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執事デート〜秋山君のワンダフル1day〜



ここは町で噂の大富豪、廟堂院家。
その廟堂院家で働くうら若き執事達(休憩中)が、今日もお喋りに花を咲かせている。
執事控え室にて、CAD(門屋準と遊ぶ同盟)リーダーの門屋が、メンバーの相良や木村にぽつりと言った。
「最近、なんか秋山心配だよなぁ〜……」
「ああ……確かに余裕ないって言うか、思いつめてる感じが……」
「何かあったんですかアイツ??」
相良や木村も門屋の言葉に心配そうな顔をする。
門屋は更に神妙な面持ちで話を続けた。
「アイツ彼女欲しすぎて、休みのたびに神社仏閣とか、怪しい骨董品屋とか必死で回りまくってるらしいぜ……」
「「えぇ……」」
相良と木村が露骨に不安げな顔をしたその時――
「たっちゃん!!皆!!た、たっ、大変!!」
大慌てで部屋に駆け込んできた佐藤が皆の注目を集める。
誰かが何か言う前に、息を切らせて叫んだ。
「秋山が人形っぽい何か燃やしてる!!」
「「「!!?」」」
一同、唖然。
「どっ、どうしようたっちゃん!!秋山ついに呪術系に手を出し始めたのかも!!」
佐藤がオロオロと木村に縋ると、門屋が青ざめながらも立ち上がる。
「おっ、俺が見てくる!!」
「リーダーはオカルト系苦手でしょう?俺が秋山に話を聞いてみます」
「お、俺も行く!心配すんな泉」
不安げな恋人をすかさずフォローする木村と相良は、それぞれの相方を落ち着けるように笑顔で言う。
こうして木村と相良が一旦、心配そうな佐藤と門屋を残して秋山に話を聞きに行った。

――結果。

「どうだったのたっちゃん!?」
「秋山大丈夫なのかよ!?」
「「…………」」
相良と木村の表情は、困惑と沈痛が広がっていた。
木村が視線を逸らしながら言いにくそうに答える。
「……秋山、ノイローゼに片足突っ込んでるかも……」
「ちょっとワケ分からない事言ってって……病院勧めたけどしょんぼりして“酷いよ〜”って……
自分では深刻さ分かって無さそうで……」
木村の発言を補足する形で相良も言う。
佐藤と門屋は二人の言葉に真っ青になった。
「そんな……!!何とかしてあげなきゃ!!」
「お、落ち着け皆!!俺がリーダーとして何か……そうだ!!」
ここで門屋は“閃いた”とばかりに笑顔になって声を弾ませた。
「秋山、前に“誰でもいいからデートの練習したい”って嘆いてた!
アイツにデートの練習させて、褒めまくってやれば自信がついて気分が落ち着くんじゃねーの!?」
「そ、そっか!!楽しい場所に出かけて思いっきり遊んだら、きっと気晴らしにもなるし!!
リーダー冴えてるぅ!!」
「当っったり前だろ!俺を誰だと思ってんだよ!!」
“名案”を喜び合う門屋と佐藤。
相良が困惑気味に言う。
「そ、それはいいけど……誰が秋山とデートの練習を……??」
「俺が行く!!CADリーダーの名に懸けて、アイツを助けてやんないと!!」
「えぇっ!!?」
「何だよ!秋山が呪われてもいいのか薄情相良!?」
「それは……!だけど……!だからってぇ!!」
門屋を止めたいのに止めきれない、困り果てる相良の傍で、佐藤も木村の手を取って言う。
「ねぇたっちゃん!俺も行っていい!?俺も秋山が心配だし、リーダーだけだと相良が可哀想だし、
リーダーと一緒なら……秋山と二人きりにならないから、いいでしょう!?」
「えぇヤダよ!!」
「たっちゃん!!このままだと、秋山がおかしくなって高額の変なお守りとかブレスレットとか買っちゃうよ!
闇金に手を染めて、借金取りに殺されちゃうよぉぉッ!!」
「いや、無いって!そんなの考え過ぎだって!!」
木村ももちろん大慌てで嫌がる。が……
「ほら、佐藤が一緒だって言ってんだろ!これでも止めんのか!?ちっせぇ男だな!」
「三人だし、デートじゃないんだよ?“デートの練習”!まだ嫌がるならたっちゃん心が狭すぎるよ!!」
「「お願い!!」」
愛しい恋人の必死の“お願い”に、相良&木村は「うぐっ……」と押し黙る。
そして、
「あ!そんならさぁ、俺と相良で練習してやれば……!」
「それいい!俺達が行きますよリーダー!!」
「「それは絶対嫌だッ!!」」
恋人達が顔を真っ赤にして怒っている表情に、完敗していた。
かくして、ノイローゼ(?)の秋山を救うために、門屋と佐藤で彼の“デートの練習”をする事となる。

当の秋山は……
「で、デートの練習!?」
最初はとっても驚いていたけれど……
「そ!感謝しろよ!?俺ほどのイケメンがデート練習をしてやるんだからな!」
「秋山、最近悩んでたみたいだから……リーダーと何か力になれたらなって。
たっちゃんも相良も快くOKしてくれたから心配しないで?
……俺達との“練習”で役に立つ??」
二人の言葉に、嬉しそうに瞳を輝かせた。
「あ、ありがとう……!!僕のためにそこまでしてもらえるなんて!!
ふ、二人なら相手としても申し分ないって言うか……、ありがたいっていうか……、
これで自信をつけられるように頑張るよ!!」
こうして、裏での相良と木村の歯ぎしりをよそに、
秋山中心で、門屋がはしゃいで佐藤が助言し、和気あいあいとデートの練習プランは組み上がる。


そして“デートの練習”当日。
秋山、門屋、佐藤の三人は近くの遊園地に来ていた。
「今日はよろしくね秋山」
「しっかり楽しませろよな?期待してるぞ!」
デート風なオシャレ私服で、秋山へ笑顔を向ける佐藤と門屋。
それを見て……
『今日はよろしくね、秋山君……ふふ、緊張しちゃうな……』←清楚な癒し系マドンナ、泉子ちゃん
『しっかり楽しませなさいよね!期待しといてあげるわ!!』←素直になれない妹系アイドル、準子ちゃん
(いける……!!)
脳内で女子に置き換え、さっそく何かを掴んで小さくガッツポーズしている秋山。
少し照れながら二人に返事を返す。
「僕の方こそよろしく!楽しいデートになる様に、頑張るから!!」
そして、勇気を出して本番のデートでしてみたいこんな提案を……
「で……いきなり、だけど……手を、繋いでもいいかな……?」

((秋山貴様ァァッ……!!))

「!!」
したところ、突如ものすごい悪寒に見舞われて、慌てて辺りを見渡す。
けれど怪しい物も人も何も無くて……秋山の様子に佐藤も門屋も不思議そうだ。
「どうしたの秋山?大丈夫?手、繋ぐ?」
「今からそんなビビっててどうすんだよ!手ぇ繋ぐぐらいでオドオドすんなっての!」
「い、いや……やっぱり手は……」
怖くなって『手繋ぎデート』の練習を辞退しかける秋山だが、
「遠慮しないで?練習にならないじゃん」
「ったく、世話が焼けるヤツだなぁ!」
「ひぁあああっ!!?」
佐藤と門屋に両側から手を取られる。
「ね、これからどこ行くんだっけ?」
右を向けば佐藤の優しい笑顔と手を繋ぐ柔らかな温もり。
「確か最初はジェットコースターって決めたぜ!あー楽しみテンション上がる!」
左を見れば腕に纏わりついている門屋の人懐っこい笑顔と温かい重み。
秋山は思わず、女子に置き換えなくてもドキドキしてしまう。
(ふ、二人共近くで見たら……いや、近くで見なくても結構、結構って言うか可愛ッ……!!
お、俺……これ、可愛い子二人も連れて、今、リア充デートしてる……!!)
秋山のドキドキを知らない佐藤と門屋は、秋山を挟んで無邪気に話している。
「っていうか、リーダーくっつき過ぎじゃないですか〜〜?」
「いいだろ秋山だし!つーか、体重かけてると引っ張ってもらえてラク〜〜♪」
「え〜〜!じゃあ俺も、もっとくっ付いちゃおっかなぁ♪引っ張って秋山ぁ♪」
(ふぉぁああああっ!!)
と、秋山が門屋と佐藤にくっつかれながらキャッキャと歩いて行ったところ……

「「秋山ぁ……!!」」
物陰で、怒りの籠った声を吐き出す二人の男がいた。
当然ながら門屋と佐藤の恋人、相良と木村。
やっぱりじっとしていられなかった二人は、こっそりついてきて三人を監視していた。
そしてさっそく限界に達していたわけだが。
「人様の恋人と無遠慮に腕組むとかアイツ……!後で覚えてろぉぉっ……!!」
「初っ端から飛ばすよなぁ……あんまりやんちゃだと……いくら秋山とは言え……!!」
怒りに震えていた二人だが、相良がハッと我に返って、木村の肩を叩く。
「お、落ち着け木村!見つかったらきっとリーダーも佐藤も怒るし!
ここは堪えて……復讐、いや、お仕置きなら後で、な?」
「そ、そうだな……平常心平常心……!!秋山だしこれ以上の事はきっと……」
と、怒りを堪えて三人の尾行を続ける相良木村。
だが……

「ひゃはーっ!ジェットコースター面白かったぁぁっ!!」
「よ、良かった……楽しんでもらえて……」
「そういう秋山は情けねぇなぁ!ふふ、酔ったか?」
「いや、大丈夫……それより、髪が乱れてるよ?り………………準?」
「!!……あ、サンキュ……」
少しふらついていたけれど、すぐに優しい笑顔になって門屋の頭を撫でるように、
髪を整えてあげる秋山。
「いいね秋山!!今のすっごく恋人っぽい!!」
見ていた佐藤がはしゃいで褒めていたけれど……。

(殺すッッ!!)
(相良抑えて!!お前キャラ違うッ!!)
今にも飛び出しそうな相良を木村が必死で羽交い絞めしていた。

他にも……

「ひぇぇ、ビショビショになっちゃったぁぁ……」
「ごめん!!俺がさと……泉の側に座れば良かったね!!」
「ううん、気にしないで。これも遊園地の醍醐味ってヤツ……」
「でも、風邪引いちゃうといけないし……あ、そこ座って!拭いてあげる!」
「えっ、えぇ!?いいよ自分で……!!」
「遠慮しないで……拭いてあげたいから、さ」
「……じゃあ、頼むね?」
タオルでせっせと佐藤の濡れた体を吹いてあげる秋山。
見ていた門屋は感心したように言う。
「準備いいな〜秋山!」
そして……
「あっ、秋山……そこまではちょっと恥ずかしいかも……!!」
「わわわっ!!ごめんやりすぎちゃった!!」
「あっははは!!実際のデートでやんなよ秋山〜〜っ!!」
佐藤のシャツの中に手を入れかけた秋山が慌てて撤退すると……

(よっしゃ死ねッッ!!)
(木村落ち着け!!気持ちすっごく分かるけど落ち着け!!)

飛び出しそうな木村を今度は相良が羽交い絞めしていて……


「こ、こここのジュースは恋人用でして!!ストローが2本ありまして!!」
「いいよ〜?どっちと飲みたい?」
「あ、ありがとう!パフェもあるんだ!!だから、どっちかをどっちかと……」
「だからぁ、どっちをどっちと食べんだよ?お前が決めんだぜ?」
テーブルに座っている佐藤と門屋は、ジュースやパフェを持ってきた秋山を見上げて笑う。
「「ね?
  な?貢?」」
「ふわぁああああい!!」
真っ赤になる秋山。の、死角で……

((うぉぉおおおおおおおっ!!))

木村と相良は相撲のように取っ組み合いながらその場をぐるぐる回っていた。

その後も……

「わーいいの?お揃いで買ってもらっちゃったぁっ!」
「悪りぃな!貢のおごりおごり〜〜

相良と木村の精神を削る甘い練習風景は続き……

「なんか暗かったぁぁっ!!変な声ずっとしてたぁぁ!!」
「貢にずっと顔ごとくっついてて何も見てなかったじゃんリーダー……それでも怖かった?」
「うるせぇ怖くねぇよ!!貢のバカぁッ!!」
「ご、ごめんね準……まさかホラー系とは思わなくて……次からは気を付けなくちゃ……!!」

陰でゾンビのようなテンションと生気の無い顔になった木村が同じようになっている相良へ言う。
「……なぁ、もうバレていいから秋山を殴りに行った方が良くね?
俺死にそうを通り越して死にたい……」
「そうだな……行こう……俺達が生きる為に秋山に制裁を……!!」
二人がそう言った時、三人が入っていったのは……

((ん゛んんんんん!?))

看板には『ドキドキコスプレ写真館』。
相良と木村は一気に動揺して、相良が震える声を出す。
「コス……プレ!?え、何、記念撮影!?
コスプレって……コスプレって……!!
はは、じゅっ、リーダーに何かコスプレさせるのは至難の業だぞ!?
あ、そっか男物の衣装だよな……!!」
「で、でもアイツらって今デートの練習中だし!秋山はなんか今日強気だし!!
強引に素敵な衣装を着せてるって事も……ああああ許せないけど見たいのも見たい!!
看護婦!?バニーガール!?セーラー服か!?泉は何でも似合うから……!!」
「いや、チャイナ服……メイド服、シスターなんてのも……見てみたい!!」
「女教師に!」
「女軍人!?」
「「…………」」
顔を見合わせた相良と木村は、
「……制裁は、もう少し様子を見よう……!」
「そ、そうだよな!秋山だって頑張ってるんだから!」
ドキドキと動揺しながら写真館を見つめる。

数十分後。

「この写真!絶対誰にも見せんなよ秋山ぁッ!!特に相良ぁぁっ!!」
「そ、そうだよ秋山?たっちゃんにも内緒ね??」
「う、うんもちろん……!!ありがとう二人共……!!」
顔を赤くする三人が出てきてギャイギャイと言い合う。
対する二人は……
((絶対あの写真を見ないと!!))
と、心に決める。


そうこうしているうちに夕暮れ時になり、秋山達三人は観覧車に乗る事になる。
観覧車の中で向かい合って座る、秋山と門屋・佐藤。
「あ〜〜疲れたぁぁっ……」
「ちょっとリーダー重いですってば!」
「う〜〜いいだろ〜?お前も俺に肩預けていいから……」
「もう……こう、ですかぁ??」
お互いに支え合うようにくたっと座る門屋と佐藤。
疲れからか、門屋はうとうととしていて、佐藤もぼんやりとしていた。
(か、か、可愛……い……!!)
秋山は口を手で塞ぎながら、真っ赤な顔で二人を見る。
そして、今日1日の事を思い出す。
(今日は僕……二人のおかげで、色々勇気を出せた気がする!!
楽しかったし、素敵なデートが、できた気がする……!!
二人は本当の恋人じゃないけど、なんか愛おしくて……!!)
自分自身でも言い表せない感情で、涙さえ出そうになる秋山。
そんな感涙気味の秋山へ、ふっと視線を向けた佐藤が心配そうにする。
「秋山?どうしたの?もしかして、高い所苦手……?」
「う、ううん……!!今日楽しかったなって!二人共ありがとう!
連れ回してごめん!疲れ、ちゃったよね……?」
「そんな……俺だって、すごく楽しかったよ!疲れるほどはしゃいじゃったって事!
ね、リーダーもそうでしょう!?」
ポンポンと佐藤が強めに肩を叩くと、門屋も眠そうにフワフワと言う。
「ん〜〜超楽しかったぁぁ〜〜!!また来ようぜ〜〜!!」
佐藤と門屋の笑顔で、最高に感極まった秋山は……
「ふ、二人共!!す、好きです!!付き合ってください!!」
「「!!」」
ついつい叫んでしまった。
門屋と佐藤は、飛び起きるように跳ねて、驚いた顔をして……
「秋山……いいよ!良かったよ!そんな感じの告白だよ!!」
「やればできんじゃん秋山!!それでいいんだよ!もうデートはバッチリだな!」
嬉しそうに二人で秋山の手を取って喜ぶ。
そして、秋山は呆然として……夢から醒めたように笑った。
「あ、ありがとう二人共……!!」
流れる涙は佐藤に励まされたり、門屋にからかわれたり。
キラキラとした貴重な1日を体験できた秋山だった。


そして、皆でお土産を買って、帰り道は三人でワイワイはしゃぎながら帰って来る。
無事執事寮に着いた秋山は、門屋や佐藤とは手を振って別れて……
部屋着に着替えて、お土産を配ろうと寮内を何となく歩いていた。
ふと思い立って、今日撮った“記念写真”を見返すと、思わず笑みがこぼれる。
(楽しかったな、今日……リーダーも佐藤もすっごく可愛く見えて……
いや、実際あの二人ってすごい可愛い部類に入ると思うんだけど……)
「「秋山君〜〜!!」」
そんな秋山の幸せ思考はパッと遮られる。
目の前には、笑顔の木村が相良と立っていた。
「ダメだぜ歩きながら携帯!危険危険!なぁ、それよりどうだった泉との“デートの練習”!?
詳しく聞きたいなぁ?」
「俺も俺も!ぜひ詳しく聞きたいな、今後の参考に……」
笑顔なのに謎の威圧感に満ち溢れた木村と相良に、
秋山は何か嫌な予感を感じて青ざめつつも、お礼を述べた。
「ふ、二人も、ありがとう……!!
リーダーと佐藤、僕の、“デートの練習”、協力させて……くれて……」
「秋山ぁ、ここじゃゆっくり話せないからこっち行こうぜ!」
「そうそう!早く早く!」
「ひぃぃっ!!?」
相良に手を取られ、木村に背中を押される形に連れて行かれた先は、何だか人気のない場所で。
壁際に追い詰められた秋山は、オロオロと左右を見回すが……
バンッ!!
「ひゃぁぁああっ!!?」
急に木村が壁に腕を付いたので吃驚する。
そして怖すぎる笑顔の木村が言う。
「で?楽しかったかい秋山君?人の恋人と、腕を組んだり、
2本差しストローでジュースを飲んだり、体を……拭いてあげたり……」
「な、何で知って……!!」
「美味しそうなパフェだったよなぁ?俺もリーダーと食べたいなぁ……
あと、リーダーとコスプレ写真撮ったり、観覧車乗ったりしたいなぁ……」
「あ……あ……」
相良が追い打ちをかけるように威圧笑顔で言葉を続ける。
秋山は恐怖で声が出ない。
木村や相良はどんどんと脅迫めいた笑顔で言葉を重ねる。
「まさか、何の代償も無く楽しんだ……そんな事、しないよな秋山??」
「秋山は俺達の友達だし、そんな手荒い事はしないよ?しないけどさぁ、
ちょっとぐらい……この憂いを、晴らさせてくれるよな?」
「うっ……ううっ……!!」
秋山は、泣きながら言った。
「ご、ごめん!!ごめんなさい……!!僕、僕ぅぅっ!!
佐藤は木村の恋人なのに、相良がリーダーの事好きなのは知ってたのに、
すっごく酷い事しちゃってぇぇっ……!!」
「「!!」」
秋山が泣き出した事で、木村も相良もハッと気まずそうな顔で互いを見る。
そして慌てて秋山を泣き止ませようと声をかけるが、
「あ、秋山あの……」
「ごめん、怖かっ……」
秋山は大声で泣きながら言う。
「うぇぇええっ……いくら出せばいいですかぁぁ……!?
おっ、お金なら出します!!お金は出しますから!
だ、だから、痛いのは許して下さいぃぃっ!!」
「えっ、ちょ、いいって……お金しまえよ!!」
「何もしないから!大声出さないで!悪かったよ!!」
木村も相良も、秋山の傍に寄って大慌てで小声で宥める。

――その結果。

「……もしも〜〜し、お兄さん方ぁ、何やってるんですかぁ〜〜??」
「「!!」」
「!!ぁ……上倉さ……!!」
現れた上倉(私服)に、不審感たっぷりの眼差しで見つめられる相良と木村。
秋山がボロボロと泣きながら状況を説明し始める。
「違、違います……!僕っ、許してもらおうって……!!木村と、相良が……だから、お金をぉ……!!」
「わぁああああっ!!秋山泣きながら喋るな!変な事になってる!!」
「ち、違います上倉さん!誤解です!俺達そんな、変な事は何も!!」
慌てて秋山を宥める木村と、弁解する相良に、上倉はニッコリとほほ笑んで言った。
「君達は仲良しだと思ってたんですけど……何か……恐喝事件に見えるんで、
誤解を解くために皆で私の部屋でお話ししましょうか??ね?」
「えぇ嫌なんですけど!!」
「木村……!大丈夫、やましいことは無いって!い、行きます……!」
「うっ、ぅう……!!」

こうして上倉に連れられて部屋に行った三人は、それぞれ事情を上倉に説明する。
上倉は考え込むような困った顔をして、まだ泣いている秋山に声をかけた。
「う〜ん、なるほどぉ……はぁもう。こんな揉め事になるくらいなら、
どうして私に“デートの練習”相手を頼んでくれなかったんですか秋山君?」
「ごめんなさい上倉さんは嫌です怖いですぅぅぅ!!」
「……あらら、秋山君にもお仕置きが必要でしょうか?」
「うわぁああああん!!」
「まぁ、秋山君は冗談として……」
そう言った上倉は、木村と相良に真剣な顔つきで言った。
「どういう理由であれ、隠れてお友達を脅迫するのも、
暴力を振るおうとするのもいただけませんね。
相良君と木村君には、執事長としてお仕置きさせていただきましょうか?」
「うわぁあああ嫌だ帰りたいぃぃっ!!」
「木村……落ち着けって……」
木村はお仕置き宣告に天を仰いで嘆き叫んで、相良も不安げな、
この状況に秋山が慌てて叫んだ。
「そ、そんな!!二人は僕のせいで!僕だって悪いのに!
それだったら僕もお仕置きして下さい!!」
「「秋山……!!」」
秋山のこの言葉を聞いて、木村と相良は一気に感動して、
自分たちのしようとした事を恥じる事になる。
「ごめん俺達……お前は、そういういい奴だったのに……!!
怖がらせて、傷つけようとしてごめん、秋山……!!」
「うぁあああ……ごめん秋山ぁぁぁ……うぅっ」
「き、木村は……大丈夫、俺もいるから……。
秋山が叩かれることは無いよ。行って」
すでに意気消沈して泣いている木村も、相良の言葉には何度も頷く。
その肩を励ます様に相良が叩いて、上倉も笑いながら言う。
「あっはは、普段元気なのに、お仕置きの時は一気にヘタレるんですよねぇ木村君って。
大丈夫。秋山君に免じて少しは手加減しますから」
秋山は心配そうだったけれども、意を決したようにお辞儀をして、勢いよく部屋から出て行った。
ので、いよいよ相良と木村がお仕置きされる時間になるのだが……
下半身裸でベッドに四つん這いに、お仕置きの体勢にさせられる間もずっと泣いて嫌がっている木村。
「うわぁあああん!!ごめんなさい!嫌だぁぁッ!!うぅうううっ!!」
「木村く〜〜ん?君がそんなだと、相良君も怖くなっちゃいますよ?」
上倉にそう言われると、チラッと相良の方を見てまた泣いた。
「ご、ごめん相良ぁぁっ……俺ヘタレでごめぇぇん……うぇぇぇっ!!」
「い、いや……いいよ。分かるって。怖いもんな」
「怖ぁぁい……!!」
さめざめと泣く木村の頭を撫でて、上倉が笑う。
「相良君もお手伝いしましょうか?」
「いっ、いいです、俺は自分で……」
相良の方は、恥ずかしそうな不安そうな表情ながらも、
自分でさっさと木村と同じような体勢になった。
そうやって二人のお尻が向けられると、上倉が言う。
「さて、どっちからお仕置きしましょうか?」
「うぇえええええっ……!!」
「アンタ、また悪趣味な……!木村がこの状態なら彼が先でしょう!?」
「木村君は、お仕置きの時は常にこんな感じなので、
いちいち同情したらお仕置きにならないんです。別に意地悪したわけじゃないですよ」
バシッ!!
「っう!!」
言われながら、先に叩かれた相良は短い悲鳴を上げる。
「相良君も、いい子になりたかったら私を“アンタ”呼びやめましょうね?
反省する気はあるんでしょう?」
「ごっ、ごめんなさい!!いっ、ん……っ!!」
ビシッ!バシッ!バシッ!!
叩かれ始めると何度も叩かれ、相良は必死に声を堪えようとする。
「うっ、うぅ!!」
「さ、相……」
「ごめっ……!!見ないで……!!」
素直な木村は相良の辛そうな姿に反応して、つい心配そうに声をかけるが
相良の言葉でまた慌てて視線を外して俯く。そして、泣いていた。
「うっ、うぅぅっ!!」
「っ、あっ!!」
バシッ!バシッ!!ビシィッ!!
叩かれて痛いながらも、隣の木村の様子も気になる相良。
(木村、大丈夫かな……俺が隣で叩かれてたら怖いだろうに……!
くそ、何で俺が先なんだろう!?木村も叩いてやりゃいいのに
上倉さんやっぱワザと……)
「相良君?」
バシィッ!!
「ひゃぁっ!?」
急に叩かれて大きな悲鳴を上げてしまう相良。
「優しいんですね。木村君の事、気にしてます?」
「ひ、うぅっ……!!」
「そんな優しい相良君が、どうして秋山君には意地悪だったんでしょうねぇ。
悲しい事です。反省してください」
ビシッ!バシッ!バシッ!!
「あぁあっ!ごっ、ごめんなさい!反省してます!!」
「人間ですし、嫉妬する事だってあるでしょうけど、
それで仲間に暴力を振るう……振るおうと、するなんて論外ですよ!いけません!」
ビシッ!!
「うぁああっ!分かりましたぁぁ!!もう、やめてください!!」
だんだん痛みに負けて、声が堪えられなくなってきている相良が、
悲鳴交じりに叫ぶけれど、上倉は余計に相良のお尻を強く打った。
バシッ!バシッ!ビシィッ!!
「ダメですよ。せっかく相良君泣きそうになってるのに」
「なっ、何言ってぇぇっ!?ふ、ぁああっ!!」
「相良君が思いっきり泣いてくれないと、木村君が遠慮しちゃってますから。
いつももっと騒がしいので」
「あぁっ!うぅっ、そんな事言われたってぇぇぇっ!!」
だいぶ余裕の無くなってきた相良が涙目で叫ぶも、
「手加減する、とは言いましたけど……
カッコつけたままじゃ許してあげませんからね?心から、反省して謝って下さい!」
バシィッ!ビシィッ!!
「うわぁああん!ごめんなさい別にカッコなんてつけてませんんっ!!
もう許してくださいぃぃっ!!」
容赦なく追撃されて、泣かされてしまった。
すると、別方向からも大きな泣き声が聞こえてきた、
「うわぁああああん!わぁああああん!!」
「あーあ……、木村君もお待たせでしたね……」
上倉はそう言うと、相良を叩くのはやめ、木村の方に移動して……
「はいはい、木村君の番ですよ。ずっと怖かったですか?」
バシッ!バシッ!ビシンッ!!
「うわぁあああん!ごめんなさいごめんなさい痛いぃっ!!」
「ふふ、大げさにしたってダメです。木村君の場合はお尻が真っ赤になるまでは許しませんから」
「やだぁぁぁ!!ごめんなさい!わぁああああん!ごめんなさいもうしないからぁぁっ!!」
叩かれ始めた瞬間から、大げさに泣いて喚いている木村のお尻を、
上倉は相良の時と同じく容赦なく叩き続ける。
バシッ!ビシッ!!バシィッ!!
「ご、めっ、ごめんなさい!痛いぃっ!痛い!ごめんなさぁぁあい!!」
「木村君が悪い子だからこんな事になりました。分かります?」
「うわぁあああん!ごめんなさい!ごめんなさぁぁい!わぁああん!」
「“もうお友達に暴力振るおうとしません”」
バシッ!ビシッ!!
「もうお友達に暴力振るおうとしませんんっ!ごめんなさぁぁい!!痛いぃっ!」
「お仕置きですから痛いんですよ。当たり前です。分かったら最後まで我慢する!」
「うわぁああああん!!やぁああああっ!ごめんなさぁぁあい!!」
木村の豪快な泣きっぷりに、叩かれていない相良も泣きそうになっていた。
(だ、めだ……つられそう……!子供でも、無いのに……!!)
叩かれていなくても痛みは残っていてお尻はジンジンするし、
お仕置きも終わったわけでは無く、隣の阿鼻叫喚が怖くもなってきて、相良はボロボロと涙を流した。
そんな時。
「よーし、木村君もとりあえず相良君と同じくらいお尻真っ赤になったし、
ここからは二人仲よくお仕置きしてあげましょうか!」
信じたくない一言が聞こえてきて、相良は思わず叫んだ。
「まだやるんですか!?ご、ごめんなさい!!もうやめてください反省しました!」
「わぁあああん!帰りたい帰りたい帰りたい帰りたいぃぃっ!!」
木村は泣き叫んでひたすら“帰りたい”を連呼する。
そんな絶望の中の二人に、上倉がのんびりと言う。
「そうですねぇ、二人共反省してそうですけど……念のため、あと10回ほど♪」
「!!」
「帰りたいぃぃっ!!」
「木村君はお仕置き終わるまで帰れません!いい子にしないと増やしますよ!?」
バシィッ!ビシィッ!
「あぁああごめんなさいぃ!!まだいますぅぅ!!」
「よろしい。相良君も本当に反省しましたね!?」
バシッ!ビシッ!!
「う、ぁああっ!しましたぁっ!もうしませんからぁぁっ!」
「二人共、もう大丈夫だと思いますけど、次もし私に隠れて暴力や脅迫を行ったら……」
バシィッ!バシッ!!
「もうしません!もう絶対しませんからぁぁッ!!」
「うわぁあああん!!」
「パドルも使いますからお忘れなきよう!」
ビシィッ!
「「うわぁあああん!!ごめんなさぁぁい!!」」
バシィッ!ビシッ!バシッ!!
こうして、手加減すると言った割には散々に叩かれてしまった二人は、
許してもらえて……落ち着いてから上倉の部屋を出る事になる。


「……相良ごめん……俺ホンットうるさくてごめん……!!恥ずかしい……!!」
「いや、大丈夫!気にすんなって!俺も同じようなもんだったよ!」
木村は通常に戻ったらすっかり恥ずかしくなってしまったらしく、手で真っ赤な顔を覆っていて、
相良が一生懸命フォローしていた。
「俺あんなだからさ……絶対、泉と一緒にお仕置きされたくないんだぁ……!」
「そっか……お互い、清く正しく頑張ろうな」
照れくさそうな木村に、相良も恥ずかしそうな笑顔を返したところで……


「さ、相良木村ぁぁぁぁっ!!」
秋山が二人の元に走ってきて……
「僕、僕ごめん……!!二人の為にッ、
リーダーと佐藤から二人に写真見せる許可貰って来たぁぁぁああっ!!」
「「秋山様ぁあああああっ!!」」
相良と木村は心底嬉しそうにガッツポーズを決めた。

そうして、一番近かった相良の部屋で三人で写真鑑賞をした。
もちろん、相良も木村も興奮の最高潮。
相良が瞳をきらめかせ、頬を紅潮させて感動に打ち震える。
「うわぁああああっ!!ふわもこウサ耳プリンセスぅぅぅッ!!
準可愛い!!可愛い!!これをどうやって着てもらったかぜひ詳しく聞きたいぃぃぃ!!」
「あぁああああ!小悪魔ミニスカポリスって……泉似合うぅぅぅ!!あり!全然ッあり!!
清楚系ばっか選びがちだったけど、そっかこういうセクシー系も超似合うんだぁぁっ!!」
木村も鼻息荒く食い入るように写真を見ている。
そんな熱狂の渦にイマイチ入っていけない秋山はぽそっと呟く。
「……ち、ちなみに僕は怪盗のコスプレなんだけど……どうでもいいよね……?」
と、寂しくなっていたが……
「「ありがとう秋山!!」」
ものすごくキラキラした笑顔の相良と木村に、嬉しそうに手を取られると、
「うん!!僕も、ありがとう!!」
負けないくらいの嬉しそうな笑顔になる、秋山だった。

その後、相良と木村は、それぞれの恋人から秋山に買ってもらったと言う
“恋人とお揃いのストラップ”の片方をもらって、また秋山への好感度が上がったのだった。



【おまけ】

相良「準!!お前のお兄さんって確かこういうドレス作れるよな!?」
門屋「だからデータ消せっつっただろうがクソ相良ぁぁッ!!
    お前の前だけでは着ないからなぁぁッ!?」
相良「で、でも諦めきれなくて!」
門屋「あーもう!ボケ!今からクソ兄に電話するけど!アイツが無理って言ったら諦めろよ!?」
相良「うん!!」

(スピーカーホンで電話中)

門屋「おいクソ天パ!!お前ドレスとか作れないよな!?な!?
   ぬいぐるみ専門だろ!?そうって言えや!」
門屋兄『え!?う〜〜ん……ドレスは無理だなぁ〜〜ごめんねぇ〜〜準君??』
門屋「ほ、ほらもう諦め……」
門屋兄『あ!でもぉ、お友達にそういうの得意な子がいて〜〜、良かったら作ってもら――』
相良「お兄様ぁぁぁぁああっ!!」
門屋「うわぁああああ!!何ベストを尽くしてんだやめろぉぉおおお!!」



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【作品番号 BSS41】

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