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スーパー執事ブラザーズ



町で噂の大富豪、廟堂院家。そこで働く執事達……通称執事部隊。
その頂点に立つ執事長の上倉大一郎。
爽やかな笑顔が売りの彼は珍しく、執事控室の机で物憂げにため息をつく。
「はぁ……」
肘をついて額を乗せ、俯く彼。
憂鬱の原因はこの前偶然目にした素晴らしい制服だ。
黒いマイクロビキニにスケスケの白い腰だけエプロンをつけ、
手首と首にフリルの飾りを付けただけの……
その時見たのはメイド服だったけれど、ぜひ執事服に応用したい完璧な制服……!
むしろその次の日からでも着ようとしていた。
(けれど、あの服は旦那様も四判さんもお気に召さないらしいし……
もう着る事は出来ないだろうな……)
そう。その服は執事部隊の影のトップ・四判と実質の主である旦那様に
大反対を食らって却下になってしまった。
しかも、その際旦那様に、ついでのごとく今までの乱れた生活態度に関して
厳しくお仕置きされてしまったのだ。
(あぁ、旦那様……)
いつの間にか思考はそっちの方向へ流れてしまい、上倉は思い出す。
旦那様にお仕置きされたあの時の事を。
お尻を厳しく叩かれて真っ赤にされて……旦那様の言うことには……
『ふふっ、いやらしい子だね大一郎……私のお仕置きで感じているの?』
(ちっ、違います旦那様……!決して、そのような事は……!)
『君が誰の奴隷なのか、もう一度このお尻にしっかり叩きこんであげよう……』
(あぁっ……!そんな!いけません旦那様ぁっ……♥)
回想シーンは多大なる捏造を含んで彼好みに盛り上がってしまい、
上倉はそろそろと片手をズボンのチャックにかけた。
その時。
「上倉君?」
「っぁ!!」
急に声をかけられてビックリして顔を上げると、執事部隊の先輩の
出雲 入……イル君が、自分を見つめていた。
上倉は目をパチクリさせながら、動揺しつつ声を出す。
「な、何か御用ですか?」
「実は……」
「わっ、私がこんな所で禁断の一人遊びに突入しようとしているのを見て、
それをネタに脅迫して、夜な夜な嬲りものにしようって魂胆ですか!?」
「違います」
「何故違うんですかッ!?何故!?」
「落ち着いて。とにかくこれを見て下さい」
「こっ……これは!!」
上倉の暴走を遮って、イル君が取りだしたのは……
いつか夢見たセクシーな制服だった。
「貴方……どうしてこれを!?」
「私も、感銘を受けていたのです。あの時小二郎君が着ていた制服に。
あのデザインは生かせば最高の執事服になる……そう思っていました。
そして、実際にこの素晴らしい執事服が出来上がった。
今こそ一緒に、着てみませんか?」
「ですがっ……四判さんも旦那様も、この服はダメだと言っていました……!
それなのに着るわけには……!」
と、消極的な意見を述べつつ、目はキラッキラでセクシー執事服を見ている上倉。
イル君は意思の強い目でハッキリと言う。
「執事が執事服を着るのを……どうして躊躇う必要があります!?
見た目、デザインなど関係ない!我々執事が着ればそれはもう、執事服なんです!!
そして自分の執事服を決めるのは誰かじゃない……自分です!!」
「!!」
上倉は、イル君の言葉を聞いて雷にでも打たれたかのように目を見開く。
そして……力強く頷いた。
「イル君……目が覚めました!勇気をくれてありがとう!!
私は、誰にも囚われない!!私の誇れる制服で働きます!!」
「ええ。私も……一緒に、着ましょう!!」
青年二人は強い意志を胸に、いつもの執事服を脱ぎ捨てた。

そして……上倉とイル君はセクシー執事服にドレスチェンジした。
黒いマイクロビキニが、上は申し訳程度に胸を隠す。
下はツルリと光るTバック。それにかかるスケスケの白い腰だけエプロンの
透明感がまぶしい、手首と首にフリルの飾りには執事っぽさ満点の
黒の細リボンがアクセントで付いている。
そんな、半裸の青年が二人。
「行きましょうイル君!!」
「はい!上倉君!!」
実は他にも人がいた執事控室を大混乱に陥れ、
そこにいても十分危険な二人が外へ繰り出してしまった。


一方、ここは廟堂院家の双子の子供達の、兄の千歳の部屋。
テーブルに向かい合ってトランプで遊んでいた千歳とその弟の千早は
遊びも飽きたのか、二人でふと視線を合わせた。
「喉が渇いたね、千早ちゃん……」
「お腹がすきましたね、兄様……」
二人で同じような事を言ってクスリと笑った。千歳の穏やかな声が先に答える。
「ちょうどいいや。上倉に何か持ってきてもら……」
と、言いかけるとノックが聞こえた。
コンコンコン。
「千歳様!上倉です!おやつをお持ちしました!」
「イルです!紅茶もございます!」
タイミング良く飲み物食べ物を持って現れた二人の執事。
「あ、二人共いいタイミングだね。入って」
千歳がニコニコしながら部屋に招き入れる……と。
「ぎゃぁあああああっ!!?」
「なっ、何コレ!?」
双子の悲鳴が同時に上がった。しかし青年執事達は怯まない。
ササッとポーズを取ると高らかに叫んだ
「白いエプロンは忠誠の証☆!!」
「輝く素肌は服従の証☆!!」
「「我ら、スーパー執事ブラザーズ☆☆!!」」
「「黙れっ!!」」
スーパー執事ブラザーズの決め台詞は、双子のご主人様の一声で跳ね返されてしまった。
そして大声を出した千歳の方がフラリと体を揺るがせる。
「兄様!!お気を確かに!!」
とっさに千早が兄の横に駆け寄って体を支えると、千歳は両手で顔を覆って震える声を出していた。
「ムカつく……無駄に胸を隠してる所が特にムカつく……!!」
「にっ、兄様!!あぁ、何て事だ……!!」
兄に心配そうな顔を向けていた千早は、上倉とイルの方をキッと睨みつけた。
「貴様ら……兄様にそんな汚物を見せて、それなりの報いは覚悟の上だな……?」
「ハイ!!“汚物”頂きました――ッ!!」
「感無量です……!!」
「だぁまれ変態共がッ!!どっちからお仕置きされたい!?」
怒鳴る千早と嬉しそうなスーパー執事ブラザーズ。
そして千早の“お仕置き”発言で上倉がイル君を庇う様にさっと前へ出る。
「イル君!!千早様は本気です!先輩の貴方を先に行かせるわけにはいきません!
ここは、私が体を張って先行を務めさせていただきます!いいえ、心配ないです!任せて下さい!
先輩を守るのが後輩の役目!そんな!遠慮しないで!」
「上倉君、いいから君は下がってなさい。私が先です」
「はい喜んで!!……え?」
上倉は目をパチパチさせてイル君を見た。
イル君が真顔でやる気みなぎっていたので、慌て気味に言う。
「ちょっと!?私が先に行くって言ってるじゃないですか!」
「いいえ私が先です。千早様の鞭は私のモノです!!」
イル君は無表情ながらも熱い意思を感じさせるオーラで言い返す。
すると、ここから二人の言い争いが始まってしまい……
「いつそんな事が決まったんですか!?自分勝手な!
先輩のくせに、こういう事は年下に譲ったらどうなんですか!?」
「貴方こそ、年下のくせに先輩に譲る礼儀も無いんですか!?とにかく私が先です!」
「いいえ、私が先です!私は執事長ですよ!?」
「関係ありません!私が先です!」
「私ですってば!!」
「絶対に私です!!」
両者一歩も引かない言い争い。
最初はポカンとしていた千早が、慌てて二人を怒鳴りつけた。
「お、おい!いい加減にしろ!どっちでもいいから早く……」
「…………ッ!!」
ここで初めて、今まで顔を覆っていた千歳が思いっきり叫んだ。
「四判!!」
「「「!!?」」」
千歳らしからぬ大声に、千早もスーパー執事ブラザーズも
驚いて、さらに呼ばれた四判も大慌てで駆けつける。
「どうかいたしましたか千歳様!?」
「コイツらをどうにかして!!」
千歳が勢いよく指さしたスーパー執事ブラザーズの方を見た四判は真っ赤になって慌てていた。
「なっ……なな、何をしてるんですか君達はッ!!
あぁぁ申し訳ございません千歳様、千早様!!」

☆☆スーパー執事ブラザーズ ゲームオーバー☆☆

と、いうワケでその後は別室に連行されたスーパー執事ブラザーズ。
当然の事ながら四判からのお説教タイムとなっていた。
「本当に君達は!普段から年長者としての自覚が……」
「イル君のせいで怒られたじゃないですか……
ねぇ、適当におだてて四判さんの機嫌を直して下さいよ」
「分かりました。やってみます」
「…………」
目の前で半裸で正座する二人の青年の丸聞こえ作戦会議にピクピクと眉を引きつらせる四判。
けれども、一応は黙っておだてられてみようかとイル君の言葉を待つ。
「四判さん……その……四判さんって服の色が素敵ですね」
「君達も本来なら同じ色の服を着ているのですぞ!!?」
大声で怒鳴る四判。
上倉がイル君の太ももを軽く何度も叩きながら不満げにしている。
「全然ダメじゃないですか!ジジイはジジイなりにもっと他におだてる所あるでしょう?!眼鏡とか!」
「いえ……眼鏡は、デリケートな話題です。今は避けた方が」
「なら、私がおだてます!星の数ほどの男を魅了した私の口説きテクを今こそ……」
一体、いつまでこのくだらない言い争いを聞いていようかと迷う四判。
そう迷っているうちに上倉が言う。
「あの……四判さん?ええと……」
いつもやっているような輝く笑顔を四判に向けて、何か言おうとした
上倉は……一瞬で笑顔を曇らせてイル君を見る。
「ごめんなさいイル君。四判さんってタイプじゃないからやる気が出ませんでした」
「もういいそこに直れぇぇぇっ!!」
やっとこさで怒りが限界に達した四判が上倉の腕を掴む。
驚いたらしい上倉は目を閉じて抵抗していた。
「や、やめて下さい!!」
「上倉君!!さっき私をジジイと言った事、ハッキリ聞こえていましたからね!?」
「えっ、そんな……ほら、そんな怖い顔をするとせっかくの老け面(フケメン)が台無しですよ!?」
「余計なお世話です!!イケメンみたいに言っても誤魔化されませんぞ!?
今日という今日は絶対に許さん!!」
「あ、あまり年なのに怒ると血圧が……!!ご老体なのに無理をなさっては……!」
「黙らっしゃい若造がぁぁぁッ!!年寄り扱いするんじゃなぁぁぁい!!」

「四判さん」

揉み合っていた四判と上倉の声の間に、冷静な声が割って入る。
四判がキッと顔を向けて怒鳴るように叫んだ。
「何ですかッ!?」
「今回の事は本当に私のせいなんです。私がこの衣装を持ってきて
上倉君に“一緒に着よう”と誘ってしまったんです。
だから上倉君の事は許してあげてくれませんか?私が上倉君の分も叩かれていいので」
「え!!?」
イル君の言葉に、上倉が驚いて四判は困惑した。
「けれど……上倉君は全然反省していないようですし……」
「反省していないと言いますか……彼、貴方に叩かれるのが恥ずかしいんですよ。
厳密にいえば体の変化を見られるのが。さっきから憎まれ口ばかりですが、
本当は貴方の事をとても慕って尊敬していますので」
サラッとそんな事を言ってしまったイル君。上倉が顔を赤くして慌てていた。
「い、イル君やめて……!
四判さんが勘違いして私に肉体関係を迫ってきちゃいます……!」
「おバカ!そんな事しません!!それに……
上倉君の憎まれ口が、私に甘えてるんだという事ぐらい最初から知っています」
「ほらぁっ!自意識過剰になっちゃったじゃないですかぁっ!!」
「いいですか上倉君?」
急に真剣な表情になって、四判は上倉を真っ直ぐ見ながら言う。
「私は君がお尻を叩かれたら体に反応が出るほどの性的な興奮を得てしまう事も、
それが君の意思ではどうしようもないという事も、それでも
叱ればきちんと反省してくれるという事も、実際に何度も見て知っています。
そして、君が本当は家族想いの純粋で心優しい青年だという事も知っています」
「あっ……く、口説こうったって、私、四判さん、タイプじゃ……」
「そうやって何でもふざけるフリをして誤魔化そうとする事も知ってます」
そう言い切られてしまうと、上倉はますます困惑したように赤面して何も言えなくなってしまった。
四判がさらに言葉を続ける。
「とにかく、私の前で君が恥じる事なんてありません。
もし、あるとしたら……そんな格好で遊び歩いた事を恥じて反省しなさい!」
「うわっ!?」
四判は勢いよく上倉の腕を引き上げる。
そこから体を小脇に抱えるようにしっかりと固定して、元々Tバックなので脱がせる必要も無く、
剥き出しになっているお尻に平手を食らわせていた。
バシィッ!
「――ひっ!?」
一発目を受けただけで激しくのけ反っていた上倉を
ガンガン追加で叩きつつ、顔はイル君の方を見ながら四判が言う。
「君のお願いは却下ですイル君!
どちらかと言うと、上倉君の方が厳しく躾をする必要がありそうですからね!」
「そこを、何とか……」
残念そうな、気の毒そうな表情でオロオロと四判と上倉を交互に見つめるイル君。
そんなイル君に、四判は優しく笑いかける。
「何と言われてもダメなものはダメです。けど、君の仲間を思いやる心には大変感動しましたぞ!
それに比べて……」
ビシッ!!
「あぁぁあっ!」
対して、下で悲鳴を上げている上倉には厳しい表情で怒鳴りつけた。
「何ですか君は!反省した態度の一つも見せずに、私をからかうような事ばかり言って!!」
バシッ!バシッ!バシィッ!
「いやっ……あぁぁぁあっ!!」
「悪い事をした時くらい、真摯な態度を見せたらどうなんです!?
他の仲間達をまとめる立場の君がこんな事だとは、なんと情けない!!」
「痛い!痛いぃ!!」
「ふざけて良い時と悪い時があります!
いつもいつも“冗談”で済まされるわけではありませんぞ!?」
「うっ、あっ……んぁああうっ!」
四判がお尻を打つたびに悲鳴を上げて暴れる上倉。
叩かれ始めてから今まで、悲鳴ばかりでろくに喋れていない。
そんな様子に気づいているのはイル君だけで、驚いた顔で呆然としていた。
四判の方はお説教しながら叩く事に夢中のようだ。
「そもそも、年上を敬う心があればこんな時にふざける事なんてできないはずです!
イル君にしても、私にしても、月夜さんにしても……君は年長者に軽口を叩き過ぎですよ!?」
「んあぁぁっ!いぃぃっ!!」
「どんなに親しくても礼儀というものがありますし……こら!ちゃんと聞いているのですか!?」
「やぁああああっ!」
「それと話を戻しますが、君の普段の……」
バシッ!バシッ!バシッ!
「いっ、痛い!やっ……うぁああっ!」
バシッ!バシッ!バシッ!
「……で、だからいつも言っているように、君が気を付けないといけないのは」
今まで相当溜めこんでいたのか、それとも一度お説教しだすと
止まらない性質なのか……どう考えても上倉の悲鳴が2割程度の
お説教と打音のオンパレードなお仕置きが長らく続き、
「……と、いう事です。分かりましたか?」
と言って、やっと四判が手を止めた時には上倉のお尻は真っ赤に腫れあがっていた。
上倉からすれば長く続いていた痛みがやっと止まって、
まるで今から初めて呼吸するかのように大げさに息を吸って吐いてしていた。
「はぁっ、ぁ……はぁ、はぁっ……は……」
その荒い呼吸の中に興奮の成分が入っているのも確かで、
頬を赤くしてガクガクと体を震わせながら、目を閉じただけで涙がボロボロ零れる。
「上倉君……」
「うっ……ぁ……わ、分かりましたぁッ!良く分かりました!
見ないで下さい……!お、お願いですから何も言わないで……ください!」
正直、痛みと快感に耐えるのに必死でお説教の内容など耳の右から左へ……だったのだけれど
そんな事は言えないし、Tバックの前は張っているしで泣きながらそう叫んだ上倉だった。
しかし……
「いえ、君はねぇ……ここまで一回も謝罪の言葉が出ないとはどういう事ですか!?」
バシィッ!!
「うわぁあああん!!」
やっと一息付けたのに、また強く叩かれたので泣くしかない。
「(だっ、だってろくすっぽ喋れないほど痛いし!俺が口を挟めないほど
長々と説教してたくせにぃぃっ!!)ご、ごめんなさい!ごめんなさぁぁぁい!」
言いたい事は心の中に置いておいて、必死に謝る上倉。
けれど四判の答えは厳しいばかり。
「自分から謝れないなんて反省してない証拠です!!」
「ち、違いますごめんなさい!あぁっ!もう嫌ぁぁっ!んぅぅ〜〜ッ!!
(あぁヤッバ……また気持ち良くぅぅぅッ!!)」
バシッ!バシッ!バシッ!

「よ、四判さん……」

「何ですかッ!?」
上倉と四判の間にイル君が割って入る事2回目。
イル君は腰引け気味に、慎重に言葉を紡ぐ。
「その、そろそろ許してあげるか……せめて休憩を、入れてあげないと……
上倉君が……あの……」
「…………」
そう言われて四判が上倉の様子を見れば、どう見ても熱に浮かされたように
目が虚ろになっており、喘ぎ声に近い呼吸なので……
『あぁ』と納得しつつイル君と顔を見合わせると、イル君も続きの言葉を話してくれた。
「その間、私に罰を与えてくだされば……時間の無駄も、無いかと……」
「……仕方ないですな……」
四判は一つため息をついて上倉の体を解放して起こす。
そして、ぐすぐすとすすり泣いている上倉にこう言った。
「これで終わりじゃありませんよ?後で仕上げをしますからね」
「……サディスト……」
「君はッ……!!」
バシィッ!!
四判は目を丸くした。
“もう一回叩いてやろう!”とは思っていたけど今叩いたのは自分じゃない。
いつの間に傍まで来たのか……そしていつの間にパドルを所持しているのか。
今、上倉のお尻をパドルで叩いたのはイル君だった。
「余計な事を言わないで」
「わぁああん!ごめんなさい!」
「こちらこそ。君を巻き込んでしまってごめんなさい」
イル君はそう言うと、“そんな事ない”とでも言いたげにブンブンと頭を横に振る
上倉の背中を優しく押してこの場を離れるように無言で促す。
そして四判に自分の持っていたパドルを渡した。
「四判さん、お騒がせしてしまって申し訳ありませんでした。
それに……後輩である上倉君までこんな事に巻き込んでしまって……
どうか厳しい罰をお願いします」
淡々と言い終わって、深く頭を下げるイル君を見て
四判はすっかり感心してしまった。
「……君は……もう叩かなくてもいい気がするほど完璧ですな……」
「いいえ。私だけお咎めなしでは、後悔で今夜眠れません。
それに、上倉君に無茶な要求をされた時に罪悪感で断れなくなりそうですし」
「なるほど。それならば、きちんと罰を与えるとしましょう」
「はい」
イル君は自ら壁に手をつく。
ので、四判も差し出されたお尻にパドルを振るった。
バシッ!
「……っ、あ!」
「君は十分反省しているようですし、あまり言う事もありませんが……どうしてこんな事を?」
「うっ、この執事服……素敵だと思いませんか!?」
「…………」
同意できず、四判は黙ったまま叩き続ける。
それで答えを察したらしいイル君は、息を切らせながらも言った。
「残念、です……!理解者、少ない……はぁっ、でも、私は、どうしても着てみたくて……!!」
「そうですか……」
「申し訳ありません……!周りの方がどう思うかも考えるべきでした……」
「ええ。それに、千歳様や千早様の教育にも悪い」
「千早様にこの姿をぜひお見せして、そして罵って欲しくて!!」
「コラァァァァ!千早様に不純な感情を抱くのはやめなさい!!」
バシッ!バシッ!バシッ!
今まで完璧だったイル君の問題発言に、ついついお尻を叩く手にも
力が入ってしまった四判。今まで大人しめ反応だったイル君の体がガクンと跳ねた。
「あぁぁっ!ごめんなさい!!」
「君は、正しい判断ができる人なのですから!
一時の感情で暴走してこんな風に叱られてはもったいないですぞ!?」
「は、はい!!くっ!」
バシッ!バシッ!バシッ!
その大きな反応の後は、特に目立った抵抗も見せずイル君は必死でお仕置きに耐えていた。
お尻が赤くなってもそれは変わらない。
よっぽどの我慢強さと従順さで耐えているらしい事が窺えて、
これなら、後少しで許してもいいだろうかと四判が判断するほどだった。
そうなってからやっと苦しげな声が縋るように呼ぶ。
「あっ、うっ……四判さん!」
「限界ですかな?もう反省したなら終わりますぞ?」
「い、いえ……!まだ!!
上倉君の、っ、叩かれた回数に達してないので……!」
「!!(数えていたのかこの子は……)」
四判が驚くと、慌てた様なイル君の声がした。
「あっ!す、すみません……声に、出さず……!」
「いいえ、結構。上倉君にも今日は数えさせていませんし」
イル君の一言一言に感心しつつ、四判は彼のお尻を叩き続ける。
バシッ!バシッ!バシッ!
「うっ……ぁ……あぁっ!!ごめんなさい!ごめん、なさい!!」
「もう二度としませんね?」
「は、はい!ですが……まだ……!!」
「いいえ。もう十分」
そう言って手を止めると、イル君は悲しそうな顔をした。
「そんな……」
「これで反省するなら、これも罰です」
「……そうですね……申し訳ありませんでした」
しゅんとするイル君の頭を、四判はそっと撫でる。
そうして四判とイル君がふと上倉の方を見ると
「あっ、う!」
突然、バンッ!と、まるで虫でも潰すかの様に床を叩く両手。
Tバックを足首までずり下ろした状態で膝をぎゅっと閉じて、
気まずそうに視線を彷徨わせる上倉の姿があった。
「ごっ、ごめんなさい!!ごめんなさい!
変な事は、してなくて……その、“仕上げ”が、あるようですし!
だから、脱いで……私、は……そんなつもり、なくて……うぅっ、イル君……ごめんなさい……!」
「四判さん……パドル、貸していただけますか?」
と、静かに言ったイル君に思わずパドルを渡す四判。
イル君は上倉に近付いて、トントンと背中を押した。
「そのまま、体を床に付けて。お尻を突き出して」
不安げにイル君を見上げていた上倉は、観念したように
特に抵抗もせず、体をべたっと床に付けるようにお尻を突き出した。
イル君は付き出されたお尻が叩きやすいように腰を落として
なお且つ、上倉の口元に手を差し出す。
「口を開けて」
短い命令口調に上倉が素直に口を開けると、指をまとめて3本ほど押し込んだ。
「やましい事が無いなら、そんなに一生懸命謝ってくれる必要も無いでしょうに。
貴方の舌は本当に一枚だけですか?」
バシッ!!バシッ!!
「んっ、づぅっ……!!」
パドルを持った手で上倉のお尻を叩き、口に入れた方の手は軽く動かす。
まだ赤みの引かないお尻を叩くたびに上倉の苦しそうな、悲鳴にもなれない声が漏れた。
「ぢゅっ、う゛っ……!」
「別に、私を見て“変な事”をされててもいいですよ。悪い気分ではありませんし。
ただ……お仕置きの終わった傍からそんな態度なのはいただけませんね。
しかも、四判さんの前で……反省なさい」
バシィッ!!
「んん゛っ……ぐむぅっ!!」
思いっきり振るったパドルを受けると
口を軽く封じられながらも一際大きい呻き声を上げ、大きく体を震わせる。
「反省しました?」
イル君にそう聞かれた上倉が何度も頷くと、
あっさりと手を止めて口に入れていた指を引き抜いた。
そして呆然としていた四判の方を向く。
「と……これが“仕上げ”という事でいいでしょうか四判さん?」
「え、えぇ……」
半分何が起こったか分からないまま、四判が頷くとイル君が丁寧に頭を下げた。
「では、私達は仕事に戻りますので。本当にご迷惑をおかけしました」
「ごめんなさい四判さん……今から着替えて真面目に働きます」
上倉も元気無く謝って、服を整えて二人共が部屋から出て行く。
一人取り残された四判は思った。
(あの子ら……一応、反省、したという事でいいのでしょうか……?)
執事部隊の中でツートップと言っても差し支えない変わり者達の躾に、
改めて難しさを感じた四判であった。




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【作品番号 BSS19】

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