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廟堂院家の双子の話8





町で噂の大富豪、廟堂院家。
その当主の廟堂院千賀流は、書斎の机でショックを受けたように頭を抱えていた。
目の前には一つのレコーダーが置いてある。
それを挟んで真正面に今の若執事長の上倉大一郎。そして千賀流の隣には元執事長の四判が立っていた。
千賀流は心底悲しそうな声で、上倉に言う。
「……これは、本当に千早の声なのかい……?」
「旦那様、まさか少し屋敷を開けている間に千早様の声を忘れたわけじゃないでしょう?」
上倉の言葉に千賀流は首を振った。
「ごめん、ごめんね……分かってる。確かに千早の声だった。ただ、ショックで……
あの兄想いの優しい子がこんな事をするなんて……!!」
端正な顔立ちの壮年が閉じた瞳を震わせる様子は、泣くのを堪えている様にも見える。
上倉もまた、悲しそうな表情だったけれどこう続ける。
「申し訳ありません旦那様。今まで、我々にはどうする事も出来ませんでした。
しかもお恥ずかしながら、もう我々では手に負えないところまできています。
解決できるのは旦那様しかいません!!」
「大一郎、これが何かの間違いだということは本当にないんだろうか……私には、どうしても……!!」
「旦那様!!」
「千賀流様……」
上倉の声に被せるようにして、四判が優しい声を出す。
「どうか勇気を持って冷静なご判断を。今の状態が千早様にとっていいはずがありません。
息子を正しい道に導くのが父親の役目ではありませんか?」
その言葉に千賀流は力無く頷いた。
「そうだね。全部、私の責任だ……絢音は、大丈夫かな?後で私からも謝っておかないと……。
とにかく明日……千早にはそれ相応の……」
そこまで言いかけて千賀流は声を詰まらせる。
一瞬の沈黙の後、息を吐く様に静かに言った。

「罰を、与えないとね……」

言いきって、千賀流は長く重いため息を吐く。
書斎が重い沈黙に包まれる中、書斎のドアの前から一つの小さな影が動いた。


翌朝。
千賀流は早速、千早を自室に呼び出して話を聞く事にした。
素直にやってきた千早は少し眠そうな表情で、千賀流は千早の姿を見て悲しくなった。
けれどもそれは表情に出さず、自分の座るソファーに歩み寄ってきた息子をいつもするみたいに抱きしめた。
「お早う千早。良く眠れた?」
「まぁね。それより、オレに何か話があるんじゃないの?」
千賀流は千早を自然と自分の隣に座らせて、軽く頭を撫でながら話を進める。
「そうなんだよ。千早……君が素直な子だと信じてハッキリ聞くね?お願いだから正直に答えて欲しいんだけど……
千早は執事の皆に暴力を振るったりしてるの?」
「!!」
千早は驚いた表情をする。
可哀想だけれども、千賀流も覚悟を決めなければいけなかった。
今この瞬間、素直に全てを明かして謝ってくれれば、このまま許してあげる事も出来る。
けれど、この子がこのまま自分を欺こうとするなら……
「どうかな?今、正直に答えてくれるなら私は……」
「そんな事してない!!な、何それ誰に聞いたの……?オレは、そんな事しない……」
「千早……」
息子の歯切れの悪い答えに、落胆した。
早く正直に謝って欲しい。嘘をつくのはやめてほしい。今からでも遅くは無い。
そんな千賀流の想いを、目の前の千早は必死で砕こうとする。
「してない!!信じてお父様!オレの事疑うの!?」
「……君が、絢音に暴力を振るってる様子が録音してあるレコーダーを聞いたんだ。
ちゃんとした証拠が残ってる。何ならここで流してもいい。それでも君は『そんな事してない』って言い切れる?」
「レコーダー……?そんな……くそっ!!」
「千早!!」
立ち上がって逃げようとした息子の細腕をどうにか捉えた。
「どうして逃げるの!?」
「離せ!!そんな証拠があるのにわざわざオレに話を聞いたのか白々しい!!
オレをどうするつもりだこのド変態!!」
「やっぱり、私の目を盗んで執事に暴力を振るってたんだね!?
逃げるって事は叱られるような事をした自覚があるのかな!?だったら話が早い……!」
豹変する態度も口の悪さも本当に千早らしくて感心する。
そろそろ謝ってくれないと、本当に許せなくなるのだけれど……
暴れる息子を無理やりお仕置きの格好に持っていこうとすると、全力で抵抗された。
「何するんだよ!やめっ……ああ助けて兄様!!サディストペドジジイに犯される――!!」
「人聞きの悪い事を言うんじゃない!全く、父親を何だと思ってるんだい!?
悪い子のお尻を叩くだけだよ!さぁ観念しなさい!暴れたって無駄……こら!髪を引っ張らないで!
ああもう……大人しくしなさい!!」
パァンッ!!
「ひゃんっ!?」
お尻を叩くと、千早は驚いたのか急に大人しくなった。
千賀流は本格的にお尻を叩くために今度こそ息子を自分の膝に横たえる。
「……い……や……」
「今のが1回目。君はたくさん悪い事をしたみたいだから、あと200回は叩くからね。覚悟して」
「兄様……ひっく、兄様……!!」
泣きだす千早のズボンと下着を下ろす。いくらでも言いだすチャンスはあったのに。もう何もかも遅い。
やっぱり自分を騙そうとした事を反省させるために、お仕置きするしかないらしい。
「今度こそ本番だ。しっかり反省するんだよ?」
この子を巻き込みたくは無かったけれど……こうなるともう共犯だ。
千賀流は膝の上の息子に呼びかけた。
「ねぇ、千歳?」
「!!」
千早の密かな笑みが驚きに変わった瞬間、二回目を振り下ろした。


(はぁ……やはりオレでは兄様の美しさや気品がまったく及ばない……)
ため息をつきながら廊下を歩くのは千歳……に見えるが、実はカツラや服で千歳に成り変わった千早だった。
本人は自分の入れ替わりにすごく自信無さげだったが、すれ違う執事達は皆にこやかに声をかけてくる。
「お早うございます千歳様」
「お早うございます、お仕事がんばってくださいね(兄様に気安く話しかけるなこの駄豚ッ!!)」
内心毒づきながら、千早は必死に千歳を演じる。声色も完璧だ。
最初に自分と同じ感じに髪を切った千歳を見た時は本当に驚いた。
この入れ替わりを提案された時は、『絶対に無理だ!オレごときが兄様になり変わるなんて!』と断ったが、
千歳に恥じらう表情で『もし入れ替わって一日周りを騙し切れたら、僕を好きにしていいよ』と言われ、
一気にやる気が出た。ここは何としても千歳を演じ切りたい。
そんな千早に早くも難関が訪れる。
「お早うございます千歳様」
「黙れこのゴミ虫!!朝からお前の顔を見るなんて吐き気がする!!」
「あ」と、思った時にはもう遅い。つい条件反射で叫んでしまった。
目の前の執事長兼千歳の世話係の上倉大一郎は、驚いた顔で千早を見て、その後は頬を赤くして嬉しそうに言う。
「千歳様……そんな、素晴らしいお言葉をいただけるとは……光栄でございます」
(コイツがバカで良かった……)
あまりの気持ち悪い反応にげんなりした千早だったが、何にせよ騙せたみたいなので
怒りを押さえつつ、今度は慎重に引きつった作り笑顔で対応した。
「ま、まぁ、たまにはサービスしてあげたんだよ……いい?僕、お前の事大っ嫌いだからね?
くれぐれも調子に乗らないでね?ホントもう、見てるだけで寒気が……」
ゾクッ……!
(あ……れ……?)
突然、本当に言いようのない悪寒が千早を襲った。悪寒だけじゃない。変な胸騒ぎがする。
(兄様……?)
違和感、焦燥感、2つとも大きくなっていく。何故だか兄の事が心配でたまらない……
千早は慌てて上倉に掴みかかる。
「おい!兄……じゃない、千早ちゃんはどこにいるの!?」
「千早様ですか?旦那様のお部屋に行きましたよ?」
「お父様の……?何で……?」
「さぁ?『天罰』でも、下ったんでしょうか?」
「……貴様ッ!!」
千早は上倉を睨みつけて、何か言いかけたけれど……慌てて父親の部屋に走って行った。


扉が勢いよく開いた。
「兄様!!」
叫んで部屋に飛び込んできたのは千歳だった。
いや、千歳じゃなくて……
千賀流はドアを見ていた視線を自分の膝の上に移す。
膝の上で、赤いお尻を丸出しにして苦しそうに呼吸しているのが……千歳だ。
紛らわしい格好をしているけれど、今ドアの前でへたり込んだ方が千早だ。
「……あ……ぁ……」
千早はショックを受けた様子でガタガタ震えていた。千歳は顔を千早の方に向けている。
2人にしか分からない会話でもしているんだろうか?そんな事がたまにあるから。
一旦千歳をお仕置きする手を止めて、黙って二人を見守っていた千賀流。
やがて千早が、怒りに満ちた表情でこちらを睨みつけた。
「何て事を……何て事を、何て事を!!」
千賀流の方は何も動じることなく、いつもの優しげな声で言う。
「ああ、千歳か……千早が悪い子だったからお仕置きしてるんだよ。悪いけど席を外してくれる?」
「黙れクソジジイ!!貴様は……自分の息子の見分けもつかないのか!!!」
千早は思いっきり叫んでカツラを地面に叩きつける。そうすると、見慣れた千早だった。
弟の行動に千歳が首を振る。無理もない。自分の髪を切ってまで庇おうとしたのだから。
そんな息子の姿が何だか居たたまれない。
「兄様!!今助けに……!!くそっ、足が……!!」
立ち上がろうとする千早は、腰が抜けてしまって動けない。
逆に動いたのは千歳だった。
「お父様……お願い……千早ちゃんは、許してあげて……僕がいくらでも叩かれるから……
お願いだから……千早ちゃんだけは……」
「兄様……!?」
「200だって300だって、明日だって明後日だって、いくらでも、我慢するから……
だからお願い、千早ちゃんは叩かないで……」
「兄様やめて!!おいサディストペドジジイ!!今すぐ兄様からその薄汚い手を離せ!!」
千早がそう叫んだ瞬間、千賀流は千歳のお尻に手を振り下ろす。
パァンッ!
「あぁあっ!!」
「兄様!!」
兄の悲鳴に、掠れるほど大声で叫んだ千早。
少し卑怯な気もするけれど、この方が千早には効くだろうと思った。
パン!パン!パン!
「ごめっ、なさい!!あ、あっ、ありがと……お父様!!
はぁっ、僕のっ、ひっ……お願い、聞いてくれ……あぁんっ!!」
「やめろ!!やめろってば!!やめっ……兄様ぁぁぁっ!!」
「痛っ……あぁぁぁっ!!お父、様ぁぁ……いいっ、いいの!!僕、千早ちゃんの為なら、んんっ!!
いくらでも……ふっ、ぅぅっ!!」
真っ赤なお尻を叩かれて、それでも弟を庇って……辛い様子どころか嬉しそうな声を上げる千歳。
それをどうする事も出来ない千早は、ただ叫び続けるだけだった。泣きながら。
千賀流にしてみれば、2人とも頭が痛くなるほど可哀想なのだけれど……躾だから妥協はできない。
そのまま千歳のお尻を叩き続けた。
パン!パン!パン!
「やめろぉぉぉっ!!やめろって言ってんだろクソがぁぁぁぁっ!!うわぁああん兄様ぁぁぁ!!」
「やめないでぇぇっ!!ああ、お父様ぁぁぁっ!!うわぁああああん!!」
「……全く、君達は……」
お互い大泣きで庇い合っている息子たちの姿に、千賀流は困り果てた様子で手を止める。
膝の上の千歳を抱き起こして頭を撫でた。
「千歳、もういいよ。これからは千早の悪事を庇って私を騙そうとしない事。
君はそれで千早を守ってるつもりかもしれないけれど、それじゃあ千早の為にならない」
「ぐすっ、お、お父様……?」
「部屋に戻ってなさい。次は千早の番だから」
「待って!やめて!!千早ちゃんは……!!」
予想通り必死に縋りついてくる千歳。さっきまでの逆現象だ。
「大一郎!千歳を部屋へ連れて行ってあげて!」
このままでは埒が明かなさそうなので、傍にいるであろう上倉を呼ぶとすぐに来てくれた。
「戻りましょう千歳様」
「いや……いやぁぁぁっ!!」
上倉に抱きあげられて、珍しく暴れる千歳。
けれども、難無く部屋から連れ出されようとしている。
抵抗し切れないと分かると千歳は上倉の胸元を掴んで懇願する。
「上倉離して!!ねぇ助けてよ!!何でもするから!!」
「大丈夫、何も心配要りません。旦那様がこれからする事は、必ず貴方達の救いになりますから」
「はぁ!?何言ってんの!?や、やだぁ!千早ちゃんが!!離して!離せぇぇぇっ!!」
千歳は最後まで泣きながら抵抗していた。ある意味お尻を叩かれていた時より必死に……
ドアから出る瞬間にはいよいよ泣き叫んでいた。
「うわぁあああん!地獄に落ちろクソジジィィィイ!!千早ちゃん!千早ちゃぁぁぁぁぁん!!」
そんな断末魔と共にドアがしまる音。
最後に上倉が会釈と共に見せた困ったような笑顔が唯一の癒しだった。

(『サディストペドジジイ』だの『地獄に落ちろ』だの……今日は散々な言われ様だ……
普段は天使のような私の息子達が、実際こんなに口が悪かったなんて……)
すでにガッツリ疲れ気味の千賀流。けれどもなけなしの気力を振り絞って、座り込んでる千早に歩み寄った。
「さて、覚悟は良いかな千早?」
「……ろ……」
「ん?」
「土下座しろ!謝れ!何の権限があって……貴様ごときが兄様を!!地にひれ伏して兄様に謝れ!!」
「……ごめんなさいするのは君の方じゃないのかな?自分がどれだけ悪い事をしたか分かってるのかい?」
「聞きたくない!お前の話なんか聞きたくない!」
目に涙をめいっぱい溜めて、喚き散らす千早。千賀流は肩をすくめた。
「やれやれ……お母様よりよっぽど手ごわいね君達は。今日のお仕置きは長くなりそうだ」
「オレがあの雌犬みたいにすぐに泣きついて尻尾振ると思うなよ!?」
「お母様を『雌犬』呼ばわりするなんて、お仕置きの数を増やさないと。おいで」
「うっ……!!」
千賀流は千早を抱き上げる。
もともと腰が抜けていた千早は体も動かないのか、抵抗と言えば目を閉じるくらいだった。
ソファーに戻った千賀流は千歳と同じように千早を膝に横たえる。
あまり抵抗しない千早だが、ズボンと下着を下ろした時には喚いていた。
「変態!サディスト!よくも兄様にこんな辱めを……!」
「千歳はきっと、君が痛い目に遭うのが我慢できなかったんだね。優しい子だから。
千早だって同じように優しい子だよね?ちゃんと反省してくれるって信じてるよ」
「うるさいうるさい!知った風な口を聞くな!オレと兄様の見分けもつかないもうろくのくせに!」
「そんな事ない」
千賀流は思い切り千早のお尻に平手を叩きつける。
パァンッ!
「ひっ!!」
パン!パン!パン!
間髪いれずに強めに何度もお尻を叩いた。千早が痛がって暴れる。
「いっ、痛っ……いや!!やめろ!」
「君も絢音に同じ事したよね?痛いと思うなら、自分のした事をきちんと反省しなさい」
「ふざけるな!どうして、オレが、あんな役立たずごときのせいでこんな……っ!」
「千早」
パン!パン!パン!
「やぁぁっ!痛い!痛いぃ!」
「絢音も同じくらい痛かったと思うよ?後で謝る?」
「謝る!?嫌だ!アイツに頭を下げるなんて、絶対!」
「そう。どっちにしても君にはたっぷりお仕置きしてあげるつもりだったけど」
「んっ、あぁっ!やだぁっ!い、たっ……や、やめろ!」
千早が暴れれば暴れるだけ千賀流は強く平手を振り下ろした。
頑なな態度を崩す様に、言葉と平手の双方で攻めていく事にする。
「君は絢音を役立たずだって言うけど、君だって絢音の良い所は知ってるはずだよ?」
「しっ、知るかそんなもん!っう!」
「覚えてる?少し前に君が私の誕生日に書いてくれた、私の似顔絵。
上手に描けてたね。すごく嬉しかったよ」
「い、いきなり何の、話を……!!別に、お父様に、くっ、渡すつもりなんて……!
だから、破って捨てたのに!勝手に、拾ってきて喜ばれても……」
「バラバラになってたあの絵、繋げて私に届けてくれたのは絢音だよ」
そう言いながら千賀流が平手を振り下ろす。叩く音と同時に千早が驚きの混じった悲鳴を上げた。
「ひゃっ!?」
「『素敵な絵だから放っておけませんでした!本当に千早様は旦那様の事が大好きなんですね!』って……
自分の事みたいに嬉しそうに。でも彼、器用じゃないから繋げるのに時間がかかったんだろうね。
『半日も姿が見えなかったから、きつく叱ってしまいました』って、大一郎が慌ててたよ。
あの子は絵の事なんて一言も言わなかったらしいけど」
「よ、余計な……事……っ!」
「それにね、君の部屋の前に毎日花を生けてくれてるのも絢音だし。
『何で千歳様の部屋には花があるのに千早様の部屋には花が無いんですか?』って」
「頼んで……ない……!」
千早はそう言うものの、千賀流は経緯を知っていた。
毎日千歳の部屋に飾られる綺麗な花々を、千早は密かに羨んでいたけれど、
上倉が嫌いな千早は、彼が同じようにしてくれようとしても拒否していた。
そんなある日、鷹森が彼なりのセンスで綺麗な花々を飾ってくれようとしたらしい。
けれども、拒否されたのだろう。随分落ち込んでいた。
次の日から鷹森は千早の部屋の前の窓辺に小さな花瓶を置いて、そっと花を飾るようになった。
千早も毎日それが入れ替わるのを気にしているようだったので千賀流はほほ笑ましく思っていたのに。
「千早には、人の痛みも優しさも……ちゃんと分かる子になってほしい。
執事達は君のオモチャじゃないよ。皆、この家の為に毎日頑張ってくれてる」
「や、ぁあっ……!」
パン!パン!パン!
気付けば千早の反抗的な態度はだんだん弱まっていた。
お尻も赤くなってきているし、プライドより痛みが勝ってきたらしい。
「うっ、うぅっ、痛い……お父様!痛い!」
「痛いだろうね。でも君はたくさん叩かないと分かってくれないみたいだから」
「も、もう、しない、から!お父様、痛いよ……!」
「許して欲しい?」
「許して……あぁ、ごめんなさい!お父様、ごめんなさい!」
「で、絢音がそう言った時……君は許してあげたの?」
「それは……!!」
千早が言い淀む。それを急かす様に、千賀流は今までより強く千早のお尻を叩いた。
バシィッ!
「やぁぁぁ!いったいぃっ!許した!許してあげた!だからぁぁ……!!」
赤いお尻を強く叩かれた千早はとっさにそう叫んだけれど……
レコーダーを聞いている千賀流にこの発言は墓穴だった。
「おかしいな?じゃあ、私が聞いた“薄っぺらい謝罪をやめろ。耳障りだ”って言うのは誰の声だろう?」
「――――!!」
「“今度言ったらその口に”……」
千早の言葉を真似しながら、千賀流は息子の小さな口に親指を差し入れる。
えずかせない程度に浅くゆっくり、小さな舌に当たったので軽く押さえつけた。
「“ゴミでも突っ込んでやるからな”って言ったのは、誰の声?」
「……ぇ……」
舌が上手く動かない千早は呻くような声を上げた。
『オレ』と答えたつもりか、あるいは泣きだしたようにも聞こえる。
軽い脅しのつもりだったので、千賀流もすぐに指を抜いてあげた。
「もう一度聞くけど、君は絢音が許してって言ったら許してあげたの?」
「うっ、ごめんなさい!ごめんなさい……!だ、だって……だってぇぇ……!!」
頭を左右に振りながら千早は泣いていた。
「嘘をつくなんて……」
「ごめんなさい!もう増やさないで!」
「うん、増やさない。でもね、“私が許さない限りお仕置きは続けるけど。”
千早ならそれで分かってくれるよね?」
「やめて!もうそういうのやめてぇっ!ごめんなさい!!オレが全部悪かったからぁ!」
最初の頃の態度とは別人のように泣きながら謝り倒す千早。
人に謝るのが嫌いなこの子がここまで言うのは、よっぽど限界なのだろうと思ったけれど
今までやってきた事を考えると千賀流も簡単には許せないでいた。
千早が何度『ごめんなさい』を繰り返しても無視して彼のお尻を叩いた。
パン!パン!パン!
「あぁっ、鷹森にも謝る!もうしないから!絶対しないからぁ!痛い――!」
「今まで何人叩いていじめたの?」
「知らない!覚えてない!うわぁぁぁぁんごめんなさぁぁぁぁい!」
「それは大変だ!覚えきれないくらいたくさんいじめたの?!
私は一体いくつ叩けばいいんだろう!?今日中に終われるかな?!」
「やだぁぁぁ!ごめんなさいいぃ!もうしません!ごめんなさぁぁぁい!」
パン!パン!パン!
「うわぁぁぁああん!お父様!お父様ぁぁぁっ!」
叩くたびに千早は声を張り上げて泣いた。
それでも時間をかけて叩いて、たっぷり泣かせて……そろそろいいかと頃合いをみて。
千賀流は千早を膝から下ろした。
「はぁ、あ……お父様ぁ……終わり……?」
「違うよ。でも、じっとしてたらもうすぐ終わりだから、いい子にしててね」
「ぐすっ……ひっく……」
“もうすぐ終わり”と聞いて希望を見出したのが、千早は大人しくしていた。
千賀流は立ち上がってサイドボードの引き出しから何かを取りだす。
戻ってきた千賀流の持っている“それ”を見て、千早の表情が完璧に凍った。
「ちょっと待って……何で……何でそれ……何これもうやだぁぁっ!!」
「ごめんね千早。君のオモチャ勝手に借りちゃった。でも良くできてるね。これじゃまるで本物だ」
「ごめんなさい!違う!それ……ごめんなさぁぁぁい!」
大混乱の様子で千賀流から顔を背けるようにソファーの背もたれにくっついてうずくまってしまった千早。
それを無理やり引き剥がして、千賀流は手に持ってる“乗馬鞭”を千早の目の前に持ってくる。
「ほらちゃんと見て。これで仕上げだよ。きっと、君の大好きなオモチャで二度と遊べなくなる」
「もう遊ばない!そんなの要らない!ごめんなさい!やだぁぁぁ!」
本当は、千早のとは色や形が似ているだけの別の乗馬鞭。千早のよりよっぽど柔らかい。
けれど完全に怯えきってる千早はソファーに縋りつこうと必死で気付かない。
「そんなところにくっつこうとしないでお尻を出して。1回で許してあげる」
「やだやだやだやだやだぁぁぁぁっ!!」
「そっか。じゃあ3回だ」
泣いて嫌がる千早を可哀想に思いながらも
これで最後だから、と……千賀流は無理やり千早を押さえつけて鞭を当てる。
ピシッ!
「いやぁぁぁぁああ!」
ピシッ!
「うわぁぁぁぁぁん!」
ピシッ!
「あぁああああああ!!」
予告通り3回、きっちり叩いて……後は泣き喚く千早をあやした。
最初は泣いているだけだった千早も、時間が経つと復活してきて……
「お、まえっ……お前は悪魔だぁぁぁぁ!!」
(終わった途端これか……)
いつもの元気を取り戻した千早に、千賀流はガクッと肩を落とす。
泣きたくなりながら、でも怒ったような顔を作って千早に言う。
「千早、ちゃんと反省してないなら、もっとお仕置きしようか?」
「や、やだ……!ごめんなさい!」
「はぁ……部屋までは連れて行ってあげるから……ゆっくり休むといいよ」
また泣きそうになっている千早を抱き上げて、千賀流はその額に軽くキスをした。
瞬間「ぁ……!」と声を漏らした千早。
千賀流の顔を凝視して目を瞬かせながら、キスされた額を押さえて……
「……へんたい」
不機嫌そうな真っ赤な顔でそう呟いた。
「そんな事ない……」
千賀流はそう返しつつ、千早を部屋まで運んで行った。



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【作品番号】BS8

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