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姫神様フリーダム11



ここは神々の住まう天の国。
球里の故郷の山の中、実家にて。
時期外れの“発情期”が耳付きの精霊たちを襲い、球里も実家へと戻ってきたのだ。
そこに、球里の妹分の桃里や遊磨も合流して、だいぶ賑やかになった所に、
境佳から、家出した和(より)王の第一王女、尊(みこと)姫の捜索を頼まれ、
雪里という狐の女精霊の協力を得て、無事に尊姫を発見できた球里。
しかし、すべての元凶である“時期外れの発情期”の話題を口にした途端、
一緒にいた雪里が急に飛び出してどこかへ行ってしまう。


「お願いです球里さん!!雪里を追いかけて!!」
尊に縋り付かれた球里は、呆然としていた。
が、ハッとして尊に首を振る。
「いいえ。まずは貴女を和王……和様の元に送り届けるのが先です。
彼女もこの山の者なら、土地勘もありましょう。多少は一人にしても大丈夫なはず」
「そんな……!!お願いです!雪里を一人にしないで下さい!
様子がおかしかったわ!あの子が本気で逃げたのなら、私では追いつけない……
それにきっと、私より貴方に助けてほしいはず!!」
「彼女と会って間もない私が追って何になりましょう?」
「いいえ!!」
困惑する球里に、尊はキッパリと言う。
「雪里はきっと、貴方の探している弟分です!!あの姿は術で化けてるの!!
あの子は自分の姿に自信が無くて……兄代わりなら彼の性格、知ってるでしょう!?
行ってあげて!私は絶対逃げたりしません!」
「!!」
球里は驚いて、
「尊姫……少し失礼します!!」
迷いなく雪里を追うために飛び出した。



「雪里!!」
白く美しい狐耳女性の後ろ姿に呼びかけると、
足は止めたが、球里の方を振り返らずに声を震わせる。
「何故……追いかけてきたの……?貴方、私のストーカー……?」
「尊姫から全部聞いた!もう女のフリをしても無駄だ!お前は雪里、なんだろう!?」
「……球里、兄さん……!!」
泣き崩れるように顔を覆った雪里の、術が解ける。
黒い毛並み、色黒の肌の、成長した懐かしい弟分の姿を見た球里は、
駆け寄って自分に向い合せた。しっかり肩を掴んで呼びかける。
「雪里!!お前何してたんだこんなところで!!」
「ど、どうしよう球里兄さん!!俺、俺っ……発情期って何!?
山の外にも被害が出てるって何!?全部俺のせいなの!?
そんなつもりなかったのに……!!どうしよう、どうしよう球里兄さん!
俺……とんでもない事……!!」
酷く錯乱した様子の雪里は顔を上げようとしない。
球里は冷静に声をかけた。
「落ち着け。とにかく一緒に里様の家に戻ろう。桃里も待ってるんだ。
お前が何をしたか、全部話してくれるな?」
「む、無理……!!俺、よく分からない内に、大悪党で名が通ってるんだよ!?
きっと戻っても桃里姉さんに軽蔑されて、里様の汚点になるんだ……!!
もういいよ誰か呼んで!俺を大罪人として捕まえて!!」
「里様も桃里も私も、噂話なんて信じていないし、お前を大悪党だなんて思ってない!
お前の帰りを待ってるんだ!里様はお前と一緒に暮らしたいと思ってくださってる!
嫌だと言うなら、縛って引きずってでも連れて帰って、全部話すまで拷問にかけるぞ!!」
錯乱で暴走気味になっている雪里へ、球里が強めにそう言ったところ、
やっと顔を上げた雪里が真っ青な顔で涙を流しながら呟く。
「そ、そっか……!球里兄さんは今、城仕えだっけ……?
きっと拷問とかいっぱい知ってるよね……?
あぁ、怖いけど、球里兄さんに嬲り殺されるなら……いいかな……」
何か言えば言うほど混乱していく雪里に球里は困ってしまって、
とにかく落ち着かせるべく、雪里の頭を撫でながら優しく言い聞かせた。
「……とにかく落ち着きなさい雪里。ありのままを正直に話してくれるだけでいい。
誰も、お前に怖い事はしないから」
「うっ……ううっ……!!」
嗚咽する雪里はやっと、球里に連れられて尊の待つ家へ戻ってくれた。


尊も雪里の顔を見ると心からホッとした表情を浮かべる。
「雪里!!良かった無事で!!」
「……姫様、私が死刑になってもどうか悲しまないで下さい……!!
雪里の一生は姫様のおかげで幸せでありました……!!」
「死刑!?ど、どういう事!?貴方を死刑になんてさせないわ!!
私がお父様に頼むから!!」
「……尊姫、気にしないで下さい。
雪里が怯えるあまり有り得ない事を言っています」
「そうなの!?良かった……怖がらなくてもいいのよ雪里。私が、守ってあげるわ」
まだネガティブな雪里を慰める尊を心強く思いながら、
雪里を女の着物から着替えさせて、球里は二人を引き連れて実家へと戻る。



そして、球里達の帰りを待ちわびていたのは……
「尊!!」
「お父様……!!」
「何をしてるんだお前ぇぇっ!!心配ばかりかけるんじゃない!!
あぁ、無事で良かった……見つかって良かったぁぁ……!!」
「ご、ごめんなさい……!!」
真っ先に尊を抱きしめた、尊とよく似た容姿の父親の和。
父の涙声に、尊も泣きそうになっていた。


一方……
「ゆ、雪里!?……雪里ぉぉぉお!!」
「桃里姉さん……!!」
「バカバカバカどこにいたのよぉぉおおっ!!
違う、違うの、ごめん!!ごめんね、一人にして、ごめんねぇぇっ!!」
「姉さん……姉さんっ……!!」
雪里と桃里は抱き合って泣いている。


そして、この状況を安心した様子で眺めるのは境佳と閻廷で、
閻廷はニコニコして楽しそうだ。
「感動の再会ラッシュだな!」
「ご苦労だったな球里……」
境佳にそう声をかけられて、球里は畏まって膝をつく。
「主上様、閻廷様……いらしてくださるとは……!!
ご心配をおかけしております」
「長里の不在時に、大勢で押しかけて済まない。
お前の様子が気になったのと、今回の“発情期”の件で、現地調査をしようという事になってな」
「机であーだこーだ言っても全く埒が明かなかった!元気そうで安心したぞ球里!」
「遊磨もな?」
そう言う境佳に睨まれた遊磨はものすごくしゅんとしていた。


球里は少し迷ったけれど、今、雪里の事を話してしまおうと境佳達に言う。
「あの、主上様、閻廷様……来ていただいて早々なのですが、
この山で起きている“発情期”の件で犯人らしき者を見つけました」
「「えっ?」」
驚く境佳や閻廷の前に、球里は雪里を連れてくる。
そして、オドオドしている雪里に代わって説明した。
「この者、雪里と申します。
私の弟分のようなものでして、酷く小心者で……
勝手なお願いとは存じますが、まずはどうか穏便に
話を聞いてやっていただけないでしょうか?」
と、いう球里の話を受け、境佳は真剣な顔をして、閻廷は明るく笑う。
「そうか……お前が……」
「大丈夫だぞ雪里とやら!境佳は怖く見えるかもしれないけれど、優しいから!」
「余計な事を言うな!」
「あ、ほら怒鳴る!」
閻廷に笑いながら指を差された境佳は言葉に詰まる。
そして、閻廷を小突くと軽く咳払いをして雪里に優しく微笑みかけた。
「雪里、怖がる事は無い。私は球里の事は息子のように思っているんだ。
その弟分ならお前も息子のようなもの。
まずはお前のした事を、そうした理由を、ありのまま話してくれないか」
「ありがたいお言葉……さぁ、雪里」
球里に促されて、雪里は口を開いた。
「……あの、発情を、引き起こす的な、薬を作たくて、試作してました、毎日。
たぶん作ってるうちの煙や何やらが風に乗って皆の体調を狂わせて……。
私は作っているうちに薬に免疫ができて、平気だったんだと、思います。たぶん。
どうしてそうしたかと、いうと……」
雪里の説明は早くも途切れ、球里が心配そうに声をかける。
「雪里どうした?」
「……ええと、どうしてそうしたかと、いうと……」
「大丈夫、ゆっくりでいい」
境佳もフォローするが……
雪里は俯き目線の目を見開いて、冷や汗を垂らす。
しばらく言葉に詰まって。
そして、大声で叫んだ。
「発情期になれば、山の耳付女と思いっきり交尾できると思ったからですッ!!」
そのセリフの後に、全体的に静まり返る。
神王3人と尊は呆然とした表情で、兄姉代わりの二人は真っ青になった。
「……雪里?お前……嘘だろう……?」
球里が、信じられないといった様子で声を震わせ
「うっ……うわぁああああああんっ!!!」
「桃里さん!」
泣き崩れた桃里に遊磨が寄り添う。
閻廷もどうしていいか分からない様子で、境佳に声をかけ、
「境佳どうする?男としては無罪だろうか?」
「……お前は……」
境佳は当然、
「お前はそんな身勝手な理由でこんな大迷惑な事を引き起こしたのか!?」
雪里を怒鳴りつける。
しかし、怯えっぱなしの雪里は涙目になりながらも境佳に大声で言い返した。
「その通りです!何としても女を抱きたかった!
貴方方のような見目麗しい王族方には、女に相手にされない私の気持ちなど分かりまするまい!!」
「境佳!無罪だ!!」
「黙ってろ閻廷!!」
この混乱の中に、突如ひときわ大声が響く。
「う、嘘よ!!雪里はそんな理由で悪い事をする子じゃない!!」
尊は力強くそう言うと、雪里には必死の様子で言う。
「ねぇ、もっと他に事情があるんでしょう!?
貴方は、気が弱いけれどとっても、優しい子だもの!
私にとっても優しくしてくれた!」
しかし雪里はそんな尊を嘲笑うようにニヤリと笑った。
「は、はは……そうです……姫様には全力で優しくさせていただきました。
さぁ、もっと私を庇ってください!?王様方に私を無罪にするように頼んでくださいよ!
何のために姫様に恩を売ったと思ってるんです!?」
「「「!!!」」」
この雪里のセリフで神王3人の表情が一気に険しくなり、
球里も怒ったように雪里の肩を揺する。
「雪里……お前!!」
「もう嫌ぁあああああっ!!」
桃里は二回目の大号泣だ。
しかし、尊だけは冷静だった。
「そう……分かったわ……」
静かにそう言うと、尊は急に和から……
全員から距離を取るように走って、勾玉のペンダントを外して叫ぶ。
「誰も動かないで!!誰か一歩でも動いたら私、これで自分の首を絞めて死ぬ!!」
「尊!?何してる!?」
和の言葉を無視して尊は球里へ大声で言った。
「さぁ、雪里!私を人質にこの場から逃げればいいわ!
貴方、私を利用したんだって言いたいんでしょう!?
けど私、利用されてたとしても貴方の事好きだもの!一緒に逃げましょう!」
「姫様、何言って……!?」
「嬉しいでしょう!?早く!悪党っぽく私を攫って逃げればいいじゃない!
それが、できないなら……」
尊は目にいっぱいの涙を溜めて叫ぶ。
「悪い子のフリなんか、しないでよ!!
分かってるの!雪里が言えないなら、私の為なんでしょう!?
私の事庇ってるんでしょう!?雪里はいい子なんだから!!
これ以上、貴方が周りから誤解されるのは嫌!!」
「姫……様……!!」
「私がっ!泣いてるの雪里!!
いつもみたいにオロオロしながら自爆してよぉおおっ!!」
尊がそう泣き叫んだ瞬間、雪里も地面に埋まる勢いで頭を下げて叫んだ。
「うわぁあああ!!お許しください!!
姫様の!恋が成就すればいいと思って、惚れ薬を、作っていました!!
姫様のお役に立ちたかっただけなんです!!発情期なんて起こす気は無かった!!
球里兄さんが教えてくれるまで何も知りませんでしたぁあああっ!!」
「や、やっぱりね……!」
ホッとした様子の尊が雪里に駆け寄って、抱き付いて泣いていた。
「バカ!雪里、貴方バカだわ!!
私、惚れ薬なんて使って愛してもらっても全然嬉しくない!!
女の子のフリは上手いくせに、女心は全く分かってないんだからぁっ!!」
「ごめんなさい!ごめんなさい姫様!!私が勝手にした事で……姫様にもご迷惑を!!」
「迷惑なんかじゃない!!貴方に、こんな事させてごめんね……!!」
抱き合って泣く尊と雪里を見て、閻廷は境佳へと困った顔を向ける。
「……境佳」
「……幸い、起こった事は“発情期”だ。被害らしい被害は無かったし……。
後で雪里に詳しく話を聞こう。本当に雪里のした事が原因だったとしたら、
長里に協力を扇いで、“犯人はいなかった”という事で処理してもらおうか?
雪里が作っていた惚れ薬の成分が分かれば、治め方も分かるだろう。
問題は、雪里が犯人だった場合の処遇だが……」
境佳もやりづらそうな顔で悩んでいると、球里が必死に頭を下げる。
「主上様!!どうか、罰なら私がいくらでも受けます!!
ですからどうか、雪里の事は厳しくしないでやってください!!」
頼み込む球里の横へ、桃里も入ってきて頭を下げた。
「私も!私も雪里の分の罰を受けます!
雪里を少しでも許してあげてください!お願いします!!」
「桃里!口を挟むんじゃない!!」
「嫌よ!兄さんばっかり格好つけないで!!」
そんな球里・桃里を見かねてか、遊磨もオロオロと境佳へ懇願した。
「あ、あたし……部外者かもしんないですけど!
あたしからも、どうかお願いします!!」
皆に必死に頼み込まれ、尊と雪里はお互い泣いている。
そんな状況で、境佳も閻廷も困り果てて考え込む。
そこへ……
「雪里という者の処遇、私に任せてもらえないだろうか?
尊が関わっているようだし、あの子と、とても親しい様子だ。放っては置けない」
そう言って歩み寄ってくる和。
尊が慌てて雪里の前に出て庇うように両手を広げた。
「な、何……?お父様でしゃばって来ないでよ!雪里に酷い事しないで!!」
「尊!!」
「!!」
「お前はどれだけ無茶をすれば気が済むんだ!
家出の事といい、後で厳しく罰を与えるからな!!」
「っ……うぅっ……!!」
和に怒鳴られ、尊は勢いを無くして泣きながら雪里に抱き付く。
「姫様……!!」
「和様、どうか……!!」
必死な球里を手で制して黙らせ、和は雪里へ厳しい表情で言った。
「雪里、お前の身柄を我が城に無期限で拘束させてもらう。尊の、従者として」
「「!!」」
驚く尊と雪里へ、和は表情を崩して笑いかける。
「文句は無いな?」
「お父様……お父様!!」
「ありがとう……ございます……!!」
「雪里!!」
涙を流す雪里に、抱き付く尊。
球里や桃里も涙を浮かべて、嬉しそうに和にお礼を言った。
「和様……ありがとうございます!!」
「ありがとうございます!!」
「きゅ……球里、桃里さん、良かったね!!」
遊磨も喜んで、境佳や閻廷も笑顔で和を称える。
「お見事。和殿」
「和殿カッコいい!!」
「……いや、尊の様なやんちゃ者の面倒を見てくれそうな従者が
見つかって、こちらもホッとした」
和自身は照れくさそうに笑っていた。


こうして、球里達を襲った『時期外れの“発情期”』事件は、ひとまずは無事解決した。
境佳・遊磨・閻廷・和・尊、は先に城へ帰る事になり、球里・雪里はもう少し実家でゆっくりしてていいと
いう事で、山に残る事になった。
球里・桃里・雪里は久々に兄弟3人揃って、懐かしい幸せに包まれていた。
おやつの抹茶ケーキを食べながらたわいもない話をしていると、雪里がおずおずと言う。
「……球里兄さんも、桃里姉さんも……俺の事、怒ってないの?」
球里と桃里は顔を見合わせて笑う。
「怒ってるに決まってるじゃないか雪里。心配ばかりかけてお前は」
「そうよ。尊姫を庇うためとはいえ、境佳様を怒らせるような理由を言って、
私、本当にもう雪里がクズになったかと思って……思いだしても腸が煮えくり返るわ」
「えっ……えっ……?ごめんなさい……」
戸惑い気味に謝る雪里。
球里と桃里の感情の籠ってない笑顔が会話する。
「いつから始めようかと考えてたけど、今からでもいいか、桃里?」
「そうね球里兄さん。もうタイミングなんていつもで同じだわ」
「なっ、何……?」
ますます戸惑う雪里は、球里から宣告された。
「お仕置きだ雪里。こっちに来なさい」
「おし、おき……?」
その言葉に雪里は顔面蒼白になって首を振った。
涙目になって後ずさる。
「いっ、嫌だ兄さん!!命に関わる場所以外のありとあらゆる部位を死ぬ寸前まで甚振り倒すの!?
骨とか内臓とかは勘弁して!!」
「いい加減、拷問から離れてくれ!!お尻を叩いてやるんだ早く来い!!」
球里が突っ込み気味に叫ぶと、雪里は今度は真っ赤になって首を振る。
「えっ、何で嫌だ!!子供じゃないのに!!」
「嫌だ嫌だとお前はっ……!!」
球里が痺れを切らして近づいた途端、
「来ないで!!」
雪里は手を前に突き出して、お得意の白い狐耳美女の姿に変化する。
そして、怯えながらも笑った。
「ふ、ふふ……球里兄さんは、これで近づけまい……!!」
「……こ、こら、無駄だ。いくら美女だと言っても、中身がお前だと分かっていれば……!!」
と、言いつつも雪里が胸を丸出しにする勢いで着物を肌蹴ると、
球里は真っ赤になって目を塞ぐ。
「うわぁあああ!!やめなさい!!」
「ほら!!やっぱ……りっ!?」
嬉しそうな顔をした雪里の体が一瞬して下方へ沈む。
何だか柔らかい膝の上に、腹這いに引きずり込まれたかと思ったら、
上から恐ろしく低い声が聞こえた。
「雪里……アンタ……何私より美人になってんのよ?」
バシィッ!!
「ひゃぁああっ!?桃里姉さん……っ!!?」
思い切り、お尻に一発叩きこまれて、びっくりしたわ痛いわで悲鳴を上げる雪里。
桃里の方は呆れ顔で球里へ話しかけている。
「情けないなぁ、球里兄さん。先行貰っちゃうわよ?」
球里は真っ赤な顔を手で覆いながら、返事を返す。
「済まない。ついでにその厄介な術も解いてくれ」
「了解〜!雪里、分かってんでしょうね?退けてよ尻尾!」
「ひっ……!?」
またしても急にドス声になる桃里に怯える雪里。
桃里は雪里のズボンをずり下ろして下着も下ろすと、
尻尾も退けて裸のお尻を叩き始めた。
ビシンッ!バシッ!バシィッ!!
「や、やめて!!ごめんなさい!!」
「こっちが、どれだけ心配したと思ってんの!!」
ビシッ!バシッ!ビシィッ!
「うわぁっ!やっ……姉さん!!」
桃里の剣幕と痛みに飲まれ気味の雪里は喘ぐようにもがいている。
耳がへたっている雪里のお尻を叩き続ける桃里は容赦がない。
「大体ね!お仕置きされてるのに女に化けてる場合じゃないでしょう!?
ぶざけてるの!?さっさと解きなさい!!」
バシンッ!!
「あぁっ!!うっ、分かった!分かったぁ!!」
雪里は慌てて術を解いた。
桃里にお尻を叩かれる黒狐の青年は必死で許しを乞う。
「解いたぁ!解いたからもうやめてぇッ!!」
「やめるわけないでしょう!?ここから、たっぷり反省してもらいますからね!」
ビシッ!バシィッ!バシッ!!
「うわぁん!!痛いよ!姉さんやだぁぁっ!!」
「今までどこで何してたの!?どうして勝手にいなくなったの!?心配するでしょう!?」
「痛い!!痛いぃっ!!ごめんなさぁい!!」
「痛いのは分かってる!!質問に答えて!!」
バシッ!ビシィッ!!
「だ、だって姉さんが悪いんだぁぁっ!!」
「何で私が悪いのよ!!」
バシッ!!
「わぁあああん!!」
雪里は泣き声と悲鳴の混ざったような声を上げ、一生懸命喚く。
「だ、だって姉さんがぁっ!俺の事、好きだなんて言うからぁっ!!
姉さんは球里兄さんと結婚するって言ったくせに!!
いくらマリッジブルーだからって、そんな残酷な……!!
俺もう、ショックで、姉さんの傍にいられなくなったんだ!!」
「なっ、えっ!?」
雪里の言葉に戸惑って手が止まる桃里。
赤いお尻をして息を切らせる弟分を、赤い顔で怒鳴りつける。
「バカ言わないで!!私がいつ球里兄さんと結婚するって言ったのよ!?
アンタに、あれは私、本気で……!!」
「だって姉さんいつも言ってたじゃないか!“大きくなったら球里兄さんのお嫁さんになる”って!
毎日毎日、いっつも言ってた!球里兄さんだってまんざらでもなさそうだったし!
それなのに適当に俺に気があるフリするなんて酷いよ!!」
負けじと声を張り上げる雪里の言っている事に、桃里はさらに困惑して
「ちがっ……あ、あれは!小さい頃の話だし!!幼い女の子にはよくある話でしょ!?
いつまでも本気にしないでよ!私、今は球里兄さんと結婚したいなんて思ってない!!
私は本当に雪里が好きなの!!恋人になりたいのはアンタなの!!」
バシッ!ビシィッ!!
思い切り雪里のお尻を叩いた。
熱い告白と同じぐらいの痛みで当然雪里は悲痛な悲鳴を上げた。
「うわぁぁああっ!じゃあもう叩かないでぇぇッ!!」
「お仕置きなんだからまだ叩かなきゃダメに決まってるでしょ!?
っていうか何なの……何でこんな時に告白させられたのよ私!?
憧れてた告白シーンと全然違うじゃない!雪里のバカァァッ!!」
ビシッ!ビシッ!バシィッ!!
「うわぁああああん!!ごめんなさぁぁい!!」
お仕置きのはずが妙な事になっている妹分と弟分を
見ていられなくなって、球里は声をかける。
「……桃里。そんな会話じゃお仕置きじゃないだろ。代わろう」
「うわぁああん!球里兄さぁぁん!!乙女の夢が粉々よぉぉっ!
とっちめてやってぇぇぇ!!」
「分かった。雪里」
球里は、怒り泣く桃里の膝から自分の膝へと雪里の体を移動する。
ぐったりした雪里はしゃくりあげていた。
「うっ、うぅっ……痛いよ球里兄さん……怖いよぉ……
お尻叩かないでぇ……!!」
「とりあえず、桃里への返事はどうする?告白を受け入れるのか?」
球里が頭を撫でながらそう問うと、雪里は泣きながらも返事をした。
「ひっく、ぐすっ……俺も、桃里姉さん好き……だから、付き合いたい……!!」
「ふふ、お尻を叩いてくる怖い姉さんでもか?」
「……うん、……それでも、好き……!うぅっ、何で俺っ……
こんな情けない、変な格好で彼女できたんだろう……??」
雪里としてもこの状況は微妙なようで、泣きながらも顔を俯ける。
球里は表情を綻ばせた。
「お前たち二人が幸せになってくれて嬉しいよ。
後は、雪里がちゃんといい子になるだけだな」
「嫌だ!!嫌だぁぁ……!!」
「甘えてばかりだと、桃里を守れないぞ?」
怯えて抵抗する雪里を押さえつけ、球里は赤くなっているお尻に
平手を振り下ろした。
バシィッ!!
「うわぁああん!!ごめんなさぁぁい!!」
そして、泣き喚く雪里のお尻を、ほんの少し手加減しながら叩き続ける。
ビシッ!バシッ!バシッ!!
「色々、お前に関して変な噂があるけれど、盗みや喧嘩は……噂みたいな事はしていないんだよな?」
「んっ、ごめんなさぁい!喧嘩は、多少……!でもっ、俺から誰かに暴力を振るった事は無いんだよ!!
噂が独り歩きして、うぅっ、変な奴に絡まれるからぁぁ!」
「……そうか。正直に話せて偉いな」
そう言った球里が頭をなでると、ホッとしたように息を乱れた息を整える雪里。
「は、ぁ、球里兄さん……!!」
「雪里、桃里も私も里様も、いなくなったお前をとても心配していたんだ。
もう、勝手にいなくなったりするなよ?」
ビシッ!バシィッ!バシッ!!
「ごめんなさい!もうしない!もうしないから許してぇぇ!!」
涙声で謝る雪里のお尻を最後、何度か叩いて、膝から下ろす。
そうすると雪里は涙を拭いながら謝った。
「球里兄さん、桃里姉さん……!!心配かけて、ごめんなさい……!!」
「もういい。それより……」
球里は雪里を強く抱きしめて言う。
「おかえり、雪里」
「おかえり……!」
桃里も横から雪里に抱き付く。
「ただ、いま!!」
雪里がまた涙を流して、三人はしばらく抱き合っていた。





球里達と別れてしばらくの頃、
尊と和の側は、境佳と閻廷に別れを告げる。
和が深々と頭を下げた。
「境佳殿、閻廷殿……本当に、ご迷惑をおかけした。
尊が無事に戻ったのも、貴方方のおかげだ。
お礼も、お詫びも……何と申し上げていいか……」
そんな和に、境佳も閻廷も笑顔で対応する。
「いや、気にしないでくれ。娘を持つ父親として、協力するのは当然の事。
尊姫が無事で良かった」
「そうそう!困ったときはお互い様だぞ和殿!
尊姫も閻濡のように冠に追跡機能を付けるといい!」
「……一応、それも通信機能も付けているのだけれど、
どうも穴があるみたいで色々いじられてしまって……
いや、尊は機能を潰しただけかもしれないが……。
とにかく、尊。境佳殿と閻廷殿にきちんと謝りなさい」
和にそう言われて、尊もしゅんとしながら謝った。
「境佳様、閻廷様……ご心配とご迷惑をおかけしてごめんなさい」
もちろん、閻廷と境佳は和の時よりも穏やかに優しく言葉を返す。
「和殿、“私には父親をやる素質が無い!!”なんて嘆いて大変だったんだぞ〜?
私達は許してやるから、もうパパに心配をかけてはいけないぞ尊姫?」
「閻廷の言うとおり。これからは、父君のいう事を良く聞いて、お転婆はしないように」
境佳にそう言われると、尊は真剣な表情で言う。
「はい!誓いますので……私を、見損なわないで下さいましお父様!!」
「余計な事は言わんでいい!!」
「むぐっ!!」
和が慌てて尊の口を手で塞いで、閻廷と境佳はポカンとして顔を見合わせる。
「境佳に言ったか?」
「あ、いや……和殿じゃないか?」
「き、気にしないでくだされ境佳殿。
尊は最近……いや、最近でもないが、とにかくおかしな事を口走るんだ」
笑顔がぎこちない和に押さえつけられていた尊が暴れて、
無理やり口を押えている和の手を振り切って喚く。
「ぷはっ!何がおかしな事ですって!!
こんなチャンスは二度と来ないわ!私は今こそ立佳様への愛を成就させるの!
ぜひ、立佳様に会わせてくださいお父様!」
「お前はまだそんな馬鹿な事を……!!黙っていなさい!
境佳殿を“お父様”と呼ぶのをやめろ!!」
和は慌てて尊を宥める。
けれど、閻廷は楽しそうに笑って、境佳も穏やかに笑って言った。
「おお!尊姫は立佳が好きなのか!」
「うちの愚息にはもったいない話だ」
「とんでもない!ご安心下され境佳殿!
尊のいう事はすべて妄言です!私が妄言にしてみせますから!」
暴れる尊を必死で押さえている和を、境佳が宥める。
「まぁまぁ、和殿。娘が心配なのは分かるが……」
「立佳は女神好きだからな♪」
「変な言い方をするな!……と、言いたいが反論できないのが悔しい。
し、しかし!尊姫には失礼の無いように気を付けるので、
良ければぜひ遊びに来てくれないか?」
「そ、それは……!!願ってもない申し出だが……!!」
境佳の提案に、和は困った顔をして、尊は当然瞳を輝かせて嬉しそうにしていた。
「まぁ!ぜひ遊びに行かせていただきましょうお父様!!」
「尊……!くっ……境佳殿を“お父様”と呼ぶから、さっそくややこしくなってるじゃないか!」
「話を逸らさないで下さいます?
ややこしいなら、境佳様を“お父様”とお呼びして、お父様を“和王”とお呼びするわ」
「頼むから私を“お父様”と呼んでくれ!!はぁぁ……仕方ない、一度だけだぞ?」
「きゃ〜〜!!お父様大好き!!」
結局は、譲歩した和に抱き付く尊。

閻廷がのんびり言った。
「和殿、そんなに尊姫を男に近づけたくないなら、和殿が結婚すればいいのにな?」
「お前とは考えが違うんだ」

こうして、こちらも和やかに別れた神王チームだった。


※“時期外れの発情期”については、雪里が薬作りを止めた事により
山が元の状態に戻り、無事解決した。
長里の協力もあって、ただの気候的な突然変異とされたのだった。




気に入ったら押してやってください
【作品番号】HS11
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