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緑豊かで平和な住宅街に佇む、まだ新しい一軒家。 この家には楽しい4人家族が住んでいた。 これはそんな楽しい『上倉家』のお話。 リビングダイニングのカーペットの上に座って真剣な表情の幼い男の子。 『レンジャーBOX』と書かれたお菓子の箱をじっと見つめている彼は次男の真由。 その横に座って一緒に箱を覗きこんでいる、真由より少し年上の男の子は長男の大一郎。 真由は緊張の面持ちでお菓子の箱のミシン目を剥がす。 ぺリリリリ…… そして恐る恐る箱の中に手を入れ、中身をゆっくり引きだす。 引き出されたのは……青……青い……!! 「青レンジャー!!!」 真由の叫びが部屋に響き渡る。 ガックリと手をついた真由に、大一郎は悲しそうに首を振る。 これで3体目の青レンジャーだった。 「何でだよ!何でいっつも青レンジャーなんだよ!赤レンジャーがいい――っ!!」 真由が半泣きになってかんしゃくを起こす。 『レンジャーBOX』は今ちびっ子に大人気の『カラフルレンジャー』のフィギュアが入ったお菓子。 とはいえ、お菓子は小さなラムネの袋で、人形がメインの様なもの。 入っているレンジャー人形はランダムで、中を開けるまで何色のレンジャーが入っているかは分からない。 真由は大好きな赤レンジャーを引き当てたいのだが、とにかく引きが悪かった。 ただいま絶賛10連敗中で、赤レンジャー以外のレンジャーはフルコンプ&ダブルorトリプル状態。 それが悔しくて堪らないらしい。どうしても赤レンジャーが当てたいようだ。 「青レンジャー3つもいらない――!赤レンジャ――!!」 きゃんきゃん喚く真由を見て、大一郎がポンと手を打った。 「そうだ真由!いい事考えた!青レンジャーを絵具で赤に塗ればいいじゃん!」 「ダメ――――っ!!」 兄の名案にも真由は涙目で首を振った。 近くのおもちゃ箱をひっくり返し、愛読の『カラフルレンジャー大図鑑』を引っ張ってきて必死で指さす。 「赤レンジャーと青レンジャーは違うの!!目のトコとか、頭とか光るトコとか違うの!」 「あ、本当だ」 確かに真由の絵本によると、赤レンジャーと青レンジャーは頭部のヘルメットの装飾や 胸の飾りの形が違う。青レンジャーの色だけ変えても、赤レンジャ―にならないようだ。 興奮泣きしている真由は、くるっと向きを変えて走って、後ろのキッチンで料理をしていた母親の腰に縋りつく。 「おかぁさん!レンジャーぼっくす、もう1個買って!もう1個買ってぇぇっ!」 「ダメよ。今日は1個って言ったでしょ?」 ゆったりとしたTシャツとスカートの若い母親は、真由のかんしゃくをさらりと弾いた。 上倉母は、あまりオモチャをぽんぽん買い与える方ではないので、この『レンジャーBOX』も 一日一個の約束付き。真由はせいぜい、週に3個ほどしか買ってもらえない。 だが真由は諦めずに、泣きながら必死に母親のスカートを引っ張る。 「買ってぇ!赤レンジャ――!買ってぇぇ!!」 「ダーメ。1日1個の約束でしょ?ワガママ言うともう買わないわよ?」 「やだぁぁぁ!買ってぇ!赤レンジャ―買ってぇ!もう1個買ってぇぇぇ!」 「真由、お母さん包丁使ってるから、危ないから向こう行きなさい。スカート引っ張らないで」 「やぁぁぁぁぁっ!赤レンジャ――!!赤レンジャ――欲しぃぃ……ふゃっ!?」 ずるっ!! 真由が急にバランスを崩す。ずり落ちたスカートに引っ張られたようだ。 おかげで、可愛い奥様の豊満なお尻が露わになった。しかも今日の下着は情熱的なTバック。 床にへたり込んで、呆然とスカートを握っている真由。 真由と母親の攻防を見つめていた大一郎も思わず目を丸くする。 そして母親は動かない。そんな一瞬の沈黙。 「うわぁ……母さんのパンツ……すげぇエロい……」 大一郎の言葉に背中でピクリと反応する母親。 「おしりおっきい……」 真由の言葉には勢いよく振り向いて反応する母親。 「真由ちゃ〜〜ん?お母さんのお尻見たんだから、真由ちゃんのお尻も見せてくれるよねぇ〜〜?」 「や……やだ……」 真由は青い顔で首を振る。しかし、包丁を置いた母親の動きは俊敏かつ大胆だった。 「見せなさい!お母さんがペンペンしてあげるから!!」 「やだぁぁあああっ!!」 逃げようとする真由だが、あっという間につかまって小さな半ズボンも下着も下ろされてしまう。 母親の膝に腹這いにさせられて、小さな幼いお尻を容赦なく叩かれた。 ぺしん!ぺしん!ぺしん! 「やぁぁああ!お母さん痛い!やだよ!やだぁぁ!」 「イヤじゃないの!ワガママ言う子はお尻ペンペンです!」 痛がって泣き喚く真由にも母親は手を緩めない。何度も何度も叩く。 ぺしん!ぺしん!ぺしん! 「お母さん痛いぃ!痛いよぉ!うわぁぁああん!おにぃ助けてぇぇ!!」 「いやいや、俺が鬼軍曹に勝てるわけ無いだろ?」 「誰が鬼軍曹よ!!」 ぺちぃぃん!! 「ふゃああああっ!オレ言ってないぃぃぃっ!」 「ワガママばっかり言ってこの子は!どうしてオモチャ散らかしたら片付けないの!」 「ごめんなさぁぁぁい!!うわぁぁあああん!」 兄の失言やら、さっきオモチャ箱をひっくり返した時に散乱したオモチャのせいで 余計に叩かれるハメになる真由。柔らかい皮膚はすぐに赤みを帯びてくる。 「やだぁぁぁ!もうしません――!お母さんごめんなさぁぁぁい!」 「ダメよ!今日は100叩くまで許しませんから!」 「うわぁぁああん!100やだぁぁぁっ!ごめんなさいぃぃ!!」 真由は泣きながら必死に足をばたつかせている。 それでも許してもらえないようだ。 ぺしん!ぺしん!ぺしん! 「うわぁあああん!痛いよぉぉぉ!ごめんなさいぃ!もうやだぁぁぁ!」 ぺしん!ぺしん!ぺしん! 「ふぇぇぇっ!痛いぃぃ!お母さん痛いぃぃ!!」 「痛かったら反省しなさい!」 「うわぁぁああああん!!」 どれだけ暴れても泣いても母親に叩かれる真由。 そろそろ傍で見ている大一郎が気の毒に感じてくる叩かれっぷり……の、そんな時。 「お!可愛いお尻発見〜〜♪」 明るい声と共に、ゴルフバックを持った男性がリビングダイニングに入ってくる。 「お父さん助けてぇぇぇ!!」 真由がここぞとばかりに声を張り上げる。男性……いや、真由と大一郎の父親は明るく笑った。 「あはは!助けるかどうかは、真由がいい子だったかどうか聞いてからだな! 何してママを怒らせたんだ〜〜真由?ん?」 「ふぇぇ!赤レンジャ―ほしかったのぉ!買ってって言ったのにぃ!」 「お??」 舌足らずな真由に代わって、大一郎が説明した。 「真由がまたハズレ引いたんだよ。だから、もう1個買って欲しいって泣いて。 そんで母さんのスカート引っ張ったらスカートが脱げて、母さんのエロパンツが見えて、母さんが怒った」 「エロパンツか!そいつはいいなぁ!」 「アナタ!!茶化さないで!真由ったらワガママ言うし、オモチャは片付けないし、私のお尻大きいって言ったのよ!」 「あ、やっぱそこ気にしてたんだ……」 大一郎の冷静な一言に、父親はまた笑う。 「あはははは!いいじゃないか真弥!大きなお尻はどっかの外国じゃ、美人の象徴だって言うし! 僕も君のそんな魅惑のビックヒップに惚れこんだ男の一人さ!」 「なっ……何言ってるのよ一郎さん!子供の前で!」 「まぁまぁ、聞いてくれよ!君のセクシーなお尻に比べて、真由のお尻は真っ赤で可哀想じゃないか。 そろそろ許してあげたらどう?」 「でも……」 「分かった、そんなに言うなら。続きは僕がやるよ」 「え?」 「よ――し、真由いっくぞ〜〜!」 父親が母親の膝からひょいと真由を抱き上げる。 「ちょっと……アナタ!?」 「うわぁああああん!やだぁぁぁあ!お父さんごめんなさいぃぃ!」 動揺する妻や泣き喚く息子を気にも留めず、父親は手を振り上げて…… 「い――――ち!」 威勢のいい掛け声と共に、思いっきり真由のお尻に振り下ろす。 ぴしゃん! 「ひっ!!?」 一瞬息を飲んだ真由が、遅れて泣き喚いた。 「ふぁあああああんっ!いやぁああああっ!!」 「に――――い!」 ぴしゃん! 「ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいぃぃ!あぁああああん!」 「さ――――ん!」 ぴしゃん! 「やぁぁああだぁぁぁああ!ごめんなさぁぁぁい!」 お尻全体を真っ赤にした真由が、足も髪も振り乱して泣く様子に、 さっきまで叩いていた母親がオロオロしていた。 「ちょっとアナタ……!やり過ぎよ!もういいわ!」 「そうかい?ママが終わっていいってさ真由!やったぁ〜〜!」 「ひっく……うぇぇぇっ……!!」 父親がそっと真由を地面に下ろすと、真由は真っ赤なお尻でしゃくりあげて泣いていた。 父親はそんな息子に向かって両手を広げる。 「痛かったな真由……パパの胸で泣いてもいいん……」 「うわぁああああん!おにぃぃぃぃっ!!」 真由は兄の大一郎の胸に飛び込んでいた。父親は息子のために広げた両手で、自分を抱きしめる。 「僕は父親の役目を果たしたよ……グッジョブ、一郎……!マイライフ……!」 「それ虚しくならない?」 妻の一言に、少し涙の滲んだ父親だった。 それからしばらくして、真由は泣き疲れてその場で眠ってしまった。タオルケットがかけられている。 母親はまたキッチンで料理をして、父親と大一郎は真由の寝顔を見ていたが、 ふいに大一郎が立ち上がる。 「ちょっと出かけてくる」 「え?どこ行くの大一郎?」 「『レンジャーBOX』、大人買いしてくる」 「えっ!?」 さらりとそう言った上の息子に、母親は驚いて振り向く。 「大人買いって大一郎……どういうつもり?」 「たくさん買えば赤レンジャ―、当たるだろ?真由は今まで、ちゃんと1日1個で我慢して、 それでも当たらなくて、今日はお尻も叩かれて、そろそろ赤レンジャ―買ってやっても罰は当たらないと思うんだ」 「そんな事言っても……貴方のお小遣いから買うの?大一郎だって欲しい物あるでしょ?」 「俺、真由のためにお金使うのが趣味みたいなとこあるから……」 「小学生がそんな孫を持つお年寄りみたいな事でいいの!?」 母親の渾身のツッコミに、大一郎は柔らかく笑った。 「いいんだ。真由が幸せなら、俺は何も要らない」 「大一郎……」 母親がしんみりと大一郎を見つめる。すると、父親が勢いよく立ちあがった。 「よく言った大一郎!!パパも、今週のビールを我慢して赤レンジャ―ゲットに協力するぞ!」 「アナタまで!?も、もう!!どうして皆して真由を甘やかすの!?」 「だって真由可愛いも〜〜ん!」 「パパも真由可愛いも〜〜ん!」 そうおどけながら、大一郎と父親はさっさと玄関に向かっていく。母親は堪らず叫んだ。 「二人とも待ちなさい!!」 父親と大一郎が母親を見る。母親は、少し照れ気味に言った。 「……お母さんの財布からも……いくらか持っていきなさい……」 父と上の息子は、顔を見合わせて笑った。 そうして、二人はスーパーの袋を『レンジャーBOX』でいっぱいにして帰ってきた。 リビングダイニングには、まだ真由が寝息を立てている。 「よしよし、真由はまだ寝てるな?」 大一郎がサッと一つの箱を取り出す。父親が興味津々で上の息子を見つめる。 「どうするんだ大一郎??」 「普通に開けて赤レンジャー人形だけを渡したら、真由だって嬉しさ半減だろ? この箱を底から開けて、中身を見て、赤レンジャ―なら元に戻して底を綺麗に閉じておく。 そうすれば真由は、赤レンジャーを『引き当て』られる」 「すごい!いいなそれ!そういう事ならパパがさっそく……」 「あ、父さんは不器用だからやめて。ラムネ食べながら見てていいよ」 「……小学生の息子に最初から役立たず扱いされる僕って……」 「っと、これは緑レンジャーか……はい、ラムネあげる」 父親がちょっとしたショックを受けている間にも、大一郎は器用に底から箱を開けて中身を確認していく。 その横で父親はポリポリとラムネをかじる。 すると3つほど開けたところで…… 「「赤レンジャ―!!」」 父親と大一郎の顔が喜びに輝いた。 「やった!やったぞ大一郎!」 「全く……真由がどれだけ引きが悪いかって話だよ!」 大一郎は嬉しそうに赤レンジャーを元に戻して底をテープで閉じた。 器用な大一郎らしく、底は綺麗に閉じられている。上から見れば完璧な新品だ。 作戦が成功したところに、キッチンから母親が寄ってきた。 「ねぇねぇ、赤レンジャ―当たったの?」 「バッチリ!これ、真由に渡すから。父さんも母さんも、 大人買いした事は真由に内緒だからね?これは『奇跡の1個』!」 「よしきた!」 「分かったわ!……って、余った分はどうするの?」 「父さんが会社で配る」 「僕!?ま、まぁいいか……皆が『レンジャー係長』って呼んでくれるだろう……」 「ぷっ、カッコいいあだ名じゃない……!」 3人は誰ともなく吹き出して笑い合って、真由が寝がえりを打ったので皆で慌てたのだった。 そうして真由の目が覚めた時、大一郎が予定通り真由に『レンジャーBOX』を手渡す。 真由は驚いて、言葉もなく大一郎を見つめる。 大一郎はそんな弟を優しく撫でて言った。 「母さんが、もう1つだけ買ってくれたんだ。ありがとうって言っておいで」 「……!!」 真由はすごく嬉しそうにキッチンの母親に駆け寄って行く。 「お母さん!お母さんありがとう!大好き!」 「それが赤レンジャ―じゃなくても、もう今日は買わないからね?早く開けてみなさい」 真由の方を振り向いた母親が笑顔でそう言うと、真由は「うん!」と、元気よく頷いた。 そして兄の所へ戻って行って、緊張の面持ちでお菓子の箱のミシン目を剥がす。 ぺリリリリ…… 恐る恐る箱の中に手を入れ、中身をゆっくり引きだす。 引き出されたのは……!! 「……あ……赤レンジャー!!!」 真由は顔をキラキラさせて、大はしゃぎで兄に赤レンジャーの人形を見せた。 「おにぃ!赤レンジャ―!見て!赤レンジャ―!赤レンジャ―当たった!!」 「良かったな真由!」 「やったぁ――!赤レンジャ――!お母さん見て――!赤レンジャ――!!」 真由ははしゃぎまわって、母親にも赤レンジャーを見せに走った。 「良かったわねぇ真由」 「うん!おにぃ――!この赤レンジャーで、レンジャ―ごっこして遊ぼ――――!オレ赤レンジャ――!!」 今度はまた大一郎の方へ走って行く。 行ったり来たりで大忙しの真由を母親はほほ笑ましく見ていた。 大一郎も、輝くような笑顔の弟を見て満足そうだ。誘われた人形ごっこにもノリノリで付き合う。 「じゃ、俺はピンクレンジャーになろうかな」 「ダメ!おにぃは青レンジャー!ピンクはお母さん!」 「母さんも誘うのか?」 「うん!ご飯終わったらお母さん、ピンクレンジャー!」 ニコニコしている真由。そこへ(余りの『レンジャーBOX』を隠し終えた)父親が乱入する。 「よぉぉぉし!なら、パパは緑レンジャーだ!」 「違う!お父さんは怪獣!」 「えぇえええっ!?敵!?パパは敵!?」 「諦めなよ父さん。父親の宿命だから。はい、これ持って」 大一郎に怪獣の人形を渡された父親は、それでもノリノリで怪獣を演じていた。 真由は楽しそうに赤レンジャーを熱演して、大一郎演じる青レンジャーと、華麗に敵を倒していた。 夕食後は母親もピンクレンジャーを演じてくれて…… その日は真由が眠るまで、家族全員で楽しく『カラフルレンジャー人形ごっこ』を繰り広げた。 |
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