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秋山が真実を探るようです ※シリーズコラボ注意! |
ここは町で噂の大富豪、廟堂院家。 その廟堂院家で働く執事達の休息の時、休息に相応しくないプチ修羅場が起こっていた。 「ニナちゃんはそんな子じゃなうわぁあああああん!!」 「秋山!!」 泣きながら走り去る秋山と、心配そうな佐藤。 ただならぬ様子に、仲間達が佐藤に寄ってくる。 相良が遠慮がちに声をかけた。 「お、おい、どうした?」 「……例の秋山の“運命の女の子”……話聞いてたら絶対おかしいんだもん……! 秋山、結構な額のお金その子に掛けちゃってるみたいで…… もしかしてお金目当てかもって心配になって、“騙されてるんじゃないの?”って、“確かめた方がいい”って……。 秋山、傷つけちゃったかな……?俺、お節介な事してる……??」 深い溜息を付いて両手で顔を覆う佐藤に、木村がそっと肩を抱いて寄り添う。 相良も、意気消沈の佐藤を慰めるように言った。 「大丈夫。佐藤が心配してるって事、秋山だって分かってるよ。 それに……俺もよく秋山から話聞くけど、やっぱちょっとその子の事、違和感あって……」 「……俺、写真で見せてもらったあの子、どっかで見た事あるんだよなぁ?どこだっけなぁ……? 俺達で、調べてやれたらいいんだけど……」 遊び仲間リーダーの門屋の言葉につられるように、その場で皆が“う〜〜ん”と考え込む。 一方、執事控え室を飛び出した秋山は、涙を拭いながら中庭をトボトボ歩いていた。 すると…… 「どうしましたかな秋山君??」 「あ、四判さん……」 「何かあったのですか?」 「い、いえ……」 秋山が恥ずかしそうに焦っていると、四判が穏やかな笑顔で言う。 「ちょうど、食後のお菓子を食べる仲間を探していたところですぞ。一緒に食べませんか?」 「…………」 秋山は少し迷って、ゴシゴシと目元を擦って「はい!」と元気よく笑った。 そしてベンチに四判と並んで座り、クッキーと貰って食べ始める。 食べながら色々世間話をしているうちに、優しい言葉に解きほぐされ…… 先ほどの揉め事の事を話していた。 「……実は、最近好きな子ができたんです。偶然、町で助けたのがきっかけで、何度かデートして…… でも、友達にその子の事“お金目当てじゃないか”って疑われたんです!それで、悲しくなって……! そんな子じゃないって、喚いて飛び出しちゃって……」 「そうだったのですね……」 「佐藤、きっと心配してくれたのに……嫌な態度取っちゃった……後で謝らなきゃ……」 しゅんとする秋山へ、四判が優しく声をかける。 「きっと、佐藤君も分かってくれますぞ。秋山君は、その子の事信じているのですな?」 「はい!!でも……」 力強く返事をした秋山は、すぐにしょんぼりと俯いてしまう。 「本当は、疑うのが怖いのかもしれない……です。騙されてるのか、確かめるのが怖いのかも……」 「何か騙されている心当たりが?」 「…………」 「秋山君」 辛そうに黙り込む秋山に、四判が呼びかける。 そして、そっと手を握りながら言葉を続けた。 「秋山君は、純粋で心優しい男性です。 そんな君と結ばれるのは、同じように心清く、優しい女性でなくてはいけない。 執事仲間皆、もちろん私だって、そう願っているのです。君が悪女に弄ばれるなど、皆も私も許せないのです。 君の愛する人に疑わしい所があるなら、きちんと潔白を確かめて、皆を安心させてやりなさい。 きちんと君の事を、祝福させてやりなさい。そして君も、堂々と彼女を愛してやりなさい。 疑いから目を背ける事と、信じる事は違います。 男たるもの、時には度胸も必要ですぞ?大丈夫、執事部隊の皆が君の味方です……」 「四判さん……!!」 秋山は感激に瞳を潤ませて、立ち上がる。そのまま力強く言った。 「わ、分かりました!!僕、ちゃんとニナちゃんがいい子だって事、確かめます! 皆にちゃんと、祝ってもらいます!そ、それでニナちゃんの彼氏になって、童貞卒業しますっっ!!」 「……ゴホン、節度ある交際をするように」 「わぁあああっ!僕何言ってんだろごめんなさい!!」 慌てて顔を真っ赤にする秋山に、四判が笑う。 「ほっほ!元気が出たようで何よりですぞ。さぁ、午後のお勤めも頑張りましょう!」 「はい!!」 秋山も照れながら、今度こそキラキラの笑顔で笑った。 その後――仕事を終えた秋山。 「ごめんね佐藤!心配してくれたのに、あんな言い方しちゃって……」 「ううん!俺の方こそごめん!よ、よかったぁ……秋山とケンカみたいにならなくて……!」 「あぁっ、泣かないでよ佐藤……!佐藤が優しいの、俺分かってるから! 俺ね……ニナちゃんの事、お金目当てじゃないって、皆に安心してもらえるように確かめるから! ちゃんと冷静に見極めるから!」 佐藤に謝って、仲間達に自分の決意を打ち明ける。 と、仲間達は安堵して喜んだ。 「秋山……!うん!本当は俺達疑いたくないんだ!」 「そうだよ秋山!安心させてくれよ!」 「俺達に手伝える事あったら、何でも言えよ?」 「っていうか、どうやって確かめるつもりだ?」 「そうですよ!小悪魔系ってのは手ごわいですからね!平気で嘘つくし! 綿密な作戦が勝利のカギですよ!」 「「「「!!?」」」」」 一人だけ、この場にそぐわない声に、佐藤・木村・相良・門屋は一気に声の方を見る。 そこにはちゃっかり執事長の上倉がニコニコしていて、すかさず門屋が突っ込んだ。 「兄さん!!何乱入してるんですか!?」 「だって、私もいっつも秋山君の惚気話聞いてるし……執事長として友人として、秋山君が心配なんです!! イル君もきっとこの疑惑を知ったら心配しますよ??」 「お前誰にでもノロケてんだな……」 「だ、だってニナちゃん可愛いし、デートできるような子ができたのなんて初めてで……!!」 顔を赤くする秋山に、呆れ気味の門屋。 「いいけどさぁ……もしかして、能瀬さんにも連絡してノロケてんのか?」 「の、能瀬さんには言わないよ!きちんとお付き合いしてから報告するんだ!」 「……俺より敬ってる感腹立つッ!!」 「まぁまぁ!能瀬なんて蚊帳の外でいいですよ! とりあえず、秋山君!君を誘惑する小悪魔ちゃんの事、調べてみるので情報ありったけください ![]() 「兄さん言いたい放題ですね!?そ、それに調べるって……!?」 「情報戦なら我らが得意分野でしょブラザー?一緒に頑張りましょうね ![]() 可愛くて悪い子なんて最高じゃないですか ![]() ![]() ![]() 上倉が蠱惑的にそういうと、秋山がムッとしたように叫ぶ。 「ニナちゃんは悪い子じゃないですよ!天使です!僕が証明してみせます!!」 と、その言葉を受けて上倉は門屋へ微笑む。 「……ね?彼に任せておけます?」 「……了解。一緒に調べましょう。名探偵門屋様の助手に任命しますよ兄さん」 「光栄ですね先生 ![]() そうニコニコしている上倉の肩が、いきなりガッと掴まれる。 そうした相良は威圧的な笑顔でこう言った。 「その探偵団、もちろん俺達も入れてもらえますよね?」 「協力させてください!」 「俺も!!」 佐藤、木村も加勢し、秋山を想う皆で調べを進める事に……。 もちろん、秋山自身もニナちゃんに確かめる事になった。 そして後日。 とあるオシャレなレストランのスタッフルームに、ウエイター姿の秋山と上倉はいた。 秋山が訳の分からない様子で上倉に問いかける。 「上倉さん……僕ら何やってるんですか?!」 「秋山君……ニナさんの事、どこまで確かめられました?」 「え、それは……潔白だって言ってました! 僕の事本当に大切だって!疑われて悲しいって!でも、僕の友達にも認めてもらえるように頑張るって! 前に買ってあげた物も、ちゃんと持っててくれたし!僕やっと、ニナちゃんの事信じ……」 そこまで力説した秋山にため息をついて、言葉を遮る様に上倉が言う。 「……残念ですがニナさん……男性です」 「え……えぇっ!!?何言ってるんですか!?」 「本名は“数住二那(すずみ にな)”。正行先生と同じ、結構いい大学に通ってらっしゃいます。 大学内外構わず、知り合った目ぼしい男性を誘惑してお金を巻き上げる事で有名みたいですね。 両親は他界していて、5兄弟の3男。けれど、高級マンションに暮らす、裕福めな家庭環境です。 と、言うわけで……二那さんは黒!真っ黒!有罪!ギルティ!君は騙されています!!」 上倉にビシッと指差されて、秋山はあんぐりと口を開ける。 「そんな……っていうか、どうやってそこまで……!!」 「ふふ、廟堂院家の執事長を舐めてもらっては困ります ![]() 今日はね、秋山君の目を覚ましてもらうために来てもらいました。 あの子は君の天使でも女神でも無い。ただのクズですよ」 「そこまで言わなくても……!!」 秋山が困惑すると、上倉が真剣に言う。 「秋山君、傷つくかもしれませんがしっかり現実を見て……!私達がついてます! もうあんな子に一銭たりとも渡してはいけません! この事は君のお友達皆も知ってますよ!私は彼らの代表…… 化けの皮の剥がれた悪魔に地獄の制裁を与える為に来たんです!」 「まっ、待ってください!!僕、確かにニナちゃんに騙されてたならショックです! でも、酷い目に遭わせたいとかそんなじゃなくて……謝ってくれたらそれで……!!」 「何言ってるんですか!君一人の問題じゃないんです!!」 「!!」 上倉の剣幕に驚く秋山。 その厳しい視線のまま、上倉はそこにあるモニターを見た。 「ほら、来ましたよ。千早様の許可も頂いて、正行先生に協力してもらっています! 存分に“彼”に、失望してください」 「…………あの、ウエイターの格好の意味は??」 「ただの気分盛り上げです」 秋山は「はい……」と返して……ドキドキとモニターを見つめた。 貸切の店内に、ニナちゃんと正行が入ってくる。 「わーっ!何コレ本当に貸切!?正行すごーい!!」 「喜んでもらえてよかった。好きな席座って。で、食べたいもの食べていいよ? 今日は俺が出すから」 「ホントにぃ!?ねぇどうしたの正行!? 急に連絡してきたし、二人っきりだし、何か怪し〜〜っ!」 嬉しそうにはしゃぎながら、ニナちゃんと正行は席に着く。 秋山はさっそく混乱していた。 「ニナ、ちゃん……いつもとテンション違っ、っていうか声、違っ……!? 服もなんか……え?え……??」 そんな秋山にモニタリングされているとは知らない二人の会話は続く。 正行の困ったような返答から。 「こうでもしないと会ってくれないんでしょ?俺からの連絡、ずっと無視してたよね?」 「まぁね。驕ってくれないならもういいかなって」 「はぁ。本当に繕わなくなったね、二那君…… カロの忠告聞いて良かったよ……君の本性知らなきゃもっと持ってかれてた……」 「カロの言う事はあんま信用しないでよ〜〜?俺の事すっごい悪く言うんだもん……! 自分の事棚に上げてさぁ、クズが何言ってんだかって感じ……」 「の割に、仲良いよね?」 「クズ友ですから〜〜♪あははっ!ね、注文していい??」 この中継に、青ざめる秋山。 「“俺”って言ってる……ニナ“君“……って、しかも、人の事クズって……クズ友って……!!」 二人は注文して運ばれてきた食べ物や飲み物を合間につまみつつ会話を続けた。 「……で、今はどんなクズ活動してるの?」 正行の呆れ気味の言葉にも、ニナちゃんはフッと余裕めいて笑う。 「正行も言うね〜〜?今はねぇ……あぁ、うちに来た家政夫一人辞めさせたかな? でも逆襲してきて超災難だった!零座にめっちゃ怒られたし!もう最悪…… まぁいいんだ。結局いなくなってくれたから……」 「それも酷いけど、予想外の話だったよ。 俺はてっきり、女の子のフリして執事のお兄さんを貢がせてる話かと思った」 「!?何で知ってるの!?」 「友達なんだ」 「マジで!?俺の事何か言ってた!?」 ニナちゃんが興味ありげに食いつく。疲れたような顔の正行が答えた。 「二那君の事大好きみたいだね。真剣に付き合いたいって、思ってるみたい」 秋山はニナちゃんが自分を“騙して貢がせてる”事を否定しない事に絶望しつつ、 それでもニナちゃんが何と答えるのかドキドキとモニターを見つめる。 そして、その答えは…… 「あはははははっ!やっぱりぃぃっ!?何かそんな気がしてたんだよねぇ! だって何かさぁ!反応がいちいち超童貞なの!!あははははっ!ウケるぅ! はぁっ、でもっ、どうしよっかなぁ、告られたらめんどいなぁ! でもまだいっぱい欲しい物あるんだよねぇ!ねぇ正行、どうしたらいいかなぁ?!ふふっ!」 「やめて」 ケラケラ笑いながら、全く悪びれる様子の無いニナちゃんに、正行が声を荒げる。 「もう彼を騙すのやめてよ!言ったでしょう!?秋山君俺の友達なんだ! 彼は君の事本気で好きなんだよ!?騙すような事して何とも思わないの!?」 「……正行……何か俺の事、勘違いしてない?」 ところが、ニナちゃんはそれでも挑発するような悪い笑みを浮かべる。 そして、平然と言った。 「俺は、秋山に一っっ言も嘘ついてないよ?? アイツに女だなんて言ってないし、何か買ってなんて言った事無いよ? 全〜〜部っ、アイツが勝手に自分からガンガン物買ってくれたし、 俺と付き合えるかもって勘違いしたんだよ? そりゃ、“好き”とか“楽しい”とか何回も言ったけど、ホントに思ってたもん。 でも普通分かるでしょ?友達としてだよ。 そんなんでその気になられても……ぷっ、童貞拗らせ過ぎでしょ!! 秋山いい奴だよね?!優しいし、お金出してくれるし、好きだよ俺アイツ! ただ……超分かりやすくてバカで童貞だけどッ!あっはははは!」 この瞬間、秋山は口元を押さえてボロボロと泣きながら机に突っ伏す勢いで体を丸め、 上倉はそれを見て席を立ち、正行はニナちゃんに怒鳴った。 「二那君!!いい加減にしないと怒るよ!? 君は分かってて、秋山君をその気にさせるような事ばっかりしてた!お金を出させるように誘導してた! 言葉で嘘はついて無くても騙してるのと同じ事でしょう!?そういうの悪い子だよ!?」 「うるっさいなぁ!!高いメニュー全部注文されたい!!?」 「ッ……!!い、いや、別にいいけど……!!」 正行が一瞬怯んだ間に、二那はしゅんとした表情を浮かべる。 それはとても可愛らしい表情で…… 「ねぇ説教するために誘ったの?ご飯まずくなっちゃうよ……。 秋山の話が嫌なら話題変えるから……」 そこから綺麗に愛らしい笑顔を決める。 「おいしく楽しくご飯食べようよ、正行お兄ちゃん ![]() しかし、正行は頭を抱えてため息をついた。 「はぁぁ……少しでも反省してくれたら俺もフォローできたんだけど……知らないからね?」 「え?何?」 その正行の反応に不満げなニナちゃん。 が、次の瞬間声をかけられる。 「初めまして。数住二那君」 「!?わ、あ……初めまして……誰??」 声をかけられて驚いたニナちゃんは、相手を見て少し恥ずかしそうに頬を染める。 それを見た正行が(二那君これでいて面食いかよ……!)と、微妙にイラッとしていた。 別室の秋山も突然の事に驚いて、隣を見て混乱した。 「あ、あれ!?上倉さんいつの間に!?」 そう、上倉がいるのは秋山の隣ではなくモニターの中。 ニナちゃんに声をかけたのが上倉だった。 彼は、ニナちゃんを赤面させる爽やかスマイルのまま言う。 「私、上倉と申します。秋山貢君の、仕事場の上司です。 まことに勝手ながら、今までの会話すべて聞かせていただきました。 うちの貢君をよくもまぁ……ここまでコケにしてくださいましたね? そういう悪い子は今からお尻100叩きの刑です☆」 「……は?」 「ハイ失礼しま〜〜す!」 上倉に強引に手を引かれたニナちゃんは、当然大声で悲鳴を上げる。 「ぎぃやぁあああああっ!!何コイツ!?やめて変態!!正行どうなってんの助けてぇぇぇっ!!」 「おやぁ??二那君、性格だけでなく耳まで腐ってんですかね?今しがた言ったでしょう? 今からお尻100叩きの刑です、と」 「はぁぁあああっ!?何言ってんの!?何言ってんの!!?離せよ!警察呼ぶぞ!! やだぁぁっ!いやぁああ正行ぃぃぃぃっ!!」 必死で抵抗してるニナちゃんだが、上倉の腕力の方が勝っているらしく、 座っていた椅子は上倉に座られてしまい、膝の上に乗せられてズボンや下着を下ろされて、 余計に激しく悲鳴を上げている。 けれど、正行は冷静に荷物をまとめて席を立った。 「二那君、俺帰るね?」 「何でぇっ!?何でヤダ置いてかないでぇぇっ!!離してぇ!やめてよぉ! お願い助けて正行ぃいぃぃっ!!」 「言ったでしょう。秋山君俺の友達なの。反省して」 「待って!待っていやぁあああああっ!!誰かぁぁあっっ!!」 二那の涙声の大絶叫を振り切って正行は店を出て……店の窓にへばりつく。 (か、上倉さん相当怒ってるだろうけど……!あんまりにも酷い事はしないよね!?大丈夫だよね!?) と、心配そうに見守る。 そんな店の中では…… 「上倉さん!!やめてあげてください!!」 「!!?」 秋山が慌てて上倉を止めに入っていた。 ニナちゃんは本当に驚いているようで、上倉の方はニッコリと笑う。 「あぁ秋山君!大丈夫ですか?すぐにこの阿呆のお尻を真っ赤にして、泣きながら謝らせますよ!」 「大丈夫です!そこまでしなくていいですよぉ!!すごい悲鳴だったし、もう泣いてるじゃないですか! 怖がらせないであげてください!」 「貢さん助けてぇぇえっ!!」 ニナちゃんが必死に叫ぶと、上倉は露骨にイラついた表情になる。 「はぁぁあ??さっきまで“秋山”って呼んでたじゃないですか白々しい! 彼に散々酷い発言をしておいて、抜け抜けと……ホンット卑しい雌猫ですね貴方!」 そう言って、思い切りニナちゃんのお尻に平手を叩きつけた。 バシィッ!!ビシッ!!バシッ! 「あぁああああっ!やぁ痛いぃぃっ!!」 「うるさい!泣いて叫んだってダメです!まだまだ叩きますので!」 バシッ!ビシッ!バシィッ!! 「うぁあああん!やめてぇぇっ!やめてよ痛いぃぃっ!!」 「か、上倉さん!!ダメですよ!僕は本当に大丈夫ですので、怒りを鎮めてください!」 恐怖と痛みで早々に泣いているニナちゃんを見て、オロオロする秋山。 けれど、上倉はまたニナちゃんのお尻に平手を振り下ろす。 バシッ!ビシィッ!バシッ!! 「秋山君だって見ていたでしょう!? この子、全く反省してないし、君にまだ一言も謝ってないんですよ!?」 「うぁああああん!ごめんなさい!ごめんなさぁぁい!!」 「静かにしなさい!貴方が泣いてもうるさいだけなんですよ! 本当に心を込めて謝ってんでしょうねこのクソビッチ!?」 「上倉さん!そんな言い方酷いですよ!!許してあげてください! ニナちゃん、反省してるならもういいからね!いいから!」 ひたすらニナちゃんに優しい秋山の言葉を無視して、上倉はお仕置きをつづけ、叱り続ける。 「大体ねぇ、私は貴方みたいな、軽々しく男を誘惑して甘い汁を吸って! 自分が優位に立ってるつもりの危なっかしいバカが大ッッ嫌いなんです!! 良かったですね〜〜?秋山君が優しい人で!もしも、もっと悪い大人を怒らせていたら…… そうでなくても、気のあるふりをしてその気にさせたら…… 貴方これより最悪の酷い目に遭ってたかもしれないんですよ!?分かってるんですか!?」 「!!」 上倉の言葉に、秋山はハッとする。 ニナちゃんを庇うのをやめ、黙って耳を傾けた。 ビシッ!バシィッ!!バシッ!! 「もっとハッキリ言ってやりましょうか!? レイプされたり、殺されたりする危険があるって言ってるんです! そういう危険な事をしてるのが分からないんですかぁお・バ・カ・さんっ!!」 「うわぁあああん!!わぁああああん!!」 「“貢がせごっこ”は二度としないってこの場で誓いなさい!誰に対してもです! 学校の人でも顔見知りでもダメですよ!?まぁ誓ってもまだ許しませんけど……返事は?!」 バシッ!ビシッ!バシッ!! 「ごめんなさぁぁい!!もうしないぃぃ!しないからぁぁっ!!うわぁああん!!」 叱っている上倉と、お尻を打たれて泣いているニナちゃん。 必死にもがいているけれどほとんど抵抗できておらず、お尻はもう赤くなっている。 二人を見て、上倉の叱る言葉を聞いて、秋山は呆然と思った。 (僕は……そんな事、全然考えてなかった……! ニナちゃんを、守りたいって、幸せになって欲しいって、辛い目に遭ったら可哀想だって……思ってたのに! ちゃんと、ニナちゃんのしてる事、見抜いて叱ってあげられなかった……!止めてあげられなかった! さっきまでだって、上倉さんの事止めるばっかりで、上倉さんはニナちゃんの為を考えて怒ってたのに……! 僕は……僕が、ニナちゃんを危険な目に、辛い未来に向かわせてたのも同じ事だ……!!) 秋山はギュッと目を閉じて拳を握る。自分が情けなくて辛かった。 まだニナちゃんの悲鳴が聞こえてくる。 「うわぁああんもうヤダァァッ!!もうしないって言たのにぃぃっ!もうしないぃっ! 痛いよぉ貢さん助けて!助けてぇぇッ!!」 「何でそこで秋山君に頼るんですか!全然反省してないこの子はぁぁ!!」 「上倉さんッッ!!」 秋山が叫ぶ。 驚いて反射的に手を止める上倉に、真剣に言った。 「彼女……彼を、離してあげて下さい……お願いします……」 「秋山君……」 「僕が、代わります!!ニナちゃんの事、お仕置きして反省させます!!」 「「!!?」」 この秋山の言葉には、上倉もニナちゃんも驚いていた。 特にニナちゃんは…… 「ふっ……ふざけんな……ふざけんなぁぁっ!!」 真っ赤な顔でボロボロと涙を流しながら、また喚き始める。 「裏切りやがってクソ童貞!!死ね!調子乗んなよ変態共ぉぉぉッ!!離せぇぇっっ!! うわぁあああん!!死ねバカァァァ!!警察に通報してやるぅぅぅっ!!」 「……二那くぅん?パドルって知ってます〜〜?」 「うっ……あぁあああん!!やだぁぁぁぁっ!!誰か助けてぇぇぇえっ!!」 半狂乱で必死に逃げようとするニナちゃんを軽々と押さえて、 上倉が脅しつける会話を続けた。 「あれ?知ってそうですねぇ意外意外♪私すっごいのもってるんですよ? 中に金属入ってて、表面にも鋲がいっぱい付いてて〜〜そういうの、持ってこさせましょうか〜〜?」 バシィッ!ビシッ!! 「うわぁあああん!!お兄ちゃん!お兄ちゃぁぁあん!!」 「おっといけない。ここからは、秋山君にお任せするんでしたね……」 「いやだぁああああっ!!うわぁああんバカぁぁぁあ!!お兄ちゃん助けてぇぇえっ!!」 秋山に引き渡されたニナちゃんはますます泣きわめく。 けれど、彼の膝の上に乗せられた時に「ニナちゃん」と、優しく頭を撫でられると、 正気に戻ったように秋山に懇願した。 「!……お、お願いもう許して!!反省した!ごめんなさい!もうしないからぁっ! うぅっ、痛いの……もう無理なの、死んじゃうよぉ……!!貢さん……!!」 「……もう秋山でいいよ。いい子になったら許してあげる」 「!!あ……うぅううっ……!!」 ニナちゃんはまた泣き出して、秋山は穏やかに言い聞かせる。 「ニナちゃん、僕ね……騙されててショックだった。悲しかった。 ニナちゃんみたいに可愛い彼女欲しかったな。 でも一番……ニナちゃんの事大好きだったのに、本当の君を見抜けなかった事がショックだ。 もう彼氏にはなれないけど、ニナちゃんの、友達になりたいなって思う。 きっとニナちゃん、本当はクズでも悪い子でも無いと思うんだ。だから、ちゃんと反省して幸せになって」 「うっ、友……達……??」 ニナちゃんが呆けたように呟いて、秋山がうなずいた。 「そう友達。そう言えば僕って、友達には恵まれてるかも…… 僕を傷つけた君の事、怒っててお仕置きしたいって思ってる友達が少なくとも4人はいるよ?」 「ひっ……!!」 「でも大丈夫!ニナちゃんと友達になれば、皆許してくれる! 僕も友達はいい子がいいから、本当に反省してね!」 秋山は膝の上の真っ赤になっているお尻を強めに叩く。 ビシッ!バシィッ!!バシィッ!! 「ふうぁああああん!ごめんなさい!ごめんなさぁぁい!!」 「ニナちゃん……すっごい暴れるね。でも逃げられないでしょう? 僕の腕力に勝てないなら、大抵の男には勝てないと思うから…… もう誰彼かまわず貢がせたり誘惑するのは絶対やめてね!?約束!!」 「ごめんなさい!約束する!約束するからやめてぇぇっ!!」 「うぅ、そうだねお尻も真っ赤で痛そう……でも悪いお尻だからお仕置きします!」 バシッ!バシッ!ビシィッ!! ニナちゃんがお尻を叩いたせいで泣き喚いても、 なかなかに怯まなかった秋山はお尻を叩き続け……ニナちゃんを泣きながら謝らせ続けた。 「あぁあああああんっ!うわぁああああん!ごめんなさいぃぃ!やぁああああっ!」 「反省した!?“バカ”だの“クソ”だの“死ね”だのも、誰彼かまわず言ったらダメだからね!?暴言禁止!」 「うわぁあああん!もうしないよぉごめんなさぁぁい!もうやだぁぁっ!絶対しないからぁぁっ!!」 「お金が欲しいなら、バイトするか、お家の人に相談して!」 「分かった!分かったぁぁッ!いやぁああっ!痛いぃぃッ!!うわぁあああん!!」 バシィッ!ビシッ!ビシッ!! 「うぇえええっ!もうやだぁぁっ!やだごめんなさぁぁい!うわぁああん!! だって気持ち良かったんだもん!!皆が俺にお金払ってくれるのが、俺に価値があるって思えて! 俺っ……自分は価値のある人間なんだって、思ってぇぇっ……!!」 「ニナちゃん……!!」 秋山はそこで思わず手を止めて、手際よくニナちゃんを椅子に座らせて、自分は彼の目の前に跪く。 そして力説した。 「ニナちゃん!勘違いしちゃダメだよ!!君の価値はお金じゃ計れないんだ! プライスレスなんだよ!だから、君の気持ちも、可愛さも!安売りしちゃダメ!!」 「!!」 「君に貢いでくる奴は!君の好意や価値をお金で買おうとする奴は!分かってない奴だから! 下心ある奴だから!エッチマンだから!……僕も、きっとそうだったんだね……恥ずかしいや」 秋山は恥ずかしそうに……けれど優しく、ニナちゃんに笑いかけて言った。 「ニナちゃんに相応しいのは……もっと心のこもった、温かいプレゼントだから。 そういうプレゼントがたくさんもらえるような……素敵な友達とか大切な仲間、いっぱい作ろうね??」 「むっ……無理だもん……!!」 秋山に手を握られているニナちゃんは感極まったようにボロボロと泣き出す。 そして、俯いて泣きながらも一生懸命言う。 「俺っ、性格悪いから……ひっく、まともなっ、友達……サクしかいないもん……!!」 「僕もいるよ。大丈夫、ニナちゃんがいい子になればきっといっぱいできるって!」 しゃくりあげて泣くニナちゃんの頭を撫でて慰める秋山。 そうしていると、誰かがまた近づいてくる。 「……酷いなぁ。俺は、まともな友達じゃないの?二那君?」 「正行……!お前裏切りやがってどの面下げてッ……!!」 「ニナちゃん?」 「うぅっ……」 秋山に咎められ、ニナちゃんはパッと両手で自分の口を塞いでから、 おずおずと手を外して恥ずかしそうに正行を見ながら言う。 「……正行も……俺と友達になりたいわけ……?」 「そりゃなりたいよ。貢がせフレンドは卒業させて?」 「……仕方、ないな……じゃあ、今日からちゃんとした友達ね……今まで、ごめん……」 ニナちゃんが視線を逸らして言いにくそうにそう言うと、正行も穏やかに笑った。 「いいよ。改めてよろしくね二那君?あと、カロも入れてあげて? あれでも二那君の事すごく心配してるから……」 「えぇ……アイツは……まぁ、話し合って決める……」 そんな会話がありつつ、上倉はニナちゃんの友達になるのを激しく拒否されて、 秋山や正行に笑われて…… その後。 「秋山……今まで……ごめんなさい。彼女、できるといいね? でも俺みたいのはダメ!秋山みたいにすっごい性格のいい子ね!幸せになって。秋山……」 ニナちゃんはそう言ってしゅんとしつつ笑った。 初めてニナちゃんの本音の言葉を聞いたような気がした秋山は涙を堪えて、微笑み返したのだった。 長かった修羅場を終え…… ニナちゃんを帰して正行とは別れ、無事に廟堂院家に帰ってきた上倉と秋山。 大広間で一息ついて、上倉が秋山を労った。 「秋山君、今日は本当にお疲れ様でした」 「い、いえ!上倉さんもありがとうございました! ニナちゃんが反省してくれて良かったって言うか……上倉さんのおかげって言うか……」 「君が、悲惨な犯罪に巻き込まれるかもしれなかった未成年の未来を救ったんです。 正真正銘、素晴らしいヒーローですよ……!さすがアキヤマン、ですね! 失恋の辛さに負けないで良く頑張りました!」 そう言って、上倉は秋山を抱きしめる。 秋山の目から涙が零れ落ち、どんどん溢れて大声で泣き出した。 「うっ……うわぁあああん!!うわぁああああああっ!!」 「秋山君には絶対に素敵な彼女ができます!大丈夫!!」 「うわぁあああん!ありがとうございますぅぅぅっ!!」 秋山は、上倉の胸で思い切り泣いたのだった。 ――そして、秋山を慰めて別れた上倉は…… 「あ、もしもし〜〜?そちら数住さんのお宅ですか? 私、二那君の大学の者でして……上倉と申します。 少し二那君の事でお話が……失礼ですが、お兄様でしょうか? あ!ごめんなさいね?お兄様はいらっしゃいますか? はい!一番上のお兄様で結構ですよ!代わっていただけます?」 と、長々と電話した後…… 「これでよしっ♪」 携帯電話を切って、満足そうにしていた。 【おまけ1】 こちらも無事、櫛米家に帰ってきた正行。 「ご、ごめんね千早君!!平気だった!!?」 「正行遅いぞ!!……別に一人だって平気だ!それより! 廟堂院家に喧嘩を売ってきたバカには地獄を見せたんだろうな!?」 「そ、それはもう!上倉さんと秋山君がきっちりお仕置きして!泣きながら謝ってたよ!」 「ならいい……こちらにも面子があるからな!正行、一応……よくやった」 「千早君が俺を協力させてくれたおかげだよ。ありがとう」 「まぁ……オレは少しくらいお前がいなくても平気だし……!」 「そっか!じゃあ明日は奥様と倉庫の片付け……」 「っ、調子に乗るなバカ!!そんなのは能瀬にやらせろ!!」 【おまけ2】 ――夜中、イル君の自室にて。 洗面所で嘔吐する上倉の背中を、イル君が懸命に擦っている。 「げほっ、ごほっ、うぇっ、ごめんなさい……ごめん、なさい……!」 「貴方は何も悪くない……」 心配そうな、悲しげなイル君に背中を擦られながら、 上倉は苦しげに息を切らせて、泣きながら言った。 「私っ、……彼が心底っ、う、羨ましかった……!!ぐすっ、私っ、私も……大学時代に戻って……! 秋山君に叱ってもらうんです……!そしたら、改心して……!普通に執事学校に通って……! 普通に廟堂院家に就職して……っ、っく、普通に、貴方と出会って、恋人になって、 初めては、……あぁあっ、貴方と……うぅうっ!ううう!!」 「大一郎……今日はいい事をしました。貴方は立派だ。 私は辛い過去に潰されず懸命に生きてきた、強くて優しい貴方が大好きです。 貴方のその心も体も全部、愛しています」 イル君が後ろから覆いかぶさるように抱きしめると、上倉が縋るように言う。 「あぁイル君……!抱いて……今すぐ抱いてください……!!」 「……分かりました。けれど、まずは布団で温まってからにしましょうね?吐き気はもう大丈夫ですか?」 「うぅっ、……んっ、うん……!!」 しゃくりあげながら泣く上倉の頭を撫で、優しく手を引いて布団へ戻るイル君。 寄り添って背中を擦ってやるうちに、上倉は眠ってしまって…… 「……私も、貴方が苦しむたびに…… 過去に戻って……貴方を助けてあげられたらいいのにと……心底思います……!」 上倉を強く抱きしめて、辛そうに呟くイル君だった。 |
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