の悪戯好きを懲らしめたい気持ちは少しあったけれど、
もとよりそんなに怒っているわけでは無かった。
ただ、脅かすと面白いくらいに怖がる恋心姫が可愛くて仕方が無いし、
とはいえ、もう彼も限界に近いし……
考えながらも煤鬼が取る行動は……
「お仕置きなのに“嫌だ嫌だ”言うのはこの口か?」
「あ、ふっ……」
恋心姫の小さな口に無遠慮に指を突っ込んで……
「反省する気がないな?悪い子め。我が儘ばかり言うと舌を潰してしまうぞ?」
「むぐぅっ……!!」
ぐぐっと力を込めて脅し程度に小さな舌を圧迫する。
もちろん、潰す気は無いが恋心姫はぶるぶる震えていた。
(いかんいかん、遊んでいては……!!)
入れる時とは逆に紳士的に指を引き抜くと、恋心姫は泣きながら言う。
「ご、ごめんなさいっ、お仕置き、痛いの、ちゃんと、我慢します……!!」
「!!……いい子だ。
よしよし、もう少しで終わりにしてやるから、我慢するんだぞ?」
声を出さず、必死で頷く恋心姫の頭を撫でて煤鬼は再び、赤くなっているお尻に手を振り下ろす。
ビシィッ!!バシィッ!ビシィッ!!
「うわぁああああん!ごめんなさぁぁぁい!!」
(恋心姫……色々脅かして悪かったな……最後くらいは真面目に叩いてやろう)
そんな事を考えながら、煤鬼は気持ちを込めて恋心姫のお尻を打つけれど……
そうすると自然と威力が上がってしまう。
恋心姫もいっそう泣き叫んだ。
「ひゃぁああん!!もうしません!いい子で大人しくします!わぁあああん!!」
ビシィッ!バシィッ!!
「ごめんなさぁい!ごめんなさい煤鬼ぃぃっ!!」
バシンッ!!
「ひゃぁんっ!!」
今度こそ、煤鬼は手を止めて恋心姫を起こして抱きしめた。
「良く頑張ったな恋心姫」
「うっ……煤鬼ぃぃっ……!」
「悪戯ばかりしたから、自業自得なんだけどな?」
「うわぁあああああん!!いじわるぅぅぅぅっ!!」

こうして、恋心姫のお仕置きは終わった。

その後。
恋心姫は他の皆にも謝る事になる。
「ぬぬ、ごめんなさい」
「ん。反省したならいい。それより……ココノ姫の体からススキの匂いがする」
「そう、ですか?」
「そう。しかも濃い。……その、体液?」
ぬぬがそう言った瞬間に、桜太郎が一気に煤鬼に詰め寄った。
「ちょぉぉぉおっと!!このイヤラシ妖怪!!
お仕置きにかこつけてココノ姫になにさらしてるんですか!!
おかしいと思ったんです!貴方が行った側の部屋は昼間でも薄暗いしぃぃぃっ!!」
「誤解だ。ちょっと脅かしただけで、ぬぬの言う体液というのは唾液だろう」
「唾液ぃっ!?そっそっ……??え?!」
「ほほう。余も一度、恋心姫を舐めてみたいものだなぁ」
「舐めっ……!!?帝さんふざけないで!!ココノ姫!今すぐお風呂に……」
皆の話で真っ赤になっている桜太郎。
しかし――
ピンポーン
「あっ、はぁ〜い!!」
チャイムが鳴った瞬間に声を一オクターブ上げて笑顔で玄関へ向かって行った。
それを見送る一同。
恋心姫がポツリと言った。
「桜太郎って、なんで怒ってる時でもお客が来ると声が変わるんですか?」
「うむ……」
「それは……」
「まぁ……」
誰も答えなかった。

「あ、麿さぁん!いつもすみませぇ〜〜ん!」
桜太郎の爽やかボイスが、遠くで響いていた。



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