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うちの画家先生番外編〜呪いの赤い横ストライプ〜【前編】

「健介君のちゃぶ台返し」リクエストお答作品







【閲覧前のご注意】
この物語はフィクションです。
実際の絵本、ビデオ、その他諸々のウォーリーの設定とは一切関係ないのでdon’t worry。

※呪いのせいで結構皆キャラ崩壊しています。


『ウォーリー』、と言う名を聞いた事があるだろうか?
赤い横ストライプのシャツに、ジーパンを穿いて、帽子をかぶって眼鏡をかけている男。
常に誰かに探されている凶悪犯である。そんな彼は未だに誰にも見つかっていない。
何故かと言うと、『ウォーリー』は敵を呪いで自分と同じ『ウォーリー』にする能力を持っており、
自分のコピーを増やして捜査を撹乱しているのだ。
そして、『ウォーリー』と化した人間に捕まった者もまた『ウォーリー』になってしまう、負のスパイラル。
恐ろしい能力を持つ凶悪逃亡犯、『ウォーリー』……その噂は、浅岡健介と大堂夕月の家でも話題になっていた。

「ウォーリーって怖いね。健介君」

「ええ。でも今日は新しいちゃぶ台も買った事ですし、ウォーリーの事は忘れて、これで美味しいご飯を食べましょう」

新品のちゃぶ台を囲んで会話する二人。
健介は白いパーカーを着て、ちゃぶ台のツルツルした表面を撫でている。
撫でられているちゃぶ台も嬉しそうだ。表面の光沢と木目が美しい。
ちゃぶ台は思う。(オレ……今日の夕飯にハンバーグ乗っけてもらうんだ……)、と。
しかし……

「……!!殺気!?」

健介が何かに気づいて、素早くちゃぶ台の端を持ち上げる。
カカカカッ!!
固い音が反響し、ちょうど盾のように立ち上がったちゃぶ台にいくつものナイフが刺さった。
(ぎゃぁあああああ!!)と、人間には聞こえないちゃぶ台の悲鳴。
そして健介も叫んだ。

「詩月さん!!」

「詩月……?誰の事です?僕はウォーリーですよ?」

健介の視線の先で、ナイフを構えた詩月が不敵に笑う。
赤い横ストライプのシャツ、ジーパン、帽子、眼鏡……という出で立ちで。
夕月もいると言うのに、また次のナイフを投げる構えだ。

「くっ……!夕月さん!逃げますよ!!」

「詩月!!」

「彼はもう駄目です!精神をウォーリーに支配されている!!捕まったら俺達までウォーリーにされてしまいます!」

健介は夕月の手を引いて立ち上がる。そしてちゃぶ台の縁をつかんで、詩月に向かって思いっきりひっくり返した。
(ぎゃぁあああああ!!)と、二度目のちゃぶ台の断末魔。
詩月がちゃぶ台の下敷きになって怯んでいる間に、健介は夕月を連れて逃げ出した。
見えざる凶悪犯、『ウォーリー』との戦いの始まりだった。




健介は住み慣れた町を走る。夕月の手を引いて走る。
詩月はあの後すぐに追いかけてきて、もう後ろに迫っていた。
絶体絶命の状況……それなのに、小柄で若くない夕月の体力が限界に差しかかっているのだ。

「夕月さん!頑張って!走らないと追いつかれます!」

「はぁ、はぁ……でもっ……あっ!!」

「夕月さん!!」

なんと間の悪い事に、夕月が転んでしまった。
慌てて助け起こす健介だが、詩月……と言う名の『ウォーリー』が徐々に距離を詰めてくる。

「健介君行って!私はもう助からない!」

「何言ってるんですか!立ってください!今ならまだ……!」

「ダメだよ行って!私が……せめて時間を稼ぐから!ほら行って!」

「夕月さん……!!」

健介は涙をこらえ……そして……
振り返らずに走った。

取り残された夕月が『ウォーリー』の魔手に掛かったのは、健介が見えなくなってからだった。

「ああ、やっぱり夕月さんは僕を裏切らなかった……今度こそ一緒に、本当のウォーリーになりましょう……」

「詩月……」

夕月の純白のタートルネックが赤い横ストライプのシャツへと着替えさせられる。
『ウォーリー』の呪いの、新たなる犠牲者が増えた。



それから数分後、健介は『ウォーリー』によって袋小路に追いつめられてしまった。
今度の『ウォーリー』は詩月ではない。
赤い横ストライプのシャツ、ジーパン、帽子、眼鏡……
少々サイズが合ってないらしく、ぶかぶかの『ウォーリー』ファッションの夕月だ。
何故か大きな絵筆も二刀流に持っている。

「くっ……夕月さんまで……何て格好ですか……」

「健介君もウォーリーになろうよ……楽しいよ?」

「お断りします!」

「じゃあ力づくでなってもらうまで……食らえ!『ストライプ☆ペイント』!!」

夕月が二本の大筆を一振りすると、筆から赤い絵の具が飛び散って、
健介の白いパーカーに赤い横ストライプ模様が浮かび上がる。
自分のお気に入りのパーカーが『ウォーリー』のコスチュームになった事に驚く健介に、夕月が得意気に言う。

「私はウォーリー(詩月)と違って、『ストライプ☆ペイント』で相手を直接着替えさせる事なくウォーリーにする事が出来る。
白い服を着た人限定だけどね。健介君の今日のファッションチョイスに感謝するよ」

「同感です……俺も今日の自分のファッションチョイスに感謝します……よっ!!」

バサッ!!
突然、夕月の視界が何かに遮られた。
慌てて視界を遮っているものを掴むと、それはたった今健介が着ていた『ウォーリーパーカー』だった。
夕月は驚いて前を見る。健介がいない。
後ろを見る。健介が、白のシャツ姿で逃げて行った。

「重ね着してて良かった――!」

走りながら健介が言う。もう、夕月の足では追いつけない。
愕然とする夕月の背後に誰かが立っていた。

「ちょっと……何しくじってるんですかウォーリー(夕月さん)……」

「ウォ(詩)……ウォーリー(詩月)……」

『ウォーリー』と化した詩月が、『ウォーリー』と化した夕月の腕を強引に引っ張る。

「痛っ……!!」

「任務の失敗には厳しい制裁が加えられるんですよ、ウォーリー」

そう言って詩月は夕月の肩を押さえて、近くのコンクリートの壁に叩きつけ、
そしてぶかぶかのジーパンを下着ごと一気にずり下ろした。

「いやっ……!!」

怯える夕月の尻に、詩月は躊躇無く最初の平手を浴びせる。
乾いた音が路地に響き渡り、夕月が悲鳴を上げた。

「痛い!ウォーリー、やめて!」

「黙れ!あんな小僧を取り逃がすなんてウォーリーとして恥ずかしくないのか!」

バシィッ!

「あぁああっ!」

怒声と立ったままのお尻打ち……
未だかつてない苦痛と恐怖に、夕月は体を震わせる。
『ウォーリー』に精神を支配された詩月は、普段のように義叔父を敬愛する優しい甥っ子ではない。
夕月の尻に一回、また一回と、平手を叩きつける。

ビシッ!バシッ!バシィッ!

「やだぁああっ!痛い!いたぃぃ!」

冷たいコンクリートにしがみつきながら、夕月は体を揺すって抵抗する。
しかし抵抗すれば抵抗するほど、体罰は激しくなっていった。
恐ろしい音と共に尻に痛みが走るのだ。絶望的な状況に悲鳴ばかりが大きくなっていく。

「やめてぇぇっ!痛いよぉ!許してぇ!!ひぃぃっ!」

「これは制裁なんですよ!簡単に許されるわけがないでしょう!」

「いやぁぁあ!!」

夕月は打たれるたびにビクビクと体を反応させる。
何度も叩かれて赤くなっているお尻を動かしても、すぐ元の位置に戻されてしまうのだ。
断続的な痛みと逃げられない絶望感に涙が流れる。

「うぇぇっ!痛いよ!痛いよぉ!助けて!」

ビシッ!バシッ!バシィッ!

泣いたところで夕月の痛みは止まない。
ますます強くなるだけだった。
その強い痛みに咽びながら、夕月は心の奥から何か湧き上がってくるのを感じた。

『夕月さん、貴方は僕の家族です』

「ほらほら!ウォーリーの厳しさを思い知りましたか!?次の失敗は死を意味しますよ!?」

同じ声が全く違う事を言う。
一瞬モヤのかかった夕月の頭に、次々と声が響いてくる。

『僕は夕月さんと一緒にいる時間が一番好きです』

『ねぇ、今度はあの風車小屋を描いてみませんか?』

『ゆっ……夕月さん!そんなに急いで食べると喉に詰まっちゃいますよ!』

(全部同じ声……いま、私のお尻を叩いているウォーリーの……でも、とっても優しい声……)

夕月の頭の中のモヤがしだいに晴れていく。
10年前、5年前、つい最近……記憶から呼び起されるのは、いつだって優しくしてくれる甥っ子だ。

『ウォーリー』なんかじゃない、この子は……!!

「詩月!!やめて!!」

激しいお尻叩きの痛みで記憶を取り戻した夕月は、渾身の力で叫んだ。
しかしまだ『ウォーリー』のままの詩月は取り合わない。

「詩月!?僕の事ですか!?僕はウォーリーだ!」

「違う!あぁっ、君は……ウォーリーなんかじゃない!
私の甥っ子の『詩月』だよ!義理だけど……いつも優しくていい子なんだよ!ひぅぅんっ!!」

真っ赤なお尻をビクつかせて、痛みに耐えながらも必死に詩月に訴える夕月。
それでも夕月の想いは届かない。
黒い笑いを浮かべた詩月に無情に叩きつけられる平手がそれを物語っていた。

「世迷言を……その下らない妄想ごとアンタの尻を叩き壊してやろうか!」

「詩月はそんな事言わない!ウォーリーめ!詩月から出ていけ!私の優しい詩月を返せ!」

「おのれ!その妄言をやめろ!」

バシィッ!!

「きぁあああああっ!!うわぁあああんっ!」

限界スレスレのお尻にキツイ一発を叩きこまれ、夕月は甲高い悲鳴を上げた。
耐えきれずに泣きだしてしまったが、詩月に呼びかけるのはやめなかった。

「わぁああああん!詩月を返せ!詩月から出ていけ!ウォーリーのバカァァア!!メガネ野郎――!!」

「バカめ!自分もウォーリーのくせに、ウォーリーを愚弄するとは!」

「私はウォーリーなんかじゃない!詩月もウォーリーなんかじゃないぃっ!」

「貴様まだ言うか!!」

ビシッ!バシッ!バシィッ!

逆上した詩月がますます平手を浴びせてくる。
夕月は泣き叫んでいるけれど、それでも甥っ子を信じて訴え続ける。

「詩月――――!わぁああああん!詩月やめて――――――!!」

涙を流し、声を張り上げて甥っ子の名前を呼び続ける夕月……
真っ赤なお尻は抵抗を止め、今はコンクリートにしがみつくので精いっぱいの小さな中年。
その姿を見続けた詩月にも少しの変化が現れた。

「くっ……!!小うるさいウォーリーめ!」

急に夕月の尻を叩くのを止めた詩月は、夕月に背を向けて歩きだす。
夕月は追いかけようとしたが、ずり下がったズボンに足を取られて地面に倒れてしまった。

「お前はもう使えない!あの小僧は僕一人でウォーリーにしてみせる!」

そう言って去っていこうとする詩月……。夕月が止めようとすると――

「待て!健介君をウォーリーにさせはしない!」

どこからともなく聞こえる声。
突然の乱入者に、詩月が慌てて周りを見回す。

「だ、誰だ!!?」

「名乗るほど者ではない……とぅ!!」

その瞬間、鈍い音がして詩月が倒れる。
そしてそこに、逆光に照らされた体格のいい若い男が立っていた。

「夕月さん……助けが遅くなったな。ウォーリーに囚われたこの青年には軽い打撃を与えておいた。
意識が戻ったと同時に、いつもの彼に戻っていると思う。
もし、まだウォーリーに囚われている様だったら、これを使うんだ」

体格のいい若い男は、夕月に黒いパドルを投げ渡す。
夕月はパドルを受け取って、呆然と男を見つめた。
男は、機敏な動きで挨拶をする様に手を上げる。

「じゃあな夕月さん!俺はまだ、親友と、そいつの弟の安全を確保できてないんでね☆」

「待って!君は誰なの!?私を知ってるんでしょう?!」

「名乗るほど者ではない……けれど、あえて名乗るなら……『お歳暮のハム太郎』……とでも言おうか」

「……伊藤君?」

男は口元に人差し指を立て、踵を返して駆けて行った。
『ウォーリー』の恐怖から一人救われ、一人がもうすぐ救われる。
希望の光が、見え始めた。




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