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姫神様フリーダムanother(和とお父様編)



ここは神々住まう天の国。
神王・和は単身、父である央の住む城に来ていた。

「珍しいな。お前が一人で訪ねて来るなんて」
「たまにはいいでしょう?」
「無論だ。歓迎する」
向かいに座った央の笑顔は、和にはどこか澄ましているように見えて、
笑顔を返せないまま話が続く。
「……今日は、お父様とお話したい事があって来ました」
「ほう?その難しい顔から察するに、良くない話か?
珍しく訪ねてきた息子とは楽しい話をしたいものだが」
「……穂摘の話です」
瞬間、央の表情も硬い物になる。
そして呆れたように困ったように言う。
「まさか本当に、こんな所まで口論をしにきたのか?」
「喧嘩をしに来たつもりではありません。
けど、私はお父様の気持ちが知りたい……!!
今までその話題は避けてきた!きちんと穂摘の事、話したこと無かったでしょう!?」
「…………」
央は参ったように目を閉じて頭を押さえつつ、言葉紡ぐ。
「……私は、今でもお前をあの娘から引き離した事を間違っていたとは思わない。
更姫を妃として、きちんとした後継者の尊がいる今の状況がお前のあるべき姿だ。
お前は相当に恨んでいるだろうけれど、父親として……
お前の未来を見据えた判断を貫いて良かったと思っている」
「…………」
「けれど……」
「!」
何も言えずに央を睨みつけていた和は、想定内のこの言葉に続きがある気配に驚く。
央は悲しげに目を伏せて話を続けた。
「今となっては、あの娘の為にもっとしてやれた事があったのではないかとも後悔している……。
結局は我々の都合で振り回して、見殺しにしてしまったようなものだ。
あの時はお前の事で頭がいっぱいだったけれど、せめて彼女の人間としての生を、幸せを、
全うできるように手を入れてやるのが道理だったんだと思う……。
本当に可哀想な事をした。彼女にも、誉にも……彼女の周りの者達にも。
私とて、更姫の父親のつもりだからな。……彼女の父親の気持ちを想うと言葉も出ない……」
央の言葉は和にも重くのしかかる。思わず涙が流れるほどに。
ここまで言うと、央は和を真っ直ぐ見つめて真剣に言った。
「……これが私の答えだ。満足か?」
「……っ……」
「……和、色々辛かったろうがいくら泣かれても……
“私が間違っていた。あの娘を妃にする事を許してやれば良かった”とは言えんぞ?
お前も、いい加減に更姫の方に気持ちを傾けてやらんと彼女が不憫だと……」
「穂摘を軽く見ないで下さい!!私は今だって彼女と更を同じくらい愛してるんです!!」
「和……」
央はますます困ったように眉間にしわを寄せる。
そんな父を見ても和は涙声で叫び続けた。
「穂摘と無理やり引き離された事も!誉を殺せと言われたことも!
絶対忘れられないし許せません!今でも貴方に対して不信感でいっぱいですよ!?
本当に私の事考えてくれてるのかって!愛してるのかって!自分の体裁しか考えてないんじゃないかって!
私の事、恥ずかしい息子だって思ってるんじゃないかってぇっ!!」
「落ち着きなさい……そんな事……」
「落ち着いてます!!分かってます!!こんな事を言いに来たんじゃない!
本当は全部分かってるんです!私が全部悪いんです!私が、言いたいのはッッ――」
泣き喚く和はここで立ち上がって、
「ごめんなさい……!!」
子供のようなしゅんとした表情で央を見つめて、謝る。
その後はボロボロと涙を流した。
「悪い子でごめんなさい……!
そんな顔ばかりさせて、心配ばかりかけてごめんなさい……!!
ダメな息子でごめんなさい……!
貴方の……望むような、息子になれなくて、ごめんなさい……!!」
涙ながらに謝り続ける和はだんだん崩れ落ちて、その場にへたり込んだ。
央はとっさにそんな和の傍に寄って、抱きしめた。
すると、和が央に縋り付いて泣きながら言う。
「今まで、ずっと……っ、謝ってなかったからぁぁっ……!!」
「そう言えば……そうだったか……」
「うぇぇっ、うぅぅぅ!!」
泣いている和の頭を撫で、央は優しい声で言う。
「……お前の事、当時は相当周りから色々言われた……
全員ブン殴ってやりたかったよ。“お前等にあの子の何が分かる”って……。
お前には散々手を焼かされるが……おおむね、私の望んだ素直で心優しい息子だ。
自分をそんな風に思って追い詰めるな」
「うぁぁ……お父様ぁぁっ……!!」
「いい子だ和……きちんと“ごめんなさい”できたな?」
「うぁああああん!!」
和は央に撫でられながら思い切り泣き縋って……
しばらくすると、落ち着いて我に返る。
そして、ものすごく恥ずかしそうに赤面して央から離れて、
お互い元の位置に戻って仕切り直す。

「……取り乱してしまって、申し訳ありませんでした」
「構わない。久しぶりにお前の可愛げのある姿を見られて嬉しく思うぞ」
「茶化さないでくださいます!?まだ真剣な話をしたいんですから!!」
「はは、済まないな。続けてくれ」
「〜〜っ!!」
相変わらず赤面気味の和は央を睨みつけたが、大きく深呼吸して穏やかに言う。
「……今日は、来て良かったです……。
お父様が穂摘の事、気にかけて下さっていたことが分かりました。嬉しかった……」
「そうか……」
央も嬉しそうに頷いて、なごやかに会話は進んでいく。
「今度は更や尊も連れて来ます。許されるなら、誉も……」
「ふふ、私は構わないけれど……誉は嫌がりそうだな……」
「本心では来たいと思うはずですよ。あの子は素直じゃないから……」
「お前に似たか?」
「帰ります!!」
が、長くは続かず和が立ち上がろうとする。
「あ、待ちなさい」
「何ですか!?」
そして引き留められて、和が苛立ち気味に央に尋ねると、
「……和、お前更姫に聞いたけれど……酔った勢いで他所様の姫君に手を出したって?
更姫が泣いていたぞ?」
「え゛!?」
完全に変わる流れ。
思わぬところからの追及に、態度が急激にしどろもどろになってしまう。
「い、いえ……手を出したと言うか……少々……口説いた、みたいで……」
「何だ?はっきり言いなさい」
「ですから……多少、口説いた、と言いますか……」
「和……」
央の呆れ+怒ったような表情と声に、和の息子としての勘が危険を知らせてくる。
無意識に言葉が、態度が、この危機から逃れようとしてしまう。
和は必死になって央に言った。
「とんでもない事をしたのは自分でも分かってます!
その件に関しては、重々反省したんです!更にも酷く叱られてしまったし……!」
「更姫がお前に強く言えるわけがないだろう!?」
「あの子だってやる時はやるんです!!」
「お前は……更姫は泣きながらでもお前を庇っていたのに、
更姫を盾に言い逃ればかり……!」
「べっ、別に更を盾にしてるわけでは……!」
「そんなに……」
央が和を見据えて薄っすらと笑う。
「私にお仕置きされるのが怖いか?」
瞬間、和には悪寒が走ったが、平静を装って言い返した。
「怖いと言いますか、ぜひご遠慮願いたいですね……!
いつまでも子供扱いは困りますよ!?」
「いつであろうと息子が悪い事をしたら躾けるのが父親の義務だろう?
まぁ確かに、普通は大人になればこんな事をされるような悪さはしないものだがな?
褒めた直後で可哀想に思うが仕方のない事……和、こっちへ来なさい」
「あ、の……からかうのも大概にしていただかないと本当に帰……」
「逃げるのか?帰れるものなら帰ってみろ」
「…………」
和は出入り口のドアをチラリと見る。
央の口ぶりではこの部屋から出る事は出来ないのだろうと悟り、
なおかつ、あまり逃げ回るのもカッコ悪いと考え……
「い、いいでしょう……!貴方のなすがままになります……
子ども扱いがしたいならどうぞ!困ったお父様ですね!!」
精一杯のプライドを保てる態度で央の傍に行く。
ものの――
「…………」
「……ぁぁ……」
いざ、土壇場になると過去の恐怖感やら今の羞恥心やらがごっちゃになって
和は思わず
「ご、ごめんなさ……っ!?」
謝った瞬間に膝に引き倒される。
その上に着物を捲られたり、下着を脱がされたりで、
和の頭の中では“まずい”と“どうしよう”という感情ばかりがガンガンと明滅していた。
「お父様!!何脱がして待――」
「少し目を離している隙に、随分と自堕落に振る舞うようになったじゃないか和?」
バシィッ!!
「ひぁっ!!うぅっ……!!」
肌を直接叩かれた痛みで思わず漏れた悲鳴を、慌てて手で覆う和。
同時に、途方もない羞恥心も襲ってくるけれど、
央の方はそんな和の心など知る由も無く、平然と平手を追加してくる。
「王となり父となり……、一人前気取りで、もう自分には私の躾の手は及ばないと勘違いしたか?」
「う、くっ、そんな事ぉぉっ……!」
ビシッ!バシィッ!!
「うあぁっ!や、やめてくださいもう充分です!!」
「……その態度では許してやれんな?」
「このっ、ような辱めを受けて!!まともな、態度でいろと言うのが!無理な話です!!
こちらにそれを、求めるなら!そちらも相応の扱いを……」
とにかく痛いのと恥ずかしいのでどう振る舞って分からなくなってきた和は
必死で冷静なポーズを取ろうとするが、
「和!」
ビシンッ!!
「あぁあっ!!」
「変に余裕ぶってないで素直に反省したらどうななんだ!
どうせこの場には我々しかいないんだから!!」
バシィッ!ビシィッ!バシッ!
央に叱られて、余計に厳しくお尻を叩かれてしまう。
「生意気な事しか言えないなら数を数えさせてやろうか!?それとも泣かせた方が早いか!?」
「いっ、嫌だ!嫌です!!」
「だったらまず最初に言う事があるだろう!?」
バシッ!ビシィッ!バシィッ!
ずっと強めに叩かれているお尻もすでに真っ赤になってしまって、
和がとうとう……
「うぁあああんごめんなさぁぁい!!」
半泣きで叫ぶ。
“この場には我々しかいない”という言葉で少し気楽になったのか、
央の厳しさに押し負けたのか、幾分か自然体に近い状態で痛がって喚いた。
「ご、ごめんなさい!もうしませんから!もう許してください!痛いぃっ!!
反省しましたからぁぁ!!」
「ちゃんと言いなさい!何を反省したって!?」
「あぁあっ!もう、飲みすぎたりしませんから!!他所の姫君に無礼な真似もしませんんっ!ひぅうっ!!
自制します自制しますぅぅっ!」
「今恥ずかしいと思うなら、二度とこんなお仕置きをされるような事をするんじゃない!」
「うぅううごめんなさいぃっ!!」
バシィッ!バシンッ!ビシッ!!
何度か素直に謝るけれど、央が一向に手を止めてくれないので
和はじっとしている余裕も無くなって、緩く暴れて本格的に泣き喚き始める。
「はぁっ、あぁ、あああお父様ぁっ!ごめんなさいごめんなさぁぁい!!わあぁああん!!」
「また何か悪い事をしたら、こうやって痛い目に遭わせるからな!?
更姫や尊を泣かせないように真面目に過ごしなさい!」
「わ、分かりましたぁ!ごめんなさい!ごめんなさいもうやだやめてぇぇっ!!
うぁあああん!!」
「全く……お前は一度初心に返って素直になった方がいいから、もう少しお仕置きだな!」
「そんな待ってやだぁぁぁあっ!痛いぃうわぁあああん!!」
バシィッ!ビシッ!バシィッ!!

と、もうしばらく泣かされた後、許してもらえた和だったが……
央に抱きしめられて頭を撫でられると、また涙声で反発を起こしていた。
「子供!扱いを!しないで!下さい!!」
「……ならどうやって落ち着かせたらいい?」
「そんなものは!貴方の手を借りずとも!!勝手に!落ち着かせていただきます!!」
「……やれやれ……なら私は動かずにいようか……」
と、頭を撫でていた手を和の背中に添えて、央が優しく言う。
「けれど和……尊の事は抱きしめて撫でて、甘やかしてやれ。あの子はまだ子供だ。
お前にそうされる事を、いじらしく望んでいたぞ?」
「!!」
「……あの子の将来の事も……色々と道を考えてやってくれ。
私も、今度はお前の気持ちを汲んで……力になりたいと思っているから……」
「……ありがとう……お父様……!!」
震える声で涙を流す和の頭を、央がまた何度も撫でる。
和は何も言わずに央にしがみついていた。


そして、落ち着いた和は自分の城へ帰って来る。
と……
「和様!!」
出迎えてくれたのは、心配そうに瞳を潤ませる更だった。
「あ、あのっ……ご無事ですか!?ごめんなさい!更が……!更がお父様にっ……!!」
「更、心配しなくていい……」
和は優しく更の手を取って言う。
「悪いのは私だ。お前は何も悪くない。大丈夫、お父様からは軽く注意される程度で済んだから」
「よ、良かった……!!お父様……“きつくお尻を叩いて叱ってやろう”って仰っていたから……!!
和様が痛い事をされてしまったらどうしようかと……!!」
「あ、はは、可愛い娘の前では大げさな事を言いたかったんだろう……
困った、お父様だな……!」
和がひきつった笑顔を浮かべていると……
急に小さな影が背面から激突する。
「ちょっとお父様ッッ!!」
「ぃ痛った!!」
「??あら、そんなに痛かったかしら?」
不思議そうな尊は和のお尻に衝撃を与えた上に、腰に縋り付いていて、
和は響いてくる痛みに耐えながら言う。
「尊!!その、離れなさい!急にタックルしてくるのはやめないか!!」
「それはそれはごめん遊ばせ〜?
それよりも!!ズルいですわ一人でおじい様に会いに行くなんて!!
私だってお会いしたかったのに!!」
澄まし顔でササっと和から離れて怒る尊。
和は、先ほどの央の言葉を思い出して、体をかがめて尊を抱きしめ、優しく撫でた。
「済まなかったな、尊……次は一緒に行こう」
「……ふ、ぇ……??」
尊は驚いたように目を見開いて、みるみる顔を真っ赤にして……、
勢いよく和の手を跳ね除ける。
「いっ……いやぁああああっ!!もういきなり何てことしますの!?
髪型が乱れるじゃないですかぁッ!!直してきますぅぅっ!!」
「えぇえええええっ!!?」
尊に全力ダッシュで逃げられてしまい、呆然とする和。
しかし、更が和の袖を遠慮がちに引っ張ってニッコリと笑う。
「……尊、嬉しそうでしたよ。和様」
「……そうか。ならいい。さすが母親だな更」
と、和も安心したように笑うと、更が恥ずかしそうに喜んでいた。



【おまけ】

尊「はぁああああ〜〜……」
雪里「ど、どうかしましたか姫様??」
尊「……あのね、さっきお父様が珍しく優しくしてくれたのに……怒鳴って逃げちゃった……。
  だ、だって……あんないきなりぎゅって……あまつさえあんな笑顔で撫でてくれるなんて反則ですわ!!
  でも……お父様ヘタレだから……落ち込んで、もう二度としてくれないかも……!!」
雪里「あはは、そんな事無いですよ。次は、恥ずかしがらないで喜んで差し上げてください」
尊「そ、そう??そうね!次は、もっと撫でたくなるような、すっごく可愛い笑顔を向けてあげるわ!!」
雪里「その意気です姫様!」




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【作品番号】HSB20

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