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廟堂院家の双子の話23



「それと、四判……この事はまだ、絵恋には黙っててくれないかな?
あの子は精神系が……いや、少し心が……丈夫じゃないから。
ショックを受けたら心配だ。逆に……ショックを受けなくても、怖いから」


町で噂の大富豪、廟堂院家には二人の息子がいた。
名前は千歳と千早。まだ幼い双子の兄弟だ。
その双子の父親、廟堂院家現当主の廟堂院千賀流と、双子がお互いショックを受けた夜が明けて。
千賀流は双子を自室に呼び出した。

隣に元執事長で千賀流の世話係の四判に控えていてもらって、
怯えと不信感の混じった暗い表情で自分を睨んでくる息子達に優しい笑顔を少し困らせて微笑む。

「お早う千歳、千早。良く眠れた?……って聞くのも変な話だね」
「「…………」」
「そんなに警戒しないで。昨日の事で怒ったりしないから。
ただ、昨日も言ったけれど……二度とあんな事はしないでほしいんだ。
だからね、お父様とちょっとしたルールを作らない?」
息子達の返事の無かったが、千賀流はとりあえずそのまま穏やかに言葉を続ける。
「今日から寝る時はそれぞれ自分の部屋で寝るようにしよう。
君達の部屋にベッドがあったよね?嫌なら別に寝室を用意するから。
とにかく二人一緒には眠らないで。……お風呂も、一緒に入らないで。
……一人は怖かったりする?」
その言葉で千早と千歳が冷めた顔で目配せをする。
「オレ達、舐められてますね兄様」
「酷い侮辱」
「あはは……ごめんごめん。二人とも、もうお兄さんだもんね。安心したよ。
……あんな事をするのは夜だけだよね?」
また様子を窺うように黙る二人に、千賀流は青ざめる内心を抑えて笑顔で言った。
「これからはね、昼間ももっと執事の皆が遊んでくれるようになるから。
学校のお友達も家に連れてきていいんだよ?
あ!そうそう!また家庭教師の先生も雇おうと思って!」
「……監視するってわけ?」
千歳の冷たい声に、千賀流は落ち着いて毅然と返す。
「……悲しいけど、そう取られても仕方ないね。
君達だって、いけない事だって分かってるはずだよ?
あれは、すぐ止めなきゃいけない事だ。二度と繰り返してはいけない事」
「僕達愛し合ってるんだよ?」
千歳の言葉に眩暈がしそうになっても、千賀流はひたすら声を落ち着けて答える。
「兄弟仲がいいのは嬉しいよ。でも、お互いを傷つけるような愛し合い方はしないで」
「……言っても無駄だな。分かってた」
千早は感情の無い声でそう言って目を逸らす。
ひたすら声も表情も凍らせている息子達。
千賀流も慎重に、しかし言うべき事は伝えるために言葉を紡いだ。
「……くれぐれも言うけど、“あんな事はもう二度としないで”。
もし、今度見つけた場合は……別の対策も考える」
双子の表情が一瞬焦ったように固くなったけれど、二人は大人しく、服従を示す様に目を伏せてこう言った。
「「分かりました。お父様」」
「……いい子だ」
二人が納得していないのは明らかだけれど、
とりあえず言う事を受け入れてくれたので、千賀流はホッとする。

そして、少し肩の力を抜いてまた息子達に言葉をかけた。
「さて。ここから別の話だけど。君達……麗の事、叩いていじめたの?」
「「!?」」
「おかしいね。前に散々お仕置きしたのに。
どうして執事をいじめる悪い子なのが直らないんだろう?」
「ちょっと、待って……何で……!」
明らかに動揺し出す息子達をあえて無視して、千賀流は先へ先へと言葉を進めていく。
「考えたんだ。もう私がお仕置きしてもダメなのかなって。
君達が“執事”達をバカにしてるからそういう事をしちゃうのかなって思って。
それならいっそ、その“執事”にお仕置きされれば懲りるのかな?」
「おい……おい!!決めつけるな!オレ達は……」
「だから……四判。お願いできる?」
「「!!?」」
千歳と千早の表情がこれ以上ないほど驚きで凍りつく。
四判の方は涼しい顔で千賀流に笑いかけた。
「おやおや、よろしいのですか?」
「うん。君も仲間が虐められていたって知って歯痒い思いをしたと思うんだ。
ごめんね、私の力不足で。甘やかさなくていいから……って、君なら甘やかしたりしないか」
「そうですな。仲間達のために一肌脱ぎましょうか」
千賀流とにこやかに会話を終えると、上着を脱いで双子に近づく四判。
四判が足を進めるたび、千歳と千早は真っ青な顔で後ずさる。
「ちょっと……冗談、でしょ……?!(えっ、何で脱いだの……!?)」
「ふざけ、るな……よ、寄るな……!(何か脱いだ……脱ぎだした……!!)」
「いやぁ懐かしいですなぁ……貴方方のお父様が悪い子だった時も、
お尻を叩いてお仕置きしたものですよ?」
そう言ってジリジリとにじり寄るヨハンに、千賀流が「痛かったなぁ」と合いの手を入れると、
千歳も千早も涙目になって悲鳴を上げる。
「や、やめて!やめて来ないで!!」
「お父様!」
「さぁっ!!」
パンッ!
「「ひっ!?」」
脅しで手を打ち鳴らし、怯えて目を閉じる双子へ四判が怒鳴りつける。
「逃げてばかりいないでこちらへいらっしゃい!どちらから先にお仕置きされたいのですか!?」
「「…………!!」」
双子はお互いに泣きそうな顔を見合わせ、
そして――

結局は二人で並んで壁に手をついた。
ズボンや下着を下ろされた時には、内心四判へ罵詈雑言を吐いたがそれも二人とも口には出せず、
裸のお尻を平手で交互に叩かれ始める。
ビシィッ!バシッ!
「いっ、やっ!!」
「ひっ、やめっ……!!」
「黙らっしゃい!!貴方達のお父様も子供の頃に執事にイタズラをしかけた事はありましたが!
暴力を振るうなんて事は決してありませんでした!
それをまぁ、あの頃のお父様より幼い貴方方が、なんと嘆かわしい!!
爺は悲しくてなりません!」
バシィッ!ビシッ!バシッ!バシッ!!
「あぁっ!うっ、やぁああっ!」
「はぁっ、あっ!!んぁあっ!!」
「そのような悪い子は、廟堂院家の元執事長として
しっかりお仕置きさせていただきます!覚悟はよろしいか!?」
「「っ……!!」」
長めのお説教を怒鳴られながらお尻を叩かれて、
悲鳴を上げていた千歳と千早は二人で泣きそうに声を詰まらせる。
「返事は!?」
バシィッ!!
そこへ強くお尻を叩かれて、二人で不機嫌そうに泣き出した。
「「うわぁあああん!!」」
けれど、四判にも二人が怒って泣いているのが伝わっているのか、
泣き出した二人に動揺する事も無く、叱りつけながらお尻を叩き続ける。
「コリャ!!早々に泣いても許しませんぞ!
そもそもですね、お父様のお小さい頃は、両親の言う事を素直に良く聞いて、
生意気な事も言わなかったものです。貴方方はお父様、お母様に対する口のきき方からして
自由奔放過ぎます!執事達に対しても、その物が年少者であろうと、年長者であろうと、
日々感謝を忘れずに……」
バシッ!ビシィッ!バシッ!バシッ!パァンッ!!
長々と叱られている間ずっと叩かれて、千歳も千早も耐え切れずに泣いて喚き出す。
「やぁぁっ!もうっ!長い!説教が長いぃっ!!やだもうジジイがぁぁっ!!」
「ああぁっ!!うっとおしい!話が長いんだよ!!これ、だからっ!ジジイはぁぁっ!」
「誰がジジイですか!いい加減になされ!!幼いからとて容赦しませんよ!?」
バシッ!ビシッ!バシィッ!!
「「わぁあああんっ!」」
さらに四判を怒らせて、余計泣かされる双子。
お尻も赤くなってきていた。
「全く!お仕置きされる時の礼儀作法からお教えしなくてはいけませんかな!?
素直に“ごめんなさい”と謝らないと許しませんぞ!?」
「やぁああああっ!もうやだお父様ぁぁぁっ!!」
「うわぁあああん!お父様ぁぁ助けてぇぇっ!!」
お尻を赤くして、泣いて床を足蹴っている息子達に助けを求められて、
千賀流は思わず四判を宥めるように弱弱しく手を伸ばして……
「四判……もう、そろそろ……」
「まだ始まったばかりでしょうが!!しっかりなさってください!
最初の毅然とした態度はどうなされたのです!?」
「ご、ごめんなさい……」
四判に怒られて大人しくしていた。
一方の千歳と千早は、その間もバシバシお尻を打たれて完全に泣いていた。
ビシッ!バシッ!バシッ!ビシッ!!
「ふぇっ、うわぁあああんっ!」
「わぁあああんっ!うぇぇっ!」
「泣くほど痛いなら、反省して、“ごめんなさい”と謝りなさい!
それと、“もう執事の皆に暴力を振るいません”と約束する事!
本来ならこの程度のお尻叩きで済む事ではないのですが、
今日は特別にそれができたら許して差し上げます!
さぁ、何て言うんですか!?」
バシッ!パンッ!パァンッ!!
ここまで叩かれながら強く言われれば、千歳も千早も逆らう事が出来ずに、
泣き声で息を切らせながら謝る。
「ごっ、ごめんなさい!ごめんなさぁぁい!!
もうしません!もう執事のっ、皆に暴力、振るいませんからぁっ!!」
「う、ぁっ!ごめん、なさい!オレも、執事のっ、皆に暴力、振るいません!!」
「今度やったらこの爺が鞭でお仕置きしますぞ!分かりましたね!?」
ビシッ!バシッ!バシッ!!
「「うわぁあああん!分かりましたぁぁっ!ごめんなさぁぁい!!」」
最後の最後まできっちりとお仕置きされて、泣きながら二人で謝罪したところで
許してもらえた千早と千歳。
四判に服を整えてもらってもまだ泣いていた。
「「わぁああああんっ!!」」
「……千歳、千早……反省してくれたみたいで嬉しいな。
今、四判と約束してくれた事、ちゃんと守ってね?」
「「〜〜〜〜〜ッ!!」」
慰めようと寄ってきてかがんだ千賀流を二人はボロボロ泣きながら、
真っ赤な顔でギリギリと睨みつける。
千賀流は(あぁ、すごく睨まれてる……)と思いつつもぎこちなく笑いながら言う。
「……四判と、大一郎と、あと家庭教師の先生には、
“千歳や千早が悪い事をしたら叱っていいよ”って言ってあるから。
これからは、悪い子だとお仕置きされちゃうから気を付けてね」
「「……ワカリマシタ、オトウサマ」」
「……うん。分かってくれていい子だね。
嬉しいんだけど……引っ張らないで、引っ張らないでってば」
反論はしないものの、抗議のように服をギュウギュウ引っ張ってくる息子達に苦笑いしつつ……
二人の機嫌を早く直そうと千賀流は明るい声で、
「新しい家庭教師の先生、きっと君達も喜ぶと思うんだ!千歳、千早……」
祈る様に、願うように、言う。
「昨日の夜の事は、もう忘れていいんだ。これからは子供らしく、楽しく遊んで過ごそうね」
「「…………」」
ぎゅっと唇を引き結んだ双子は、涙目で千賀流を睨みつけるだけで、
千賀流はそんな二人を両腕に抱き寄せて抱きしめる事しかできなかった。





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【作品番号】BS23

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