TOP小説
戻る 進む


うちの画家先生5




この秘密のアトリエにこもってから2日目。
今朝やっと、私の絵が完成した。

「ふぅ……」

朝日に照らされた港町を描こうとしたら、霧がかかった古城になったけど……我ながら良い絵だ。
健人君に見せられないのが残念だなぁ……
見せたらきっと褒めてくれるのに。いい所200個ぐらい。
さて、午後からは廟堂院さんと会う約束があるんだっけ。
私ほどの画聖になると、お金持ちさんにお呼ばれしちゃうんだよね。
この絵はここに置いといて……ご飯買って、お風呂屋さん行ってから行こう。

んで、午後。

廟堂院さんのお屋敷に行った。
大きな部屋に入れてくれて、ふわふわのソファーに座らせてもらって
使用人さんが「お待ちください」って……ただ待たせるんじゃないよ?紅茶付き。
ミルク入ってなくて甘くないのが残念だけど。

紅茶飲みながら待ってたら、しばらくして廟堂院さんがきた。
廟堂院さんは、よく私の絵を買ってくれる人。
背も高いし、体格も結構がっしりとした紳士的な男性。
一言で言うとオジ様って感じ。

「大堂先生、またお会いできて光栄です。
この前買わせていただいた先生の作品は、部屋に飾ってあるんですよ。
いつ見ても素晴らしくて……ため息ばかり出ます。」

「ど、どうも。」

向かいに座った廟堂院さんと握手しながら思う。
どうして同じぐらいの年なのに、私と全然違うんだろう……
あーあ、何だかちょっぴり悲しくなっちゃうな……彼のこの、薫りたつダンディズム……

ううん!きっ、気にしないぞ!私だってイケメンだもん!
イケメンだからイケメンの知り合いも多いし……えっと、健人君だってイケメンだし
健介君だって、私がイケメンな影響で、日々イケメンに育ってるし!
お向かいのお医者さんだってイケメンだ!しかも、奥さんは若いし美人だぞ!


「大堂先生……どうかなさいましたか?」

違う事考えてたら、廟堂院さんが心配そうな顔してる。
あ、何か言わないと……

「いえ、あの、おやつはいつも何を召し上がってるんですか?チョコレートですか?」
「は?……ぁあ、いえ……私は甘いものが苦手でして……」

ええ!?どんなおやつ食べたらそんなダンディーになれるのか聞きたかったのに!!
大堂夕月、人生38回目のショック!!


「もしかして、大堂先生は甘いものがお好きなんですか?」
「あ、まぁ、それなりに超大好きです。」
「それは失礼しました。すぐに持ってこさせますね。」

こうして私は、すっごくおいしいケーキとかクッキーを食べながら廟堂院さんと絵の話をした。
またいい絵が描けたら売ってくださいって言われた。
もちろん、いいですよって言ったよ。


んで、廟堂院さんとさよならした帰り道。

「うー……ダンディーになりたいなー……」

やっぱ、どうしても考えちゃうよー。
私がダンディーだったら健人君にお尻叩かれなくてすむのにー。
それどころか、逆に健人君のことお仕置きしちゃったりなんかして……にゅふふっ♪
ちょっと本屋でダンディズムの研究でもしようかな。

そう思って近くの本屋に立ち寄ったら『毎日食べたい3時のおやつ』っていうおいしそうな本を見つけた。
特に26ページの卵ロールケーキが超おいしそう!ぜったい深い味わいだよコレ!
今度健介君に作ってもらおっと!オムライス作れるんだから作れるよねきっと!

あと、裸婦の資料みたいなのも見つけた。デッサンの参考に買って帰ろうかな?
んーでも、難しい言葉がいっぱい出てくるなぁ……
“SM”ってのは“スーパーモダニズム”の略で合ってると思うけど……
やっぱ買うのやめた!健介君が似たようなの持ってたから今度貸してもらえばいいんだ。


それで、飽きてきたから本屋を出た。
よし、今日の予定は終了したからもう帰ろう。早く晩御飯食べたい。



「ただいまー。」

私が家に帰ると、健人君と健介君がすごくびっくりした顔をした。

「先生!!あぁ……帰ってきた……よかった……よかったぁ!!」

健人君は私を見てすぐ抱きついてきた。
帰ってくるよそりゃ。変なの。ぎゅーってされて痛かった。

「ダメじゃないですか……急にいなくなったりして……
僕……すごく……心配で……うっ……」

「ア、アトリエに行ってただけだよ?あと、廟堂院さんとおやつ食べただけ。」

あ、あれ?何で泣いてるの?
分かんないけど、健介君も来た。

「いきなりいなくなって二日も連絡なかったから心配してたんですよ……。
ちょっと置手紙していくとか、途中で連絡入れるとかできないんですか?
夕月さんって、本っっ当にバカですね。」

「バカって言うな!!」

一応言い返したけど、健介君も何となく疲れた顔してる。


「バカですよ。大バカです。どれだけこっちに心配かけたと思ってるんですか?
兄貴はずっと泣いてるし、しまいには“捜索願”出すとか言いだして大変だったんですから。
さぁ、覚悟はできてるんでしょうね?」

「覚悟……?」

「俺たちに心配かけた罰です。」


健介君に腕を捕まれてソファーのところに連れていかれた。
ま、まさか……

「えっ……だっ、ダメ!!健介君、タイム!くじ引きタイム!」

「認めません。俺は夕月さんが帰ってきたら尻叩いてやろうって決めてたんです。
兄貴は泣いてて叩けないでしょうし。」


勝手に決めないでよ!!
ぎゃーーーー!お腹苦しい!!勝手にズボン下ろされたぁ!!
叩かれるーーーー!!

「先に言っときますけど、俺は兄貴みたいに優しくないですからね?」

パンッ!!

「ったぁ!!」

くそー健介君、実は弱いって期待したけどやっぱり痛かった!!

パンッ!!パンッ!!パンッ!!

「やっ、んっ!!健介君の暴力っ!!いじめっ子っ!!いじめカッコ悪い!!」
「へー、俺に対してはずいぶん強気じゃないですか……いい度胸ですね!」

パシィンッ!!

「ぃあぁっ!!」

いきなりすごい痛いの入れてきたーーーー!
もうヤダ!!健介君、意地悪だから嫌だ!!
いっぱい叩いてくるし!!

パンッ!!パンッ!!パンッ!!

「はっ、ああっ、健介君ヤダぁっ!!いったいぃ!!」

「痛いのは当たり前です!!アンタ分かってるんですか!?
俺たち心配してそこら中探しまわったんですよ!?
連絡入るかもしれないって思ったら夜も眠れなかったし!」

「そんなの分かんないぃ!!
私はっ、いいアイデアが浮かんだからっ……アトリエにっ……ああっ!!」

「だ・か・ら!!出かける前に一言声かけろって言ってるんです!!
鍵もかけずに出て行くバカがどこにいるんですか!?
部屋も散らかしっぱなしで……一瞬、強盗かと思いましたよ!!」


パンッ!!パンッ!!パンッ!!

もう、またバカって言われたぁっ!!
っていうか痛い!!お尻ズキズキする!!
出かける前に言わなきゃいけない法則なんて知らないよ!!
とにかく健介君嫌だから、色々言ってやろうと思った。


「あっ、はぁっ!!分かんない知らないお尻痛いぃっ!!
健介君のバカぁっ!!強盗!!」

「夕月さん!変に反抗すると尻の骨へし折りますよ!?」


パンッ!!パンッ!!パンッ!!

「やぁあっ!!ふぇぇっ、お尻の骨折っちゃダメぇっ!!」

色々言ったら怖いこと言われた!!今日の健介君怖い!!
このままじゃ、本当にお尻の骨へし折られる!!
お尻痛いし、健介君怖いし泣きそう!!

「素直に聞いてください!俺たち、夕月さんが事件や事故に
巻き込まれてたらどうしようって、不安で仕方なかったんです!
兄貴が泣いてたでしょ!?夕月さん、何とも思わないんですか!?」


パンッ!!パンッ!!パンッ!!

「わぁぁん!!健人君泣かないでって思ったぁ!!」
「アンタが心配かけるから泣いてるんですよ!?もうこんなことの無いようにしてください!
出かけるときは一声かける、他所に泊まるときは連絡入れる!分かりましたか!?
この……アホオヤジ!!」


バシィッ!!

この一回がすごく痛かった。


「うわああぁぁん!!分かりましたぁっ!!アホオヤジじゃないですぅっ!!
わあああああん!!」
「分かればいいんです。いいんですけど、腹が立つのでもうしばらく叩きます。」
「やだぁっ!なんでぇ!?ひぅっ、もう反省したぁああ!!うわぁあああんっ!!」

パンッ!!パンッ!!パンッ!!

ヤダって言ったのに無視されて、本当にしばらく叩かれた。
痛いのに!お尻火傷しそうなのに!私、すごい泣いてるのにぃっ!!
健介君は優しくない!本当に優しくない!

パンッ!!パンッ!!パンッ!!

「わぁぁああんっ!!ごめんなさぃぃっ!!二日ぐらい行方不明になってごめんなさいぃっ!!」

あんまり痛すぎてうっかり謝ってしまった。
でも、それで健介君が叩くのやめてくれた。

「何だ。謝れるじゃないですか。じゃ、その調子で兄貴にも謝ってきてください。ほら行って!」

健介君にお膝から下ろされて何か背中押された。
乱暴にされて余計泣きそうになってけど、健人君に謝りにいく。

「け、健人君……ひっく、行方不明になって……ごめんなさい……。」

健人君にもお尻叩かれたらどうしようって思ったけど、健人君はまたぎゅってしてくれた。

「いいんです……無事に帰ってきてくれたからっ……いいんですっ……」

健人君が震えてる。また泣いちゃったみたい……
健人君が泣いてる声が聞こえて何だか私も悲しくなった。
悲しいっていうか……ごめんねって気分。

「ごめんっ……健人君ごめんねっ……ふぇぇっ」
「先生っ……っう……!!」
「「うわぁぁあああん!!」」

結局、二人で一緒に泣いちゃった。


んで、次の日。

洗い物をしてる健介君に話しかけてみた。

「ね……まだ怒ってる?」
「怒ってませんよ。」

……こっち見てくれない。絶対怒ってるよ!実は根に持つタイプだ!
どうしよう、これじゃ、卵ロールケーキ作ってもらえないかも……
何とか反省したって事をアピールしなきゃ!

「私……反省したよ?出かけるときちゃんと言うし、泊まるとき電話する。」
「当たり前です。約束したでしょう。っていうか怒ってませんってば。」

怒ってないとか言いながらお皿洗ってる!!
私が謝ってるのにお皿を洗ってるって何だよ!!そっか、もう私の顔よりお皿が見たいんだ!!
式でかくと 私<お皿!!とか考えてたら泣けてきた。

「うっ……健介君……そういう式なんだ……私のことっ、嫌いなんだっ……ひっく」

「な、何で泣くんですか!?怒ってないって言ってるじゃないですか!!」
「だって!!お尻叩いた後、健人君みたいにぎゅってしてくれないじゃないか!!」

「なっ……」

やっとこっち見てくれたけど、何かオロオロしてる……
やっぱり!!私をぎゅってするより、お皿をぎゅってしたいんだ!!
式でかくと 私ぎゅっ☆<お皿ぎゅっ☆!!
って考えてたけど……予想外に、健介君がぎゅってしてくれた。


「……ったく……これでいいですか!?」

……うん、これで……よくない!!何かヤケクソっぽいし痛い!!

「んっ、健介君痛い!!締めすぎ!!」
「ぜいたく言わない!気がすんだら、向こうでテレビでも見ててください。」


……やっぱり、健介君は優しくない。



【おまけ】

「健人君!私のくじ引きを“夕月スピードくじ”って名づけたよ!手動だけど!」
「え?何のくじ引きですか?」
「あのね、健人君か健介君か、どっちにお尻叩かれるか決めるくじ引き!
それに『“あたり”が出たらお尻叩かれない』って新機能をつけようと思うんだけど、いいと思わない??」
「う〜ん……そういうズルい新機能はダメですよ?
悪い事したらちゃんと反省しないと。」
「え〜……どうしても〜……?」
「そうですね……じゃあ、『“はずれ”が出たら二人ともに叩かれる』って新機能もつけるなら
“あたり”入れてもいいですよ。」
「……やっぱ“あたり”入れるのやめる。」


気に入ったら押してやってください
【作品番号】US5

戻る 進む

TOP小説