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『なんて事をしてくださりやがったんですか先生……』 「本っっ当に、ごめんなさいッッ!!」 携帯電話から聞こえてくる上倉の呆れ声に対し、謝罪を叫んで深々と頭を下げる正行。 結局あれから、双子は彼らの母である絵恋(と、そのメイドの月夜)に回収され、 彼女の機嫌を損ねた正行はいくら頼んでも一緒に連れて行っては貰えずに、その場に置き去りにされた。 アワアワしながらどうしたものかと考えて、上倉に連絡を試みるけれど……繋がったのはだいぶ経った今の事だ。 「千歳君と千早君、大丈夫ですか!?やっぱりお父さんに、その……」 『当然。……ただ、本日は旦那様のご帰宅が遅いので、先にお休みになると思います。 お仕置きは後日、ですね。あぁもう、こんな事……旦那様に知れたらどうなる事か……!! 先生にもお呼び出しがかかるかと思いますが、色々覚悟なさった方がいいですよ?』 「は、はい……!!誠心誠意謝ります!! (良かった!まだお父さんと話せる機会はあるっぽいぞ! 千歳君と千早君の事、少しでも良い状況になる様に説得しなきゃ……!! で、できれば俺の家庭教師が続けられるように交渉も……!)」 そんな事をつらつら考えている正行へ、上倉の声が言う。 『……先生?上倉、先生の事はもっと心強い味方かと思ってました…… 今回のお手並みの雑さには少々ガッカリです……反・省・して・くだ・さい!』 「うぅ、返す言葉もございません……本当に、ご迷惑をおかけしました……」 丁重に叱られて正行がうなだれると、電話口の声は柔らかく笑う。 『ふふっ、素直に反省してくださってありがとうございます。 きっとこれから……千歳様や千早様にとっては厳しい状況になると思います。 上倉も頑張ってはみようと思いますが……我々屋敷の者はどうしても、“使用人”という立場もあって、 あの素晴らし過ぎる旦那様の御威光の前にたじろいでしまいますもので。 だから……』 上倉が一呼吸して、ひときわ甘い声で言う。 『次の機会は名誉挽回、期待してますよ?先生 ![]() 「は、はい……!!」 『大した結果も出さずにクビになったりしたら、お尻100叩きの刑ですからね? ![]() 「えぇええええ!!?」 と、熱いプレッシャーをかけられた正行だった。 そして迎えた、町で噂の大富豪、廟堂院家への呼び出しの日。 正行はどれほど叱られるだろうかとドキドキしながらも、普段より正装気味な服を着て屋敷に赴いた。 しかし応接室にて―― 「先生……先日は息子達が大変ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」 「え?」 逆に、千歳と千早の父親……つまり廟堂院家の当主、廟堂院千賀流に立ち上がって深々と謝られてしまった。 千賀流は頭を上げて座ると、近くで立っている息子達に視線をやって促す。 「千歳と千早も謝りなさい」 「「ごめんなさい……」」 千歳と千早が素直にしおらしく謝った。 千早は辛そうに俯いて、千歳はボロボロと涙を流している。 そんな双子を見た正行は慌てて言った。 「そんな、アレは俺が……!!」 「いいんです。もう分かってる事ですから。先生には今まで大変お世話になりました。 父親として心からお礼申し上げます」 「今まで、お世話にって……俺、家庭教師クビって事でしょうか……!?」 予想していた“クビ宣告”がついに言い渡されたのかと正行は青ざめるが、 千賀流は少し驚いたような顔をして、否定を示す様に手を振った。 「あ、いいえ。『クビ』などと失礼な事では……どちらかというと『任期満了』と、いう意味です。 千早を、少し他の場所で過ごさせる事にしまして……」 「えっ!!?」 正行が驚いた、次の瞬間だった。 「うわぁああああああん!!」 千歳が顔を覆ってその場に泣き崩れる。 そして、彼らしからぬ取り乱し方で泣き叫んだ。 「嫌だ嫌だ千早ちゃんと離れるなんて絶対嫌だぁあああっっ!! うわぁああん!千早ちゃん可哀想ぉぉ!何とかしてよ誰か何とかしてぇぇぇっ!!」 「兄様!!」 「あぁ、千歳……何度も言ってるじゃないか……」 千早が心配そうに千歳に寄り添って、千賀流もすぐに千歳に近づく。 そして、泣いている千歳を抱き寄せ、優しく涙を拭ってやりながら言い聞かせた。 「心配しなくてもいいんだよ?千早が行くところはね、お父様とお母様のお友達夫婦のお家で、 しかも奥さんは絵玲奈おばあ様の世話係だった人だし、お二人共とっても優しいから。 おじい様とおばあ様みたいなものだよ。 それに、1か月間だけだ。すぐ帰って来る。少しの我慢だからね?」 「いやぁああああっ!!何で何でお父様ごめんなさい!もうしないからいい子にするからぁぁぁッ!!」 「お、お父様、お願い……何でも言う事聞くから!いい子にするから!!」 首を振って泣き喚く千歳につられたのか、千早も泣き出して懇願する。 千賀流はますます困った顔ながら、穏やかに微笑んで息子達の頭を撫でる。 「ほら、千歳がそんなに泣くから千早が怖がっちゃった……千歳も千早も落ち着いて。 大丈夫、大丈夫だよ。怖い所じゃないから……少しの間だけだからね?」 一方の正行は、その様子を見ながらどんどんプレッシャーが高まっていく。 (俺、なら……言わなきゃ……!!) 千歳と千早の言葉は父親に取り合ってもらえない。 ならば、と思うものの…… (で、でも……話を聞く限り良い所っぽいし、一か月だけなら……。 お父さん的には、一度二人を物理的に引き離して様子を見ようって感じで…… あながち、間違った策でも無いんじゃ……??) そんな考えも心の片隅に浮かんで、躊躇してしまう。 そうこうしているうちに、双子は抱き合ってワァワァ泣き出して…… その姿を見た正行の心に強い想いが生まれた。 (……違う……そういう問題じゃないんだ……!千早君と千歳君が納得してない!! このままじゃ彼ら、“誰にも助けてもらえないまま無理やり引き離される”!! 今、俺にできる事は……例え結果が変わらなかったとしても、“彼らの味方がここにいる”って示す事だ!!) 正行はとっさに叫ぶ。 「お父さん!!」 瞬間、一気にその場の全部の視線が集まって、正行は頭が真っ白になりそうになる。 しかし、必死で声を出し続けた。 「良くないと思います!千早君と千歳君、そんなに嫌がってるのに…… 無理やり引き離すのは良くないと思います!話を聞いてあげてください!!」 「……すみませんが、当家の問題ですので」 突き放すような、冷静な千賀流の言葉。 けれど正行は言葉を止めなかった。緊張に汗ばみながらも声を発し続ける。 「監視が無理だと踏んだから、物理的に引きはがす!ちょっと安直過ぎやしませんか!? 家出の件だって、無理に千早君と千歳君の接触を絶ったから、彼らのストレスが溜まって起こった事なんですよ!? それ本当に正しいやり方ですか!?遠ざければ愛が、性欲が消えますか!!?」 「先生……!!」 千賀流の顔が青ざめる。 正行はますます勢いに乗って、演説のように手を広げた。 「きっと他に手がある!!今ココにある欲望にがんじがらめで蓋をして!目を背けて! 無いフリを見ないフリを!したって無駄ですよ!余計拗れていくだけだ!!」 「もしご自分の息子が同じようになった時も同じ事が言えますか!!?」 が、その勢いも千賀流の大声に遮られる。 その声は苦悩に満ちて続ける。 「本当はすぐにでも引き離すべきかと散々悩みました!譲歩して、手を尽くして、猶予も与えた!! でもダメだった!!話を聞こうにもただ“愛している”と……!! 私はこれ以上どうすれば良かったんですか……!!?」 一しきり叫んだ千賀流は、すぐに軽く頭を振って冷静さを取り戻す。 「……すみません。取り乱しました。先生が、この子達の事を想いやってくださってるのは分かります。 けれど、私の方も……父親として彼らを想って決めた事ですから……」 (返す言葉も無い……!!) 正行は立ち尽くす。 千賀流の気持ちも分かるのだ。千早と千歳の行為を背中で感じた時のおぞましさと罪悪感は今でも忘れられない。 いくら愛情を感じていても、許容できないライン。実の父親ならなおの事…… それでも…… 「それ、でも……おかしいですよお父さん……俺、納得できないです……! こ、このままじゃ……心安らかに、家庭教師、終われないです……!!」 ほとんど何も考えないままに、“何とかしなければ、何か言わなければ”の義務感だけで正行は喋り続ける。 “彼らの支えになりたい、助けたい”、その一心が正行を突き動かす。 そして、勢いだけの言葉は飛び出した。 「だから俺を千早君のお世話係にしてください!!俺も千早君の行くところに一緒に行きます!!」 それは、その場にいる全員が驚いて“!!?”状態になる一言だった。 さすがの千賀流も困惑している。 「せ、先生?急に何を……?」 「そう!そうですよ!!そもそも何で千歳君には上倉さんがいるのに、千早君にはそれっぽい方がいないんですか!? それに、何故兄の千歳君じゃなくて千早君を外に行かせるんですか!?これちょっと差別じゃないですかね!?」 「それは……!千早にも何度も世話係をつけようとしたけれど、本人が嫌がって……!! 千早を行かせるのは、彼の方が心身共に外でたくましくやれるかと思ったからで、 決して差別などというわけでは……!!」 「俺なら千早君は嫌がりませんよ!?千歳君だって俺と一緒なら安心して千早君を送り出せるはずです!! ね!?ね!?そうだよね二人共!?」 「先生!そんな無理やり……!!」 千賀流の言葉による制止を振り切る様に、正行は千早と、千歳にも心から言う。 「俺、このまま終わりたくないよ!また中途半端で君達と別れたくないよ! 君達の力になりたい!!頑張るなら一緒に頑張る!俺を世話係にして!!千早君……いや、千早様!!」 そう言い切って、千早の前に跪く正行。 (うわぁああああ!つい勢いで芝居がかってやっちゃったけど、 これで断られたら超痛い人だぁぁぁッどうしよぉぉぉぉッ!!?) 実際はそんな情けない頭の中だったりするが、 千早の返事は…… 「い……いいだろう……」 最初は気圧されたように、しかし、徐々に口元は不敵に微笑んで…… 「オレの、世話係にしてやるまさゆき!!どこまでも従え!!」 「ハイッ!!」 正行、歓喜。 明るい表情で隣の千歳に言った。 「よ、良かったぁ!やったよ千歳君!じゃない、千歳様!僕が千早様に付いてるから安心して!!」 「バッ……バカじゃないの……!?」 しかし、千歳の方は不機嫌そうな涙目で…… いつものごとく正行に食って掛かる。 「安心できるわけないじゃない!!まさゆきのくせに千早ちゃんの世話係になるなんて…… 一緒に行くだなんて……これから千早ちゃんと二人きりになろうって魂胆なの!? お父様に啖呵切ったのも、それが目当てなんでしょ!? 「えぇええええ!!?ち、違うよそういうわけじゃ……!!」 「うわぁあああん最低大っ嫌ぁああああい!!」 千歳は泣きながら走り去っていき…… 「兄様!!待って!」 千早が慌てて後を追っていた。 取り残された正行も、慌てて追いかけようとする 「うわわわわっ!!これって逆効果!!?千早君!千歳君待っ……」 「先生!!」 が、千賀流に止められた。 やや呆れ顔で疲れたような千賀流が言う。 「本気ですか……?千早の世話係だなんて……しかも、一緒に行くだなんて……」 「本気です。構いませんよね?お父さん……千早君、強気でしっかりして見えますけど、 千歳君と双子の兄弟なんです。彼だってきっと弱くて繊細な部分もある。 知らない場に一人で飛び込んで暮らすのは心細いと思いますよ?」 「そうですね……そこは私の見立てが甘かった。願っても無い申し出、ありがとうございます。 ただ……私は貴方の“お父さん”ではないのですが?」 「え゛っ!!?」 珍しくキリッとした正行の表情はここで一瞬にして崩れ、真っ赤な顔で慌てふためいた。 「あっ、いえそのっ!?ごごごごごめんなさい!つい!」 「“千早の世話係”になるという事は、うちの執事と同等の立場という事になります……。 今は臨時の、ですが……相応の扱いをさせていただいてよろしいでしょうか? 私の事はどうか“旦那様”と、お呼び頂きたい」 「こ、心得ました旦那様!!」 だんだんと、厳しくなっていく千賀流の態度に、正行の緊張が再び高まっていく。 千賀流はそんな正行にニッコリと微笑んだ。 「いい子だね。良かった……これで君に、“家出”騒ぎを起こした、お仕置きができる」 「ホワッ!!?」 「外部から雇ってる方なら、さすがにやめておこうかと思ったけれど。 “身内”なら心置きなく。さ、こっちへ来て?千歳や千早と同じように反省させてあげる」 「い、いやあの、俺……!!」 もはやかつての丁寧な対応とは真逆、完全なる“ご主人様モード”の千賀流に軽いデジャヴを感じつつ 正行がしどろもどろで動けずにいると…… 「正行、こっちへ来なさい」 この発言で、正行は今更気づく。 (こ、この人……あぁ、やっぱり、千早君と千歳君のお父さんなんだ……!!) と、気づいたその結果…… ビシッ!バシッ!バシッ!! 「わぁあああっ!ごめんなさい!ごめんなさぁぁい!!」 「大人しくしなさい。あの子達と一緒になって、連れ回して、悪い子だ」 「ひぃぃっ!ごめんなさいぃぃ!」 正行は下半身全部脱がされて=お尻丸出しで、椅子に座った千賀流の膝の上でお尻を叩かれることになる。 自分の年齢に不相応な“お仕置き”をされている恥ずかしさと痛みで、顔を真っ赤にして足をジタバタさせていた。 (うぅううっ!何だこれぇぇッ!痛いってか懐かしいってか恥ずかしいってか痛い! こ、この父親に叩かれてる感ッ!!ふぁぁ退行しちゃう退行しちゃうぅぅっ!!) と……正行は軽くパニックになりながらも、順調に千賀流にお尻を叩かれ、叱られていた。 バシッ!バシッ!ビシッ! 「どうしてきちんと彼らを止めてくれなかったの? あの子達の力になる事と、ワガママを通す事は違うと思うけど?」 「ごっ、ごもっともですぅぅごめんなさぁぁい!!」 「正行は優しい子だから押し切られちゃったんだろうとは思う…… でも、皆とても心配したし、色々迷惑も掛かったんだよ? 二度としないように反省しなさい」 バシィッ!ビシッ!バシッ! 「うぅぅっ!わ、分かりましたぁぁっ!ひぅっ!」 「千歳や千早の味方になってくれてるのは嬉しいし、私のやり方に思う所もあるだろう…… けど、良識を持ったいい子になってくれないと、安心して千早や千歳を任せられないからね?」 「はいぃぃっ!きちんとしたいい子になりますぅぅっ!!(あぁああ退行進んじゃうぅぅ!!)」 バシィッ!ビシッ!ビシッ!! 何度も何度もお尻を打たれて、痛みにビクついて…… 慣れないお尻叩きのお仕置きが続くと、正行はだんだん呼吸が乱れて涙目になってくる。 お尻が赤くなればなるほど痛みは耐えがたいものになって…… そんなこんなに耐えられなくなったので千賀流に聞いてみた。 「あっ、あっ、あのぉっ!!これっ、いつ終わるんですかぁ!?」 「ん?ん〜〜?……面白い質問をするね正行? 反省してる最中にその言葉は出ないと思うけど……反省しないで終わる事ばかり考えてるの?」 バシンッ!バシィッ! 「ひわぁぁっ!ち、違います!違います!俺あの、反省、して……!!」 失言を叱る様にお尻を叩く強さが上がった気がして、正行は慌てて首を振るけれど、 千賀流はゆったりと言った。 「のんびり屋さんの正行が泣いて反省するまでお仕置きかなぁ」 「えぇええ!そんなの嫌ですぅぅっ!あぁ、反省しました!!勘弁してください痛い!!」 「辛かったら千早の世話係、降りてもいいんだよ?」 「!!」 痛みの中、ヘタレた悲鳴ばかり上げてた正行が目を見開く。 その言葉だけには毅然と言い返した。 「お、降りません!!今度こそ、千早君や千歳君の力になるって、決めたんです!!」 「……そう。そろそろ痛いんじゃないの?」 バシィッ!! 「あぁあああっ!痛いです!で、でも痛みには屈しませんよ!!い、いくら叩かれようと俺はぁぁッ!!」 「そんなつもりはないよ。心外だなぁ」 ビシッ!バシッ!バシッ!! 「ひゃああああっ!!ごっ、ごめんなさい!そうですよねごめんなさい失礼しましたお父さぁあああん!!」 「私を呼ぶ時は“旦那様”だって言ってるだろう正行……悪い気はしないけれど」 「ごっ、ごめんなさい旦那様ぁぁっ!うぇぇっ、もう、もう許してくださぁぁぁああい!!」 真っ赤なお尻でもがいて、完全に涙声に……というか、ほぼ泣いている状態の正行を見て 千賀流も穏やかに頷いた。 「分かった。初犯だし、初めてのお仕置きだしね。 ただ、言っておくけど……、うちの子になったからには、悪い事をした時には毎回こうやってお仕置きだからね?」 「うわぁああああっ!!厳しい世界ぃぃっ!!でも気を付けますぅぅっ!!」 ビシッ!バシッ!バシィッ!! 「うぇえええっ!!痛いぃ!もうダメです泣いていいですかぁぁぁっ!!?」 「もちろん」 「やっぱ嫌ぁあああっ!旦那様許してぇぇ!!ごめんなさぁぁい!!」 と、叫びつつ。 どうにか泣き叫ぶ前にはお仕置きを終えてもらえた正行。 服を整えるのを手伝ってくれようとする千賀流を真っ赤な顔で丁重にお断りしつつ、 服と表情を整えると……千賀流が握手してくれた。 「ごめんね。本当は途中、ちょっと試した。痛い事をされてもに負けないで、 千歳と千早の力になるって、言ってくれてありがとう。 正行の気持ちは本物だってよく分かったよ。大変だと思うけど、千早の事、よろしくね」 「は、はい!!旦那様!!」 「……あの子達に、頼ってもらえる君が正直羨ましいよ」 千賀流から直々に、千早の事を任されて正行はものすごく嬉しくなる。 同時に、悲しげな千賀流の笑顔に、少し切なくなった。 一方…… 双子は千歳の部屋にいた。 泣いている千歳と千早が悲しげに話している。 「兄様……泣かないで……」 「ひ、酷いよ千早ちゃん……!!まさゆきなんか、世話係に……!!」 「オレの下僕は貴方の下僕です。まさゆきは、オレ達二人の駒です……」 千歳の涙を拭うように、千早が頬を撫でる。けれど、千歳は泣き止まない。 「それにしたってっ、うっ、悔しいよぉ……!! 僕は、離されちゃうのに!まさゆきが千早ちゃんと毎日一緒なんてぇぇっ……!!」 「貴方が望むなら、まさゆきはオレの半径2M以内に近づけさせないようにします。 機嫌を直して?愛しい兄様…… ![]() 「うぅ、千早ちゃんたら……」 千早が千歳を抱きしめて、甘い声で囁くと……千歳は少し落ち着いたようだった。 そのタイミングで、千早がすかさず真剣に言う。 「兄様……流れは止められない……けれど、これはチャンスです……」 「え?」 「物理距離を離した程度で、オレ達の愛は壊せないと、あの男に証明してやるんです!! オレが戻るまでの一か月の間に……オレを、攫いに来てくれますか?」 「!」 「恥ずかしいお願いですけどね……本当は、逆がいい」 千早のその提案に、千歳は驚いて……頬を真っ赤にして震えた。 「もちろん……!!」 そして、千早の手をしっかりと握って力強く言う。 涙目ながらも、強い決意の籠った真剣な表情だ。 「どんな手を使っても、君を助けに行ってあげる……!!僕、君のお兄ちゃんだもん!! ごめんね……君を行かせることになって……!!いっ、今からでも僕が代わる様に言って……!」 「オレは平気です。貴方を見知らぬ家に行かせるなんて、それこそオレの心臓が持たない……。 貴方は、貴方に相応しい場所で堂々としていてください」 「千早ちゃん……やっぱ強いね……泣いてばっかだった僕と大違い……」 「それはまぁ、貴方の“ご主人様”ですから♪」 「もう……」 冗談めかす千早に、千歳は小さく笑う。 今度は自分から千歳の頬に触れて、切なげに言った。 「お見送りにはきっと行けない……許してね……」 「はい。オレも、貴方の顔を見たらきっと、行けなくなってしまう。 ここで、短い別れの挨拶をしましょう」 そうして双子が、軽くキスをした。 その後、準備も色々あったもののすぐにその日はやってきて…… 千早と正行は廟堂院家を離れる事になる。 両親や執事達に見送られ、車で送ってもらって…… やってきた“櫛籠邸”の前で。 千早が前を見据えたまま小さな声で言う。 「本当は……一人で来るのは心細かった。お前がいて助かった、まさゆき。 ……兄様には内緒だからな?」 「……大丈夫だよ。行こう」 正行が千早の手を握ると、千早は振り払わなかった。 二人で歩みを進めて……正行が呼び鈴を鳴らす。 『はい。少々お待ちください』 応えたのは、若い男の声。 出てきたのは、その声の若い執事。 「ようこそおいでくださいました。千早様、正行先生。 あぁ……本当に……お久しぶりですね、千早様?」 執事服にバッジを付けた能瀬麗が、千早へニッコリと微笑んだ。 |
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