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姫神様フリーダム5




ここは神々の住まう天の国。
本日、この国の幼い皇子、立佳の部屋に慌ただしくやってきたのは妹の琳姫。
脇に分厚い本を抱えて、入ってくるなりこう叫んだ。

「兄上!一大事です!父上の浮気現場を目撃しました!!」
「へ?」
「だから!父上の浮気現場を目撃したのです!ほら、これ!
父上と見知らぬ女が裸で抱き合っているでしょう!?」

キョトンとしている立佳に、琳姫は持っていた分厚い本……実はアルバム、を突き付ける。
突きつけられたページにあったのは確かに、子供の頃の父親と同い年ぐらいの銀髪の少女が
裸で、川の中で遊んでいる写真。
銀髪の少女は裸にも関わらずガッツリ境佳に抱きついていて、
それを見た立佳はしょんぼりと俯く。

「せっかくのヌード写真なのに……父上のちっちゃい頃だなんて……ごめんね琳ちゃん、興味無い」
「兄上!こんな時にふざけないで!これは浮気現場ですよ!?父上と母上の夫婦生活の危機なのですよ!!?」

琳姫は本気で焦っているというか怒っていて、後ろにいつの間にか控えている従者の遊磨も困り顔だ。

「すいません立佳様!浮気だって言ってきかなくて……立佳様もどうか説得して差し上げてください……」
「浮気現場?っていっても、これさぁ……」

そこまで言いかけて立佳はふと押し黙る。
そして、わざとらしく真剣な表情で琳姫に語りかけた。

「いや、これは確実に浮気だ。琳ちゃん、行っておいで!オレ達家族の平穏のために!!」
「はいっ!!」
「えぇえええっ!?ちょっと琳姫様!?どこへ!?」

何やら使命感に目を輝かせた琳姫は立佳の指差した扉の方向に走って行った。
懐に“浮気写真”、片手に姫神式R−2UMB(小傘型レーザー砲)を装備した、ひどく物騒な格好で。
追いかけそびれた遊磨がオロオロと立佳を見やる。

「立佳様!!どうしてあんな……琳姫様の背中を押すような事を!
大体さっきの態度、貴方あの写真の事何か知ってるんでしょう!?」
「ん〜?さぁね〜?オレは浮気はいけないと思っただけだよ?修・羅・場♪修・羅・場♪」
「ああもう!完全に楽しんでるじゃないですか!琳姫様―――っ!!」

遊磨が今度こそ慌てて琳姫を追いかけるも時すでに遅し。
その後、一分も待たずに轟音と共に城の壁に風穴が開く。
琳姫の“姫神式R−2UMB”が火を吹いたのだ。
その軌道からギリギリ外れた所で尻もちをついていた境佳は、すぐに立ち上がって
いつものように琳姫を怒鳴りつける

「琳姫!何をしてるんだ!」
「それはこっちのセリフです!母上というものがありながら、若い女と裸で抱き合うなんて!
父上がそんな浮気者だと思いませんでした!」

が、いつもと違う……むしろ予想の範疇を超えた琳姫の言葉に城中の空気が凍る。
顔面蒼白の境佳は、驚きすぎて言葉が出ないようだ。

「な……え?……な……?」
「信じてたのに!わたくし信じてたのに!
母上を愛してるだなんて言って、やっぱり若い女が好きなのですね!!」
「いや違う!琳姫、誤解だ!私が愛してるのは母上だけだぞ!」
(うわぁ……)

遊磨は何も言えないまま事態を見守っていた。
娘相手に必死で否定する境佳が不憫というか何というか……
琳姫が母親似なだけに、小さな夫婦喧嘩を見ているような微妙な気分に浸っていた。
その間にも愛の劇場はどんどん進んでいく。

「もうこうなったら、離婚です離婚!実家に帰らせていただきます!」
「こ、コラ!お前が決めてどうするんだそんな事!縁起でもない!
っていうか実家に帰ったところでそこは私の実家でもあるし……って違う!!
全く、いきなり変な言いがかりをつけて!証拠でもあるのか!?あるなら持ってきてみろ!」

やけくそで叫んだ境佳に対し、琳姫は待ってましたと例の写真を取り出す。
勢いよく、見せつけるようにまっすぐ前に差し出して、

「ほら!これでも、言い逃れするというのですか!?」

勝った!とばかりに胸を反らすが、境佳の反応は意外に冷静だった。
もっと父親が焦ったり驚いたりするかと思っていた琳姫が逆に焦ったぐらいだ。
パタパタと写真を振って強調してみる。

「ほ、ほら!これです!紛れもなく、抱きついてるじゃないですか!裸で!」
「ああ、確かにな。でも子供の頃じゃないか……それに……」

境佳は疲れた顔でボソリと言った。

「そいつは、男だ」
「えっ!?なっ……そんな言い訳が通用するとでも……」
「あっ……!!」

突然、遊磨が何かに気づいたように声を上げた。
そして琳姫に向かって叫ぶ。

「だから、立佳様がその子に全然反応しなかったんですね!ほら、写真見せた時!
裸で写ってたのは境佳様だけじゃなかった……写真の子が女の子なら
あの立佳様が『興味ない』で片付けるはずがないじゃないですか!」
「そんな……!!」

次の瞬間、琳姫の体はフワリと浮いて、境佳にしっかりと抱えられていた。

「立佳にそそのかされたのか?
とはいえ、また城を壊したのも事実だし……それなりの罰は受けてもらおうか」

そう言って、怒りのオーラを放つ境佳にまともな返事が返せないまま
琳姫は連れていかれてしまった。



そして、境佳の部屋に連れて行かれた琳姫は、いつものように膝の上でお尻を打たれる事になる。
ふにふにした裸の小さなお尻が叩かれて暴れていた。

「やぁぁああんっ!!痛い!痛いです父上〜〜!」
「私を浮気者呼ばわりした上に、姫神式で壁を壊す様な悪い子には似合いの罰だろう?」

パンッ!パンッ!パンッ!

いつもより冷めた感じの境佳は、暴れる琳姫をしっかり押さえつけて平手を浴びせつつ
大きなため息をついた。

「全く……子供の頃の写真一つで浮気を疑われるなんて……私はよっぽど信用が無いんだな」
「だ、だって!父上は兄上の父上だから心配になってしまって……!」
「どうして立佳を基準にするんだ……普通は逆だろう!逆!」

バチンッ!

境佳の怒りの一撃にひときわ大きな音が響いて、琳姫もビクンとのたうつ。

「やぁぁんっ!だって!もし父上が若い女とのカイラクにおぼれてたら取り返しがつかないじゃないですか!」
「いっ、意味も分からずにそんな事を言うんじゃない!どこでそんな言葉覚えたんだ!」
「あぅぅっ!兄上のお部屋のご本に書いてありましたぁっ!」
(立佳……!!)

ここにはいない息子に心の中で盛大にツッコミを入れて
後で球里に立佳の部屋の強制捜査を頼もうと心に誓う。
そして琳姫に視線を落とすと琳姫は大粒の涙を流して泣いていた。

「それでっ、若い女と……そのままどこかへ行ってしまって……ひっく……」

痛がっているというよりは悲しんでいる様子で、琳姫はしゃくりあげながら続ける。

「わたくしっ、イヤです……ふぇっ、父上がどこかへ行ってしまうのは……
ふぇぇっ!父上と母上とずっと一緒にいたい!!
父上と母上にずっと仲良しでいてほしかったから……!」
「琳姫……」

娘の健気な言葉に境佳は胸が熱くなる。
ただ“仲の良い両親とずっと一緒にいたい“という願いは子供らしく可愛らしい。
手を止めるわけにはいかないけれど、琳姫の不安を払拭しようと優しく言葉をかけた。

「私が愛しているのは母上だけだ。それに、お前や立佳を放ってどこかへ行けるわけがないだろう?」
「本当ですか!?ずっと一緒にいてくれますか!?」
「ああ。約束する」
「絶対に?」
「絶対に」
「もう浮気しませんか?」
「……最初からしてない!」

パァンッ!!

「ひゃぅぅっ!!こ、これからも、浮気しちゃダメですよ!?絶対ダメですよ!?」

あれだけ誠意を込めたにも関わらす、まだ浮気を疑われる境佳。
本人はまた重いため息を吐くしかない。

「分かった分かった。してないと言ってるのに……私はそんなに浮気しそうに見えるのか……?」
「だって兄上が……」
「立佳がそう見えるなら、その言葉は立佳に言ってやりなさい……
まぁ、あの子をあんな風に育てた私にも責任があると言えばあるが……」
「そうです!反省なさい!」
「そうだな。反省するとしよう。さて、次は琳姫が反省する番だぞ?」

お尻を赤くしながらも強気な娘に苦笑しつつ
境佳は今までよりも少し強めに琳姫のお尻を叩き始める。

パンッ!パンッ!パンッ!

「やぁああっ!やっ……痛い!痛いですぅ!!」

琳姫の感じる痛みも増したようで、すぐに嫌がって暴れたが
境佳にとっては何の抵抗にもならない。気にせずお説教をする。

「事実を確認もしないで、私が浮気したと決めつけて武器を向けただろう?
また無い罪を裁こうとして……よく考えて行動しろと言ったのに、勢いだけで動くからこうなるんだ」
「ひっ……ひぁっ!!ごめんなさい!!」
「それに、姫神式は玩具じゃない。どうもお前はすぐアレを撃つな。
城の修理代もバカにならないし、取り上げてしまおうか」
「いやぁぁあっ!!姫神式はすでにわたくしの体の一部なのです〜〜〜っ!!」
「ダメだ。やっぱりお前には早かったみたいだから没収する」
「うわぁあああん!!いやぁぁあっ!!」

パンッ!パンッ!パンッ!

姫神式R−2UMBを没収されるのがよっぽど嫌なのかそれともお尻が痛いのか……
とにかく琳姫は顔もお尻も真っ赤にして泣きながら暴れている。
水中に放てば勢いよく進むのではないかというくらい手足をばたつかせて。

「ごめんなさい!ごめんなさぁいっ!やぁあああんっ!」
「反省したのか?でも今日が初めてではないし、簡単に許すわけにはいかないぞ」
「あぁあああんっ!反省しました!もうしません!うわぁあああん!」

境佳はなかなか琳姫を膝から下ろそうとしない。
平手打ちが続けば続くほど琳姫は大声で泣き喚く。

「ごめんなさい!父上ぇっ!あぁああんっ!ごめんなさい〜〜!」

パンッ!パンッ!パンッ!

「わたっ、わたくし、ひっ、もう父上の浮気を疑ったりしませんからぁっ!」
「そうか。それはありがたい」
「あぁぅぅっ!!姫神式も父上にお返ししますぅっ!だから、だからぁぁっ!わぁあああん!」

琳姫は必死に境佳の太ももにしがみつく。顔は涙でびしょびしょだった。

「ごめんなさいぃ〜〜!もう許してくださいぃ〜〜!うぇぁあああっ!!」


琳姫が余りにも泣き叫ぶので、境佳も十分かと思い本日のお仕置きは終了した。
後はいつものように下着を穿かせて服や髪を整えて、膝抱きであやしていたのだが……


「ふぇぇっ!でも……結局!この写真の子は誰だったのですか!?
本当に男の子なのですか!?わたくし、やっぱりこの目で確かめるまで納得できません!!
この子に会わせてください!!」

琳姫が大きな目を潤ませて縋ってくる。
あまりの疑われように悲しくなった境佳だが、このままだと疑いが晴れないようなのでしぶしぶ承諾する。

「分かった……会わせてやろう……」

琳姫の頭を一撫でした境佳が部屋を出て、それから数十分後……
現れたのは綺麗な銀髪の男。琳姫のところに来てテンション高めに抱きしめる。

「琳姫――――!!私に会いたがったんだって!?遊びに来たぞ――――!!」
「パパ様!?」

予想外の人物の登場&抱きしめ攻撃に、琳姫は驚いて目を白黒させる。
すぐに柔らかい薄桃色ロングヘアーの少女も入ってきて優しい笑顔で挨拶をする。

「こんにちは、琳姫」

この二人、男の方が境佳の幼い頃からの友達の閻廷。
少女は閻廷の娘の閻濡だ。二人一緒にこの城へよく遊びに来ていた。
閻濡が閻廷を“パパ”と呼ぶので琳姫は“パパ様”と呼んでいた。

「あ、あの写真の子はパパ様だったのですか?!」
「ん?」
「ほ、ほら!!これです!!」

琳姫が例の写真を閻廷に見せると、閻廷は嬉しそうに笑う。

「おおっ!懐かしいな〜〜!あの川は冷たくて気持ちいいんだ!きれいな石も落ちてるし!
今度一緒に行こうな〜閻濡♪」

閻廷の反応に、写真の少女もとい少年=閻廷という事実は確定した。
確かに写真の少年と同じ銀髪。しかも閻廷はどちらかといえば女性的な顔立ちなので
幼いころはきっと……言われてみればそう見えなくもない。

「パパ様だったなんて……父上の浮気だと勘違いしたわたくしは大バカです……」

しゅんと俯く琳姫に、閻廷が明るく笑いかける。

「境佳が浮気なんかするわけ無いじゃないか!アイツは昔からずっと玲姫殿一筋だったからな!」
「そっ、そうなのですか!?」
「ああ。そのくせになかなか『好きだ』って言わないから、ずっとずーっと片思いだったんだぞ?
あれ?玲姫殿も境佳が好きだったから両思いなのか?う〜〜ん……とにかく
ひたすら玲姫殿を密かに愛し続けてから、やっと結ばれた感じだな!」

初めて聞いた父親と母親の恋愛事情に琳姫は目を輝かせて身を乗り出す。

「パパ様!!父上と母上の若い頃の恋愛秘話、もっと詳しく聞かせてください!」
「パパ!ぼくも聞きた〜い!」
「そうか?閻濡と琳姫が聞きたいならパパどんどん喋っちゃうぞ☆」
「あ、待ってください!遊磨も呼んできます!」

この後遊磨も仲間に加わって、3人娘&閻廷の『境佳の恋愛裏事情暴露大会』が始った。
女の子達はおおいに喜んでいたという。
しかしこの2日後、電話口で境佳に怒鳴り散らされる羽目になる閻廷だった。



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