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門屋と相良がケンカしたようです



町で噂の大富豪、廟堂院家……の、ある夜の執事寮での出来事。
実は仲間達に内緒で付き合ってる執事の門屋準と相良直文。
門屋が相良の部屋に遊びに来て、床に並んで座って一緒にテレビを見ている状態。
けれど門屋はテレビそっちのけではしゃいでいた。
嬉しそうに話しているのはこの前、皆で執事寮の大浴場に入った時の話だ。
「でさー!鷹森の奴がさ、水鉄砲もできないんだぜ!?ありえねーよなっ!どんだけ不器用なんだって話!」
「…………」
「やらせてみたけどスッカスカなんだって!マジウケる!」
「…………」
楽しく話していた門屋だけれど、相良の無反応っぷりにやや顔が曇る。
こちらを見もせずテレビ画面を凝視している相良の横顔を覗き込み気味に声をかけた。
「……おい、聞いてる?」
「聞いてるけど?」
「ノリわりーな……」
「そうか?」
「テレビ、そんな面白いのかよ?」
「別に」
そっけない返事の数々。門屋はムッとした。
何が何でも相良の注目をこちらに向かせたい。
そこで、しばし考えて……
(よ、よぅし……見てろよ、いや、聞いてろよ相良の野郎……!テメェはこの一言で食いつくに決まってる!!)
悟られない程度に深呼吸して、赤い顔で言う。
「……な、なぁ……キス、する?」
「しない」
「!!」
門屋は真っ赤な顔のまま硬直し……

そして、ブチ切れた。

「ンンッだよ感じ悪り――なッ!!言いたいことがあんならはっきり言えや!!」
「じゃあ言うけど!何なんだよさっきから鷹森、鷹森って楽しそうにしやがって!
風呂場で鷹森とばっかりじゃれてたじゃねぇか!俺がどんな思いであの窮地を耐えていたか!」
「は、はぁっ!?だってお前、声かけても無反応だったし!!」
思わぬ“ブチ切れ返し”を受けて門屋は困惑しつつも反論する。
けれど相良のブチ切れも止まらない。
「当たり前だろ!あそこで勃起したら何もかもが終了するから必死に感情を抑えてたんだよバカッ!!」
「ぼっ……!!?」
「お前は、何も意識してなかったみたいだけどな!楽しそうにさ、水鉄砲ってガキかよ!?」
「なっ、なな何だと!?」
相良の放った“勃起”の一言に真っ赤になりつつ、そして相良の言うとおり何も考えていなかった自分に気づきつつ。
それでも“ガキ”の一言は聞き捨てならない。門屋は言い返した。
「俺ほどの、理性溢れる男なら!お前の裸見たくらいじゃ何ともないんだよ!
そっちこそ、変な嫉妬で言いがかり付けやがってガキじゃねーか!」
「……ぐっ!」
「(勝った!)ほら!俺の正論にぐぅの音しか出ねぇよな!?反省しやがれクソガキっ……ひゃぁぁぁっ!!?」
相良が口ごもったので勝ち誇って偉そうにしていた門屋は一瞬で驚いてのけ反る。
急に、相良が服を脱ぎ出したから。
「何やってんだよお前!?変態!!」
「うるさい!俺の裸見たって何ともないんだよなぁっ!?見ろよ!ほら!」
次々と服を床に叩きつけて、もう下着までも乱暴に脱ぎ捨てた全裸相良が堂々と横にいる。
門屋は驚くやら恥ずかしいやらで2.3歩引いて身を小さくしていた。
「うわぁぁ!バカ!露出狂!お前おかしいよ!」
「ここを風呂だと思えばどうって事ないだろ!」
「無茶言うなッ!!」
考えればおかしな話だった。
あんなに仲が良かったのに、門屋は相良の裸を一度も見た事が無かったのだ。
そしてあんなに仲が良かった頃なら平気だったであろう、相良の裸体。
恋人になった今となっては……しかも、“勃起”だの何だの話された後だと嫌でも意識してしまう。
目を閉じて下を向いたまま、顔が赤くなって、声が震えてしまう。
「隠せよ……その、お粗末ボディをよ!」
「お粗末?これでも、お前と付き合いだしてからは気を使って腹筋とか色々……
っていうか、せめてこっち見てから言えよ!」
「み、見てるよ薄目でぇっ!!」
門屋はもう大混乱で叫ぶ。相変わらず目は開けられない。
けれどそれが悪かった。
「完全に目ぇ閉じてるじゃねぇか卑怯者……お仕置き決定だな」
「!?」
強引に引っ張られたけれど抵抗する暇もなかった。
派手に転んだ先は相良の膝の上で。無理やり下半身の衣服を剥がれたとなれば、何が起こるかは嫌でも分かる。
「うっ、嘘だろ!?」
思わず素で驚いてしまう。まさかこの流れでお尻を叩かれることになるとは思わない。
門屋にしてみればケンカで最大級の反則技を使われた気分……と、いうか実際使われた。
「こんなの!無しだろ!こんなっ……」
バシィッ!
「いってぇ!(マジでやりやがったコイツ!)」
叩かれ始めてしまえば流れはいつも通りだ。
相良の膝の上で体力か気力のどちらかが尽きるまで暴れまわって抵抗するしかない。
バシッ!バシッ!バシッ!
「うぁ!ふっざけんな!こんなの、卑怯者はお前だろ!バカ!離せぇぇっ!んぁっ!」
必死に叫んで抵抗しても、当然ながら逃げられない。
でも門屋は納得できない。手足をバタつかせてもがきながら大声で叫ぶ。
「おいこら!こっ、これ、ひっ、完全に!お前の機嫌が悪いから俺に当たってるだけだろ!?
こんな、ぅ横暴!許さねぇからな!?」
ビシィッ!
「うぁぁ痛い!この理不尽暴力野郎が――っ!!」
言い返せば強く叩かれて、お尻も体もビクついて。
ところどころ悲鳴が混じってしまうのが悔しいところ。
このまま泣かされるんじゃないかと考える。……とても腹立たしい気分だ。
だから、門屋は叫べるだけ叫ぶ。
「何が“お仕置き”だよ!こんなもんなぁ!一方的な暴力だぞ!?“お仕置き”って大義名分が無かったら……
無いだろうが今!ただのお前のさじ加減だろうが人として恥ずかしくないのかぁぁぁぁっ!!いぃぃっ!」
バシッ!ビシッ!バシッ!
「っ、あぁぁっ!やっ、離せってぇぇっ!今なら許してやるからぁ!(くっそ、尻がジンジンする……!)」
だんだん息が上がってくる。本気で痛い。気を抜くと泣きそうになる。
目じりに涙を浮かべながら、赤くなってきたお尻を揺する。
けれどこのまま屈するのは……門屋は声を絞り出した。
「やぁぁっ!何とか言えよ!(うぅ、痛い!)図星かよ!?後悔するがいい!
お前が俺を解放した瞬間に、俺がお前に本当の“お仕置き”ってやつを食らわせてやるから覚悟しやがれ!
うっ、ぐ!あぁっ、何とか言え!分かったか!なんか喋れぇぇぇっ!!」
「……じゃあ、俺このままお前を離さない事にするわ」
「黙れぇぇぇぇぇっ!!」
「どっちだよ」
相良の妙に冷めたそっけない声で、門屋は余計イライラしてくる。
だけれども、叩かれて赤くなっているお尻の方はもう限界になっていた。
「うぁぁっ!泣くぞ!?泣き叫ぶぞこの野郎ぉぉぉぉっ!
俺が泣いたらお前も泣かされ決定だからなぁぁぁあっ!?」
そう、こんな変な脅しを口走るほどに。
「チッ!」
(コ・イ・ツ!!舌打ちしやがった!)
舌打ちに文句を付けようとしたら、膝から放り出された。
「うぁっ……!!」
ゴロンと一回転、寝返りのように床を転がって、門屋はお尻を押さえつつ颯爽と……
立てなかったので立膝をついて叫んだ。
「よっ、よくもやりやがったな!次はお前の番だぞ覚悟しろ!醜い嫉妬で俺の尻に暴力を……」
「そうだよ嫉妬だよ!!」
発言を遮られるように叫ばれて、門屋は驚いて黙る。
そうしたら、真っ赤な顔をした相良が顔を背けたまま続けた。
「やっと、小二郎がいなくなったと思ったのに!準は鷹森の相手ばっかりするし!
俺だって準と風呂入るの初めてだったし!本当は、意識しないでそれなりに楽しみたかったし!
でも、無理だったんだよ!どうしても、お前のこと好きだし裸見たら興奮するし!」
大人しく聞いていた門屋が真っ赤になるような告白を大声でぶちまけた後……
泣きそうな顔と声で、こう言う。
「お前は、ズルいよ……!」
(相良……!!)
門屋が胸にぐっときたその表情は、すぐに相良が片手で隠して、ふいと横を向いた。そしてヤケクソ気味に言う。
「で、でも、俺が悪かったよ!大人げなかった!お前の言うとおり、あんなの暴力だ!
“お仕置き”なら受ける!俺の事叩くなら好きにしてくれ!」
「い、いい覚悟だな……後で“ごめんなさい許して〜”って泣いても許さないからな!」
「いいよ!それで!」
「うっ……!」
自分ならここで“誰が泣くか!”なんて、言い返してしまいそうなのに。
そうなる事を受け入れてしまう相良に余裕を感じてしまって悔しい。
それに、あんな胸の内を聞いてしまった後なので……叩きにくくなってしまった。
(でも……ここでお仕置きして恋人の威厳を保たないとな……!)
と、心に決めた門屋。まずはズボンを穿いて、ドギマギしながらも相良を膝の上に呼んできた。
相良は全裸なので服を脱がせる手間も無く、門屋は彼の裸尻に平手を振り下ろす。
バシッ!
「っ……!」
(おお!)
なんせ、門屋にとっては相良のお尻を叩くなんて初めての経験なので
どうにも新鮮さが先立ってしまう。
しかも滅多に無い自分が圧倒的に有利な状況だと、つい顔がニヤケてしまって……
「へぇ……お前、叩かれてる時そんな感じなんだ。可愛いのな♪」
「か、可愛いって、何だよ……」
「え〜〜?褒め言葉だろ〜〜?お前がいっつも俺に言うじゃん?」
ビシッ!バシッ!
気分が乗ってきて、ついついバシバシ叩いてしまう。
それで相良が恥ずかしそうに身を捻っているから余計だ。
「うぅっ……!」
「お前、俺が前に“鷹森の事好きなんだろ?”って言ったら怒ったくせに自分も鷹森に嫉妬ってダメだろ」
「ご、ごめん……」
「“ごめん”〜〜?違うよなぁ?」
バシンッ!
「うぁっ!!」
強く叩くと跳ね上がる、そんな反応も何だか楽しい。
門屋は早くもノリノリだった。
「人に謝るときはなんて言うんだっけ?ナオ君」
「ご、ごめんなさい……!」
「よしよし合格!でも、まだお仕置きは続けるけどな!い〜〜っぱい反省しような?」
「こ、この……!」
やや怒り気味の相良。けれどそんな相良をも、片手で黙らせる事ができるのが今の門屋だ。
バシッ!バシッ!バシッ!
「いっ、あぁっ!」
「ナオ君さぁ、さっき、何か言いたそうだったか?」
「何でもないよ!ごめんなさい!」
「ほー、反省してるなら何よりだぜ♪」
「〜〜〜〜っ!!」
歯ぎしりでも聞こえてきそうだけれど、抵抗しないのが気持ちいい。
門屋は上機嫌で相良のお尻を叩き続けた。
バシッ!ビシッ!パンっ!
「うっ、準!もう、許して!やっ……だ!あっ!」
だんだんお尻も赤くなってきたし、悲鳴の割合も増えてきた。
門屋的には自分は今日は泣かされるまではいかなかったし、頃合いはそろそろかと思うけれども……
(相良の奴、すっかりか弱くなって……くくっ♪このまま泣かせても面白いかな〜〜?)
すっかり嵌ったらしい。
けれど、こうも考える。
(う〜ん、でも俺はデキる恋人だからな!
今日の事はコドモな相良の可愛らしい嫉妬心である事も考慮して、
鞭ばっかりじゃ可哀想だし、飴も渡しとくか!)
そして門屋は相良を叩きながら声をかけた。
「相良、俺がイケメンでモテモテだから心配するのも分かる。
でも……俺はお前が好きだぜ?浮気なんてしねぇし」
「準……!ふ、ぁ!!」
「何だよ可愛い声出して……愛してるって言ってやろうか?事実だし?」
「や、やだ!!痛い、のに……!頭が変になる……!」
(うわぁぁぁっ!何だよこの相良!激レアだぜ悪くねぇぇぇッ!)
恥ずかしそうに、真っ赤なお尻で、弱弱しく息を乱す相良にはしゃいで有頂天になる門屋。
テンションに比例して叩く手も強くなってくる。
バシッ!バシィッ!ビシィッ!
「うぁぁっ!準!い、痛い!痛いからっ!ごめ、んなさい!ごめんなさい!」
一気に大きくなった相良の反応も、門屋のテンションを押し上げる。
(このまま、“愛してる”って言ったら、どうなる!?どうなるコイツ!?)
もうワクワクのドキドキで叩きながら、その疑問を試そうとして……
「準……!」
阻まれた。そのまま、弱弱しく言われる。
「お腹、に……当たっ……」
「!!?」
瞬時に意味を理解した。
そして慌てて相良を膝から転がして壁まで後ずさって、股間を押さえる。
首が痛すぎるギリギリまで捻って壁を見ながら叫ぶ。
「かっかかか勘違いすんなよ!?お前が、勃ってるから!俺も仕方なく勃ったんだよ!“もらい勃起”だ!!」
「見てたのかよ。しかもそのネーミング……」
「うるせ――!じゃあお前が考えろ!」
「嫌だよ……」
呆れ気味の相良の声がだんだん近づいてきて門屋は焦った。
「ずいぶん楽しそうだったな?」
相良の気配も声も目の前だ。しかも若干怒ってるっぽい。
門屋は首がギリギリのまま目を合わせずに答えた。
「おっ、お前こそ、ずいぶん可愛かったじゃねぇか……!」
「ありがとう。次は準が可愛いトコ見せてくれよ」
「俺に可愛いところなんて無……ひッ!!」
思わず相良の方を振り仰いだ。股間がぐりぐり圧迫される感覚がしたから。
相良が門屋の手ごと押さえつけていたのだ。
声も出せずに相良を見ていたら相手の方は笑っている。
「いじってんの?」
「バッ、バカかよ!?お前が押さえてんだろ!?」
「じゃあ手退けろよ」
「ふっ、ふざけんな!退けたら、ぅ、何するつもりだよ!?ま、守ってんだよ!」
「攻撃するつもりないって。なぁ、どうしたんだよその声?“愛してる”って今言って……?」
「おま、え!さっき“嫌だ”って、言っただろ!うっ、くっ……!元から、ぁ、こんな声だ!!」
だんだん声が震えてくるので門屋は焦った。
相良の歯止めが効かなくなっていそうなので余計に。酔ったような頼りない音色で相良が言う。
「準、俺さ……」
「な、んっ、だよ……」
「結構……スイッチ入るとおかしくなるタイプかも……!」
「知ってたわ!!いまさら言うな!」
「ごめんやっぱ、キスする!」
「手のひら返しが遅せぇよ!!」
門屋は大きく口を開けてツッコんでいたから、キスされた後すぐに舌を突っ込まれた。
しかも無理に体重をかけられて押さえつけられる刺激が強くなったものだから……
「んぐぅっ!……ふぁっ、ぷ……!!」
キスされながら悲鳴を上げて、その悲鳴すら飲み込む、激しいキスだった。
こういうキス自体はもう慣れっこなので、舌を入れられると無意識に応えてしまって恥ずかしい。
しかも水面下ではまだ手の押し合いへし合いが続いている。
「や、ぇっ……んっ!!」
“やめて”と、それさえ絡め取られて言えない。
長い長いキスだった気がするけど、やっと離れた。
お互い息も切れ切れで、見つめ合って……先に口を開いたのは相良だ。
「準……!」
「こ、今度は何だよ……!」
「俺は準の事好きだよ……愛してる……お前だってそう言った……!」
「はぁ!?なっ、なんっ……いきなり何!?(狂ったか!!?)」
「もし、俺と同じ気持ちなら、手ぇ離して……力抜いて……!」
「!!」
懇願する言葉は、一種の脅迫だった。
先ほどから相良に抵抗している体を、彼に委ねないと“愛していない”と同意になる。
さりとて委ねてしまえば“愛している”と体で示してしまう。
門屋にとっては恥ずかしい事この上ない。
けれども……
「ちくしょう!クソッ!くそう!バカ!バカァッ!卑怯者ぉぉっ!!
あぁもう!ドチクショウめぇぇっ!もう―――!」
顔を真っ赤にしてめちゃくちゃに叫びながら、門屋は徐々に力を抜く。本当に恥ずかしかったけれど。
「ありがとう……!!」
相良が本当に嬉しそうな声だったので、門屋も嬉しくなった……後、恥ずかしくなった。
(ズルいのは、お前だよ……!)
ぎゅっと目を閉じた門屋は、心の中で叫ぶのだった。




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【作品番号 BSS28】

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