TOP小説
戻る 進む
皇極園家のTrueEnd??
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

田中温人(たなか はると)、現在執事……もとい、“家政夫”の求職中。
そんな彼が買い物の帰り道、公園を通り掛かると……
「先生!!」
元気な声に呼び止められる。
声の方を見れば、何度か交流のある少年、皇極園雪臣(こうぎょくえん きよおみ)が
笑顔で駆け寄ってくる。
そう、笑顔で。
いつも無表情だった彼が、こんな顔もできたのかというくらいとびきりの明るい笑顔で。
「先生聞いてください!先生のおかげで全部上手くいきました!
依月兄さんも元気が出たようで!」
「本当!?雪臣君、良かった……!!良かったね!」
派遣先を追い出されてから雪臣と再会し、“長兄の仮病を暴く”と意気込む雪臣を励ましてから
久しく経っていた。あれからどうなったのかと心配していたけれど、
雪臣の明るい笑顔と言葉を聞いて温人はホッとした。そして嬉しくなる。
(そっか……僕は皆を救えたんだ……!!良かった……!)
「華威も大人しくなったし、お手伝い頑張ってます!!あっ!華威!!」
「……“華威”……?」
温人が抱いた小さな違和感を確かめる前に、雪臣が通りに向かって元気よく手を振る。
つられるようにそちら見た温人は驚いた。
「――――!!」
「――ッ!!」
それは向こうも同じみたいで、驚いて気まずそうな表情を……
無理やり笑顔に変えて、軽やかな足取りでこちらに向かってきた。
「あぁ!き……っ、今帰りだったの?すごい偶然!」
切りそろえられた美しい長髪の、清楚極まる麗しい和装メイド。
しかし……それは紛れも無く雪臣の兄の華威だった。
呆然とする温人に対して、雪臣は動じることなく会話していた。
「ええ。華威も今帰りですか?」
「そうそう。だからさっさと帰らなきゃ。い……っ、心配されるから。
あの、そっちも早く帰りなよ?じゃあね。そちら様も、ごきげんよう」
「っあ!!」
まともな返答を返せなかった温人を一瞥したメイド服の華威は、
手早く会話を切り上げて足早に帰っていく。
雪臣が不思議そうに呟いた。
「華威ってばあんなに急いで……まだお手伝いが溜まってるんでしょうか?大変ですね」
「雪臣君……」
「はい?」
「……ぼ、僕もそろそろ行かなきゃ!元気でね!」
「はい!先生も!また会えたらお話ししましょうね!」
「もちろん!」
雪臣は最後まで無邪気な笑顔で、しかし温人の違和感は強くなっていく。
(雪臣君……前は華威さんの事、呼び捨てになんてしてなかった……。
それに華威さんのあの格好……何があったんだ?!)
思いながら温人は華威を追いかけて……

「華威さん!華威さんですよね!?」
追いついて。
華威が不機嫌そうに振り返る。
「……何で追いかけて来たの?笑いに来た?」
「そっ、そんなわけないじゃないですか!!その、とても、お綺麗ですし……!!」
「へー。全然嬉しくないけどアリガトウ」
「す、すみません……その……」
温人が“何があったんですか?”と聞く前に、華威が口を開く。
「ねぇ……雪臣に変な入れ知恵したのお前?」
「えっ!?」
「お前しかいないんだよ……!!でなきゃ誰が……!
おかげで僕が今どんな目に遭ってると思ってるの……!?
仮病がバレちゃって、先生は急に辞めちゃうし、依月はすごい怒ってる!
僕の事兄弟の末弟扱いして、飽きもせず毎朝毎晩折檻するくらいにはね!
挙句この僕が使用人の真似事まで……!
僕だって、ちょっと好き勝手し過ぎた自覚はある……けど、こんな酷い報いを受けるほど……!?」
所々感情を押し殺す様に控えめに喚いた甲斐は、そんな自分に気付くと自暴自棄気味に笑う。
「……ふふっ、依月ってば優等生な顔して意外とサディスティックなシュミがあったりしてね?」
「華威さん……!」
温人も何と声をかけていいか分からず、心配そうに華威に歩み寄る。
しかし、華威は後ずさって泣きそうな笑顔でこう続けた。
「でもね……最近ちょっと分かんないんだ……仮病で遊び暮らしてた時より、
今の方が幸せなんじゃないかって……思える時もあって……罪悪感くらいあったし……!!
でも、やっぱりおかしいよこんな生活……こんな、僕、おかしくなる……依月……雪臣……!!」
絶望したようで嬉しそうな、それでも泣きそうな……そんな追い詰められた表情を
震える手で覆いそうになるとやっぱり、それを振り切るように笑う華威。
「……雪臣って、あんな可愛い顔で笑うんだね。それを知れた事だけは、アンタに感謝かな……」
そう言って顔を逸らす華威の手を、温人は思わず握っていた。
「華威さん!!僕が依月君に話してみます!!」
「もういいよ!そんな事が頼みたいわけじゃない!!もう家に関わらないで!」
助けようとする手は振り払われて、それでも温人は必死に叫ぶ。
「僕は雪臣君だけじゃなくて、皇極園家の兄弟皆に幸せになって欲しいんです!!
華威さんがそんな顔してる今の状態がベストなわけない!!」
「……っ……」
驚いたように胸元を握った手が、
「……たす、け……」
恐る恐る温人に伸ばされようとしたその時。
「――華威」
「ひっ!?」
いつからそこにいたのか、華威が背後を振り返ると雪臣がいた。
小さな弟は優しく兄へ笑いかける。
「早く帰らないといけないんじゃなかったんですか?
それに、ダメですよ依月兄さんの事“優等生な顔してサディスティックなシュミが”なんて。
全部貴方を想っての事なのに。依月兄さん悲しみます……いや、怒る……かな?」
「……ぁ……」
瞬間、華威の顔色が変わる。
しゃがみこむように雪臣の両肩を掴んで、弟相手に必死に懇願する。
「お、お願い!い――ぃ、言わないで!!告げ口なんてしないよね?!」
「……まぁ、今謝って、反省してるなら。」
「ごめんなさい!もう二度と言わない!
全部僕の為だって分かってるよ!軽率な発言を反省してる!ねっ!?」
明らかに頬を赤らめて冷や汗を垂らして焦る華威に、
雪臣はどこまでも穏やかな顔だった。
「ダメですよそんな謝り方じゃ。もっと誠意を見せて」
「えっ!?ど、どういう……ここで土下座でもしろって言うの……?」
「そうではなくて……華威……どうして先生と会ってから頑なに、
僕や依月兄さんの事を“ちゃんと”呼ばないんですか?
それどころか、呼び捨てにしてるようにも聞こえましたけど」
「!!……それは……!」
「この事も依月兄さんに……」
「嫌だ!!分かったから!!分かった……!」
そう言いながらも華威は明らかに温人の存在を気にしていたが、
意を決したように口を開いた。

「……う、ぅ、本当に、ごめんなさい……もうしないから、
っ、依月、兄さんには言わないで……!雪臣兄さん……!!」

そこにはかつて弟相手に暴虐に振る舞っていた皇極園家の長子の姿は無く、
そんな兄に振り回されて憔悴していた弟の姿も無い。
完全に立場が入れ替わっていた。
驚く温人の目の前で、雪臣は満足そうに笑う。
「いいですよ。でもこれからは気を付けて。
もし相手が僕じゃなくて依月兄さんなら、いつもみたいにお尻を叩かれていたところ……」
「雪臣ぃぃいいいいっ――!!」
「え?」
「――いぃ兄さんッ!わざとやってるでしょ!?
これ以上、僕を辱めるような事言うなら!!僕はこの場にぶっ倒れて死ぬッ!!」
「……分かりました。もう何も言いません。さぁ、そろそろ本当に帰りましょう。
貴方だけでなく僕もお仕置きされてしまう」
「う、うん……」
雪臣の差し出した手を華威が握る。
まるで本当に雪臣が兄で華威が弟のような光景。
最後に、雪臣は温人の方を振り返って言った。
「先生も、またぜひうちに遊びに来てください。誤解は解けていますから」
「う、うん……!」
去っていく二人に手を振って、温人は何とも言えない気分になっていた。

(雪臣君はのびのびと笑ってる。依月君も元気になったって……
これで良かったはず……でも、華威さんは……?
僕は、彼らを……救えたんだろうか……)

離れていく二人に、温人は二度と手が届かないような気がした。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


気に入ったら押してやってください
あわよくば一言でも感想いただけたら励みになって更新の活力になりますヽ(*´∀`)ノ

【作品番号】kougyoku

TOP小説
戻る 進む