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廟堂院家の双子の話31




ここは町で噂の大富豪、廟堂院家……ではなく、千早が少しの間お世話になる事になった櫛籠邸。
お供の家庭教師兼世話係正行を従え、新生活を始めるべくやってきた千早は、
かつて廟堂院家の執事であった能瀬麗と再会したりしつつも日々を過ごしていた。
まだ皆に心を許した風ではないが、最初の最初よりは大人しくなった千早に安心する正行……
そんな、ある日の――

≪ビシッ!バシィッ!!バシィッ!≫
『うわぁあああん!わぁああん!』

ち、千早君!!え、何で!?うわぁああまた何かしたの!?

≪バシッ!バシッ!ビシィッ!≫
『まさゆき!まさゆきぃぃぃっ!!』

ま、待って待って!本当に何したの!?のっ、能瀬さんもどうか穏便に〜〜っ!!
かかかかくなる上は……!!

「俺が代わりに叩かれます〜〜っ!!―-ッハ!?」

叫びながら飛び起きた正行。
部屋の中が日差しで明るい、爽やかな朝だった。
一瞬で正気に戻って、安心したようにため息をつく。
「な、何だ夢か……そう言えば千早君は??」
正行が千早の不在に気づいたと同時に、千早が部屋のドアを勢いよく開けて入ってくる。
「っ、くそ!クソあの男ッ!!」
(!?千早君……泣いてる!?)
悔しそうに喚く千早はしきりに目元を手で拭っていて、頬も赤く見える。
正行は状況が良く分からなかったが、とりあえず声をかけてみる。
「ち、千早君お早う!……どうしたの?何かあった?」
「うるさい役立たず!!」
が、即怒鳴り返されて胸倉を捕まれる。
「ちょっ……!!?」
「お前!!兄様の危機に何を呑気に寝てるんだ!この無能!愚図!!」
「えぇ!?急にそう言われましても……!!」
「兄様が……泣いてらしたんだ!!“なかなか迎えに行けなくてごめん、どうしても誰かに邪魔をされてしまう”と!
そして、無理が祟って病に伏す兄様が、嫌がっているのに!あの汚らわしいゴミ虫に連れ去られてしまう!!」
(……って、いう夢を見たのかな?)
「嫌な予感がする……!兄様、兄様……!!
くそうあのゴミ虫め……やはり屋敷を出る前に始末しておくべきだった……!!」
(泣きそうになりながら壮絶な事言ってる……!)
正行はそう思いつつも、泣きそうな顔で千歳を心配する千早を哀れに思ったので、
元気づけるように声をかけた。
「だ、大丈夫!ただの夢だよ!ね?大丈夫、落ち着こう?」
「あぁああ!!オレはとんでもないミスを犯した!!
何故オレは兄様に“オレを攫いに来てください”なんてお願いしたんだ!!
あの時はどうかしてた!天使のごとく可憐でか弱くて繊細な兄様にオレは何て無茶な要求を……!!
自分の愚かしさが恨めしい……!!まさゆき!今すぐ廟堂院家へ向かうぞ!
忌まわしき檻から兄様の手を取って連れ出し……国外へ向かう飛行機も手配しろ!!」
「ままま待ってってば!落ち着いて!!」
「そのためにまず能瀬を倒す!!」
「よっし分かった!!その前に朝ごはんにしよう!ち、千早君、様!
まず大事なのは腹ごしらえをして体力をつける事だよ!!」
「……それも、そうだな……」
正行のとっさのフォローで、千早もひとまず大人しく朝食を食べる事にする。


そして朝食後。
「まさゆき!!能瀬を倒すぞ!」
(やっぱり諦めてなかったね千早君!!)
さっそくやる気満々な千早に、正行は困ってしまいつつ考える。
(何だかこのまま千早君を暴走させたら、今朝の夢が正夢になりそうな気がする……
本当は連絡を取らせてあげられればいいんだけど、それもダメだし……。
せめて、俺がしっかり見ててフォローしてあげよう……!!)
と、そんな二人の行く先は……―-


「麗ちゃんの……苦手な物、ですか……??」
いきなりの千早の質問に困惑する庭師、“秋緒(あきお)”の元だった。
彼は櫛米家の庭師でありながら能瀬の幼馴染であるらしく、
千早が“幼馴染なら能瀬の弱みを知っているのではないか”と情報を聞きに来たのだった。
その秋緒は気弱そうな表情で思い悩みながらも言葉を紡いでいく。
「ええと……麗ちゃんに苦手な物なんて、無いと思いますけど……。
昔から何でもできたし、幽霊とかそういうのも怖がる方じゃないし……
好き嫌いも無くて……昔はしいたけが好きじゃないみたいだったけど、もう食べれるみたいだし……。
と、いうか……」
そこまで言って、秋緒の声のトーンが明らかに変わる。
「そんな事……聞いてどうするんですか?」
一瞬で暗い不審感を向けるその表情に正行は内心ゾッとしたが、千早は事も無げに言う。
「その災厄から能瀬を守ってやるために決まってるだろう?」
「!!……さ、さすが千早様……!!」
秋緒が一瞬にしてうっとりと千早に尊敬の眼差しを向ける。
正行はほっとするような羨ましいような複雑な気分になった。
能瀬に連れられて秋緒と初対面の一瞬は「見るからに雑魚そうだ」と暴言を吐いた千早だったが、
その直後能瀬に何かをつらつらと囁かれ、それに挑発的な笑みで何か言い返した後に
コロッと秋緒に上から目線で謝罪しつつ優しくなって、逆に懐かせてしまったのだった。
以来、秋緒の前では“良きご主人様”を演じている千早。
能瀬は面白くなさげな表情をしていたが、秋緒がいじめられるよりはいいと判断したのか
特に何も言わず放置していた。正行的には二人の間に交わされたやりとりが気になっていたりする。
そんな事情がありつつ、笑顔の千早の次の言葉は……
「……まぁ、苦手な物が無いならいい事だ。
ところで秋緒、能瀬の親兄弟あるいは恋人はどこで何をしてる?」
(いきなりとんでもない情報を探り出した!!)
まさか本人がダメなら大切な人を盾にしようとするのかと慌てた正行は
すかさずフォローする。
「千早様!!さ、さすがに親兄弟恋人はマズイ……と!いうか!!
あのほら、たぶん遠くに住んでるよ!ゴアイサツハマタノチノチニシヨウ!?」
「そ、そうですね……麗ちゃん一人っ子ですし、
ご両親は普通に麗ちゃんの実家に住んでますよ?ここからは、ちょっと遠いかな……」
正行の慌てた様子に少し驚きつつも、その言葉には頷きながら答える秋緒。
しかし、千早は笑顔を崩さずにさらに押す。
「そうか、まぁ確かに遠いと今すぐ“挨拶”は面倒だな。で、恋人は??」
「あ……」
千早の問いかけに、秋緒が分かりやすく赤面して。
正行の脳内に“!?”マークが現われる。
「……えっと……その……恋人、は……」
「―-そうか……」
千早はついに勝ち誇った笑みを浮かべた。

「お前か、秋緒」

「ッ……!!」
「えぇえええっ!!?」
ぎゅっと目を閉じて真っ赤な顔で硬直した秋緒に、正行は思わず声を上げて
秋緒に絶望フェイスで叫ばれる事になる。
「!!?いっ、今“釣り合わない”って思ったでしょ!!?」
「いいえ!!違います!そんな事、滅相も無い!!」
「その通り。お前と能瀬はお似合いだぞ?」
(あぁ千早君絶対“(雑魚同士で)”とか思ってる……ついでに悪い事考えてる……!)
正行は焦るけれど、清らかな笑顔の千早の悪巧みに気付かない秋緒は
「そんな事を言ってくださるのは千早様だけです……!」と、また感激していたりする。
その後は焦りながら叫ぶように言った。
「ごっ、ごめんなさい!麗ちゃんからは黙ってるように言われてたから……!
だからその、この事は知らない事にしていただけませんか!?お、怒られちゃう……」
「分かった。有益な情報をありがとう秋緒。お前はいい子だな?仕事頑張れよ?」
そう言って、褒められて嬉しそうな秋緒と千早が和やかに別れた……
数秒後。
「秋緒を人質に能瀬を脅すぞまさゆき!」
「ダメだって!それは絶対ダメ!!」
正行は絶叫しながら千早と言い争う事になる。
と、いうより全力で宥める事になる。
「協力するから別の方法を考えよう!?俺も全力で知恵を絞るから!」
「事態は一刻を争うんだぞ!?確実なこの方法でいくしかない!!」
「絶対失敗するに決まってるよそんな方法!!
そ、そうだ!俺が廟堂院家に連絡してみるから!」
「お前ごときゴミ虫に言いくるめられて終わりだろうが!
絶っっ対、兄様に繋いでなんてもらえない!!」
「うぅ!!」
正行が図星を突かれて言葉に詰まる。
千早は目に涙を浮かべて喚いた。
「もういい!もういいお前なんか!オレ一人でどうにかするッ!!」
「千早様!!待ってよ……」
「味方だと思ってたのに!!裏切り者!もうここから出ていけ!オレの世話係もクビだ!!」
「嫌だよ!俺は絶対千早様の味方だし世話係だ!絶対傍にいる!!」
正行は思わず千早の肩を掴んで叫んでいた。
驚く千早に半分勢いのまま、もう半分は覚悟を決めて言う。
「分かったよ見てて……その作戦、絶対失敗する事……俺が証明してあげる……!!」


そして、覚悟の正行が取った行動はこうだった。
「能瀬さん!!俺と千早様を今すぐ廟堂院家に返してください!!」
能瀬に直談判。
当然、「はぁ?」とでも言いたげな呆れ顔で返事をされる。
「それは……廟堂院家からの許可が無い限りできません。
今朝方“千早様がどうしてもと仰るので”確認を取らせていただきましたが答えは“NO”。
“最初の約束通りの期間、きっちり預かっていただきたい”だ、そうです。
こちらとしても貴方方を預かっている責任がありますし、廟堂院家との信頼関係や櫛米家の威信にも関わります。
勝手な事はできません。……千早様ならともかく、正行先生にそんなお願いをされるなんて意外ですね」
(うわぁ……俺スマートにすっごい怒られてる&圧かけられてる……!!)
冷ややかな能瀬の呆れと怒りにビビりまくる正行。
傍にいる千早も不安げ……というより(大丈夫かコイツ?)げに成り行きを見守っている。
ので、正行は内心ガクブルながらも顔には出さず(?)言葉を続けた。
「……能瀬さん……まさかこれを『対等なお願い』だとでもお思いですか?」
「どういう意味でしょうか?」
「ダメじゃないですか。こんな所にこっそり宝物を隠しておくなんて」
「正行先生?」
「こ、『恋人の』秋緒さんがどうなってもいいんですか?」
「…………“どう”とは?具体的に彼に何かなさるおつもりですか?」
「悠長ですねぇ〜〜?あっれぇ??さっきから秋緒さんの姿が見えないなぁ?
どこ行ったんだろ〜〜?」
「っ……!!」
能瀬の表情に小さく動揺が走り、それに気づいた千早も感心したような顔をする。
しかし、能瀬はまた最小限の怒りを滲ませるくらいの冷静な態度で言う。
「……正行先生……僕は貴方の事結構いい人だと思ってるんです。
たった今、それと同時に大バカ野郎だと判明しましたが。
例え千早様に何を言われたって、秋緒みたいなタイプの奴に酷い事は出来ない。
でも一応、彼の身の安全を確認できたらまたお話しさせてください」
「ま、待って!俺達をここから出すのが先でしょ――」
ガンッ!!
能瀬の手を取って止めようとした正行は、瞬時に床に叩きつけられて押さえつけられていた。
「痛たた!!」
「執事って多才なんですよ正行先生?学校で色々習うので。
僕を力づくでどうにかしたいなら、最高ランクの執事学校を首席で卒業してから出直してきてください。
一旦失礼します」
そう言ってさっさと出て行ってしまった能瀬。
早すぎる出来事にポカンとしていた千早が慌てて駆け寄る。
「まさゆき!!お、おまっ……大丈夫か?!」
「あはは……流石に心配してもらえた。全身思いっきり打って痛いけど大丈夫……でも、ね?
こんな作戦失敗したでしょ?能瀬さんに脅しなんて通じない。
例え本当に秋緒さんを人質に取ったとしても、こんなに強いんじゃ俺達が負けて終わりだよ。
ちなみに俺の身の安全も終わったと思うけど……また一緒に違う作戦考えようね?」
「まさゆき……!」
元気なく笑う正行に、千早も悔しげに何か言いかける。
ところ、能瀬が爽やかな笑顔で再入場してきた。
「秋緒、普通にピンピンしてるじゃないですか正行先生!やだなぁもう!
で、何のお話でしたっけ??」
「いやもう!!愚かな正行めが全力で謝罪と土下座してこの場を終わらせようと思ってたんですけど!!」
「そうですか?まぁ何でもいいですけど、秋緒の無事に免じて……
せめてもの慈悲をかけてあげましょう」
あくまで綺麗な笑顔の能瀬と真っ青で恐縮しまくる正行の会話は……
「千早様の目の前でお話ししましょうか?それとも場所を変えますか?」
「……な、なるべく防音性が高くてすぐ外傷が手当てできる別の部屋でお願いできますでしょうか……??」
「なるほど、分かりました。なるべくご要望に近い部屋にご案内します」
二人全くその表情を変えず終わった。


そして別の部屋で。
「ところで正行先生って僕より年下でしたよね?」
「そうだと、思います……」
「覚悟はできてるんだろうね正行?」
いきなり敬語をかなぐり捨てて、やる気全開の笑顔で距離を詰めてくる能瀬に、
正行は両手をワタワタさせつつ怯えていた。
「ひぇぇっ!!人生の大先輩たる能瀬さんにご指導いただけるのはありがたいのですが!
俺まだこういうのは初心者なのでどうかお手柔らかに!!」
「……大先輩は失礼だなぁ。君とそうそう変わらないと思うけど」
「お、おいくつなんですか……??」
「秘密」
「!!」
どこか艶っぽく笑う能瀬に一瞬ドキッとする正行。
自分が同じセリフを言おうものなら四方八方から舌打ちが聞こえてきそうだと思いつつ。
正行はいよいよソファーに座る能瀬の膝の上に腹這いになっていた。
「(うわ何かいい匂いする……!!)あぁあやめてやっぱり脱がせるんですか!?」
「文句ある?」
「まっっっったく無いです!!」
ズボンと下着も脱がされて色んな意味でドギマギする間もあまりないまま、お尻を叩かれていた。
バシィッ!!
「いぃっ!!?」
「正行は千早様の世話係でここに来てるはずなのに……
千早様のワガママを止めもしないで加担するなんて。
もしかして、本当に千早様には逆らえない“下僕”なの?」
ビシッ!バシィッ!
「ち、違いますぅぅっ!俺は今度こそ立派に家庭教師っ、世話係を!しようと思っております!」
「なら今の状態は監督不行き届きだ」
「うぅおっしゃる通りですごめんなさぃぃっ!!」
バシッ!バシィッ!ビシッ!
能瀬は怒っているのか打つ手も強めで、
さっそく痛みに耐えられなくなってきた正行は必死に謝ろうとするも――
「ほっ、本当に!申し訳ないです!世話係として至らなくて……ぇ、い、痛い!痛いです能瀬さん!」
「僕はこういうの慣れてるから」
「あぁああ経験の差ァァァッ!!」
さらりと流される。
そして、
「正行……本当に反省してるならきちんと千早様の事見ててあげて。
もうバレちゃってるから言うけど、僕は秋緒を傷つけられる事が何よりも腹が立つ。
今度万が一手を出されたら、千早様であっても容赦はしないから」
「わ、分かりました……!!秋緒さんの事、すごく大切なんですね……!」
「……僕の事はいいんだ」
バシィッ!
「うぅっ!」
照れ隠しのように叩かれて、少々理不尽に思った正行。
その後のは能瀬の声は真剣だった。
「千早様の事。どうしてここに来ることになったか知ってるんでしょう?
あれだけべったりだった兄弟だから、絶対にお互い会いたがるだろうし
ホームシックにもなると思う。
けど、彼を簡単に返せないのは彼らや廟堂院家を想っての事でもあるんだ。
正行にも協力してほしい。時が来るまで君達は逃がせない」
「は、はい……!それは、もう、俺だって……!!
千早君や千歳君の事は一番に考えたいと思ってます!」
「そうでしょう?だったら、千早様の事ちゃんと叱れるようにならなくちゃね、こんな風に!」
ビシッ!バシィッ!ビシッ!
強く叩かれ、正行はのけぞって叫ぶ。
「うぁあああっ!はいぃぃっ!勉強になりますぅぅっ!
俺もできない事は無いんだけどぉぉっ!!」
「できるのにやらないなら職務怠慢だなぁ。執事としてはそういうの許せないんだけど」
「ぎゃぁああっ!決して手を抜いてたわけではないですごめんなさぁぁい!!」
またお尻叩きが厳しくなりそうな予感に正行は慌てて絶叫する。
それで助かったのかどうかは定かではないけれど、余計強く叩かれる事も無く。
バシィッ!バシッ!バシッ!
かと言って、平手打ちが弱まる事も無かった。
お尻も真っ赤になってきている正行が泣きそうに言う。
「能瀬さっ……もうっ、本当に、勘弁して下さい!!」
ビシッ!バシッ!バシッ!
「は!反省しました!きちんと世話係としても任務を……う、ぅぅ!!
ぉおお終わりましょうもう!終わらせてください!お願いしますぅぅっ!!」
「冗談でしょう?泣きもしないうちから」
本音を炸裂させた正行に対する能瀬の返事に、
正行の声が思わず引き攣れる。
「ウソですよね……?」
「あのね正行。職務怠慢の上に、この僕の恋人に危害を加えようとした。
泣いて謝るくらいはしてもらわないと許す気になれない。
そのぐらいの覚悟もなかったの?」
「う、う……!!」
その言葉だけで、正行の涙腺が決壊した。
結果、泣きながら心底の嘆きを叫ぶことになる。
「旦那様だって何だかんだで泣く前に許してくれたしぃぃっ!
能瀬さんだってそこまでしないと思うじゃないですかぁぁぁっ!!」
「呆れた。そんな甘い考えで僕に刃向ってくるなんて……だからこうなるんだよ。
廟堂院家の旦那様、優しくしてくれたんだね。でも僕は手加減しない」
バシッ!バシンッ!ビシッ!
正行が泣き出しても相変わらずの厳しさでお尻を叩き続ける能瀬は、
どこか楽しそうにこう言った。
「見せてあげようか。元廟堂院家の執事としての後輩教育の腕」
「見たくない!!見たくないですごめんなさぁぁい助けてぇぇぇっ!!」
正行が怯えて悲鳴を上げた瞬間――
「まさゆき!!」
「うわぁあああ千早くぅぅぅんっ!!」
急に飛び込んできた千早に喜びのような羞恥のような大声を上げる正行。
千早は正行の姿見て、何とも言えない表情を浮かべ……困り気味に怒鳴りつけていた。
「……本当に情けない男だなお前は!!」
「ごめんなさい!うわぁああああん!!」
「能瀬!まさゆきを返せ!こいつを躾けていいのはオレだけだ!」
千早の言葉に能瀬が怪訝そうに返す。
「……まさか、正行先生を庇ってるんですか?貴方が?」
「そ、そんな事は……!!」
一瞬たじろぐ千早に、能瀬は躊躇なく見せつけるように何度も正行のお尻を叩いた。
バシッ!バシィッ!ビシッ!!
「ひゃぁあああっ!!」
「お、おいっ!!」
「貴方が悪い子だったから正行先生がこんな目に遭うんでしょう!?
それを止めなかった正行先生も悪い子という事ですが!」
真っ赤なお尻を思い切り叩かれて、正行は千早の前にも関わらず号泣状態で……
「ごめんなさい!能瀬さんごめんなさぁぁい!!うわぁああん!」
「正行先生を助けたいなら!これからはいい子にしていてください!分かりましたね!?」
「痛いぃっ!!ごめんなさい!もう反省したからぁぁっ!」
能瀬の怒鳴り声と正行の阿鼻叫喚具合に、若干引き気味な千早は素直に頷いた。
「わ、分かった……!分かったから!まさゆきを離せ!」
「……本当に正行先生の事は気に入ってるんですね……それとも、少しは思いやりの心が芽生えたんですか?」
能瀬は少し冷めた感じでそう言うと、正行を膝から下ろす。
正行の方はへたり込んで大号泣していた。
「っあぁあああ!千早君情けない先生でごめんねぇぇぇっ!!うわぁあああん!
もうこんなお仕置きヤダァァァ!!一緒にいい子にしようねぇぇぇっ!」
「な、泣くな!!分かったから!しっかりしろまさゆき!」
それを、一生懸命慰めようとしてるらしき千早を見て、
ため息をきながら能瀬が言った。
「……今日のところは、情けない正行先生に代わって僕が代案を打っておきました。
嫌いな相手と交渉したんです。お二人共、少しくらいは感謝して下さいね?」
「「??」」
能瀬の言葉の意味を分かりかねる二人が。落ち着いてから見せられた物は……


「こ、これは……!!」
少し恥ずかしそうに千早へのメッセージを話す千歳。の映像。
つまりは千歳から千早への動画レターだった。
千早はその映像を食い入るように見つめて頬を紅潮させて、呆然と呟く。
「国宝か……?」
「お、大げさだよ千早く……様。でも、可愛く撮れてるね」
一方、普通に微笑ましく見ている正行。
そんな正行のテンションに、もちろん千早は信じられないというように怒鳴る。
「はぁぁっ!?そんな軽い言葉でこの兄様の可憐さと美貌を表現するな!
いや、まさゆきの語彙力の無さを気にしてる場合じゃない!
オレも急いで兄様に返事を送らないいと!まさゆき!撮影の準備をしろ!」

そして、正行が何度も撮り直しをさせられた千早の動画レターも、無事千歳に届けられたらしい。

ちなみに、最初に届けてもらった千歳の動画の方も、千歳が何度も取り直しをせがんで上倉が苦労して、
ついでに執事部隊向けの応援メッセージも撮らせてもらったのはまた別のお話。らしい。




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あわよくば一言でも感想いただけたら励みになって更新の活力になりますヽ(*´∀`)ノ
【作品番号】BS31

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