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相良の里帰り(門屋付き)



ここは、町で噂の大富豪、廟堂院家。
その廟堂院家で暮らす執事達が暮らす執事寮。
平執事の門屋準の部屋だ。
いつものように恋人の相良直文が遊びに来ていた。
しかしいつもと違って、ふと、相良がこんな事を切り出す。
「準……今度の里帰り、一緒に俺の実家に遊びに来てくれないか?」
「お!良いぜ行く行く!そういや行ったこと無かったな!」
「両親に紹介したいんだお前の事。恋人として」
「!!」
軽いノリで返事をした門屋に対して、相良は真剣な表情。
門屋は一瞬で真っ赤になる。
「お、お前……それって……」
「いつか執事寮を出てさ、小さい家でいいから、廟堂院家の近くで一緒に暮らそう」
相良がそっと門屋の手に手を重ねて優しい声で言う。
「指輪も買うから。結婚式するなら海外かなぁ……CADの皆とか、執事部隊の皆も呼んでさ、
その時こそ、思いっきりお前と愛し合ってる事、皆に自慢するんだ」
「ばっ、バカやろっ……」
「嫌?」
「い、いいに決まってんだろ!!」
感極まったらしい門屋が、涙目で相良にギュッと抱き付く。
それを抱きしめ返して、相良は嬉しくて堪らなかった。
「いつか、準の実家にも遊びに行かせてくれよ。俺の事、お前の両親に紹介してくれたら嬉しい」
「えっ!?」
「“友達として”、でいいから」
相良の言葉に、門屋は力強く首を振る。
「ううん!!お前は俺の事、“恋人”って紹介してくれるんだ!俺もお前の事“恋人”って紹介する!
大丈夫!俺はあの家で最強だからな!皆俺には逆らえないから!!」
「頼もしいな」
門屋の頭を撫でて、相良は言う。
「じゃあ、今度の里帰りはよろしく頼むよ」
こうして、相良の里帰り(門屋付き)が決まって、相良はたいそう満ち足りてウキウキしていた。
この時は。


――そして里帰り当日。
私服の二人はそろって相良の家にやってくる。
道中は、電車の車窓の景色を見て『うわー!こっち方面初めて来た――!』とはしゃいでいた門屋だが、
相良の家の前に来てもやっぱりはしゃいでいた。
「おお!一軒家だ!」
「準は元気だな(俺なら絶対緊張すると思うけど……)」
「早く入れてくれよ!」
「了解。待ってな」
相良が玄関チャイムを押す。すると……
『はい。どなたですか?』
聞こえてきたのは女の子の声だ。
「俺だよ。直文。開けてくれ」
『え?……何で急に帰ってきたの?』
「急にって……前に連絡しといただろ?」
何だか不機嫌そうな女の子の声と、相良の声は揉め気味になる。
『聞いてないわよ!!タイミングが悪すぎるわ!どれだけ使えない兄さんなのよ!
何のための両親不在だと思ってるの……!!
小春と思いっきりセックスするために決まってるでしょう!?』
『奈央ちゃん!!』
「外に聞こえるようなところでそういう事言うな!!とにかく開けろ!
俺一人じゃないんだよ!!恋人を連れてきたんだ!!」
『…………』
怒鳴るとインターホンが切れ、相良は疲れた笑顔で門屋に謝る。
「ご、ゴメン準……今のは妹の奈央(なお)。あと、妹が付き合ってる小春(こはる)ちゃん……も、いるみたいだな。
流石にこのまま締め出しはしないと思うけど……あんな奴だから、準にも何か失礼な事言ったらごめんな?」
「いや――……お前の妹って感じだな!」
「……どういう意味だよ」
門屋は気にしてない風に明るく笑って、相良はほっとするが複雑な心境に。
ほどなくして、玄関の扉が開く。
女子高生くらいの女の子が二人出てきた。
一人は堂々とした長い黒髪の少女……おそらくこちらが相良の妹の奈央で、
もう一人はおどおどした感じだが、ゆるくウェーブした肩までの髪がふんわりした雰囲気で、どちらも可愛らしい少女だった。
奈央は相良を睨みつけていたが、相良はため息をついて門屋を紹介した。
「奈央。こちら、俺が今付き合ってる門屋準さん。小春ちゃんも、よろしくね」
「門屋準です!相良とは仲良くやってまして、お、お付き合いもさせてもらってます!二人ともよろしく!」
門屋が少し照れながらも元気よく挨拶すると、さっきまで不機嫌そうだった奈央は別人のように笑顔を作って
優雅に頭を下げた。
「初めまして準さん。妹の奈央です。兄がいつもお世話になっています」
「!?」
豹変する妹に驚く相良だが、奈央は悠々と小春の事も紹介してみせた。
「こちらは、私のフィアンセの相模小春(さがみ こはる)です。私共々よろしくお願いします」
「ふぃ、ふいあんしぇ!?」
「あら、何か間違いがあるかしら?貴女も自己紹介なさい、小春」
奈央に“フィアンセ”扱いされて真っ赤になって慌てている小春は、その慌てっぷりのまま勢いよく頭を下げた。
「あのそのえっと……!!あ、あの!!あのっ、な、なおちゃんと!お付き合いさせていただいてます、
相模小春ですっ!!直文お兄さん、お久しぶりです!!準お兄さん、よ、よろしくお願いします!!」
「どうぞ中へ。小春と二人だと思って少し散らかしてしまいましたが、お茶をお入れします」
奈央は上品に微笑んで、小春の手を引いて家の中へ入っていく。
相良はポカンとするしかない。
「な、なんだアイツ……まぁ、準には礼儀正しくて良かったよ」
「なぁ!俺“準お兄さん”って呼ばれた!!」
「え?あ、あぁ……良かったな」
「何だよ!お前の妹さんめっちゃいい子じゃん!!いいなぁ俺も妹が欲しかったぁぁ!!
小春ちゃんもいい子だし、……お、女の子同士で付き合うって本当にあるんだな!!」
「はは……俺一人の時は“現職の執事がいるんだからお茶なんて入れてもらいましょ”って、
小春ちゃんを困らせながらふんぞり返ってるんだけどな。さ、入ろうぜ準」
末っ子の門屋は“準お兄さん”呼びが気に入ったらしく、目をキラキラさせて喜んでいた。
相良も、そんな門屋を微笑ましく思いながらも家の中へと案内した。



こうして、本当に奈央がテキパキと……小春がそれを一生懸命手伝って、
兄妹とその恋人達でお茶とお菓子を囲むことになる。
しかし、ここで相良、改めて最大の疑問に気づく。
「ところで、何で母さんも父さんもいないんだ?」
「――逃げたんじゃないの?」
「な、奈央ちゃん!」
「奈央」
相良と小春に一斉に咎められて、奈央は自嘲気味に笑う。
「冗談よ」
「???」
キョトンとする門屋に、相良が慌て気味に言う。
「準、俺ちょっと連絡するから。きっと日にちを勘違いしたとかそんなんだよ、もう……」
「おう!」
席を立った相良を見送って、門屋はキョロキョロしながらも、年下の可愛い女の子に囲まれて有頂天だった。
「いやーしっかし、こんな可愛い女子高生とお茶出来るなんてラッキーだぜ!
奈央ちゃんと小春ちゃんは同じ学校……だよな?同じクラス!?」
「ええ。同じクラスになったのは今年だけど、名前が近いから最初、席が近くて仲良くなったんです」
「奈央ちゃんは本当に何でもできて、学校でも有名人だったんですよ!
お姉様方からも、妹達からも人気があって……席が近くなっただけでも嬉しかったのに、
声をかけてくれた時は本当にビックリして、夢みたいでした!」
「あら、私はだいぶ前から貴女を狙ってたのよ小春?」
「ふぇっ!?本当?!」
「アッハハ!ラブラブだな〜〜」
そうやって、和やかに会話している3人。
両親との電話を終えた相良がこっそり様子をうかがってほっとしつつ、
「ゴメン準!やっぱり2人共日にちを勘違いしてたみたいで!今度埋め合わせするから!」
と、事情を話してテーブルへ合流する。
女子高生と会話が弾んで有頂天の門屋は
「いーっていーって!むしろ、こんな可愛い子がいる家にまた来れる口実が出来たぜ!」
と笑っていたし、それを聞いた奈央も小春もキャッキャと笑っていた。
相良はこの時思っていた。
“今日は奈央が珍しく愛想がいいし、何事もなく平和に過ごせそうだ”と。
と こ ろ が……
そこからしばらくすると状況に異変が起こっていた。
「でさー、そこで俺がそいつを助けてやったんだよ!」
「わぁぁ!準お兄さんって、お優しいんですね!」
「でもこの話には続きがあって」
「…………」
「…………」
「あっはは!準お兄さんのお話、面白いです!!」
「そうか?小春ちゃんがいい反応してくれるから、話しやすくってさー!そうそう、この前も」
「…………」
「…………」
絶好調トークの門屋と素直で聞き上手な小春が異様に二人で盛り上がってしまい、相良兄妹が蚊帳の外状態だった。
相良も奈央もお互い、恋人に目の前で別の人と仲良くされて微妙にイライラな気分である。
特に奈央の表情が目に見えて険しくなってきたので相良もイライラハラハラしていた。
そんな事には気づかない、恋人二人はさらに楽しげな会話を続けていて
「そういや、小春ちゃんって兄弟いないの?」
「あ……私は一人っ子なんです。だから、奈央ちゃんが羨ましくって……」
「じゃ、小春ちゃんは今日から俺の妹って事で!」
「えっ!?もう、準お兄さんったら……」
「遠慮すんなって!な?嫌だなんて言ったら準お兄さん泣いちゃうぜ〜〜?」
「ふふっ……分かりましたよ、準お兄さん」
バァンッ!!
突如、奈央がテーブルを叩いて立ち上がる。
そしてぎこちない笑顔で相良に言った。
「兄さん……ちょっと家の裏に隕石が落ちたっぽいから一緒に見に行かない?」
「ああ。そうだな行こう」
「「!!??」」
門屋と小春が壮大な会話にポカンとする中、相良兄妹が威圧的な笑顔で言う。
「「二人とも、少し待ってて」」
「「はい……」」
気圧されて、頷くしかない門屋と小春だった。


そうやって恋人から距離を置いた相良兄妹はさっそく本音爆発の兄妹喧嘩を勃発させていた。
「ねぇ!兄さんの恋人!小春にデレデレしちゃって!兄さん本当に付き合ってんでしょうね!?」
「小春ちゃんこそ、男は苦手だって聞いてたけど準にはずいぶん愛想がいいんだな?」
「そうよ!小春が男の人とあんなに楽しそうに話すところなんて見た事ない……!!
何なの!?何なのよ『準お兄さん♥』、だなんて語尾にハートマークつけちゃってあの子ったら……!!」
「準は可愛い女の子の前だとすぐ調子に乗るからアイツ……!!」
相手の恋人を責めたり自分の恋人を責めたりで言い分が安定しない相良兄妹。
最後は奈央がキッパリと言い放つ。
「とにかく!いくら兄さんが情けないとはいえ、恋人の手綱はしっかり握っといてもらわないと困るわ!!」
「ああ、分かったよ」
「私以外に色目を使う小春にもお尻100叩きでもしてお仕置きしてやらなくちゃ……!!」
「え!?おい、小春ちゃんだってわざとじゃないだろうし手荒な真似は……」
「兄さんは黙っててよ!!ふふっ……ちょうど二人きりになりたかったところよ!」
奈央は気合十分で去って行ってしまい、相良は追いかける。
「ま、待て!!奈央!!」
「付いてこないで!」
そうやって2人で戻ると奈央の姿を見た小春が戸惑いながら声をかける。
「な、奈央ちゃん!隕石どうだった!?」
「そんな事より小春、そろそろ私の部屋に行きましょう!貴女何の為にこの家にきたの!?」
「えっ……!?」
「私といちゃいちゃするためじゃなくて?!」
「あっ、えと……!!」
「早く!!」
奈央の言葉に顔を真っ赤にしていた小春は、強く手を取られてやや辛そうにした。
「!?い、痛いよ奈央ちゃん……!!」
「奈央やめろって!!」
相良もこうなってくると強めに止めるけれど、奈央がそれで怯むはずもなく
いつもの調子で不機嫌そうに睨まれて、悪態をつかれる。
「うるさいわね……黙っててって、付いてこないでって、言ってるでしょう?使えない上に頭まで悪かったかしら?」
「お前いい加減にしないと怒るぞ!?」
「勝手にすれば?」
「あー……、そうかじゃあ勝手にするよ!」
一瞬考えたものの、相良は奈央を勢いよく横抱きに抱き上げた。
驚いた奈央がすぐに悲鳴を上げる。
「きゃぁあああああっ!?何するのよ下ろしてよ!!」
「小春ちゃん、ちょっとコイツ借りるね。準も何回も待たせてごめん、すぐ戻るから」
「冗談じゃないわ!どこへ連れてく気!?下ろして!触らないでよ!!気持ち悪い!訴えるわよ!?」
「上等。最高裁まで付き合ってやるよ」
奈央が色々喚くけれど、相良は慣れた様子で受け流す。
それがますます奈央を喚かせる悪循環だった。
「ふざけないで!!もう、下ろしてってば!セクハラ野郎!死ね!!」
「っはははー、……気が変わった。
準、小春ちゃん、本、当〜〜に、申し訳ないんだけど、しばらくかかるかも!」
「なっ……!な、長生きしてね兄さん……!」
「はぁ」
結局は門屋や小春が口をはさむ余裕もなく、奈央は相良に運ばれて行ってしまった。


さて、場所を移して奈央の部屋に来てからの、奈央の態度はいつになく焦っていた。
何をされるか大体は分かっているのか、必死で相良を宥めようと(?)しているらしい。
「待って!気は確か!?小春がいるのよ!?
私に恥をかかせる気!?ひっ、酷い!酷いわ兄さん!!ひどい……!あんまりよ……!」
よよと泣き崩れてみたり……
「準さんだって待たせてるし、悪いじゃない!ねぇ、許してよ……!
小春をお仕置きしたりしないから!これからは、いい子にするから……!」
瞳を潤ませて真剣にしてみたり、忙しい。
相良の方は動じていない呆れ顔だった。
「何言ってももう無駄だから、早く終わらせたかったら早くこっちに来て大人しく反省しろよ」
「……こんなに媚びてやってんのに調子に乗るんじゃないわよ!!」
「早く来いって言ってるだろ!!」
――結局はいつもの感じに戻ってしまう相良兄妹。
奈央も抵抗はしたけれど、成人男性と女子高生の腕力差は覆せずのお仕置き体勢となってしまった。
けれど相良の動き全てが気に入らないようで、「私のベッドに座らないで!」から始まって、
スカート次いで下着を脱がせた時は発狂状態だったが、
相良はただただ表情をイラつかせただけで黙って耐えていた。
反対に奈央は下半身裸でも諦めきれないのか、相良の膝の上でジタバタしていた。
もちろん兄に対する罵詈雑言は忘れない。
「やっ、いやぁぁっ!変態!お父さんとお母さんに言ってやるからぁぁぁっ!!」
「勝手に言えよ!」
怒鳴り返すついでに手を振り下ろす。
パァンッ!
「ひゃぁんっ!?ほ、ほんとにやったわね!?」
「やったよ!やりまくってやるから覚悟しろ!」
パンッ!パンッ!パンッ!
ここまで奈央に押され気味だった相良だけれど、お仕置きに関しては遠慮が無いらしく
ガンガン追加でお尻を叩いて、奈央の方が少し劣勢になってくる。
「いっ、痛い!やだ!やめて!やめてってば!」
「いう事聞かない上に、生意気ばっかり言うからこうなるんだろ!?」
バシッ!!
「きゃっ!?な、何よ妹相手に本気で怒ってるの……?器が小さ……痛い!!」
「時々こうやってお尻を叩いてやったら少しは大人しくなるんだよな!?前に叩かれたの、もう忘れたか?!」
「っ、な、何年も前の、事を!自慢げに、言って虚しくならないかしら?!」
「こいつ……」
パンッ!パンッ!パンッ!
「うぅ!わ、私は!こんな事、全然平気なんだから!!
こんな事して兄ぶってるなら思い上がりもいいとこだわ!」
叩かれて、悲鳴を上げながらも奈央が言う。
彼女も気だけは強かった。
「無駄、なんだから……!!さっきみたいに、んっ、泣いて、媚びたりしてやらないんだから!分かってるの!?」
パンッ!パンッ!パンッ!
「うっ、あぁんっ!!何とか言いなさいよ!!」
「……呆れて物も言えねーよ」
バシィ!!
「きゃあぁっ!痛い!」
一段と強く叩かれて奈央は跳ね上がる。
「奈央、別に俺に媚びて欲しい訳じゃない」
ビシッ!バシッ!
「ひゃ、ぁっ!!」
「確かに、生意気な態度はこの機会に直してほしいけど、今回も無理なら無理でいいし。
ただ……ワガママ女王様なお前がこうやってお尻叩かれるならともかく、何も悪くない小春ちゃんに
お前の気分で、こんな事したらダメだろ!?」
ビシィッ!バシッ!!
「うぁあああんっ!!」
厳しめに叩かれ続けて、奈央は軽く泣き出してしまった。
お尻も赤くなってしまっているけれど、相良は手を緩めない。
バシッ!バシィッ!ビシッ!
「俺も嫉妬深い方だからあんまり偉そうな事は言えないけど、今、叩かれて痛いんだろ!?
小春ちゃんに暴力を振るおうとした事だけは反省しろよ!?」
「うっ、あぁあっ!兄さんに!小春との事をとやかく言われる、筋合いはないわよぉぉッ!!
いやぁあああっ!離して!もういや!!痛いぃっ!!」
「……お前、変な根性だけはあるよな。要らない根性が。
反省したって言うなら離してやるよ!」
バシィッ!!
おそらくは本気で嫌がりながら、態度は変わらない奈央に感心しながらも、
相良はさらに手を振り下ろして、奈央のお尻を叩く。
すると泣き声は大きくなるものの……
「う、うわぁああああん!!兄さんのバカァァァッ!!」
「……何て?」
ビシッ!!
「バカ!バカぁぁぁ!!痛いって言ってるのにぃぃっ!!」
「言い直し」
「兄さんの癖に!情けない、うぇぇっ、兄さんの癖にっ……もうやめてよぉぉぉぉッ!!わぁああああん!!」
「……奈央」
パァンッ!!
「うっ……うわぁああああん!!叩かないでぇぇっ!!」
奈央は一向に謝る気配の無いので、相良の方から促してみた。
「ごめんなさいは?」
「やだぁぁああああっ!!」
「じゃあ、ちょっと待ってやるから。まさか謝るのが“ヤダ”なんて言ってないよな?もうしませんは?」
そう言って、相良は一旦手を止めた。
けれど奈央はやっぱり謝らなくて泣くばかり。
「うっ、わぁあああん!!」
「泣いても駄目だぞ。ちゃんと謝れ」
「偉そうにしないでぇぇっ!!」
「謝らないのか?」
「謝らないぃぃ!!」
「なにお前が怒ってんだよ。困ったなぁ……」
頑なな妹にはため息しか出ない。
けれども強情を張らせたまま許すわけにもいかなくて、相良はちょっとした強硬手段に出た。
奈央をぎゅっと抱えなおして……
「じゃあ」
「!?」
「謝るまでやめないからな?」
それだけ言って、強めに奈央のお尻を叩き始める。
ビシッ!バシッ!バシィッ!ビシッ!
「ひゃっ!?やぁあああっ!痛い!痛いやめてぇッ!!」
パァンッ!バシッ!ビシッ!バシッ!!
「あぁっ!やだぁぁっ!うわぁああん!やめてぇぇっ!痛い!痛いぃっ!!」
もちろん奈央が痛がって抵抗するけれど、相良はただ叩くだけ。
バシッ!バシッ!ビシィッ!ビシッ!
「あっ、あぁん!やっ、やだっ、うわぁああん!あぁああああん!!」
奈央が何を言っても泣いても、ひたすら無言で叩き続けた。
そうすると、さすがの奈央も折れるしかなかったらしい。
「ご、ごめんなさい!!ごめんなさぁぁぁい!!やめてぇっ!もう反省したからぁぁぁっ!!」
(やっと謝ったか……少しは反省、してたらいいけど)
結構泣かせたし、門屋や小春を待たせている。
相良は奈央を許して、膝から下ろしてあげた。

奈央はまだ泣いて怒っていたけれど。
「うわぁあああん!兄さんのバカぁああああ!!変態ぃぃぃっ!!」
「ハーイ、ソーデスネー。俺は先に戻るぞ?」
「まっ、待ちなさいよぉぉっ!!この状態の、私を、ぐすっ、放っていく気!?な、慰めなさいよっ!!」
「んー?もう怒ってないから泣くなよ。お前はちゃんと反省出来たよ。いい子いい子」
“慰めろ”との事なので、適当に言葉で慰めてみた相良。
すると
「ふざけないでもう!!頭悪いんだからぁぁぁ!!」
奈央が勢いよく抱き付いてきた。
「うわぁああああん!!土下座してぇぇぇっ!!」
「……この状態でどうやれってんだよ……奈央、泣くなって。ちゃんと反省出来たな」
「わぁあああああん!!」
言っている事はどうあれ、珍しく甘えてきた妹の頭を撫でて、
微笑ましい気分になる相良だった。


そんな事がありつつも、落ち着けば奈央はいつもどおり余裕たっぷりに振る舞う。
小春と嬉しそうに合流していた。
「小春、待たせてごめんなさい。早く私の部屋へ行きましょ♪」
「う、うん……でも、奈央ちゃん平気?」
「え?平気よ?平気というか……貴女は何を心配してるの?」
「な、何でも無いよ!!ねぇあの、奈央ちゃん……」
「あら、内緒話?」
遠慮がちに手招きする小春。嬉しそうに、奈央が耳を寄せる。
「小春がいっぱい……慰めてあげるね♥」
「ふふっ、生意気ね……でも、期待してるわ♥」
少女たちの甘い囁き声は二人だけに聞こえていた。

一方の兄の方も、疲れながらも恋人と合流する。
「準!ごめんな今日はなんかもうバタバタしてて……」
「……おう」
「?……どうかしたか?」
「…………別に」
少々腰引け気味な門屋らしからぬ態度。
相良も声を落として言った。
「お前は叩かないよ?」
「そ、そんなんじゃねぇよアホ!!」
顔を真っ赤にした門屋に、相良はまた微笑ましく思う。


こうして無事、兄妹カップルはそれぞれ部屋に戻って無事に仲良く出来……
るはずだったが、門屋が音漏れを恥ずかしがって“ホテルへ行こう!”と粘ったので
相良達はホテルへ行くことにした。
奈央と小春も見送ってくれて、最後には和やかに別れる事が出来たのであった。

こうして、相良の里帰りは色々あったけれど、めでたしめでたし!!で幕を閉じた。




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【作品番号 BSS39】

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