TOP小説
戻る 進む


恋人達の初デート【小二郎編】



町で噂の大富豪、廟堂院家。
執事部隊籍のメイド、小二郎は自室の鏡の前で緊張気味に深呼吸をする。
実は今日はやっとの思いで恋人同士になった鷹森との初デートの日。
タイトルをつけるなら『個室温泉付きの旅館で1泊の旅』。
小二郎の胸の高鳴りは最高潮だ。
(だ、大丈夫!服や髪型は日向さんにアドバイスしてもらったし、
おにぃは初体験初体験うるさいからベッドに押し込んだし、月夜さんは……)
そこで小二郎はふと月夜を思い出す。真剣な顔で彼女は言っていた。
『小二郎……鷹森に伝えておけ。“もし、万が一、小二郎を泣かせたら、ただで済むと思うな”と』
気遣われているはずの小二郎でさえ感じた恐怖。ありがたいと思いながらも首を振る。
(こ、これは鷹森に伝えない方がいいな……あと、あーちゃんも……)
そこまで考えて、小二郎はポッと頬を染めた。
(お、オレ達……本当に“初体験”、しちゃうのかな……?)
思い描く。
鷹森の恥じらう笑顔と、声。
この前交わした2人きりの約束。
「そろそろ行かなきゃ……」
だんだんトロけそうになる頭を奮い立たせるためにわざと声に出して、
小旅行の荷物を持った小二郎は部屋を出た。


はやる気持ちのせいか、自然と駆け足気味になる。
そんな小二郎を呼び止める影があった。
「よぉ」
「!……門屋」
「今日から泊りがけだってな?鷹森と」
「う、うん……」
小二郎は気まずそうに俯く。
門屋を振ってからまともに話したのはこれが最初だった。
対する門屋の方は一拍置いて……
「お前さぁ……キスする時、意味も無く息止めるなよ!?」
「!!?」
「“CAD”はもう“門屋準と遊ぶ同盟”に改名してんだからな!?
い、いつまでも俺がお前に未練があると思ってたら大間違いだぜ!俺は切り替え早いしモテモテだし!大丈夫なんだよ!
お前はそのっ……これからは俺の妹分なんだからな!引き続き守ってやるんだから覚悟しやがれ!!」
何だか必死で、気恥ずかしそうにそう捲し立てる門屋。
「門屋……ありがとう!」
小二郎が嬉しそうにほほ笑むと、門屋はやはり恥ずかしそうに、ツイと顔を逸らす。
「ま、まぁ、あのヘタレ童貞野郎の事だから“キス”すらできるかは疑問だけどな!」
「でもオレたち“恋人になったし、キスとかえっちな事とかもしようね”って約束してるから……」
「あのロールキャベツ野郎が――――!!」
響き渡る門屋の叫び。


その頃、執事寮の門では……
「へくちっ!」
くしゃみをする鷹森絢音の姿。
(うぅ、もしかして風邪?嫌だなぁ……せっかくの小二郎君とのデートなのに……)
不安げに空を見上げた鷹森。
けれどすぐに表情を引き締める。
(いや、風邪気味なんて関係ないよ!今日は“初めてのデート”だし、僕がしっかりしなきゃ!!
男らしく、小二郎君を引っ張って……あの約束を!!)
「鷹森、お待たせ!」
「ひゅわぁぁぁぁあああ!!」
ちょうど脳内シミュレーションを始めたところに声をかけられた鷹森は
大声を上げてしまい、ポカンとしている小二郎に慌てて笑いかけた。
「ごっ、ごめんね大きな声出して!行こうか!」
「うん……」
真っ赤な顔でコクリと頷いた小二郎は、鷹森の手を取ろうとして少しためらう。
その手を鷹森が捕まえるみたいにしっかりと握った。
堂々とした手の動きとは裏腹に、笑顔は余裕のない赤面だったけれど。
「温泉、楽しみだね」
「うん!」
小二郎も頬を染めて……泣きそうな笑顔でしっかりと頷いたのだった。


こうして鷹森と小二郎の『個室温泉付きの旅館で1泊の旅』が開幕したのである。
道中、「鷹森ってロールキャベツなのか?」「え!!?」などと楽しい会話を繰り広げつつ
電車に乗り、乗継ぎ、バスに乗り、予約した旅館にたどり着いた。
そこそこ大きくて綺麗な旅館で、部屋についた2人はソワソワながらも思い思いにくつろぐ。
「わぁ!鷹森、空がキレイ!」
「本当だ。もうすっかり夕方だね」
窓に張り付いている小二郎に笑顔を向けながら、鷹森は備え付けの緑茶を淹れる。
「何だか今日はここで寝るだけになっちゃうかなぁ……後でお散歩に出る?」
「……オレは、部屋にいたい……」
「……そっ、か……」
窓に張り付いたまま、胸元を握って体をきゅぅと縮こめている小二郎。
急須を持ったまま俯く鷹森。
どんどん糖度を増してくる室内の雰囲気。
固まる2人のうち、先に動いたのは鷹森の方だった。
「夜ご飯もね、部屋まで持ってきてくれるんだって……」
そう言いながら、窓辺に立っている小二郎に被さるように後ろに立って緊張気味に言葉を紡ぐ。
「まだ少し、時間があるんだ……先にお風呂に、入る?」
「……鷹森と一緒に入る……」
「も、もちろん!!」
鷹森が勢い余って小二郎を抱きしめると、小二郎も身を委ね……
そのまましばらく抱き合っていた。
その後お茶を飲んだ。


そしてお風呂にて。
「お風呂が木でできてる!!」とはしゃぐ小二郎を微笑ましく見守る鷹森。
視線は何気なく小二郎の胸元にいっていた。
(良かった……傷が無い……)
滑らかな白い肌を見て鷹森が最初に感じたのは安堵。
かつて自分で胸に痛々しい傷跡をつけた小二郎のお尻を叩いて叱ったことがあった。
“もうしない”と約束してくれたのを信じていなかったわけではないけれど、
心のどこかでは心配だったのだ。傷が残るかもしれない事も含め。
小二郎はそんな鷹森の視線に気づかないご様子で、せっせと体を洗い始めていた。
ところが、スポンジを持った手が背中を上手く洗えていない。
鷹森は不器用なしぐさを可愛らしく思ってクスリと笑ってしまった。
「小二郎君、貸してごらん?背中洗ってあげるよ」
他意はなく“世話焼きお兄ちゃん”のノリで鷹森がそう言ってしまった直後……
鷹森と小二郎の間に衝撃が走る。お互い一瞬にして顔を真っ赤にした。
「い、いやあのっ!ごめん!ごめんね!変な意味は、あのっその……」
鷹森が慌てて取り繕おうとする。けれどもここで新たなる混乱が!!
(あれ!?僕たち、もう付き合ってるんだから“変な意味”が無い方が不自然じゃ!?)
見れば、小二郎が何だか不安げな瞳で鷹森を見つめている。
鷹森は覚悟を決めて……震える声で言った。
「えっと……変な意味は……あるけど、いい?」
「いいよ!だって、オレたち恋人同士だもんっ……!!」
小二郎の振り絞るような声が鷹森に勇気をくれた。
ぐっと距離を縮める2人。やっていることは背中を洗っているだけだけれど。
小二郎は恥ずかしいのか急に焦って話し出す。
「い、いつもはちゃんと洗えるんだ!タオルびよーんってしてゴシゴシやるから!」
「そうだよね!そっちの方が簡単だよね!」
「オ、オレっ、ちょっとゴリゴリしてるのが好き!!」
「僕もタオルは固めが好きかな!」
小二郎は舌足らずだけれどニュアンスは伝わっているらしく、会話に支障はない。
背中を洗ってあげる作業にも支障はない。しかし、だからこその試練はある。
(ど、どうしよう!背中はこれで良さそうだけど……他のところも洗ってあげた方がいいのかな!?
“変な意味”があるって言った手前、このまま終わったら“え!?”ってなりそうだし、
で、でも……かと言っていきなり直接的なところを触るのもどうなの!?
待って!そもそも他のところは小二郎君、ちゃんと洗えてるっぽいし……!!)
背中を洗い続けつつ悩む鷹森。そこへ……
「鷹森……オレ、前も……ちゃんと、洗えてない……かも……」
途切れ途切れでいっぱいいっぱいな一言。
鷹森の悩みを粉砕するのには十分過ぎた。
「任せて!洗ってあげるよ!(もう何も怖くない!!)」
向かい合う2人。
勢いはついたけれど、いざ小二郎の裸を目の前にすると
鷹森も恐る恐る・ゆっくり優しく手を動かしていた。
「い、痛くない?」
「大丈夫……」
お腹から上方向へ、ゆるゆると移動して。
ドキドキながらも胸を洗った時、小二郎が小さく声を上げる。
「あぅっ……!」
「ご、ごめん痛かった!?」
「ち、違う……何か、気持ちよくて……」
手を引っ込めようとした鷹森は、小二郎の真っ赤な顔とその言葉に……スポンジを床に投げ捨てていた。
そして目の前の体をぐっと引き寄せ、
「た、たかっ……!?」
驚く小二郎に構わず口づけていた。
しかし……
「っ……」
嗚咽のような吐息に、鷹森は慌てて顔を離す。
「ご、ごめんねいきなり!!」
「ちがっ……違うっ……!!」
小二郎はボロボロ泣きながら鷹森に抱きついた。
「ありがとう!ありがとう鷹森!!オレ、こんな風に
誰かに好きになってもらえるなんて思わなかった!!
こんな、体でっ、誰かと恋人になれるって、思ってなかったぁぁっ……!!」
「小二郎君……」
感極まって泣いているらしい小二郎を、鷹森は強く抱きしめる。
「もし、恋人出来なかったら、おにぃと結婚するって……
本当に結婚できないけど2人で結婚式して、ずっと一緒に暮らすって、
オレ達、そういう風に約束しててっ……」
「えっ!!?」
「そう言ってもらえた時、すごく嬉しかった……でも、同じくらい怖かった!!
おにぃは優しいから!オレのために、平気で自分の事、犠牲にする!!
オレのせいで、オレが、おにぃの人生、メチャクチャにしちゃうって!!だから、だからっ……!」
小二郎はしゃくりあげながら、か細い声で言う。
「オレとおにぃの事、助けてくれて……ありがとう鷹森……!!」
「僕は何もしてないよ。ただ、小二郎君の事が好きだっただけ」
鷹森も感極まって声を震わせ、それでも小二郎をしっかりと抱きしめて言った。
「でも、こんな僕でも誰かの役に立てるんだね……すごく嬉しい。
小二郎君……大好きだよ。君の方こそ、僕を選んでくれてありがとう」
「うわぁあああああん!鷹森ぃぃぃぃっ!!」
お互いしっかりと抱きしめあう。
空気はすっかり変わってしまったけれど、幸せだけは満ちていた。
だからその幸せを胸いっぱいに吸い込んで、二人は仲よく身を清め合って、
安らかな気持ちでお風呂を終えたのだった。



すると、冷静になるのがご飯時。
小二郎は浴衣姿で美味しいフルコースを食べつつ、テレビを見つつ考えていた。
(オレが泣いたりしたから……鷹森がエッチな事し辛くなってたらどうしよう……)
小二郎がチラッと鷹森を見やると、おそろいの浴衣な彼は笑顔で話しかけてくれる。
「お料理、美味しいね小二郎君」
「うん、おいしい!」
「小二郎君は好き嫌い無いの?」
「何でも食べるよ!」
「そっか。偉いね」
(うぅぅ……鷹森が菩薩のような顔してる……)
本当に会話は楽しくて……大満足の夕食は撤去され、布団もきちんと敷いてもらって、
テレビを見ながらあれやこれやと話して。
ちなみにこの時、小二郎は偶然見ていたテレビで“ロールキャベツ男子”の意味を知って。
一人でドギマギしていた。
(門屋が言ってたのこれか……鷹森も、優しそうだけど肉食系だったら……)
「小二郎君、そろそろ寝ようか?」
(あぁあああ!違った!コイツただのキャベツだった!
もしかして、えっちな事考えてるのってオレだけなのか!?鷹森は、別にその辺どうでもいいとか……?
でもさっきキスしてくれたし……)
「小二郎君?」
試しに鷹森をじぃっと見つめてみても、見えるのは不思議そうにこちらを見つめる澄んだ瞳だけ。
それでも見つめていると「どうしたの?」とでも言いたげに微笑まれた。
その聖母のごとき眼差しに耐えきれず目を逸らした小二郎。
「鷹森……寝る前にトイレ行った方がいいよ」
「え?あ、そうだね」
小二郎がとっさに言った言葉を素直に受け止めてトイレに立つ鷹森。
その瞬間に小二郎は急いで自分の荷物を開けて『アイテム』を取り出す。
(これだ!あーちゃんにもらった“絵恋様特製惚れ薬”!!)
あーちゃんに“今度のデートで上手く(性的な意味で)イチャイチャできるだろうか?”と、相談したところ……
『絵恋様にもらったんだけど、そういう事ならこじろーにあげる!
“惚れ薬”っていうより、これ“媚薬”なの。分かんない?つまり“エッチな気分になるお薬”
だから、こじろーの悩んでる事も、きっと上手くいくよ!大丈夫!』
小二郎は急いでコップに水を入れて惚れ薬を混入する。
鷹森がやってきたのはそれから少し経ってからだ。
「鷹森、喉乾かないか?これ飲む?」
惚れ薬入りの水を鷹森に差し出す。
「ありがとう」
笑顔で受け取られて胸が痛む。飲もうとされるとさらに胸が痛んだ。
まるで胸の中で警報が鳴り響いているかのように。
(本当にこれでいいのか?
無理やり、勢いで鷹森にえっちな事させて……鷹森の気持ちは?
そんな方法で愛されて、オレは幸せなのか?
こんな初体験でおにぃは祝福してくれるのか?
そもそも、この薬安全なのか?体に害があったりしないのか?)
頭で結論を出す前に小二郎は叫んでいた。
「飲むなッ!!」
鷹森からコップをひったくる。そして自分で勢いよく飲み干すと、体が熱くなってコップを落とした。
目眩がして地面にへたり込んだら、鷹森が慌ててしゃがみこんだ。
「小二郎君大丈夫!?ごめんね!小二郎君だって喉乾いてたよね!?あれ!?そういう事!?」
「ち、ちがっ……」
「どうしたの!?顔が真っ赤だよ!?」
「鷹森……オレ……」
寄り添われて、肩を抱かれてゾクゾクした。
ぼんやりとしてくる頭で、小二郎は泣きそうになりながら言葉を紡いだ。
「絵恋様の惚れ薬……びやく、もらって、だからお前に飲ませようとして、
でも、怖くなってできなくて……ごめん、本当ごめん……!!」
「び、媚薬??」
「だって……鷹森が、えっちな事してくれないと思って……(ななな何言ってんだオレ!?)」
小二郎は弱弱しい声でそう言って鷹森の胸元を握る。
なんせ頭の中に霧がかかったみたいにぼんやりしている。まともに物事が考えられない。
小二郎はどう返事をされるかと怯えながら、ただひたすら鷹森の浴衣を握っている事しかできない。
「酷いよ小二郎君……」
鷹森は困った顔をしながら、いつもみたいに優しく言ってくれた。
「僕だって男なんだよ?
薬なんて使わなくったって、今日、ずっと君とえっちな事したいって思ってた……」
「ご、ごめんなさ」
「ダメだよ。許さない」
そして体がふっと浮き上がる。鷹森が自分を抱えて立ち上がったらしい。
浮遊感に思わず目をつぶった小二郎は、傍で震えた声を聞く。
「いっぱい、お仕置きしてあげなくちゃね……」
「あ……♥」
そんな言葉一つでゾクゾクと体に快感が広がる。
歩く振動に揺られ、布団の上に着地したかと思えばそのまま抱え直されて、
浴衣の裾を捲られ&下着を下ろされて、完璧にお仕置きの体勢になってしまった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
小二郎は一生懸命謝ってみるけれど、どうしても声が甘く震えてくる。
(こんな声じゃ……)
「期待してるって思っちゃうよ?」
2人でシンクロした途端に一打目が入る。
バシィッ!!
「ひゃぁんっ!!ご、ごめっ……」
謝ろうとしても間髪入れずに2打3打。
バシィッ!バシィッ!バシィッ!
「あんっ!鷹森、痛い!痛いよぉ!!」
しかも最初から飛ばし気味だ。
小二郎は痛みに耐えかねて身をよじって抵抗する。
「はぁんっ!ごめんなさい!痛いぃっ!!ひぃぃっ!」
「最初に惚れ薬なんて使った小二郎君が悪い子!」
「はぁぁああ!ひっ、ぐぅ!」
バシィッ!バシィッ!バシィッ!
いつものことながら身を捻ってもお尻を揺すっても全然逃げられない。
それどころか痛みが増したほどだった。
小二郎は歯を食いしばって耐える。
「あはぁぁんっ!!やだぁ!鷹森やだ痛いよぉぉ!!」
とは言うものの、背骨から這い上がってくるようなくすぐったさも同時に感じて。
痛いながらも小二郎は息を乱し始めた。何だかいつもより大声を出してしまう気もする。
「んっ、ぁあああああっ!」
「僕の事……媚薬でも使わなきゃ君に手を出せないヘタレだと思った?
何だか男としてバカにされ気分だなぁ」
「違う!ごめんなさい!オレっ……オレそんなつもりじゃっ……!」
鷹森の声にそんなに深刻さはないものの、小二郎は申し訳なくなって精一杯謝った。
でも与えられるのは許しではなく力強いお尻叩き。
バシィッ!バシィッ!バシィッ!
「ひゃぁああああん!痛っ……いたぁぁああ!!」
「でも、気持ちいいんでしょう小二郎君?」
「ふゃぁああっ!そんな事ない!そんな事ないぃぃぃっ!!」
恥ずかしさと、“ここでバレたらもっと怒られそう!”という恐怖で
小二郎は必死で首を振って鷹森の言葉を否定するけれど、正直言えば否定できない。
むしろ今の鷹森の言葉で快感がグンと上がった気がしたくらいだ。
そしてそんな風だから鷹森にも真実が伝わってしまったらしい。
「どうして嘘つくのさ……お尻、赤くなっちゃってるのに気持ちいいんだね?
僕が“ダメだよ”って怒ってるのに……」
自分を叱る鷹森の声はどこかふわふわしていて小二郎は思う。
(鷹森も、オレのことお仕置きしながら気持ちよくなってるの……?)
そう思うともう気持ちは止まらない。
本当にお尻は赤いだろうし痛いんだけれど、小二郎は半泣きで叫んでいた。
「ごめんなさい!オレ、惚れ薬なんて使ったから!!
薬なんかに頼ったからっ、鷹森の事傷つけて……!怒って!もっといっぱい叩いて!ごめんなさい!」
言い切って、(何だかおねだりしたみたいだ……!)と恥ずかしくなった小二郎。
そして愛しい恋人の反応は……
「そんな事言うと泣いちゃうよ?真由ちゃん」
「!!」
ドクンと心臓が跳ねた。
“名前”を呼ばれた。“本当の名前”を。
何回か呼ばれたことはあったけれど、今が一番嬉しくて、満たされた気持ちになった。
思わず涙が流れるほど。
「いい……お願い……いっぱい反省させて……」
涙声でそう言うと、返事はすぐに返ってくる。
ビシィッ!バシィッ!バシィッ!!
「いあぁあああああっ!!」
大声を上げてしまうほどの痛み。
今までよりさらに痛いお尻打ち。それに合わせて怒られた。
「本当に、よりによって媚薬だなんて!せめて使うなら相談してよ!!
約束したじゃない“恋人になったし、キスとかえっちな事とかもしようね”って!!
守るつもりだったよ!僕の事そんなに頼りないって言うの!?」
「ごめんなさい!うわぁぁああああん!!」
「泣いてもダメだよ!!内緒でそんな事されてショックだったんだから!!
もっともっといっぱい叩くから覚悟して!」
「やぁぁぁぁっ!ごめんなさい!痛いぃぃぃっ!もうしないぃぃっ!」
「いや、ありだよ!媚薬もありだと思うけど!僕の事もっと信用してよ!!」
「ふぇぇぇぇっ!ごめんなさいぃぃっ!」
ビシィッ!バシィッ!バシィッ!!
泣き喚いて、じわじわ気持ちよくて。けれど痛いから暴れて。
そんなお仕置きがしばらく続いた頃、真っ赤なお尻の小二郎が必死に叫ぶ。
「はぁっ、いやぁぁっ!ごめんなさいぃぃ!もうしないから!
お前の事信用するからぁぁぁ!鷹森ぃぃ!許してぇぇぇっ!」
「本当に?!」
「本当ぉぉぉぉ!!うわぁぁあああん!!ごめんなさぃぃぃっ!」
ビシィッ!バシィッ!バシィッ!!
「わぁあああああん!!」
「……じゃあ、お仕置き終わりね?」
鷹森が小二郎を丁寧に布団に下ろす。
仰向けに寝かされた小二郎はヒックヒック泣いていたけれど、
優しく「もう泣かなくていいよ」と頭を撫でられて落ち着いたようだ。

そして、落ち着いた小二郎がふと自分の状況を考えてみると……
愛しい人に覆いかぶさられていますYOなう。
「真由ちゃん……ゆ、浴衣ぐちゃぐちゃになっちゃったね……。でも、いいんだ。可愛いよ」
「……!」
真剣で、赤い顔の鷹森が真上に見える。
小二郎は硬直した。肌蹴た浴衣も直さずひたすら瞬きしながらドキドキするだけ。
だから鷹森が必死に話を続ける。
「証拠も、出さずに君に信用しろなんて言わないよ」
「……!!」
「僕……薬なんか無くても君を……」
「……!!!」
「約束、守れるからッ!!」
そう言われるのとほぼ同時に、小二郎は情熱的に唇を奪われてしまう。
「んっ……!」
思わず息を漏らしたら、すぐに舌が割って入ってきた。
控えめな愛撫が口の中を這いまわる……小二郎にとっては生まれて初めての感触だ。
(な、何だこれ……!あったかくて柔らかくて……気持ちいい!!)
小二郎の方も分からないながら、自分の舌で鷹森の舌をちょんちょんと突いてみる。
すると、丁寧なお返しが返ってくる。
そんな探り探りのディープキスが終わって、顔が離れると今度は……
「さ、触るね……」
「ひゃっ……!?」
強引に浴衣を割って入った手は、やっぱり土壇場になると勢いを無くして、
小二郎の小さな小さな芽を優しく包み込んで握ってくれた。
「た、鷹森……!!」
「真由ちゃん、良かったら絢音って呼んで……」
「あや、ね……絢音……!!」
初めて鷹森を下の名前で呼んでみると、それだけで小二郎の気持ちは高まってしまう。
触られた個所から熱が上がってくる。
「やっ……やぁぁ……絢音、恥ずかしい……!オレ、気持ちよくなっちゃうよ……!」
「いいよ。真由ちゃんが気持ちよくなってくれたら、僕嬉しいから。痛かったら言ってね?」
鷹森の、最初はおっかなびっくりだった手つきがだんだん大胆になってきた。
軽く握りこんで速度を上げてしごく。
そうすると小二郎の快感も盛り上がってきたらしく、ビクッと反応して首を振る。
「あ……あっ……やだっ、恥ずかしい……」
「どうして?平気だよ……僕ら、恋人同士だもん」
「だ、って、いっぱい、気持ちいいからぁ……!」
「真由ちゃん……!!」
突然、鷹森がキスを被せてくる。さっきみたいな恋人同士のキスをだ。
(また、これ……気持ちいい……!)
キスと下半身への刺激。一気に倍になった気持ちよさに小二郎の我慢が限界に達する。
「あっ……んぁっ……!!」
“絢音”と、呼びたい声はキスで崩れて言葉にならない。
(も、もうダメ……!!)
キスの途中ですがここで小二郎はギブアップ。
「んくっ……んん〜〜〜〜っ!!」
「っわ!!」
鷹森も驚いて、キスをやめて自分の手を小二郎のモノからそっと離した。
滴る白の奇跡を呆然と見つめる鷹森……を、呆然と見つめる小二郎は、
コンマ1秒で顔を真っ赤にして起き上がった。
「ごごごごめんなさい!!すぐに拭くもの持ってくる!!」
「あ!いいよ僕が……」
「でも持ってくる!!」
高速ハイハイで荷物からタオルを取り出し、鷹森に勢いよく差し出す小二郎。
涙目でひたすらオロオロと鷹森を見つめていた。
「ご、ごめん……手、気持ち悪い!?洗ってくる??!」
「気持ち悪くないよ?手は、洗うけど……」
「洗った方がいいよ!汚いもん!」
力んでそういう小二郎に、クスリと笑って鷹森は言う。
「真由ちゃん、もし僕の……その、精液が、さ……手に付いちゃったら汚いって思う?」
「思わない!!」
「それと同じだよ。僕も汚いなんて思ってないよ?」
「あ……」
そこでやっと、小二郎は力の抜けた笑顔になるのだった。
「ありがと……絢音……」
「うん。僕もありがとう。真由ちゃんと素敵な思い出が作れたよ」
「お、オレ……すっごく大人になれた気がする!!」
興奮気味の小二郎を見て鷹森は穏やかに微笑む。
「そうだね。でも、これから僕がもっと大人に……」
と、言いかけて鷹森は急に顔を赤くする。
「……ご、ごめん!!何言ってるんだろうね僕!?ね、寝ようね!?もう寝よう!?」
真っ赤な顔で洗面所に駆け込む鷹森。
小二郎は後ろから明るい笑顔で叫んだ。
「今日の絢音、カッコ良かったよ!!」

鷹森が洗面所の段差につまづいて転んでいた。



【おまけ】
無事、初デートを終えた小二郎。
そんな小二郎にさっそく朝陽が無邪気に話しかけてくる。
「こじろー!どうだったのデート!上手くいった?」
「う、うん!あーちゃんの薬のおかげで、上手くいった!あの薬すげーよな!」
「そっか!良かったね!……くふふっ♪」
「どうしたのあーちゃん??」
何やら意味深に笑いをこらえるあーちゃん。
小二郎に元気いっぱいの笑顔で答えてくれた。
「だってね、あの薬……ただの水だもん!」
「え!?だって、オレ、本当にえっちな気分に……!」
「それはこじろーが“媚薬だ”って思い込んでたからだよ!分かった?
大事なのは気持なの♪こじろー達は、薬なんて無くてもちゃーんと触れ合えるカップルなんだよ!
自信持ってね!」
「あーちゃん……!!」
小二郎は嬉しくなって、フルフルと震えて朝陽に抱きつく。
「ありがとう!あーちゃんのおかげで自信持てたよ――!!」
「きゃははっ☆こじろーくすぐった〜い!!」
はしゃぐメイドたちのところに、日向や月夜も加わる。
「ねぇ小二郎のデートはどうだったの?」
「こじろー、ちゃんとエッチな事してきたって!」
「そうなの!?ま、男は男とイチャこくのがお似合いよね!」
「またまた〜〜ひなちゃん、ずーっと心配してたくせに〜♪」
朝陽の言葉に日向は『あーちゃん!!』と焦る。小二郎はまたまた嬉しくなって日向に頭を下げた。
「日向さんありがとうございます!!」
「バカ!アンタは私達の妹だから……可愛い格好してれば私好みなんだから!特別に許してるだけよ!
お礼なんか言うんじゃないわよ!男に感謝されても嬉しくないわ!」
「ひなちゃん素直じゃないな〜〜♪」
「あぁんもう!あーちゃん!からかわないでよ!この場で襲っちゃうわよ!?」
一段とはしゃぐメイド達の中で、月夜だけが赤い顔を片手で覆っていた。
(た、鷹森アイツ……虫も殺さん顔をして、意外と手の早い奴だな……)
と、不在の場所で妙な印象を持たれてしまう鷹森だった。




気に入ったら押してやってください
【作品番号 BSS23】

戻る 進む

TOP小説