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姫神様フリーダム4




ここは神々の住まう天の国。
レースの付いた薄い生地の着物を纏ってさっぱり湯上りたまご肌なのはこの国の幼い姫君、琳姫。
今は昼間だけど、たくさん遊びまわって汗をかいたのでお風呂で汗を流したのだ。

「はぁ〜。いいお湯でしたね、きゅうり♪」
涼しい自室でベッドに腰かけた琳姫は満足そうに笑う。
そんな彼女の傍に控えるのはいつもの巨乳従者ではなく……
「ええ。とても気持ち良かったです
(立佳様に知られたら泣きながら責められるだろうななぁ……)」
秘かな気苦労を微塵も見せずにほほ笑む狐耳の青年は、“きゅうり”ではなく“球里(たまさと)”。
本来は琳姫の兄、立佳の従者だが、今日は何故だか琳姫の相手をすることになり、一緒に走りまわった挙句
「汗をかいたから一緒にお風呂に入ろう」と言われて断りきれなかった。
断ろうとしたら泣きそうな顔をされたから。
そんなわけで彼もラフな着物にスッキリ爽快肌である。

「しかし琳姫様、遊磨と一緒にいなくていいのですか?」
「そう!それです!」
球里が何気なく言った一言に、琳姫は思いのほか食いついた。
ベッドから少し身を乗り出して興奮気味に語る。
「今朝がた、兄上とケンカになりました!わたくしが遊磨の事すごいって言ったら、
兄上ったら、遊磨よりあなたのほうがすごいって言うんですよ!?
だからわたくしも遊磨のすごさを、いっぱい、兄上に説明したのです!
そしたら兄上も負けじと言い返してきて……!!」
「え?あ……」
「だから、遊磨ときゅうりとどっちが優秀か、それぞれ自分の目で確かめようって
ことになって、あなた達には今日だけ役目を交代してもらったのです!」
「そう……ですか……」
自分が琳姫の相手をしている理由を知った球里は、驚いて目を瞬かせた。
立佳がケンカになるまで自分を評価してくれているのかと思うと何だか照れくさくなって、
それを悟られないように、わざと張り切った声を上げる。
「では、我が主君に恥をかかせないよう、今日はしっかりと琳姫様にお仕えしなければいけませんね」
「だ、ダメです!!遊磨より優秀なとこ見せちゃダメです!
遊磨が、一番、すごいんですから!」
「あっはは……心配なさらなくても、遊磨は私なんかよりずっと優秀です」
本気で焦って首を横に振る琳姫が微笑ましくて、球里は思わず笑ってしまった。
琳姫の心を折ってまで遊磨に勝ちたいとも思わないし、むしろこんな態度をされたら
この従者を信頼しきっているの小さな主君を慰めてあげたくなったのだ。
だから、知っている遊磨のいい所全部、琳姫に話して安心させてあげようと球里は
「体力も根性もあるし、明るくて優しい娘ですよ。
小さい頃からよく働いて城の為に尽くしていました。私の事も“先輩”と慕ってくれて……」
にこやかに回想していたのだが、だんだん顔が曇り出して……
「ああ、尻尾に食らいつかれた事もありましたが、それはまだ良かったんです。
徐々に遠慮と言うものが無くなってきて……しまいには
“キュウリ”などと意味不明なあだ名で呼び出して……
最初はあんなに可愛かったのに!!いつから……一体、いつからこんなことに!!」
ほとんど心の叫びに近い回想を終えた球里は、床にめり込む勢いで塞ぎこむ。
あまりの嘆きっぷりに琳姫が慌てて駆け寄って起こそうとしていた。
「きゅうり!?きゅうり、ごめんなさい!
わたくし、悪い事を思い出させました!ねぇ、元気を出して!?
そ、そうだ!!お人形ごっこして遊びましょう!」
あわあわと駆けだした琳姫が持ってきた人形は、遊磨そっくりの中くらいのサイズの人形だった。
「ほら、遊磨2号です!今日はもう一人お友達がいるんですよ?
この子が、コンちゃんです!」
「あ……!」
球里は小さく声を上げる。
琳姫が“コンちゃん”と称した人形は、球里そっくりの人形だった。
しかもそれは、前に立佳が「無くした」と大騒ぎして球里と探した人形……
まさか今、琳姫が持っているとは思わなかった。
「琳姫様……その人形、立佳様の……」
「いいえ!わたくしの、コンちゃんです!」
琳姫は完全に自分の所有物にしてしまっているが、球里だって立佳が大切にしていた人形を見間違えるわけがない。
というか、自分の形をした人形なんてこの世界で1つであってほしい。
琳姫の発言は流す事に決めて、なるべく優しく説得を試みる。
「勝手に持ち出したんですか?
立佳様は無くしたと仰られて、必死で探しておられましたよ?
とにかく、それは立佳様に返してあげましょうね……」
球里が手を伸ばすと、琳姫はその手からコンちゃんを遠ざけるように体をひねる。
「いや!!コンちゃんは遊磨2号のお友達なんですから!
ずっとここにいて、これからも一緒に遊びます!」
「人のものを勝手に取ってはいけません。
せめて立佳様にもらっていいか聞いてからにしましょう?」
「いやです!貸してって言っても貸してくれなかったんですもの!
ダメって言うに決まってるじゃないですか!
コンちゃんは絶対に渡しませんからね!!」
「琳姫様〜〜……」

球里は仕方なく、という感じで琳姫の細腕に手を伸ばす。
小さくて軽い体は抱き上げるとふわりと浮きあがり、難無く膝の上に乗せることができた。
そして、薄い服の上からお尻をぽんと叩く。
「なっ!?やっ、やめなさい!何のつもりですか!」
「聞きわけの無い事を仰るのでお仕置きです」
頬を赤らめて抗議する琳姫を無視して、球里はもう2,3発小さなお尻をお仕置きする。
ただし、コケ脅し程度にごく軽く。
「お仕置きってあなた……ちょっと!わたくしは兄上ではないのですよ!?
こんな子供扱いは許せません!やんっ!」
「申し訳ありません。しかし、人の物を勝手に取ってしまうのも許されない事ですよ?」
大した音もしないほどの、ゆるいゆるいお尻打ちはきっと琳姫に大したダメージは与えられてない。
しかし、か細い悲鳴は聞こえるし抵抗されてるいので不快感だけは確かに与えているはず。
これで琳姫も嫌がって、大人しく人形を返してくれるだろう、それで終わりに……いや、ちょっとお説教だけ
と、球里は思っていた。思い込んでいた。確信していた。
だから気を使って琳姫にチャンスをあげたのだ。
「もう反省しましたね?その人形を立佳様に返してあげましょう。
球里もこれ以上琳姫様に痛い思いはさせたくあ……」
「黙りなさい!!」
しかし、物事はそう上手くもいかない。
雷でも落ちたかのような大きな声で琳姫が叫んで、せっかくの球里の気遣いが灰になる。
ビッグチャンスを灰にしたとも気付かない琳姫は元気に抗議を続ける。
「コンちゃんはわたくしのです!きゅうり!
あなたいい加減にしないと、遊磨に言いつけますよ!?」
「……困りましたね……」
「ね!ほら、困るでしょう!?あの子はああ見えて怒ると怖いのですから……
今すぐわたくしをお膝から下ろしてくれるなら、この事は遊磨には黙っててあげましょう!」
球里が困っているのは、すぐお仕置きが終われると思っていたのに意外とゴネられた事なのだが
琳姫は球里の言葉だけ聞いて、交渉成立だとでも言いたげに嬉しそうにしている。
足をパタパタしてるのも痛いからではなく気分がノッているからだろう。
そんな気分をぶち壊してしまうのを申し訳なく思いながら、球里は手のひらを振り下ろした。
「きゃああぁぁっ!?」
先ほどまでと違い、乾いた音が響いて悲鳴とともに琳姫の体が跳ね上がる。
「なっ、なっ、何をするのですかいきなり!言いますよ!?遊磨に言いますよ!!」
「ええ。どうぞご自由に。
念のためお聞ききしますが、人形は返す気になりましたか?」
「だ、だから、これはわたくしのコンちゃん……」
「立佳様のものです」
琳姫の言葉をピシャリと跳ねのけた球里。

「この球里、立佳様に“もし人形を見つけたらすぐ持って来て”と命じられております。
なので人形は返していただきます。貴女が返さないと仰せるなら
例え立佳様の妹君であっても容赦はできません。どうか御覚悟なさいませ」
「ややややれるもんなら、やればいいでしょう!
わ、わたくしはっ……そんな脅しには屈しません!」
……完全に涙目、体は震えていて、威勢がいいのは声だけだった。
それなら意地を張らずに返してくれたらいいのにと、思っても
琳姫は敵意むき出しのくせにうるうるした瞳で見つめてくるだけで
コンちゃんの手をぎゅっと握りしめている。
球里は内心ため息をついた。
(ああ、遊磨が知ったら絶対うるさく言われる羽目に……)
秘かにまた一つ増えた気苦労を隠しつつ、球里は手を振り下ろす。
最初の比ではない強さで。
叩かれた琳姫は堪ったものではない。
「やぁぁっ!きゅうり、貴方、もう!!わたくしに乱暴すると遊磨にお仕置きされますよ!?
とっても痛いんですからね!泣いても知りませんから!!」
「おや、琳姫様……遊磨にお仕置きされた事があるんですね」
「え!?あっ……いえ、その……一度だけです!」
「そういえば、遊磨と私のどちらがすごいか比べてるんでしたっけ?」
「え、ええ……」
「琳姫様はお仕置きはどちらが“すごい”と判断なさるのでしょうね……
この点に関してだけは、遊磨に負ける気はしませんが」
「そこが遊磨よりすごかったら……わたくし……!!」
本気で怯えた表情を見せた琳姫。
しかし時すでに遅し。次の瞬間には“すごい”平手をお尻に受け止めていた。
「いやぁあああっ!!」
琳姫は外に聞こえていそうなくらい大きな悲鳴を上げた。
球里的には立佳にするよりは手加減したつもりなのだが、琳姫には大ダメージだったようだ。
「いや――――っ!!痛い助けて遊磨―――――っ!!
ゆまぁ―――――っ!!やぁあぁっ!!」
(ぐっ……)
あからさまに自分以外に助けを求められると心が痛む。
立佳よりまだ体の小さい琳姫だから、立佳より押さえつけるのは楽だ。
それなのに、球里は立佳の時より数倍心労を感じていた。
しかし苦労は隠す、それが球里。
「遊磨を呼んでも無駄ですよ!
琳姫様、まだご自分が悪い事をしたとお気づきにならないのですか!?」
「うわぁあああんっ!!遊磨――――!!ゆまぁ―――っ!!」
「遊磨を呼ぶのをやめなさい!」
言いながら琳姫のお尻をバシッと叩くと、琳姫は火のついたような泣き声をあげた。
見ていると何だか可哀相で……萎れて頭にのしかかってくる狐耳が重い。
しかし、それをも耐えて、球里は何とか琳姫に改心してもらおうと声を張り上げる。
「持ち主の許可も無く、人のものを持って行ってしまって……
そういうのを何て言うか知ってますか?!“泥棒”ですよ?!」
「コンちゃんはわたくしの――――!!わたくしのです――――!!
あぁああああん!!」
「立佳様の部屋から勝手に持ち出したのでしょう!?
それがどうして琳姫様のものになるんですか!!」
「うわぁあああんっ!!兄上だからいいのです――っ!!」
無茶苦茶な事を言っている琳姫のお尻をまた何度も強く叩く。
服の上からだから分からないが、たぶんお尻も赤いだろう。
「いくら兄妹といっても礼儀というのもがあります!
そんな手癖の悪い事ではいけません!
立佳様が遊磨2号を勝手に持って行ってもいいんですか!?」
「いや――――――っ!!」
「だったら立佳様のものを勝手に持って行くのもおよしなさい!
もうしませんね?!」
「もうしません―――――っ!!」
「人形も返しますね?!」
「いや――――――っ!!」
「琳姫様!」
「わぁあああん!いや――――っ!!もう痛いのです―――――!
遊磨――――!!うわぁあああんっ!!」
球里は途方にくれる。
本気で泣き喚きながら暴れている琳姫をもうこれ以上叩きたくはない。
ただ人形を返すのが嫌なだけで、物を勝手に持ち出したのは反省したはずだ。
「もうしない」と言ったのは本心だろう。
しかし、このまま人形を返してもらえないのも困る。
考えた末、球里は最終手段に出た。
まずは手を止めて深呼吸。次に悲しげな表情で暗い声を出す。

「立佳様はあれでも繊細なお方です。
その人形が無くなった時も必死で探しておられました。
“お前がいなくなったみたいで気が気じゃない”と。
今も夜になるとその人形の事を想って泣き暮らしておられます……」
半分事実、半分嘘。
球里はわざと震える声で感情を込めて語る。
琳姫の様子をうかがいながら。
「私は……あんな立佳様のお顔を見るのは辛くて辛くて……ううっ、
夜も眠れません!!お願いです琳姫様……返してあげて下さい!後生ですから……ううううっ」
球里は片手で顔を覆ってよよと泣き真似をする。
すると琳姫は心配そうに球里の顔を見上げてきた。
「きゅうり……泣かないれっ、ひぅっ、返しますから……わたくし、返しますか、らっ
ひっく、ふぇぇっ……」
「返す」と、その単語が聞こえた瞬間、球里は琳姫を抱き起こして
喜びの感情を込めて思いっきり抱きしめる。
「あぁ!ありがとうございます琳姫様!!
これで球里も枕を高くして眠れます!!」
「ひっ、うっ、くすん。寝なさい!枕を高くして寝なさいぃ!」
球里が大げさに喜んで安心したのか、琳姫も球里にきゅっと抱きついた。
その時……
「あ ん た ……何やってんのよきゅうりぃぃぃっ!!
さっきから琳姫様の悲鳴が聞こえると思って来たら……琳姫様泣いてるじゃないの――っ!」

遊磨がすごい勢いで入ってきて、有無を言わせず球里に怒鳴り散らす。
一緒に入ってきた立佳の存在感が無くなるほどの激しさだった。
「鬼!!鬼狐!なんて可哀想な事を……何したの!?ねぇ、アンタ何したの!?
このっ、んぷっ……何コレっ、吐きそう……」
「遊磨ちゃん!!大丈夫!?オレの子!?心配ないよ、オレは認知するから!」
「トイレ行ってきます……」
おぼつかない足取りでトイレに歩いて行った遊磨。
さっきまで遊磨の横で彼女を心配(?)していた立佳は、頭にできた大きなこぶをさすっていた。
「球里ダメだよ。琳ちゃん泣かせたら」
「申し訳ありません。琳姫様が人形を……」
「人形?ああ――っ!!球里2号!!なぜ琳ちゃんの腕の中に!?
まぁいいや。ヘイ!琳ちゃん、パス!」
立佳が琳姫に向けて大きく手を開く。
しかし、いざとなってもやっぱりコンちゃんに未練があるのか
琳姫はコンちゃんごと球里にしがみついてしまった。
無視された立佳はおずおずと琳姫に声をかける。
「優しい琳姫ちゃん、返して下さい。球里2号」
「コンちゃんです……」
それだけ言って、球里にしがみついたままの琳姫。
球里に“どうしたら……”という視線を投げかけられて、
立佳は困ったように頬をかいた。
「そんなに気に入ったならさ、時々貸してあげるから。
前に貸さなかったのは悪かったよ……だから返して。
コンちゃんばっかり構うと、遊磨ちゃん2号が寂しがるよ?」
そう言われてやっと、琳姫はしゅんとした表情ながらも立佳の前に歩いて来てコンちゃんを差し出す。

「ごめんなさい……」
「ん?何の事ぉ〜〜?
コンちゃんの事、見つけてくれてありがと、琳ちゃん♪」
立佳が笑顔で琳姫の頭をぽよんと撫でているところに、遊磨が壁伝いに重い足を引きずって歩いてきた。
驚くほど蒼白な顔で、それなのに必死の笑顔で琳姫に声をかける。
「り……りんぎ様、遊磨がぎだがらにはもう大丈夫……今ずぐごの鬼狐を成敗じで……」
「ゆ、遊磨!そんなヨロヨロで無茶はおやめなさい!!
貴女がここに戻ってきただけで何だかホッとしてるのですから……」
「……琳姫様……」
「わたくし、やっぱり貴女がいいです……」
琳姫に抱きつかれ、遊磨は球里への怒りを忘れたようだ。
今は穏やかな顔で琳姫を抱きしめていた。
姫神主従の仲良しさを見せつけられた立佳と球里は顔を見合せて笑う。
「オレ達邪魔そうだし、帰ろうか?」
「そうですね……」
「オレも、やっぱりお前がいいよ♪」
「……おだてても何も出ませんよ?」
「も〜、素直じゃないなぁ。耳と尻尾は嬉しそうなのにぃ〜」
そんな事を言い合いながら立佳と球里は琳姫の部屋を後にして
幼神兄妹の一日従者チェンジは幕を閉じた。


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【おまけ】

「立佳様……」
「なぁにコンちゃん?」
「やめて下さい!“立佳様は妹君にはお優しいですね”と褒めようとしたのに!」
「まぁね〜♪琳ちゃん可愛いし!
本当はコンちゃんも、琳ちゃんが持ってた方が似合うんだろうけど……」
「けど?」
「人形とは言え、琳ちゃんに取られちゃうのはシャクなもんで」
「立佳様……」
「フフン、感動した?」
「私達も……結構仲良し主従ですよね?」
「もっちろん!こっちはオトコの熱〜い主従関係、オナゴ共には負けんよ♪
ところで球里、これ、一番重要な質問なんだけど……」
「何です?」
「琳ちゃんのパンツ、何色だった?」
「貴方も私にお仕置きされたいのですか?」
≪強制終了≫


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