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秘密のヒーロー同盟
カップリングアンケート、能瀬・秋山1位記念作品!!



町で噂の大富豪、廟堂院家。
そこで働く執事の一人、秋山貢(あきやま みつぐ)は、屋敷の廊下を全力疾走していた。

(そんな!能瀬さんが執事を辞めるなんて……!!)

秋山にとって大ショックな情報の出所は、彼の所属する“CAD”のリーダー、
門屋からのもので、極めて信憑性は高かった。
それでも秋山は信じられず、本人の口から真偽を確かめたくて、懸命に憧れの先輩執事、能瀬を探す。

(貴方がいなくなったら……“ヒーロー同盟”はどうなっちゃうんですか……!!)

走りながら、秋山は思い出す。
彼にとって忘れられない思い出を……

…………

その日、秋山はいつものように執事服で頭だけ段ボールを被り変身して、
“アキヤマン”として事件を解決した帰りで、屋敷の廊下を歩いていた。
(ふ――っ……今日もまた一つ事件が解決できたぞ。あ―良かった)
気が抜けたのと、無事にロンリー男子の心の平和を守れた安堵からか、
少しぼーっと歩いていた秋山は、うっかり人とぶつかってすっ転んでしまう。
「ぎゃっ!!?痛たた……ごめんなさい!!」
「っ、こっちこそごめん……あれ?秋山君?」
「!!」
名前を呼ばれて、秋山は驚いて反射的に顔を触る。
転んだはずみで段ボールの被り物“アキヤマンマスク”が脱げてしまったらしい。
慌ててアキヤマンマスクをかぶり直して取り繕う……
「い、いやいや!俺っ……僕っ、吾輩は!正義の味方アキヤマン!!」
「…………」
「……すみません。秋山です」
が、能瀬のきょとんとした表情&無言の空気に耐えられず、あっさり自白した。
普段CADや面白い物好きの同期&先輩後輩にはウケているこの格好も、
秋山が密かに憧れている能瀬の前では恥ずかしくなってしまい、段ボールの中の顔を赤くして捲し立てる。
「バッ……馬鹿みたいですよね!!いい年してヒーローごっこなんて!!
僕あの!地味だし、すぐいじられるし!顔も仕事の出来も中の下って感じで!
少しでも執事部隊の皆の役に立ちたかったって言うか!
目立たなくても、下らなくても!誰かの、ヒーローに、なりたかったって言うか!!」
「……素敵だと思うよ」
「えっ……」
てっきり、呆れられるかと思ったのに、思わぬ反応が返ってきて秋山は呆然とする。
目の前の能瀬は優しく微笑んでいた。
「私はヒーローって、必要だと思うから。
この世界には誰かの助けが無いと、どうしようもなく生きていけない奴もいるからね……」
そう言って、少し悲しそうに目を逸らした能瀬は、また笑顔になって言う。
「私もなりたいと思ってるよ。
そんな、どうしようもない奴の手を引いて立ち上がらせて、また前を向いて歩かせてやれるような、カッコいいヒーローに。
私が前を歩いたら、そいつも頑張って後ろをついて来られる……希望や、勇気を与えられるようなヒーローになりたい」
「能瀬……さん……(能瀬さんには……誰か、守りたい人が……)」
完璧超人で、優しいけれどどこか近寄り辛い感じもしていた能瀬から、思わぬ共感を得られた秋山は、
段ボールの中で嬉し涙を流しながら、勢いよく能瀬の手を両手で握る。
「アキヤマン感動しました!!師匠と呼ばせてください!!」
「えぇっ!?あはは、師匠だなんて大げさな。私も秋山君も、志は同じだから。対等だよ。
……それと……」
能瀬が、秋山の被っている段ボールをそっと外した。
至近距離とクリアになった視界で、綺麗で優しい笑顔がハッキリと見える。
「秋山君の顔、もっと自信を持っていいと思うな。隠しちゃうのはもったいないよ?」
その一言で。
秋山は男ながらに赤面してドキドキしてしまって……何よりすごく嬉しかったのを良く覚えている。

…………

(あの時から……!あの時から僕は、貴方にますます憧れてて!!
心の中ではずっと貴方と、僕だけの秘密の“ヒーロー同盟”だったんです!!)
思い出すと、余計に想いは強くなる。
胸の高まった秋山は、とある部屋の近くで能瀬を見つけた。

「能瀬さん!!」
やっと見つけた能瀬に、秋山が叫ぶ。
能瀬はいつも通り落ち着いた様子だったが、表情はいつもより冷たく感じた。
「何か用?」
「あ、あの……」
走ってきたばかりで息が整わないのと、能瀬の態度がいつもよりそっけなく感じて、秋山は言葉に詰まる。
それでも、真剣に聞きたかった事を聞いてみる。
「執事辞めるって、本当ですか!!?」
「……執事は辞めないよ」
「えっ!それじゃあ!」
「この廟堂院家の執事は辞めるけど。話が広まってるんだね」
「えっ……」
一瞬ぬか喜びしてしまった秋山。
“能瀬が辞める”と言うのが真実だと知って、慌てて能瀬に詰め寄った。
「な、何で!?どうしてですか!?」
「方向性の違いって言うのかな……。この屋敷の連中にはウンザリして。
私はもうこの屋敷にはいられないよ」
「そんな!あんなに皆と仲良かったじゃないですか!
先輩も、同期も、後輩も、皆、能瀬さんの事大好きで……!
それにこの廟堂院家は、何て言うか、執事としてお仕えするなら最高ランクですよ!?
能瀬さん優秀だし、他へ行くなんてもったいないですよ!!
僕本当は!上倉さんより能瀬さんの方が執事長に合ってたと思ってるくらいです!!」
「……うるさいな」
聞いた事も無い冷たい声で、見た事も無い冷たい顔で、
能瀬に睨みつけられた秋山は信じられない気持ちだった。
しかし、目の前で話しているのは紛れも無く能瀬だったのだ。
「どいつもこいつも、同じようなセリフで引き留められるのは飽きたんだ。
イライラするからあっちへ行ってくれる?」
「の、能瀬さん……??ど、どうしたんですか??何か、いつもと……変、ですよ……!!」
「私の方が執事長に合ってたと思うんならさ、皆の署名でも集めて旦那様に訴えてくれたら良かったんだよ。
そしたら、こんな事には……あんな思いせずに済んだのに……!!」
「能瀬さん?何かあったんですか……!?」
「……ところでさ秋山君。
君、こんなところで何してるの?仕事サボってるの?さっさと戻りなよ」
いつもと様子が違う能瀬に怯みながらも、秋山は懸命に叫ぶ。
「僕は能瀬さんが執事辞めちゃうって聞いたから、本当かどうか確かめたくて!
本当なら、引き留めたくて!!能瀬さん、僕で良ければ何があったか聞きます!!
相談、乗ります!頼りないかもしれないけど!だから、廟堂院家を辞めないで下さい!!」
「もう決めた事だから。秋山君に何を話しても、もう無駄なんだ。
話はこれでいいかな?早く戻って」
「ま、待ってください!!能瀬さん、僕は能瀬さんの事……」
「秋山君」
ぐんと近づかれた。襟を掴まれた。
思い出のあの時、至近距離で感じたドキドキは全くない。
目の前で冷たく怒りを露わにする能瀬に、秋山は恐怖しか感じなかった。
「戻りなさいって、言ってるよね?
仕事をサボる子はお仕置きしなくちゃいけないんだけど」
「も、戻って……後で、お話聞いてもらえますか?」
「引き留める話なら聞かないよ」
「だったら戻りません!!」
「あぁそう。なら仕方ないよね」
秋山が「あ、マズイ……」と感じた時には遅かった。
抵抗する間もなく、お辞儀するようにお尻を突き出さされてしまう。
腰を抱えられて、そして思い切り平手で叩かれた。
バシィッ!!
「いっ……!!」
「いけない。ご挨拶の前に叩いちゃったね。ごめんごめん」
全く心の籠っていない風に謝られ、痛みに身じろぎながらも秋山は諦めず能瀬に話しかける。
「能瀬さ……き、聞いてください!!」
「ご挨拶は?」
「能瀬さん!!辞めるなんて言わないでください!何があったんですか!?」
「できない、か。厳しくしないと。長くなると面倒だし、脱がせるね?」
秋山がどんなに話をしたがっても全く取り合わない能瀬が、躊躇なく秋山のズボンや下着をずり下ろした。
秋山もさすがに焦ってもがく。
「やっ、待ってください!能瀬さん!能瀬さん話を聞いてください!!」
「しつこいなぁ、そんなに泣きたい?」
バシッ!!ビシッ!バシンッ!!
「うぁあっ!!」
裸にされたお尻に容赦なく平手を叩きつけられて、秋山は大きく悲鳴を上げた。
それでも、痛みに耐えながら能瀬に話しかける。
「うくぅっ、あぁっ!!能瀬さん!!僕、は……能瀬さん、いなくなったら嫌です!!
貴方は僕の憧れだったんです!!」
「ありがとう。でも、悪い子は嫌いだよ」
ビシッ!ビシィッ!バシィッ!
「ひっ、それは、嫌われたくないけど、でもぉっ!!
能瀬さんが!ヒーローになりたいって言ってくれた時!僕に共感してくれた時!!
とっても嬉しかったんです!
ヒーローになりたい自分に、自分がやってる事に、前より自信が持てたんです!!」
「!!」
秋山の言葉で、能瀬の脳裏にも秋山に共感した記憶がよみがえる。
それでも、それを振り払うように秋山のお尻を打ち続けた。
ビシッ!バシッ!バシッ!!
能瀬にすれば、叩き続けていれば、秋山も痛みに耐えきれずに諦めて去っていくだろうと思った。
しかし、いくら叩いても、お尻が赤くなっても、秋山は自分の名を呼び、
“話がしたい”と、必死に声をかけてくる。
「う、あ!能瀬さん!!話を……ひ、うぅっ!!
あぁっ、貴方も、ヒーローになりたいんでしょう!?
いいえ!僕にとってはヒーローなんです!きっと僕だけじゃない!
他の皆だって!!これからも能瀬さんに付いて行きたいって思ってます!!」
「……っ」
あまりの必死さに心が揺れそうになって、能瀬は思い切り平手を振り下ろす。
バシィッ!!
「いっ……!!み、皆!能瀬さんに勇気や希望をもらってます!!
これからも、この廟堂院家を一緒に守りましょうよぉ!!
僕らヒーロー同盟じゃないですかぁ!!」
秋山がそう叫んだ瞬間、挫けない秋山……と、いうより唐突な単語に、能瀬は無意識に手を止める。
「……ヒーロー同盟??」
「えっ!あっ!!こっ、こっちの話です!!
すすすすみません!!僕の心の同盟って言うか!僕が勝手に……!!気にしないで下さい!!」
「ヒーロー同盟ね……」
能瀬は脱力して息を吐いて、秋山の体を解放した。
いきなり解放されて驚きつつも慌ててズボンや下着を引き上げる秋山に、悲しげな笑顔で言う。
「それ、悪いけど脱退させてくれる?私にはそんな資格無いから」
「えっ!?そんな!そんなこと無いです!!能瀬さんは……」
「……この廟堂院家を、最後まで守れなかったから……」
能瀬が視線を外してぽつりと言う。
その後、また秋山に視線を戻して真剣な表情になる。
「秋山君……私は自分が間違ってるなんて、思ってない。
けど、やっぱりヒーローなんかじゃない。
ねぇ。秋山君がヒーローだって言うなら、私がここからいなくなった後、
私の代わりに廟堂院家を見守って欲しい。
どうしようもなく狂ってる屋敷だけど、やっぱり……
誰にも、焼け落ちて欲しくない。みんな一緒に、生まれ変わってほしい」
能瀬の言葉に、秋山が青ざめながら返す。
「まさか……屋敷に……ひ、火でも、放つんですか……?」
「物の例えだよ。そして許されるなら、いつか戻って来たいなぁ」
独り言のようにそう言った能瀬の、笑っているような諦めたような表情を、秋山はじっと見つめる。
眉間にしわを寄せて考えつつ、秋山は口を開く。
「……能瀬さんの言ってる事……全部はよく分かりませんけど……」
言いかけたその表情が、何か閃いたかのようにパッと明るくなった。声も急に弾み出す。
「能瀬さんが何か重要な事、知ってるのは分かりました!
そうか!ここを出て行くのは、何か考えがあっての事なんですね!?
正義の秘密任務が!!重大な使命があるんですね!!?」
「……え?いや……」
否定しようとした能瀬の言葉はもはや届いておらず、秋山は瞳を輝かせながら捲し立てる。
「分かりました!このアキヤマンにお任せあれ!!
能瀬さんのいない間は!きちんと屋敷を見守ります!見回ります!パトロールします!!
いつか……いつか!!時が来たら、パワーアップして戻ってきてください!ずっとずっと待ってます!!」
「……まぁ、いいか。ふふっ、頼もしいし。じゃあ……“ヒーロー同盟”脱退宣言は撤回しようかな?」
「えっ……あ……!!」
「改めて、“ヒーロー同盟”としてよろしく。頼んだよ。アキヤマン」
能瀬が笑顔で片手を差し出すと、秋山が真っ赤になって照れくさそうに握手に応じた。
「は、はい!!夢、みたいです……!!能瀬さんも任務頑張ってください!!」
「ありがとう。……ところで秋山君」
「は、はい!」
「小二郎君と話が合うでしょ?」
「え!何で分かったんですか!?カラフルレンジャーの話題が超盛り上がるんですよ!!
アイツもめっちゃ詳しいからお互い止まんなくて!!」
「……個人的には、小二郎君は“ヒーロー同盟”には入れて欲しくないかな。
上倉君の怒りを買いそうだ」
「ぼっ、僕も……能瀬さんと二人きりの同盟がいいって言うか……」
「え??」
「いえ!何でもありません!!アキヤマン、執事の任務に戻りまぁす!!」
秋山は慌てて能瀬に背を向けて走り去ってしまった。
能瀬はその背を、寂しそうな笑顔で見送る。


後日、能瀬 麗は、廟堂院家の執事を退職し、屋敷から姿を消した。



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【作品番号 BSS40】

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