TOP小説
戻る 進む
家政様なら余裕で救える!
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


田中温人(たなか はると)、27歳。
かつて執事を目指して執事学校を受験するも、滑り止め含め全落ちした彼は、
やっとこさ使用人学校には入れたものの、卒業後は一般企業に就職。
彼には執事の才能は無かったのだろうか?否!
自分の中に眠る才能に揺り動かされ、再び執事を目指そうと母校の就職支援を受けた彼は……
恐るべき家政夫の才能を開花させようとしていた!!
そして、一般の執事にとっても名誉ある就職場所である和風名家“皇極園家”において、
その才能は開花宣言を迎える!!

「えっ、ちょっと待って!何で!?や、やだ、先生嘘でしょ!?裏切っ、あっ、やだっ嫌だ!!
嫌だ離して嫌だ!嫌だぁああああ!!ぎゃぁああああっ!!」

両脇を医師に固められ、喚き散らす皇極園家長子、華威を“検査室”の自動ドアの向こうへ
見送った温人は、華威の主治医と握手を交わしていた。
「ご協力感謝します」
温人が言うと、主治医は涙を浮かべてゆるゆると首を振る。
「お礼を言うのは私の方です。私が温い同情と怠惰と、臆病さで踏み込めなかった正しい選択に、
貴方が背中を押してくださった。ありがとうございます。私も彼も、これで罪を償って楽になれる……」
そんな主治医の震える手を、温人はしっかり握り慰める。
主治医はその日、皇極園家へ辞表を提出したらしい。


さて、温人が解散したその後――
皇極園家では“何の病気や異常も見られない=完璧な健康体”である華威の
診断書を見せられて驚愕する弟、依月の姿があった。
「そんな……これは、どういう……!!」
「い、依月……」
「華威兄さん……本当に、私達を、騙して……??」
途切れ途切れに言葉を紡ぎ、泣きそうになっている依月。
そんな依月に、華威は青ざめつつも縋る。
「ご、ごめん……騙すつもりなんて無かった……!!ただ、ただ……!
僕は重荷だったんだ……!皇極園家の当主代わりとしての重圧が!!
本当に耐えられなかった!だからっ……!依月……優しい依月なら分かってくれるよね!?
僕の苦しみを、分かってくれるよね!?許してくれるよね!?」
「ッ!!」
必死に言い募る華威の、その手は大きく振り払われる。
その後すぐに診断書を投げつけられ、「ぁっ!」と小さく悲鳴を上げる華威。
そんな兄に、依月は冷たい表情を向ける。
「今まで私や雪臣に散々心配かけて、すべて押し付けて、貴方がしていた事はダラダラと惰眠を貪って遊ぶ事だけ……。
か弱い花の目に余る様な横暴は、“病気”だったから許されたんです……それが全て嘘だったなんて……
私の敬愛する兄が、そんな、クズ野郎だなんて耐えられない……絶対、認められません……!!」
厳しい言葉に怯える華威に、依月はうっすらと笑いながらどんどん言葉を重ねる。
「貴方には、“再教育”が必要のようですね華威兄さん?いいえ、華威?
皇極園家の重圧に耐えられないのならどうぞ、解放されてください。
貴方が反省できるまでの間、貴方を私と雪臣の弟……皇極園家の末弟として扱います」
「は……??」
「いいですか?許されたかったら、私や雪臣の言う事を良く聞いて、いい子にするんですよ?
とりあえず……今まで悪い子だった分は、これから毎日朝と夕方に50回ぐらいずつ
お尻叩きのお仕置きをしますからそのつもりで」
「何言ってるの……?」
「あぁ、そうですよね足りませんか?なら、思い切って100回……」
「足りないなんて言ってない!!って、いうか何?!全部冗談でしょ!?
も、もう……どうしたの?!優しい依月が、僕にそんな事言うなんて、らしくない……」
「依月……??」
焦って笑う華威に、依月の表情は真剣なままだった。
むしろ、怒っている方に近い。華威を叱る様に言う。
「今しがた説明したばかりなのに、お前は自分の立場が分かってないんですか?」
「お、お前って……」
「兄を呼び捨てにするのをやめなさい」
「ねぇ、依月……もう、やめてよ……」
「……はぁ。こんな初歩的な所でつまづくなんて、長い教育期間になりそうですね……。
出来の悪い弟を持つと苦労します」
「い、つ……」
「黙りなさい!こっちへ来て!!」
怒鳴りつけられると同時に、ぐっと腕を引かれて膝の上へ引き倒される。
依月の、弟の膝の上に勢いよくダイビングしてしまった華威は
「うわっ!?依月!やめて!!」
とっさにこれから何をされるか理解して、心から願って叫ぶ。
けれどもちろん、もう遅いし叶うはずもない。
着物の裾を捲られて、裸のお尻を叩かれてしまう。
バシッ!!
「ひゃっ!?い、た……」
ビシッ!バシッ!バシィッ!
「痛い!痛い痛い痛い!!やめて依月ぃっ!!」
「兄を呼び捨てにするのをやめなさいと!さっきから言ってるでしょう!?
言われたこともきちんとできないんですかお前は!?
それとも、わざと反抗してるんですか!?」
バシィッ!ビシッ!バシッ!!
「いたいヤダやめてぇぇっ!何でもするからぁぁっ!!」
依月に叱られながら激しく叩かれて、華威はすぐに悲鳴を上げて降伏する。
今までダラダラ寝て遊んでいた華威には、弟に抵抗できる力も無かったし、
甘やかされまくっていたので叱られる事にも痛みにも弱かった。
そんな虚弱な華威に、依月は叱ってお尻を叩き続ける。
「“何でもする”なんて大それた事を言う前に、いい子になさい!
悪い事をしたら何て言うんですか!?兄を呼ぶ時は!?
お前は“昔”、一応は兄をやってたんだから分かるでしょう!?」
バシッ!ビシッ!バシィッ!!
「いっ、ごめんなさい!あぁあああ!!依月兄さんごめんなさぁぁい!痛いもうやだぁぁっ!」
「このくらいで音を上げて情けない!夕方にまた50……100回お仕置きするんですよ!」
「うわぁああん!いやだぁあああ!!」
「“何でもする”とまで言ったばかりで……慣れるようにもっとお尻を叩きましょうか!?」
「あぁあああやだちゃんとしますぅぅぅっ!!」
華威が叫ぶと、この場はあっさりと許してもらえたが。
膝から下ろされ、痛いのと羞恥で半泣きになっている所に
追い打ちをかけるがごとく、依月がまた厳しい表情で言う。
「夕方のお仕置きの時にまた声をかけます。今日は好きに休んでいいですよ。
けれど、明日からはお前にもできるような仕事を用意しますから。
今までのように遊んで暮らせませんからね?朝も7時に起きる事。だから夜更かしもしないように」
「うっ、う……!!」
「返事は?!」
「ハイぃっ!分かりましたぁぁっ……!!」
「では、また夕方に。
……華威、今までは下着を穿いて欲しいと思っていましたが……お仕置きの時に手間が省けますから、
“再教育”が終わるまでは、そのまま穿かなくてもいいですよ?」
依月が強く戸を閉めて出ていってしまうと……
「うっ……うわぁあああああっ!!」
華威は一人泣き叫び続けた。


そして、夕方のお仕置きは酷い方の予告通り100叩きだった訳だが……
「好きに休んでいなさいとは言ったけど、騒いでいいとは言ってません!!
あんなにうるさくして!雪臣の勉強の邪魔になったらどうするんですか!?」
「うわぁあああん!ごめんなさい!ごめんなさい痛いぃっ!」
ビシッ!バシィッ!!バシッ!!
泣いていただけなのに怒られ、叩かれたばかりのお尻に二回目のお仕置きはキツくて……
それでも泣いて騒いで許してもらえずに叩かれ通した。
「うわぁああん!もうダメ!もうダメぇぇっ!痛い痛い!やだぁぁあっ!!」
「大人しくしなさい!!雪臣に、飲み物を持って行って謝るんですよ!?」
バシッ!バシィッ!ビシッ!!
「うわぁああああん!!」
「返事!!」
バシッ!!
「はいぃぃっ!!あぁあああん!!」
こうして、お尻100叩きのお仕置きが終わった華威は……
依月の言いつけどおりに雪臣に飲み物を持って行く。


「雪臣!ど、どう!?勉強捗ってる??差し入れ持ってきたよ〜!」
雪臣の部屋に来て、フレンドリーに話しかける華威。
しかし……
「ありがとう、華威。けれど兄を呼び捨てにするのは感心しませんね……」
「……は?」
「貴方は今日から僕の弟でしょ?」
無表情の幼い末弟からも“弟”扱いをされてしまい、
華威は屈辱のあまり依月の時とは違い、勢いよく雪臣の胸倉を掴む。
「ふざけるなよ!!」
「っ!!」
「依月だけならともかく、お前にまでそんな扱いされる筋合いは無い!!
小さくて弱いお前になら力で勝てるんだから、痛い目に遭いたく無かったら
二度と僕に舐めた口きくな……!それとも、今から遭わせてやろうか?」
華威の脅しに雪臣は怯えた様子も無く、一拍黙った後口を開いた。
「……そうですね、僕はまだ小さいし、きっと貴方より弱い。本当に残念です……」
雪臣は華威の手をそっと掴んだまま、華威の目をじっと見つめる。
「もっと背が高ければ、もっと体が大きければ、力が強ければ、大人だったら……
依月兄さんのように貴方をお仕置きする事が出来たかもしれないのに……」
「!!」
「僕は依月兄さんを裏切って弄び続けた貴方を許さない!
これは当然の報いだ!お仕置きされまくって魂まで入れ替えろクズ男!!」
「お前ッ!!」
「華威!」
雪臣と睨み合っていた華威は、後ろから依月に大声で呼ばれてビクついた。
依月は怒っているわけではない様で、今までよりは優しげに言う。
「いつまでもそこにいないで。雪臣の勉強の邪魔になるでしょう?」
「あ、うん……出るよ……」
「依月兄さん」
部屋を出ていきかけた華威や依月を止めたのは雪臣だった。
彼が至極冷静に言った
「華威が“舐めた口きくと痛い目に遭わせるぞ”って脅してきて怖いんですけど」
その一言で状況が一変する。
「……華威?」
「雪臣っ……雪臣ぃぃいいいっ!!」
「こら!!言ったはずですお前は“末弟”だと!!
よくも雪臣を呼び捨てにしてる上にそんな暴言を……!
今日一日で何度お仕置きすれば自分の立場を弁えるんですか!?」
依月はさっそく華威を捕まえてお仕置きしようとしている。
着物を捲られて雪臣の方を向けて、まだ赤いお尻を突き出すような格好にさせられて……
華威は羞恥と恐怖で叫ぶ。
「うわぁああああ!やだごめんなさいごめんなさぁぁい!!」
「謝るのは雪臣にです!いい機会だから反省してるところを見てもらいなさい!」
バシィッ!!
「うわぁあああん!!もうやめて!お願いやめてぇぇっ!」
「悪い子が甘ったれるんじゃありません!!早く謝りなさい!!」
バシィッ!ビシッ!バシィッ!!
雪臣に見せつけるように赤いお尻を叩かれ、
華威は恥ずかしさで頭の中がぐちゃぐちゃになりながらも、痛みには勝てずに謝った。
「っ、あぁあああん!雪臣、兄さんごめんなさい!もうしない!
言わないからぁぁッ!!ごめんなさい!あぁあああ!」
「これは雪臣からのお仕置きだと思いなさい!
雪臣がいいと言うまでお尻を叩きますからね!」
「うわぁあん!雪臣兄さん!ごめんなさい!ごめんなさぁい!」
バシッ!バシィッ!バシッ!
「雪臣兄さぁぁん!ああん!許してぇ!やだ痛いぃ痛いよぉ!!
ごめんなさい!ごめんなさいぃっ!!」
お仕置きされっぱなしの華威が泣きながら「雪臣兄さんごめんなさい」と連呼しても、
雪臣はずっと無言を貫いた。
ので、実際に泣き喚く華威を見かねて手を止めたのは依月の方だった。
「……雪臣、そろそろいいですか?これでも華威は今日3度目のお仕置きですので。
貴方もそろそろ勉強に戻らないと」
「うわぁあああん!あぁあああん!!」
「……依月兄さんが、そう仰るなら」
「だ、そうですよ華威」
「っうううっ、えっ、ごぇんなさい……ごめん、なさい……
ありがとうございますぅぅ……!!」
泣きながら謝る華威はやっと許されて、依月と共に雪臣の部屋を出る。
しかし、部屋に戻る途中――
「明日の朝のお仕置き、100回のうち30回は道具でお尻を叩きます。
お前は自分より弱者には強気に出て脅すような下衆だと分かりましたので」
「ごめんなさぁぁい……分かりましたぁ……!!」
依月からまた厳しい宣告をされても、
もう何の逆らう気力も無く、華威は泣きながら頷くしかなかった。
散々だったその日の夜は声を殺して泣きながら眠った。


翌朝。

「お前は!7時に起きる事すらできないんですか!?」
「ごめんなさぁあい!うわぁああああん!」
バシィッ!ビシッ!バシンッ!!
寝坊してしまったので、朝っぱらから依月の膝の上で厳しくお尻を叩かれてしまう華威。
後半は昨日の予告通りパドルで打ち据えられてしまった。
バシィッ!ビシッ!バシッ!!
「わあぁあああん!痛い!やだぁ!もうお道具やだぁぁっ!」
「じっとしなさい!ちゃんと反省しないと許しませんよ!?ごめんなさいは!?」
「ごめんなさぁああい!!」
休む暇のない華威のお尻だけれど、今日から華威自身も休む暇がないようで……
「さぁほら、泣いてる暇はありませんよ華威!これに着替えて!」
「な、何この服!?」
顔が青ざめて赤らんで、思わず後ずさった華威に依月は言う。
「……お前が私を辱めた100万分の1をお返ししてるんです」
そう言われてしまうと華威は何も言い返せず嗚咽を漏らすしかない。
依月に急かされて着替えさせられ、連れていかれた場所は……


「今日から、皆さんのお仕事を手伝わせてあげてください。
一応、皇極園家の人間なので丁寧に扱って、優しく指導してあげてくださいね?
でも、彼が怠けたり何かしたら遠慮せず私に伝えて下さい」
「…………」
華威は完全に下を向いて、真っ赤な顔で体を震わせていた。
今、和装メイド服姿で使用人たちの前に立たされているのだ。
そして、実質使用人の仲間入りを宣告されてしまったのだ。
その場にいた男女合わせて5人ほどの屋敷の使用人たちがポカンとしたあと、明るく華威を迎え入れる。
「も、もちろんです!お仕事一緒に頑張りましょうね華威様!!」
「華威様に手伝っていただけるなんて光栄です!!心強いです!」
「困り事は誠心誠意サポートさせていただきますので心配無用です華威様!お召し物も素敵!」
華威は皆に歓迎ムードで囲まれても、手を握られても声すら出せない。
それでも傍から地獄の声がする。
「華威、皆さんにご挨拶は?」
「皆、お世話に、なります……よろしくね……?」
華威は涙目赤面のガクガクで皆へ挨拶をした。


こうして、華威の弟でメイドな生活が始まる。
優しい使用人達の丁寧な指導と、華威のもともとの優秀さもあり、
メイド生活は順調だった。皆とも仲良くなっていった。
弟生活の方は“お仕置き”があるのでなかなか苦しかったけれど、
慣れればだんだんと従順さも出せるようになってきた。
そうこうしていると朝夕のお仕置き100回が75回に減ったり、“お休み”の日ができたりもした。

この日の夕方も、慣れた日常の一つだった。
いつものように依月の部屋へ、メイド服姿のままお仕置きされに行く。
「お勤めご苦労様でした華威。何事も無くお手伝いできましたか?」
「うん……ちゃんとできた。僕が買い物に行くとおまけが、たくさんもらえるって皆喜んで……
あはは、買い物、担当になっちゃうかも……」
「そうですか。きっと華威の見目が美しいからでしょうね」
「まぁ、ね……何かあの家政夫さんにも“マドモアゼル”なんて呼ばれて、
しょっちゅう荷物持ってくれるんだけど……絶対僕って気付いてないよね……」
「それは……先生の誤解は早めに解きたいものですね。
さぁ、話はまた後で聞かせてください。先に今日の分のお仕置きをしてしまいましょう」
「わ、分かった……」
華威は恥ずかしそうに、スカートを自分でせり上げて依月の膝の上に横たわる。
「っ、依月、兄さん……今日も、お尻に……今まで、悪い子だった分の、お仕置きをください……」
「よく出来ました」
バシッ!ビシッ!
「うぁああっ!っうう……!依月兄さん……!!」
「今日もいい子になってくださいね、華威」
「分かった、分かりましたぁッ!あぁあっ!」
バシィッ!ビシッ!バシィッ!!
依月は優しく褒めてくれたけれど、相変わらずお仕置きは容赦なく。
数も75回から下がることは無かった。


また少ししてある日、お手伝い中の華威は
来客の相手をしている依月を偶然見る事になる。
(依月……やっぱしっかりしてるな……
僕なんかいなくても全然、当主代わりが務まってる)
そんな事を思っていると、いつも間にか雪臣も傍に立っている。
「大変ですよね、依月兄さん学校もあるのに家の事も仕切って。
前、“華威兄さんを看病していい子にすれば、昔の華威兄さんが戻ってきてくれるはずだ”と泣いてました」
「…………」
「貴方には依月兄さんを押し潰して、責任逃れして、
のうのうとしていた事を心の底から悔いて反省して欲しい……!」
雪臣の悔しげな表情に、華威の心も痛む。
しかし……
「分かってる。これだけ色々“お仕置き”されれば、
さすがに僕だって反省するし、自分のした事を考える時間もたくさんあった……でも……」
華威にも悔しさがあった。涙目になって雪臣にぶちまける。
「前にあの大変さの中にいたのは僕だ……!
僕なら一人で苦しんでても良かったの!?僕が全部我慢してれば良かったの!?」
「違います!」
雪臣も強く否定する。
そして、泣きそうな顔で続けた。
「僕らを、頼って欲しかった……!!僕は、さすがに頼りないかもしれないけど……!
依月兄さんに、誰かに、助けを求めて……全部、依月兄さんに押し付けてしまわないで……!!」
「!!」
華威は驚いて……真剣な表情で雪臣に尋ねた。
「……依月兄さんは、今も“華威兄さん”が戻って来るのを待ってると思う?」
「もちろんです。僕も……そう思ってます。
それで、今まで苦しんでいる事に気付かなくてごめんなさいって、謝りたい……」
「そっか……」
華威は半泣きの雪臣の頭を撫でる。
そして、「ここで騒ぐと依月兄さんに叱られるから」と、雪臣を連れて移動した。


そして、続く日々の中で、華威は思う。
(雪臣は、依月が今も“僕”の帰りを待ってるって言ってたよね……?)
「い、依月兄さん……僕、毎日いい子にしてるよね?
いつになったら反省してるって思ってもらえるの?兄に……戻してもらえるの?」
「まだ二ヶ月しか経ってないでしょう華威?貴方はどれくらいの長い時間罪を重ねたんですか?」
「それは……」
「今朝の分のお仕置きを始めましょう」
「……依月兄さん……今日も……――」
(嘘だよ……嘘、嘘嘘嘘……!!依月は僕を許す気なんてない!
ずっと僕をお仕置きして、弟扱いする気なんだ……!)
ビシッ!バシッ!バシィッ!!
「っあぁああっ!依月兄さんごめんなさい!あっ、ああっ!」
バシッ!ビシッ!バシンッ!
「反省してます!反省っ、して、うぇえええっ!!ごめんなさぁあああい!
うぁああん!痛い!痛いもう痛いぃっ!!」
(僕はこのまま……!!)
「素直に謝るのはいい心がけですが、決められた回数分はお尻を叩きますからね!」
「うわぁああああん!!ごめんなさい!依月兄さぁぁぁん!」
「まだ数があるし、仕上げは道具を使うんですからしっかり耐えて!
暴れるとメイド服がシワになりますよ!?」
「わぁあああん!やぁっ、ごめんなさい!あぁあああん!」

朝夕のお仕置きノルマは毎回きっちりこなされたし、そのうち
お尻を晒したまま廊下に立たされたりした。そして使用人仲間達に心配されたり、
たまに多くお仕置きされると雪臣に呆れられたりした。
そんなエスカレートを見せる依月のお仕置きに、
終わりの見えないこの生活に、華威はだんだん恐怖とは違う感情でゾクゾクしていた。
(あぁどうしよう……こんな生活、本当にずっと続けられてたら、
雪臣だってすぐ成長して……僕は、本当に二人の弟の“弟メイド”に……)
そんな事を考えていたある日、華威は偶然誰かと依月の会話を聞いた。
困っているような依月の様子に、何かを考え込んでから部屋へと足を向ける。


一方の依月は……
「ですから、何度も申し上げているように華威は体調が……」
「頼むよ!少しだけ!華威君じゃなきゃダメなんだ!
こっちも結構待ったんだよ!?今日は少し話すだけでいいから!」
「ですがっ……!!」
来客に“華威を出せ”と迫られて困っていた。
今まで“病気”を理由に何とか追い返していた分、今日は粘られる。
どうしようかと思っていると……
「お久しぶりです富田さん。良くお越しくださいました」
「華威君!!」
「えっ……!!」
先方は目を輝かせ、依月は目を疑う。
華威がスーツ姿で凛々しく輪に入ってきたのだ。
「いやぁ会いたかった!体はもういいの!?話したい事がたくさんあって!」
「えぇ。依月のおかげですっかり……。お話は構わないのですが、
長く休んでいた分、色々な情報に疎くなってしまったでしょうし、まだ本調子ではないのでどうか手短に」
「いいよいいよ!ごめんね!短く済まそう!」
富田、と呼ばれた男は嬉しそうに華威と応接間に消えていく。
そして、しばらくすると上機嫌で帰っていった。
依月が待ちわびたように、華威に駆け寄る。
「華威……兄さん……!!」
「待たせてごめんね、依月」
その一言で、依月は華威の胸に飛び込んで泣き崩れる。
「うわぁあああん!華威兄さん!!華威兄さん!ごめんなさい!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃっ!!わぁああああん!!」
「そうだよ依月……なかなかに酷い扱いだったよ?
それよりはマシだろうから、めんどくさいけど“皇極園家の長兄”、また頑張るよ。
僕の方こそ……依月も雪臣も、いっぱい傷つけてごめんね……。
依月にした事……許してくれないなら、一生お仕置きされてもいい」
「うわぁああああん!華威兄さぁあああん!!」
泣きじゃくる依月の頭を優しく撫で続ける華威。
遠くに雪臣が来ている事に気が付いて、片手を広げる。
「雪臣も本当にずっと辛い思いをさせてごめん。これからはちゃんとするから。
依月も雪臣も守る、いい兄さんになるから」
「かっ……華威兄さぁぁぁん!!ごめんなさぁぁい!!」
雪臣も華威に抱き付いて泣く。
弟二人は久々に兄に甘える事ができて……
そして、甘えた後は力強く言う。
“これからは、華威兄さん一人に大変な思いはさせない。
自分達も一生懸命力になる”、と。
華威は泣きそうになりながら、嬉しそうに笑った。


こうして家政夫、田中温人の活躍により、皇極園家に平和が訪れた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


気に入ったら押してやってください
あわよくば一言でも感想いただけたら励みになって更新の活力になりますヽ(*´∀`)ノ

【作品番号】kseihusama

TOP小説
戻る 進む