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廟堂院家の双子の話2



町で噂の大富豪、廟堂院家には二人の息子がいた。
名前は千歳と千早。まだ幼い双子の兄弟だ。

今日は千早の部屋で一騒動あったらしい。
不機嫌そうな千早とうなだれる若い使用人。二人の間でガラス製のテディベアが砕け散っていた。

「も、申し訳ありません……部屋を掃除しに来て……」
「部屋を掃除しに来て物を壊すのか?バカかお前は」

冷ややかな目で見られて、使用人はますます俯いた。
よりによって怒らせると厄介な千早の方の機嫌を損ねてしまって……
すぐにでも弄り倒されるかとビクビクしていたが、意外にも千早はソファーに背中を預けたまま動こうとしない。

「とはいえ……それはそんなに大切なものじゃない。誰からもらったのかも忘れた。
大方、お父様に取り入ろうとするどっかのジジイからだろうけど。」
「そう……ですか……。」

どうやら千早様は思ったほど気分を害してないらしい……
そんな使用人の安堵感は、次の千早の一言で無残にも砕け散る。

「何だその顔は……今からお仕置きだというのに緊張感の欠片も無いな。」
「え!?」
「当り前だろう。ご主人様の部屋の物を壊しておいて、ただで済むと思っていたのか?
そういう無能な下僕は躾けてやらないと。二度と同じ過ちを繰り返さないようにしっかりと……」
「そ……」
「床に四つん這いになって尻を出せ。もちろんズボンも下着も脱いでだぞ」

お前の言葉なんか聞く耳持たないといった様子で千早は使用人の言葉を遮る。
使用人は躊躇していると、千早は立ちあがって余計不機嫌そうな顔をしていた。

「早くしろ!オレに脱がせてほしいのか?」
(落ち着け……相手は子供だ。お仕置きにお尻ペンペンってのがいかにも子供の発想じゃないか!
自分の物を壊された腹いせで、少しそれっぽい事をすれば気が済むはず……大丈夫、大丈夫……)

使用人は自分に言い聞かせながら千早の言うとおりにした。


「さてと……」

千早が短くそう言って、少し間が空いて……ついに最初の一打がきた。

ビシッ!

「ひぃっ!?」
「何だ?情けない声を出すな」

ビシ!ビシッ!ビシッ!

続けざまに鋭い痛み……手じゃない!手で打たれてる感覚じゃない!
ちらっと見ると、千早の手に握られているのは乗馬鞭だった。

「ち、千早様……!!」
「うるさい!」

ビシィッ!!

「あぁっ!!」

強く打たれて使用人は悲鳴をあげる。
まさかこんな物で打たれるなんてと嘆いても、もう遅い。
一打一打の激しい痛みがこの現実を嫌でも突きつけてくる。

ビシ!ビシッ!ビシッ!

「んんっ!!はぁっ!!あぁぁっ!!」
「ハハッ、本当に情けない声ばかり出して……我慢弱い事だ。
少しは耐えてみたらどうなんだ?」
「んっ……ぐぅっ……んぅ……!!」

ビシ!ビシッ!ビシィッ!

そう言われたので使用人は必死に声を殺そうとするが、余計に強く叩かれる。
まるで声を上げろと言わんばかりに。

ビシィッ!!バシィッ!


「あはぁああっ!!」
「あーあ、そんな大声を上げて……恥ずかしいな、お前」
「千早様!!ひあぁ!千早様許してください!!」

この際バカにされているのは気にしていられない。
無理難題をふっかけて、できない姿を嘲笑う……千早はいつもそうだった。
とにかく許してもらおうと必死に声をあげているのに鞭の勢いは強くなるばかりで、使用人の尻に赤い跡をつけていく。

「許してだと?反省もしてないくせによく言う……」

ビシ!ビシッ!ビシッ!

「ひぃぃっ!!そっ、な!!反省してますぅ!!」

ビシィッ!!バシィッ!

叫んだ使用人の尻に一段と強い鞭が飛んできた。

「うわぁぁっ!!」
「誰もお前に反省してるかなんて聞いてない!そんなもの、誰でも“反省してる”って言うんだからな!」
「あ、あぁっ!!ひぁぁあっ!!」
「ほらほら、口先じゃなくて態度で反省してるって示してみろ!」

ビシ!ビシッ!ビシッ!

「わぁぁっ!!許してください!!ごめんなさい!ごめんなさい千早様ぁっ!!」
「ごめんなさいだの、反省してるだの……そんな言葉で許してもらえると思うなよ!?
いいか!?お前が許されるのは、オレの気が済んだ時だ!
それまで無意味な謝罪を繰り返すのは勝手だがあんまりうるさいと……」

ビシィッ!!バシィッ!ビシィッ!

「わぁぁあああんっ!!」
「こんな風に、イライラして思いっきり引っ叩いてしまうかもな。」
「ごぇんなさいぃっ!!ごぇんなさぃ千早様ぁぁっ!!わぁぁぁんっ!!」
「言ったそばからうるさい奴め……でもまぁ、泣く権利ぐらいはくれてやる。
ただし、お前ごときが泣き喚いたところでオレの情は一ミリも動かない事だけは覚えておけ!」

ビシ!ビシッ!ビシッ!

泣いても謝っても自分を許す気なんてさらさらないといった感じの千早に
使用人は絶望感すら感じたが、それでも黙って耐えるよりは……と、必死で叫んだ。
尻ももう真っ赤で限界だ。

「やめてぇぇっ!やめてください!!お願っ……千早様ぁぁっ!!」
「使用人の分際でオレに指図……やれやれ、まだお仕置きがたりないらしい……」
「わぁぁあ!!違いますぅぅっ!!痛いんですやめてくださいぃっ!!」
「痛い?当然だろう。オレが直々にお仕置きしてやってるんだ。
むしろ喜んで受けるべき……あぁ、アレはアレでお仕置きの意味がなくて困っているのだが……」

どこか楽しそうに言いながら、泣いている使用人に容赦なく鞭を振り下ろす。

「ふぇうぅぅぅっ!!千早様ぁぁっ!!わぁぁぁああんっ!!」
「ふふっ……お前みたいな平凡な男でも泣いている姿はそれなりにそそるんだな」
(この人は……!!)

使用人は、一瞬でも千早を子供だと思って油断した事を後悔した。
相手は千早様だったというのに……この人が普通の子供じゃないということは分かっていたはずなのに!!
後悔すれば余計に悔しくなって涙が出てくる。
それがますます泣きわめく事になって喉が苦しい。

ビシ!ビシッ!ビシッ!

途切れることの無い鞭の音。
いつ終わりが訪れるかも分からない使用人の受難は続いていて……
その頃、別の使用人が千歳の部屋にいた。


「千歳様、失礼します」
「はい。何かご用ですか?」

千歳は読んでいた本を閉じて、いつもの笑顔で使用人に対応する。
やってきた若い使用人は困った顔でキョロキョロあたりを見回した。

「鷹森が戻ってこないんですよ。ここもいませんね……」
「そう言えば彼、千早ちゃんの部屋に行ってましたよ?
いつもの遊びに付き合わされているのかそれとも……
くすっ……もしかして何かヘマをしてお仕置きされてるのかも」
「え?」
「どちらにしろ、長くなると鷹森さんも負担でしょうから……助けに行ってあげたらどうですか?
いい具合に千早ちゃんの気に障ったら、貴方、お仕置きしてもらえるかもしれませんよ?」

千歳にそう言われた使用人は驚いた顔をしたが、すぐ神妙な顔つきで頷いた。

「……はい。いってきます」
「いってらっしゃい」

使用人に笑顔で手を振って、千歳はふと考えた。

「お仕置きされるって、そんなにいいものなのかな……?」

誰もいない部屋にそう問いかけてみる。
すでに使用人の何人かは千早の“お仕置き”の虜になっている……
それほどお仕置き“される”って魅力的な事?何かいい感じなの?
そう自問したものの、千歳はすぐ考えるのをやめた。
考えたって無駄だ。僕には一生分からない事だもの……と、千歳はまた読みかけの本を読み始めた。


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【作品番号】BS2

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