TOP小説番外編・執事系
戻る 進む


若四判と少年千賀流の話2



町で噂の大富豪、廟堂院家……が、今より昔の話。
廟堂院家の息子が二人ではなく一人だった頃の話だ。

「…………」
屋敷のリビングで、当時の廟堂院家の一人息子である少年、千賀流(ちかる)が、
神妙な顔で一枚の紙を覗き込んでいる。しばらくじっと見つめてため息をついた。
(こんな事したって何の意味があるんだろう……?でも、せっかく作ってもらったし……)
実は学校の友達と、“背が伸びない”という話になった時、“それはストレスが原因ではなかろうか”という事になって
“千賀流はいい子過ぎる”、“もっとワガママを言った方がいい”、
“今ちょうど執事に無理難題を吹っかけて遊ぶゲームが流行ってる”
と盛り上がって、『無理難題ワガママリスト(執事用)』を作ってくれたのだ。
千賀流が少し困りつつ“少なくお願い”と言うと、5項目作ってくれた。
そのリストを実行しようかどうか悩んでいたのだった。
(こんな事して皆に嫌われなきゃいいけど……というか、四判に叱られそう)
今は執事長を務める世話係の四判の事を思い浮かべる。
普段はとても優しいし、仲良くやってきたけれど
執事の長なのだから、当然仲間を困らせるような事をすれば怒るだろうと。
しかし……
(世話係に叱られるのが怖いだなんて、僕ももう小さな子供じゃないんだし……
一つくらいは実行して、皆の反応を見てみれば……)
そんな風にも思う。
世話係にくっついて一日“執事ごっこ”をしてはしゃいでいた頃からはいくらか成長したのだ。
その時――
「千賀流様?」
「あっ!!」
「どうかなさいましたか?」
当の四判がいつの間にかやってきていたので、千賀流は慌てて紙を後ろ手に隠す。
そして、四判からは目を逸らしながら言う。
「な、何でも無い……」
「ですが、今後ろに……」
「何でも無いってば!!」
必死で誤魔化そうと、声を荒げて立ち上がる。
「四判!僕だって、もう小さな子供じゃないんだから!
プライバシーだってあるんだからね!何でもかんでも詮索しないで!」
「も、申し訳ございません……」
悲しそうな顔をして謝る四判が可哀想になって、千賀流も慌てて謝った。
「い、いや……ごめん、僕もキツイ言い方をして……本当に、何でも無いから」
そしてそのまま慌てて部屋を出る。
四判の方は、困ったように笑いながら、
(難しい年頃になられたのだなぁ……)とほっこりしていた。


部屋を出た千賀流はまだ『リスト』の事と格闘している。
(もしかして……今、四判に試せばよかったのかな?
いやいや、こんなワケの分からない事をやらせて黙ってる彼じゃない……。
……ごめん、皆……僕は、弱虫だね)
そうして千賀流はなるべく優しそうな、若い執事に声をかけてみる。
「ねぇ、君」
「!!はい!何でしょう!?」
若い執事は心なしか嬉しそうで……千賀流は心の中で(ごめんね)と繰り返し念じて、
しかし笑顔で『リスト』を実行する。
「僕ね、四葉のクローバーが欲しいなぁ……お庭で探してきてくれない?」
「お安いご用です!!」
「ありがとう!部屋で待ってるからね!5分以内で」
「え?」
「五分以内ね?」
「わ、分かりました!!」
千賀流が罪悪感に負けずに頑張って作る愛らしい笑顔が、怖いくらい絵になっていた。
若い執事は動揺しながらも、張り切って出かけて数分後……

「ち、ち、千賀流様ぁ!!見つけてきましたぁ!!」
「わぁ素敵!本当にあったんだ!ありがとう!」
息を切らせる若い執事から、優雅に座っている千賀流は小さな四葉のクローバーを受け取る。
お礼を言った後、わざとらしく困り顔で……
「でも、5分過ぎちゃったね?」
「あっ!」
「それに、一つだけ?」
「えっ!?」
(そうだよね分からないよね!僕は数なん言ってないんだから!)
ちなみに五分過ぎたかどうかはあまり見ていない。全部ハッタリに近かった。
焦っている執事に申し訳なく思いながらも、千賀流の表情使いは完璧で。
しゅんとした顔で言う。
「僕、最低10個ぐらいは欲しかったなぁ……」
「も、申し訳ありません!!今すぐもっと探して……」
「ダメだよ。やり直しなんてさせない。気が利かない子は〜……お仕置き」
「へっ!?」
「はい、腰落として!」
若い執事は、完全に狼狽して何か言いたげに口をパクパクさせているが、言うとおりにその場に跪く。
「目、閉じててね」
千賀流はそう言うと、指で執事のおでこをピッと弾く。
いわゆる“でこピン”をした。
「えいっ!」
ぺしっ!
「ひっ!?」
「はい、お仕置き終わり。もう行っていいよ」
「あ、あ、はい……申し訳ありませんでした……」
半ば呆然としながら、若い執事は出ていた。
それを笑顔で手を振って完全に見送って……ガックリと椅子にもたれかかった。
「はぁぁ……彼が明日辞表を提出したら完全に僕のせいだよね……!!
うぅ、心の傷になってなきゃいいけど……後でクローバー持って謝りにいこう……。
ええと、次は……」
無意識に、そう言って千賀流は自分でハッとした。
(次?僕、まだこんな事続けるの??)
そう、自分でも気づいた。一つは実行したんだからもうやめてもいいはずだ。
千賀流はドキドキしながら『リスト』を見る。
さっきの“クローバー探させ”に匹敵する、あるいはそれより酷い項目がある。
友達が悪ふざけで作ったものだ。冗談のような過激な内容もあった。
(これと、これは除外で……じゃなくて!!もうやめなきゃ……!!)
「やめなければ」と思うたびに湧き上がる「続けてみたい」。
一つやったなら、全部やってみたい。全部クリアしたい。
千賀流の心に、妙なコンプリート魂が芽生えてしまった。
(……あ、あと軽いの一つくらいなら……)
結局、誘惑には勝てなかった。
千賀流の次なる標的はまたしても、優しそうな若い執事だ。
ちょうどおやつを運んできてくれた時に捕まえた。
千賀流はニコニコ笑顔で言う。
「ねぇ君、ゲームしない?」
「!!はい!喜んで!」
「今から、僕が“いいよ”って言うまで黙っててね。今からね?はい、スタート」
「…………!!」
若い執事は頑張って口を引き結んでいる。
「ねぇねぇ」
千賀流が話しかけてももちろん答えない。ルールだから。
そこでまたしてもしゅんとした表情で……
「僕の事、無視するんだぁ……(そうだよね!ルールだもんね!)」
「!!あっ、申し訳……」
「はい!君の負け!」
「わっ……!あ、あはは負けちゃいました〜!!」
むちゃくちゃなゲームで勝っておいて……照れながら笑っている初々しい執事に……
むぅっとふくれっ面を作って
「笑い事じゃないよぉ……君がすぐ負けちゃうから、めちゃくちゃつまらなかった!」
「あ、も、申し訳ありません!!」
「つまんなかったから、お仕置き、ね」
「へ?」
例によってお仕置きのでこピン二回目。
そして仕事に帰す。
彼もまた、ワケの分からない様子で呆然と去って行った。
千賀流はその背中を祈るように見つめた。
(ああああ……!ごめんね!明日もちゃんとお勤めに来てね!!)

そして……
罪悪感と共に千賀流のリスト攻略は続く。
「ねぇ君」
ターゲットはやっぱり優しそうな若い執事で。
千賀流に話しかけられると嬉しそうで。
「あのね、君ってトランプでピラミッド作れる?見てみたいなぁ……」
可愛らしい笑顔の可愛らしいお願いを拒む者はいない。
「やったぁ!おっきいの作ってね!もし失敗したら……」
裏で小さな悪魔が笑っているとも知らずに。
「お仕置きね?」
トランプピラミッドを作った彼もまた、普段なら成功したのかもしれないが……
“お仕置き”の一言で緊張してしまったのか、トランプはバラバラと無残に散らばっていく。
「あーあ、失敗しちゃった」
千賀流はしゅんとして……
執事の方はお仕置きのでこピン。通算三回目。
そして仕事に帰す。
若い執事はフラフラと夢見心地で帰って行った。
千賀流の方は相変わらず一生懸命念じる。
(皆、怒らないなぁ、優しいなぁ……ごめんね!本当にごめんなさい!!
明日、この屋敷の執事の人数が減りませんように!!)


そして……さすがにこのあたりで若い執事達の様子がおかしくなる。
「ああ、僕は執事に向いてないのかもしれない……!!」
「もうダメだ!千賀流様に対してドキドキしてしまったぁ!この屋敷を辞めるしかぁぁっ!!」
「何だかよく分からないけど良くない事をしてしまったような!どうしよう!!」
取り乱す後輩達に、四判は心配そうに尋ねる、
「皆さん、どうしたのですか?」
「「「四判さん!!僕たち千賀流様に!!」」」
「????」
涙目の後輩に事情を聴いて……
四判は大急ぎで千賀流の元へ向かった。

一方、千賀流の部屋では――

千賀流はふわふわソファーに座って
涙目をうるうるさせながら、真っ赤な顔で若い執事に言う。
「そんな本……僕、頼んでない……」
「へっ!?で、ですが……」
「そ、そんな……イケナイ本を僕に押し付けるの……?」
千賀流が、涙目の上目づかいで、震える声でそう言うと……
「!!!!」
若い執事も真っ赤な顔で涙目になって……
「あ、あ……も、申し訳……うわぁあああああっ!!僕は千賀流様に何て事をぉぉぉぉっ!!」
泣きながら走り去っていった。
最初は除外を考えていた『エロ本を買いに行かせるだけ買いに行かせてしらばっくれる』という
鬼畜項目をやりとげてしまった後、さすがに千賀流も罪悪感に勝てなくなってきた。
(いっ、今のは流石にいけなかったんじゃ……!!
完全に彼の心にトラウマを刻み付けちゃったよ!!お、追いかけなきゃ!!)
「千賀流様?」
「う、ぁ!?」
エロ本の彼を追いかけに立ち上がる前に、四判に呼びとめられて千賀流は頭が真っ白になる。
「よ、四判……!!」
「聞けば、なにやら私の後輩達相手に、楽しい遊びをしているご様子。
どうして私もまぜていただけないのですか?」
「えっ……あっ……」
まともに受け答えができない中で、笑顔の四判はスッと千賀流の傍に置いてあった『リスト』を取り上げてしまう。
「ふむ……なるほどなるほど……この紙の通りに……何か残っているご命令はありませんか?」
「か、返して……!!」
「どうぞ。さぁ、どうか私にもご命令を。
貴方の世話係として、このゲームの仲間外れにされるわけにはいきませんぞ!」
「……、……!!」
四判があっさりと返してくれた『リスト』をぎゅっと握って、千賀流は顔を真っ赤にする。
残る項目は一つしかない。
一番強烈だったから、一番記憶に残っている。一番避けてきた。
けれど、千賀流の心にはこんな黒い興味もあった。

――自分が命令すれば、四判はどこまでやってくれるのだろう?

それに、これを果たせば『リスト』はフルコンプリートだ。
千賀流は、怖々と口を開く。
「ぼ、僕の……」
震える声で言い切った。
「僕の、足を舐めて……」

「かしこまりました」
「!!?」
四判は涼しい顔で千賀流の足元に跪く。
躊躇なく千賀流の片足を持ち上げて……
その瞬間、ものすごい罪悪感と恐怖が千賀流の体を駆けあがる。
「嫌だ!!四判!!やめて!!」
悲鳴を上げるように叫んだ。
本能が全身に“させてはいけない”とストップをかける。
足を引っ込めようとしても、捧げ持つようにしっかりと掴まれていて、
さらに靴下を脱がされそうになった時には、千賀流は腕で目を覆って泣き出した。
「やだぁぁっ!!四判!!ダメ!ご、ごめんなさい!ごめんなさい……!
お願い、っ、やめてぇ……!!」
「…………」
「ごめんなさっ……ひっく、もう、しないから!!やめて……お願いっ……!!
ごめっ、んなさい……!!」
四判が手を止めても、千賀流は怖いものを見ないようにするかのように、
ガッチリと腕で目を覆って泣きながら謝り続ける。震えてさえいた。
そんな千賀流の姿に、四判はため息をついてそっと足を降ろす。
「千賀流様……」
「うっ……うっ……」
「今日は若い執事を捕まえて、ワガママばかり仰っていたそうですね。
もしかして、また不安になってお仕置きされたくなったのですか?」
千賀流は嗚咽を漏らしながら首を横に振る。
「ち、違っ……お仕置きされたかったんじゃない……!!
で、でも……皆、を、わざと、ひっく、困らせたからっ……!!
お仕置き、されても……仕方、ない……!」
「そういうことですな」
「ごめんなさい……!!」
四判は千賀流の頭を撫でて、抱き上げた。
もちろんお仕置きするためにベッド方面に移動したのであって、
驚いた千賀流に「降ろして!」と叫ばれたので、ベッドに腰掛けて膝の上に下ろした。
「そうじゃなくて……!!」と焦っている千賀流を微笑ましく思いながら、ズボンや下着を下ろしてしまった。
千賀流は四判の膝の上に横たわりながら、真っ赤になって顔を両手で覆う。
「どうしよう……!僕もう、子供じゃないのに……!!」
「そう言えば、千賀流様がもっとお小さい頃にもこうしてお尻を叩いた事がありましたなぁ。
あの時は、わざとやったイタズラでもなくて、お仕置きするのも心が痛みましたが今日は……」
バシッ!!
「あっ!!」
「本当に悪い子だったようなので、心置きなくお仕置きできそうです」
さっそく一発目を振り下ろしたら、千賀流が不安げに尋ねてくる。
「四判……やっぱり怒ってる……?」
「それはもう」
ビシッ!バシッ!!
「ひ、ぅ……!!」
四判が脅しの意味もこめてのんびりとそう言うと、
千賀流がぐっとシーツを握ったので、少し可哀想に思ったけれど、
今日の事は本当に叱らなければならないから、と、声をかけつつお尻を叩き続けた。
「聞いていますよ。若い子達にずいぶん“お仕置き”してくださったそうで。今度は貴方の番ですね」
バシッ!バシィッ!ビシッ!
「っ、あ!あれは……何て、いうか、言って……みたかったんだ……!!」
語尾は恥ずかしそうにしぼんだ千賀流が微笑ましくて吹き出しそうになった四判。
咳払いで誤魔化した。
「ゴホン、でも、今日はどうしてまた急にワガママを?」
「お、怒らないでね……!」
「納得できる理由であれば」
「四判……!!」
甘えたような縋るような声に、四判は揺らぎそうになるが心を鬼にして言う。
「言ったでしょう?四判は貴方を甘やかしているわけじゃないんです。
悪い子だったらきちんと叱るし、厳しくお仕置きします!」
バシッ!!ビシッ!バシィッ!!
「あぁっ!ごめんなさい!僕ぅ……!!」
――心を鬼にしたものの、千賀流の声が泣きそうになると、それだけで胸が痛かった。
(うぅ、やはり千賀流様が悪いとしても、彼を泣かせるのは辛い……と、いう事か……!!
世話係としてはなんたる未熟!!)
そう、四判が苦悩している間、呼吸を乱しながらも千賀流は一生懸命話していた。
「背が伸びないから……と、友達が……“もっと執事にワガママ”言った方がいいって……!
執事に、ワガママ言う遊びが、流行ってるって!!リスト、作ってくれて……!!」
「???」
少しワケの分からない部分もあるが、四判が軽く今の言葉を整理してみた感じでは……
「つまり……流行ってるから遊び半分で執事にワガママを言った……と?」
「ご、ごめんなさい!!」
「いけません!!」
バシィッ!!
「うわぁあああん!ごめんなさぁぁい!!」
強く叩くと千賀流は泣き出した。
けれど……四判も困ったけれどこの理由で強く叱らないわけにはいかなかった。
「なんて恐ろしい遊びが流行ってるんですか!!執事はオモチャじゃないんですよ!?」
口調を強めると同時に、ほんのり赤くなっていたお尻を叩く手も自然と強くなる。
ビシィッ!バシィッ!ビシッ!!
「やっ、ごめんなさい!痛い!ごめんなさいぃぃ!!」
「びっっっくりしました!!本当に悪い子じゃないですか今日は!!」
「うわぁあああん!ごめんなさぁぁい!!もうしません!!」
「当たり前です!!皆、千賀流様をお慕いしてるので無理を言われても
“自分が不出来だった”とショックを受けていたんですよ!?」
「あぁあああん!ごめんなさい!ごめんなさい!!ダメだって、思ったけど、止められなくってぇぇっ!!」
「だったら、本当にいけない事だって、きちんと理解できるようにもっとお仕置きしましょうね!」
「やだぁあああっ!ごめんなさい!痛いよぉぉっ!」
わぁわぁ泣いている千賀流のお尻は、赤くなっていたけれど
足も暴れていたけれど……四判は押さえつけて手を止めなかった。
バシッ!ビシィッ!バシィッ!!
「うっ、あぁあああん!も、もう許してぇぇっ!!皆に謝るからぁぁっ!!」
「さっきから何を当たり前の事ばっかり言って許してもらおうとしてるんですか!ちゃんと反省してるんですか!?」
「し、してますぅぅ!!うわぁああああん!ごめんなさぁぁい!四判もうやめてぇぇッ!!
痛い!痛いぃぃ!これからは、皆にワガママ言わないでいい子にするからぁぁっ!!」
「……っ……!!」
必死で泣きながら謝っている千賀流をじっと見て、もう許そうか否か考える四判。
厳しくしないといけないけれども、心が痛むのも事実なのだ。
バシンッ!バシィッ!ビシッ!!
「んっ、うわぁああああん!あぁぁあああん!!」
(これだけ、叩けば……元々、お優しくて聞き分けのいい方だし……!!)
半ば、自分を納得させるような形で手を止めた四判。
千賀流を助け起こして、けれども真剣な顔でもう一度言い聞かせた。
「いいですか、もうこれに懲りて、執事にワガママ言って遊んではいけませんよ?」
「は、はい!ごめんなさぁぁい……!」
そう言いながらもぐすぐすと泣いて、でも千賀流は涙を拭おうともせずに、四判の服を掴む。
そして遠慮しているような、懇願するような必死な様子でこう言った。
「四判……!四判、まだ怒ってるの?痛いんだ……!!お願い、ぎゅってして……!!」
「〜〜〜〜っ、全く……!!」
そう言って思いっきり千賀流を抱きしめた四判。
胸の中で改めて大泣きしだした千賀流につられて泣きそうになったのを必死でこらえていた。


そして、落ち着いた千賀流に「君って案外怒ると怖いんだね」と言われたり、
千賀流が若い執事達に謝って、今度は仲よくクローバー集めや言葉遊びや、トランプピラミッドを
作って遊んでいるのを見て和む四判だった。



それから多くの年月が流れ……千賀流は廟堂院家の一人息子から当主になった。
執事長は四判から次の上倉という青年へと代替わりしたが、四判はまだまだ “長老”として執事達に慕われていた。

そんな現代の廟堂院家での出来事。

千賀流と四判の所に若い執事達2人がやってきてお喋りが始まる。

「旦那様旦那様!何か四判さんができない事を命令してください!」
「四判が出来ない事?」
「だって四判さんって何でもできるんです!
四葉のクローバー探し競争したら、すごい速さで10個ぐらい見つけるし!
トランプでピラミッドを作ってもらったらすごい大きいの一発で作るし!
言葉遊びのゲームも絶対負けないんです!!
だから、旦那様なら何か出来ない事を知ってるんじゃないかって!」
「わ、わぁ……それはすごいね」
「これ!旦那様を困らせてはいけません!」
元気な執事達と四判のやり取りにクスクス笑いながらも千賀流は言う。
「でも、ごめんね。私はわざと四判や君達にできないような命令はしないんだ。
君達は私達のオモチャじゃないからね」
「「!!」」
その言葉に、元気な執事達は、目をキラキラさせて尊敬の眼差しで千賀流を見つめる。
「さ、さすが旦那様!!」
「カッコいい!!」
「ほれほれ、そろそろ仕事に戻りましょう?」
「「はぁい!!」」
元気な執事達が走って出て行くと、後に残った四判はふわりと千賀流の頭を撫でた。
千賀流は珍しく拗ねたような表情を四判に向ける。
「なぁに?」
「いやぁ、千賀流様はいい子だなぁと、思いまして」
「もう子供じゃないからね……」
千賀流は恥ずかしそうにため息をついて……
恥ずかしそうに四判に向けて笑った。
「でも、たまにこっそり撫でてくれても構わないよ?」
「仰せのままに」

そう言って、互いに微笑みあう主人と執事には、かつての面影が残っていた。




気に入ったら押してやってください
【作品番号 BSS38】

戻る 進む

TOP小説番外編・執事系