TOP>小説 戻る 進む |
|
町で噂の大富豪、廟堂院家。 その屋敷で働く門屋準はバレンタイン当日にして悩んでいた。 執事寮の廊下を歩きながら。 (……や、やっぱチョコ無しってのはマズいのか……?) 例年ならCAD(小二郎ちゃんを愛する同盟→門屋準と遊ぶ同盟へ改名)の仲間内でチョコ菓子を食べながら騒いでる本日。 しかし今年の門屋にはプレゼントのやり取りを行うべき相手がいる。 ものの、門屋はバレンタイン用のチョコレートorそれに準ずるもの、を何一つ用意していない。 なぜなら…… (執事部隊の人間国宝たる、パーフェクトな俺の唯一出来ない事が料理なんだよな……。 ま、この世の中で男がキッチンに立つ必要なんて皆無なんだけど) そう考えながら門屋はため息をついた。 ちなみに、彼の料理できない理由は実家にいた頃、イラつくほど可愛いエプロンと調理器具を装備して、事あるごとに 『『準(君)一緒にお料理しよ〜〜♪』』 と、完璧な癒しスマイルで誘ってくる母と兄に反発し続けた結果である。 つまりやった事がないのだ。 (つーか、男の俺が何でチョコを渡すんだよ?俺はどう考えてももらう側だろ? いや相良も男だけど……チックショウ!!男同士でのバレンタインの礼儀作法なんて知らねーし!!) 門屋は悶々としながら頭を掻く。 チョコ無しはNG?いや、俺はどう考えてももらう側……の堂々巡り。 最悪、おやつ用に常備している安いチョコレート菓子でも渡せばいいだろうと結論付けた。 その時。 「リーダー!!」 聞きなれた、しかしいつもより明るく弾んだ声に呼ばれる。 声の主はもちろん、恋人の相良直文だ。 彼はいつものクールさをやや綻ばせて、嬉しそうな笑顔で…… 「リーダー、これ、バレンタインのプレゼントです!」 ズシッ! と、確かな重量を感じさせて門屋に手渡されたのは結構な大きさの可愛らしい箱。 取っ手の位置のビニール張りから覗き見るに、どうやら中身はチョコレートのケーキらしい。とても美味しそうな。 門屋はギョッとしたけれど相良は照れくさそうに言う。 「誰かに見つかる前に隠してきてくださいね?」 「お前っ、こ、こんなデカいもん……!」 「あー……やっぱ、大きいですよねぇ……張り切りすぎちゃって……」 申し訳なさそうに照れている相良に、門屋の方も何だか恥ずかしくなってしまう。 「ったく!!お前はしょーがねーな!!」 赤い顔を隠すように相良に背を向けてケーキを隠しに戻る。 相良と門屋が恋人関係なのは一応、屋敷の仲間には内緒なのだ。 「すみません」と、言う声を背中越しに聞きながら顔がニヤけてしまった。 そうして、門屋がケーキを隠して戻って、相良の姿を探していると、大きな共同リビングでCADの仲間に取り囲まれていた。 「相良!今年もおやつくれよ!」 「あるんだろ?手作りのやつ!」 「お前の美味しいから毎年楽しみな俺です!」 口々に言う仲間達に相良は笑顔で 「あるよ」 と、一言。 門屋はさっきまでの笑顔をむすっとさせて遠巻きに彼らを眺める。 (何だよ……皆に作ってきてんじゃねーか!あのカッコつけ野郎め! ……しかし、あんなデカいケーキを大量生産するなんてアイツ、もはや業者だな……) そんな事を考えながら相良を見つめていた門屋はあることに気づく。 相良がCADメンバーに手渡しているもの。 丁寧にラッピングされた小さな袋だ。おそらく中身はクッキーか何か。 門屋は目を丸くして考える。 (自分:大きなチョコレートケーキ>>>CAD:小さなクッキー=自分だけ特別) その図式を完成させた瞬間に相良と目が合う。 ふわっと優しげに目配せしてきた。まるで声が聞こえるようだ。 (皆には内緒ですよ?) 門屋はその瞬間に顔を真っ赤にして…… 「お前は女子か―――――っ!!!」 勢いよく相良に突っ込んでタックルしていた。 「うぉぉっ!リーダーが荒ぶってる!!」 「リーダー落ち着いてください!!リーダーの分もたぶんおそらくありますから!!」 「そうですよリーダー!無かったら俺の分けてあげますから!」 と、キャッキャと盛り上がるCADメンバーに囲まれて、結局クッキーももらえたお得な門屋だった。 |
気に入ったら押してやってください 【作品番号 Vsk】 戻る 進む TOP>小説 |