TOP小説
戻る 進む


姫神様フリーダム9



ここは神々の住まう天の国。
この国の幼い皇子、立佳は清々しい顔で伸びをしていた。
彼のお目付け役の従者・球里が緊急里帰りを済ませてからすぐの事である。
「ん〜〜っ、球里もいないし、エロ本読み放題だぞ!!
さてさてどれから読っもうっかな〜〜♪オレの秘蔵のコレクション!」
本棚をスライドさせて、奥の“秘蔵コレクション”をガサゴソと漁る立佳。
球里がいた頃には好きな時に読めなかった数々のお宝に目を輝かせ、
“どれを読むか”の品定めの為にパラパラ読み始める。
しかし、
『球里!絶対帰ってきてね!!』
『もちろんです。私を信じて、いい子にしていてくださいね?』
思い出す別れ際のやりとり。
「いい子に……」
立佳の顔が曇る。
ページをめくる手が止まった。
「いい子に、してなかったら、帰って来ないとか……ないよね……?」
彼らしくも無い不安げに揺れる言葉。
「…………」
立佳はしばらく考え込んで“秘蔵コレクション”を再びしまいこんだ。


そんな事があって一週間――

こちらは立佳の妹の琳姫の部屋の様子。
従者の遊磨も一緒なのだが、彼女そっくりの人形で遊びながら琳姫が言う。
「最近、兄上の顔を見ていませんね。何をしているのでしょう?」
「立佳様は最近、熱心にお勉強していらっしゃるんですよ」
「お勉強!?兄上が!?」
「ええ。境佳様も時々一緒で、よく励んでいらっしゃるようですよ?」
「えぇええええっ!?」
琳姫は驚いて目を丸くする。そして叫ぶ。
「あり得ません!!」
「い、いや事実ですって!失礼ですよ琳姫様!」
「わたくし、ちょっと見てきます!」
「うわぁぁぁっ!早速行動的だ!邪魔しちゃダメですって琳姫様〜〜!!」
駆け出す琳姫を慌てて追いかける遊磨。
結局止めることはできず、琳姫は立佳の部屋に突入していく。
「兄上!!お勉強してるなんて……っ!!」
「………」
「嘘なの……でしょう……」
琳姫が立佳の部屋に入ると、立佳は机に突っ伏していた。
しかも周りには暗く悲しい空気が漂っている。
ただならぬ状況に驚いた琳姫は駆け寄って立佳の肩を揺すった。
「兄上!?どうなされたのですか兄上!?」
「琳ちゃん……?あぁ、球里はいつ帰って来るのかな……?
向こうでナイスバディ―な狐耳のお姉さんと懇ろな関係になって、子供が出来て、寿退職とかになったらどうしよう……!!
くそう、羨まし過ぎる!!」
「兄上しっかりしてください!!兄上……!」
「立佳様、大丈夫ですよ。境佳様たちが原因を調べてくださっていますし、すぐに混乱も治まって、元気に帰ってきますよ」
遊磨も心配そうに立佳を慰める。
「……っ、そうだね……ありがとう……」
明らかに涙声で肩を震わせる立佳。
「兄上……!!いっ、行きますよ遊磨!!」
遊磨をぐいぐいと引っ張る琳姫は部屋を出て……

その後、大真面目な顔で言う。

「きゅうりに一瞬帰ってきてもらえないか頼みに行きましょう!!
兄上とても寂しそうでした!あれじゃ、可哀想……!」
「琳姫様……」
遊磨が、俯く琳姫の肩にそっと触れる。
そして何と言って宥めようかと思案した……が、勇ましく顔を上げた。
「遊磨に任せてもらえませんか?」
「え?!」
「今、キュウリの故郷の山は……その……危険、で、
琳姫様をお連れするわけにはいかないんです。でも、あたしが様子を見てきますから」
「で、でも危険なら貴女だって……!!」
「あたしはこれでも軍神の娘。多少の危険なら何とかできます。
遊磨が様子を見に行ったって言えば、立佳様も気分が落ち着くんじゃないでしょうか?」
「しかし……いえ、やはり……」
琳姫は考え込んで、結局は首を横に振った。
「貴女を、危険な場所に行かせるわけにはいきません。兄上と大人しく待ちましょう。
兄上の事は……かくなるうえは、わ、わたくしが一緒にお風呂に入れば……!!」
「琳姫様本気で!?」
今にも服を脱ぎだしそうな琳姫を必死で止めて。
とにかく立佳は今はそっとしておこうという事になった。
「父上を急かしてきます!」と張り切って父親の元へ向かってしまった琳姫と別れた後……

遊磨は一人で城を抜け出す。

(あたしの無謀っぷりも、大概だよね。琳姫様の事言えないなぁ……。
でも、琳姫様にも立佳様にも悲しい顔してほしくないんだ)
心の中で呟く。遊磨は単身、球里の山へ向かうつもりだった。
もちろん“発情期”の山に女の身で単身乗り込む不安もあったが……
(……大丈夫。皆、薬飲んでるんだし。
それに、よっぽどの手練れじゃないなら多人数に襲われても乗り切れる自信はある。
栄華は衰えても腕っぷしまでは衰えてないよ!軍神一族舐めんな!!――よしっ!!)
そう、自分を鼓舞して遊磨は出かけた。



辿りついた山の中は静かで、あまり耳付き含む精霊たちの気配もない。
(何だ、やっぱり、皆家で大人しくしてるのかな?……心配して損したかも。
えーっと、球里の実家ってどのあたりだっけ地図地図……)
地図を見ながらしばらく歩いていると、目の前に見知らぬ兎耳の青年が現われた。
「こんにちは」
「こんにちは」
挨拶されたので挨拶を返す。山の中では皆フレンドリーだ。
白くてふわふわの毛並みの、優しそうな青年だったので遊磨は彼に道を尋ねてみようと思った。
「あの、この辺に狐耳の精霊たちが暮らしてる集落ってありませんか?」
「ああ、ありますね。ご案内しましょうか?」
「わぁ、助かります!ありがとうございます!」
「お安いご用です。そのかわり……」
「!?」
急に胸を鷲掴みにされて、近くに立っていた木に体を押し付けられる。
遊磨は真っ赤になって悲鳴を上げた。
「きゃぁあ!なっ、何するんですか!?」
「構いませんよね?!この時期に外をウロウロしてるってそういう事でしょう?!」
「何、のっ……?!い、いやっ!!」
息の荒い兎耳の青年の様子は豹変していた。
抵抗しようにも、軽くパニックだし、体に上手く力が入らない。
その間にも服を肌蹴られそうになって遊磨は戦慄した。
「(大声を出さなきゃ……!!)だ、誰か……!!」
「遊磨!?」
うまく声が出ない遊磨が逆に大声で呼ばれ、しかも声の主は探し求めていた……
「き、キュウリ!!助けて!!」
「お前何でこんな所に……!!」
「お知り合いですか?どうです?お兄さんも一緒に!!」
兎耳の青年はまったく悪びれる様子が無い。
球里は、驚いていた顔を冷静に戻して、落ち着いて言った。
「……彼女に触らないでくれないか?私の妻だ」
「え!?あ、失礼しました!!奥さん!最初に言ってくれないと!!」
兎耳の青年は慌てて逃げて行った。
入れ替わる様に球里が遊磨に駆け寄る。
「おい!!何のつもりだ一人でここに入るなんて!!
お前なら“発情期”のこちら側が危険だって十分分かってたはずだろう!?」
「あ、あたし……」
「!!す、すまない……お前も、怖かったよな」
「ち、違うよビックリしただけ!!」
遊磨は乱暴に涙を拭って、ホッとしたように笑う。
「助けてくれてありがとう!実は、立佳様がすごく淋しがってて、
アンタが元気かどうか様子を見に来たんだ!」
「立佳様が……?そうか……」
球里も笑ったがその笑顔はどこか曇っていて、こう言葉を続ける。
「私も、できる事なら早く戻りたいと思っているけれど、
まだ皆薬に頼っている状態で、この現象の原因も分からない。
ここは山の中だし……“時期外れの発情期”で他に実害も無いから
さっきみたいに、“結局ただの発情期だ”と、開き直って過ごす者も出てきた」
「…………」
「耳なしのお前にはよく分からないかもしれないが、要は……ええと、あれだ、皆“子孫を残そう”という使命感が強くなる。
さすがに、あのように外を歩いている女なら誰彼かまわず無理やり子を成そうとする輩は稀だと思いたいが……
いる事は確かだ。だから、危険なんだ。分かるか?
若い女は、特に……その、胸が大きいと、“良い母体だ”と見なされて狙われやすい。
既婚なら普通は諦めるから、お前を私の“妻”だと言ったのはそういう事だ。気を悪くしたなら済まない」
しゅんとして下を向く遊磨に、球里は優しく言う。
「会いに来てくれたのは、嬉しい。きっと、立佳様が寂しがっておられれば、琳姫様も心配なさるだろうし、
お前も主を思っての事だろう。私も、城の様子が気になってたんだ。“私は元気だ”と、皆に伝えてくれ。
ただ、今日はもう日が暮れるし、私の実家に泊まるといい」
「……ありがとう。今日は珍しく優しいね」
「お前が珍しくしおらしいからな。さ、帰ろう」
歩き出した球里に遊磨も頷いて、2人で並んで歩く。
「キュウリも子作りしてくれる女の子を探してたの?」
「!?バッ、バカを言え!!私は、行方不明になった弟分を探していてだな……!!」
こんな会話を繰り広げながら。


その後、無事球里の実家に到着して球里の妹分の桃里が出迎えてくれた。
「あ!お帰りなさい!球里兄さん実は……ギャァアアアア!!球里兄さんが女の人連れてきた――!!」
「ちちち違うんです!!あたしはただの球里の仕事仲間で!!急にお邪魔してすみません!!」
「あ、あわわ!私こそ大声出してごめんなさい!!」
「……落ち着け桃里。彼女は私の“同僚”の遊磨だ。遊磨も、この子が私の妹分の桃里だ」
球里がそうやって紹介した瞬間……桃里が遊磨を指差して大声を上げる。
「あ―――――!!“遊磨”!!」
「ど、どうした桃里?」
「球里兄さんの働いてるお城の人から連絡があったの!兄さんが帰ってきたらすぐ連絡が欲しいって!
私にも山で耳なしの若い女の子を見かけませんでしたか?って!
“遊磨”って名前だから見つけたら保護してほしいって!」
「「…………」」
球里と遊磨はお互い無言になるが、先に球里が遊磨に言った。
「……一つ聞くが、お前、ここに来ることを誰に言ってきた?」
「お、置手紙をさ……」
言いかけたが、球里の怒りのオーラを感じて途中で止めた。
そして勢いよく謝る。
「置いて来てませんごめんなさい!!言ったら止められると思って誰にも言わなかったの!!」
「バカ!!おかしいと思ったんだ!主上様がお前一人をこの状態の山へ寄越すはずがない!!」
大慌てで家の中に走って行った球里。おそらくは城に連絡するために。
取り残された桃里が、フォローするように笑っていた。
「み、見つかって良かったです」
「あはは……どうも」
遊磨も笑うしかなかった。



そしてこうなった以上はその後お説教タイムとなる。
怒っている球里と向かい合う遊磨は正座で、その隣に桃里も真似して正座していた。
「皆、すごく心配していた。主上様から“そちらでもきつくお灸をすえてやってくれ”と、仰せつかったぞ」
「ひゃぁああ……そちらで“も”って……!!」
「帰っても、厳しいお叱りを受けるという事だ。当然だな」
「うぅぅ……ごめんなさい。せめてこっちでは許して下さい」
「私が主上様のご命令に背くと思うか?」
球里の威圧感に縮こまる遊磨。
そこへ、桃里が声をかける。
「いいじゃないの球里兄さん。謝ってるんだから」
「お前は関係ないんだから黙ってなさい!」
当然、球里はそう叱りつけるが、桃里は怯まない。
「何よそんな言い方!関係なくないわ!
私、山にはあまり同年代のお友達がいないから、遊磨さんと仲よくなりたいの!お友達は助けるわ!」
「桃里さん……!!」
遊磨が感極まる中、桃里の追撃は続く。
「大体、“お灸をすえる”だなんて言って、遊磨さんをどうするつもりなわけ!?
この前の私みたいにお尻をぶったりしたら、セクハラですからね!?」
「セッ……!?私はそんなつもりじゃ……!!」
そう、兄貴分がたじろいでもお構いなしだ。
桃里の勢いは止まらない。
「立派なセクハラよ!身内みたいな私ならともかく、よその娘さんに!
しかもこんな美人で胸の大きい人!
っていうか球里兄さん、女の人は苦手の癖に触れるの!?お尻見たりできるの!?
こんな美人で胸の大きい人!」
「屁理屈ばっかり言うんじゃない!邪魔をするなら、お前も一緒にお仕置きするぞ!」
球里も必死で妹分を黙らせようとするが、今度は別方向から声が上がった。
「ちょっと!桃里さんはあたしを庇っただけでしょ!?
理由もないのにお尻を叩くなんて、それこそ身内でもセクハラだよ!
あたしも、お城じゃなかなか同年代の友達いなくて!桃里さんと仲よくなりたいの!
友達にセクハラする奴は許さない!!」
「遊磨さん……!!」
今度は桃里が感極まる。
結果――
「やっぱり遊磨さんのお尻を叩くなんておかしいよ!
どうしてもやるなら、今後は球里セクハラ兄さんって呼んでやるから!」
「桃里さんのお尻を叩くなら、あたしも今度からセクハラキュウリって呼んでやるからね!」
年下コンビにタッグを組んで反論されることになった球里。
初対面とは思えない息の合った手拍子とコールが上がる。
「「セクハラ反、対!セクハラ反、対!」」
「お前達なぁ〜〜〜〜〜!!」
真っ赤になって、もう何も言えなくなって。
ついに彼らしくもなく、怒りの頂点を越えてすべてを捨てて叫んだ。
「あぁそうだとも!!私はセクハラ魔だ!エロ魔人だ!!万年発情野郎だ!!
セクハラ兄さんでもセクハラキュウリでも好きに呼ぶがいい!!
ほら、遊磨!こっちへ来るんだ!!」
「「!!」」
桃里と遊磨が驚いてポカンとする中、
「きゃっ!?」
強引に引き寄せられた遊磨は、球里の膝に押し付けられるように乗せられて、下着を脱がされる。
桃里もいたので反射的に叫んだ。
「わぁぁ!脱がせたぁ!」
「“セクハラ”だからな!」
ヤケクソ気味の球里に遊磨は慌てて謝る……
「やっ、やめてよ桃里さんの前で――!!
キュウリはセクハラ魔じゃないよ!誠実だよ!ごめんなさぁい!」
「今更謝っても遅い!」
が、もう流れは変えられなかったようだ。
剥き出しのお尻を叩かれてしまう。
バシィッ!
「ひゃっ!?い、痛い!!」
「勝手に危険な場所に乗り込んで、皆に心配をかけて!反省しろ!」
ビシィッ!バシッ!
「わ、ぁっ!!ご、ごめんなさい!反省、したからぁっ!」
「あーそうか!それは良かった!そうやって言えば許してもらえると思うなよ!?」
「いやぁぁっ!!」
ビシッ!バシッ!バシッ!!
叩かれて痛がっている遊磨を見て、
桃里はオロオロしつつも球里を宥めようと、恐る恐る声をかける。
「た、球里兄さん……!!」
「お前もワガママばかり言うとこうなるからな!?」
「は、はい!!」
でも黙るしかないようだ。
遊磨の方は叩かれるたびに必死で身を捩っていた。
お尻もそろそろ真っ赤になっている。
「痛い!きゅうり、嫌だよぉ!!」
「嫌だじゃない!反省したんだろう!?大人しくしろ!!」
ビシッ!バシッ!!
「あっ、嫌っ!!あたしっ……立佳様や琳姫様に笑顔に戻って欲しかっただけなんだ!
危険だって、分かってけど、あたしなら、どうにかできるって、思って!!」
「……だが実際、お前が兎耳に襲われてどうにかできていたとは思えなかった」
ビシッ!バシッ!!
「うぅっ!わ、分かってるよ!どうにもできなかった!」
「私が、あの時偶然お前を見つけなければと思うと……恐ろしいな。
そうなれば、琳姫様も立佳様も、笑顔に戻るどころかもっと悲しんだんだぞ!?
自分の力を過信してバカな事をして!!手紙を寄越すとか、方法はいくらでもあっただろう!?」
バシンッ!!バシッ!!バシッ!!
「わ、分かってるってばぁ!反省してるよ!もう無茶な事、二度としないよ!!だから許して!!」
「断る!!」
ビシィッ!!
許してもらおうと必死で思いのたけを述べたのも一蹴され、
一段と強く叩かれ、遊磨は痛かったし驚いたしで大きな悲鳴を上げた。
「ひゃぁああああっ!!?」
「……私も、怒ってるんだからな?」
「ひっ!?」
聞こえた球里の声が、本当に怒っていそうで息を飲む。
その声は冷静だったかと思えば、次の瞬間には怒鳴り声になる。
「私も、お前が酷い目に遭ったら悲しいんだからな!?
お前を見つけた時は心臓が止まるかと思った!大馬鹿!簡単に許して堪るか!!」
「きゅうりぃぃっ!!」
ビシィッ!バシィッ!!ビシンッ!!
また強さを増した平手で、これでもかというほどお尻を叩かれる。
痛かったけれど、同時に本当に心配させたんだという事も伝わってきて、
遊磨は申し訳なく思って必死で謝った。泣きながら。
「うわぁあああん!ごめんなさい!アンタにも心配かけて悪かったよぉぉ!!」
「お前みたいな、危機感の無い娘はしっかり懲りさせないと安心できないから、
もうしばらくは泣いてもらおうか!」
「いやぁあああっ!あ、あたしっ、本当にもう無茶な事、しないからぁぁっ!!」
申し訳なくは思ったけれど、痛いのも事実。
遊磨としては本当に反省したし、そろそろ許してほしいのだけれど、なかなか許してもらえなかった。
叩かれながら暴れて泣き喚くしかない。
バシィッ!ビシィッ!バシッ!!
「うわぁあああん!ごめんなさぁぁい!!許して助けてぇぇ!!」
「私にお尻を叩かれるくらいで済んでよかったな!」
「それはそう思うけどぉぉ!!わぁああああん!!ごめんなさぁぁい!
も、もうやだよぉぉぉ!痛いよぉぉっ!!」
「…………」
ビシッ!バシッ!バシンッ!!
「あぁん!やだぁぁっ!うわぁあああん!!ごめんなさぁぁい!!」
そうやって、遊磨が泣きながらも頑張って謝っていたら……
「反省したか?」
「わぁん!最初っからそう言ってるでしょ!?反省したぁぁっ!!」
「……仕方ない、今日はこれで許してやるか」
バシィッ!!ビシィッ!!
何度か叩かれたけれど、ついに許してもらえるようだ。
遊磨は内心ほっとしたものの
「主上様のお仕置きもある事だしな」
「うわぁああああん!!」
最後の一言でまた泣いたのだった。
そんな遊磨を球里は起こして、頭を撫でたりして落ち着かせてくれた。


そして、落ち着くと……何だか一気に恥ずかしくなって桃里の顔が見られなくなった遊磨。
「な、何だか恥ずかしい所をお見せしましたね……」
「そ、そんな事ないですよ!球里兄さん、よくこんな事するから!私もされましたから!」
桃里は遊磨を元気づけつつ、球里に言う。
「ねぇねぇ!球里兄さん、今日はここに泊まってもいいでしょう!?
遊磨さんとたくさん恋バナするの!!」
「いいけど、ご両親には連絡しろよ?それと……」
球里は言葉を区切って、申し訳なさそうに言う。
「雪里は、今日は見つからなかった。すまない」
「!……そう。兄さんのせいじゃないわ。ありがとう」
(雪里って、行方不明の球里の弟分、だっけ……?)
悲しげな二人の会話を、遊磨はぼんやりと聞く。
「見つかるまでは探すから。里様は戻られたか?」
「それが、温泉が気持ち良さすぎて泊まって来たいんだって」
「そうか。なら今日は三人で夕食だな」
ナチュラルに台所に立とうとする球里に、遊磨は感心する。
「キュウリが作るの?」
「あぁ、遊磨はくつろいでてくれ」
「あたしも手伝おうか?」
「!!?い、いや!いいんだ!桃里の話し相手になってやってくれ!」
「そうですよ!遊磨さんには聞きたい事がたっくさんあって♪」
こうして、桃里とお喋りしたり、皆で夕食を食べたりして楽しく過ごした遊磨。
お風呂は桃里と入った。
そして、夜。

桃里の希望で同じ部屋で並んで寝ることになった遊磨。
数時間前に桃里が言っていたように“恋バナ”をする事になる。
「遊磨さんは恋人いるんですか!?」
「い、いませんよそんなの!!」
「そうですか?遊磨さんって美人だからモテそうだと思って!
急にどこかの王子様に見初められちゃったり!きゃー!」
「い、いや、そんな、あたし……ただの田舎娘ですし!」
「そんな事ありませんよー!オーラがあるっていうか……そうだ!球里兄さんはどうですか!?」
「えっ!!」
「球里兄さん、あんなだから、女の人は苦手なんですよ?
それなのに、遊磨さんとは家に連れて来るくらい親しいみたいだし、仲良く話してたし!
遊磨さんの事とっても大事に思ってるみたいだったし!ふふっ、妹分としては妬けちゃうくらい!
お似合いだと思います!あ、もしかして他に好きな人が!?」
「そ、それもいませんけど……きゅ……球里はほら、単にあたしが女として見られてないだけですよぉ!
た、球里ってば、閻濡様や玲姫様の前ではしどろもどろなんだから!」
「きゃ〜〜!その話もっと聞きたいです!!」
こうして散々、楽しく話した後、今度は桃里側の恋の話題になる。
「桃里さんは恋人いないんですか?好きな人とか」
「うふふ〜〜好きな人ならいたんですけどね」
「いた?」
「雪里って、言うんですけど。球里兄さんと私の、弟みたいな子です。
好きだったんですけど、告白したら振られちゃって」
「そうだったんですね……」
「挙句、今はどこで何してるか分からないし……こんな時なのに、薬、ちゃんと飲んでるのかな?
あの子ってば本当は泣き虫で気が弱いくせにワルぶってるところがあって……
セクシーでいけない感じの耳つきのお姉さん達といやらしい事ばっかりしてたらどうしよう!!
ハーレム!?エッチなハーレムなの!?そんな雪里嫌ぁああああ!!」
「桃里さん落ち着いて!!」
取り乱す桃里を遊磨が宥めると同時に……
ラフな着物姿の球里も部屋の襖を開ける。
「うるさいぞお前達!!さっさと寝なさい!!」
「いやぁああああ!!球里兄さんが夜這いにきたぁぁぁぁっ!!」
「来るか!!いいから寝ろ!!」
バンッ!!
勢いよく襖を閉め、一瞬で退場した球里。
桃里が呟く。
「何だ違うのか……」
(何でちょっと残念そうなの!?)
「えへへ……ごめんなさい遊磨さん。寝ましょうか?」
「はい!」
やっと明かりを消して、遊磨と桃里はお互い黙って眠る。

(キュウリや桃里さんの弟分……雪里さん、早く見つかるといいな。
あたしも……何か力になれないかな?)

遊磨はそう思いながら眠りにつくのだった。





気に入ったら押してやってください
【作品番号】HS9
戻る 進む

TOP小説