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町で噂の大富豪、廟堂院家。 ある夜、執事寮の自室で雑誌を読んでのんびりしていた門屋 準(かどや じゅん)のところに、 後輩の鷹森 絢音(たかもり あやね)がやってきた。手に小包を持って。 「門屋さん、実家から荷物が届いてますよ?」 「実家から?」 「はい。差出人は門屋…… “はじめ”さん、って、書いてあります」 「ああ。そこのゴミ箱に捨てとけ」 「はい。……はい!?」 「何回も言わせんなよ。捨・て・と・け。ゴミ箱にダンクシュート」 全く雑誌から視線を外さないで、門屋は当然のように言う。 鷹森の方は戸惑うばかりだ。 「で、でも、そんな、中身も見ずに捨てるだなんて!!ご家族からなんでしょう?! 何か大切なものを送ってくれたのかもしれませんよ!?」 「あ、そっか。仕送り金が入ってるかもしれねーもんな。一応開けとくか……」 ポンと雑誌を閉じた門屋は、鷹森から小包をひったくって、カッターナイフで雑に開ける。 鷹森が見守る中、小包を開けると出てきたのは…… 「わぁ!!可愛いですね!!」 「…………」 ぱっと顔をほころばせる鷹森と、白けた顔で硬直する門屋。 2人が見たものは全く同じ。小包の中、パステルカラーのペーパークッションの上に ちょこんと乗った小さなぬいぐるみ。優しい黄色の、子ウサギのキャラクターが可愛らしい笑顔で微笑んでいた。 門屋は、おもむろにそのぬいぐるみをワシ掴みにすると…… 「ナメてんのかあの天パ祭り!!」 「門屋さん!?」 ぬいぐるみを思いっきり床に叩きつけていた。ぺしゃっと床で低く跳ねたぬいぐるみを鷹森が慌てて拾う。 「何するんですか!?可哀想じゃないですか!」 「るっせ――――よ!!成人過ぎてる弟に、こんなもん送りつけてくるのはなぁ、 嫌がらせかケンカ売ってるかの2択なんだよ!くそっ!開けるんじゃなかった!!」 「お、落ち着いてください!えっと、お兄さんがせっかく送ってくれたんでしょう?? ほら……手紙もついてますよ!?」 鷹森が小包の中に添えられた手紙を指さしつつ門屋を宥める。 けれども門屋は相当イラついているようで聞く耳持たない。 「読むかこんなもん!!余計イラつくに決まってる!!ああ〜〜、今すぐ視界から消したい! オラ鷹森!そのキモイ人形、箱に戻せ!今度こそゴミ箱に突っ込んでやる!」 「だ、ダメですよそんなの!!せっかくお兄さんが送ってくれたのに!!」 「はぁ!?アイツが送ってきたもんをどうしようが俺の勝手だろうが!いいから戻せ!」 「ダメですってば!捨てるなんてこの人形も可哀想ですよ!そんな事するくらいなら僕にください!!」 勢い良く叫んだ鷹森。その言葉に、さっきまで機嫌が悪かった門屋の表情が変わる。 「……え?お前、こんなの欲しいの?」 一瞬キョトンとして、それから良いオモチャを見つけた子供のように嬉しそうな表情で 「うっわぁぁ!え??お前、こういうの好きなの!?女っ々っしいっ! マジかよネタじゃねぇか!何お前、女みたいな顔してマジで女々し野郎!?あっはははははは!!」 「いっ、いいじゃないですか!!」 お腹を抱える勢いで笑うので、鷹森は真っ赤になりながらもムッとした顔をする。 門屋はケラケラ笑いながら犬にするようにしっしと手を払う。 「あっははははは!持ってけよ!やるよそんなもん! 童貞女々し野郎には似合ってんじゃねぇの!?ひはははははっ!!」 「〜〜っ、ありがとうございますっ!!」 珍しく叩きつけるように叫んで、ぬいぐるみを持って小走りに帰って行った鷹森。 門屋は最後までヒィヒィ言いながら笑って見送った。 一しきり笑うと、箱の中にある手紙に目がいく。 最初は怒りで“読まずに捨てる!!”と思った門屋だが、改めて見てみると少し中身が気になった。 (……中に、現金が入ってるかも、しれねぇし?) 自分で自分を納得させつつ、門屋は封を乱暴に開け、バサッと手紙を目の前に広げてみる。 送られてきたぬいぐるみと同じキャラクターと、その仲間らしきキャラクターが書かれた カラフルで可愛らしい便せんに、几帳面な字が綴られている。 内容はこんな感じだった。 『準君へ 準く――ん、お元気ですか〜〜?お仕事頑張っていますか〜〜? お兄ちゃんはね、元気です。お仕事も頑張ってるよ? あ、でもー、サークルの方が頑張ってるかな?えへへ。 でね、あのね、ロロ君達が、2周年になりました!だから、新しいお友達をグッズ化しました〜〜☆ 準君ビックリしちゃだめだよ?なんと、ぺぺ君です!ロロ君とぺぺ君は、とっても仲良しの兄弟なんだよね〜〜? 僕と準君みたいに。だから、大好きな準君にぺぺ君を送ります!仲良くしてあげてね〜〜? 準君が元気で、お仕事がんばれますように! お兄ちゃんより』 「……脳沸いてんのかこのクソ天パ祭り!!」 読み終わった瞬間、手紙を両側からぐしゃっと潰す門屋。 手紙の内容が、兄のおっとりボイスで再生されてしまい再びイライラMAXになる。 「テメェのぬいぐるみが2周年とか知るかよ!新キャラとかどうでもいいわ!心底どうでもいいわ! 何でそれを俺に送ってくるって結論に至るんだよ!?そこにビックリだし!! んで、どう考えたら俺とテメェが仲良し兄弟なんだよ!?現実見えてねぇよ!眼科行きやがれ眼鏡天パ!!」 思いっきりイライラを声に出して部屋にぶちまけ、門屋は息を切らせる。 手紙を丸めてゴミ箱に放った後、封筒の中にもう一枚紙がある事に気が付いた。 ついでなので引っ張りだして広げてみると、中には小さめの画用紙が入っている。 下手くそな、けれども一生懸命描いたような子供の絵。クレヨン画の小さなウサギのキャラクターが笑っていて、 その横には震える、不器用な字で“ぺぺくん”と書いてあった。 「あ……!」 それを見て、門屋の脳裏にある記憶が蘇る。 『にー!にー!』 嬉しそうな笑顔で兄に駆け寄っていくのは幼稚園頃の自分だ。 手持っている画用紙を必死で兄に見せようとしている。 『どうしたの〜〜準君?』 高校生頃の兄が優しい笑顔で、自分に目線を合わせるようにしゃがみこむ。 この頃はもう眼鏡をかけていた。 『あのね!あのね!ロロくんのおとーと、かいたの!ぺぺくん! じゅんと、にーみたいになかよしなの!いいでしょ??じゅんが、かんがえたんだよ!』 得意気に見せた絵を、兄は本当に嬉しそうに褒めてくれた。 『わぁ!!ぺぺ君かぁ!可愛いね!ロロ君の弟にぴったりだよ! ロロ君にこんな素敵な弟をくれるなんて、準君すごいねぇ!ありがとう!』 『うん!にー、ぺぺくんも作ってくれる?』 『作るよ〜〜!だって準君が考えてくれたんだもん!すごく嬉しい!』 兄がぎゅっと自分を抱きしめる。自分も小さいなりに兄に縋りついて喜んだ。 『やったぁ!ぺぺくんはやくみたいなぁ!』 その次の日、さっそく兄が作ってくれたぺぺ君のぬいぐるみで仲良く遊んだ。 ずっと昔の記憶だ。 まだ兄に懐いていた頃の、本当に仲が良かった頃の記憶。 手芸が趣味でぬいぐるみを上手に作る兄も、兄の考えた可愛いキャラクター達も大好きだった頃の懐かしい記憶。 胸の奥がツンとした。 「…………こんな昔の、へったくそな絵………」 今まで、大事に取っていたというのだろうか? 今頃、また作ったというのだろうか?この絵と同じキャラクターを。 こんな下らない思い出を、ずっと覚えていたというのだろうか? 「バカじゃねぇの……」 呟く言葉にさっきまでの勢いは無い。 捨てようとしてしまった。床に投げつけてしまった。鷹森にあげてしまった。 考えていると泣きそうになった。 (何でここで俺が……泣くんだよ!!) ゴシゴシと乱暴に目元をぬぐったら、本当に涙が出てきた。 「ふっ、ふざけんなよクソ兄め!!全部あいつのせいだ!!」 やけになった門屋は、ベッドに飛び込んで、しばらくしたらそのまま寝てしまった。 次の日。 廟堂院家の屋敷には、鷹森を密かにつけ狙う門屋の姿があった。 (べ、別に返して欲しいとか、そんなんじゃなくて、ただ……そう! 鷹森は俺の敵だからな!敵に塩を送るなんて、俺らしくなかった!やっぱりアイツは徹底的に潰さないと! 甘い顔はできないぜ!そうそう!これは一見、鷹森に施しを与えたと思いきや、後から奪う嫌がらせの一種だ! そういう作戦だったんだ!さすが俺頭いい!!) 自分に対する言い訳タラタラで、鷹森を尾行する門屋。 門屋の尾行が上手いのか、鷹森が鈍感なのか、尾行は気付かれる事なく時間は流れ…… (よし、そろそろ山賊のごとき奇襲を……!!) 門屋がそう思ったその時、別の人物が現れる。 「鷹森!」 「小二郎君!」 現れたのはスカイブルーのメイド服がまぶしいメイドの小二郎だった。 鷹森に駆け寄って嬉しそうにしている。 「お疲れ様!今日も偶然会えるなんて嬉しい!」 「そうだね。最近会える事が多いかもね。僕も嬉しいよ」 「あ、そうだ鷹森!お前、可愛いぬいぐるみ持ってるんだって?!おにぃが言ってた!」 「うん。そうなんだ」 にこやかに会話する二人。 物陰から二人を見ていた門屋というと…… (え……?何アイツ俺の人形をダシに小二郎と仲良く会話しちゃってんの?よし、コロス) 『鷹森抹殺計画』を光の速さで立てていた。 そんな事とは知らない鷹森は笑顔で会話を続けている。 「実は、門屋さんにもらってさ」 「へぇ!門屋にもいいとこあるんだな!」 (後でお菓子をあげるよ鷹森ティ〜〜☆☆) 門屋の喜怒哀楽は結構単純だったりする。 笑顔の小二郎に褒められて上機嫌、だが…… 「なぁ、鷹森……夜にそのぬいぐるみ見に、お前の部屋行っていい?」 「鷹森覚悟ぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 結局は何の迷いもなく、鷹森に飛び蹴りを食らわせていた。 そしてこの騒ぎが執事長にバレないわけもなく…… 空き部屋にて、ベッドに腰掛けた執事長の上倉の膝の上に強引に乗せられた。 「明日から、君の事“懲りない星人”って呼びますね?」 呆れた様子で門屋が着ているズボンと下着を脱がせる上倉。 門屋の方は、必死に抵抗しつつ反論する。 「ま、ま、待ってください!!俺、地球人ですから!それにあれは鷹森が悪いんですって!! 鷹森が小二郎に、『今夜部屋に来いよ?可愛がってやるぜグヘヘヘヘ!』って言ってたんですよ!? ここは先輩として小二郎を守らなきゃいけないじゃないですか!」 「……本当に鷹森君がそう言ったんですか?」 「もちろんです!」 「もしもそれが嘘だった場合、私と結婚するんですね?」 「ぎゃぁぁぁぁっ!!嘘です!!嘘つきましたごめんなさい!!」 「今から嘘ついた分40回叩く間に、すぐバレる嘘は自分の首を絞めるという事を学んでください」 さらっとそう言って、さっそく門屋のお尻をパドルで叩き始める上倉。 バシッ!バシッ!バシッ! 「やっ!?あぁっ!兄さん!!痛っ……!」 痛みで身を捩っても、状況が変わるわけでも痛みが減るわけでもなかった。 かといって、大人しくする門屋でも無い。落ち着きなく抵抗しつつ好き勝手叫んでいる。 「い、た……痛いです!ごめんなさい!もう嘘なんて……つきませ、んんっ!はっ、反省しました!」 「そうですか。それなら少しは大人しくしていただけるとありがたいんですけどね」 そうやって40回叩かれて、終わる頃には門屋は少し息が切れ気味になっていた。 けれど息を整える間もなく上倉の声が聞こえる。 「さて、本番に入る前に一つお聞きします。今日はまたどうして、鷹森君を蹴ったりしたんですか?」 「え?……何でって、そりゃぁ……」 言いかけて、少しぼんやりしていた門屋の頭は急に動き出す。 理由を全部言おうとする事に全力でストップをかけた。 (ヤッベ……あのクソ兄のぬいぐるみを取り返そうとしてたなんて言えない!!――って!違う違う! 俺は鷹森に天誅を下す為に!そうこれだ!この理由を言おう!) 門屋は思い切り息を吸い込んで元気に答えた。 「決まってるじゃないですか!鷹森は俺の敵なんですよ!?鷹森を倒すのが俺の日課なんです!」 「……」 バシィッ!バシッ!バシッ! 無言で始まった、しかも厳し過ぎる第二ラウンドに門屋は大声を上げた。 「ふわぁぁぁああっ!痛い痛い痛い!そんな、兄さん、いきなり痛いぃぃぃっ!!」 「失礼。あまりの小学生理論に呆れて声が出ませんでした。本当にその言い訳でいいんですか?」 「言い訳じゃなっ……ひぇぇっ!あ、の、今日はっ!いくつで許していただけるのでしょうかぁぁぁッ!?」 お尻を打たれるたびに体を反らせて、歯を食いしばりつつそう尋ねると、返ってきたのは小さなため息。 その後に続く、何ともやる気無さ気な声 「その、く――っだらない理由で人に暴力を振るうような子は、もう数えられるような数のお仕置きじゃ足りませんから 君のお尻が真っ赤になって泣いて……そうですね、私が頃合いよしと判断するまでやりましょう」 で、言われた信じられない言葉に門屋は全身で悲鳴を上げる。 「うわぁぁぁぁっ!!何ですかそれ!?終わりが見えない!嫌だぁぁぁぁっ!!」 「何度言っても同じ事ばかりするし、一度、本気で泣いて頭の中空っぽにしてしまったら バカな思考回路が治るかもしれません。ねぇ?」 「ごめんなさい!嫌だ!許して下さい!もうしません!お願いですからぁぁぁぁっ!!」 バシッ!バシッ!バシッ! 心の底からそう訴えても聞こえてくるのは自分が尻を打たれる音だけ。 本気でやりかねないような雰囲気に、痛みよりも恐怖が先立って涙が出てきた。 「ふっ、ぇぇっ……兄さん!嘘だって言ってください!本当に、勘弁してくださいよぉ!兄さんってばぁっ!」 「あ、そういえば。数はいいとして、ご挨拶はどうしたんでしょうね〜〜お喋りな子ウサギさん?」 「いっ、頼むから数を固定してください!でないと、ご挨拶もできないじゃないですか!」 「応用力のない事ではいけませんよ門屋君……『後輩をいじめた私にパドルで反省できるまでお尻叩きの罰をお願いします』。 これでいいじゃありませんか。ほら言って」 「ぇっ、ぐすっ、そんな恐ろしい事言えません……!!」 「だったら……その騒がしいだけの口はボールギャグか何かで塞いでしまった方がいいかもしれませんね」 「わぁぁぁぁん!!『後輩をいじめた私にパドルで反省できるまでお尻叩きの罰をお願いします』ぅぅぅっ!!」 「よくできました。自分で言ったんですから、暴れないでいい子にしててくださいよ?」 「やだ!やだぁぁぁっ!兄さんごめんなさい!もうしませんから!ごめんなさい!!」 怯えながら何度謝っても、許してもらえる気配もなく叩かれるだけだった。 息が詰まりそうな痛みが延々と続いて、お尻がどんどん赤く染まっていく。 バシッ!バシッ!バシッ! 「あぁぁっ!ごめんなさい!はぁっ、兄さんやめてぇっ!!何でもするからぁ――っ!!」 「……『兄さん』といえば……君のお兄様の人形、鷹森君が持ってましたね。 お兄様が、君に送ってくださったものをもらったって」 「うぇっ!!?」 思いがけない言葉に驚いて、門屋は一瞬痛みを忘れた。 本当に一瞬だけで、上倉が続きを話しだす頃にはまた痛かった。 「付いてたタグに色々書いてありましたよ?ぺぺ君っていう名前で、性格は 『やんちゃでちょっといじっぱり。だから、おともだちとすぐケンカしちゃうけど、 ほんとうはとてもやさしくてともだちおもい。おにいちゃんのロロくんがだいすきで、とってもなかよし』…… 誰かさんにそっくりだと思いません?」 「んっ、し、知りません!興味もないし!あんな、オカマ野郎の、人形なんてぇっ!!」 「ほらまたそんな事言う!あの優しいお兄様に『オカマ野郎』なんて言うんじゃありません!」 バシッ!バシッ!バシッ! 叱られながら強く叩かれて、門屋はのけ反りながら大きく叫ぶ。 「はぁっ、やぁあああぅぅっ!上倉さんは、一緒に住んだ事ないからそんな事言えるんです!! アイツ、グズでノロマで見てるとイライラしますよ!?取り柄無いんですよ!!」 「何言ってるんですか!あんな優くて可愛らしい人形を作れるのは立派な才能です! お兄様の温かい人柄がにじみ出ていて……ぺぺ君も君の為に一生懸命作ってくれたんでしょうね。 門屋君だってもらって嬉しかったんでしょう?」 「そっ、な、わけっ、無いじゃないですかぁッ!!」 「ずっとコソコソ鷹森君を付けまわしてたくせに……どうして返して欲しいなら、返して欲しいって言わないんですか? 鷹森君ならすぐ返してくれますよ。君と違って意地悪しませんから」 「ちっ、違います!別に返して欲しかったわけじゃないです!捨てようと思ってたんですよ!? 鷹森に押し付けて清々してたんですッ!!」 「……本当に、意地っ張りなんですね門屋君は……もういいです。 “理由もなく”後輩をいじめた事、しっかり反省してください!」 ぐっと、自分の体が押さえ直されて、勢いよく手が振りあがる気配が怖くなって、 門屋が固く目を閉じた次の瞬間 ビシィッ!バシッ!バシッ!ビシィッ! 「ぅぁああっ!ちょっと待ぁぁぁぁ――っ!!」 ビシィッ!バシッ!バシッ!ビシィッ! 「やぁぁぁあああっ!待ってごめんなさい!まっ、痛いぃ!ごめんなさいぃぃっっ!!」 かなりのハイペースで強く叩かれる。 すでに真っ赤なお尻な事も手伝って、とてつもない痛みに襲われた。 一気に涙が出てきて、一瞬にして号泣状態になってしまう。 「止めてもうヤダぁぁっ!もうやだもうやだ―――っ!痛いってぇぇ――っ!!」 「我慢しなさい!君のいじめっ子根性が治るまでお仕置きだって言ったでしょう!? それにお兄様に対する暴言の数々……同じ兄として許せませんね! 君のお兄様に代わってたっぷり反省させてあげます!」 「うわぁぁああああん!ごめんなさぁぁぁぁい!!俺だって上倉さんが兄さんだったらもっとちゃんとしますよぉぉぉっ!!」 「私は君が弟だったら毎日大乱闘ですよ!お兄様の優しさに感謝しなさいね!?」 「酷いです上倉さぁぁぁぁん!!わぁぁぁぁあああん!」 ビシィッ!バシッ!バシッ!ビシィッ! 跳ねても捻じってもジタバタしても、何度も何度もキツイパドル打ちを食らう。 一向に許してもらえなくて門屋は泣き叫ぶばかりだった。 「やだぁぁぁぁっ!許して下さい!もうしません!ごめんなさいぃぃぃっ!やめてぇぇぇっ!!」 「いつもそんな調子の良い事言って……今日は何回目だと思ってるんですか!?」 「ごめんなさい!ごめんなさいぃぃっ!うぁああああああ―――ん!やだぁぁあああっ! うわぁぁぁああん!!」 そうやって怒鳴られながらお尻を打たれて、しばらく経ってもギャンギャン喚いている門屋を 見つつ、上倉がしみじみと呟く。 「君のお兄様はさぞかし苦労してるでしょうね……」 「アイツのせいで苦労してるのは俺ですぅぅぅっ!!」 「……あぁもう……その減らず口を閉じて歯を食いしばってなさい!」 「わぁあああああん!!」 ビシィッ!バシッ!バシッ!ビシィッ! その後、パドル音と悲鳴はなかなか止まなかったのだけれど、 最終的に“仲間に暴力を振るわない事”と“人形の御礼をきちんと連絡する事”を しっかり約束させられて許してもらえたらしい。 と、いうわけでその夜……。 自室にて、不機嫌顔&指で机をコツコツ叩きながら、実家に携帯電話で連絡する門屋。 『はい、門屋です〜〜』 「あ、何お前、地球にいたの?」 電話に出た兄にさっそく悪態をつく門屋だが、兄の方は嬉しそうな声で応答してくれた。 『あれぇ!?準君!?珍しいね〜〜準君がかけてきてくれるなんて……嬉しいなぁ〜〜! あ、そうだ準君!お兄ちゃん、ぺぺ君送ったんだけど、届いた〜〜?』 「あのキモイ人形なら後輩の女々しい童貞野郎が欲しがってたから、あげちまったし!ざまぁ!」 『年下の子にお人形あげたの?準君、優しいねぇ〜〜』 「あったり前だよ!俺は優しさの塊なんだよバーカ!」 『うんうん。準君は優しくていい子だもんね〜〜』 「で、その……だから、あり、あり……」 『“ありがとう?”』 「そうだよ!その女々しい童貞野郎が言ってたよ!“ありがとう”ってな! 俺に貢物を送るその心得だけは認めてやるよ!こ、これからも送ってきていいけど……もっとマシなもん送れよ!?」 『わかった〜〜。またお手紙も書くね〜〜?』 「書きたきゃ書けよ!読むくらいは読んでやるよ!仕方ね―から!」 『ありがとう〜〜。準君も元気でやってる〜〜?皆と仲良くしてる〜〜?』 「うるせ――よ!もうお礼言ったからな!お前の声とかこれ以上聞きたくないから! 別に元気だし!仲良くやってるし!バイバイ!!」 『うん!ばいば〜〜い!風邪引かないようにね〜〜』 そこで電話を切った門屋は、ゴロンとベッドに寝転がる。 「あー疲れた!アイツと話してるとマジでストレスたまる!」 そう言って寝返りを打った門屋の表情は……少し嬉しそうだった。 【おまけ】 翌朝。執事控室にて。 門屋の目の前に思いがけず現れた小二郎が、涙目で門屋を睨みつけて言った。 「おっ、お前におにぃは渡さないからなッ!!」 「え?何言ってんだ?」 キョトンとした門屋の横から、笑顔の上倉がひょこっと顔を出して小二郎に言う。 「おや?どうしたんですか上倉君?“うちの準君”に何かご用ですか?」 「――うわぁあああああん!!おにぃのバカぁぁぁぁッ!!」 小二郎が泣きながら走り去って、門屋は上倉に視線を向けながら言う。 「……今の何ですか?」 「あぁ。実はね、昨日小二郎が“いいなぁ〜門屋は可愛いぬいぐるみ作ってくれるおにぃがいて!” って言うもんですから……ついカッとなって“そんな事言うなら門屋君のお兄様の弟になってしまえばいい! 俺、門屋君のおにぃになるし!”って言ってしまいまして……」 この時点で門屋の視線は呆れモードなのだが、上倉はデレデレの笑顔で話を続ける。 「そしたらあの子、泣きそうになりながら“やだぁぁぁ!オレがおにぃの弟だもん!!”っていうから 可愛くて可愛くて……こう……からかうのを引きずってしまってるわけですよ♪」 「大人げなさ過ぎでしょ……」 「いいじゃないですか〜〜もう少し、“愛され感”味わわせてくださいよ☆」 「愛想尽かされても知りませんよ?」 「ご心配なく♪小二郎は昔から、地元で有名なブラコンでしたから!私もですがね!」 そう言って胸を張る上倉。 しかし間もなく廊下からバタバタと足音が聞こえてきて…… 「聞けよおにぃ!……じゃない!上倉さん! オレ、今日から鷹森の弟になるもんっ!!上倉さんなんかもう知らないからな!!」 「えぇっ!?な、何??どうしたの小二郎君!?話が全然見えないよ!!」 オロオロする鷹森としっかり腕を組んだ小二郎が、大声で宣言する。 そうすると、上倉はポカンとした後、慌てて鷹森に叫んだ。 「ちょっと鷹森君!?私を裏切る気ですか!?」 「えぇえええっ!?ご、ごめんなさい!って……わけが分からないんですけど――っ!!」 「そうだぞ!鷹森イジメんな!」 言い争う上倉兄弟と巻き込まれる鷹森。 門屋もやれやれと頭を掻いて、輪の中に加勢する。 「ちょっと――めんどくさいからさっさと仲直りしてくださいよ――? で、鷹森はさっさと小二郎から離れろやコラァァァァァッ!!」 「ぎゃぁぁぁぁっ!!」 「あ!やめなさい門屋君!」 「も――!だから、鷹森イジメんなってば――――!」 今日も執事部隊は平和です。 |
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