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うちの画家先生6




朝、俺は壮絶に眠かった。
昨日は朝方4時ぐらいまで起きてしまったからだ。
あー眠い……布団から出られない……よし、学校休もう。
俺的に、授業の欠席は3回までセーフだ。今日休んでもまだ2回目だもんね。
決定したのでゆっくり寝ようとしたら、兄貴が起こしに来た。

「健介君、起きなきゃ。学校あるんでしょ?」
「ん〜休む〜。」
「起きなさい!サボるつもり?」
「ぁ頭痛い〜お腹痛い〜体だるい〜……」

サボるつもりで〜す。っと心の中で答えつつも、甘えた声を出す。
ははっ、ひどいブリッ子ボイス……しかし、兄貴には通じるんだな〜コレが。
俺の予想通り、兄貴は俺のおでこに手を当てて首をかしげている。

「う〜ん?風邪引いた?熱は無さそうだけど……
じゃあ、家で大人しくして……ちゃんと病院行くんだよ?」

「ん〜」と適当に返事をしつつ、布団から顔半分ぐらい出して兄貴の様子を伺う。
……兄貴が出て……行った!!よしっ!!自主休講完了!
さてさて、心置きなくゲームでもしますか。


昼過ぎ

ゲームも飽きてきて、そう言えばおっさんの昼ごはん作らないと……と思い立って台所へ行った。

「健介君!?ダメだよ寝てなきゃ!お昼ごはんなら私が作るから!!
ほら、このラーメン!健人君が、お昼はこれ食べてって言ってた!」

ああ、カップ麺か。これならおっさんでも作れるな。
うちにはあっという間にお湯が沸く電気ポットがあるから火を使う心配も無い。
世の中便利になったものだ。

「座っててよ!私が作るから!」
「はいはい……」

妙にサービスがいいおっさんに無理やり座らされて、昼はカップ麺を食べた。
その後は部屋に戻って布団にもぐってた。
テレビ見ながらうとうとしてたら、部屋に入ってきた夕月さん。
ああ、そうか……おやつか……。

「健介君〜おやつ〜……」
「分かってますよ……おやつ出せばいいんでしょ……」
「違うって!何起きてるの!?おやつ持ってきたんだよ!
いいから、健介君は寝てなきゃ!」

起き上がろうとしたらすごい勢いで止めてくる。
確かにおっさんはゼリーとスプーンを持ってるけど……
夕月さんが俺に気を使うなんて……珍しい事もあるもんだな。


「お見舞いって言ったらフルーツだよね。だから、フルーツゼリー。
一個で足りなかったら、私の分あげようか??3分の1……いや、半分ぐらい……
あ、待って……4分の3ぐらいぃ……あげてもいいかも……っていうかあげる!!」

「要りませんって。夕月さんからおやつ取ったりしませんよ……」


本当は10分の1だって渡したくないくせに……
無理してる夕月さんが可笑しかった。

「そ、そう?んっとじゃあ……早く元気になってね?」

おやつを置いて出て行ったおっさん。
今日は妙にサービスがいいと思ってたけど、それなりに心配してくれてるらしい。
仮病なのに申し訳ない……ま、たまにはいいか。と思って目を閉じた。

それから俺は寝てしまったらしくて、気が付くと部屋が暗くなっていた。
置いてあったゼリーだけ食べてダイニングに行くと
もう晩御飯ができていて、兄貴も帰っていた。


「健介君!晩御飯はえびグラタンだよ。私が作ったんだから!ね?」
「ええ。先生が作ってくれて助かりました。」

笑顔で会話している二人を横目にテーブルに座る。
目の前には間違いなくえびグラタンが……あ、冷凍か。なるほど。
冷凍えびグラタンを食べていたら兄貴に話しかけられた。


「健介君、病院行った?」
「行ってない…何か熱上がってきて、体動かなかった。」

冷凍えびグラタンを食べながら
なるべく兄貴のほうを見ないようにしながら適当に答える。

「え〜?薬あったかな……?」

兄貴は一人で言いながら薬箱をごそごそやっていた。
渡された薬は、熱も無いのに飲む気になれなくて
結局部屋のゴミ箱にそのまま投げ入れた。



2日目


「健介君?調子はどう?学校行けそう?」
「ん〜……今日も休む……」

兄貴の声に目を閉じたまま答えた。
今日も眠い。昨日の夕方寝てたせいで夜全然眠れなかったのだ。
いいんだ。昨日のついでだ。眠いんだから仕方ない。
兄貴も今日はしつこく起こしてこない。

「……そう……今日こそ病院行きなよ?今は……熱も下がってるみたいだしね。」

首に手を当てられる感覚が一瞬して、その後、部屋の扉の閉まる音。
ついでに玄関の方でもガタガタしてたから兄貴は出て行ったんだろう。
病院どうしようかな〜とか考えながら寝てたらすぐ昼になった。
……あ、昼ごはんどうするんだろう?


「健介君、大丈夫?病院行った?」
「!?」

兄貴の声がしてびっくりした。
寝ながら振り返ったら兄貴と目が合ってさらにびっくりした。
待て……何で兄貴がいる?


「え……?仕事は?」
「今日休みだよ。」


そう言えば兄貴、私服だ……じやあ何で出て行ったんだ!?
昼ごはんか!?昼ごはんの食材調達か!?
混乱している間にも、兄貴はどんどん部屋に入ってきて
俺の目の前に座り込んだ。

「ねぇ、病院行ったの?」
「いや、もう……いいんだよ。調子……良くなったみたいだから。」

休みなんて聞いてない……聞いてない……聞いてない……
頭の中で同じ言葉がぐるぐる回る。
しどろもどろで答えながら兄貴から目をそらす。


「そうだね。健介君の病気は病院行って治る病気じゃないもんね……
起きてごらん。お兄ちゃんが治してあげるよ。」

「え……ちょっ……なっ、なになになに!?触らないで……!!」

こっちに手を伸ばされて嫌な予感がした。
無理やり布団を剥ぎ取られて、体起こされて……
全力で抵抗するのもみっともないし……と思って
大した抵抗もしなかったら、あっという間に兄貴の膝の上だ。


「僕が思うに、健介君の病気は“サボリ病”。
薬、ゴミ箱に捨てたでしょ?朝にゴミ箱見てビックリしちゃった。
そのままゴミ箱に突っ込むのがいかにも健介君らしいけど。
病院も全然行かないし……最初から熱なんてなかったんだよね?」

返事はしなかった。できなかった。
今さら仮病でしたなんて言えない。
でも、ズボン下ろされたらさすがに怖くなってとっさに言い訳してしまった。

「待って!!おっ、俺は本当に熱がっ……!!」
「まだ嘘つく?もしかして“嘘つき病”も併発してるかな〜?」

パンッ!!

「ひっ!!」

ああ、やっぱ許してくれないか……
一発目の威力に驚く間もなく、兄貴が尻をバシバシ叩いてくる。

パン!!パン!!パン!!

「あっ!!やっ……!!」


ダメだ!!もう嘘ついても仕方が無い!
俺は考えた。許してもらえる最速のルート……先に全部謝ってしまおう!

「いっ……ごめんなさい!反省してる!!」
「反省してる?あー、でも今の健介君は嘘つき病だから信じちゃダメだね……。」
「本当に!!ふっ、嘘ついて、学校サボってごめんなさい!!」

パン!!パン!!パン!!

痛い!痛いから!
嘘つき病って何だよもー……いや、それはいいから……!!
ああー……早く、早く考えろ俺!あと何だ?!
嘘ついた事、学校サボった事……あとは……


「んっ、兄貴にも夕月さんにもっ、心配かけて……!!
はっ、あっ、ごめんなさい!!」
「ふ〜ん……一応自覚はあったんだ……」
「もうしない!!学校サボらないし、兄貴や夕月さんに心配かけるような嘘もつかない!!
本当に反省してます!!ごめんなさい!!」

兄貴の反応がイマイチ冷たいのが怖すぎるけど……
これであとは謝りまくってたらどうにか……


「兄貴!!ごめんなさい!!もうしないから!!反省してるからぁ!!」

パン!!パン!!パン!!


「ごめんなさいぃ!!ごめんっ、なさい!!」

これで終わる!!間違いなく終わる!!
何度も念じるけど、兄貴は全然やめてくれない。
だんだん痛みも増してきた。

パン!!パン!!パン!!

「兄貴ぃっ!!ふぁっ、ごめんなさいいっ!!」

聞いてんのか!!みたいな感覚で叫んでみた。
でも返ってきたのは最悪の返事。


「……健介君ね、自分から謝ってくれるのはいいんだけど
謝ったら許してもらえるとは考えないほうがいいよ?
ただ“ごめんなさい”って繰り返すより、ゆっくり自分のした事を振り返ってごらん?」
「なっ!!こっ、なとこ……で、んんっ……ゆっくりしたくなんかない!!」


パシンッ!!

思わず叫んだら結構強く叩かれて痛かった。

「ほーら、それが本音だ。
その口で反省してるなんてよく言えたね……健介君の嘘つき。」
「やぁっ!!だって……だってぇっ!!」

こっちだって言いたい事あるのに「だって」しか言えない……!!
叩かれるたびに尻が痛くなって、思考が分断されるのだ。
兄貴は相変わらず遠慮なしに叩いてくるし。


「やめっ……!!あぅっ!!あんなに謝ったのにっ……
兄貴っ……やめろこのハゲぇっ!!」
「はげ?……はぁー……今日の健介君は本当に悪い子だ……
いくら可愛い健介君でも……許してあげる気なくなっちゃうなぁ……」


言われて血の気が引いた。
しまった!!どうしよう逆なでした!!
だいたい、何言ってんだ俺!?ハゲって!ハゲって無いだろ!?
下手に逆らうんじゃなかった!!ずっと謝ってればよかった!!
今頃焦っても言った事は取り消せないし……俺はただ叩かれるしかない。

パン!!パン!!パン!!

「やだぁっ!!ごめんなさいぃ!!ごめんなさい!!」
「またそれ?もういいよ。適当にごめんなさいするくらいなら、静かにしてて。」

この時の俺の絶望感、言葉では言い表せない。
俺の考え得る、最も有効な手段が効果をなくしたのだ。
泣かされる……今日は確実に泣かされる……
絶望したら余計痛いような気がしてきた。

パン!!パン!!パン!!


「ああぁっ!!兄貴っ!!やだっ!!ごめんなさぃいっ!!
ふぁっ!んっ……うぅっ……ふっ!!」

言っても無駄だと分かっていても謝ってしまう。
無意識に足を動かしてしまうし、涙が出るのも我慢できなかった。
染み付くような痛みに何だか悲しくなってくる。


パン!!パン!!パン!!

「いやぁっ……ぐすっ、兄貴ぃっ……ふぇっ……えぇっ……」
「泣いてもだめ。もう少し反省してなさい。」

パン!!パン!!パン!!


「ふっ……うぅっ……あはぁっ……ひっ、うぁあっ!!」

すすり泣きながら耐えるけど、もう少しっていつまで!?
無理です!!無理ですコレ!!
だってもう尻が……熱いっていうか痛いって言うか……
足掻いても痛みが治まるわけじゃないし、本当に辛い。

パン!!パン!!パン!!

「やぁぁっ……えうぅっ!!お兄ちゃぁん……ごめんなさいぃ!!」


ここで何故か、兄貴の手が止まった。

「……やだな……今、グラっときちゃった……それも許してもらう作戦?」
「ちがっ……ふぇぇっ……ごぇんなさいっ……ごぇんなさいぃっ」

何か分からんがチャンス!!
布団に顔を押し付けながらとにかく謝った。
自分でもわけが分からない。尻が痛い……。

「……これで少しは懲りたかな?」

パン!!

「んっ!!懲りたぁっ……ううっ……」

「健介君、僕は半信半疑だったけど、先生は本気で心配してたよ?
だから、これは先生の分。」

パァンッ!!

「ひぁあっ!!ごめんなさいっ!!」
「うん。じゃあお仕舞い。」

最後に思いっきり叩かれて
やっと膝から下ろされて抱きしめられた。
今日は安心したと同時に文句言いたい気分だ。

「ひっく……も……少しは手加減っ……しろっ……」
「悪いのは健介君だよ。文句言わないの。」

そう言いながらも、ずっと抱きしめて撫でてくれた。
ああ、たぶん人生の「ごめんなさい」全部使い切ったな今日……
夕月さんに見られなくてよかった……


で、翌日

「健介君寝て無くていいの?風邪治った??」

俺の周りをうろちょろしながら夕月さんが聞いてくる。
心配してるような期待してるようなそんな感じだ。
そういや……本気で心配してたんだよな、このおっさん……

「治りましたよ。夕月さん……心配かけてすいませんでした。」

言った瞬間、夕月さんが嬉しそうな顔をしたので
内心「もう仮病は使いませんから」と付け足しておいた。


「やった!健介君、元気になってよかった!これで心置きなくおやつが要求できるし……」
「えぇ……?夕月さん、おやつの心配してたんですね……そんな事だろうと思った……」
「ち、違う!!おやつも健介君も同じくらい大好きだもん!!同じくらい心配だよ!!
あ、もちろん健人君も同じぐらい大好きだよ?」


何だそれ……
正直俺は呆れたけど、兄貴は嬉しそうに返事をしていた。


「ありがとうございます。僕も先生が大好きですよ。あ、もちろん健介君も同じぐらい大好きだよ?」
「何なんだよこの会話!!」


これじゃ完全に夕月さんのペースだろーが!!
でも……このバカっぽい幸せが……いいのかもしれない。
二人の笑顔を見てそう思った。


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【作品番号】US6

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