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シャルルのドキドキお留守番日記



★月★日

今日はお父様とお母様がお出かけしていて、明日まで帰って来ないの。
寂しいけれど琥珀丸や鼈甲丸がいてくれるし……
それにお父様とお母様にいい子で待ってるって約束したの。私はもう、お姉さんだしね!
お父様やお母様がいなくてもお留守番してみせるわ!

お昼になって、学校のお友達のルナちゃんと電話でお話ししていたの。
『――でね、今日が2時間スペシャルよ!すっごく楽しみ!』
「そうなのね!それはすごく面白そう!」
これは今、学校の女の子皆が夢中になってるドラマの話よ。
けど、そのドラマは夜の遅い時間にやってるから私はいつも録画して見ていたの。
そうでないとお父様とお母様に叱られるから。
『シャルル、今日はお父様とお母様いないんでしょ?遅くまで起きて見られるじゃない!良かったわね!』
「え?」
『やっぱり、その時に見ないと!リンジョウカンが違うのよ!ねぇ、今日は起きてて見るでしょう?』
「ええっと……」
確かに、今日はお父様とお母様がいないから遅くまで起きていても叱られない……かしら?
でも琥珀丸や鼈甲丸は許してくれるのかしら?
ドラマ、ものすごく見たいけれど……リンジョウカン、感じてみたいわ。
そうね……私……
夜更かししてドラマを見ることにしたわ!
だってこんなチャンス、これを逃せば無いんだもの!
一日くらいは大丈夫……よね?
「ルナちゃん、私も今日は起きて見るわ!」
『そうこなくっちゃ!今夜が楽しみね!』
「ええ!すごく楽しみ!」
とか、ルナちゃんと話してすごく楽しかった。
学校で会ったらドラマの感想を言い合いっこしましょう、なんて。
(早く夜中にならないかしら!)
私はワクワクしながら夜を待った。
どうにかして琥珀丸や鼈甲丸にバレない方法を考えなきゃいけなかったから
その日はずっと部屋から出なかったの。

そして夜。
私は先に寝たフリをして……部屋の電気を消してテレビを付けていたの。音はヘッドホンで聞いたわ。
(これで琥珀丸や鼈甲丸にはバレないわよね)
準備は万端で、ついにドラマが始まったの!
(あぁ!やっと生で見られた!)
本当に嬉しかったわ!今日は2時間スペシャルだし!
私は食い入るように画面を見つめた。
このドラマ、ちょっぴり“アクジョ”な姉妹が毎週華麗に大活躍するドラマなの!
今日は姉のルリが父の敵会社の社長の御曹司をユウワクしたり、
妹のアゲハが不良集団と決闘したりする話の続きよ!
(わぁ……すごい!ルリもアゲハもカッコいいわ!!やっぱりこのドラマは最高ね!)
私が一生懸命見ていたらドラマはあっという間に終わっちゃった。
終わってから、やっと呼吸ができたって感じ。
(あぁ……目を離すヒマが無かったわね……!来週のも早く見たい!)
さすが2時間スペシャルよ!とっても面白かったの!とっても!
ルナちゃんと熱いトークができそう!
それにしても……ルリとアゲハってやっぱりカッコいい!
特にどっちがカッコいいかって言うとやっぱり……妹のアゲハがカッコいいわ!
女の子一人で、あんな悪そうで強そうな、何故か髪の毛がフランスパンみたいな
男の子達をいっぱい倒しちゃうんだもの!戦う女の子って素敵!
お母様が見たら「ケンカはダメよ」って叱られちゃいそうだけど、女の子だって強くなくっちゃ!
「私もアゲハみたいに戦ってみたいわ!」
私はすっかりハイになって、部屋の電気を付けてアゲハのマネをしてみようと思ったの。
「えっと……まずは制服よ制服!!」
アゲハは紺のセーラー服を着て戦っていたわ!
私の学校の制服は紺ではないけどセーラー服には似ているの!
だから、私はとりあえず制服を着てみた!
……夜に、学校も無いのに制服を着るって変な感じ。
(ちょっと楽しいわ♪)
う〜ん、あと、アゲハの制服はスカートがとても長かった。
私の制服のスカートはそんなに長くない。
スカートを短くするのは、やってる子もいるけど長くするのは無理よね。
(仕方ない。スカートはこれでいいか)
あとは、強そうな武器があればいいんだけど……
私の部屋にそんな物があるわけ無かったわ。
仕方なく、長い物差しを持ってみたの。そうして鏡を見てみた。
「……ちょっと違うけど、アゲハの素質はあると思うの!」
そうよ!アゲハっぽさは出てるはず!
もっと、そうね、顔をキリッとさせれば!
(キリッ!!)
どうかしら!?アゲハ度が上がったわ!私の中で!
あとはアゲハの決め台詞を言ってみたら……私は息を吸い込んで言った。
「夜に舞うひとひらの蝶!人呼んで不夜蝶アゲハ!アタイをナメると怪我するよ!」
キャ――――っ!決まったわ!
私今アゲハになってるぅぅッ!不夜蝶になってるぅぅッ!
もっとカッコいいセリフが言いたい!!
「このアリ共め!まとめてかかって来な!」
「お嬢様?」
「何だい!?命ごいなら聞いてやるよ!」
「…………」
「あ、鼈甲丸……!!」
みっ……見られたぁぁぁぁッ!!
しししかも、アゲハになりきって返事をしちゃったわ!
どうしよう!恥ずかし過ぎるわ!!
関係ないけど鼈甲丸のパジャマはエレガントだわ!
フリルたっぷりのワンピースみたいなパジャマを着た彼が戸惑い気味に言うの。
「命乞いじゃないです……」
「わっ、分かってるのよ鼈甲丸!ごめんなさい!アゲハのマネなの!」
「……乱暴なお友達は、良くない」
「おっ、お友達じゃなくて女優さん!だから心配ないわ!アゲハはドラマの登場人物!」
「良くない」
「え?」
「夜更かししてドラマを見るのは良くない、です」
「そ、そうね……ごめんなさい……」
鼈甲丸の言葉がその通り過ぎて何も言えないわ。
黙っていると、鼈甲丸は困った顔で言うの。
「我は、奥様に“私達が留守の間、シャルルが悪い子だったらお仕置きしてあげてね”
って頼まれています。だから、お嬢様……」
うっ……もうダメ逃げられない……。私はそう悟ったの。
「我がお仕置きします」
私は鼈甲丸に捕まえられてしまった。
彼は軽々と私を抱え上げて、スカートを捲くってパンツを脱がせて……!
あぁダメ!こんなのって恥ずかしい!!
「べっ、鼈甲丸!!」
思わず叫んだら、彼の声を詰まらせる様な息遣いが聞こえた。
けれど返事はしてもらえなくて……
パァンッ!!
「きゃぁっ!!」
お尻が痛くて大声をあげちゃった……!
そりゃそうなのよね……ムキムキの鼈甲丸が叩けば痛いに決まっているもの。
パァンッ!パァンッ!パァンッ!
「やっ、あぁっ!痛い!ごめんなさい!」
すぐに謝ったんだけど……一度謝ったぐらいじゃ許してもらえなかったわ。
そのまま何度もお尻を叩かれた。
パァンッ!パァンッ!パァンッ!
「ひっ、いやぁぁ!!ごめんなさい鼈甲丸!!あぁん!」
本当に、泣きそうになるくらい痛いの。
お行儀悪く手も足もバタバタさせてしまったけれど、私の体はすごい安定感なのよね。
空中に浮いている感じなのに、鼈甲丸は腕一本で私を支えているはずなのに……やっぱり彼は力持ちなのね。
だからこんなにもお尻が痛いんだわ。
パァンッ!パァンッ!パァンッ!
「ひゃぁぁんっ!いっ、痛い!鼈甲丸ぅっ!痛いの!」
私は必死に鼈甲丸に呼びかける。
こんな事ならせめて、琥珀丸に見つかりたかった……なんて、失礼な事を考えながら。
「お嬢様は毎日9時に寝るお約束だったはずです。兄者が知ったらもっと厳しくお仕置きされますよ?」
「っ、ご、ごめんなさぁい!!」
一瞬、心の中を読まれたのかと思ってドキッとしたわ。そんな事も無いんだろうけど。
「旦那様と奥様がいないからって、夜更かしする子は許しません」
「ひゃぁぁん!!」
優しく言い聞かせる様な言い方で叱ってくれるのが、心優しい鼈甲丸らしい。
けど……それが彼の腕力と釣り合ってないの!!
痛い!すごく痛い!絶対今、私のお尻真っ赤になってる!!
「ぁあっ!痛いぃっ!ふっ、うぅっ……!ごめんっ、なっ……」
パァンッ!パァンッ!パァンッ!
「ひっ……うわぁぁぁあああん!!」
もう我慢できなかったの。
私、思いっきり泣いちゃった。
「お、お嬢様……!」
鼈甲丸の心配そうな声が聞こえる。
あぁ、彼は優しいから本当はこんな事もしたくないでしょうに。
そう思ったらとても申し訳なくなったの。
「あぁぁぁああん!ごめんなさい鼈甲丸ぅぅぅっ!!」
「う……」
パァンッ!パァンッ!パァンッ!
「あはぁぁあああん!!わぁぁぁあああん!!」
鼈甲丸を悲しませるなら、こんな風に泣きたくは無いのだけれど。
でも、涙も声も……暴れてしまうのも、自分ではどうにもできなかったの。
私にできる事はせめて心を込めて謝り続ける事だけ。
「あぅ、ごめんなさい!ひっく、反省、したからぁぁぁっ!」
パァンッ!パァンッ!パァンッ!
「あぁん!ごめんなさぁぁい!!」
鼈甲丸は何か言おうとしてためらったのかしら……吐息だけが漏れて、
それから小さく咳払いするのが聞こえたの。
「お嬢様、もう夜更かしはしませんか?」
「もうしない!!ぐすっ、もうしないわ!!」
「なら……」
彼がそう言ったから許してもらえるかと思って少し嬉しかった。
けど……実際は後少しだけ痛い思いをしたのよね。
パァンッ!パァンッ!パァンッ!
「うぁぁぁあああん!」
「もう終わりにしましょう」
そう言われてから、やっと地に足が付いた。
情けないけれどお尻が痛くて痛くて、しばらくは泣きやめなかったけれど……
鼈甲丸がずっと頭を撫でてくれていたの。

そして、私は泣きやんだんだけれど……今度は鼈甲丸の方が泣きそうだったわ。
「お嬢様……お尻が真っ赤になってしまった……」
「そ、そういう事は、私に伝えなくていいのよ鼈甲丸!」
恥ずかしくてそう口走った後に慌てて付け加えたの。
彼のために言うべき言葉はこんなのじゃなくて……
「貴方が私のために叱ってくれたのは分かったもの!
しゅんとするのは私だけでいいのよ!貴方は顔を上げて?」
「お嬢様……」
「笑って鼈甲丸。大好きよ」
そう言ったら、鼈甲丸は笑ってくれたわ。

その日、少し甘えて鼈甲丸と一緒に寝たの。
お尻は痛かったけれど……何だか得した気分♪
ただ、夜更かしはきっと二度としないわ。




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【作品番号】BSE9

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