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廟堂院家の双子の話25




町で噂の大富豪、廟堂院家。
住んでいるのは、現当主は廟堂院千賀流と、その妻と、双子の幼い息子の4人。
そして屋敷を支える、執事やメイドといった使用人達。
そこへ新しいメンバーとして加わった、千歳と千早の家庭教師、高本正行(たかもと まさゆき)は、
自分が屋敷にいなかった間に、千歳と千早に起こった事にについて尋ねようと、
執事長の上倉に声をかけていた。

「上倉さん!」
「おや先生 やぁぁっと、上倉とデートしてくださる気になりました?
「い、いやそうじゃなくて……!!」
相変わらずラブラブモードで懐いてくる上倉にたじろぎながらも、正行は尋ねる。
「俺が家庭教師を辞めた後……今までに、千歳君と千早君に、その……何かあったんですか?
二人とも何だか、様子がおかしくて……」
「……旦那様からは何も聞いていらっしゃらないんですか?」
「彼らを、二人きりにしないでくれとしか……」
「そうですか……」
上倉の笑顔から明るさが消え、それでも完璧に綺麗な笑顔のまま話し始める。
「先生が来る前も去った後も……千歳様と千早様はそれはそれは仲の良いご兄弟でした。
別にお二人に何かあったわけではありません。深い兄弟愛がやがて夜の花を咲かせてもそれは自然な事。
彼らは密やかに大切に、美しい愛を育ててきたのです……ところが……」
そこでスッと視線を外す上倉の瞳には、うっすらと憎悪の念が滲む。
しかし声色だけは何とも無いように話を続けた。
「ごく最近の事です。おぞましい悪魔が二人の秘密を白日に晒してしまったのですよ。
……旦那様は正しい方です。だから、心配してお二人をなるべく引き離している。
どうにか息子達を“まともな方向へ”導こうとしている……それが今の悲惨な現状です。
まぁ、先生が戻ってくださった事だけは、上倉的には嬉しいのですが♪」
「……あ、あの、それってつまり……」
「ん〜〜砕いて言えば、“千歳様と千早様の兄弟セックスが旦那様にバレて
監視されながら引き離されてる”って感じですね♪」
「う、嘘だ……!!」
驚愕で固まる正行に、上倉はただクスクスと上品に笑う。
「ふふっ、いくら上倉でもこんな嘘はつきませんよ。こんな下品な嘘、旦那様に叱られてしまいます……。
信じられないなら、ご本人方に確かめてみては?」
「それは……!!」
「先生……?」
「!?」
急に上倉に距離を詰められて驚く正行。
胸に縋る様に触れられて、どこか毒を含んだような妖艶な表情で見上げられて、
まるで囲い込まれた感覚に陥った正行に、上倉が誘うように言う。
「先生は、千歳様と千早様の味方ですよね?
私はね、思うんですよ。何かの手違いでいいから、旦那様が二人の愛を認めてくれないかなぁ〜〜って。
考えてもみて下さい?このまま、千歳様や千早様がこの家の為に、望まない相手と結婚させられて
子供を作らされたら……可哀想じゃないですか。この世で“強制された性行為”ほど愚かで悲しい事はないんです。
だから……先生……」
「いや!いやいやいやいや!!」
半分パニックな正行は上倉の体をグッと引き離して叫んだ。
「お、俺は確かに!!千早君や千歳君の味方です!
けれど、それを聞いてしまったら……俺は、どうすべきか……!!
千早君と千歳君!今は落ち着いて楽しく遊んでるじゃないですか!
このまま!うまく……普通の兄弟みたいに……!!」
「愛を檻に閉じ込めるなんて、不可能ですよ先生……本当は分かってるんでしょう?」
全てを見透かしたような、嘲る様な笑顔の上倉に、淡い希望を砕かれて
正行はぐっと言葉を詰まらせて、震える声で言った。
「お、俺は……千早君と千歳君の味方だよ……」
「さっすが先生 大好き
「でも……上倉さんの味方をできるかは分からない……」
「……そうですか。いいんですよ。千歳様と千早様の味方でいてくださるならそれで……。
いざと言う時になって、千歳様と千早様を……そして、私の事も……失望させないで下さいね??」
上倉はニッコリ笑ってお辞儀をして、歩き去ってしまう。
残された正行は動揺した顔で立ち尽くしていた。


そして――
「千早ちゃん……はぁっ、千早、ちゃん……!!
あぁ……!愛し、合え、ない……なんて、辛い……苦しい、よ……あぁっ……!!」
上倉はベッドで苦悶している小さな主を見て、そっと入ろうとした扉を閉じ、
ドアに背を預けてため息をついた。
(きっとすぐに限界は来る……その時、貴方はどうお二人と向き合うつもりですか?正行先生?)
正行に届かないその問いは、上倉の胸の中で消える。


そんな事がありながらも、正行はどうにか家庭教師を続ける日々を送っていた。
双子を取り巻く周囲の監視は何一つ変わっていないけれど、特に事件も起きず。
相変わらず正行は引き離され気味の双子それぞれと、あるいは両方と遊んだり……
二人の勉強を、それ用の勉強部屋をもらって見てあげるようにもなった。
本当に“家庭教師”的な事ができる事は、正行とっては大きな喜びで、
そうこうしているうちに、千早の方は以前正行と過ごした感覚を取り戻し始めたのか、
徐々に正行に心を許していった。


この日、“勉強部屋”で千早と千歳の間に座って勉強を見てあげている時も……
「まさゆき!ここが分からない!」
千早は正行の服を引っ張って、懐っこく質問をしている。
「……千早君さぁ?そろそろ……“まさゆき先生”って呼ぶって約束……」
「いいから早く説明しろ!お前は家庭教師なんだろう!?」
「いや、そうなんだけども、う〜ん……ここはねぇ……」
態度は相変わらずで“正行先生”と呼ぶ約束もいつの間にか反故にされているけれど。
千早なりに正行に頼っている感じが、正行的にも嬉しくて、
ついつい甘く流されてそのまま質問に答えていた。
「…………」
そんな二人を見つめる、千歳の冷めた視線にはどちらも気付くこと無く……
「って事なんだけど……分かった?」
「ふぅん。分かった」
千早は懸命に問題を解き始め、正行は逆方向に笑顔を向ける。
「千歳君は分からないところない?」
「……いえ、特には」
穏やかな笑顔でそう答えた千歳。
その後に千早の弾んだ声が入ってくる。
「兄様に分からない所があるわけないだろうが!
まさゆきのくせに兄様に教えを説こうなんて一億年早いぞ!
それより、勉強が終わったら、オレ達と遊ぶんだろうな!?
一緒に四葉のクローバーを探すって約束しただろう?!」
「あはは、ちゃんと覚えてるってば。
千早君も千歳君も賢いから、すぐに今日の課題も終わっちゃうよ。
だからもう少し集中して頑張ってね」
「オレが集めた幸福のクローバーはすべて!兄様に捧げますからね!」
「ありがとう、千早ちゃん……」
やっぱり穏やかな笑顔の千歳に、千早はふと不安そうに尋ねる。
「兄様?何だか元気が無いですか?」
「ううん。そんなこと無いよ?」
「そうですか……」
まだ不安そうな千早は、千歳に促されて再び問題に向き合う。
正行がそんな双子をニコニコと見つめていた。


そしてその後。
千早と正行が遊びに出かけていって、千歳は自室に戻ってくる。
上倉がいつものように優しい笑顔で迎え入れた。
「お勉強お疲れ様でした千歳様!さて、今日は何して遊びましょうか?」
「……いい。何もしたくない。一人にして」
ムスッとしながら本やノートを机に投げて落として、
ソファーに寝転んでしなだれかかる千歳の珍しい姿に、上倉が目を丸くする。
「あら……何かありましたか?」
「腹が立つの。まさゆき。
偉そうに千早ちゃんに勉強教えて、懐かれちゃって。
千早ちゃんの分からない所なら僕が教えてあげるのに!!」
「そうでしたか……」
「そんなに上手い教え方でも無かったし!アレなら、上倉の方が絶対上手い!
お前の方がいい学校出てるんでしょ!?お飾りの家庭教師が出しゃばって……
何なのアイツ……何なの!?」
足をバタつかせて怒っている千歳を、上倉が困り笑顔で宥める。
「まぁまぁ千歳様……おいしいココアを淹れますから……。
ちなみに上倉は、有名大学に在籍はしてましたけれど、恥ずかしながら卒業はできなかったので……」
「お前の学歴なんかどうでもいいよ!」
「ふふ、そうですね。すぐ戻ります」
と、笑った上倉の淹れたココアを飲んでこの日は怒りをおさめた千歳。


しかしその後も、千早が正行に懐けば懐くほど、
千歳は密かに怒りを募らせながら二人から距離を取って……
執事達と遊ぶことも少なくなっていき……そんな千歳の様子を千早が心配していた。
しゅんとしながら正行と話している。
「……最近、兄様の体調が優れないみたいなんだ……。
部屋に籠ってらっしゃる事が多くて、執事共ともあまり遊んでないみたいだし……」
「そっか、心配だね……」
「まさゆきの情けなくて笑える話をしてもあまり笑ってくださらなくて……」
「ちょっと待って!!そんな話してるの!?やめてよ!!」
「うるさい!!役立たず!少しは兄様を元気づける事に貢献しろ!!」
「えぇえええ……!!」
「兄様……」
俯いて泣きそうになっている千早の頭を、正行が優しく撫でて励ます。
「上倉さんがついてるからきっと大丈夫だよ。
千早君までそんな顔してたら、きっと千歳君も悲しくなっちゃう。
千歳君が元気になったら、3人で遊ぼうよ!千歳君が無理しなくていいような、外で遊べる遊びを探してさ!」
「そ、そうか……うん、そうだな!まさゆきにしてはいい案だ!」
パッと明るい表情で正行を見上げた千早。
しかし、次の瞬間にはハッとして頭の上の手を慌てて払う。
「ばっ、バカ!!撫でるな!セクハラだぞ!!」
「えぇえええ……!!」
相変わらず千早のペースに振り回されながらも、そのまま外で仲よく遊ぶ二人。
楽しそうに外を駆け回る二人を、千歳は部屋の窓から憎々しげに見ていた。
「まさ、ゆき……!!」
窓に添えた手の指に、力が籠る。
しばらく楽しそうな二人を睨みつけて、千歳はサッとカーテンを引いてしまった。


その、翌日。
正行は廊下で千歳に声をかけられる。
「まさゆき先生」
「あ!千歳君!もう体調は大丈夫なの!?」
驚く正行に、千歳は愛想よく笑う。
「はい、おかげさまで……それより、できなかった時の分、
勉強を教えていただきたいのですが……」
「それは、もちろんだよ!いやー千歳君は真面目で偉いねぇ!」
「ありがとうございます。できればその……僕の部屋で、ふたりっ、きりで……
「え、あ!いいよ!(な、何だろう……この妙に熱い視線……)」
「じゃあ、さっそく行きましょう先生
千歳は正行の手を取って、引っ張っていく。
何だか嬉しそうな正行を見て、ほくそ笑んでいた。


「さて!いつもどこで勉強してる?そこのテーブルかな?」
千歳の部屋に連れて来られた正行が、落ち着かない様子でキョロキョロしながら言う。
すると千歳が元気なく答えた。
「……先生、やっぱり気分が悪いかも……」
「えっ!?大丈夫!?誰か呼んで……」
焦る正行の手を、千歳が取る。
胸元を苦しげに握って、潤んだ瞳で正行を見上げた。
「あの……その前に、ベッドまで連れて行っていただけますか?」
「そ、そっか!ごめんね気が回らなくて!!ゆ、ゆっくり行こう!大丈夫!?」
「…………」
正行に支えられながら、二人でベッド歩いて行き、
「ほら、横になろうか?大丈夫、すぐ誰か呼んでくるから!!」
大きなベッドに乗り上げて、丁寧に体を横たえてくれた正行の、
心配そうな顔を見上げながら、千歳は
吹き出してた。
「……くふふふっ!!お前ホント、バカだねまさゆき?」
「えっ?!」
「バイバイ。今すぐクビにしてあげる」
ニヤリと笑った千歳は、次の瞬間、
正行の聞いた事の無いような大声を張り上げる。
「誰か助けてぇぇええええっ!!!」
「なっ……!!?」
叫んだと同時に、服を脱ぎ始める千歳の腕を、正行が慌てて掴んで止める。
「ちょっ、やめて!やめてよ何て事を!!」
「いやぁああああっ!やめて!やめて離して誰かぁぁあああっ!!」
「うわぁああああ誤解だぁぁあああっ!!千歳君やめてぇぇぇっ!!」
着衣の乱れた千歳と正行の二人が揉み合うような姿は、
もはや外から見たら言い逃れできない状況になっていて、
正行はパニックで泣きそうになりながら、千歳を必死に止めようとしていた。
すると……

「千歳様!!」
慌てて部屋に駈け込んで来たのは上倉。
千歳が先手を取って必死に叫ぶ。
「上倉!上倉助けて!!まさゆきが僕に変な事するの!!」
「違うんです!千歳君が!千歳君が自分でいきなり!!」
「うわぁああああん!!怖いよぉおおおっ!!上倉は僕の事疑ったりしないよね!!?」
「そんな!上倉さん!誤解なんです!信じて下さい!!」
千歳と正行から交互に訴えられる上倉は、みるみる顔面蒼白になって、
「千歳様……申し訳ありません……先に、言っておけば良かった……この部屋……」
震える声が、弱弱しく告げる。
「監視、カメラが……」
「……嘘でしょ……?」
その言葉で、今度は千歳が真っ青になって呆然として……頭を抱えて叫んだ。
「何それ……何それ気持ち悪い!!」
逆に、正行は戸惑いながらも、ホッと胸をなで下ろしていた。
(監視カメラ??そんな物が部屋にあるなんて……でも、
よ、良かった!!これで僕の潔白が証明できる……!!はぁぁ……。)
そして、千歳を緩く怒鳴る。
「こらぁっ!!千歳君ダメでしょ!!こんな酷いイタズラダメだよ!悪い子!!」
「お前は何を急に強気になってるワケ!?
ムカつく!ちょっと千早ちゃんに懐かれればいい気になって!!
調子に乗って馴れ馴れしくしちゃって!
前みたいに千早ちゃんに遊ばれてるくらいがお似合いだったのに!
偉そうに家庭教師ぶられたら目障りなんだけど変態!!」
(ええと……千早君を俺に取られたと思った、やきもち、かな?
なぁああんだ!千歳君も意外と子供っぽいところあるんだ〜〜!)
反発するような千歳の返事は辛辣だったけれども、
正行の思考は意外と平和的に落ち着いてしまい、顔がほころんでしまう。
予想外の反応に、千歳が驚いてしまうほどに。
「な、何ニヤニヤしてんの気持ち悪い!!」
「いーや!先生は怒ってるんだよ千歳君!
人を騙して陥れようとするなんてすごく悪い事だ!今日の千歳君はすごく悪い子!
前に言ったよね?千歳君も悪い子だったらお仕置きしちゃうよって!
……あ、あれ言ったっけ?いや、とにかく!お仕置きだよ千歳君!お尻ぺんぺん!」
「はぁっ!!?上倉!!」
千歳にとっては予想外の展開の連続に、イラつき気味に上倉へ形の無い命令を飛ばす。
しかし、上倉も珍しくオロオロしながら、なすすべがないようで。
「ハイッ!も、申し訳ありません千歳様……!どのみち、先生に罪を着せようとした
映像が残ってしまっていると……旦那様にお仕置きされてしまうかと……!!」
「ま、まだお父様にされる方がマシ!……ま、し……?」
頬を赤くして迷うように俯く千歳へ、上倉が必死で言う。
「いいえ!絶対に先生を選んだ方が得策です!!
旦那様にはそれで許していただけるように!上倉が死ぬ気で掛け合います!!
で、ですから千歳様ここは……!!」
千歳へはそう言って宥めながら、上倉は正行へと懇願する。
「先生!!先生どうか……どうか、お手柔らかに……!!
千歳様は見た目のごとく可憐で繊細な方なんです……!!」


「それは、千歳君の反省具合、次第、かなっ……!」
「ひゃ!!」
正行が引っ張り上げるように千歳を膝の上に乗せて、ズボンと下着を脱がせて、
千歳に声をかける。
「千歳君、前言ったよね?俺は君と千歳君の“家庭教師の先生”になりに来た!
その為にそれなりの覚悟も決めてきた!うん、これは確かに言った!
君にも俺の覚悟と本気、分かって欲しいな!しっかり反省してね!」
「あっ……(この部屋、監視、カメラ……)」
千歳がふわっとそう思った瞬間に、最初の平手が振り下ろされる。
バシィッ!
「いやぁああああっ!!」
痛みよりもこの状況に悲鳴を上げた千歳は、必死に体をよじって抵抗する。
「や、やめて!離して!変態!変態変態変たぁああああい!!」
「あぁもう!反省してって言ってるのに!こういうとこ千早君と双子なんだから!!
ちゃんと反省できるまで許さないよ!」
元々千早より体力腕力も無い千歳の抵抗では、正行から抜け出すこともできず。
千歳は続けて何度もお尻を叩かれる事になって、さらに不機嫌になっていく。
ビシィッ!バシィッ!ビシィッ!!
「あぁっ、痛い!痛いってばぁッ!!元はと言えばお前が悪いんでしょぉおっ!!?」
「俺のせいにしないでよ!やきもち焼いたからって、姑息な手段で
俺をクビにしようとした、千歳君が悪い子なんです!分かる!?」
バシッ!!
「ひゃぁあんっ!!」
「悪意と嘘で人を陥れて濡れ衣着せるような事はしちゃダメなんだよ!?
それはとっても悪い事で、恐ろしい事なんだから!
まだ“俺”を“クビ”にしようとしたぐらいで良かったよ!
二度と誰にもこんな意地悪な事しないで!いいね!?」
「じゃあまさゆき今すぐ家庭教師辞めてよ!ここから出てってよぉぉっ!!」
「い・や・だ・ね!」
ビシッ!バシッ!ビシィッ!!
「あぁあんっ!やだっ!やめてってば!バカ!離してぇぇっ!!」
「それも嫌!何度も言ってるじゃないか!俺は千早君と千歳君の“家庭教師”なんだから!
こんな悪い子の千歳君を置いて屋敷を去れないよ!二人ともいい子になるまで見届ける!」
バシッ!バシッ!!
最初よりはお仕置き慣れして自己主張もできるようになったのか、
それとも千歳相手なら強気に出られるのか……正行は毅然としてお尻叩きを続けていた。
千歳が、そんな正行に忌々しげに叫ぶ。
「く、ふぅっ!!調子に、乗るな!!お前なんか!何も期待されてないんだよ!
僕らの事が周りにバレると困るから!周りの家が雇うような一流の家庭教師が雇えなかったんだ!
庶民だから選ばれた、お飾りの“家庭教師”のくせに!!」
(“僕らの事”って……)
千歳の言葉に内心ゾワゾワと嫌な感じがしつつも、正行は千歳に負けじと大声を出す。
「だとしても!俺は家庭教師としての仕事を全うしたいよ!
今度こそ、途中で投げ出したくない!」
バシィッ!!
「うぁあああんっ!」
「別に、千早君の事、千歳君から取ったりするつもり無いよ!
僕は千歳君とも仲良くなりたいし!だから、今日の事反省して、
これから仲良くやりたいんだけど……どうして素直にしてくれないのかな!?」
ビシッ!バシッ!バシィッ!!
「あぁああああんっ!!」
「素直に反省しない子はお仕置き終わりません!」
叩く手も語気も強めると、千歳は泣き混じりの悲鳴を上げ始める。
けれど、赤くなってきているお尻を必死に振って抵抗していた。
「うぁあああん!痛ぁい!やめて!やめてよぉぉっ!
まさゆきなんか嫌い!!仲よくしないからぁぁっ!!
僕に酷い事したら千早ちゃんに嫌われるんだからぁぁぁっ!!」
「うぅ……今はとりあえず俺を嫌いでもいいから!とにかく反省したの!?
自分のやった事が悪い事だって分かってる!?……あんまり分かってるように思わないけど……
反省したら、言う事があるんじゃないの!?」
「あぁあああっ!うっうううっ……やだぁぁあああっ!何で僕がまさゆきなんかにぃぃっ!!」
「いいですか!?先生、君らに下に見られまくってるのがとても悲しいですが!
悪い事をしたら例え相手が蟻だろうがビニール紐だろうが!“ごめんなさい”しなきゃダメです!
それができるまでは、泣いても許さないから!!」
バシッ!バシィッ!ビシッ!!
いくら抵抗しても、叱られ続けて叩かれ続けて、
千歳も反抗する気力が切れてしまったらしく、子供っぽく泣き出してしまう。
「うぁああああん!やぁぁっ!撮られちゃうぅっ!僕がまさゆきにお仕置きされてるとこ、
いっぱい撮られちゃうよぉぉおおっ!わぁああああん!!そんなのやだよぉおおっ!!」
「うぇっ……!?そ、そっか……だから、集中できてなかったの……?
でもそれなら……なおさら、早く良い子になってお仕置き終わらなきゃね!?」
バシッ!ビシィッ!!ビシッ!!
ここでやっと“監視カメラ”の存在を想い出して慌てたらしい正行でも、
手は止めず……
「うわぁああああん!あぁああああん!!」
「泣いてもダメ!!悪い事して、反省したら何て言うの!?」
「う、ぇえええええうっ!!まさゆきのバカ!まさゆきの変態!まさゆきのっ……あぁあああん!!」
「いい子にならないと絶っっっっ対、許さないよ!!?何時間でもお尻ぺんぺん続けるよ!?」
「うぁああああん!!」
正行の本気な態度に押し負けたように、千歳は泣きながら謝った。
「ご、ごめんなさい!!ごめんなさい……!!」
「俺の事は何て呼ぶの!?」
「まさゆき、先生っ……ごめんなさい!!」
「よ、よし……!いい子だね……」
正行はホッとして手を止め、千歳を抱き起してあやそうとするけれど……
「最低……最低!!変態!!大嫌い!!」
千歳は正行を拒むように手を振り払って体ごとそっぽを向いて俯いてしまう。
正行が困ったように反論した。
「……俺をベッドに連れて行って、
自分から服を脱ごうとした千歳君の方が変態さんじゃないのかな?」
その瞬間。
「ッ……うっ、うわぁあああん!!」
千歳は大泣きしながらベッドへ突っ伏した。
そのまま号泣状態で喚き散らす。
「そうだよ!どうせ僕は性欲も抑えられない変態だよ!!
何も知らないくせに!何も知らないくせにぃぃっ!!
千早ちゃんにベタベタしないで!!
僕が千早ちゃんの事我慢してるのに!愛してるのに!キスしたいのに!
もう嫌だよ何もできないの苦しいよぉぉぉっ!!
千早ちゃん!千早ちゃん千早ちゃん千早ちゃぁああああん!!」
「や、ごめっ……千歳……君……」
正行は完全に驚いて、手を伸ばしかけて硬直する。
そんな正行に上倉が笑顔で言う。
「あらあら先生〜〜?私のご主人様を“変態”と侮辱した挙句、いじめて泣かせるなんて……。
これ以上ハッスルなさったら、上倉が先生をお仕置きしちゃいますよ〜〜?」
「ごっ……ごめんなさい……!!」
焦って謝る正行を横目に上倉もベッドに乗り上げて千歳に手を伸ばすと、千歳は上倉に抱き付く。
抱きしめた千歳の頭を撫でながら、上倉は悲しそうに言った。
「……分かってくださいました?
千歳様は、かなり精神的に消耗しています……きっと千早様だって……
このままでは……」
正行は、また何も言えず……


その後、廊下で。
「出雲さん!!」
「え……?あ、正行先生……」
執事の出雲イルに、焦り気味で声をかけていた。
「貴方は千早君と千歳君の秘密の事、知ってる!?」
「!!……先生、声を……」
周りを気にしつつ、微かに慌てるイル君。
それでも正行は必死に尋ねた。
「悪魔って誰!?二人の秘密を晒した悪魔って誰!?」
「静かに!!それを聞いてどうする気です?!」
イル君に“落ち着け”とばかりに両腕を掴まれても、正行の必死さは治まらなかった。
「話が聞きたいんだ!その悪魔さんが、どういう考えを持って
この状況を作り出したのか知りたい!!」
「……私は、その“悪魔”とやらは存じません。失礼します」
それだけ言って、冷たく去っていくイル君。
正行はそんな彼を呼び止めかけて……ため息をついた。
「出雲さん!!……あぁ、やっぱり“悪魔”さんは皆から恨まれてるのかな……??
話を聞けば何か分かると思ったけど……」
しかし……
「正行、先生……?」
「えっ!!?」
「千早様と千歳様の秘密って……何ですか……?」

いつの間にか、背後には……驚いたような顔の執事の秋山貢が立っていた。




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【作品番号】BS25

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