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廟堂院家の双子の話30



ここは町で噂の大富豪、廟堂院家。
廟堂院家には幼い二人の息子がいた……が、今この廟堂院家の屋敷にいるのは双子の兄の方、千歳だけ。
弟の千早は別の屋敷で過ごしている。
そんな状況下で、千歳は――

夜間に部屋を出る、または屋敷から出ようとして捕まる事3回。

執事と外へ出かけて、突然逃亡を図って捕まる事4回。
(うち、上倉が一緒にいたため未遂〜1分以内に捕まる事2回)

裏門を乗り越えようと頑張っているところを発見、捕まる事3回。

外壁を掘削(らしき行動を)しているところを捕まる事2回。

執事寮敷地内で捕まる事4回
(うち、執事寮の門から外へ出て捕まる事1回)
また、執事寮への荷物に紛れているところを発見、捕まる事2回。

と……とにかくアクティブに屋敷からの脱出を試みて、
執事達を困らせたり驚かせたりしていた。
当然、これだけの無茶苦茶を繰り返しまくって叱られないわけも無く……

「千歳いい加減にしなさい!これで何度目だと思ってるの!?
執事の皆に迷惑ばかりかけて!!」
しゃがんだ父の千賀流に両肩を掴まれて、珍しく強い口調で怒鳴られるけれど、
千歳は頬を赤らめ、潤んだ瞳で千賀流を睨んで言い返す。
「だったら今すぐ千早ちゃんに会わせて……!」
「…………千歳がいい子にしてたらすぐ会える。さぁいい子になろうか!?」
「ぅあっ、やめて……!!」
千賀流に抱き寄せられた千歳がふらつく。
それでもすぐに抱き上げられて、近くのソファまで連れて行かれて……
ここ最近のいつものように、千賀流の膝の上でお仕置きされることになってしまう。
ズボンや下着を脱がされながら、千歳は顔を覆って喚いた。
「こんな事ばかり!変態!へんたい……っ!!」
「そんな言葉には惑わされないよ?“こんな事ばかり”なのは
千歳が最近悪い子だからだ!どうしていい子にしてられないの!?」
パァンッ!!
千賀流が強くお尻を叩くと、千歳は泣き叫ぶように喚いた。
「うぁあああん!千早ちゃん!千早ちゃぁあああん!!」
「千早は向こうでいい子にしてるのに!
お兄ちゃんの千歳がそんなだと千早に笑われるよ!?」
そう叱りながら、千賀流がもう何度か手を振り下ろす。
パンッ!ビシッ!バシィッ!!
「うわぁあああああん!!あぁああああん!けほっ、けほっ!!」
「ごめんなさいは!?もうしないね!?」
バシッ!パァン!!
「あ、あ……うっぁあああああん!わぁああああん!!」
「…………」
「はぁっ、はぁ……うっ、ひっく……!!」
お尻を叩かれながら、咳き込んだり息を切らせる千歳。
そんな息子の姿を見て……千賀流は片手をぺたりと千歳の額に当てる。
そして、困ったようにため息をついて言う。
「はぁ…………君は病気にかかりやすいのに無茶をするから……。
いい機会だ。具合が良くなるまでも兼ねて“一週間部屋から出るのは禁止”。守れるね?」
「うっ、うぅっ……!!」
「大丈夫?ゆっくり休んで……ちゃんと反省もするんだよ?」
千賀流は心配そうに千歳の頭を撫で、横抱きにして部屋まで運んで行った。
千歳は、千賀流から顔を逸らし続けた。


そして――

「最っっ悪……」
数日経って、だいぶ具合の良くなってきたらしい千歳がベッドの上で苦々しく呟く。
傍にいた世話係兼執事長の上倉が心配そうに寄り添う。
「どうされました?気分がお悪いのですか?」
「ねぇ、どうして僕だけこんな体に生まれてきたの?誰を恨めばいい??」
「!…………」
上倉は一瞬驚いた後、悲しげな笑顔で千歳に言う。
「……誰も恨まないで下さい。千歳様のお美しさは世界の至宝です」
「ヤダよこんな弱い体……これじゃ千早ちゃんを……!!」
そこまで震える声で言いかけて、千歳は起き上がり、上倉の方へ詰め寄る。
「お前はどうして何もしてくれないの!?」
「お許しください。上倉が下手に動くと、貴方とグルで旦那様の御意向に背くと、
千歳様の世話係を外されるんじゃないかって……それに、ここで旦那様に逆らったら、
お二人はもっと会うことが困難なほど遠くに引き離されてしまうかもしれません……」
「そんな事……それでもっ……!!」
「それくらいの覚悟を、旦那様はお持ちだと思います。
今はどうか……耐え忍ぶ時です千歳様。
千早様が無事こちらに戻られた時にこそ、きっと勝機がある……!
それに、千歳様が無茶をしてお体を悪くするのはこれ以上耐えられません……!!」
上倉は困った顔で精一杯千歳を説得するが、千歳は辛そうに首を振る。
「嫌だ嫌だ……!!僕の思い通りにならない上倉なんか嫌だ!僕の命令に従わない上倉なんか嫌だ……!」
「落ち着いてください。上倉はいつでも貴方の意のままに命令に従いますよ」
「そんな事言ってお前どうせ!!僕がこの部屋から出たらお父様に告げ口するんでしょ!?」
「あ……と、言いますか……私が直接お仕置きするようにとの、ご命令でして……」
「そうなの!?そんな、ふざけないで!!」
千歳は心底驚いて、ベッドから飛び降りるとドアへ走っていき……
「お前にそんな事できっこない!!」
「あぁあああ!!ちょっとやめて下さいホントに……!!」
「……そうでしょ……?」
振り返ってドアにもたれかかる。上倉を泣きそうな目で見ながら。
上倉も、心底参った様子で答えた。
「……えぇ。そんな畏れ多い事、できません。し、したくない。
ですが……私とて、執事としての矜持があります。
私は貴方の執事として、“千歳様のお傍にあり、お守りする”事を最優先したい。
なので、千歳様の健康や安全を損なうモノには容赦しません。
例えそれが、貴方様自身であっても……」
「っ……!!」
千歳が一瞬怯むような、真剣で鋭い上倉の視線は……
一瞬でふにゃりと迫力を無くす。上倉は両手を組んで情けなく懇願した。
「ねぇだからお願いですから部屋から出ないで下さいよぉぉ〜〜!!
上倉と一緒にいい子にしてましょう!?ね!?ね!?
土下座でも何でもしますからぁぁっ!!」
「バカ!!」
「あっ……!!」
千歳は勢いよくドアを開ける。一歩、境界線を跨いで、「どうだ!?」とばかりに振り返る。
上倉は驚いた顔で震えていた。
「あぁ、何て事……!出てしまわれた……出てしまわれた……!!
出ないでって言ったのに……言ったのに……!!」
アワアワしてる上倉に、千歳は安心する。
“このザマでは自分をお仕置きるなんて到底できないだろう”と。
しかし……
「はぁ、言ったのに……」
「!?」
急な、聞いたこと無い上倉の素の呆れ声に千歳は驚く。
その後はまた執事っぽさを纏った明るい口調で上倉が言う。
「まぁいっかぁ☆これで心置きなく千歳様をお仕置きできますし♪」
「上倉!?嘘!?嘘でしょ!?」
「残念ですが現実ですね、千歳様。
実は色々、現在進行形で心配かけられてる事、結構怒ってます〜〜☆」
飄々とした困り笑顔で、サクサク自分を捕まえて
ベッドに連行して、膝の上に乗せて……
躊躇なくお仕置きする気の上倉へ、千歳は焦って叫ぶばかりだ。
「本気!?やめて!ねぇやめてってば!!命令だから!
上倉!かみく――大一郎!!大一郎!!」
ここぞとばかりに“名前”を呼んでみても、
あっけなくネグリジェの裾を捲られて、下着を脱がされて……
「千歳様……二度と体調を崩すような無茶はなさらないでくださいね?
上倉の切なる願いは、貴方が健やかである事なので」
優しいけれど真剣な声でそんな言葉が聞こえた。
パンッ!!
「ひぅっ!!なぁっ……!!」
千歳のお尻を叩きながら、上倉が軽い口調で話し続ける。
「それとぉ、執事仲間の皆も結構な阿鼻叫喚でしたよぉ??
秋山君なんか、“千歳様の悲鳴で警官が駆け付けた時は社会的に死んだかと思った”〜って、
泣いてました。彼、純朴で不器用なので、あまり苛めないであげて下さい」
パシッ!パンッ!パンッ!!
「いっ、やぁ……!!離してぇ!!」
「あと、門屋君の足も痣になってましたし……信じられないけど、貴方がやったんでしょう?」
「あぁっ、だってあの子……!!」
千歳は痛みに喘ぎながら、悔しげに言う。
「てっ……ぉ、“お手伝いしましょうか”、なんて笑ってるんだもん!!うぅっ!」
「おやおや、千歳様を煽るなんて不遜な。私からも叱っておきますね?
で〜も、思いっきり蹴ってはいけません。落ちこんでましたよ?」
パンッ!パン!!
「んぁああっ!やめて!痛い!自分が何やってるか分かってるの!?」
千歳は痛がりながらもいつもの態度を崩さないし、それは上倉も同じだった。
ニコニコしながら平然と会話している。
「はい、もちろん♪佐藤君も貴方を泣かせてしまったとオロオロしてましたし、
木村君と相良君も何だか精神的にヘトヘトでしたし……
私の可愛い弟達を困らせた事も、ついででいいので反省してください!」
バシッ!!
「あぁあああっ!上倉ぁぁッッ!!」
少し強く叩かれ、千歳が怒ったように叫ぶ。
それで上倉は手を止める。
「はい、何でしょう?あ!やっと反省して謝って下さる気になってくださいましたか!?」
「ッお前!!いつまで!やめろって言ってるでしょ!!
こっちはお前に叩かれてるってだけで耐えられないの!!僕の犬の、くせに!!」
「う〜ん……普段なら貴方のご命令も罵倒も、喜び以外の何物でもないのですが……
今お仕置き中ですし……千歳様、反省していらっしゃらないんですか?」
「その偉そうな態度をやめろって言ってるんだよ……!!」
「ふふっ 千歳様のお怒りが伝わってきてゾクゾクします
……ですが、貴方様の体調の事もありますし……あまり長引かせたくない。
やはり、ダメですね。ヘラヘラしていては。
今こそ貴方の世話係としての本領を発揮いたしましょう!」
「いい加減にしないとお前後でめちゃくちゃに――」
「千歳様?」
千歳の言葉を遮った上倉は――
「自分で言うのもアレですが、私、結構怒ったら怖いです
そう言って、ぐっと千歳を抱え直す。
「ひっ!?」
揺られて驚いた千歳を上倉が怒鳴りつけ、
「何回注意されても我々を困らせる事ばかりして!
悪い事ばっかりしてるから体調崩すんですよ!?分かっていますか!?」
ビシッ!バシッ!バシッ!!
「ひゃぁあああっ!?あっ!あぁっ!!」
その上、思い切り強く平手を叩きつけた。
驚いて痛がる千歳へと、それを続ける。
「その上ワガママばかり言って、部屋で大人しくもしないし、本当に悪い子です!!」
「うっ、あっ……あぁぁっ!!」
バシッ!ビシッ!バシィッ!!
「うわぁああああん!!やめて!やめてぇぇっ!!」
「やめません!千歳様のような悪い子はお尻が真っ赤になるまでお仕置きです!」
「嫌ぁぁあ!!うわぁあああん!!」
バシッ!ビシッ!バシィッ!!
痛みでか恐怖でか、あっさりと泣き出した千歳。
それでも、上倉は千歳のお尻を本当に真っ赤にする勢いで強く叩き続けるし、
叱りつけるのも止めなかった。
「泣いても許しませんよ!?皆もご自身も大事にしなかった事を、
心底反省してもらいますからね!?ほら、ごめんなさいは!?」
バシィッ!ビシッ!!
「ごめんなさぁぁい!!やだ上倉怒鳴らないでぇぇっ!!痛いぃ!!」
「私にこんな事をさせてるのは貴方ですよ!?
ここまでしないといけないなんて全く……侮るのも大概にしていただきたい!」
「うわぁあああんごめんなさぁあああい!!やだやだ上倉が怖いのやだぁっ!!」
バシッ!ビシッ!バシィッ!!
「反省してるからぁぁっ!!あぁあああん!ごめんなさぁああい!!」
千歳の方も怯え泣いて、お尻も本当に赤くなってきて、
「本当に反省したんでしょうね!?またやったらもっと酷くお尻を叩きますからね!?」
「わ、分かった!分かったぁぁッ!ごめんなさいもう怒らないでぇぇぇっ!!」
「……んじゃあ許して差し上げます
バシィッ!!
十分叩かれて叱られて、許してもらえた。
が……
膝から下ろしてもらえて、近づいてきた上倉の事は、腕を振り回して拒絶していた。
「うわぁああああん!!上倉怖い嫌いぃぃっ!!」
「わわ、悲しい事を仰らないで下さい。上倉は千歳様が大好きですのに」
上倉が言いながら、千歳を抱きしめる。
そして、真摯な言葉を続ける。
「どうか信じて下さい。今の貴方が望むような手助けはできませんが……。
私は千歳様の味方です。貴方と千早様の味方です。きっと、どうにか力になります」
「うぅ千早ちゃん……!!」
「辛いお気持ちは十分、分かります。
けれど千歳様が無茶をして叱られたり、体調を崩してはどうしようもない。
千早様もお悲しみになるでしょう。それに……」
上倉は一層強く千歳を抱きしめ、頭を撫でて、言う。
「ご自身の体の事も、悪く思わないで下さい。
多少皆と違うと思われても、それを含めて貴方の大事な体です。
そんな貴方の体ごと、貴方を大切に思って愛している者しかこの屋敷にはおりません」
「っ、……上倉……!!」
「はい……」
千歳は顔を上げ、真っ赤な顔で上倉を睨みつける。
「お前の怒ってるところなんか、全然怖くなかった!二度と僕に変な事しないで!!」
「承知しました。……千歳様がいい子にしていただければ」
上倉の方はニコニコしていて、千歳が決まり悪そうに顔を逸らす。
「分かってる!!もう僕も下手な事はしない!!」
「アァ良かった!ありがとうございます!」
「もう寝る!!」
「お休みなさいませ!!早く良くなってくださいね?皆がそう祈ってます」
そう言って、上倉が立ち去ろうとすると……
千歳が呼び止めた。
「……ちょっと……」
「何でしょう?」
「……いい事、考えたんだけど……お前にうつせば、いいと思うんだけど……」
「あはは!それは名案です!」
「だから……その……一緒に……寝て、よ……」
「え!?」
この言葉には上倉も赤くなって硬直する。
千歳の方も顔を逸らして、照れ隠しのように怒鳴った。
「なっ、何!?うつるのが怖いの!?腰抜け!!」
「え、いえ、えぇ〜〜……そのぉ〜〜……」
上倉は赤い顔で周囲を見回し、千歳の方を見ると……上着を脱いで恥ずかしそうに笑った。
「旦那様や四判さんには、くれぐれも内緒にしてくださいね??」

そして千歳の隣に添い寝して……
しばらくして寝息を立てる千歳の頭を、優しく撫でるのだった。

【おまけ】

門屋「あ!千歳様!ごきげんよう!」
千歳「…………はぁ。いいね。門屋君は悩みとか無さそうで……」
門屋「やだなぁ!俺にだって悩みくらいありますよ!!」
千歳「何?いい年してにんじん食べられないとか?」
門屋「ちち違いますよ!!誰から聞いたんですか!?例えば、そう……
    俺の可愛いご主人様が、浮かない顔してるって事ですかね?☆」
千歳「…………僕別に、準君のご主人様じゃないからね??」
門屋「えぇえまさかの“準君”!?これって降格!?いや昇格!?
    勘弁してくださいよ!鷹森でさえ“鷹森さん”って呼んでるじゃないですか千歳様!!
    俺の事も、そろそろ“門屋さん”って……」
千歳「準君って鷹森さんより年下だよね?」
門屋「年上ですッッ!もう分かってるくせに!」
千歳「そうだっけ?もう行っていい??」

門屋「あ、……っじゃじゃ〜〜んっ!!☆☆やぁ!ぼくはロロ君だよ!」
千歳「…………こんにちは、ロロ君。僕に何か用?」
門屋「っうぇっ!!?ぇ、と……千歳君が元気がないから慰めに来たんだよ!ロロ君だよ!」
千歳「ふっ、あはははは!!門屋君ヘタクソ!!」
門屋「あ、笑った!元気出ました!?俺のおかげで!」
千歳「ふふっ、門屋君にしては健闘したんじゃない?ありがとう」
門屋「はっ、はい!!」




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【作品番号】BS30

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