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門屋君の事もたまには応援してあげ…なくていい(笑)




町で噂の大富豪、廟堂院家。
この屋敷の執事部隊の一員、門屋 準(かどや じゅん)。
門屋準には最近悩みがあった。
(あぁ〜〜、ヘタレ鷹森と小二郎の仲をどうにか邪魔できないだろうか……)
門屋のアイドル的存在、メイドの小二郎とヘタレの後輩、鷹森がいい感じに関係を進めている事がその悩み。
二人とも奥手なのでまだ付き合ってはいないものの、そうなるのも時間の問題だと門屋は思う。
なんせ二人のバックには最強の仲人がいるのだから。
(上倉さん……くそ、あの人が俺の味方なら……)
門屋にとって一番の壁……小二郎の兄で執事長の上倉 大一郎の存在。
鷹森は何故か上倉に気に入られていて、積極的に小二郎との仲を取り持たれている。
なので、門屋が下手に鷹森をいじめて邪魔しようものなら即座に“お仕置き”と言う名の鉄拳制裁が下る。
執事長に目を付けられるのは門屋の執事生活にとってもいい事ではない。
邪魔な鷹森を潰したいけど、執事長のお仕置きは避けたい……このジレンマに動けずにいた。
しかし今日、廊下のど真ん中で門屋は思いついたのだ。
(待てよ……鷹森を潰すより先に、上倉さんを俺の味方に取り込んだ方が早くね?)
突然のひらめき……門屋はみるみる頭のなかに神々しい光が差すのを感じる。
(そうだ!上倉さんとこは兄妹仲がいい!上倉さんにさえ認められれば、小二郎とラブラブになる権利は貰ったも同然!
小二郎も兄の認めた相手なら警戒しなくなる!よし、じゃあ上倉さんと仲良くなるには……)
門屋は頭をフル回転。今日の門屋は冴えていた。名案がすぐに浮かぶ。
(……上倉さんの性癖!これを利用して仲良くなれば!
俺がドSになって、上倉さんのM心をくすぐって一気にお気に入り……!これは完璧な作戦だ!)
まさに恋愛の女神が味方しているような錯覚!
門屋は完璧な作戦を持って走りだした。
そして早速ターゲットを発見。
(いた……!上倉さん!)
門屋はターゲットに猛突進して、わざと強く肩をぶつける。
「おっと……大丈夫ですか?」
上倉にそう尋ねられ、門屋はほくそ笑んだ。
今こそ完璧な作戦を……実行するとき!
「ってぇな……」
舌打ち混じりにそう言って、上倉の方にふんぞりかえる。
高圧的な角度よし!見下し目線よし!冷たいボイス発射準備よし!
と確認したところで張り切って言い放った。
「とりあえず下座れや。このサンドバッグ」
名付けて、【ぼくがかんがえたかっこいいドS】作戦。の
直後、凍る空気。
門屋はワクワクしながら上倉の反応を待った……が。
「門屋君、貴方……どれだけお仕置きされたら気が済むんでしょうね?」
「れ?」
上倉はこめかみに青筋を立てた作り笑顔。
予想外の反応に呆然とするヒマもなく、門屋は上倉に腕を引かれて連行された。



「いたぁぁあああっ!違うんです!違うんです!誤解です〜〜!!」
屋敷内の空き部屋で、両手首をまとめて自身のアスコットタイで縛られた状態で
ベッドの上でお尻だけ突き出した形になっている門屋。
ズボンも下着も付けていないそのお尻に、思いっきりパドルを振るわれていた。
「誤解?私に堂々と“土下座しろサンドバッグ”だなんて言っておいてどう言い訳するんですかねぇ?
面白そうだから一応聞きましょうか?君の苦しい言い訳を」
シパァンッ!パンッ!パンッ!
「あぁああっ!痛い!痛いごめんなさい!ち、違うんですって、だからぁ〜〜!
俺がドSになれば、上倉さんと仲良くできるかと思ってぇっ!!」
「あぁ〜〜、そうですか。へぇ……下手な上に全く面白みのない言い訳ですね。
もっとお尻を突き出しなさい」
「違います!本当なんです〜〜っ!!」
門屋は半泣きになりつつ叫ぶ。
けれども、強めのパドル打ちは緩む気配もない。
パンッ!パンッ!パンッ!
「ひぇぇっ!ごめんなさい上倉さん!でも本当なんです!信じてください!あと痛いです――――っ!」
「痛いのは当たり前でしょう。私はこれでも執事長なんですから、口のきき方は考えてもらわないと困りますよ」
「ごめんなさい!ごめんなさい!だ、だって俺、本当に上倉さんと仲良くなりたくってぇ……!!」
「そんな事言って……」
パンッ!パンッ!パシィッ!
「ひぁぁぁぁっ!」
ますます激しく打ちすえられて、門屋は大きな悲鳴を上げる。
無意識のうちに涙も出てきた。言葉がまともに紡げなくなる。
「うぇぇっ、ごめっ……なさっ、う、あぁっ……!」
「よく聞きなさいね門屋君?」
乱暴に髪を掴まれ後ろに引っ張られた。
無理やり上を向かされた顔の耳元で囁かれる。
「私は貴方が大嫌いです。これからもずっ――と。それを、仲良くなりたいだなんて図々しい。
まさか貴方、ご自分が何をしたかお忘れじゃないでしょうね?
金も払わない、ド素人の、大嫌いな相手の、言葉責めに興奮してやるほど安くないですよ私は。
もっと小マシな作戦考えて出直してらっしゃいな?」
「ふぇぇぇっ……そうしますぅぅっ……!!」
恐怖と混乱の為、言われるがまま返事をする門屋を見て、上倉はクスクスと笑う。
「まぁ今日のところは……おバカ過ぎる作戦で上司に暴言を吐いた分、
きっちりお仕置きして差し上げますからね。もうしばらく泣き叫んでください」
「やだぁぁっ!ごめんなさぃぃぃっ!」
「悪い子に拒否権なんてありません!」
パンッ!パンッ!パンッ!
「うわぁあああん!ごめんなさい!もうしません!もうしません〜〜!!」
お尻はすでに真っ赤になっていた。
そこへ変わらず何度も何度もパドルを叩きこまれ、門屋は子供のように泣き叫んで……
泣くのも辛くなってきた頃にようやく許してもらえたのだった。
「うぇっ、ぐすっ……ごめんな、さっ……ひっく……!」
「さて、今日はこのくらいでいいでしょう。じゃあ門屋君、私が戻ってくるまで
お尻は出したままその辺に立っててください。気が向いたら戻ってきますから」
門屋の手首のアスコットタイだけほどき、そう言い捨てた上倉は部屋を出ていってしまった。
仕方なく門屋は啜り泣きながら言われたとおり立っていた。



それから数十分。
お尻は痛むものの、精神的には少し落ち着いてきた門屋。
(……足だりぃ……)
と、一瞬の気の緩みに簡単に負けた。
「は――ぁ、真面目に立ってるなんてやめやめ!どっこいせっと!」
何のためらいもなく、盛大に足を投げ出してベッドに座る。
反動でお尻が痛くなって顔をしかめたが、それも一瞬の事。
ぼーっと天井を見上げて物思いに耽る。
(俺……やっぱ上倉さんに嫌われてんなぁ……仕方ないけど……)
そう思うと、ズキリと胸が痛んだ。
『まさか貴方、ご自分が何をしたかお忘れじゃないでしょうね?』
その言葉が重くのしかかった。
嫌でも思い出すのは小二郎の顔。酷く傷ついたような顔と涙、走り去って行く背中。
伸ばした手は届かなかった。同じ執事服を着ていたお互いの距離が一気に遠くなったあの瞬間。
(それでも……オレは、小二郎が好きだ!この気持ちだけは誰にも負けない!
鷹森にだって、絶対!!だから小二郎は俺が、守るんだ……!)
握ったシーツはぐしゃっと歪む。
例え、上倉には認められなくても……門屋の意志は固かった。


と、ふいに扉が開く。
戻ってきた上倉と目が合った瞬間……
「門屋君……?誰がベッドに座って待っていなさいと言いました?」
「ぎゃぁあああっ!ごごごごめんなさい!ごめんなさい!」
「もう一度、最初からやり直しの様ですね……」
「ひぃぃぃっ!!お許しを――――っ!」
上倉に腕を引っ張られて立たされ、門屋はパニックに陥って思わず叫んだ。
「お、俺っ、上倉さんに本当に嫌われてるんですね!!」
「当たり前でしょう」
「うわぁあああん!!酷いです上倉さぁぁぁん!!」
振り出しに戻ってお尻が死ぬほど痛くなる事を確信して門屋は泣いてしまった。
このまま問答無用で叩かれるかと思ったが、意外にも上倉は困った顔をする。
そして何を思ったか、門屋の頭だけ片手で引き寄せた。まるで軽く抱きしめるように。
「よく聞きなさいね門屋君?」
トラウマデジャヴ。しかし次の言葉はさっきみたいに辛辣ではなかった。
「小二郎の兄としては、貴方が大嫌いです。
けれど、執事長としてみれば……貴方はやんちゃで捻くれててどうしようもない……割に
明るくて面倒見もいい、何だか憎めない子なんです。さっきは少し言い過ぎました。
……あまり“兄さん”を困らせないでください」
「あ……!!」
上倉の言葉を聞いて、門屋の涙の意味が変わった。
そして次々と溢れてくる。
「か、か、上倉さぁん……!!」
「情けない声を出さないで。今回は特別に平手で許してあげますから、
さっきと同じようにお尻を突き出しなさい」
「はい!!」
門屋は生き生きとしながらお尻を突き出す。
その姿に上倉は思わず笑ってしまうのだった。



そして明くる日。
屋敷の廊下には最高に自信に満ち溢れた門屋の姿があった。
(上倉さんに認められた……!これで小二郎は俺とラブラブになったも同然だ!!)
上機嫌で廊下を歩く門屋はちょうど宿敵・鷹森を見つけて
今日はためらう事もなく、堂々とちょっかいをかけにいく。
「おぉっとぉ??これはこれは、『執事部隊こいつ絶対童貞だろランキング』第1位の
鷹森絢音君じゃないですか〜〜??」
「えぇえええっ!!?何なんですかそのランキングいつの間に!?
や、やめてください!!そんな事、大声で言わないでください〜〜〜〜っ!!」
気弱な後輩は真っ赤になって叫ぶが、門屋は気にせず軽くあしらう。
「まぁまぁ、図星なのは分かるけど落ち着けって。
俺昨日さ、上倉さんと急激に仲良くなっちゃって??もう“弟”も同然なわけよ!
分かるか?小二郎との仲を認められたんだよ!ま、お前は一生童貞ってコト。ざまぁみやがれ!」
「…………」
鷹森はしばらくキョトンとして、そして笑顔で言った。
「あ……門屋さん、上倉さんと仲良くなったんですね?
何だか二人ってずっとギクシャクして見えたから心配だったんです。
良かったですね、門屋さん!」
「なっ……!!」
何の他意もなく、純粋に喜んでいる鷹森を見て、門屋は反応に困り……
「くっ……ちょっと上倉さんに気に入られてるからって調子のんなよバ――――カ!
お前なんて俺の敵じゃね―んだよ!バーカバーカ!ああ腹立つ!お前ちょっと顔貸せや!」
「え?えぇ?門屋さん??痛たたたたた!!」
鷹森のほっぺたを思いっきり左右に引っ張る門屋。
しかし、そこにはお約束の難関が待ち構えていて……
「門屋君……もう貴方、明日からズボン穿かずに仕事しましょうか?」
「あ、兄さん!いやぁ、鷹森が調子乗るからヤキいれてやろうと……」
「貴方も十分調子に乗り過ぎです」
言いながら、上倉に素早く装備されるパドル。
「え?何で?あ、ちょっ……ごめんなさい!わぁぁっ!」
服の上から5、6発お尻を叩かれた門屋。
恥ずかしくなって「覚えてろ―!」と叫びながらその場を走り去る門屋。
こんな門屋に幸あれ。




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【作品番号 BSS8】

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