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執事部隊の人間国宝が行く!わくわく能瀬さんインタビュー!



廟堂院家の執事、能瀬麗。

容姿端麗にして頭脳明晰。
学歴は誉れ高く、家柄も良い。
スポーツ、芸術、音楽、果ては料理にも秀で
おまけに誰にでも笑顔を絶やさず、優しい。
天が二物どころかメガ盛りMAXで長所を与えてしまった男。
……と、周りから思われている(能瀬が華麗にそう思わせている)が、
実は人間らしい嫉妬心や野心も持ち合わせる男。

そんな能瀬麗、今日は身の回りに不穏な(?)空気を感じていた。
歩いていても仕事をしていても、常に見張られているような感覚。
害が無いのは何となくわかっていても、そろそろうっとおしくなってきた。
「ねぇ」
少し呆れ気味に、気配に話しかける。
「いつまで私の周りをウロウロしているつもり?」
返事は無い。気配は消えない。
「何か要件があるなら聞くよ。出ておいで」
気配が少し遠くなる。引き始めたか……
「……まぁ、いいや。付け回したいなら好きにすればいいよ」
能瀬は諦めた風にそう言って、普通に歩き続けた。
気配がまた近づいて、近づいて。ぐっと引きつけた、その途端に
能瀬は勢いよく振り返って走り出す。気配の方へ一気に。
不意を突かれたその気配は逃げようとしたけれどあっけなく……
「うぁっ……!」
「捕まえた」
「えっ……へへ……」
手を取られて、気まずそうに笑うのは後輩執事の門屋準だ。
能瀬はいつもの笑顔で門屋に言う。
「何か用?」
「あ、いや……俺、ずっと能瀬さんのファンでした!だから能瀬さんのすべてを見つめたいって!」
「そうなんだね。嬉しいな」
この無茶苦茶な話を、もちろん能瀬は信じていない。
けれど一旦は話を合わせてから切り込む。
「で、本当は?」
「うぇっ!?疑うなんて酷いですよ!」
「…………」
能瀬が無言で見つめると、「ええっと、そのぉ……」と歯切れ悪く視線を彷徨わせ始めた門屋は怪しすぎる。
この男、普段の言動は思考回路が中学生で止まってるんじゃないかと思うほどのバカに見えても、
自分と同じ名門執事学校の“特待生”だ。油断はできない。
しかもミーハーで人脈が広いせいか執事部隊の内情にも詳しく、さらに能瀬が大嫌いな上倉を“兄さん”と慕っている。
上倉の弟に惚れていたのも周知の事実だ。
最悪、上倉の差し金という事も……。
(もし、何らかの裏があったらこんな分かり安く動揺するとも思えないが……)
念には念を。
能瀬はワザとらしく手を打って言った。
「そうか分かった!私に何か悪戯をしようとしてたんでしょ!?」
「えっ!?」
「いけないなぁ。仕事をサボってまで悪戯しようなんて」
「い、いや……俺は、悪戯なんて!」
本気のポカン顔な門屋が必死で首を振るけれど、能瀬は受け付けなかった。
「他に正当な理由が言えないなら“悪戯しようとしてた”って事でお仕置きだけど?」
「いやいや冗談でしょ!?俺達には報道の自由が!!」
「……よく意味が分からないな」
“本来の目的”を言おうとしない門屋を無理やり壁に押さえつけて、
「ひっ!?ちょっと能瀬さん!!」
「私が納得できる理由を話すか、“悪戯しようとしてごめんなさい”って謝るまでは許してあげないから」
暴れはしないものの、酷く慌てている門屋の尻を思いっきり打った。
バシッ!
「うぁっ!?」
バシッ!バシッ!
「や、やめてください!」
「ダメだよ。反省しないと」
声を震わせて身を捩る門屋を押さえつけ、能瀬はどんどん手を振り下ろす。
彼の本当の目的を吐かせるために。
バシッ!バシンッ!
門屋が「あぁっ!」と苦しそうな悲鳴を上げて、叫んだ。
「お、俺本当に!悪戯しようなんて思ってないです!!」
「だったらどうして私を付け回したりしてたの?」
「それは……!」
どうしても、“付け回していた目的”になると口を閉ざす門屋。
だんだん怪しく思えてくる。とはいえ……
(本当に隠したい事があるなら、“悪戯しようとしていた”事にすればいいのに。
無意識にバレても大したことないと思っているのか
そこまで頭が回ってないのか……それとも嘘でも“悪戯しようとしていた”事にはしたくないのか)
そんな事を考えながら、能瀬は門屋の尻を叩き続ける。
バシッ!ビシッ!バシッ!
「ひゃっ!勘弁してください!おぉっ、俺がぁ!
能瀬さんに“悪戯”だなて、ガキみたいな真似するわけないじゃないですかぁ!」
「答えになってないなぁ門屋君。いい加減に答えを教えてよ。隠し事は無しにしよう?」
あまりこのお仕置きにも時間を取っていられない。
仮にも仕事中だ。能瀬は幾分か声を低くして門屋に言った。
「私はね、その気になれば君を泣かせる事なんて簡単なんだよ。本当はしたくないけど。
服を脱がせてお尻を直接叩いたら早いかな?」
「や、やだぁぁっ!!」
「ここ、誰か通るかもしれないね。お仕置きされて泣いていたら、少し恥ずかしい事になるかも。
あぁ、でも大丈夫だよ?こんな事、執事部隊じゃ日常茶飯事だもの。誰も君を笑う人なんていないよ」
「お願いです!やめてっ、やめてください!!うっ、ぁああっ!」
完全に余裕が無くなってきた門屋のズボンに手をかけたところで彼が叫ぶ。
「言います!言いますから!本当の事、言いますからぁぁぁ!!」
「いい子だね。教えて」
バシィッ!
急かす様にまた一発叩くと、「ヒッ!」という高い悲鳴と共についに門屋が口を割った。
「お、俺っ……取材しようと思ってたんです!」
「取材?!え、私を?」
「そうです……っ、極秘取材で、決定的瞬間を確かめて、大スクープを狙ってたのにぃぃっ……!」
能瀬にとっては思ってもみなかった理由だったけれど、あり得ない話ではない。
門屋はたまに屋敷内で“取材ごっこ”みたいな事をしているから。
自分相手にもやろうとしたのだろう。少し気が抜けた……のはおくびにも出さず、
「話してくれてありがとう。でも、コソコソ人の秘密を暴くようなやり方は良くないよ」
と言って、強く2、3発叩く。
ビシッ!バシッ!バシッ!
「いゃぁぁっ!ごめんなさいぃぃっ!」
その後手を止めて、半泣きな門屋を自分に向い合せて優しく言った。
「私なんかの取材がしたいなら、仕事が終わってから時間を取るよ。
答えられる範囲は答えるからインタビューでもしにおいで。執事部隊の敏腕記者さん?」
「……ぅぅ。マル秘プライベートも答えてくれますか……?」
「う〜ん。少しならね」
「や、約束ですよ!?やったぁぁ!」
半泣きだった顔が一瞬にして明るくなる。
能瀬が警戒しようとして、いつも調子を狂わされる裏表の無さだ。
(けど……こちらが不利になる情報は何一つ渡さないようにしないと……)
忘れてはいけない。彼の後ろには上倉がチラついている。
今一度警戒心で武装し直して、能瀬は仕事に戻る。


そして夜。
約束通り門屋が、執事寮の能瀬の部屋にやってきた。
かなり騒がしく。
「じゃっじゃ〜ん!執事部隊の人間国宝が行く!能瀬さんのお部屋ハイケーン☆☆」
「いらっしゃい」
「おじゃましまーす!」
ご丁寧にオモチャのマイクを持ってやってきた門屋を笑顔で部屋に招き入れる能瀬。
門屋はとても嬉しそうにキョロキョロしていた。
「ほうほう!イケメンで部屋が綺麗とはさっそく高得点ですね!」
「それはどうも。何か飲む?」
「俺はコーヒーよりコーラが飲みたい気分ですお構いなく♪」
「はいはい」
「えっ!?あるんですか!?さっすが!」
ひたすらはしゃいでいる門屋をジュースで落ち着かせて、
能瀬はテーブルを挟んで暇つぶし程度のインタビューに応じることになる。
門屋は大げさに咳払いをして、マイクを突き出した。
「ではさっそく!休みの日は何をしていますか!?」
「休みの日?別に皆と変わらないと思うよ?出かけたり、部屋にいるならテレビを見たり本を読んだり……」
「出かけるのはお一人で?」
「そうだね。たまに連れ立って行く事もあるけど」
「それって、誰と!!?」
妙に食いついてくる門屋に、能瀬も瞬きしながら答える。
「誰って……執事部隊の仲間内だよ?」
「本当にそれだけですか〜〜?」
「他に誰がいるって言うのさ?さすがに千早様や千歳様を連れて行ったりできないし」
「いやいや〜〜女の人がいるんじゃないですか〜〜!?」
「メイド部隊に嫌われてるのは私だって同じだよ」
「んもぅ逃げるなぁ!俺、知ってるんですよ?能瀬さんに、彼女がいる事!!」
「かっ、彼女!?」
いきなり門屋に言われた言葉に、能瀬も驚く。
この男だらけの閉鎖空間でどこからそんな誤解を招いたのか。
苦笑しつつも否定してみる。
「やだな、誤解してない?いないよそんな人……」
「フッフ〜♪隠したって無駄です!愛しのあ・き・よ・さんとはどういうご関係で?」
「あ……きよ?誰?」
「またまた〜〜こちとら、電話越しのラブラブな会話を聞いちゃってるんですよ?」
あくまでの自分に彼女がいると決めつけてくる門屋の言葉。
能瀬は考えた。電話……あきよ、あきよ……
「もしかして、“秋緒”の事……かな?“あきよ”じゃなくて“あきお”!」
「おっと失礼!で、その“あきお”嬢とは熱愛中なんでしょう!?」
まだ言うか……と、思いつつも能瀬は説明する。嬉しそうな門屋の誤解を解くために。
「秋緒は男だし、私の幼馴染なんだ」
「えっ……!?」
門屋、驚愕の表情。
そして……
「えぇ〜〜っ!!だって、あんなに優しい声で、楽しそうに話してたじゃないですか!
俺あんな顔の能瀬さん見た事無いですよ!?」
またまた騒がしくなった後輩に、能瀬は冷静かつ爽やかに対処する。
「どういう顔だったんだろうね……恥ずかしいな。秋緒は気が弱いから気を付けてると
優しい話し方になるんだよ。昔からの大切な友人だから話してて楽しいのも事実だし。
“大スクープ”を潰しちゃって悪いけど、全部誤解さ」
「なぁぁぁんだ〜〜……」
ガッカリする門屋に、これでこのインタビューも終わりかとホッとした能瀬。
けれど話は思わぬ展開に。
「ん?待てよ……問題は恋愛感情があるか無いかですよ能瀬さん!!
男同士なんてここじゃアリアリじゃないですか!」
「はっ!?」
「likeとloveの境界線なんて意外ともろい物ですよ!?
執事部隊の孤高の華・能瀬麗に屋敷外の恋人がいるとなればそれはそれでスクープですよ!
どうなんですか能瀬さん!?今後、付き合う気はあるんですか!?」
「な、んっ……あるわけないじゃないか!!幼馴染の、男同士だよ!?」
この流れにはさすがに能瀬も赤面した。
恋愛感情云々をよく知った幼馴染で考えるなんて生々しすぎる。
考えたくなくて、必死で門屋に反論した。
「門屋君、冷静になって!?君は屋敷に……執事部隊に入り浸って感覚がマヒしてるんだ!
いいかい!?男同士だなんて、普通じゃない!」
「いやでも!どうしてもって迫られたらキスできるかどうかで考えてみて下さい!!」
「君は何を言ってるの!?」
とは言ったものの、律儀に能瀬の脳裏に浮かんだのは、見慣れた秋緒の泣き顔。
普段は忘れていたあの時の……。
『ねぇ、麗ちゃんって……キスしたことある?』
(うっ……!思い出すな、今思い出すな……!)
学生時代に、秋緒があまりにも悲しそうにするから、知りたそうにするから……。
『うぅ……人を、愛するって大変な事なんだね……僕には無理だ……』
(違う、あれは……、そんなつもりじゃなくて……!)
乱暴に誤魔化して、でも、やっぱり泣きながら諦める秋緒が哀れになって……。
『ううん……きっと、すぐ忘れちゃう……!嫌じゃ、なかったから……』
(……って、何を思い出してるんだ僕はッ!!)
能瀬はフルフルと頭を振って門屋に言う。
「あんなのは、ノーカウントだッ!!」
「……!!」
「あっ……!!」
能瀬らしくもない失言だった。
門屋は目を丸くした後、悟りきった瞳で言う。
「それができたら、後はもう何でもできますよ……」
「――ッ!」
能瀬は真っ赤になる。
そして、彼の中で何かが音を立てて切れた。
「……ずいぶん知ってる風な口ぶりだよね門屋君?何だい?まるで経験者のようじゃないか?」
「の、能瀬さん……?」
能瀬の微妙な雰囲気の変化を察知したらしい門屋が腰引け気味に声をかける。
門屋の方を見た能瀬は、明らかに普段の紳士的な彼では無く……
完璧に目が据わっていた。
「そんな事を言うからには根拠があるんだろう?誰に無理やりキスを迫られたの?
誰と、キスした挙句の何でもできる仲になっちゃったの?」
「えっ!?いっ、いや!!俺は一般論をですね……」
門屋がたじろいでも能瀬の矢継ぎ早な疑問形尋問は止まらない。
「大体、君変わったよね?前までは“男同士の恋愛なんて信じられない!”って潔癖だったのにさ。
今日の寛容さはどういう心境の変化なの?」
「あ、あのっ……おおおお俺は、至ってノーマルでして!!」
「君と仲のいい子を一人一人名前を出して聞いていけば当たるかな?
門屋君はすぐ顔に出るからね。そうだなーまずCADのメンバーから……」
「ヒィィィッ!!今日のインタビューは終わりにしますぅぅっ!お邪魔しましたぁぁぁ!!」
「おっと何で逃げるの!?あぁ、いるんだね?CADの中にいるんだ?」
部屋を出ようとした門屋は呆気なく能瀬に後ろから捕まえられてしまう。
恐ろしい蛇にでも絡みつかれたかのような錯覚に、門屋は涙目でガタガタ震える。
すぐ傍に声が聞こえた。
「えーっと誰だろう?誰だろうな〜?君と一番仲がいいのは……」
「いっ、嫌だ……嫌だ!!聞かないで、下さい……!」
最も隠したい所を暴かれる恐怖。
この状況で突かれたら、隠し通せる自信が無い。
「う〜ん……相良君?」
「ちぁっ――!!」
的確だった。
心臓を鷲掴みにされた気がして、否定しようとして息ができなかった。
だから、一呼吸遅れて必死で否定する。
「ちっ、違います!絶対違う!!相良じゃない!!」
「アッハハハハハ!!そっかぁ!相良君か!そう言えば最近一段と仲良いもんねぇ!?
熱愛中なのは君達じゃないか!そんな大スクープがあるのに私を取材しに来たの!?」
「違う!相良じゃない!違うもん!相良じゃ……違、ちがっ……う!!嫌だ、助けっ……!!」
恥ずかしいやら怖いやらで、必死にもがいたら門屋は能瀬と一緒に床に倒れこんでしまった。
能瀬は門屋から退くどころか伸し掛かって……
「ねぇ門屋君?」
囁くような低い声に、門屋の体が大げさにビクンと跳ねる。
「大丈夫。黙ってるよ。黙っててあげる……だから、これ以上お互い大事なところは触りっこ無しだ。
秋緒の事、もう詮索しないで。君の大好きな“兄さん”にも内緒だよ?」
門屋は声も出せずに、首を何度も縦に振った。
能瀬は笑って言う。
「私は彼に恋愛感情は無いんだ。君と違ってね」
「うっ……うわぁあああああん!!」
今度こそ、門屋は能瀬を振りほどいて泣きながら部屋を出て行った。
いや、能瀬が門屋を解放したと言った方が正確だった。
能瀬は大きく息を吐いて、床に転がっているオモチャのマイクを拾い上げる。
「あーあ、相良君に怒られちゃうかな?あの子、怒ったら怖そうだし……」
言葉とは裏腹に、能瀬の顔には余裕そうな笑顔が広がっていた。




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【作品番号 BSS29】

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